――日本連邦は構成国が3つに増え、統治領域も更に広大になったため、日本側の一部の思惑と裏腹に、一定の軍拡はやむなしとされた。空母はジェット戦闘機の搭載可能な空母の計画が遅延を重ねた結果、国産の第一線空母が翔鶴型空母の三隻のみである悲惨極まりない状況に陥ったため、1949年になって、その代艦がようやく認められた。供与品の空母は二隻が沖縄に繋留の上で防衛のプラットフォームになってしまったからでもある。この1949年はアリシア・テスタロッサ(花咲つぼみ)も第一子を妊娠した年でもあり、意外なことにこの年は皆が子宝に恵まれる年でもあった。芳佳、坂本、つぼみの三者がその代表格と言えた。そのため、黒江が子孫から知らされた情報で『子孫を成す』とされる者たちの内、多くはこの年に順番に成していった。(Gウィッチの子供達に1950年度生まれであるのが多いのは、そういうことである)その兼ね合いで隊の出撃ローテーションの安定には時間を要した。この時期になると、Gウィッチ達も子を儲ける時期に次々と突入していき、武子はそこでも頭を抱える事になった。――
「産休が六人。幹部級も二人。ローテーションを組み直す必要が出てきたわね」
「どーするよ?」
「セラと宮部を呼び戻したのは、この時のためだけど、いきなり六人も抜けられるとね」
「こればかりはしゃーねーだろ。ローテーションを組み直す手間は出来たが、ある意味じゃ、ガキ共の実力を図るいい機会だ」
「私は『いつ』?」
「あと数年だな。あたしと綾香は直接の子供はできねぇから、お前が産休になったら、指揮は代行してやる」
「あなた達が指揮経験あってよかったわ。近頃の若い子は指揮に向かないのが多くて」
「近頃は教育が簡略化されてたからな。陸士や海兵出身でも、まともな指揮教育は受けとらんさ。だから、上が慌ててるんだよ」
圭子も嘆息だが、この時期になると、指揮官としての教育を済ませたウィッチが不足していた。中級指揮官級がダイ・アナザー・デイとクーデターで一気に抜けたり、あるいは左遷されると、現場指揮官級の不足が顕著化。更に参謀の現場復帰は必ずしも上手くいかないことも実証されてしまい、指揮可能な者は階級に見合わぬ規模の部隊の指揮をする羽目になった。
「現地教育で育てるにも、激しい戦闘じゃそういう暇は取れねぇからな。おまけにこの時期は産休取るのが増えてくる。だから、ネイサーにゲッターノワールGの開発と配備を依頼したんだ」
「あのプランはこのためなのね」
「ああ。綾香が引き受けたグレートカイザーだけじゃ、上がごねそうだったしな」
「ネイサーはゲッター軍団の整備を急いでるの?」
「初代ゲッターチームは再結成できたが、彼らだけじゃ手が足りなくなったからな。かと言って、ゲッターに乗れるのは超人級のG耐性とゲッターへの適性が必要だ」
「あなた達がそのテストを?」
「乗れるしな」
デザリアム戦役終結後、ネイサーは予てよりの計画である『ゲッターロボ軍団』の整備を押し進めた。当然、ゲッターロボのパイロットになれる人材は人型ロボット全盛の時代でも多くはないため、64Fはそのテストの受け皿となっていた。主にゲッターロボGやネオゲッターロボの改良型が主力の予定だが、数を揃えるため、ゲッタードラゴンの量産も行われている。その改良型第一弾がゲッターロボD2という個体であり、ゲッタードラゴンの改良型に位置する。64Fへ配備の予定だという。
「ゲッターロボの量産と配備には日本の若い層が『虚無るだろ』とか言って難色を示してきたが、四の五の言ってもられねぇからな。ノワールはその一環だ。プリキュアも無敵じゃないのは実証されちまったしな」
プリキュアも無敵ではなく、シャドームーンには為す術なく蹂躙されている。とはいえ、相手が悪すぎたのも事実であり、シャドームーンと互角に戦える者は7人ライダー、RX、ZXなど、ごく限られた者のみ。りんが話したように、シャドームーンやアポロガイスト級の幹部怪人には為す術もない。これは戦闘向けのプリキュアであった5が蹂躙されたことがその証明となった。ゲッターロボの配備もその対策の一環であるという。
