※扶桑海軍の高官として、史実では山本五十六が連合艦隊長官の時代の参謀長『宇垣纏』中将が登場します。
――戦艦の進化は扶桑軍艦政本部を悩ませた。贅を尽くした移動司令部として設計した大和型戦艦はコスト度外視のはずだったが、紀伊型戦艦以前の型式の相対的陳腐化で量産されてしまうという結末になり、超大和型も普及しつつある。特にモンタナの登場は衝撃であった。超大和の登場を直接的に促したからだ。更にそれを凌ぐ戦艦の登場は明らかだったのも、艦政本部を悩ませた。日本の無茶苦茶な要求を実現させるには、未来技術の使用しか手がなかった。リベリオンの次世代戦艦は46cm砲を一二門も備え、装甲は大和型戦艦を上回るという情報も入っていたからだ。それを受けて、扶桑も戦艦艦砲のスタンダードを51cm砲に引き上げた。そのシーソーゲームは日本を驚愕させ、同時に戦艦の近代化レイアウトの模索をさせることになった――
――『ダイ・アナザー・デイで見たとおり、敵はいずれ、本格的な46cm砲艦を量産してくる。51cm砲艦の増産は必須である』――
これが日本連邦海軍の結論だった。戦艦の撤廃を考えていた日本側はこの大艦巨砲に狼狽した。ミサイルで『沈められない』からだ。扶桑も従来型が根こそぎ陳腐化する新世代戦艦『バーモント級』(詳細不明)の脅威に慄き、結果、ニューレインボープラン艦と敷島型の船体設計を統一。56cm砲艦の増勢と51cmの普及を急ぐこととした。空母の増勢が遅れたのは、世論が戦艦での紀伊などの仇討ちを望んだからで、政治的に難儀した時代が1945年からの四年であった。地球連邦軍の協力で乗員数の削減、主砲塔の近代化などに成功。以後はこの船体/武装設計の発展をしてゆくことになる。
――連合艦隊 第二戦隊――
第二戦隊に配置換えされた三笠型戦艦。第一戦隊の敷島型が重要機能の秘匿の必要から動けないため、それに次ぐ能力の三笠型は遊撃戦力として動くようになった。播磨型を二隻、大和型を一隻ほど従え、南洋近海を航行していた。この時の第二戦隊は三笠型、播磨型、大和型、超甲巡を含めた打撃艦隊で、情報欺瞞の必要から、打撃艦隊として大規模である。その司令長官は史実では山本五十六の時代に連合艦隊参謀長であったことで知られる宇垣纏中将であった。
「長官、壮観ですな」
「うむ。これぞ、先輩たちが志向していた八八艦隊の完成形だよ。戦艦部隊の火力では世界最高峰だよ、君」
扶桑戦艦の現有戦力の中でも有力とされる艦の多くが自らの指揮下にあったため、宇垣はご機嫌であった。(黄金仮面の渾名を持つ彼にしては珍しいと言われたという)『これぞ大艦巨砲主義!!』、『ビバ、大艦巨砲主義!!』の極致だからだ。欧州は国力の減退で46cm砲の普及にも手間取る有様で、もはや宛にもできない。扶桑は単独で強大なリベリオン戦艦部隊と戦う必要がある故に、扶桑海軍は戦艦の更新を急いだのだ。
「長官、我が方の電探と観測ヘリが敵艦隊を発見しました」
「敵艦隊の陣容は?」
「ハッ。通常のモンタナ級、2。改モンタナ級、3。アイオワ級、2。デモイン級巡洋艦を5杯、他はフレッチャー級駆逐艦を多数従えて接近中」
「諸君、いよいよ今次大戦最初の砲撃戦だ。戦闘配置」
「ハッ。全艦、戦闘配置!対空・対艦ミサイルの発射準備、主砲の装填開始!」
「ミサイルで護衛艦隊を散らす。潜水艦の警戒はどうか?」
「この世界では、対艦任務への使用自体が頭になかったですからな。反応はありません」
「そうか。なら、安全だ。敵に軽空母は?」
「いません。ダイ・アナザー・デイの戦訓で軽空母や護衛空母の類は後方に下げているようです」
「なら、やりやすいな。敵は誘爆を恐れたんだろうが、こちらの思うつぼだ」
扶桑とリベリオンの今次大戦の初艦隊戦はそれなりに大規模なものであった。扶桑艦艇からのミサイルの雨あられで始まり、リベリオン艦隊はある一定の犠牲は承知の上で突っ込む。盾役になりえるウィッチを開戦劈頭の潜水艦狩りで人員輸送用の潜水艦共々、大量に失っているためだ。
「敵戦艦隊、射程に入ります」
「榴弾で脅す。外れても構わん」
富士の56cm砲塔が一斉に稼働し、目標を定める。砲撃戦では如何に未来技術を用いようとも、命中率は机上の理論ほどには上がらない。戦艦の砲術理論が第二次大戦で絶えた世界(時代か)からすれば信じられないだろうが、戦艦の撃ち合いとは、そういうものだ。(その分、政治的いいわけも立つが)
