――64Fに新人が配属されなくなった理由は史実343空の隊長達の三人の内の過半数にあたる二人が隊としての初陣からそれほど経たない内に戦死した記録によるもので、日本側としてはエースを活用するための策であったが、扶桑空軍としては『大迷惑』だった。現場としては『新人を育てなければ、新陳代謝が進まないだろうが!』である。だが、当時は戦争が激しくなる一方で入隊の敷居が高くなったために、新人ウィッチは雀の涙ほどの数しか入らない上に取り合いである。精鋭部隊との触れ込みの64Fは熟練者を全戦線から有無を言わさずに引き抜く権利が与えられたが、当時の熟練者は当然ながら、レシプロからの転換者が多く、前世のハルトマンがそうであったように、構造が全く異なるジェットへの転換には却って手間取るケースが当たり前であった。64Fの幹部格を歴代プリキュア戦士が多く占めるようになったのは『機種転換訓練の必要がない』という身も蓋もないが、切実と言える内部事情によるものだ。『他兵科経験のない純粋なウィッチ』でありながら、短期間で幹部格に登りつめたセラは逸材である事が分かる――
――1949年に扶桑空軍の部内で言われていたのは、『64Fに行くと、金鵄勲章と武功章持ちの大佐も使いっぱしり』という評語だ。これは64Fの幹部格は金鵄勲章が事変~ダイ・アナザー・デイまでのどこかで授与されている事、ダイ・アナザー・デイで『それまで大佐が上限だった現場ウィッチの枷が取り払われ、昇進が一斉に行われたため、将官になった士官学校卒のウィッチが続出した』からである。これは日本の航空自衛隊に潜り込んだ黒江が帰還後のダイ・アナザー・デイのタイミングでは将補(少将相当)になっていた事が発端であった。その調整が扶桑軍と自衛隊とで難航した末に准将の位が設けられた。更に、ダイ・アナザー・デイ終了後に黒江が自衛隊で将になっていたのに合わせ、扶桑でも中将になった。騎士爵↓子爵↓伯爵と爵位も順に得て、1945年の冬以降は華族になったため、他の64F幹部格も功績に合わせての昇進と爵位の授与がなされた。こうして、64F幹部格は芳佳も爵位を持つに至った。これは64Fがダイ・アナザー・デイ中盤から終局までの期間、ほぼ唯一の実働ウィッチ部隊だったからだ。のぞみも形式上、騎士爵である(ダイ・アナザー・デイで人格の変化が起こったため、軍と自衛隊との協議の結果、錦の業績は全ては引き継がれないとされたが、ダイ・アナザー・デイとデザリアム戦役での輝かしい功績は揺るがない)。その兼ね合いで、64Fの別名は『金鵄勲章部隊』と囁かれた――
――日本の多くの政治家は金鵄勲章を『時代遅れの化石』――と評したが、ヴィクトリア十字勲章と数十年の差もない時代の創設であること、扶桑軍(日本軍)の武人勲章は金鵄勲章しか存在していないこと、瑞光章の位置づけを扶桑で変えるには障害が多いこと、金鵄勲章の年金授与資格は全ての階級の軍人が有すること、廃止に伴う経済的損失の補填、名誉の証として形式的に授与する銀杯や金杯の授与にかかる金額が莫大になるという財務省の試算、扶桑軍を怒らせた場合、扶桑軍の莫大な兵力を日本の全戦力をつぎ込んでも、到底捌ききれず、内乱と判断して在日米軍が動かないとする予測により、日本政府は扶桑軍の琴線に触れないようにしていた。とは言え、省庁単位では高圧的に接する事が多く、問題になる事も多い。特に防衛省は部内で『警察からの出向者が扶桑とのトラブルメーカーである』と認識されるほどにトラブルが絶えなかった。旧軍式戦車の処分でのダイ・アナザー・デイの混乱、ウィッチの立場を全く考慮しない官僚の発言などもあり、カールスラントほどでないにしろ、日本連邦もシッチャカメッチャカな内情であった。64Fはその混乱を表ざたにさせないための意図もあり、設立者の源田実の想定以上に大規模になったのは否めない――
