――ミーナB達の調査は、おおよそ数ヶ月に及んでいた。ダイ・アナザー・デイから四年しか経過しておらず、機密になっている箇所もあったり、ルッキーニBの行為が問題視された(ルッキーニや芳佳は元々、軍機に無頓着であるため、そこが問題になった)ため、許可が出るのに時間がかかったからだ。A世界はB世界と違い、人類同士の争いが常態化したため、色々と勝手が違うのだ――
「で、どこまでわかった?」
「この世界の私が咎を受けるところまで。仕方がないけれど、私は1938年以降の戦いの功で出世したから、事変のことは貴方から聞かされたことしか知らないし、機密指定されていた事も多い。それが裏目に出たようね。まぁ、あの方たちの年齢が年齢だもの」
「私たちの世界とは多少異なるが、私が新兵の頃に、既に士官だった世代の奴らだ。ここのお前が派遣を悪意と判断するのも、無理はない。だが、ここでの奴らは聖上(天皇)のお気入りで、事変の英雄だ。敬意を払うのが当然だと思ったんだろう。ここのお前のミスだよ」
「ええ。アジアの諺を思い出したわ」
ミーナBたちは坂本Bに誘われ、ホテルのレストランで食事をしている。代金はA世界の統合参謀本部持ちである。BはAが(同志の空軍大将を失脚させられたり、ウォーロック事件の影響で)上層部への不信が決定的になったところに『戦力価値のない年齢のウィッチ』が送り込まれてきたので、上層部への当てつけをしようとしたら、そのウィッチは『扶桑きっての英雄で、20超えでも力を維持していた』というオチがついたことを客観的に評価し、別の自分の失敗を知ることで、『書類はきちんと確認しよう』と肝に銘じることにしたようだ。
「お前の代わりに、グンドュラが担ぎ上げられて、今や空軍総監だ。とはいえ、今や有名無実だが」
「閣下は私を後釜に添えようとしているから、それは察しがついたわ。メルダース大佐が事故で昏睡状態に陥っている内に失脚させられたから、妥協で添えたようね。最も、この世界のカールスラントは有名無実化しているけれど」
グンドュラ・ラルはA世界では『高官に昇進したが、帰国不能になったため、扶桑に留まっている』という体裁だが、実際には『階級章が変わっただけで、やってることは使いっぱしり』である。G機関を率いるガランドの使いっぱしりも同然に扱われているからで、如何にカールスラント空軍が有名無実化していたかの表れである。
「それまで大兵力を誇ったカールスラント空軍が有名無実化したから、扶桑が軍備増強を迫られたけれど、同位国の反対で難しいから、質を上げるしかなかった。その成果が、あの可変翼機なの?」
「だと聞いている。本来は1970年代に造られるはずの機体らしい。20年以上も先取りしているから、電子計算機(B世界では、コンピュータという概念はあるが、まだ構想中)装備の可変翼、高度な誘導弾の装備など、隔絶たる差があるよ」
「カールスラントでは、概念実証の段階だったというのに。ああも大量配備されると、立つ瀬がないわね」
F-14はジェット機としても、かなり後の世代のものである。忘れられがちだが、自衛隊が2020年代まで大事に使い続けたF-4戦闘機よりも後の世代の機体であるので、相応の性能を誇っており、1940年代の時点での投入はチートそのものであった。双発爆撃機ほどの巨体ながら、機動性も高く、アウトレンジ戦法が取れる装備を有するなど、隔絶した差がある。また、Me262どころか、『期待の新鋭』と言われていたTa183戦闘機よりも遥かに高性能な計器を持ち、機体の加速力も高い。地下秘密工廠の稼働による恩恵で、早期投入が叶ったのである。
