ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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※今回は170話の続きです。なお、登場人物は月読調(戦姫絶唱シンフォギアシリーズ)と戦姫絶唱シンフォギアの主人公『立花響』が変身した形で登場しているキュアグレース(ヒーリングっどプリキュア)のみになっています。


第百七十四話「~行間 プリキュア、そしてとある世界の記録~9」

――Gウィッチは基本的に10代後半で肉体の成長(老化)は止まる。調の場合は黒江の半同位体化した時点でそれになった。その関係で、2021年時点でも外見が変わらないのである。精神的には歳を重ねてても、だ――

 

 

 

 

 

 

――2021年――

 

「良いのかなぁ、この姿で上がりこんで」

 

「いいんですよ、私もこの格好ですから」

 

立花響は別名義として、『花寺のどか』名の戸籍を与えられ、キュアグレースとしての活動の大義名分を得た。この頃には和解済みであるため、会話は穏やかである。響はグレースの姿だ。

 

「プリキュアになったのはいいんだけど、マリアさんとクリスちゃんに悪いなぁ。ここ数年の騒動はあたしのせいでもあるし」

 

「私も子供じみてましたし、お互い様ですよ」

 

「でもさ、どうして第七感に覚醒めたくらいでシンフォギアの適合率が?」

 

「多分、師匠と感応したことで私自身の因果から切り離された結果でしょうね」

 

「別の調ちゃん自身が見たら?」

 

「間違いなくひっくり返りますよ。前に二つの並行世界に行ったんですけど、どこでも自分自身に妬まれました」

 

「そりゃ……。機動兵器にも乗れて、シンフォギアの装着時間に制限が無いんじゃね」

 

「宝具使わなくても、普通に空中元素固定で武器を造れますのもあれですから。参りましたよ。自分に決闘を申し込まれた時は」

 

「どうしたの?」

 

「返り討ちにしました。自分自身ですから、手の内はわかってますからね。それとパワーも師匠と同じくらいですから、別の私自身くらいは軽~く持ち上げられます」

 

「え~!?」

 

「サイコキネシス使えば、遠隔で持ち上げられますけどね」

 

「なにそれ~!」

 

「でも、いいじゃないですか。響さんはプリキュアですよ、プリキュア。しかも現行の」

 

現行のプリキュアというのは凄いセールスポイントだが、変身者が立花響なのは伏せられている。黒江曰く、『主人公補正が強すぎるぞって、変なクレームが付くぞ』との事だからだ。芳佳がウィッチとして最強レベルの魔力を持ちながら、キュアハッピーであることが知れ渡ると、その方面のクレームがついたという珍妙な事態は当の芳佳を困惑させている。

 

「でも、この力に覚醒めたは良いんだけど、昔と感覚違うんだよね。単独で変身できるし」

 

「それは多分、転生したプリキュアの全員が思ってることだと思いますよ、その類のは。私も小宇宙に覚醒めて、シュルシャガナの真の姿を顕現させてからは、シンフォギアを纏うことでの負担を完全に気にしないで良くなりましたから」

 

「あの炎剣が本当の?」

 

「ええ。『万海焼き払う暁の地平(シュルシャガナ)』。私はそれにエクスカリバーを上乗せできるんです。私はそれをエクスカリバー・フランベルクと呼んでます。最も、炎剣の使い手は他にもいますけどね。あ、翼さん以外で、ね」

 

キュアスカーレットとキュアエースの二人がそれに該当するが、キュアエースのほうが炎剣の扱いに長ける事から、黒江はキュアエースには前々から『灼眼のシャナ』が同位体にいるか、その転生体か?という推測を立てている。

 

「翼さん、綾香さんが雷槌を操れるから、いた時はよく突っかかってさ」

 

「だいたい想像つきます」

 

「師匠くらいだったよ、互角に戦えるの」

 

「司令は人間超えてますね…」

 

「逆にこっちが驚いたよ。ほら…」

 

「私の姿で固定されてたとは言え、能力に制限はかけられてなかった以上は当然ですね、師匠は黄金聖闘士ですから」

 

「逆に、綾香さんがあれこれ動いたから、歴史が変わったんだよね?」

 