「これからどうなるの?」
「打てる手は打った。デザリアム戦役でブライ大帝は死んだが、プロフェッサー・ランドウが出てきたからな。奴がメタルビーストでこの世界に手を伸ばすことも考えられる。ヤツのバックには恐竜帝国がいるからな」
百鬼帝国はデザリアム戦役で倒れたが、プロフェッサー・ランドウが台頭してきた。また、ランドウのバックには恐竜帝国がいることも明言され、その最終兵器と言えるバグと真ゲッタードラゴンの対決は近いことも明言される。もはやそこまで行くと生存競争に近い。そんな時にルッキーニBは騒動を起こしたわけだ。武子はセラや宮部大佐からその騒動に纏わることの申し送りを受け、B世界の者たちへ秘密を正式に開示した。再燃焼装置で加速力を改善した次世代ジェットストライカーの存在と各種ミサイルはまさに次世代兵器そのもの。そして、それも決定打にはならず、個人の技量はやはり必須だということにバルクホルンBは落胆したようだった。
――ホテル――
「ジェットが普及しても、個人技量はやはり必須なのか」
「そりゃそうだ。エンジンが変わっても、やることは変わらないわけだし。むしろ、個人技量がより顕著に現れるようになったというべきだよ」
「お前、この世界だと少佐なのか?」
「戦功で特進したのさ。この世界だと、カールスラントにはもう住んでないけどね」
「どういうことだ!?」
「軍籍は残ってるけど、扶桑の永住権取得したんだ。今のカールスラントじゃ疎まれるんだよね、戦前から軍にいる士官」
ハルトマンAなどの『戦前からの軍歴』はドイツ介入後のカールスラントでは冷遇の対象になるため、元・52JG出身者などはダイ・アナザー・デイで予備役編入後に扶桑に渡り、そこで厚遇される生活を送っている。ハルトマンAはダイ・アナザー・デイで扶桑皇室に忠誠を誓った結果、日本連邦の永住権を取得。カールスラント義勇兵で最初に扶桑に永住した一人となった。
「なぜだ」
「違う世界の共和制のカールスラントの干渉で軍隊が大規模リストラをしたんだ。その煽りで本国奪還どころじゃなくなって、多くの士官が扶桑の傭兵になったわけ。そのほうがいい暮らしできるからね」
カールスラント国内でも問題視されるようになったが、多くの有能な将校が扶桑へ流出し、空軍の質が低下した事実は人員の世代交代では補いきれぬものである。(この時に流出した士官の少なからずはカールスラント本国政府の方針転換で、太平洋戦争後に呼び戻され、それまでと一転して、軍高官の待遇を受ける。太平洋戦争後にはカールスラント空軍の実戦経験者は何よりも希少であったからだ)
「馬鹿な、本国の奪還はどうなるのだ」
「扶桑に丸投げさ。その方針に多くが失望して、扶桑に加担したのさ。扶桑もウィッチの志願に年齢制限ができたから、実戦経験のある士官は何よりも欲しい人材だから、大歓迎でね」
カールスラントはその後、軍部を宥めるため、カールスラント本土奪還作戦を連合軍全体の作戦行動という位置づけにし、自国軍人を参加させ、ノイエ・カールスラントの保持をドイツに認めさせる。鉱物資源確保のためであるが、1950年代以降、怪異の存在が宇宙開発を促すという皮肉な状況が起こっていく。これは星の鉱物資源を怪異が吸い尽くす可能性に人類が気がついたからだ。日本連邦は恒星間航行可能な宇宙船の技術を得たことで、1970年代後半には未来世界でいうフォン・ブラウン市やグラナダ市と同位置のクレーターに月面基地を築くに至る。そして、21世紀にはそれを月面都市化し始める段階にあった。日本連邦は怪異が未来世界での宇宙怪獣に相当する存在ではないかとする考えにダイ・アナザー・デイ中に至り、冷戦も終わり、平和が訪れた後に宇宙開発を大規模化。ヒトという種の生存のため、手近な月面の開発を急ぐ。だが、そこにも怪異はいたため、世代交代後の64Fはそれを理由に『解体』を免れる。有事即応部隊は平時には『金食い虫』と揶揄される表れである。23世紀世界との国交が回復した後は第二次日本連邦時代を迎え、宇宙大航海時代を迎える。扶桑はその運命を以て、ブリタニア連邦に代わる『次代の世界の覇者』となるのである。
