――2020年。疫病が21世紀世界を蝕む中、日本連邦は比較的に重症化率が低かった。希望もあった。治癒ウィッチの治癒魔法で根治が可能であり、なおかつ23世紀から提供された治療薬が効果を発揮したからだ。日本がウィッチに寛容となったのは、プリキュア達の出現もあるが、この時の成果によるものだった。黒江は21世紀の自衛隊から自分の協力者を大量に出向させ、統合参謀本部の運営とGフォースの活動の支援に当たらせる一方、自分の息がかかった扶桑ウィッチ(治癒魔法持ち)を日本に行かせ、疫病の治癒に当たらせた。日本でウィッチが認められ始めたのは、この功績に依るものであった――
――21世紀に休暇でやってきたバルクホルンとエーリカ。のぞみ達の休暇が終わりそうなので、入れ替わりで一週間の休暇を取ったのである。ちょうど自分達のアニメが放映中なので、彼女らを知るファンにファンサービスをしつつ、ススキヶ原に向かっていた――
「トゥルーデ。随分落ち着いてるじゃん?」
「驚いたりするのは、前世でやり尽くしたからな。前世でも甥がよく療養に連れてきてくれていたから、日本の地理は把握している」
「ファンサービスもするのはプリキュアになったシャーリーへの対抗?」
「任務中ではないし、『若い頃』みたいに取り繕う必要もないだろ?」
バルクホルンは前世での晩年期に見せていた温厚で優しい人間性を見せている。精神的に成熟しているためか、かつての自分を『若い頃』と表現した。なお、話している言語も何気に日本語だったりする。
「確かに」
「直に夢原たちの休暇も終わる。それと入れ違いで泊まることになる。本当は宮藤も連れてきたかったが……」
「あいつ、産休中だもんね」
「それもあと一回は確実にあるからな。ああ、私など、今からクリスがそうなった時に備えているんだぞ……」
「はいはい」
相変わらずのシスコンなバルクホルンだが、転生の恩恵で21世紀の暮らしに慣れているため、ちゃっかりとコンビニでスイーツを買っている。ノビスケへのお土産である。
「うちら、慣れたよね。この暮らし」
「前世で20世紀末まで生きた後だからな。そこまで生きれば、後は情報・通信機器しか変わらんよ」
機械が苦手なバルクホルンだが、流石に転生をした後なので、携帯電話の類くらいは扱えるようになったらしい。普通にICカードの扱いにも慣れている。
「日本には武器を持ち込めないけれど、護身用はどうするの?」
「野比家の武器庫にいくらでもあるだろう?彼のものを拝借しよう。彼のものなら、日本からも許可が出ているからな。とはいえ、いくら規制が緩くなったとはいえ、使用は控えろ。警察は軍に悪感情を持つし、ただでさえ、ここのところの失態で軍を睨んでるというからな……」
「めんどくさいけど、しゃーないか」
電車に乗り、ススキヶ原行きの路線に乗る。ススキヶ原は練馬区内のとある地域に存在する比較的に小さい町だが、新宿からなら割に近いところに存在する。学園都市とも隣接しているものの、自然をわずかに残すというところでも知られている。学園都市の隣接という位置からか、電車の駅が存在し、のび助は現役時代、そこから新宿に本社があるそこそこの商社に通っていた。21世紀の電車の車窓(もちろん、時勢に合わせて、口元にはマスクをちゃんと着用している)は自分達の時代の蒸気機関車より遥かに速い。6分程でススキヶ原につき、駅から降りる。服装は時代に合わせてある、カジュアルな私服である。
「あ、バルクホルンお姉ちゃんとエーリカお姉ちゃんだ~」
当時、六歳ほどの幼いノビスケが目ざとくも、二人を見つけて駆け寄ってくる。バルクホルンは転生後は基本的に子供好きになっているため、のび太の実子のノビスケに対しても面倒見がよく、ノビスケには『優しいお姉ちゃん』と認識されていた。
「元気にしてたか?」
「うん~」
子供らしい甲高く、なおかつわんぱくな声でノビスケは頷く。
「どうも~。丁度良かった」
「この子の学校の迎えか?夢原」
「ええ。丁度良いタイミングですよ」
「トゥルーデがお前らにお土産あるってさ」