「お前等の国は扶桑に技術ライセンスを渡すのも露骨に渋ったからな。ブリタニアからマーリンを輸入する話が出た途端に手のひら返しで提供したが、同位国の意向で生産中止だそうだ。ジェット機が瞬く間に主流になったから、カールスラントは採算が取れなくなったそうでな」
B世界でも、航空エンジン『DB601』のライセンス交渉の際にすったもんだがあったようで、坂本Bはそこは苦い表情を見せた。しかし、A世界では、瞬く間に空冷エンジンが2000馬力以上の大パワーに発展し、液冷エンジンは整備性の問題もあり、現状以上の改良には見切りをつけられた経緯があるので、カールスラントは軍需分野での外貨獲得が困難になった。更に、ジェットにしても、遥かに進歩した技術かつ、優れた冶金技術で造られたエンジンが出回ったため、カールスラントのジェットエンジンは不良在庫化している。日本は液冷エンジンの設備を自動車用に転用し、航空機用はターボプロップとジェットに統一する意向なため、従来式レシプロは淘汰されつつある。ウルスラの思いとは裏腹に、理想論よりも現実問題の方が勝ったわけだ。
「加速性も比較にならないほど高いものが出回ればね。エーリカはそれで反対していたけれど、あんなものが出回っていれば、ね」
その横で気まずそうにするエーリカB。技術力が違いすぎるのだ。更に、慣性の法則を無視して戦える者も生じているため、もはや従来通りの戦法では、A世界では戦えるか怪しいところなのだ。しかも、ジェット機が普遍化した一方で、ロケット機のコメートは徒花と見做され、試作機が使われることもなかった(正確には試験飛行はなされたが、時速900km程度の速力では通用しない)という。
技術的には、熱核融合タービンが持ち込まれ、ハイブリッド動力で高度の限界が無くなった事、第一世代の化学反応ロケットでは、動力飛行可能な時間が短いという根本的問題も大きかったため、コメートは徒花となったわけだ。
「今や、この世界は鉱物資源を宇宙から取ろうという話が出ているくらいだそうだ。怪異は地中の鉱物資源を餌にしているからな。このままでは、あと500年くらいしか、この星では暮らせんという試算もなされたそうでな。だから、怪異は巣が確認された段階で叩く手法に切り替えられつつある。従来通りのウィッチでは、一人や二人いたところで、戦力にはならんそうだ」
B世界では『デュアルコアの個体』や、『コアを任意に移動させる』個体は現れていないようだ。基本的に、501のいた地域では『特殊能力持ちの怪異』は出現しないためもある。A世界では、それ以上の力で駆逐されるため、ダイ・アナザー・デイでは特に問題視されず、確認された個体もゴッドマーズ、ないしはマジンエンペラーGに倒されている。
「おまけに、ウィッチより体系だった魔法を有する『魔導師』がいて、その最高位の連中の手にかかれば、怪異の巣も一撃だそうでな。ウィッチは体系の構築に躍起になっている」
ウィッチは固有魔法も個人差による違いが大きく、10年ほどで『戦士としての寿命が終わる』ため、固有魔法は血縁者でも、親子で引き継がれる可能性は低い(ただし、祖母と孫などでは確認されているので、固有魔法が引き継がれるのには二世代ほどの時間が必要らしい)。それもあり、魔法に体系があり、『誰でも習得できれば、一定の練度に到達できる』ミッドチルダ/ベルカ式の魔法に比しての不便さが強調されたウィッチ世界の魔法は戦乱期故に『衰退』を迎えていくのである。ただし、治癒魔法の力はミッドチルダをも上回るため、それは従来通りに栄え、ウィッチ世界の世界全体の平均寿命の延伸に寄与する。
「私たちの魔法は分類は出来ても、体系は確立されていないものな。治癒魔法は他の世界より勝っているが、宮藤の一族だからこそ、なし得る事も多いからな…」
スープを口に運んだ後に、バルクホルンBがいう。