「この世界では我々は衰退するのか、ハルトマン…」
「政治的にね。軍事はあたしらがこれから半世紀くらいかけて復興させる。特殊な要因で外見的な歳は食わないから、そこは良かったけど」
A世界のGウィッチは転生で死を乗り越えたため、転生で得た肉体は絶頂期で成長を終える。ハルトマンAも16歳前後で肉体的加齢は止まっており、戸籍上は21歳に達したこの時期でも、1945年から変化はない。そのため、21歳になったこの時期でも余裕で現役のウィッチだ。
「歳を取らないだと?」
「死を乗り越えたためだと思うよ。人生をやり直してるからね、あたしたち」
肉体的加齢が止まったためか、ハルトマンAは気が若い一方で、精神年齢相応に老成したところを見せている。Bに幼いところがあるのと対照的だ。剣術を極めたためだろう。
「お前、剣術を独学で覚えたのだろう?少佐が愚痴ってたぞ」
「基礎が違うよ、基礎が。あたしのは実戦本位だから、殺しのための技術。少佐のはスポーツだよ」
ハルトマンAは飛天御剣流を極めし剣士であり、剣術では赤松も認める天才である。バルクホルンBとも良好な関係であり、折衝役を引き受けていた。
「そうだ、宮藤が言っていたが、プリキュアというものは『世界を守れる資格がある戦士』なのか?」
「リベリオンコミックのヒーローの扶桑版だよ。世界によっては、扶桑がヒーローの総本山みたいになるから、そのうちの一つの集団にすぎないよ」
日本のスーパーヒーローはリベリオンコミックのヒーローよりも、ある意味では長い歴史を持つ。そのため、ハルトマンAは日本を総本山と評する。
「この世界の宮藤やシャーリーはその一員。他にもいるよ。」
「何故、それを隠していた?」
「ルッキーニやそっちの宮藤の口から漏れるのを警戒してのことだよ。ガキどもは機密に無頓着だしね。そっちに公表したのは、ルッキーニ達のためさ」
「宮藤はそういう事は考えんからな」
「騒動になっても困るから、言わなかっただけさ。ルッキーニの反発招いたのは参ったよ。あれでこっちのシャーリーがブチギレして…」
「あれはなんだ?完全に正気の沙汰でないぞ!」
「シャーリー、こっちだと、キレるとビーム撃ちまくりなんだよ。口調もイッちゃうし。だから、そっちのルッキーニがシャーリーにしばらく寄りつかなかったろ?」
「完全に怯えていたからな。しかし、あの切れ方はなんだ?」
「ガキ共には刺激が強すぎるって奴だよ。普段温厚なのがキレると…って奴。両極端になったのさ」
「…そうか。それともう一つ。この世界では、ウィッチは疎まれているのか?外をぶらついていると…」
「四年前の決戦で多くがサボタージュして、それが周囲の顰蹙を買ったからさ。そのおかげでうちらは前線で血の献身をしなくちゃ、お上の信頼を得られなくなったわけ」
ハルトマンAは前線から離れることもなくなったも同然の身な故、どことなく殺気を感じさせた。Bにはない『人同士の戦闘を経た目』をしているためだろう。また、この頃には普通の戦闘機との空戦もベテランになったため、Bが持たないニヒイズムも漂わせる。
「どうするつもりだ?そちらでは……」
「永住権は取ったから、扶桑に忠誠を誓うよ。カールスラントに戻ったって……」