「ええ。というより、老師・童虎が光明結社を表立って動く前に廬山百龍覇で皆殺しにした事が決定打ですね。サンジェルマン達と出会うフラグがないし、翼さんのお祖父さん(正確には父親)も乙女座のシャカに廃人にされてますから、そもそも、AXZとXVの物語のフラグは折れてます。キャロルの復活の要素もないです。平行世界を考えるに、疑似人格として蘇る可能性も無くはないけれど」

 

「それと。どうして、別の世界じゃ、ガングニールの力が…?」

 

「ロンギヌスの持つ『神殺し』の因果が、シンフォギアのある世界との『繋がりのない世界』じゃガングニールから切り離されるから……でしょうね。その辺は分かりませんけど、ロンギヌスとグングニルは別の槍ですからね、本来は。とは言え、プリキュアの力を変質させるくらいには、貴方の『想いのチカラ』は強力です。ヒーリングっど・プリキュアは本来、初期メンバーではステッキが必須アイテムのはずですから」

 

立花響の想いがプリキュアの力を変質させたのか、ヒーリングステッキを持っていなくても変身が維持できているキュアグレース。その兼ね合いでアニメとの差異が大きいと言える。また、最初から『ヒーリングっどアロー』を召喚できるなど、立花響の実戦経験度に合わせてか、能力が最初から強化されている。これは響の心情を反映したものだろう。修行と怒りなどで純粋に力を高めたキュアドリームとは対照的であった。

 

「どういうことなんだろう、これ」

 

「貴方のガングニールへの強い思いがプリキュアの因子を変質・強化させたとしか。明らかに、現役当時より強くなってますよ?特性もキュアアースに近くなってますよ?」

 

「そうかなぁ?」

 

「現行のプリキュア故の特権でしょうね」

 

首を傾げるキュアグレース。とは言え、現役当時の能力値では敵に太刀打ちできないので、修行を繰り返して能力を上げていった歴代の先輩たちに比べると、『現行プリキュア』の特権がだいぶ働いている。ドリームは『人気はあれど、三代目である故か、苦労が多かった』のとは対照的だ。心を折られかけつつも、怒りと悲しみと想いの光をキーに『エターニティドリーム』へと覚醒を遂げたので、それに比べて『現行の特権』が強く働いていると感じる調。当代現役のプリキュアは『想いの力の恩恵を、現役を退いたプリキュア達より強く受けられる』という話があるが、それは多くの戦いで実証されてきている。調はそこはドリームに同情してしまう。ドリームが前世で病んでいった要因の一つが『皆に忘れられていく恐怖』だからだ。

 

「現行のプリキュア。これはかなり強い恩恵ですから。ジュース、取ってきましょうか?」

 

「お願い。うーん。自分で望んだわけじゃないけど、この力を得た以上は付き合っていくよ。前世で私を病気から自由にしてくれた力だもん」

 

「それがいいですよ。超常的な力は本人が望んで手に入れられるわけじゃないですからね。あなたが三例目ですよ。超常的な力を二つ以上持つプリキュアは」

 

「三例目?」

 

「フェイトさんのお姉さんですよ。魔法とプリキュア(魔法と関係のない)の力を両立してますからね。それと芳佳さん。あの人は最高レベルの魔力を持ちながらも、プリキュアです」

 

グレース(立花響)はシンフォギアとプリキュアの二つの力を持つ点で、その二人と並び称されていくことは確実だろう。

 

「調ちゃんは騎士だっけ」

 

「ええ。昔は、ね。今は正規軍人です。多くの世界での私とは道は分かれたけれど、これも一つの結果です。切ちゃんと別の生き方を選んだから、平行世界の自分には必ず絡まれるけれど、共依存でない生き方をしてみたかったんですよ」

 

「大人になったね…」

 

「精神年齢はそろそろ三十路ですから。肉体は若くても、心は過ごした年月相応になる。これが私達『G』に課せられた宿命です」

 

「その割には気が若い人多いけど…?」

 

「姿相応の振る舞いはしてみせないと、ね」

 

転生で死を乗り越えた英雄たちに課せられた宿命は『世界を脅かす何かと戦い、世界を守護すること』とする山本五十六の推測。元から英雄であった者でなくても、プリキュアやウィッチなどを経験し、世界を救ってきた者は神がその魂を維持させたままで輪廻転生させやすい。これはオリンポスの神々の実在で実証された。そして、のび太のように偉大な人物は運命の女神が特に気に入る。自分もそうなってしまった自覚があるからこそ、SONGを最終的には抜ける選択を取ったのだ。