「それに、この世界のミーナが降格させられた一件だが、宮藤は軍医中尉になったとはいえ、医者としての格付けで、戦闘部隊の将校としての教育を受けていないはずだ。だから、戦闘部隊で下士官と扱うのは当然だと思う。兵科出身でない者達が問題視したからと、すぐに降格させるほどのものか?」
「バルクホルン、口を慎め。この世界での事だが、若手の兵科将校の中に、自分よりも上位の階級の他科将校に対して、自分の方が上位であるかのように振舞う者も現れ、他科との軋轢の原因になっていたそうだ。ある将校は他兵科の者に鉄パイプで闇討ちされ、散々に殴られ、後遺症を負ってしまい、退役せざるを得なくなったそうだぞ」
「……」
坂本BはバルクホルンBを戒め、脅しもかける。B世界でも、そうした事例がないわけではないし、A世界では、1944年からの5年の間に頻発している。日本軍義勇兵は大半が下士官、ないしは、海軍の特務士官の出身者だからだ。
「今度の振る舞いをよく考えておけ。『ついてこい』とがなり立てるだけでは、部下はついてこん。私はこの数年でそれを学んだ」
最後に釘も刺すあたり、別の自分の苦労譚を聞いたりした影響が大きいことを窺わせる坂本B。(最も、Aは転生者であるため、前世の反省で『鬼教官』となるのは避け、なるべく周囲に溶け込むようにしたためだが)
「それに、この世界では、カールスラント至上主義的な言動は禁止だそうだ。過去にそういう言動をしていた者は数ヶ月はタダ働きさせられるそうだ」
「私たちは国を誇ることすら禁止だと?」
「カールスラント軍はあからさまに他国を見下すことが多いという告発が、マスコミに報じられたみたいでな。お前は、過去にオストマルクの隊員を追い出したことがほじくり出されて、1945年の冬は給与の自主返納になったそうだ。その間はエーリカとヨハンナ中佐が食わしていたらしい」
カールスラント軍は軍紀粛正の影響で、かつての過ちをほじくり出された結果、有力軍人だろうが、情け容赦ない社会的制裁を受けた。この制裁は見せしめも兼ねていたため、意図して有力な軍人がターゲットとされた。バルクホルンAは戦功で失脚は免れたものの、若き日の過ち(記憶の完全な覚醒は1941、2年前後だったため)が白日の下に晒されたため、オストマルクへ謝罪する羽目になり、数ヶ月はタダ働きとなり、親しい友人たちに援助してもらった(妹の治療費や家の維持費など)という。
「公の場でそういうことは言うなということだ。だが、やり過ぎで内乱を招いたようだが。結局は有力軍人の扶桑への流出の原因になったそうだ」
坂本Bはそこで水を飲む。
カールスラントのA世界のゴタゴタは結局、カールスラントの担っていた役目を扶桑へ押し付けるだけになり、ブリタニア、ガリア、ロマーニャの軍隊の衰弱もあり、扶桑は世界最強の軍隊を維持せねばならなくなったことを意味する。扶桑が世界最強になったものの、軍需産業で自由リベリオンの下請けになった分野も多い。特に、軍の制式拳銃が自国設計でないことは軍需産業の技術者には屈辱であった。(外国製拳銃を持つことが将校のステイタスになっている事も併せて)14年式拳銃が『補給の都合』で駆逐され、戦後の自衛隊の制式拳銃が配備されてゆくが、『1945年以前に入隊した将校には、私品の拳銃の携帯を許可する』という形で、ステイタスを公認するなど、扶桑軍の面子に配慮した施策もなされている。
「この世界は我が国に厳しいな。人種差別などしていたら、怪異から生き残れん。だから、実力を図る目的で、口に出す程度だというのに…」
「その目的も禁止されたのだよ」
「大佐、貴方もお食事に?」
「うむ」
