――結局、扶桑の社会的混乱によるウィッチ閥の衰退はウィッチの世代交代を停滞させ、黒江達~芳佳世代がその後の時代の扶桑社会で絶対的発言力を持つという出来事を醸成した。日本出身のウィッチには『あがり』が存在しないという違いが存在するのもあり、1949年からしばらくの間の軍上層部は日本出身者を一定数は確保する事に血道を上げた。同時に福利厚生の改革を行い、1949年頃には旧来の『任期制』と『定年まで雇用する』事を前提にした雇用形態を並立させる事になった。これは永続的に魔力を奮える者が増加したからで、Gウィッチは後者に雇用形態がダイ・アナザー・デイから切り替えられている。また、芳佳の後の世代は『小粒が続く』と容易に予測されたため、日本出身者の確保は義勇兵らが辞めるであろう時代のためにも取り急ぎ行われた――
――しかし、義勇兵らも自らに冷淡だった祖国に尽くすつもりはなく、殆どがその後も扶桑に留まる。それが各国の財務関係者の誤算であり、軍事関係者らにとってはお涙頂戴な顛末である。特にそれは大量にリストラを行おうとし、それが軍隊の猛抗議で撤回されたカールスラントに顕著であり、1945年当時にカールスラント空軍の撃墜数トップ15だった者は殆どが形式上は祖国の予備役ながら、実質的に扶桑軍を支えていく。カールスラントは下士官以上をリストラしたことで軍の質が大きく低下してしまい、扶桑への賠償金と示談金も重なり、陸海空の三軍の内、陸空の質が大きく低下してしまった。慌てて再雇用を進めたものの、その時には目当ての人材は扶桑軍が全て抱え込んでおり、カールスラントは日本連邦の報復を人的資源的意味でも受けてしまった。そのため、グンドュラの素行を無視してでも、高官に仕立て上げて『職責で縛り付ける』事に血道を上げたわけである――
「この世界のカールスラントは戦力外通告だ。はっきり言って、質が馬鹿みたいに下がっているのでな。単なる政治的抑止力でしかない。ブリタニアも軍縮で量が下がっている。リベリオンとオラーシャが抜けた分を扶桑が補わなくてはならないのだ。とは言え、量的意味では無理だから、質で補えと無理難題を言われとるのだ」
二大国が抜けた分を補おうとするものの、日本の世論が拡大をあらゆる方法で抑制させようとするため、質で量を補うしかない扶桑。時代を超えた兵器の装備は仕方がない事であった。F-14の単座仕様が極秘にテストを重ねられているのも、その一環である。
「だから、あれらが一般部隊にも出回り始めているのだ」
コンバットアーマー、支援用のMSであるジムキャノンⅡ、Gキャノンといったものが輸送機に積まれていく。火砲の保有制限を誤魔化すための方策である。扶桑はMSなどを活用し、日本の左派が狙う近代化名目での軍縮を躱していた。そのため、部隊によって、質がてんでバラバラなのが扶桑軍の実情だ。とは言え、その多くが実戦に耐えうる練度を持たないため、64Fの負担軽減には(今の所は)なりえない。
「ロボットを兵器として用いるのか?」
「思想的には宇宙服の延長だったり、手足の生えた戦闘ヘリコプターだそうだがな。戦車や戦闘機の次に来る発想的ムーブメントだそうだ」
なお、ガンダムタイプの使用は64Fのみの特権であるが、全てが最新の型ではない。中にはデザリアム戦役当時に回収した旧式のものもある。RX-78-7もそれだ。ファーストガンダムの系統としては現存する数少ない機体だ。素体が相模総合補給廠に放置されていたものをレストア。内部構造をフレーム構造に置き換えてデザリアム戦役で使用され、そのまま保有し続けている。(ライフルも新造されている。)これは兄弟機のRX-78-6も同様で、相模総合補給廠には旧式のガンダムが意外に多く放置されていたのである。(レッドウォーリアの実機まで存在していた。放置されていた一年戦争から間もない時期の書類によると、フルアーマー計画の末期にあった高機動/軽装タイプの完成形という)