――その源田実は史実の評価の分かれる後半生もあり、防衛省からは『我が強すぎる』とされ、むしろ嫌われ者であった。だが、黒江、圭子、宮藤、菅野といった荒くれ者を現場で指揮統制でき、なおかつ、金鵄勲章受賞歴を持つ彼女らを感服させられる実力のある者は陸海の全参謀級軍人を見回しても彼しかおらず、事務方トップに空軍論者で有名な井上成美大将を添える事で一定の妥協が図られた。井上成美はあくまで裏方では有能だが、将帥としては無能に属する評もあるので、適材適所とも言えた。彼が移籍した事で艦政計画はむしろスムーズに運ぶようになったという評もある。空母機動部隊の再建が『量より質』にシフトし始めたこの時代、艦上機の質は他国の追従を殆ど許さない水準になっており、国産空母の筆頭格である三空母はF-8、バッカニア、A-4を装備し、F-4EJ改も試験的に配備がされるなど、完全に時代の水準を超越していた。それに比して、ストライカーユニットは第二世代理論の黎明期な事もあり、発達具合が実機に追いつかなくなっていた。現場では保守的な指揮官も未だに多く、F-86ストライカーでさえ、全部の部隊には行き渡ってはいない現状があった。前線に配置できる部隊が精鋭部隊しかないという軍隊としては実に『情けない』有様は日本の『少数精鋭主義』も原因であった。――
――軍ウィッチはダイ・アナザー・デイとクーデターで国民から不信を買っており、ゴロツキ、穀潰し扱いされだした。それが前線の風紀の乱れに繋がる悪循環に陥っていた。64Fの隊員の自由勤務権がダイ・アナザー・デイ後も認められたのは、軍ウィッチの社会的立場の悪化で帰省すら非難の危険が伴う事を考慮されてのことで、ダイ・アナザー・デイ従軍記章はその免罪符的側面を期待されて設けられたと言っていい。作戦召集予定であったが、政治的都合で参加できなかった者も授与対象であるのはそのための目的もあった。同時にダイ・アナザー・デイ終了後でも、軍に残っていた事変経験者達のために扶桑海事変従軍記章も設けられた。黒江達や志賀の一件を受け、急遽、製造途中の別の記章を変更する形で流用され、用意された。1949年までに衰退し、権威を失ったカールスラントの勲章に代わる『連合軍共通の名誉』と金鵄勲章やダイ・アナザー・デイ従軍記章は見做された。そこも日本の政治勢力にとっては予想外の展開であった。(日本ではダイ・アナザー・デイ従軍記章に反対し、『防衛記念章の形で設け、瑞宝章を退役時に名誉的に授与する』案が有力視されていたため。いくら、政治的に一体化が進んでいるとは言え、日本の一方的な都合だけで勲章制度は変えられないのだ)
――別の問題として、赤城の件でブリタニアから、愛鷹の件で賠償金をたんまりふんだくった扶桑だが、赤城の代艦の空母に政治的都合で予算は殆ど回せず、建造開始は1949年からとなった。工作艦と輸送艦、病院船の建造が戦闘艦艇より優先されたためだ。その一方で既存艦艇の装備の近代化は迅速であり、水偵は艦載ヘリに置き換えられていき、酸素魚雷は追尾魚雷へ置き換えがされつつある。また、全戦闘艦艇の艦砲は宇宙戦艦時代の技術で射撃指揮装置が強化され、砲塔も宇宙戦艦時代のものに換装されているが、その分、金食い虫と見なされた空母の整備が後回しにされたのは皮肉であった。海戦自体は連戦連勝なのは艦艇の装備の質の差によるものであるが、逆にその近代化がザンスカール帝国残党を呼び込んでしまった感は否めない。ザンスカール帝国残党も、ティターンズ同様に亡国の兵なので、かつて掲げていた主義主張などどうでも良く、反地球連邦という目的が自分達の行動の正当化の手段と化したところに、ジオン残党や彼らの悲劇がある。扶桑軍隊は1950年代時点の米軍相当までに全体で強化されつつある。ジオン残党の旧式機には対応できても、ザンスカール帝国製の高性能機に正面から対抗できる力はない。未来兵器を持つ64Fがザンスカール帝国残党への対応の矢面に立つのは当然であった。――