「了解しました」
ややあって、富士と三笠が吠える。56cm砲弾は敵艦の近くに着弾し、凄まじい高さの水柱を上げる。
「敵の射程は?」
「まもなくかと」
「本艦と三笠に敵の砲弾を惹きつける。そのために大きくしたのだ」
宇宙戦艦の構造で造られた扶桑新戦艦は基本的に新造時の大和型戦艦を含むそれまでの全ての戦艦とは隔絶した耐弾性能を誇り、史実では、大和型戦艦でもただではすまないとされるSHSを安々と弾き返す。時代相応の技術であれば、当代最高峰ともされるはずのリベリオン製長砲身40cm砲の10000m以下の至近距離からの砲撃でも容易く弾き返す事から、リベリオンは砲身命数と引き換えにしても、46cm砲を選んだ。扶桑はそれに耐えるため、装甲材そのものを変え、船体構造も見直した。そのシーソーゲームの凄まじさは、欧州に戦艦に多額の経費をかける興味を失わせるには十分だったりする。とはいえ、列強の義務的に抑止力は必要なので、形式的な保有は続けられる。とはいえ、実働的な戦力と見られるほどの戦艦部隊を維持できた国は殆どなく、欧州では、地政学的意味でキングス・ユニオンとロマーニャ、カールスラントの三カ国のみが維持できたという。
「戦艦隊は砲撃準備。射程に入り次第、開始せよ」
「ハッ」
「リベリオンめ、目に物見せてくれようぞ」
張り切る宇垣。同位体の名誉回復の機会なためだろう。また、『大砲屋』としての名誉ある任務という事もあり、鼻息は荒かった。45年以降、カールスラント海軍水上艦隊の衰退とブリタニア連邦海軍の財政難での出動機会の減少で洋上抑止力が損なわれた結果、ノイエ・カールスラントは敵艦隊の安全航路扱いで無視されるようになっていたため、扶桑海軍はその分も強大になる必要が生じ、軍拡を嫌う日本の左派が両国海軍を『だらしがない』、『少しは地域防衛を負担しろ』と詰るに至った。とはいえ、双方にも都合があるし、ブリタニアはまだいいが、カールスラントには、リベリオンに対抗できる海軍を持てるほどの余裕はもはやない。ましてや、カールスラントは一次大戦で太海艦隊を失って久しいのだ。そのために日本は質で量を補えと言うしかなく、扶桑海軍は近代艦艇の装備を急いでいる。怪異にはミサイルは有効とは言えない関係から、旧来の砲熕型艦艇が衰退することはない世界であるのも、砲熕型巡洋艦と戦艦という古典的艦種が1945年以降も生き延びている理由だ。『質で量を補え』というのが日本系国家の軍事ドクトリンの伝統だが、この場合は軍事費を減らし、その分を福利厚生費に充てたい財務当局の都合に振り回されての結果である。空母の建造が遅れたのもこれが原因であり、二つの五輪が終わったので、1949年度に許可が出たわけだ。全工程完了は1953年の予定だが、これは同型艦の竣工も含めての数字だ。もっとも、工事の遅れと財政の問題で先延ばしの可能性も大きかったため、この大戦での航空戦力の主力は空軍が担うことになるのだ。
――海軍は基地航空隊を軍の主力として、数年の時間と膨大な資金を費やしていたが、それを台無しにされたことへの恨みが空軍との対立の理由だった。とは言え、台湾沖航空戦、マリアナ沖海戦での無残な大敗北、レイテ沖海戦以降の特攻の記録を大義名分に、水上艦隊の意義が見直されたのも事実である。その航空主力化施策を主導していた井上成美が海軍軍人の地位を捨てたのは、どの分野でも結局は物量と空母の機動力に負けた日本海軍の顛末を見たためとも、アメリカが戦艦を外交に活用した未来を目の当たりにし、21世紀には空母が戦艦よりも遥かに高価になるという未来に落胆したからともされる。空軍は彼を事務方のトップに添える形で形となり、結果的には彼の思惑は達成されたものの、しばらくの間は互いの意思疎通に空自の仲介を必要とする事になる。これは海軍の現場に空軍への強い被害意識があったからで、64Fの設立メンバーの中で、その後に隊の運営に関わった海軍出身者は三名ほどで、後世から『パッとしなかった』と評されたが、実際は海軍出身者の多くが単に純粋に前線での戦闘要員だったからである――
「最近の政治情勢的に、軍に入る人数も大きく減ったからな」
「社会的メリットが薄れましたからな」