 

「私達の世界は多分、カストディアンの復活も起きないだろうから、いずれ平和になる。問題はその後。国連に戦争抑止力として自由に用いられるのは司令も本意じゃないでしょうし、平和になったらなったらで、シンフォギアの力は揉め事のもとになる。だからこそ、師匠の誘いに乗ったんです。国連への名目も立つし、当面はSONGに手を出させない理由にもなる。私や響さんは多分、これからは戦う事が宿命になるでしょう。翼さんやクリス先輩、マリア、未来さんはこれから、私達の領域に近づこうとするでしょう」

 

「なんでなの?」

 

「あなたや私を一人にしないために。だけど、相応に苦難を乗り越えないと、そんな奇跡は都合よく起きない。私は多分、記憶にない両親が今際に願っていた事が師匠との感応で叶えられた結果でしょうし」

 

「調ちゃん、分かったの?」

 

「憶測の域を出てないんですが、私は多分、月読神社の宮司さんが言っていた『幼い頃に息子夫婦と共に死んだ』ってされてる孫娘です。わかりはしたけど、今更、名乗れはしないし、自分が本当にそうである確証もない。のび太に調べてもらって、それが分かったのが精一杯なんです」

 

調は元の世界における月読神社の当代の宮司の孫娘だと思われる事を掴んだが、確証もない上に今更、宮司に名乗る資格はないと考えているために、今の生活を続けていく事を選んだ。とは言え、宮司側もそれとなく調を『息子夫婦の忘れ形見』と見抜いていた。のび太はその彼の心情を汲む形で、調を単なる住み込みの家政婦ではなく、『家族』と扱う事を子孫達に伝えていく。

 

「名乗ったところで、あのおじいさんの悲しみが完全に癒えるわけでもないし、本来、日本で過ごすはずだった私の十数年が戻るわけでもない。それに、今ある私を否定はできない。お互いに納得して別れました。ただ、両親の墓の場所は聞いておきましたから、墓参りにはいきますよ」

 

調の今の名はあくまで、ナスターシャ教授が便宜的に名付けた仮名。本当の名が別にある。母の名字は『南條』であったらしい事は判明している。宮司も孫娘の名は明かしていないので、のび太もあまり突っ込まなかったが、少なくとも『南條』を名字にしていた可能性があることは分かった。なんとも言えないが、自分の本当の名前はなんなのか?それはあまり気にせずに生きていくと語る。

 

「調ちゃん…」

 

「私は多くの世界での因果から解き放たれてます。貴方はその逆に『キュアグレース』としての因果に取り込まれた。お互いに、何かしらの因果からは逃れられないって事ですよ」

 

そこでジュースを渡す。

 

「子供たちの夢も守る必要があるってのは……きついね」

 

「貴方の60人を超える先輩達もそう思ってますよ。彼女たちに負けは許されない。仮面ライダー達でさえも一敗地に塗れる事はあるってのに」

 

「難儀だねぇ…」

 

「私の場合は個人がいくら頑張っても、どうしようもなかったケースですけどね」

 

プリキュアは子供の夢が形になったような存在。中高生は小学生以下の子供にとっては『大人』である。それ故に敗北は許されない。それがのぞみの前世での足枷となり、成人後の人生を狂わせた。調も個人の力ではどうしようもなかった経緯を味わったため、どこか達観しつつも、運命に抗う意志を持つ。その結果がのび太と暮らす事なのだろう。

 

「貴方がその力をどう使い、どう受け入れるかは勝手ですけど、これだけは覚えていてください。力が欲しくても、どう頑張っても無理だって思い知らされる人の無力感からすれば、羨ましいことこの上ないんです。貴方はそれを考えるべきです。そうでないと、別の世界のように揉めますよ?」

 

「……手厳しいね」

 

「別の世界の自分が貴方に食ってかかる場面を何回か見れば、ね」

 

 

「切歌ちゃんもどうして、聖闘士になったの?」

 

「惑星ゾラっていう別の惑星に師匠が修行に行かせた時にある人に出会ったそうです。その人の生き様に感動した後に、私と並び立つために門戸を叩いたんです」

 

