ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第百八十四話「戦い終わって…9」

――23世紀の地球。度重なる戦火で痛めつけられた地球だが、地下に都市部を避難できるようにジオフロント化していた都市はいくつかあり、東京はその筆頭であった。フォン・ブラウンに首都の座を譲ったが、マクロスシティを除いた地球の現存する都市では、ロンドンと並び、往時の姿を留められている点で数少ない旧・先進国主要都市であった。そのため、戦争で荒廃し、往時の栄華が消え失せているニューヤーク(ニューヨークとニューアークがある時期に合併した都市)と、一年戦争で消滅したシドニーとキャンベラ、パリなどとの明暗が分かれている。ウィッチ世界向けの軍需物資の発注が増加し、23世紀の地球はガトランティス戦役からの痛手から立ち直ろうとしていた。ウィッチ世界に卸された兵器はリゼルやアンクシャ、イチナナ式などの最新兵器から、セイバーフィッシュやTINコッドⅡなどの旧式戦闘機まで多種多様。これは全て扶桑軍の要望によるものだ。特に戦闘機は零戦、疾風、紫電改などのレシプロ機を緊急で代替する機体として、扶桑軍統合参謀本部からアナハイム・ハービック社などに購入の要望を打診。連邦政府も通商の活発化を狙い、これを了承。特に一年戦争から戦後すぐの時期に生産されつつ、軍縮を理由に倉庫に眠っていた旧式戦闘機をレストアし、ウィッチ世界の扶桑へ大量に供与。1949年2月が終わる頃からは数多のレシプロ機を代替すべく、ジェット戦闘機にアレルギーが無い精鋭や重要拠点の防空部隊からの配備が開始されている。64Fのみが可変戦闘機とワイバーン以降の通常戦闘機の新型を持つが、これは同隊がその世代の兵器の運用に慣れているためだ――

 

 

 

 

 

 

――21世紀 横田基地――

 

黒江は統括官権限で、空自の戦闘機部隊から志願者を募り、ウィッチ部隊に派遣するパイロットの交代要員を選抜していた。横田基地に集めたのは、同基地が野比家から最寄りの基地の一つという身も蓋もない理由だったが。

 

「統括官、その機体はなんなのですか」

 

「諸君らにお披露目するが、ワイバーン。地球連邦空軍と宇宙軍の主力機の一つだ」

 

黒江はサンプル替わりに『ワイバーン』を厚木基地に持ち込んだ。コスモタイガーは流石に新鋭機に属する上、コスモタービンは21世紀の技術水準ではデッドコピーもままならないため、地球の在来技術での最高峰に近いワイバーンを持ち込む事で、技術力の差を見せることにしたのだ。

 

「一年戦争で使われたフライマンタやコアイージーの後継機種として、グリプス戦役の時期に採用された。もっとも、連邦政府の方針が二転三転して、配備が進まないまま、もっと次世代のコスモ・ゼロとコスモタイガーの補助の位置づけにされたがな」

 

コスモタイガーやコスモ・ゼロにはイスカンダルのもたらしたテクノロジーが用いられているが、ワイバーンは基本的に地球在来航空技術の集大成である。外見は第四世代ジェット戦闘機以前の複雑な形状へ先祖返りしているが、アクティブステルスの実用化などで『汎用性』重視になった都合である。

 

「この間、君たちに見せたコア・ファイター系列とアビオニクスとインターフェースは共通している。米軍からも見学希望が来ているほどだ」

 

一年戦争でM粒子が使われる様になっても、外宇宙の勢力にその戦法が通じるとは限らないためと、電子機器のM粒子対策が進んだこともあり、戦闘機のアビオニクスの搭載水準は一年戦争前の水準に回復しつつある。ワイバーンはTMSの練習機としても使用されているので、セイバーフィッシュの全ては代替しなくとも、かなりの機数が配備されている。ジオンにはドップがいたが、他の勢力はMS偏重であることが大半だったので、航空機による航空戦はガミラス帝国やゼントラーディ戦まで起こらなかったが、それ以降は一転して戦闘機同士の空戦は日常茶飯事となっている。ワイバーンは一年戦争後の技術で作られているので、当然ながらエンジン推力は21世紀型戦闘機の比ではない。地球連邦軍は軍縮による工廠の閉鎖で新型機の生産が追いつかない状況が続いているが、既存機の生産は維持されているため、ワイバーンを有する部隊は恵まれている方である。