「……地方出身者のくだらんステイタスか」(とは言え、彼自身も岡山県出身であるので、人のことは言えないのだが)
「田舎では、少尉になって官報に載れば、それだけで名士扱いでしたが、それも無くなった以上、地方からの志願は対策が必要でしょうな、長官」
「うむ。そのためにも銃後の喜ぶような『戦果』が必要なのは泣けることだ」
「ですな」
参謀のその一言に頷く宇垣。海軍はここ最近の失態でダイ・アナザー・デイでの華々しい戦果を帳消しにしてしまった感が否めず、名誉挽回のために戦果がどうしても必要だった。その絶好の機会を活かすため、ここで敵艦隊に大打撃を与えたいのが本音だった。大和型戦艦、その後継・発展型の艦を大量に率いている以上、中途半端は許されない。そう考えつつ、CICで悠然と立つ宇垣纏であった。
――この海戦はザンスカール残党の襲撃から一ヶ月前に生起した海軍の晴れ舞台であった。日本の防衛官僚から『空母なしの艦隊など、狙ってくださいと言ってるようなものだ』と論う声があったが、実際は未来装備での鉄壁の防空網でなんら問題はなかった。懸念された潜水艦の襲撃も敵のガトー級は開戦劈頭に払底しており、心配の必要はなかった。そこも敵が大艦巨砲主義に傾倒していく伏線であった。開戦後初の海戦の指揮官が宇垣纏というのは懸念材料ともされたが、大和型の事を知る指揮官はあまりいないので、消去法で起用されたと言える。とはいえ、空母戦ではない旧来の戦法を得意とするほうが多い時代なので、航空戦力もそこそこ知り、戦艦部隊を率いる度量がある提督の一人に挙げられていたのも事実だ。宇垣は同位体の名誉回復を意気込んでいたので、俄然、士気旺盛であり、それが乗員にプラスとして働いた。史実では成し得なかった戦艦同士の砲撃戦に、黄金仮面と言われた宇垣も心躍るのは間違いないだろう――
――扶桑の自前での新空母がどうして遅れたのか?それは空軍がダイ・アナザー・デイの主力となった事、日本の左派が空母を嫌い、空中給油で飛ばせることを志向し、評議会を混乱させたせいである。とはいえ、在来型日本空母は格納庫の天井の高さや大きさの都合で改修をしても軽空母以下の搭載機数に落ち込んでしまう上、数的主力だった雲龍型は改修費の割に費用対効果が小さすぎるという問題がある。そのため、ダイ・アナザー・デイで翔鶴型航空母艦(大鳳含む)と蒼龍型航空母艦(寸法が翔鶴型だったため、ダイ・アナザー・デイ後に緊急で改修)でローテーションしても、プロメテウスはいざ知らず、出現が予測されたフォレスタル級航空母艦と比較して、戦力投射量が雀の涙なのは大問題であるのも事実。45000トン級で検討されていた改大鳳型を白紙に戻し、キティ・ホークを手本としての85000トン級大型空母に切り替えたのだが、港湾施設の整備やドック拡張の時間や予算の関係もあり、1948年に整備計画がようやく承認され、翌年に建艦が開始されたわけだ。それは『瑞龍』とネームシップは予め名付けられ、6隻前後の整備が予定されている。これは信濃型の計画撤回、大鳳型の増産中止の代替も兼ねており、一番艦の建造費はブリタニアとカールスラントからの賠償金を使用している。計画承認に三年、建造開始まで四年もかかったのは、扶桑の在来型空母の大型艦は大鳳以外は1920年代~30年代の戦間期の建造の『旧型』であることの周知に時間がかかった事、ダイ・アナザー・デイとM動乱の戦訓で、ジェット機の運用を難なくこなせる超大型空母が必要とされたからである。プロメテウスは扶桑海軍への良いデモンストレーションになったわけだが、日本の左派を納得させるのが骨だったのである。扶桑は軽空母と護衛空母を政治的に奪われたことで空母戦闘群の戦闘力が大きく下がったため、早晩に『空母』としての用をなさなくなるであろう雲龍に代わるものとしても、超大型空母で補おうとしたわけだ。とはいえ、45000トン級空母(満載排水量は65000トンになる)の需要はないわけではないため、そちらを数的主力に推す声も大きかった。とは言え、『長く使える事』を重視する日本の意見が通り、85000トン級で建造される事になったのである……。
――同時刻の64F基地――
視察に訪れた小沢治三郎。この時期には統合参謀本部議長の任にあり、史実ではなし得ていない大将の地位にあった。