切歌はデザリアム戦役前後の時期に聖闘士になっている。その過程をぼかして説明する。熱気バサラという男の事は一言では語れないからだ。

 

「それと、貴方も見たでしょう?亡国の軍人になったけれど、立場なりに死に花を咲かせていったジオン残党の事は」

 

「どうして、あの人たちは死んでいったの?」

 

「残党は戦犯扱いされる事が確実な人たちも多いんですよ。旧日本軍の生き残りみたいに『終戦を知らなかった』じゃ言い訳じゃ説明つかないくらいに戦い続けた。だから、あの戦いで死ぬことを選んだんです。アナベル・ガトーのように」

 

ガトーは最後の最後で『サイド3を守るため』、サザビーのOT用仕様(サイコミュシステムとファンネルを省いた指揮官用の増加生産機)で暗黒星団帝国の巨大戦艦に特攻し、死に花を咲かせた。ガトーも自分が戦犯になる条件が整っている事を自覚していたのだ。生きて捕虜になり、ジオン共和国の手で戦犯として裁かれるよりは『光栄あるジオン公国の軍人』としての死に花を選んだ。それがガトーなりの故郷への禊であった。

 

「だから、私達は守っていくんですよ。それがあの世界の一年戦争から死んでいった人たちへの生き残った者達の責務です」

 

ジオン残党は最後の最後で矜持を示して散っていった。タウ・リンに利用されて散っていく中でも。それがジオン・ダイクンから生まれた『ジオン』という存在が咲かせた最後の花である。歴史的意義を果たし、その役割を終え、消えていく中で発した残光。MS-06(ザクⅡ)系統が使われた最後の戦争がデザリアム戦役なのだ。

 

「どうして、死に急いでいったんだろう…」

 

「昔の日本軍やドイツ軍の軍人がそうだったように、生き残ったなりの苦悩もあるんですよ。日本軍の若手パイロットに『一度でいいから、勝ち戦をしてみたかった』って考えてる人が多かったように」

 

ドイツ軍は強力な陸軍があった都合、最末期になっても善戦した記録があるが、日本軍は44年以降は急速に全ての分野で衰弱したため、大規模航空戦では敗北の記録が目立つ。その悔恨がダイ・アナザー・デイでの大量の義勇兵の志願に繋がった。そして、『軍人に優しい』扶桑に定住する事が多いのも、日本の旧軍人への冷淡さの証明であった。それはジオン共和国の公国軍残党への扱いも同様である。そのため、ジオン残党は死に花を咲かせようとし、利用されている事に気づいていながら、その多くが敢えて散っていった。キュアグレース(立花響)には理解し難いが、それが彼らの選択なのだ。

 

「その決意の証がマジンガーZやグレートマジンガーなの?」

 

「そうなります。だけど、スーパーロボットはあくまで戦略兵器。普通は戦域に一機あればいいんですけど、最近はMSやVFじゃどうにもできない敵が多いんで、組織的運用も当たり前です」

 

ジオンや各勢力の巨大機動兵器はMSやVFの大半では歯が立たない場合が多いので、スーパーロボットは重宝される。ジオン系だけでも『グラン・ジオング』、『クイン・マンサ』などの巨大機動兵器が持ち出され、地球連邦の月面方面軍の機動戦力の七割を倒すという大損害を与えられているからだ。連邦軍がツインサテライトキャノンの開発を急いだのも、連邦に敵対する勢力の巨大兵器対策が理由だ。

 

「目下の敵はプロフェッサー・ランドウが生み出した悪のゲッター『ゲッターデーモン』ですね」

 

「ゲッター……デーモン…?」

 

「あの戦いで貴方も見た『守護聖竜ウザーラ』、『デビラ・ムウ』、『無敵戦艦ダイ』。それを模したゲットマシンが合体して生まれる巨大ゲッター。その力は強大で、それぞれの単独を大きく上回ります」

 

プロフェッサー・ランドウが宣戦布告の際に見せたゲッターデーモン。その力は最終兵器と言われたそれぞれの元になった兵器を大きく上回るもので、武器一つで23世紀のシカゴを軽く消し飛ばしている。64Fの百鬼帝国に代わる主敵の一つが『プロフェッサー・ランドウの軍団』なのだ。

 

「あの3つをかけ合わせたゲッターロボ……あの人はどういう人だったの?」

 