「こんなのを持ってるなんて…」
芳佳BらはA世界の64Fが有する秘密兵器を改めて公開され、その偉容に圧倒された。MS、VF、ナイトメアフレーム、SPT、CBなどの機動兵器、ISなどのパワードスーツ、更にはスーパーロボット。SF映画のような光景だが、SFものに殆ど無知である芳佳Bや坂本Bはあっけらかんと見つめるだけであったが、シャーリーBやサーシャBのように機械に詳しい者は『使われている技術のレベルの差』に気づく。
「すごい。普通に行けば、1000年は無理って言うような技術がズラリ……」
機動兵器は人型ロボットが中心。武器も普通の砲熕兵器はそのサイズのバズーカや散弾銃、機関銃で、後は長砲身の光線兵器らしきものが多い。更に変形合体機構を持つものもあるなど、彼女らの知る技術を遥かに超えるレベルの代物であるのが分かる。ストライカーユニットも第二世代理論式(実質、第三世代式の試作機に近いが)の次世代型が中心で、ウィッチと整備兵が話し合い、入念にチェックが重ねられている。本来の501では、シャーリーが自分でストライカーユニットの整備や改造を行うため、501の正規の整備兵は形式的なチェックを行うのみであったため、ミーナBはバツの悪い思いを味わう羽目になった。(ウィッチとの会話禁止の規則に強い不満があったという、ある整備兵が『握り潰されぬように』と、参謀本部に直電で密告した。それでミーナAの降格は避けられぬ見通しとなり、その直後にヒステリックに喚き散らし、坂本に銃を向けたために鎮圧され、人格が変容した。ミーナの体を引き継いだ『西住まほ』は指揮権を黒江達に移譲し、自身は一戦士として、ダイ・アナザー・デイ後半~デザリアム戦役を通して仕えた。この時期においては魔弾隊の第二中隊の指揮官という形で指揮官へ復帰しており、普段の服装をミーナと差別化するため、黒森峰女学園のタンクジャケットにカールスラント軍の階級章や記章、略綬などをつけて、軍服に改造したものを普段着にしている)
「来たか。閣下から話は聞いている。案内しよう」
現れたミーナAは人格の変容もあり、口調は男性語多めの中性的口調に変化している。声色はダイ・アナザー・デイで共闘済みの山本玲とほぼ同じものに変わっており、ラクス・クラインや九条ひかりに似ているものがあるBに比べ、古参の指揮官としての貫禄を感じさせる低いトーンである。階級章は少佐のものであるので、ダイ・アナザー・デイでのミーナの失態を挽回するのは、西住まほでも難しい事が窺える。
「貴方、降格になったと聞いたけれど…」
「厳密にいえば、この体本来の持ち主であるお前自身の失態だ、ミーナ。私はお前の体に宿っていた別人の魂をコアにして表面化した第二人格というべき存在だから、私はその尻ぬぐいをしているにすぎん。この体本来の人格は残っているかもしれんが、『ふて寝している』状態かもしれん。人格の中枢は残っているから、肉体がお前の姿を維持できているのさ」
まほはペリーヌにとってのトワとモードレッドのような形で出現した。肉体の主導権はまほの人格の手にあるが、本来の主人格は錯乱以降は『ふて寝していると思う』としている。ミーナは温厚な人物を装いつつも、実際には少女としての弱さであるヒステリックさを自らの想定外の事態になると表に出すという『二面性』があり、ヒステリックさを知る整備兵の一部からは陰口を叩かれていた。その二面性が密告の理由とされた。一方のまほは全体的に寡黙ながら、好人物である。指揮官として総じて優秀、動かざること山の如しのような冷静沈着さはミーナ本来の人格より高評価を得ている。
「私の活動開始時の話は聞いただろう?お前自身の尻ぬぐいだったが、いきなり指揮官の重責は担えないとして、閣下らに移譲して、しばらくは一将校として仕えることにした。私は前世では戦車乗りだったからな、それがいきなり、空を飛ぶ商売……戦闘機乗りになるのは無理があるのでね。」