「本当ですか?」
「ああ。お前らと入れ違いになるだろう?スイーツでも食べて、作戦の英気を養っておけ」
バルクホルンはかつてと違い、ダイ・アナザー・デイ後期以降は『温厚で面倒見がいい』本来の性格を前面に押し出している。のぞみ達に対しても、『良き先輩』として振る舞っており、501設立初期の問題児ぶりが嘘のように『皆に慕われる』立ち位置にいる。対するエーリカは前世のキャリア後半での鬼教官ぶりが覚醒めたため、教導では後輩に厳しく、64Fが最強であり続けた要因を担っている。つまり、アメとムチの役割が二人の間で逆転したわけだ。(普段の態度は変わらないが)
「あーやはグレートカイザー乗るってさ」
「へ?先輩がマジンガーに??」
「ジュンさんから頼まれたんだってさ」
「それと、ケイさんはゲッターの新型を手配したそうだ」
「先輩たち、派手に動くなぁ」
「お前もダブルエックス乗ってるんだし、おあいこじゃない?」
「あーん。そりゃないですよぉ」
「貴方達はドイツ空軍の?」
「ああ。一応、トップ2ということになる。一時は世界四強とも言われていたよ、秋元。もっとも、真の意味での四強はお前らの先輩だったがな」
バルクホルンは世界四強と持ち上げられていた時も今回の転生においては謙虚であり、スコアはあまり誇らなかった。七勇士の真のスコアを把握していたからだ。
「お前がいた世界でのドイツ空軍撃墜王の同位体が私達になる。501出身だから、サインを求められる事も多くてな」
苦笑交じりのバルクホルン。1949年当時は23歳前後で、普通なら引退している年齢だが、Gウィッチ化で未だ現役である。この時点では64F内の魔弾隊の副官の一人であり、ルーデルに振り回されていたりする。
「だから、日本に行くと、サインペンと色紙は用意しとくわけ。有名人は辛いね」
エーリカもこの時期には21歳前後になっているが、普段の振る舞いは以前と変化がない。とは言え、大人になったところもあり、剣鉄也にダイ・アナザー・デイの時期は淡い思いを抱いていたりする。それを経ているため、実はエーリカはマジンガーZよりグレートマジンガーが好きだったりする。
「お前らも似たようなものだろうがな…。給料はいいが、元の世界では使い所もないからな。この世界で使おうと、エーリカが言ってな」
「危険手当がめちゃ高額になりましたからね。日本でも家一件は建てられますよ」
「元の世界に持ち込めても、使えない家電多いけどね。ウルスラはそれで拗ねてさ」
「ウルスラさん、カタブツですからね」
「だから、トモコに頼んでさ、妹を留学させたわけ。あいつ、サラマンダーが採用中止になったの恨んでたし」
「いや、それ……採用以前の問題じゃ?」
「あいつはマジで採用になると思ってたよ。ジェットエンジンを外付けにしたのは整備性を考えたんだってぼやいてたし」
「空中分解するレイアウトですって、あれ……」
それはHe162ジェット機であり、ジェットストライカーのことで、錦の知識を受け継いだのぞみが見ても、『冗長性を考えてない』無茶な設計であるのは明らかだった。ウルスラ・ハルトマンは『エンジンの改良で安定性は改善できる』と主張したが、史実を考えると、同機に魅力はまったく無いとドイツが判断したのも無理からぬことだった。同情した黒田が資金援助して、ウルスラの私的な開発を続行させているが、のぞみからさえ、採用の芽はないだろうと見られている。(しかし、ウルスラの願いが通じたか、扶桑空軍に中等練習機として採用されたのである。これはカールスラントに恩を売りたい一派の差し金であったが、ともかくも採用はされた)
「あいつはカタブツだからね。日本がイーグルだとかタイガーシャークを公然と使ったのが許せなかったのさ。かと言って、そうしないと、圧倒的物量の敵に対抗できない。そのジレンマでおかしくなりそうだったから、トモコに頼んで行かせたわけ。クロダにはサラマンダーを引き取らせて、私的に開発を続行してもらってね。それでも戦闘機としては使えないって判定されたよ」
「黒田先輩、軍需産業に家のコネあるって言ってたっけ」