ルーデルが話に加わる。B世界ではとうに退役し、児童養護施設の長に収まったというが、A世界では現役のままだ。(貴重な戦前からの将校であるため)最大の違いは、片足が義足になっている点だ。ルーデルが現役を続ける理由は『転生者であることで、軍が辞めさせない』、『自由の身にすると、騒動を起こしそうだから』と政治家に言われているからである。その点でも稀有な存在である。
「過度に実力主義という批判も出たのでな。そのため、実際にその実力を見せてもらうことで落ち着いた。私も、懲罰的に基本給が0にされた事があるのでね。危険手当が出ただけでも御の字だったよ」
そう嘯くルーデル。足が一本吹き飛んだので、傷痍軍人扱いになっているのが幸いし、完全に無給は免れた。また、未来世界での再生治療も容易に受けられる立場だが、時間が惜しいため、機械式の義足を愛用している。また、『平和が訪れたら、足は再生させるさ』とも述べており、再生治療を受けないのは、自らへの戒めのためであることを示唆している。
「そちらでの私は児童福祉施設の施設長に収まったそうだが、あいにく、こちらでは現役のまま。ペリーヌ・クロステルマン中佐との接点も、できたのは最近のことだ」
B世界では、ルーデルとペリーヌは親友になったようだが、A世界では、そこまで進展していない。B世界と違い、ルーデルの破天荒さがものすごかったり、ペリーヌがダイ・アナザー・デイに前後して、政治の世界に飛び込んだため、接点ができるのが遅くなったからだ。
「大佐は何故、この時代に至るまで現役なのですか?」
「立場上、軍が手放してくれんのでな。戦前からの軍人が減っている上、メルダースも失脚した以上はな」
メルダースはコンドル軍団の英雄であったが、ドイツ連邦の手で全ての名誉を剥奪され、失脚した。彼女への理不尽な仕打ちが有力軍人の大量ヘッドハンティングの原因となったため、メルダースの名誉は遥か後年に『連邦の過失であった』という名目で回復されるが、彼女はカールスラント軍に戻る事はなかったという。(コンドル軍団在籍経験者は1990年代までには日本連邦に移民しており、そもそも、メルダース以外の者はその時期には、既にカールスラントに自宅を構えていなかったからである)
「メルダース大佐が?」
「メルダースは事故で昏睡状態が続いていてな。その間に失脚し、名誉も剥奪された。不憫に思った副官が扶桑に移送させて、私のコネで治療を受け、一月前に目覚めた。異世界の先入観からの名誉剥奪だったが、撤回されなかった。だから、グンドュラ・ラル中佐が次善の策で空軍総監に選ばれた」
カールスラント空軍の有名無実化のきっかけがメルダース大佐の失脚である事、扶桑が本国での迫害を逃れてきた、カールスラント将校団を受け入れ、自国の弱体化したウィッチの基盤補強に用いた事で、ウィッチ強国の地位が入れ替わり初めた事が語られる。(ただし、扶桑海軍も上級士官の食事の際の軍楽隊の演奏が一律で廃されるなど、演奏の機会が減少したことから、その代替の仕事が模索されている。また、軍艦の食堂も階級による差を無くそうとしたが、他国の高官を正装で出迎える時に不都合が生ずる事から、継続議論にされた)B世界の軍事重視の風潮からすれば、信じられない冷遇である。
「信じられない。グンドュラが選ばれるなど……」
「次善の策だ。まぁ、扶桑も『転生者を一括管理するための部署』として、64Fを作ったからな。お互い様さ」