「戦車乗りですって?」
「ああ。四年前はパンター、ティーガー、レーヴェ装甲脚で戦った。空を飛ぶのに慣れたのはその後だ」
「ミーナの記憶や経験を引き継いだのに、どうして最初は飛ぼうとしなかったの?」
「そう都合良くはないよ、エーリカ。英霊たちのようなチートが可能なわけではないからな。少しづつ慣らす必要があったのさ」
まほなりに『体と能力に慣れるための時間が必要であった』事、空を本格的に飛び始めたのはダイ・アナザー・デイの後であること、知識と記憶は引き継いでも、実際にモノにするには一定の訓練が必要だった事を赤裸々に語る。
「それと、ウルスラに伝えとけ。ジェットの時代になっても、ドッグファイトは普通に起こる。ミサイルが普及しても、無人戦闘機が出てもそうだ。扶桑は指揮官先頭という言葉があってだな…」
まほはベトナム戦争のことを知っているので、ウィッチ世界でなされていた楽観的予測を否定する。日本は政治的都合でエースを前線に突っ込むし、世間も指揮官に至るまで、前線で戦うことを是とする国である。(ダイ・アナザー・デイでは他国が逆に困る事態に陥ったが)それを教える。
「カールスラントでもそうだけどさー、指揮官って、普通は後ろでどっしり構えてるもんじゃないの?」
「それだと批判されるのさ。前線で戦わないと、兵たちの尊敬を勝ち取れんのだ」
カールスラントと違い、アジアには年功序列の風潮があるため、年上を軽視すると、これでもかと非礼と批判される。潔癖なまでに実力主義者であるフーベルタ・フォン・ボニンは批判に晒され、急遽、『自分は実力を第一に重視するだけであって、年上に敬意を払わないわけではないし、人種差別の思考は持ち合わせていない』と緊急で釈明する羽目に陥っている。(本人は扶桑/日本人の持つ敢闘精神と自己犠牲精神を目の当たりにしてからは、科学分野で優越感に浸る者が多い祖国に愛想を尽かしており、救出後は直ちに扶桑の永住権を獲得している。また、コンドル軍団出身者であるので、居心地が悪くなったためもある。)
「フーベルタなど、言い訳が大変だったぞ。ここ最近はカールスラントの優越を誇示したら独房入りもあり得るから、扶桑の永住権を取って、すぐに移住した。あいつは『空では、撃墜数だけがものをいう。階級とか、他のくだらぬものはどうでもいい。地上では軍律があるが、空中では最多数撃墜のパイロットで、戦闘技術と経験に優れた者が指揮をとる』と公言してたが、ものすごく批判されてな。本人はすごく困って、私に泣きついてきてな」
「えー!?フーベルタが?」
ミーナA(まほ)は503副長の座を失ったフーベルタと魔弾隊でも同僚である。ダイ・アナザー・デイ後半に彼女が現場に復帰する際、その主張がドイツからも批判を呼び、釈明文を考えてやった。撃墜数で実力が測れない時代からの来訪者への配慮も必要だからだ。彼女は捕虜収容所で『声が所長の好み』という理由でメイドをさせられていたため、癖が抜けず、普段着が眼帯付きのメイド服姿になってしまった。戦友の坂本Aは『お前なぁ…』と呆れているが、生き延びるために恥を忍んでやっていたので、割に切実であった。救出時の戦いでGウィッチ化している(前世はどこかの世界におけるマリーダ・クルスらしいとのこと)が、その副次効果でニュータイプに覚醒している。
「そうだ。あいつは敵の捕虜になっていたせいか、どういうわけか、普段着がメイド服になぁ……」
「メイド服ぅ!?」
バルクホルンBとエーリカBが腰を抜かす。64Fには服装の規定は式典時以外は存在しないので、普段着は階級や身分が必要最低限わかるものをつけるか、携帯していれば、どのような服装でもいい。フーベルタはそれでメイド服を着ている。歴代プリキュア達が変身後の格好で基地をうろついていても、兵士たちから咎められないのはそういう理由からだ。これは64F隊員が自衛隊、地球連邦軍、扶桑軍の三つに籍を置いている都合によるものでもある。