ハルトマンはそのつもりだが、カールスラント本国はマルセイユを手放さないためにはハルトマンが必要である事から、ハルトマンを大佐待遇(暫定)で戦後に呼び戻そうとする。とは言え、扶桑で少将になっていたため、カールスラントも仕方なく、その待遇で呼び戻す。扶桑で改めて撃墜王になったためだ。とは言え、永住権を獲得済みであったので、出向という形となり、そのマルセイユもそのタイミングで永住権取得を発表したことで、カールスラントの目論見は崩壊。政治判断の誤りで二人の逸材を扶桑へ提供してしまったことで、カールスラント政府は空軍の不信を買ってしまい、二人の定年まで扱いに困ることとなる。
「坂本少佐にはもう見せたけど、あたしが皇室からもらったサーベル風の刀。菊の紋とカールスラント皇室の紋章入り。どう?」
「八重桜紋ではないのだな」
「ここじゃ菊の紋に変わったよ。軍艦の紋章も軍艦旗、国籍マークもね」
日本連邦は日の丸を国籍マークにし、戦艦や空母などに菊の紋をつけるようになり、扶桑独自の国籍マークと八重桜紋は民間が使用するようになった。また、軍艦旗は旭日旗に統一されており、ダイ・アナザー・デイでは反攻と日本の中興のシンボルとなった。ハルトマンが軍刀を拝領したのはダイ・アナザー・デイ中だが、紋章はダイ・アナザー・デイ後に許可が出たため、表に出したわけだ。
「坂本少佐、腰抜かしてたよ。少佐ももらえてない古い様式の軍刀で、皇室から拝領されるなんて、全盛期でも無理だったそうだから」
坂本Bが地団駄を踏んで悔しがったという軍刀。古い様式の紋章入りの軍刀など、B世界では北郷や江藤でさえももらえていないからだ。もっとも、これはハルトマンがカールスラント空軍の英雄である事を鑑みた昭和天皇が配慮し、サーベル風の様式で誂えさせたからで、当初は1945年制式の日本刀様式のものが内定していた。(黒江達には軍の定めた日本刀様式のものが送られたため、サーベル様式のものはハルトマンのみが拝領した)
「どうして、扶桑皇室から拝領した?」
「扶桑皇室に忠誠を誓った上で、扶桑に永住したいと言ったからさ。あーや達は普通の打刀様式だから、これはあたし用の特注品さ。少佐が泣いて悔しがったよ」
「だろうなぁ…」
「こちらでもらったのは弓なんだ」
「オッス」
「この世界の少佐か。ずいぶんと垢抜けたな」
「フライトジャケットのせいだろうな」
坂本Aは苦笑いしている。引退しているため、空中勤務者の胸章は外している。なお、階級は大佐だ。
「こちらでは大佐だよ、バルクホルン。引退の際におなさけで上がった」
多くの世界では引退後は髪を下ろすが、この世界では魔力を残して引退した影響か、ポニーテールと眼帯はしたままだ。
「弓とは?」
「リバウの時に姉から教わった和弓で怪異を落としたんだ。それでお上もそれを記憶していてな…」
嘘を入れる。実際はシグナムから伝授されていたものだが、そこまで言う必要はないからだ。その際に使ったシュツルムファルケンを坂本は『海鷲』と評した。それが坂本が招聘される理由となり、バルクホルンやエーリカの覚醒まで用いた。なお、その事実上の上位技はシグナムと調が同じ古代ベルカ時代を生きた関係で使用可能。名は『ファントムフェニックス』。これは当時のミッドチルダにおける識別コードがそのまま逆輸入された事例である。
「私は弓で501に呼ばれたようなものだ。刀は平凡さ。同期にも上がいるからな」
坂本はA世界では『剣術は平凡』と謙遜している。黒江、智子、黒田という達人が同世代にいたからで、更に西沢義子の台頭もあり、刀を極めるのはやめている。また、斬艦刀で黒江と黒田が鳴らしていた時代もダイ・アナザー・デイの時期にはそう遠い昔ではなかったのも、ミーナの不幸であったのは否めない。
「そちらでのミーナは本当に知らなかったのか?図書館にいくと……」
「こっちも腰抜かすレベルだ。お前らが知ってたのを知らんかったからな。お前ら、パニックだったぞ」