ちなみに、日本連邦は福利厚生費が重視され、軍事費は二の次な国家連邦であるため、近頃は自家菜園と牧場を持つ部隊も出ている。これは民間からの徴用が禁止(購入なら可)され、資金にも限りがある前線部隊が取った最終手段である。これに驚いた日本は自衛隊用の戦闘糧食の納入を行い、不満解消に務めている。(64Fのように、自分達で食料品を賄える部隊は極めて稀である)また、64F本部のある基地の周囲に軍都を造る計画の頓挫で、無駄に広い土地が活用されずにいる。(本来は軍需工場や学校、病院などを立てて、街を作るつもりであった)1949年度には、一部の土地が(日本側の市民団体の抗議と、過激派の行動による被害の罪滅ぼしの一環で)流石に分譲住宅地に転用されつつあるが、1949年度の時点では、依然として無人地帯のままとなっている。道路網も路線網も整備した地を遊ばせてはいられないため、結果的に基地の人員の居住地という形で開発が始まった。新京から通うのも大変な距離にあるからだ。その代わりに、そのまた周囲に防空部隊の駐屯地が設けられる事になるなど、却って工費が嵩んだ。ある日本の政治家は『成田空港の開港前のゴタゴタと似たような経緯になってしまった』とぼやいた。こうした事態はこの時期には頻発しており、南洋地域の軍事用の新島をドラえもんの力で、いくつか造る羽目に陥るほどであった。結果的に、南洋新島群の多くは軍事拠点化され、南洋本島の軍用地は縮小する傾向となるが、リベリオン本国軍の第一の攻略目標であるので、防衛用の南洋方面軍は太平洋戦争を通し、大規模かつ実戦的な位置づけで運用されることになる。
「ん、今日の『定期便』の迎撃か」
ルーデルが言った後、ホテルのレストランの窓から、急上昇していく『F-104J』と『震電改一』の姿が見えた。日本連邦の国籍マークである『日の丸』が微かに見える。
「あれが扶桑のジェット戦闘機なの?」
「リベリオンからのライセンス生産品と国産品だ。SFのロケットのような機体がライセンス生産品、震電を改良した見た目なのが、国産品だそうだ」
F-104はこの頃、既に一般部隊に配備が始まっている『邀撃機』であり、月光、極光、屠龍などの代替扱いで生産されている。扶桑は『日本での運用実績』をもとに『邀撃専任』で運用するつもりであり、実際にそれで成功を収めつつある。この成功もあり、同機は(日本連邦の物持ちの良さもあり)1985年度まで現役を張ったという。
「リベリオンはあの変なのを、どうして作ったの?」
「迎撃用だ。だから、機動力は二の次。扶桑はそれを制空にも用いる酔狂なマネをしたが、エースパイロット達の為せる技だ」
「それで、オーソドックスな震電がカバーを?」
「そういう事だ。この地域の防空部隊はジェットが使えるから、恵まれている」
「南洋の州都ですものね」
「端っこのほうでは、古い機体が現役で飛んでいるからな。64Fはアレの更に次の次を試験中だが」
「それが、あの可変翼機でしょうか」
「うむ。貴官らも知らされると思うが、F-14トムキャット。リベリオンの次期艦上戦闘機に予定されておる大型機だ」
「あんな大きいの、どう見たって、ドンガメそうじゃん」
「本来は1970年代の登場になる筈の機体だから、ハルトマン。君の指摘は的はずれだ。F-4の半分以下の旋回半径で曲がれるからな」
「うそぉ!?」
可変翼の恩恵もあり、トムキャットは大型機と言われながら、実際にはかなり俊敏な機体である。史実よりもかなりの改良がなされたため、余計に高性能化している。ただし、扶桑の財力でも、同機の単年度の大量購入は不可能であると予測されたため、とりあえずは64Fとその補助部隊向けに先行生産がなされ、配備されつつある。
「1970年代、軍用機の機体設計は一つの到達点を迎えるそうでな。以後はその改善か、あるいはレーダー探知を避ける研究の応用になる。君らはその一端に触れたのだ」
「なんで、速度が頭打ちに?」
「耐熱限界だ。別世界での研究によれば、旧来の素材だと、マッハ3以上では機体が熱に耐えられない事がわかってな。それよりも機動力重視に変わるそうだ。そのため、1970年代以後の世代は速度を重視していない」