「しかし、そんな兵器を以てしても、リベリオンには勝てんのか?」
「五大湖工業地帯にダメージを与え、西海岸とカリブ海の閉塞、ハワイ占領は必須だろうな。そもそも、ハワイは太平洋共和国……扶桑系の国家のものなんだがな」
太平洋戦争はリベリオンを大陸に閉じ込める事が主目的と化しつつある。西海岸までが攻勢限界点である扶桑にとっては、ファラウェイランドなどの裏切りはもっとも警戒すべきものである。それを見据え、いつでもオーストラリア大陸やカナダに相当する地域に侵攻できる用意は進めている。ブリタニア連邦は砂上の楼閣だと、扶桑と日本は考えているからだ。もっとも、オーストラリアとカナダはウィッチ世界でも弱体で、MSをも運用する扶桑に楯突く気はないのだが。
「ミーナ、そろそろ会議の時間だ…おっと、お前たちも来ていたのか」
「同じ顔で出会うと……変な感じだな」
「お互い様だろう?」
バルクホルンAがやってきた。Bより穏やかな顔つきである事で、比較的に見分けやすい。Aは既に中佐であり、態度が落ち着いているのもあるだろう。
「お前、中佐に?」
「ミーナの代わりも兼ねてだったそうだが、すぐに予備役になったからな。そうだ、機械も多少はいじれるようになった。そうでないと、生活に支障が生ずる事もあるからな」
さすがに、PCや携帯電話も多少はいじれるようになったバルクホルンA。21世紀では生活に必須だからだ。
「お前、何故…」
「人生をやり直せば、多少な」
「ところで、お前たちが属する部隊だが、どうして、扶桑の一部隊扱いなんだ?」
「政治的都合だ。501ばかりが活躍して、他部隊が霞んでいると批判が強かったんだ。上位編成を設けて、一時的な合同部隊とする案もあった。ところが、506の存在が槍玉に挙がってな…」
506の政争の具ぶりが槍玉に挙がったのをきっかけに統合戦闘航空団の存在に疑義が呈された結果、501への統廃合が行われた。更にミーナの失態で、それすら存廃が怪しくなった結果、64Fと一体化させることで人材の温存が図られた。しかし、ダイ・アナザー・デイで淘汰が進んだ結果、本来の統合戦闘航空団メンバーで64Fに残った者は意外に少ない。その穴を埋めたのが歴代プリキュアチームだ。(スイート、5、SSはフルメンバー。その他は虫食いが継続中)
「506は迷走したというが……」
「共和制の旗振り役が追放した貴族の権威に頼る。こんなお笑い草な事があるか?それでオジャンだ。メンバーはウチがそのまま引き受けたが、ロザリー少佐は司令部付の参謀に転じた」
A世界のガリアの国威が低下した要因はド・ゴールの本性が判明し、黒田とアルトリアに愛想を尽かされた事、506を政争の具にした事で批判を浴びたことにある。また、アルザス級戦艦の建造中の船体が鹵獲され、敵の手で完成したことが痛手となった。
「ここでの統合戦闘航空団はどうなっているのだ?」
「501と508以外は統廃合。506と7は欠番扱いになった。ド・ゴール大統領は泣いてたがな。マンネルヘイム元帥もだな。507が欠番になったからな」
「何故だ?」
「直前でシャムが掌返ししたんだ。一時はあそこの首都を石器時代に戻せと司令部が揉めた」
「だれだ、そんな事いうの」
「ルメイ将軍だ。あの将軍は過激だからな…。シャムはそれで地図から消えかけた。本当に爆撃機軍団を待機させてたらしくてな」
1945年当時に新鋭だったB-36でシャムを地図から消すところだったルメイ。シャムは核兵器に怯えたともいうが、詳細は不明。507の頓挫で痛手を被ったマンネルヘイム。妥協的に編成が解除されたばかりの旧・いらん子中隊の元・幹部を代替とする案が妥結され、ハンナ・ウィンド(ハッセ)は予定人事が流れ、宙に浮いてしまった。本来は智子の後継の隊長になるはずだったからで、64Fが引き取る話も出ていたが、現地の反対で立ち消え状態だ。
「それで?」