「プロフェッサー・ランドウ。Dr.ヘルや兜十蔵博士の後輩で、Dr.ヘルと同じゼミにいたそうです。ゲッター線科学に魅入られた一人だったようですが、あの風貌の通りにイカれた研究をしまくって学会を追放された挙句の果てに百鬼帝国に拾われて、グラー博士の下で研究をしていた。それは彼にとって隠れ蓑だったようで、真ゲッタードラゴンがブライ大帝を倒した後に頃合いと見て、宣戦布告に踏み切ったそうです」

 

『イカれた研究』とは、ゲッター線による人間の強制進化である。大半が失敗したというが、一体のみ成功作がおり、超能力を持ったそのミュータントを『ナルキス』と呼び、歪んだ愛情を注いでいる。ランドウの宣戦布告の際に傍らにいた側近らしき美少年がナルキスだ。

 

「彼が百鬼帝国に代わる、私達の敵です。それと、恐竜帝国も復讐を目論んでる。敵はナチス・ドイツ残党に限らないって事です」

 

調はキュアグレースに『新たな脅威』を語る。一人のマッドサイエンティストが比較的に短期間で強大な戦力を持ててしまう23世紀の世界は地球連邦の治安維持力が戦乱で大きく低下した事の表れであり、ジオンが撒き散らした災厄の落し子と言えた。

 

「調ちゃんたちがメインで活動してる、あの世界はなんなの?」

 

「ドラえもんを生み出した文明社会が戦争で崩壊した後に再構築された秩序が綻んできた世界です。文明そのものが変質してますから。一年戦争のことを今度、教えますよ」

 

野比家のリビングには必要な家具以外には目立ったモノは置かれていないが、ノビスケの部屋には『有名サッカー選手のサインボール』やガンプラが飾られているし、のび太の私室には整備中の銃が机に無造作に置かれたままであるし、宇宙戦艦ヤマトの大模型が棚に飾られている。贅沢な事に、『潰れたレンタルビデオ店から引き取った』DVDラックを夫婦別に持つため、マンションの何室かはDVDやBRを保管するための場所に改装されている。その中には芳佳が自費で買い揃えた『プリキュアシリーズ』の映像ソフトもあり、時代的に実家には置けないし、南洋の自宅に置くにはかさばりすぎるというので、野比家が引き取ったのである。

 

「宅配便でーす」

 

「はーい」

 

「ちょっと出てきます」

 

宅配便の応対をする調。荷物は大型。送り主は某ショッピングサイトで、のび太の名と金額から、趣味のプラモデルであるらしい。

 

「ダンボールを捨てたいんで、開けますね」

 

「いいの?」

 

「金額的に、のび太の趣味のプラモデルだと思うんで」

 

開けてみると、のび太が購入したガンプラや戦闘機、艦艇模型などが入っていた。

 

「実物見てるし、動かしてるのに、ガンプラとか買うものかなぁ……」

 

「横浜にRX-78の実物大が建てられたでしょう?男の子はそういうもんですよ」

 

のび太の趣味はジェガン、Zプラス、νガンダムなどのようで、大人になってからはそこそこのプラモ作りの技能に至ったのがわかる。キュアグレースは実物があるのに模型を買う事に首をかしげるが、のび太との長年の付き合いで、男性の趣味に理解ができたと思わせる口ぶりを見せる調だった。

 

 

 

 

 

 

 