「おっちゃん、宇垣のおっさんが艦隊戦に入ったんしょ?」
「宇垣は張り切っているからな。心配だから、矢野くんを参謀として送り込んである」
元・部下の矢野志加三少将を宇垣のもとに送りこんでいると明言する小沢。事実上、制服組トップの地位にあるため、昇格人事である。なお、宇垣纏は兵学校40期で、山口多聞の同期にあたるため、意外なことに小沢は宇垣の先輩なのだ。
「模擬戦を視察していくの?」
「統合参謀本部議長と言っても、陸に上がってデスクワークをするのは肩がこるよ。海軍大学校以来だしな」
小沢は尊大で頑固そうな印象を受けるが、実際は扶桑海軍航空閥の開祖の一人なので、黒江達とも親しい。また、連合艦隊司令長官在職中のM動乱とダイ・アナザー・デイで汚名返上は叶っており、この頃には名将である小沢を部下の不始末の管理責任とは言え、クールダウン期間の後にデスクワークにつけるしか方策の無かった扶桑軍への批判すら存在する。宇垣纏が砲撃戦に勤しんでいた日、黒江達はB世界側の要請で模擬戦に臨むのだが、黒江はB世界側にジェット機の驚異を体で感じさせるため、VF-19を使うつもりであるため、パイロットスーツ姿である。
「君も面白い趣向を凝らすな?」
「向こうにジェット機の猛威をわからすにゃ、多少のチートは必要っしょ?」
「そりゃそうだがね」
苦笑いの小沢。ウィッチは初期ジェットより小回りが効き、加速力も上なので、黒江が可変戦闘機を持ち出すのも無理からぬことだが、運動性能の高さと加速力で一時代を築いた『VF-19』を持ち出すのはチートである。一般に『規律にうるさい』とされる軍隊だが、航空部隊に関しては自由な気風なのと、構成員が『ウィッチ』なので、士官としての個人裁量権も通常より大きい。これがウィッチの独自判断が坂本の時代から多い理由である。
「さて、行ってくるよ」
「お手柔らかにな」
こうして、B世界の501はジェット戦闘機の猛威を模擬戦で味わうことになった。それも最高傑作の一つで以て。
――模擬戦の行われる空域――
「ねー、トゥルーデ。向こう側、ジェット戦闘機を持ち出してくるって本当?」
「この世界は私達の世界より文明が進んでいるようだが……ジェットの加速力で私達に対抗するなど……」
『そいつはどうかな?』
その通信と共に、凄まじい速さでV字の主翼を持つジェット戦闘機が飛来する。二人のみならず、模擬戦に参加している全員が瞠目した。驚くべきはその速度とレシプロ戦闘機レベルの小回りの良さを両立させている点だろう。
「な、何……あれ…?」
一同の想像していたものより遥かに先進的で尖鋭的な外見を持つ機体が飛来した。加速力、機動力のどれをとっても自分達の知る機体(Me262)とはひと目見て、次元が違うと理解できた。
『さあて……始めようか』
黒江はB世界の501を敢えて挑発する。501側はフォーメーションで対応するが、VF-19の飛行機と思えぬほどの超絶的な運動性能の前に攻撃が尽く空を切る。芳佳やリーネ、ペリーヌなどは照準を合わせられず、エイラもあまりの速度で未来予測でも攻撃を外す有様であった。
「うぇ!?当たらねぇ!!」
エイラも驚くが、VF-19の加速力はB世界の1945年当時に最高とされる『P-51H』をも超越する。1945年当時のジェット機は当時の技術限界からの低加速力がネックであり、レシプロ機に慣れた搭乗員に嫌われた要因だった。当然ながら、23世紀で一時代を築いたVF-19はその時代とは比較にならない加速力と機動性を誇る。エイラが未来予測で予測しても、それを上回る速さで飛翔できるので、エイラでも当てられないのである。
「馬鹿な、あんな動きがあの図体でできるのか!?」
バルクホルンBは呻く。VF-19はウィッチたちが人員輸送に使う双発~四発輸送機と同等以上の全長ながら、高速・高機動タイプの怪異以上の高機動を見せつけてくる上、速度差でウィッチのメリットを潰してしまう。
「いくら造られた時代が数百年先ったって、乗ってる人があんな動きに耐えられるもんなの!?」
ハルトマンBも驚くが、VF-19はどう考えても『おかしい』動きをしている。ジェットであるのを差し引いても、カールスラントのトップ2が翻弄されるとは信じられないからだ。
「くっ、上昇でも追いつけん……!」