ミーナAが失脚寸前に追い込まれた理由は『無知』だった事に尽きる。シャーリーとエーリカ、更にはバルクホルンがあれこれを突きつけ、査問で将軍らが突きつけることで、ようやく事の重大さを悟る有様だった。ミーナはオストマルク陥落時に志願したため、座学の教育は省略された。それが国際問題と進退問題になったことには当然、擁護もあったが、日本連邦を宥めるため、厳罰が下された。本当にただ知らなかったため、ロンメルとパットンも頭を抱えたほどだ。ロンメルも監督責任を問われる事態となったが、ミーナが真摯に反省しているとされたこと(実際は人格の変容だが)で厳罰(二等兵までの降格などの案もあった)は避けられ、降格も二階級で済んだ。
「仕方ないから、私も飛んだよ。ミーナが指揮資格停止処分と数ヶ月の飛行禁止食らったからな。その時が実戦で飛んだ最後だな。作戦終わってすぐに引退セレモニーしたから」
「しかし、なんで野球場でしたんだ?」
「七勇士最初の引退だから、新聞社が張り切ってなー。てっきり、国立競技場でやるかと思ったら…」
坂本は七勇士最初の引退者であるため、盛大に引退セレモニーも行った。軍は退かないのに、と新聞社に申し入れしたが、新聞社の担当者がリバウ時代に坂本が助けた記者だったのだ。そして、TV放映もされたので、坂本は七勇士で初のTV出演を果たした。その時に愛弟子として、芳佳を紹介したので、芳佳の名も有名になり、最後の弟子となる服部静夏にはものすごいプレッシャーとなった。
「なるほど。ところで、こいつだが…」
「ああ、キュアドリームか。504の中島が転じた姿だよ。こっちじゃアイドル同然だ」
新聞の二面を飾るキュアドリームの勇姿。坂本の言うようにアイドルのような扱いである。ダイ・アナザー・デイで覚醒後は表向きは『中島錦が覚醒めた』という扱いであり、のぞみもそう取り繕ったため、世間には『中島家の息女の転じた姿』とされている。もっとも、日本では夢原のぞみの名で報道されているので、扶桑より日本で英雄扱いである。これは錦としては目立った実績がない一方で、夢原のぞみとしては『プリキュア界の英雄』、『中興の祖』という評価であるからだ。
「いいのか、こんなにメディアに露出させて」
「構わんよ。奴は宮藤とシャーリーも属するヒロインの代表格の一人だ。露出して受けが良ければ、それだけ来年の予算が増える」
「現実的だな」
「民主主義国家の軍隊というのはだな、常に銃後のご機嫌伺いをせねばならんのだ」
坂本Aはそういう事情と向き合う四年間であったので、キュアドリームのメディア露出をむしろ指揮している一人である。
「主戦力にして看板だから目立たせないと意味無いしな。宮藤も変身能力を持っとるが、あいにく産休に入った」
「産休だとぉ!?」
「今の時期はとかく産休が増えてな。直に黒田も入るだろう。私も結婚して、旦那がほしいと言っとるからな…」
「情報過多でどうにかなりそうだ…」
頭を抱えるバルクホルンBだが、芳佳Aが産休に入った事は嬉しいようだ。
「気にするな、お前らに直接の関係はないことだ。それに、歳を考えたら当然ではないか、旦那が居て、子供作らんとか、国が栄えんからな、本当の神の領域に行くと今度は相手が居ないらしいが…。」
「本当か?」
「あの三人など、30に近くなっても、婿さんの一人も見つけられんからな」
黒江達が未だ独身貴族なのを何気なく言及しつつ、バルクホルンBにストライカーのマニュアルを渡す。
「お前たちにこれを渡すのが本当の用事だ」
「これはストライカーのマニュアル?」
「ルッキーニが暴いた機種のマニュアルだ。本当は最高機密だが、ルッキーニや宮藤の事も考えて開示する。その代わりに戦ってもらうことになる。いわば、対価だと思ってくれ」
本来なら最高機密に属する第2世代宮藤理論で構築された新鋭機のマニュアル。ルッキーニBが悪戯心と秘密主義への反発で暴いてしまい、イリヤ、クロ、スプラッシュスターの二人、更にはシャーリーに追われる事件の結果、開示された。B世界のストライカーは格納庫に封印されており、危険を感じたルッキーニBがそれを持ち出して逃げようとしたが、キュアブライトとのチェイスの末に撃墜され、シャーリーのお叱りを受けた。芳佳がルッキーニを擁護し、A世界の秘密主義を非難したものの、戦時中に彼女の理屈は通じない。とは言え、秘密主義が反発を招いたと判断したセラは宮部大佐ヘの申し送りの際にそのように告げ、宮部大佐も開示の方針を武子の復帰の際に申し送りし、正式に開示された。議論は48年から一年ほどされ、武子が最終判断を下したわけだ。