「科学者から見たら、日本が技術チートするのは許せなかったんでしょうね。だけど、史実を考えると」
「そうだ。アメリカの技術と物量のチートに踏み潰された記憶のある日本は技術チートをしかえす事を何よりも望んだ。あいつにしてみれば、元は自分達が考えて、試行錯誤中の技術の『完成型』を見せられるのは屈辱だろうが、日本からすれば、小娘の戯言だ」
キュアミントのその一言に頷くバルクホルン。ウルスラ・ハルトマンの心情には理解は示すものの、ダイ・アナザー・デイの凄惨な戦場にいた者の心情として、技術チートでもしないと無理なのは分かっている。
「あの時、先輩やのび太くん、F-20やドラケンを好んでたけど、なんでだか、わかります?」
「うーん…。上昇率とエンジン始動の速さじゃないか?」
「それと補給の速さだ。ドラケンは地上での整備にさほど時間はかからん。F-20は史実の性能でも、凄まじい上昇率を誇ったと聞く。閣下らは私的に熱核タービンを積んでいた。それを考えると、コスモタイガー並の上昇率になっていたからだろうな」
「先輩たちはバルキリー乗りでもあるからなぁ。この間……」
「むこうのあたしらが腰抜かした『あれ』でしょ?あーや、エクスカリバーなんて使っちゃってさ」
「あれに大気圏で対抗できる機体など存在せんよ。スペシャル仕様でなくとも、限界までチューンナップされたVF-19の特務仕様の力は真ゲットマシンを除けば最速だ。加速力もコスモタイガーより上。向こうの旧世代ストライカーでは、シャーリーでも対応できんよ」
バルクホルンとエーリカが言及したその模擬戦はB世界側の要請で行われたものだが、黒江がVF-19Aを持ち込み、二人と戦ってみた事が発端である。チューンナップされた同機は『ジェット機は鈍い』とする認識であったB世界の二人の常識を根底から破壊した。宇宙時代に一時代を築いたハイエンドモデルを使った上で、イサム・ダイソン仕込みの空戦術を見せた。二人はそれになんとか食らいついてみせ、カールスラント空軍トップエースの意地を見せたが、ハルトマンのシュトゥルムは黒江の『グレートタイフーン』(VF越しに放った)に破られている。また、普通にストライカー同士でも模擬戦をしたが、黒江はいっぺんは誰かに言ってみたかった台詞だという『相手が勝ち誇ったとき、そいつはすでに敗北している』というカッコいい一言と、『またまたやらせていただきましたァン!』というどこかで聞いたような台詞を軽いノリで披露している。黒江は戦いでは、聖剣を多用するため、後先考えないパワータイプと思われがちだが、実は策士タイプに当たる。
「それと、先輩、悪ノリしてましたからねぇ。先輩、転生後は軽口だし、聖剣ぶっぱしまくるから誤解されるけど、策士のところあるから」
「あの方はああ見えて、食えないお方だよ。同位体もモスキートを隼で落としたと聞くが……」
「ええ。先輩、口は軽めなんだけど、やたら強いんだよなぁ。技術試験部隊から惜しまれてましたよ。当時の構成員、前線で功があった先輩を妬んでたのは有名ですから」
「何故だ?当人がその時の記憶を思い出すのは44年以降だぞ?」
「その頃の構成員は前線の功がない世代が大半だったんですよ。当時からいた人に聞いた話だと。それで記憶がない状態の先輩が鬱病一歩手前にいったんで、お上が激怒したって話です。それでクーデターの事後処理で技術試験部隊は解体、所属隊員は懲罰的に前線送り。技術試験部隊に先輩の一件で不信を持っちゃったお上の勅じゃ、軍は逆らえませんからね。再建は空自が説得して道筋ついたけれど、戦後になってからってことなんで、当分は先ですね」
昭和天皇直々の命令では仕方ないため、技術試験はメーカーが予め、ある程度済ませた状態で納品するようにという通達が出された。横空のテスト部門、航空審査部が廃止された影響である。マルセイユの事例もあるからで、この状態は戦時中は続くことになる。『第三者』の空自の説得がなければ、64Fは過労になる。それは誰の目にも明らかだった。カールスラントでも、メーカーの検品の不備でマルセイユが死にかけたため、それを知る者たちがメーカーに厳しく義務として課すことで折り合いをつけた。64Fに卸すものは特に、だ。