ルーデルの説明は大まかなものだが、宇宙戦闘機の時代になっても、大気圏内での最高速度はマッハ5.5前後であるので、ある程度は緩和されたが、限界はある。武装構成も1970年代で完成されるので、ある意味、戦闘機という乗り物は戦後の数十年で完成を迎えたと言える。
「そうですか。しかし、それで空母の方はどうなるのです」
「色々な兼ね合いで『400m級』が水上艦艇での最大になるが、維持費も巨大化するから、超大国でも12隻が限度になる。昔の戦艦のような立場になるわけだ」
バルクホルンBにそう答える。空母も結局は戦艦と同じ運命を辿る。原子力潜水艦の維持費高騰、対潜兵器の発達で潜水艦も優位性が薄れた事、ミサイルもどんどん高額化すること。それらが教えられたため、結局は艦砲が『安価な兵器』となると結論づけられる。M粒子が使われることで『ミサイルに必中性が期待できない』ため、艦砲が生き延びたわけである。
「我が国は空母を?」
「この世界では持てる見込みだが……日本連邦のような能動的な運用は期待できん。予備含めて、たった六隻ではな」
カールスラント海軍はビスマルク級の船体を流用した空母と鹵獲のグラーフ・ツェッペリン級とで体裁は整えつつあるが、それまで空母を持たなかった上、ドイツ側が水上艦艇の整備に興味が薄いため、『雇用維持のために作ってやった』という意識が強く、張り子の虎も同然である。(ドイツ側がZ計画での大型水上艦艇の建造よりも、戦後型フリゲート艦とコルベット艦の整備を優先させたため。ただし、それらは外洋航海向きの設計ではないため、結局は砲熕型艦艇の維持を認めた)
「この世界では、大洋艦隊の復活は夢物語になる。陸空の再建に資源が使われるし、我が国に外征海軍は不相応と揶揄されているからな」
「馬鹿な」
「日本連邦とブリタニアが外征海軍をしてくれるなら、他の国は沿岸防衛用の海軍で充分という考えが普及してな。金がないのだよ」
「怪異との戦争でオケラってこと?」
「そういうことだ。特に、我が国は内乱で国庫もカラになってな。怪異からの防衛の必要から、維持しているだけでも奇跡なのだ」
カールスラントがひっかぶった被害は相当だが、日本連邦も『他国の軍隊がこんなに衰弱するなんて…』と困惑しており、結局は自分たちがアメリカ海軍の史実での役割を演ずる羽目になったため、多数の戦艦を維持する必要に迫られたことは財務省からは迷惑がられたという。だが、他国は戦艦部隊の維持ができるほどの財政的余裕が無くなりつつあるため、仕方がなく規模の維持が決まったのである。その過程で、大正期の設計である旧式戦艦の整理が決まったが、実際の建造が昭和期である加賀型と紀伊型の維持を用兵側が望んだ事から、『上陸支援艦』と『航空戦艦』の実験に供された。大和型戦艦の量産は想定外であったが、超大和の開発と量産も想定外である。結局、潜水艦は怪異がある世界では需要が少なく、戦艦の需要が大きいが故の出来事であった。ウィッチ専用の空母も無くなり、その役目は強襲揚陸艦に吸収されつつある。そして、ウィッチ主導の軍事も終焉を迎え始めている。第二世代理論はその風潮に抗う福音と見做されているが、高価な装備である上、基地への設置スペースもかさばるため、ベテランから運用性の側面から嫌われるというオチがついた。だが、使った場合の戦力は旧世代型ユニットの10倍にも相当するという。このアンバランスさを改善しようと研究を重ねた結果が第三世代理論なのだ。
「あれは?」
「第二世代のストライカーユニットだ。武装ユニットや電探装備などを装備する都合上、今の技術ではどうしても、ああいう装備になってしまう」
「あのスーツ状のものは更に未来の時代の代物なのですね」
「うむ。21世紀の頃のものだ。我々は異世界のタイムマシンを持つ故に、子孫から借りられるのでな」