「服装の規定はないのか?」
「式典の時以外はないも同然だ。身分が分かるようにする以外はな。独立愚連隊のようなものだからな、ウチは」
「愚連隊?」
「そうだな…。連合軍司令部の直接配下だから、扶桑軍中央の指揮下にないのは501と同じだが、外郭独立部隊だから、独自の判断ですぐに動ける。その分、一騎当千である事が常に求められるので、新人はあまり入れられんのが玉に瑕だ」
64Fは23世紀に残る記録で『ロンド・ベル隊の起源』とされる。ロンド・ベルが苦労しているように、64Fも人員損耗がないわけではない。ダイ・アナザー・デイ時にいたベテランウィッチの少なからずは負傷で後送され、隊を離れている。歴代プリキュアらが短期間で幹部と見做されるようになったのは、地上空母戦で負った損害のカバーの側面がある。自然淘汰というやつだ。その兼ね合いで人員の入れ替わりや予定人員の諦めなどが生じ、プリキュア達がなし崩し的に幹部として扱われてきている。20代に達するウィッチには、それぞれの家庭の事情も絡むためだ。日本連邦は旧・日本軍にウィッチ隊の記録が発見された都合でウィッチをぞんざいには扱えなくなったものの、扶桑で起こった混乱を収める力は日本にはない。そこも扶桑皇国には不幸であった。扶桑は将来の主力を担うはずの世代を別組織に盗られた形になった後遺症がまだ色濃く、世代交代に失敗してしまった内情は隠しようがない。そのため、1945年当時に既に古参であり、ダイ・アナザー・デイ後も現役のエースは前線で酷使されるのである。この時期に義勇兵が大量に流入した事で、扶桑海軍ウィッチはその意識改革を真の意味で迫られることになり、志賀のような古い考えは淘汰され始める。黒江に反発して飛び出した彼女にはこれ以上ないほどに皮肉な流れであった。とはいえ、戦争中は現役を続けるあたり、芳佳と坂本への贖罪意識が強い事が窺える…。
「45年の作戦が終わった後は、どこも軍縮傾向になってな。財政に余裕があり、なおかつ、軍の近代化という大義名分がある扶桑くらいだったよ、新兵器開発が青天井の予算で行われ続けたのは」
キングス・ユニオンも戦艦を大幅削減せざるを得なくなったため、扶桑の戦艦部隊の強化策として、超甲巡の『戦艦化』が本当に俎上に載せられていたこの時期、扶桑の兵器開発は1945年以来の努力が実り始め、最盛期へ向かいつつあった。造船においても同じで、播磨型の主砲の長砲身化は既に決定済み、ニューレインボープランの第二期生産型の雛形として『廻天』の建造が決定される(轟天の予備艦の用途もあるが)など、地下都市工廠の造船部はフル稼働であった。その様子が見える。
「宇宙戦艦を新造だと?どうなってるんだ」
「質で量を超えろと、政治屋共から厳命されればな」
「大和型を設計ベースに?」
「大和型をそのまま宇宙戦艦にしたものが別の世界にあるから、その図面を参考にして造っているそうだ。ただし、主砲口径は51cmだが」
「何ぃ!?こちらのカールスラント海軍が30年代の終わりに計画していたビスマルクの改良型でも、砲身命数の都合で42cm砲だぞ!?」
「うへぇ…51cm砲…。船に積めたんだ」
「別世界から輸入した超金属で造るから、51cm艦載砲も充分に実用に耐えるとされたのさ。ただし、予算対策用に大和型の改良型という触れ込みでな。大和からの通しナンバーが振られている図面が議会に通知されたが、実際は『超大和型戦艦』というべき次世代型だ」
「大和をもっとでかくして、もっとでかい砲を?」