「やれやれ。失職したテストパイロットは前線送りか」
「戦死者も出てます。関係者涙目だけども、前線に突っ込ませて損害与えるほうが偉いって扱われるの、日本人らしい風潮ですよ」
「後方で教官させる選択肢ないのか?日本にはノウハウがないのだぞ」
「そこなんですよ。今回の戦争の難点は」
ウィッチは若齢であることが望ましいが、日本側の基準と扶桑側で基準が一致しない上、教育期間が延びてしまったため、戦時に不要とされた教導部隊は縮小され、人員は前線で消耗している。また、そもそもの志願数も大きく低下したため、義勇兵を多少再教育して使ったほうが需要を満たせるため、この戦争での新規志願の敷居は高くなってしまっている。そこを嘆くものの、短期決戦を目論む扶桑上層部と長期の防衛戦、それもゲリラコマンドによる撃退を志向する日本との隔たりはこの時点ではかなり大きいことは明らかだった。
「難儀なものだな」
「日本はアメリカの気質をよく知ってますからね。同時に情け容赦ない事も知っている。短期決戦なら、波動砲で大陸をぶち抜いて沈めろとまで言ってるそうです」
「本当か?地球に穴開ける気か、連中は」
「主要都市への大空襲の報復を考えてるんでしょう。マスドライバーだとか、マクロスキャノン、波動砲使えっていうんですから。この間の国防会議で、官僚が反応弾を五大湖工業地帯に撃ち込めって喚いたって噂です」
「子供の癇癪か……、日本はタガが外れると極端から極端に振れるな。ジオンを生んだ民族の一つと言うが…」
「太平洋戦争の怨念返しでしょうね、連中のやりたいことは。歯止めをかけないと、ZEROを笑えないくらいの殺戮を躊躇なくやりかねませんよ」
「アメリカの罪だな、それは…」
バルクホルンとキュアドリームはシリアスな話題でお互いに嘆息する。ダイ・アナザー・デイでアメリカを敵に回す恐怖を思い出したためか、日本は後のジオン軍の思考の芽ともいうべき苛烈な攻撃を提案しまくり、扶桑と地球連邦軍を呆れさせている。とはいえ、日本は太平洋戦争後期の負け戦の記憶があるため、アメリカに勝つには本土を徹底的に叩き、連邦を分裂状態に追い込むしかないという結論に達しており、そのためには大空襲以上の殺戮もやむを得ないとしている。日本の最大目標は五大湖工業地帯。そこさえ無力化すれば、米国といえど、継戦能力を大きく落とす。日本は勝利の暁には、リベリオン軍の解体をセオリー通りに考えていたが、ウィッチ世界では軍事組織を無くすと、その空白を怪異に突かれてしまうため、忌避される傾向にある。怪異は第三勢力かつ、未来で言う宇宙怪獣のような存在。それを日本が実感するのは『新領』である極東ロシアに怪異が現れ、その調査団がその脅威を報告してからである。そして、その事件でウィッチ育成の重要性を痛感することになるが、ここからまだまだ先のこと。
「おねーちゃん達、何の話してるのー?」
「ああ、仕事の話だよ、ノビスケ」
と、ハルトマンが上手く流す。とはいえ、64F幹部の間では危機感が共有されている証である。個人単位では無敵の彼女らだが、彼女らと言えど、何の補給なしでは戦えない。戦えるのはゴルゴとのび太(成人後)くらいだ。
「ところで、夢原。あの子と何があった?」
「調ちゃんと揉めてたんですよ、あの子。あの子、無意識に他人の地雷踏んじゃう癖があるって、リコちゃんや未来ちゃんから聞いて。それでドラえもんくんとのび太くんと相談して、あたしと六花ちゃんとのび太くんが間に入ったんですよ。六花ちゃん、前世で別のあの子と会ってたみたいで、それで……」
――ダイ・アナザー・デイ中――
「少しいいかい?」
「のび太くん!?へ、な、なんで大人になってるの!?」
「バトンタッチしたんだよ、子供の僕と。子供の僕は新学期があるからね。それに調ちゃんの保護者でもあるから、僕は」
「のび太君が!?」
「正確には親父が隠居したから、成人後に僕が権利を引き継いだって言うべきかな」