「チートですな」
「それでも、真価を発揮するには慣れがいる。第二世代は第三世代に比べれば『安価』だからな」
「『大物』を意識し過ぎているように感じますが」
「仕方がないが、想定されている任務が超重爆の迎撃なのでな。4年前の戦いで、火力不足が指摘された結果だ」
20ミリ機銃が当たり前となり、リボルバーカノンも使われるようになっているが、相手が亜音速~超音速機になってきた故の調整である。直接の要員は12.7ミリ機銃では、超重爆には通用しなかったためである。
「資料で見ました。B-29という超重爆ですか」
「あれの登場は衝撃的でな。あれが徒党を組んで高度10000m以上を飛ばれてみろ。1944年当時の装備では手も足も出ない」
B世界では実用化に至っていないB-29。だが、A世界では量産され、日本連邦と死闘を展開した仇敵である。震電を以てしても、少数機では返り討ちにされるのが関の山とされた事が、同機種のレシプロ機としての投入の頓挫の理由である。とはいえ、震電は推進式故に、整備性が疑問視されたのも大きい。ジェット戦闘機にしても、Me262より遥かに高性能な『F-86』を以てしても、ミサイル装備が必要であるあたり、B-29はレシプロ爆撃機の最高峰に位置するのだ。
「だから、技術の先取りが許された。動力銃塔と見越し射撃を自動化する射撃指揮装置と、1944年の最高技術てんこ盛りの爆撃機に、我々の従来型戦闘機が立ち向かえるかね?無理だ」
B-29は超人、ヒーロー、あるいは未来兵器でも無ければ、一方的なキルレシオを確保できないという事実。名だたる連合軍の名戦闘機が苦杯を喫し、ウィッチ部隊すら寄せ付けない『空の魔物』。
「ある意味、大戦初期の怪異よりも、通常装備では、立ち向かうのに勇気のいる敵だった。ストライカーの防弾装甲を外す運用が当たり前になっていたから、通常兵器との戦闘で不備が生じたのもあってな」
「1942年頃からは光学兵器を奴らは当たり前に使うようになりましたからね」
「実弾兵器なんて、模擬戦で撃たれる程度だもんね。でも、映像で見る弾幕……。あれで未熟な運用法なの?」
「他世界に比べれば、組みやすいほうだよ、ハルトマン。更に高性能な『B-36』も途中から出てきたからな。だから、ジェットが渇望されたんだ」
ルーデルの言うことは真実である。従来型ストライカーは高度11000m前後が限界。B-29と36の飛行する高度では『溺れる』ストライカーは多かった。比較的に新型のストライカーが奮戦したものの、B-29らを退けるには戦力不足を露呈した。それらに優位に立てる超音速ジェット戦闘機は羨望の的であったと語る。ハルトマンBはジェット嫌いであるが、F-20やF-14、ドラケンなどの『鋭角的なデザインの機体』の造形美と高性能は認めているため、用兵側がジェットを欲しがる理由に理解を示す。
「本当なら、10年以上も先に出るはずのヒコーキを使っても、なんでトントンなのさ?もっと差が…」
「……物量の問題だ。いくらジェット機であろうが、物量の差は大きい。1950年代以降の戦闘機は『大規模な空中戦』を本来は想定しておらんからな」
機銃のみが武装であった時代と違い、ジェット戦闘機の時代の武装はミサイル兵装がメインで、機銃はお守り代わりの装備である事が多いため、実は武装をフルに使う場合の継戦能力はレシプロ機より短い場合が多い。宇宙戦闘機の時代に機銃がビーム、ないしはパルスレーザー砲に変わるまで、戦闘機が人型兵器に押され、苦しい立場に置かれる原因でもある。震電とスターファイター(F-104J)が飛行機雲を描きながら、すごい速さで上昇していくのを窓越しに見上げながら、B世界のミーナ、ハルトマン、バルクホルンは不思議な気持ちになるのだった。