ほぼ全てで圧倒されるB世界側。練度の最も高い501を以ても、中型怪異程度の大きさのVF-19のファイター形態に模擬弾を当てられないのは、同機の高性能もさる事ながら、黒江の技量の高さも大きい。もっとも、かなり加減しているのも事実だ。本気を出せば、高度10000mでマッハ5の超高速を叩き出す同機のポテンシャルからすれば、かなり『抑えてる』のだ。
「すげえ、これが平行世界とはいえ、数百年後に造られる飛行機か」
「関心している場合か!いくら、造られた時代が数百年先だろうと、基本は変わらんはずだ!!」
シャーリーBを叱咤するバルクホルンBだが、互いの速度差が予想以上な上、加速力も信じられないほど高いからだ。(この世代の可変戦闘機は前世代機が固形燃料のロケットブースターを増設しても追いつけないほどの加速力とトップスピードがあるため、レシプロストライカーでは戦い以前の問題だ)
「……!」
「お、おい!ハルトマン!?」
「あたしがどうにかする!!」
ハルトマンBは心情的にジェット嫌いなためか、圧倒されているのに『カチンときた』のか、自分から相手に挑んだ。黒江はそれに応え、ハルトマン相手にドッグファイトに入る。
『フ、格闘戦が苦手なメッサーでよく動く』
ハルトマンBはどこか達観しているAと違い、歳相応の面が残るため、『遊んでいる』VF-19に怒り、本気を出した。マルセイユが認めるだけあり、格闘戦においても卓越したセンスを発揮し、食らいつく。
「あんた、ウィッチなんでしょ?なら、ストライカーで来なよ!」
『休憩挟んだらな。お前にジェット機の発展の可能性を見せたくてな。嫌いなようだったしな。それに、俺がストライカーで本気出したらな』
「あんた、やけに自信あるね?」
『伊達に、扶桑で十指に数えられる撃墜王はしとらんよ』
「黒江、ここでは現役を続けているというが……?」
『ああ。この俺は体質が特殊でな』
「俺、か。随分と違うな?」
『まーな。色々とあったんだよ』
黒江Aは一人称が『私』から『俺』に変化している。シンフォギア世界での経緯によるものでもあるが、精神的に装う必要も無くなったためだ。坂本Bは黒江の『クセ』を戦友であるがためによく知っているため、意外に食らいつけている。
「少佐、よく食らいつけるね?」
「あいつのクセは昔からよく知ってるし、既に覚えとるんでな。乗り物に乗ってようが分かる」
坂本には戦友というメリットがあるため、黒江のマニューバーのクセを見抜ける。そこはどこでも同じである。そのため、坂本のみはストライカー関係なしに肉薄できたわけだ。
『そんじゃ、こいつの真価を見せたる』
「何っ!?」
黒江はここでガウォーク形態に機体を変形させる。一見すると不格好だが、腕が使え、機動の自由度も上がるため、熟練のVF乗りは好んで使用する。一同は呆気にとられ、回避行動が遅れる。
『悪いが、ガキ共の半分はもらうぜ』
黒江はガウォークを使い、ガンポッドの模擬弾をストライカーに当てるようにしつつ、年少組の多くの撃墜判定を勝ち取る。かなりの精密照準である。反撃を横滑りで回避し、ファイターに戻って離脱する。その速度は501のB側が思わず感心するほどのものだ。
「すげえ……鳥型になれんのか」
「バカモノ、関心しとる場合か。ハルトマンめ、躍起になっとるぞ」
「あいつが?珍しい」
ハルトマンBはジェットは使う時は使うが、心情的には嫌い(バルクホルンを事故らせたせいか)なのか、黒江を『落とそう』と躍起になっていた。ハルトマンはシュトゥルムを使い、(模擬戦で固有魔法は避けられる傾向がある)一泡吹かせようとしたが…。
「これでどう!!……シュトゥルム!!」
「あの馬鹿、固有魔法を模擬戦で!」
『安心しろ、問題はない』
「どういう事だ、黒江!」
「見せてやる」
黒江はバトロイドに機体を変形させ、バトロイド越しに『風には風』と言わんばかりに、技を使う。
『風には風だ!グレートタイフーン!!』
シュトゥルムをグレートタイフーンで迎え撃った。当然ながら、グレートタイフーンのほうが風速で勝るので、ハルトマンは固有魔法を無効化され、更にストライカーの推進力ではグレートタイフーンに抗えず、吹き飛ばされる。
「うわああああっ!?」
『おっと、強すぎたか。フィンガーネット!』