「のび太の父上は月詠調を住み込みの家政婦という扱いにしたのだ。のび太が小学生当時、さすがに育ち盛りの子供を二人以上養えるほどの余裕がないので、母上が難色を示したが、黒江綾香が養育費を出すと申し出たので、母上も折れた。はーちゃんは父上の養子になったので、彼の義妹になっているがな」
「サンジェルマンさん、私は貴方と『会った記憶』はあるけど、直接会ってはいない。だけど、不思議な感じです」
「今はお前と同じ日本人だがな」
「それじゃ、今はなんて?」
「菱川六花、またの名を婚后光子。漫画家がペンネームを持つようなものと思ってくれ」
「どっちがどっちですか?」
「婚后光子が戸籍上の本名。菱川六花は前世の名の一つであり、プリキュア変身者としての名義だ」
キュアダイヤモンドは立花響へはサンジェルマンとしての口調と振る舞いで接していた。その方が話を進めやすいからだ。
「それで、あのキュアドリームって子は?」
「プリキュアとしての先輩だ。私からすれば、大先輩に当たる人だ。戦ってる分には強いんだが、普段はアホでな。お前と似ているよ」
「何気にひどいこと言ってませんか?」
「事実は事実だからな」
「さて、本題に入ろう。なのはちゃんが君にした事は僕からも詫びるよ。あの子にもっと具体的に指示を出すべきだった。すまない」
「そ、そんな。のび太くんのせいじゃないって!」
戸惑う響。のび太は続ける。アイデアそのものはのび太と調が『響のガングニール依存を荒療治で治せないか?』と出し合い、黒江も『ちょっと懲らしめる』という意味で乗り、なのはに指示を出したのだが、なのはがそれを拡大解釈してしまったのが『事』を大きくした原因だと。
「責任の一端はあるから、調ちゃんも給与のいくらかは返納してるよ。それと、君はなんで『あれ』に?」
「あれは天羽奏さん……翼さんのパートナーだった人から、私が受け継いだ事になる力だったから。私はその時の事件で奏さんが命を賭して助けてくれた、叱咤してくれたから、この場にいられる。その後、生き残った私はいろんな事があって…」
「お父さんがいなくなって、君自身も誹謗中傷にさらされたんだね?」
「うん…。だから、ガングニールは私に居場所を与えてくれた。大切な人たちを守るための力なんだ」
「でも、君が現在持つそれは、元はマリアさんのものだった個体じゃないのかい?」
「分かってる、分かってるけど……。マリアさんにもセレナちゃんから受け継いだアガートラームがある。ガングニールは……奏さんから受け継いだ力なんだよ……私が誰かを助けるための……!」
涙を滲ませつつも、ガングニールへの思いを語る。過去の悲劇で心に傷を残した響にとって、ガングニールは力であると同時に、天羽奏の思いを受け継いでいくため、誰かを助けるための手段なのだと。
「お前は誰かの善意を信じすぎる。そして、まっすぐすぎる。相手にも譲れないものはある……。かつての私のようにな。『局長』のように、倒すべき敵はいたはずだろう?」
「ええ……だけど、私はキャロルちゃんを救えなかった。あのエリスって存在にガングニールを無効化されて……。その後は殆ど気絶してて…。気がついた時には、あのマジンガーと二人がエリスを倒すところで…。私にはほとんど何が起きてるかわからなかった。シンフォギアを纏ってたはずなのに……!」
「シンフォギアやファウストローブは感覚まで強化するわけではない。あの二人はセブンセンシズ、あるいはそれ以上の『感覚』に覚醒めているのだ。今のお前に立ち入れる領域ではない。そして、あのマジンガーもそうだ。機械仕掛けの神にも等しい。今のお前に手出しのできるものではない」
「そう。あの二人は本当の神様を守る軍団の戦士。それの最高位だ。今の君の力では、とてもその領域への手出しは無理だよ。デコピン一発で地球一周する羽目になるよ?」
「…!?……それでも何かあるはずだよ……沖田さんじゃない、『私』なりの手立てが……サンジェルマンさん、貴方が羨ましいです。生まれ変わったら、世界を守れる資格を持てた。それに引き換え……。」