「アレに触れたら、もう後戻りはさせてやれんが、最大限のサポートはしてやる。この世界の宮藤博士が黒江達に託した素案から、我が技術陣が生み出した『第2世代宮藤理論』。その概要とストライカーの説明だ」
震電改二とF-100の説明書も同封されている。尚、訓練無しで扱えるのはその両機種で、黒江達は既にドラケンストライカーの試作を受け取っている。なお、説明書には再燃焼装置の使用注意も記されており、かなり燃費を食う事が記されている。
「カールスラントでも研究されていた再燃焼装置…。ここでは完成に至ったのか」
「燃料を食うから、多用はできん。とは言え、ダッシュ力の改善には役立った」
震電改二は多くの部隊では再燃焼装置は外されているが、64Fではダッシュ力を得るため、高魔力の者が使うのを前提にしてだが、全機に装備済みである。これは初期型では装置の稼働が不安定だったためで、1951年夏からの後期型からは改良型が標準で装備される。また、魔導誘導弾も初期型では装備せず、後期型で装備された。64Fでは初期型の段階で装備済みだが、これは例外だ。
「魔導誘導弾も最新兵器だが、それに頼るなよ?」
「ハルトマンがウルスラ中尉へ喚き散らした事あるから、知っている。ハルトマン、ジェット嫌いだからな、お前」
「ここでは昔の話だよ?」
苦笑いのハルトマンA。三人はそのマニュアルを手にミーナBの元へ行くが、途中で竹井BやサーシャBに捕まったため、彼女らへも開示される事になった。結果、B世界の統合戦闘航空団の来訪者全員に第2世代ストライカーが支給される運びとなり、再赴任したセラも教諭を引き受ける形でびっしりと座学と実技が仕込まれた。セラは非転生者ながら、第2世代ストライカーを使いこなす猛者。セイレーンの魔女を自称するだけの実力から、B世界のブレイブウィッチーズは特に翻弄された。
『あたしはセイレーン…ラインの船乗りをあの世にひきこむサイレンの魔女!そして、64の守り神!』
そう豪語し、F-104ストライカーを操って、ブレイブウィッチーズらを容易に撃墜判定する腕前。圭子の後輩らしい豪傑ぶり。64Fの中では若手とされつつも、幹部扱いされる戦技。圭子が認め、黒田とスコアを争った経験持ちであるため、空では64F幹部にふさわしい実力者。統合戦闘航空団が存続していれば、どこかに呼ばれただろう実力者だ。使い魔はレース鳩。本名よりあだ名が定着しているのも、圭子と似ている。
「あいつ、あんな鉛筆みてぇに細い機体でなんで動けるんだ!?」
粘る管野。セラとの実力差は大きかったが、負けん気で持ちこたえている。圭子曰く『ガキの頃はあたしの後ろを金魚のフンみてぇについてきたもんだが…』とのことだが、長じた後に豪傑化するという扶桑系のジンクスは彼女も例外ではなかった。
「機体の一番美味しい所を使えるのが一流への第一歩よ!」
セラはマルヨンの特性を最大限活かす。管野は機動性が勝る震電改を履いていながらも翻弄される。経験値の差であった。デストロイヤーとセイレーンの対決の軍配はセイレーンにあがりそうだ。
「管野さん!!」
「分かってる!!うおおおおっ!!」
管野は観戦席のひかりの言葉に促され、必殺技を使おうとするが、セラはそれを読み、父の形見でもある曲刀を首元に突きつけた。
「う……!?」
「あたしの勝ちね、中尉?」
「あんた、まさか……」
「あなたとは、もう何度か模擬戦したもの」
「そうか!ちくしょう。全部あんたの手のひらか!」