黒江は空中元素固定でバトロイドサイズのフィンガーネットを作り、投網でハルトマンBを捕まえる。
「こんなのあり~…?ロボットにもなれる飛行機なんて」
『ま、見かけでモノを判断すんなってことさ』
ふてくされるハルトマンBだが、黒江は冷静である。ハルトマンの固有魔法にも対抗手段をとり得るというのは、501側を驚かせたが。
「うぇ!?何だあれ!人型にもなれんのか!?」
『これでひとまず、一回戦は俺の勝ちだな。シャーリー、お前もここじゃ別の愛用してるぜ?……お、来たか』
『よう。スクランブルだけど、模擬戦してるって聞いたんで、挨拶しに来た』
「ここじゃ、そんなの動かしてんのか、あたし!?」
飛来した紅蓮聖天八極式の改良型。エナジーウイングを広げ、飛翔する姿、特徴的な右腕など、多少の異形感を感じさせる姿など、B世界からすれば、まさに衝撃である。
『とり得る手段は多いほーがいいだろ?第二世代ストライカーは整備に手間がかかるかんな』
「リベリアン、スクランブルとは?」
『なーに、単に他の部隊が重爆迎撃をしくじっただけだ。新京を爆撃されるわけにはいかねーからな。じゃあな~』
紅蓮聖天八極式・改は瞬く間に飛び去る。エナジーウイングのメリットはそこだ。(それをも超えるのがゲッターバトルウイングなどだ)
「幾何学的な軌跡で飛んでいった……。黒江、お前、どういう世界から入手した?」
『色々な要因で普通に行けば、一万年かかる発達を十数年でモノにした世界さ。シャーリーのあれ一機で下手な一個航空隊より戦果を出せる。人型兵器はそういう目的で造られたからな』
この時期、黒江はグレートカイザーへの搭乗を炎ジュンから打診され、ジュンの懇願に折れる形で引き受けたものの、魔神皇帝は通常のマジンガーよりも遥かにG耐性と精神力を必要とするため、流石の黒江でも、体作りと搭乗のための訓練に一ヶ月を要するわけである。態度と口には出さないが、相応に努力を重ねる性格なので、そこを知る者には慕われるのである。ウィッチは他兵科を見下し、整備兵にも傲慢不遜な振る舞いをする者も多いが、黒江は他世界でパイロットをした経験から、整備兵を大切にする。その考えはGウィッチの間で共有されており、ミーナの覚醒以前の時期に501の整備兵の不満が密告まで表面化しなかった理由ともなっている。坂本Bは黒江の乗機を見て、あることを思い出していた。
――この前の日、坂本BはAに『どうして、他部隊の練度を犠牲にしてまで、過剰までに熟練ウィッチを一部隊に集めたのか』と質問した。64Fは常識的にありえないほどに熟練ウィッチが集まっていたからだ。――
「源田さんの着想だ。あの人は主張が一貫せんから、人物としては好きではないが、仕事に人の好き嫌いは関係ないからな」
源田実を坂本は『好ましくない人物』とは見ていたが、仕事上は彼に仕える立場である。人物として好きでないにしろ、仕事自体は優秀だからだ。現・64Fの原型に当たる『海軍第343航空隊』の原案者であり、司令であったのは有名な話だ。
「お前はどうして、彼に協力した?」
「戦局の悪化もあるが、現役復帰した黒江達を更に束ねられるカリスマ性を持つ者がいなかったんでな。黒江と親しい彼に協力することにしたのさ。海軍で彼へ陰口が多いのは知っていたしな」
坂本Aは現・64Fの設立が内々で決まった段階で前身部隊を含め、海軍系の人材の選抜に協力した。志賀に反発され、部隊を飛び出されたため、彼女の担うはずの飛行長の任務を引き受けざるを得なくなり、出戻りになった。その事は坂本と源田の顔に泥を塗る形になったため、その事情に同情した若本が配下の部隊ごと協力したわけだ。64Fのメンバーに事変経験者が多く、1945年当時に既に高年齢のウィッチが多いのは、七勇士伝説を信奉する世代の者が選抜に応じた関係である。また、通常兵器も普通に使う都合上、一部の例外を除いて、あまりに若手すぎると今度はその教育に手間がかかるので、要員教育が激しく簡略化される前の世代が適当とされたのも、1945年当時の時点で高齢のウィッチが多くなった理由である。(激戦地経験者であれば、45年時点で若くても、後に64Fで幹部に出世したケースもある。セラがその代表例だ)
「志賀に飛び出されたんで、その責任を取る形で部隊に戻ったというべきだがな」