 

 

 

「我が自衛隊はウィッチ世界に自前の装備は申し訳程度にしか持ち込めん。Gフォース管轄にしても、政治的意味で限界がある。私の私物扱いの員数外装備として運用する。有志を募ったのは、Gフォースの人員を定期的に交代させたいからである。政治家達はナショナリズムを煽っとるとか、戦争屋というが、Gフォースに交代要員を手配せんなど、子供じみたいじめだ。諸君らは……――」

 

 

黒江は指揮下のGフォースの人員を長期休暇で交代させるべく、有志を募っていた。Gフォースはこの時期には『陸海空の三自衛隊の有志で構成される諸兵科連合部隊』にまで発展していたが、秘匿兵器を持ち出した事で防衛省と防衛装備庁の一部官僚に睨まれている。ダイ・アナザー・デイでの戦功にも関わらず、Gフォースは交代要員を手配してもらえないという、小学生か中学生のいじめのようなことになっていた。国家組織にしてはみみっちい嫌がらせにめげない黒江は自分の権限で有志を募り、訓示した後に選抜した後に交代要員としてスカウトするつもりである。有志であるので、志はあるが、実際の腕の方は実際に見ないとわからない。黒江は何週間かかけて、ワイバーンで腕の程を確認し、選抜するつもりであった。漏れた隊員も補助隊員という事で連れて行くつもりであるが、セイバーフィッシュやワイバーンは21世紀型のどの機種よりも機動限界や到達高度、加速性能が高いため、21世紀の人間にとっては『夢のような機体』だろう。だが、それらは地球連邦軍にとっては一世代前の型落ちモデル。さらなる次世代機であるコスモ・ゼロ以降は自力での大気圏突入、自力での突破を可能としているのだ。それを見れるのは入隊後の楽しみだとも示唆しつつ、訓示を行うのだった――

 

 

 

 

 

――この日の野比家では、スネ夫のコンツェルンの傘下である広告代理店を通して、日本の各企業が打診してきた『プリキュアと会社コラボの提案』を吟味する歴代プリキュア達の姿があった。のび太が書類をリビングのテーブルにデンと置き、その書類を一枚づつ取ってキュアアクアやキュアダイヤモンドなどのブルー組が内容を確認し、吟味する。この日はピンク組はイベントで仕事なためだ。町主催のイベントにお呼ばれという奴だ。映画とのタイアップなので、ドリームが呼ばれていたのだが、サポーターという名目でピーチとメロディの二人がついてきたので、三人のトークイベントが急遽、開催された――

 

「ずるいよ、ドリーム~!先に周年迎えてたのって、うちのチームなんだけどー?」

 

「つか、今年はあたしらが10周年なんだぞ」

 

「あたしらだって、14周年なんだよー!二人共」

 

「ドリームんとこは来年のほうが切りが良いじゃん。放映終了から14年目にピンで映画に客演なんてぇ~~!!」

 

「そうだそうだー!あたしらなんて、今年がアニバーサリーだってのに、何の音沙汰もねーんだぞぉ!」

 

ピーチとメロディからめちゃくちゃに愚痴られるドリーム。しかし、三人の中ではピーチはオールスターズに声ありでの皆勤賞の古参プリキュアという称号があるので、実は意外に恵まれている。一方のメロディは声なしでの登場もあったので、一番に不遇である。ちなみに2021年は『スイートプリキュア』の初陣から10年目であるのもあり、メロディは拗ねていた。

 

「まぁまぁ、後でさ、リズムにカップケーキでも作ってもらいなよ」

 

「ぢっぐしょ~~!!」

 

メロディは現役時代よりコミカルな物言いが増えているので、トークイベントでは自然と『場の空気を明るくする』役目を担っていた。これは素体がシャーリーであるのも関係しているが、結果的に言動が大人びているのも関係している。(とは言え、根本ではガサツなので、現役時代よりは総じて、荒っぽさがある)

 

「でもさ、ピンでうちのチームが映画に出るわけじゃん?咲さんと舞さんに悪くてさ……」

 