管野は別の自分を恨んだが、機動性では勝っているはずだった。それを覆す結果に憮然となる。
「外側に回られてるのに旋回が間に合わねぇ……クソがっ!!」
「あんたはすぐ頭に血が上るのが欠点ね。どこでも変わんないのね?」
管野は旋回性能で勝っていると聞かされていたが、マルヨンの旋回力に負けていることで喚き散らした。ヒステリックである。そして、太陽に向けて上昇されたことで見失ってしまう。その一瞬でのパワーダイブが管野の敗北への決め手であった。一撃離脱はマルヨンの得意とするところだからだ。
「何、あの加速……奮進式ってあんなに早いの?」
観戦席でそうつぶやくひかりだが、セラはリヒートを用いての上昇からの反転でシャムシールを用いた一撃離脱をかけたのだ。ひかりはその一部始終を目撃したのだ。黒江なら、攻撃時にエクスカリバーを使い、智子なら、リボルケインでぶっ刺す事もある。
「いえ、私達の世界のジェットでは不可能よ。この世界の最新鋭機だから出来た事よ…なんて急加速…」
ロスマンBも唸るリヒートの威力。
「このマルヨンは速さに全振りして、他の多くを切り捨てた機体。それを理解しないと、事故多発よ、ロスマン先生?」
マルヨンは震電の純粋発展型である震電改系と違い、細く小さい直線翼を持ち、低速域では曲がらないが、高速域で真価を見せる機体。そのデモンストレーションは成功だった。ストライカーでも扱いにくさでは群を抜いたが、邀撃機としては当代最高レベル。紫電改や雷電(とりわけ雷電と鍾馗)の後継としては最良の機材であり、セラはそのデモンストレーションをやってのけた。元々、明野飛行学校教諭の経験もあるので、出来て当然であるが。
「あなた、教諭経験がありますね?」
「一年くらい明野にいてね。そこから前線に復帰したのよ。一言いい?管野中尉はまだ青臭いわ」
「やはりそうでしたか」
セラは明野の教諭経験を持つ。これは智子や武子もそうだが、黒江はその経験がないが、適性が認められていた。とは言え、その万能性が黒江を苦難に追い込んだのも事実。セラも撃墜王ながら、教導部隊の教諭をやれる逸材だが、父親の戦死後は疎まれ気味であり、そこは黒江と似ている。64Fに戻ったのもその空気を感じたからでもあり、彼女なりに辛酸をなめた。64Fはそんな訳ありの人材も多く抱えつつ、部隊として破綻しない点が軍部七不思議とされた。また、セラの長身で端正なプロポーション、ハーフであるが故のエキゾチックな妖艶な雰囲気はひかりBに衝撃を与え、その時の見惚れた表情に、孝美Bが嫉妬したのは別の話である。転生した黒田と紅海のNO1を競えた逸話を持つため、年嵩に見られるものの、実は黒田と同年齢の同期で、1949年でも、まだ19歳である。つまり孝美より年下だ。それは孝美Bを驚愕させたが、10代後半に見える赤松が30超えなことのほうが衝撃が大きく、ミーナBが驚きのあまり固まったほど。坂本は30歳超えでありながら、童顔ですごく若く見える赤松へ苦笑し、赤松本人も大笑したという。
「儂、こう見えても直に40じゃぞ、小僧?」
「姉御には敵わねぇよ…」
さすがの圭子も赤松には敵わないのと、若き日にそう呼ばれた名残りで、小僧と呼ばれる。黒江がボウズと呼ばれるのと同じ理屈だ。これは若松も同様であり、圭子も二人からはいたずら小僧扱いである。セラの模擬戦を監督しつつ、ミーナBを硬直させる二人だった。圭子も30歳を迎えたのだが、態度は変わらず。赤松はもうじきアラフォーになるが、外見は若き日同様の『黙っていれば智子以上の美人』のままだ。これも驚きだが、赤松は圭子よりも上の世代。ミーナBからすれば大先輩だ。
「姉御っていつだっけ?生年月日」
「うーむ。1915年かそこらだった気が……」
本人からしてこの調子だが、北郷の従卒だった経験があるのと、黒江の親代わりであるため、1945年時点でも30歳間近だったのは事実だ。ミーナBを固まらすが、赤松は最強のGウィッチでありつつ、親代わりなのだ。