「転移前の調ちゃんが言ったという?」
「……偽善という言葉か」
「うん。誰かの痛みもわかるのに…。それまでの『良かれと思ってしてきた事』を否定されるのは……堪えるよ?」
「あの子も転移先で君のしてきた事の意味を理解した。今はいろんな人の背中を見てきて、しない善よりする偽善ってヤツの意味を思い知った。君に嫉妬してたんだろう。君は英雄、あの子は入れ替わりがなければ、普通にテロリストとして裁かれていた立場だ。ただ、君はあの子の転移後における地雷を踏んだ。調ちゃんは守りたかった人が死んでいく宿命をどうすることも出来なかった無力感に苛まれていたからね。そして、向こうにいた年月の多くを戦場で過ごした。故に、君が言う『前の生活』には戻れない。精神的意味でね。それを君は無視するような形になった」
「そんなにいけないことなの……?切歌ちゃんやマリアさんのところに戻る事。元の世界での立……、あ……。」
「そうだ。元の世界…といっても、黒江綾香が既にそこで築いたものがある。いくら周囲はそんな都合を知らないといっても、月詠調にとって、それは『黒江綾香が築いたものを借りている』にすぎん。お前はそこに気づけなかったというべきだな。だから、小日向未来がお前を咎め、月詠調をのび太のもとに行かせたのだ」
響はここでようやく、調の立場や周囲の認識が黒江が築いたそれになっている事に調当人がどう思っているか。そこに気がついた。キュアダイヤモンドは淡々と言うが、それが却って、事の重大さを気づかせた。
「そ、そんな……。私は戻って来る時の居場所を作ってあげようとしただけなんだよ……」
「居場所ってのはね。誰かが与えるものじゃないんだよ?」
「ドリーム。報告は?」
「先輩が椅子からずり落ちたよ。……いい、響ちゃん。居場所ってのはね、誰かが与えるものじゃないんだよ。自分で作っていくものなんだ。調ちゃんはそう思ったから、自分の世界から離れた。貴方の善意は悪いことじゃないけれど、必ずしもそれが正しいとは限らない。敢えて、自分から手を取らずに見守る事も大事なんだよ?」
報告から戻ったキュアドリームは諭すように言い聞かせる。その微笑みはとても包容力に溢れており、響もどことなく安心感を覚えるほどだった。
「僕も人の親になったから分かるけれど、優しさは時として、誰かにとってのおせっかいになるものだよ。それでも優しさで人は救える時もあるけれど、後悔を生むこともある。僕もそういう経験があるからね」
のび太は幼稚園児の頃の『ノンちゃん』(幼稚園児当時に野比家の隣に住んでいた女友達)との突然の別れ(ジャイアン達が関係を冷やかしたために彼女にイジワルをしてしまった。歴史改変で当人に謝れたものの、のび太の心には後悔を残している)、キー坊、ピー助、リルルなどとの別れの辛い記憶を持つ。特にノンちゃんのケースはそれからそう遠くない内に、親類で一番に敬愛した父方の祖母が亡くなるという出来事があったため、のび太にとって『幼稚園年長期』は辛い思い出がいっぱいである。
「ちょっと、僕の身の上話になっちゃうけれど、いいかい?」
――のび太はこの後、自分が『後悔した』いくつかのエピソードを響に話していった。キュアドリームはそれを回想し、バルクホルンとエーリカに話す――
「なるほど。それであの子がお前やのび太氏に心を開き始めたのか……」
「ええ。それで、私もちょっと身の上話をしたんです」
キュアドリームはその時、ついでに自分も流れに乗っかったと苦笑交じりに告白する。若干恥ずかしそうである。
「人間、誰しも辛い出来事はある…。私も妹が数年間、昏睡状態だった時は気がおかしくなりそうだったからな。あの子は優しい、優しすぎる。誰かに強く肩入れしてしまうために、もう一方の立場からモノを考えることに気づきにくい。そこがあの子と月詠との間の悲劇だろうな」
「ええ…」
バルクホルンは響の優しさを理解し、その上で優しすぎると評する。それが第三者であるバルクホルンから見ての評価であった。キュアドリームも同意し、頷くのだった。