坂本Aは志賀の穴埋めで64Fに戻り、1949年時点でも、64F飛行長が本業と化している。若本が坂本に協力したのは、空母の管制官の辞令を受け取っていたのに、実際は64Fの管制官であることに同情したからだ。若本自身もダイ・アナザー・デイ以降はちょくちょく、64Fに顔を出しており、坂本の親友ポジをアピールしている。(42年以降は西沢に親友ポジを奪われた感が強いため、最近は幼馴染をアピールしている。)空軍は徐々に海軍航空分野をも掌握し、航空分野での統合が押し進められるが、心的にはまだまだであり、坂本と若本は空海の仲介の点でも後世に名を残すことになるが、坂本の残留の理由の半分はそれだったりする。
「私は魔力を残して引退した後は教官もしてみたが、向いてないからなー。半年で辞した。その後は空母の管制官になったが、今では陸に上がっとる」
笑い飛ばす坂本Aだが、坂本は基本世界でも501を辞した後、連合軍の幕僚になっている事が確認されており、その因果は多少なりとも自分の人生に影響を及ぼしていると自嘲気味である。とは言え、Aは魔力があり、その気になれば現役続行も容易であるが、ダイ・アナザー・デイを最後に引退宣言をしている。そこは基本世界で芳佳を実質的に(芳佳が望んだにしろ)自分の巻き添えにしてしまう経緯を鑑みての結論である。
「お前、何故、私から烈風丸を?」
「あんなものに頼って戦うよりは、穏やかに引退したほうがいい。お前はこのままいけば、宮藤を巻き添えにしてしまう。結果オーライとは言え…な」
「それは結果論じゃないのか?」
「だとしても、あいつの魔力を一度はすっからかんにした原因と陰口は叩かれる。宮藤博士の墓前になんと説明するつもりだ?」
「……」
「これ以上は言わんが、そういう結末に至る世界がある事は伝えておくぞ」
「お前……一度死した後に現世に舞い戻ったというが……彼に?」
「……そうだ。黄泉の国でな」
坂本Aは転生までの期間、黄泉の国で宮藤博士に再会した事を肯定した。その時に宮藤博士は『君がやり直したい事は何かね?』と問い、坂本Aは『友への裏切りを悔いているのです』と答えた。坂本Aが今回の人生を黒江のために費やしてきた理由は前世での悔いなのである。その面はGウィッチでも異色である。
「その時、私は博士に『友のために現世へ舞い戻る』事を話し、博士は背中を押してくださった。それで、私はここにいる。四年前で引退したのは、『二度目』だからだ。もっとも、私以上に転生を重ねた者はウチには多いがな」
「なにぃ!?」
「黄泉の国は退屈だし、ご先祖様達に気を使わんといかんし…その、息が詰まってな」
黄泉の国で先祖たちにこき使われたらしく、現世に戻ったともいう。黒江も黄泉の国にいる期間は『武士の時代のカタブツ』の曾祖母に頭を下げる日々だったが、相当に嫌だったと語っているため、黄泉の国で先祖に会うのも良し悪しという事の表れだろう。(現在は覚醒したエイトセンシズで冥界に生きたまま出入りできるため、夏に現世から土産を持っていくのが通例という)
「黒江は生きたままで冥界に行けるからな。それで毎年のお盆前には先祖にお供えしてるとか?」
「妙にげんなりする光景だな…」
「やり直すということはそういう要素も孕んでいるということさ。だから、私たち『G』と呼ばれる者は精神的には年寄りと思ってくれ」
大笑する坂本A。前世で黒江を裏切った形で人生を終えた事を悔いとし、舞い戻った。それを教え、その上で精神的には老人に近いとも自嘲する。
「黒江はあまり変わらんが…むしろ、心は若返ってるぞ?」
「あいつもやんちゃしたかったんだ、察してやれ」
黒江のメンタルの基本が10代半ば程度と若返っている理由の一つを知っているので、そこはそう言った。黒江は『俺はガキの頃から、大人びた外見で損をしてきた』と、いつもぼやいていたからだ。
「穴拭はまだ分かる。……が、加東はなぜ、あんな兵隊やくざなんだ…?」
「あいつは色々とあってな。今回に『会った時』にはあの性格と振る舞いだった。詳しくは言えんが、母性あると言われるのに飽き飽きしていてな、あいつ」
「それだけで、ああなるのか?子供たちが泣いたんだが…?」
「本人がそういっとるからな…」