「この世界でGに目覚めていた、旧編成時の幹部が代替と扱われたよ。ハンナ・ウィンド大尉はエイラが推薦していたんだが、現地の隊員の猛反対で立ち消えだ」
その後、ハッセはR化処置後に501航空軍に編入。スオムス駐留時の先遣隊の隊長の人事が充てがわれる。エイラが推薦し、アウロラが推奨した逸材を不名誉なままで引退させるわけにはいかないからだ。ハッセは『故郷に帰って、家を継ごうと…』と隠居の腹づもりだったが、アウロラ・ユーティライネンの説得で翻意。1950年に同人事を拝命、少佐に昇進するのだった。
「それで、エイラは?」
「サーニャが退役した時は発狂ものだったが、すぐに『あること』に気づいてな」
「なるほど…」
「って、トゥルーデが二人で納得しあってるの変な感じ~」
姿は同じだが、エーリカBへの反応はまるで違う。Bは呆れるが、Aはため息をつきつつも、すっかり慣れているのか、微笑んでいる。エーリカBが戸惑うほどだ。
「あれ…」
「いや、ちょっと懐かしくなってな」
バルクホルンAはエーリカがA世界では鬼教官で鳴らしている事が当たり前になっていたからか、久しぶりに自然体のエーリカを見たと言いたげである。
「ん?そちらでのエーリカはどうなってる?」
「そうだな。ある事がきっかけで鬼教官になってな。坂本大佐が諌めるくらいのスパルタだ」
「ど、どういうこと、トゥルーデ!!」
「うーむ。ジェットに切り替わった後、お前、ある機種の採用に猛反対してな。グンドュラを病院送りにしたんだ」
「えーーーーー!?」
それはF-104ストライカーユニットのことで、エーリカAは採用に激昂し、空軍本部に殴り込み、幹部たちを飛天御剣流で40人も病院送りにするという騒動に発展した。グンドュラは超電磁砲でなんとか止めたが、相打ちに近く、黒江が慌てて現場に行くと、カールスラント空軍高官達が泣き叫んでいたので、青ざめた。グンドュラ曰く、『飛天御剣流はあたしの反応速度でも見きれない…死ぬかと思った』とのことである。
「それで罷免って話もあったが、お前をクビにすると、ハンナも辞めるからってんで、お流れ。減俸処分で済んだよ」
「お前、どうして止めなかった?」
「あいにく、その時はインフルエンザにかかって、40度の高熱で唸っててな。知らされたのは事後だよ。それでぶり返して、入院した」
グンドュラは病床で『マルヨンはあたしも反対しましたよ。カールスラントのバカども、低空侵入に使おうって言い出すんですから。ところが、フォッケウルフの対地攻撃型の後継が欲しいんだもんって、元帥たちに押し切られまして…』とボヤいたという。この事件はハルトマンの乱と後世に語り継がれ、ウルスラの孫の一人は『空軍高官達の見識を疑う』と酷評し、大叔母を擁護している。扶桑からマニュアルを輸入する、黒江が実際の運用法を指導するなど、完全にカールスラントと扶桑の立場が逆転した経緯から、21世紀のカールスラントにとって、この経緯は恥部と扱われているという。
「それはそうだろう。だが、ちょっと待て。ハルトマンがどうして、そんな騒ぎを起こせる?」
「剣術の達人がいきなり殴り込んで来てみろ。修羅場になるぞ」
「エーリカが剣術の達人?」
「自己流で扶桑最強と言われた剣術を極めてしまってな。普通の軍人の40人など、カカシだ」
ミーナAも頷く。歴代プリキュア戦士もハルトマンAの剣術には多くが及ばず、辛うじて、キュアメロディ、キュアドリーム、キュアアクアの三人が渡り合える程度で、智子を完全に上回り、赤松とも渡り合える。人外魔境に足を突っ込んでるとは、キュアラブリー。
「美緒が聞いたら、泡くって質問攻めするわよ」
「だと思う。とはいえ、坂本大佐はこちらでは引退したとはいえ、七勇士で慣らした方だ。弓でお仕置きしていた」
「映像は見たわ。あれが美緒のこちらでの極め技だったの?」