「空母が急激な大型化で、造るのに手間取っていてな。その穴埋めが半分、敵に大艦巨砲主義と錯覚させる欺瞞目的が半分入るそうだ。この世界のリベリオンはモンタナ級の改良型に18インチ砲を積んだ。連装砲で八門だが、大和型を投射重量で凌駕する。それを更に打ち砕くためと、同じテクノロジーで宇宙戦艦になったものが敵にもある。その対策だよ」
「オーバーテクノロジーが敵味方に?」
「大本は別の世界のカールスラントが手に入れた、レムリア大陸なんだか、アトランティス大陸にいた種族の遺産らしい。私も詳しくは聞いていないのでな。それを宇宙戦艦の時代を迎えた後に改良して、敵味方が運用している。その世界の扶桑が大和型を改造して生み出した『ラ號』。それが最初に確認されたからか、同格のフネを『ラ級』と呼ぶ習わしだそうだ」
「オカルトじみてきてない?」
「レムリア、アトランティスはお前達の世界でも、数百年前にこの大陸が確認された時に一旦は真実味が増したが、存在していないと正式に分かったオカルトだからな。だが、別世界では過去に確かに存在した。その遺産『重力炉』を積んだ戦艦が造られたからな。この世界の扶桑はラ號の改良型の生産に乗り出しているのさ。ラ級対策用にな」
ラ級戦艦。扶桑が量産しつつあるそれはある程度の機能が限定された廉価版だが、量産前の試作として造られるフルスペックモデルという形で、ラ號の准同型艦が建造されている。その一番艦が64Fの旗艦となり、強化改修が重ねられた『轟天』。その姉妹艦『廻天』の建造は64FやB世界の統合戦闘航空団の出撃する直前の頃には始められている。大和型の発展型としての風体を持つのは、長門に代わる扶桑の精神的支柱が大和だからという理由もあるが、設計的にも日本戦艦の究極点こそが大和型であるからだ。
「大和が扶桑のシンボルなの?」
「我々にとってのビスマルクのようなものだ。リベリオンにとってのエンタープライズ、ブリタニアにとってのキングジョージⅤ、あるいはライオン級のような象徴なんだ」
カールスラント海軍がどこの世界でも、ビスマルク級戦艦で『一次世界大戦で失われた大洋艦隊の夢よ、もう一度…!』と考えているように、扶桑は大和型戦艦を海軍力の象徴としている。B世界では扶桑の精神的支柱としての運用が多いが、A世界では軍馬としての役目を担わされ、精神的支柱としての役目を後継艦に譲っている。日本/扶桑の大和への強い執着と愛着が生み出そうとする『怪物』。ミーナAは遠目に建造中の廻天を『扶桑の象徴』と断言する。
「海軍力のシンボルとしての誇示なら、従来の大和型で充分に事足りるはず。何故、あんな怪物を…」
「敵がそれに対抗できる戦艦を用意してきたからさ、トゥルーデ。目には目を、歯には歯を……大昔の法典で言うだろう?」
ミーナAのその言葉に圧倒されるバルクホルンB。造船科学が生み出す現代の海獣。バルクホルンBは戦艦をそう考えていた。
――ビスマルクが完成した時はまだ若手だったが、上空を通過する機会があった時は誇らしかった。だが、扶桑はなんだ?規格外と、陰口さえ叩かれた大和型を更に超えるだと?正に怪物ではないか…!?――
日米の戦艦は欧州の想像を超える怪物となった。その象徴が大和型であった。それを更に超えるなど、バルクホルンBには想像もできない光景であったが、実際にドイツ(カールスラント)はH級戦艦という大和型に匹敵する戦艦を構想しているし、フランス(ガリア)もガスコーニュの後続として『アルザス級』を構想していた。だが、それらを子供扱いできる51cm砲を艦載する大和型の第二世代型。B世界では、扶桑に信濃以降の新戦艦が存在しないため、超大和型戦艦は怪物そのもの。列車砲の口径である『51cm砲』を艦砲として船に艦載する発想は、彼女からすればありえない。エーリカBが単純に驚いてる中でのバルクホルンBの受けた衝撃は彼女の将来の戦闘隊長としての器を表していた。ミーナBもまた、同じ思いのようだ。
「ビスマルクが子供扱いね…超大和型なんて」
そういうのが精一杯だったという。