そこは苦笑交じりだが、圭子の変容は一番に紆余曲折がある上、ゲッターの意思にも関係してくるので、Bには詳しく言えないのだ。圭子はダイ・アナザー・デイ以降、非番時はタンクトップとホットパンツ姿であり、B世界では破廉恥と言われるような格好である。二丁拳銃使い、性格がウルトラ短気でもあるため、事変当時は『扶桑陸軍の狂気』、『フソウのガンクレイジー』との異名を与えられた。その異名が風化した後の時代には『血まみれの処刑人』と評されるなど、A世界の圭子はとかく『過激な性格の戦闘狂』として知られたため、それを知らなかったミーナの評判が下がってしまったのはしかたないところだ。B世界の桂子が穏やかな性格であるのと対極にいるようだが、仲間への面倒見の良いところは残っているので、元から姉御肌とも取れる。
「あいつは口は過激だが、意外に面倒見の良いところはある。だから、将官にまで出世出来たんだ」
「あんな兵隊やくざが将官なぁ……」
坂本BはAと違い、質実剛健を信条にした古いタイプの『魔女』である事から、圭子を『兵隊やくざ』と評する。とは言え、A世界では『破天荒な人柄』が好まれるため、圭子も式典の時などの時以外は重要な場面以外は素を出している。赤松を『姉御』と呼び、頭が上がらないなどの意外な側面も併せ、A世界では人気者である。(圭子がそれを望んだ面もある)
「あいつ、サイドアームは外国産を早いうちから使ってな。ベレッタを事変時から愛用している」
「拳銃は個人の裁量で用意するものだしな」
「国産の九四式は不評だから、ウィッチは外国産を使うだろ?」
「外国勤務の時はな」
「黒江もベルギカ(ベルギー)のブローニング・ハイパワーやM1911を使っていたが、今はシグのモデルを仕事で使うとも言っとる。国産の自動拳銃は精度がな」
扶桑ウィッチは国産の拳銃よりも実績がある外国産を好む傾向が強いが、陸軍では特に顕著であり、黒江たちも『個人購入の軍装品』の規則を使う形で実績がある外国産拳銃を調達した。特に圭子はベレッタを扶桑で流行らせた実績を持つなど、それ関連の逸話も多い。その一方で、のび太の影響か、七勇士はS&W M27を事変当時に緊急時などに使い、ダイ・アナザー・デイではS&W M29を予備に、スターム・ルガー スーパー・レッドホークをリボルバーでは常用したという面もある。のび太のアドバイスによるもので、のび太は『スーパー・レッドホークのほうが荒く使えていいよ』と教え、坂本Aも持っている。
「私はちょっと前、ある友人に薦められて、リボルバーも護身用に買ってな」
「ん?M27か?」
「いや、新興のメーカーの後発品だが、こちらのほうが荒く使えると言われてな」
B世界の時間軸では『スタームルガー社』はまだ存在しないため、単に新興メーカーとぼかす。坂本はのび太に薦められ、引退後の護身用にとスーパー・レッドホークを購入。454カスール弾仕様で愛用している。(坂本は引退後は銃器を使うようになっている)ウィッチとしての魔力が残っている(実際は全盛期のままだが、公にはしていない)ため、同仕様を片手で撃てる。また、若本から『オートマグ』を借りて使った事もあり、その時に片手でオートマグを使ったため、日本のファンから『鉄のミオ』なる渾名がついた事もあるとか。
「サーシャ大尉の例もあるからと、暴徒対策で持っとるところもあるが、猛獣撃退などでも使える」
坂本AはBに真新しいスーパーレッドホークを見せる。まだ購入から時間がそれほど経ってないため、ほぼ新品だ。シルバーに輝くステンレスの本体はロングバレル仕様なのもあり、『ハッタリ』が効いている。
「しかし、引退したとは言え、マグナム弾は人には過剰ではないか?」
「ボディアーマーが持ち込まれてるから、それを貫通しえるとなるとな。暴徒も過激になってきたから、仕方ないさ。サーシャ大尉の事件の事を考えれば…」
A世界のウィッチの間では、サーシャの直面した悲劇の後は護身用拳銃も必然的に大口径が流行った。また、ボディアーマーが持ち込まれているので、その対策も兼ねている。坂本Aもウィッチの評判がクーデターで下がった時代、小口径銃だけで町を出歩くのは不安であると漏らし、黒江のツテでのび太を紹介され、のび太に購入してもらったのがスーパーレッドホークだ。(扶桑では拳銃は一般人も持つため)複雑な心境の坂本Bだが、A世界の状況を考え、納得するのであった。