「この間も、それ言ってたね?」

 

「うん。あの二人、オセロの真ん中のコマみたいに目立たないポジションだったからね。うちのチームと、なぎささんたちに挟まれてるわけじゃない?なんとかしてあげたいんだけど、色々な事情もあるみたいでね」

 

ドリームはその事が引っかかりになっており、のび太とコージにも度々言っているが、こればかりはどうしようもないのだ。スプラッシュスターは妖精のオリジナルキャストが難病で亡くなっていたり、咲を担当している声優が舞台を仕事の主軸に移したなどの理由で客演が困難であるので、オリジナルキャストが全員健在の5が選ばれやすいという。

 

 

 

「なるほどな。あ、重要な事があった。最近見るだろ?元ヒーロー役の俳優が落ちぶれて、ファン相手にアコギな事しだしたり、詐欺まがいの事してワイドショーに取り上げられてんだろ?そっくりさんだから、本物が仕事に悪影響出てるって怒ってんぞ?」

 

「一也さん、それで困ってたよ。そっくりさんの俳優がしでかしたから……」

 

「幸いなのは、あの人達は改造人間だから、外見は若いままなことだ。そっくりさんはヨボヨボになってるだろ?」

 

幸か不幸か、仮面ライダー達は改造人間であることもあり、容姿は改造時の『青年』の姿を留めている。最年少に近い南光太郎でも、デザリアム戦役後の時間軸では30代のほうが近めの20代後半だが、20歳前後の若々しさを保っている。沖一也のそっくりさんが不祥事を起こしてしまったので、活動に悪影響が出たらしい。

 

「それが不幸中の幸いだよねぇ。光太郎さんも気にしてたけど」

 

ドリームは南光太郎に恩義がある。BLACKとしての光太郎にはB世界の自分たちを守ってもらい、RXとしての光太郎には『自分を叱咤激励してくれたり、大決戦で平行世界のオールスターズを守ってもらった』恩義があるので、仮面ライダーたちのそっくりさんである俳優の不祥事で活動に悪影響が出た事にドリームは同情している。とは言え、外見がその俳優らより遥かに若いので、影響は限定的だが。

 

「イメージは大事にしないとな。一種の偶像崇拝だろうが、現役の子供や、現役時代に子供だった大人のためにも」

 

「だね。あたしもダンスの練習とレッスンは続けてるしさ。メロディのバックダンサーできるよ」

 

「あたしもピアノをまた始めたよ。バイトで歌手もしてるしさ。のど自慢でも出るよ」

 

「つぼみちゃんは?」

 

「あいつ、しばらく休むって」

 

「へ?」

 

「おめでたなんだと」

 

「へー……へ!?」

 

「お、おめでたぁ!?」

 

「昨日、かれんさんの診察でわかってなぁ。管理局に産休届け出させたよ」

 

花咲つぼみ(アリシア・テスタロッサ)の第一子妊娠が判明し、プリキュアコミュニティはてんやわんやであった。咲と舞も大いに動揺し、いちかとみらいも大慌てになっていた。その日は管理局との折衝任務があったので、シャーリーとしての姿で付き添い、産休届けを出すのを見届け、水無月かれんの診察を受けさせたと話すメロディ。

 

「あたしだって、腰抜かしたよ。あいつもその可能性に思い当たらなかったみたいで、パニクっててよ」

 

「それで今日から?」

 

「そそ。しばらく休むって。フェイトも腰抜かしたぜ」

 

「だろうなぁ」

 

「その代わりに、いちかとみらいを使うぞ」

 

「いよいよ?」

 

「ゆかりさんからも、いちかたちをローテーションに組み込むのをそろそろ考えておけって言われてたのよな。で、みらいの野郎、なんでロボオタクになってんだよ」

 

「あたしとやよいちゃんがロボアニメのDVD見せまくったからかなー、あはは……」

 

「お前、リコに追いかけられんぞ?」

 

「されたよ。おととい」

 

「やっぱりそうか。コウさんが遊びに来たら、オタクトークになってて驚いたが、そうか、お前とやよいのせーか」

 

「それに、身近に本物がいるからね」

 