「我々の間では幻影の不死鳥というコードネームでその技は呼ばれていた。パットン閣下は『ファントムフェニックス』と坂本大佐を呼んでいた」
坂本曰く、『あれはハヤブサのつもりなんだが、鳳凰に見えるか?』とボヤいている。矢を火の鳥に変えて放つその魔法は、シグナムが前世で坂本に教えていたものの応用である。原典は古代ベルカの騎士の奥義の一つであり、その時代にいた事がある調も使用可能である。西洋人にとって、火の鳥=不死鳥のイメージがあるのか、パットンは坂本をリバウ攻防戦以来、『ファントムフェニックス』と呼んで憚らない。圭子も苦笑いである。亡霊のように現れ、孝美の危機(当時は未覚醒)を救い、艦隊の出港を助け、火の鳥を以て、怪異を打ち払ったからだと、パットンは回想している。
「あれはハヤブサでしょう?リベリオン人にはわからないの?」
「わからんでもないぞ。西洋人に不死鳥と鳳凰の区別がつくか?それと同じだ」
「会議って、何を話し合うの?」
「お前達の仕事や機体の割り当てなどだ。言っておくが、宮藤は産休中でいないからな?」
「な、何故、そこで宮藤の名を出す!?」
「会いたいって顔に買いてあるってさ」
「ば、馬鹿な…私は」
赤面しつつ否定するバルクホルンBだが、シスコン成分の補充タイムらしい。Aはそれを楽しみつつ、地下都市の建物に一同を案内する。
「まだ、始まってないようだな」
バルクホルンAは椅子に座り、おもむろにコンビニのおにぎりを一同に配る。買っておいたらしい。会議室は会社や銀行の会議室のような作りで、平時はそれとして使用予定であるのが窺える。
「PXで買ってきた、好きなの取ってくれ」
「PX?」
「酒保のリベリオン式の呼び名だな、連邦化した時に呼称変更したんだ。色々と揃っているんだが、定期的に新京にいく列車が運行されている」
「汽車?」
「地下鉄兼用の電車だよ。途中で地上に出て本線に合流する。片道で数時間だから、長いがな」
のぞみとシャーリーがそれに乗って基地に戻っているが、電車で数時間の距離があるというのは意外に長い。これは軍都整備計画の名残りで、本来なら基地周囲に軍需工場や会社のオフィスが建ち並ぶはずで、先行して路線は開通済みだった。工場で働く者たちの住宅用地など、かなりの開発になる予定だったが、日本の市民団体が1945年から翌年にかけて反対運動を起こし、日本と扶桑の野党も政権と軍への批判に利用したため、計画は放棄され、原野の予定地だけが浮いてしまったわけだ。日本の当局が事の重大さを知ったのは中止決定後で、どうすることもできなかった。地下都市をドラえもんが設ける際に物資搬入口と人員輸送に再利用する事になり、地下都市の整備後は地下都市線という事で、地下都市と地下都市を結ぶ交通手段に生まれ変わった。新京駅から数十キロの地点で途中で本線と分岐し、地下部に入るため、地下都市に疎開している住民の子供からは不思議がられているという。
「ここはどこの地下だ?」
「最寄りの都市は……南京だったか。地下に有事のシェルターを兼ねた都市を築いたのは、有史以来、扶桑が初めてだろうな」
バルクホルンAのいうように、地下都市は軍事エリアも含むと、一つがかなり広大である。日本の20万都市が二個は入る大きさだという。軍事エリアの海軍工廠エリアで建造されている轟天の姉妹艦『廻天』を建造しつつ、隣で別のラ級を造れるほどに余裕がある。とはいえ、多層化しているため、階層一つつあたりの面積は東京近郊のベッドタウン一個分だという。空間圧縮技術も用いた高度な構造で、居住区は団地のようになっている他、商業区画も中央部に大型スーパーや百貨店があり、そこを中核に建築されている。軍管区の管轄では、必要上、南京管区ではなく、本部の直轄なので、のぞみとシャーリーは定期飛行訓練を行ったと証明する書類の提出に新京まで出向く必要があった。
「あ、バルクホルンさん。今日はいよいよ?」
「そうだ。イリヤ、向こうの宮藤らに声はかけたな?」