――ウィッチ世界は織田家がそのまま天下統一に成功した世界である。それが明らかになった後、日本で明智光秀の評価が下落した感もあるが、信長のウィッチ世界での評価も同時に下落した。信長の負の面が伝わったためだ。『森蘭丸の末裔』である稲垣真美としては心を痛める案件だった。とは言え、ウィッチ世界の織田信長は若き日の想いを蘭丸のおかげで維持できたため、他の並行世界の彼自身より純粋であり続けたので、日本での信長象とはかけ離れている。日本の織田信長や豊臣秀吉の外征志向を否定したい一派と、扶桑の『織田政権だったから、生存圏を確保できた』とする考えは相容れず、それが双方にとっての火種になっていた。しかし、ドイツが似た考えでカールスラントを衰弱させてしまうと、日本は扶桑の治安の悪化と軍部の暴走を恐れたのと、世界的な疫病の流行で興味を無くし、自衛官を統合参謀本部に派遣する、Gフォースの指揮権を黒江に一任するなどの施策をした後はほぼ無関心化した。そこを黒江は突いたわけだ。扶桑の戦力立て直しは1948年冬から本格的に着手され、年が明けた頃にはコンバットアーマーの生産が軌道に乗り初めている。とは言え、艦上戦闘機の更新ペースは空母の関係で一旦は落ち着いている。新型機が載せられる国産空母がないのが最大の理由だ。当時、ミッドウェイやフォレスタル級航空母艦などに相当する空母の開発はようやく大きさの寸法が決まったが、建造期間の長期化と生産数の低下は免れない。それを察していた空軍は宇宙艦艇で不足を補うというウルトラCで対応。空母を『輸送機』、戦艦などの戦闘艦艇を『ガンシップ』名目で調達。64Fに回していた。ザンスカール帝国残党がが襲ってくる頃には、地球連邦軍の地球軌道艦隊の定数を満たすほどに規模を拡大していた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――話は戻って、のび太宛の宅配便を片付けた後――

 

「ふう。運び終えたぁ~…。あのさ、向こうの世界に来てる別の私達(シンフォギア装者)は何番目に確認された世界から?」

 

「四番目の世界ですね。便宜的に『D世界』って呼ぶことにしてます。概ね、史実通りの世界らしいんですけど、平行世界を渡る聖遺物が作動して繋がったって言ってます。概ね、史実通りに事が運んだ世界の出身みたいで、応対はみらいさんや私が担当してます。それと、事情はまだ明かしてません。色々と説明がややこしい上に、毎度のことですけど、切ちゃんと暮らしてない事で二人に……」」

 

「た、大変だね…」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

その一言でだいたい察したキュアグレース。別の立花響のことは遠目にしか見れていないが、目立った差異はない。どこぞの平行世界のように、ある時点から歴史が分岐したわけではないからである。ただし、自分と切歌は『別々に暮らしている』という説明に食ってかかってきたと明確にするあたり、かなり面倒くさいことになったのが分かる。

 

「事情はだいたい分かってくれたんですけど、私自身が拗ねちゃって」

 

「分かるなぁ。今は別々に暮らしてる上に、のび太くんのところに厄介になってるわけだし」

 

「それと、やっぱり、ポテンシャルの差が……」

 

「大抵の場合は切歌ちゃんと一緒に戦うことが前提で、単独だと……。それと限界時間が」

 

「ええ。私にはシンフォギアを使う上での限界時間は無くなりましたから。それにシュルシャガナを炎剣の姿で使えるから、余計に拗ねられちゃって」

 

「写真は見せた?」

 

「心象変化もない状態で家事とかしてる写真見せましたよ。向こうの私達がひっくり返ってました。それと、地球連邦大学にギア姿で通ってる時に撮った写真も。泡吹いてましたよ、マリアに切ちゃん」

 

「だよねぇ」

 

「戦闘や人命救助用途以外でギア使うのはご法度ですからね、本当は。それに、箒さんやフェイトさんも普通に使えるから、色々質問攻めに逢いました。それと、プリキュアについても」

 

「普通に強いからねぇ、プリキュアは」

 

「シンフォギアが恒常的に発揮できるポテンシャルには限界があるけれど、咲さんやのぞみさん達にはその限界がなくなってる。それでリスクもないから、みんな複雑そうでした」

 

「翼さんは奏さんを、マリアさんはセレナちゃんを亡くしてるしね。あまりに差がありすぎるんだよなぁ。リスクも無しに必殺技を使えるのは」

 

「それもそうですけど、普通にみんな戦闘慣れしてるんですよ。比較的に戦闘向きのプリキュアじゃないと思ういちかさんでも、ここ数年、クリス先輩に模擬戦で負けてませんよ」

 

「えぇ!?」

 

雪音クリスAはここ数年、宇佐美いちかにも一勝すらできないと落ち込んでいる。仕方ないが、いちかも『キラキラプリキュアアラモード』として百戦錬磨を誇るので、いざ戦闘になれば、先輩後輩に引けを取らない。それをキュアグレース(立花響A)に教える調。

 

「翼さんとマリアでも、ドリームとブライトのコンビには勝ててないですから。でも、これは単純に場数の差と相性かな?」

 