「はい。エイラがなんか…」
「あいつめ…」
イリヤがやってきた。イリヤは明朗快活な性格なので、元がサーニャだと判別は殆どつかない。声は似ているが、元気っ子なので、サーニャと親しい者でも、まずわからないのだが。
「トゥルーデ、新人?」
「それには語弊があるな。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン大尉。こちらでのアインツベルン伯爵家の継承者で、当主だ」
「ここ600年ほどで勃興し、前の大戦で絶えたという、あの名家の?」
「この世界では生き残りがいたのだ。もっとも、前当主とは遠い親戚らしいが、皇帝陛下が継がせたのだ」
アインツベルン伯爵家はA世界でも、B世界でも、ここ1000年以内に勃興し、第一次世界大戦で前当主が戦死、もしくは行方知れずになり、直系の子孫は絶えている。イリヤとクロは傍流の家系の忘れ形見ということになっている。皇帝もその言い訳を通して継がせている。
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。イリヤって呼んでください」
バルクホルンBの心に『ズギューン』と形容するべき効果音の電流が流れる。直感的に『姉センサー』が働いたのだ。バルクホルンAはそんなBに遠い目をする。若き日の自分そのものだからだ。
「やれやれ、イリヤでこれなら……」
ミーナAは嘆息しつつもそう漏らす。
「はひ~。間に合った~」
「今日は早いな、ブライト?」
「ウィンディに早めに目覚まし時計をセットしてもらったんですけど、止めちゃったんです。急いで飛んできましたよ。あ、アハハ…」
「す、すみません、バルクホルンさん」
「いや、構わんよ。まだ始まっていないしな」
バルクホルンAと普通に会話をするスプラッシュスターの二人。のぞみからプリキュア代表の座を引き継いでいるため、会議に出席している。ブライトの口ぶりから、夜勤明けらしい。
「あ、貴方達がミーナさんの言ってた人たちですね。あたしは日向咲、それでそっちがパートナーの美翔舞。ヒロインなんで、こんなナリですけど、少佐ってことになってます」
「なにぃーー!?」
「嘘、あたしよりえらいじゃん、この子たち!!?」
スプラッシュスターの二人は任官から数週間でのぞみからプリキュアコミュニティのまとめ役を受け継いだため、1949年には少佐になっている。当然、ハルトマンBより階級は上である。
「あ、日本のレジェンダリースーパーヒロインだし、まだ低いって言われてんぞ?」
「閣下、今日はシンフォギア姿ですか?」
「調が足を挫いて、かれんに見てもらってた。装者達の訓練相手は俺が代理でやってやった。それでだ」
「何故挫いたんです?」
「寝ぼけて、タンスの角に指をぶつけた拍子にやっちまったんだと。宮藤が産休だから、かれんに見てもらった」
「黒江閣下、貴方は姿を自由に?」
「俺はミスティの異名があるんでな。容姿は好きに変えられる」
ミーナAがあちゃ~と額を手で抑える。古典的なくじき方だからだ。
「黒江の本当の容姿はそちらのこいつ自身を7歳ほど若返らせたものだ。事変当時の姿のままと言っていい」
「美緒、どうした、その指の絆創膏は」
「おにぎりを作る時にうっかり、な。宮藤がいないから不便でなー」
「お前、三角に握れんだろ?」
「それを子どもたちの前でいうか?」
ミーナAと坂本Aの会話は毛色は違うようだが、根本では同じである。そこは安心したようだ。
「しかし、装者達からよく文句出ませんね?」
「Aの方は勝手知ったる仲だからいいんだが、もう一つのDのほうが面倒だった」
「そりゃそうでしょう」
バルクホルンAの指摘の通り、黒江がシュルシャガナを普段から使うことは装者達の同位体と揉め事になる率の高い事項である。A世界での騒動の一因であるので、D世界の装者からすれば納得がいかない事項でもある。しかも、同一のデザインのギアを使っているのは切歌、調の同位体からすれば納得いかない。そのため、黒江は説明する前に二人をノックアウトする羽目に陥った。
「参ったぜ。有無を言わさずに襲いかかられてな。返り討ちにしたけど」
「しかし、あの二人は血の気が多いですね?」
「俺のなりでトサカにきたんだろう。説明したらしょぼくれたが」
「本人公認で、しかも貴方は『師匠』ですからね」
調Dは別の自分が目の前の人物の弟子である事、ギアの使用は公認である事を教えられると拗ねてしまい、黒江を困らせた。Aが如何に成熟しているかが分かったのだ。DはAより小柄で、アルトリアの生前の身長である153cmといい勝負。ギアの力でも、シュルシャガナの真の能力を引き出しているAには到底及ばず、黒江と組み合っただけで、脚部のローラーがあっけなく空回りしてしまうほどの差がある。また、多くの場合で編みだす切歌との合体攻撃である鋸と鎌によるキックも黒江がこの日に初使用した波紋で受けとめられ、そのまま波紋疾走を浴びる羽目になったという。
「波紋疾走を使って痺れさせた。シンフォギアの効果で直接のダメージは低減されるが、伝導率はいいから、痺れさせられたよ」
「その姿でやったんですか、波紋疾走を」
「ちゃんと『ぶっ壊すほど…シューーートッ!』したよ。多分、向こうのあいつら、今頃、首を傾げてるだろうさ」
波紋法は存在が希少で、黒江たちも時空管理局の無限書庫をユーノ・スクライアに探させる事でようやく実在を確認したほどである。呼吸で太陽エネルギーの波紋を起こすという原理は時空管理局でも首を傾げるものである。とはいえ、波紋の呼吸は肉体の生命エネルギーを活性化させ、治癒力を引き上げたり、老いを遅らせる効果がある。黒江は前者の効果を欲したわけだ。戦闘用途にも応用が効き、スタンガンより強力に痺れさせたり、尋問で記憶を探る時にも使える。シンフォギアそのものは無機物だが、波紋の伝導率が良く、痺れる効果は通常通りに発揮される特徴が発見されたわけだ。
「割にエゲツないことしますな」
「お返し代わりさ」
黒江は一応、最高幹部のはずだが、茶目っ気がある。Bがお硬い性格で女性言葉を用いる事があるのに対し、Aは男性語を使い、一人称も俺である。声はそれと対照的にBが本来の声、Aは若返り後の声が維持されているので、素ではトーンが高めである。バルクホルンBはその違いに気づき、感心した顔を見せるのだった。(黒江は子供の頃は可愛い声であったのを軍隊で低くしたタイプ。転生後はその高い声のままなので、声を変えているのだ)
「あのさ、アンタ、どうしてこっちのアンタと違って、そういう喋り方なのさ」
「横須賀で暮らした事あってな。そこの農家の人たちの影響だよ。これでも声はガキの頃よりは低めにしてる」
「そなの?高めだと思うけどなぁ」
黒江Bが腰を抜かした第一要因は声である。エーリカBにしてみれば、まだ甲高く聞こえる。とはいえ、調整後は調のそれとほぼ同一の声色なので、調Dが目を回すのも無理はない。のぞみ曰く、ぶっきらぼうな感じで聞き分けているとの事。黒江は調整後で高めだと言われたのは久しぶりのようで、驚くのだった。のび太曰く、「綾香さんの声だけど、あれは何回も調整した後に生まれたもので、元はもっと甲高かったのさ」とのことで、調との同一性は半分は偶然の一致であるが、半分は『半同位体化』した際の産物である。それが騒動を呼び、調の運命を変えた。そこは偶発的だとのこと。
――足を挫いて寝込んでいた調本人は気づいていないが、調は他世界の同位体とは『独立した因果』を持つ状態になっていた。それはDの登場で判明していくのである。存在そのものに影響がないようで、実はあった事がこの時期から分かっていくのである。調Aが史実とあまりにかけ離れた出来事を辿っていったことの真の理由。それはお互いに出会った際に起こった感応そのものにあったのだ。