「そういえば、プリキュアって世代を超えたコンビってあるの?」

 

「二世代から三世代くらい跨ってのコンビは割に多いそうです。メロディとピーチ、ドリームとブライト、ラブリーとホイップとか」

 

そのうち、コンビとして完成されているのはピーチとメロディで、特性も気質も似ている事から、オールスターズではコンビ扱いが定着している。

 

「同じチームで組むのはいくらでも機会あるって事で、今は世代超えコンビを試してるそうです。隊長による発案です」

 

「あの隊長さん(武子のこと)、どういう人なの?」

 

「加藤隼戦闘隊の隊長の同位体で、扶桑歴代屈指の撃墜王。二つ名持ちなんで、相当に上位です」

 

「二つ名って、サムライとか、魔王とか?」

 

「ええ、それです。たいていは広報が大衆向けのイメージ戦略の一環でつける場合が多いんですけど、隊長は戦場での評判で二つ名を得た猛者です。師匠も智子さんも、ケイさんも二つ名持ちの撃墜王。それでいて、普通に体術も極めてるんで、師匠が動いただけで、色々と流れが変わったでしょう?そういうことです」

 

「こういっちゃなんだけど、シンフォギア使ってた事もあってさ、軍人や自衛官に強いイメージないんだよね。師匠は人間超えてるから別枠としても、普通に私達を意に介さないくらいに強いのは…」

 

「ええ。ウチの隊の上級幹部は黄金聖闘士、あるいはそれに伍する実力者の集まりなんです。司令が師匠たちと戦えるのが不思議でしょうがないんです。だから、師匠が入れ替わってた時期、響さん達は手も足も出なかったでしょう?」

 

「悔しい気持ちはあるんだ。ガングニールの力でエクスカリバーのエネルギーを制御できなかったし、それにキャロルちゃんの事……現代科学の延長線上の存在なのに、神格の存在と対等に戦える『マジンガー』ってロボットのこと…。シンフォギアの力じゃ場に立つ事も許されなかったから」

 

「エリスは正真正銘の邪神です。装者がエクスドライブ状態でいたとしても、光速を認識できない以上は黄金聖闘士の足手まといです。Gカイザーは光速で動けますし、パイロットも人間超えてるから、戦えるんですよ。そのための魔神ですから」

 

キュアグレースは立花響(A)としての心情を吐露した。黒江が図らずしも介入した事で生起した『邪神エリスとの戦闘』で自分たち装者が蚊帳の外に置かれてしまった事への悔しさ、オリンポス十二神でも手の打ちようのなかったキャロル・マールス・ディーンハイムの事。真の意味での聖遺物が『宝具』と呼ばれている事…。プリキュアになって(桜セイバーは別人格であるので)、客観的に自分を見る事、のび太に諭される事で『他人の誇り』や『触れられたくない部分』というモノを理解したが、正直言って、魔法少女事変を第三者に解決されたことに悔しい気持ちがある。

 

「前世の記憶が宿った時、私もプリキュアになりたい、戻りたいと思ったんだ。眩しかったんだ、のぞみちゃんやラブちゃん達の背中が。だから、花寺のどかとしての過去生を受け入れたんだ。急に変身したのはびっくりしたけれど、私もプリキュア戦士に戻るよ。肩の荷が下りた気がするよ…。調ちゃんと話せてよかった」

 

「私もですよ。あの時は……子供じみてましたから。スッキリしました。腹を割って話すべきですね、やっぱり」

 

ジュースを片手に笑いあう二人。こうして、立花響として、これまでの気持ちに整理をつけ、花寺のどか/キュアグレースとして活動する事を正式に表明する。黒江に一年も演技させたことの非がある事も鑑み、自分も別名義を持つ事を選んだ。調が『月読調』というナスターシャ教授がつけた名ではなく、『月詠調』という表記にして心機一転を図ったという事を知り、その心情を理解した事で選んだ選択だった。ダイ・アナザー・デイで立花響として見た『夢原のぞみ』や『北条響』、『桃園ラブ』たちの戦士としての背中。その背中に憧れを感じた自分もその後輩たる戦士の転生だった。それならば、受け入れない道理はない。それは前世の自分への敬意でもあり、『シンフォギア装者である事は捨てない。その上でプリキュアになればいいんだ』とする彼女の決断であった。

 


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