ピーチはちょっと責任を感じているようだが、必要な知識があるに越した事はない。プリキュアの力も万能ではないのだ。それはダイ・アナザー・デイとデザリアム戦役で証明されている。

 

 

「そいや、シミュレーターしたのか?」

 

「みらいちゃんやいちかちゃんはその段階に到達したよ。一年戦争中の機種から始めさせたって」

 

「一年戦争からデラーズ紛争のパネル式コクピットに慣れれば、全天周囲モニターとリニアシートのは天国だよ」

 

第一世代MSのコクピットは『人類史上最悪の乗り心地』と揶揄されたため、アレックス以降のMSでは全天周囲モニターとリニアシートが採用された。ただし、アレックスのは試作品であり、ガンダム試作三号機が初の完成品である。第一世代MSのパネル式の旧式コクピットに慣れれば、第二世代機以降のコクピットは天国のような乗り心地であるという。

 

「そう言えば、地上でもビーム兵器増えたよね」

 

「一年戦争の時より出力上がってるかららしいよ。一年戦争の頃は廉価量産型までライフルが回せなかったそうな。デラーズ紛争の頃かららしいんだ。ビームライフルの普及」

 

連邦軍はビームライフルを地上で用いることは好まず、ある程度の威力が担保されつつも使い勝手のいい実弾を好む。これはビーム兵器が量産され、安定した性能を得れたのがグリプス戦役の頃と『最近』であったり、大気圏内では威力が減衰するからだ。ジムカスタムにビームライフルがなかったのは、艦艇の設備更新などの都合だという。

 

「ガチな会話ですね」

 

「ま、パイロットも仕事のうちだしさ。仕事場の空気に慣れろっていうだろ?」

 

司会者にそう答えるメロディ。23世紀世界ではチンケなテロリストでさえ、一年戦争の時代のMSのレプリカでテロを起こすので、MSは意外に普及していると言える。

 

 

「そうそう。仮面ライダー達から頼まれてたことだけど、よい子のみんなは仮面ライダーに変身する兄ちゃんたちを知ってると思うけど、最近はワイドショーでヒーロー役してた俳優が落ちぶれて、詐欺まがいの手口で生活費稼いでるってワイドショーのネタにされてるけど、『本物』が困ってるから、おかあさん達に教えてやろうなー」

 

「切実ですね」

 

「改造人間だって、おまんまの食い上げはごめんだろうさ。生活かかってるしさ」

 

「仮面ライダーもそこは変わらないんですね」

 

「そりゃそうさ」

 

メロディは笑い話の体裁を取る形で、注意事項を公にする。これは沖一也からの頼みで、彼のそっくりさんの俳優の醜聞がワイドショーで取り上げられたことで、21世紀での活動に支障が出てしまったからである。なんとも言えないが、ヒーローたる者、イメージは大切なものだ。

 

「スーパー1から頼まれてさ。あの人は改造された時点の年齢が最年長級だから、年長風の外見だろ?」

 

「改造された時点でアラサーだっけ?」

 

「そうだ。他のライダーは20代半ばまでに改造されたから、あの人は突出して外見が老けてんだ」

 

「それじゃ、一番若いのは?」

 

「RXとスカイライダー。学生の内に改造されてるから」

 

仮面ライダーへの改造には『身体的に完成されつつ、若さがある年齢』が推奨されている。本郷猛から城茂までは22~25歳前後の年齢であった。後に技術の進歩で21歳以下でも改造できるようになったので、筑波洋は21歳くらいである。昭和ライダー(改造人間であるライダー)は基本的に改造された順番で序列が決まるので、沖一也は(外見は年下)の筑波洋に敬語を使っている。光太郎も勝と耕司(ZOとJ)には先輩として振る舞えるが、ZX(村雨良)以前の先輩たちには頭が上がらない。また、基本的に大学の運動部のような雰囲気のコミュニティなので、先輩後輩関係には厳しいのも特徴である。

 

「仮面ライダーは大学の運動部のノリのコミュニティだから、やたら暑苦しいぜ。その分、序列が分かりやすいけど」

 

メロディはそこに言及する。仮面ライダーの世界は体育会系であり、文系のノリのプリキュアオールスターズより上下関係が厳しい。村雨良や南光太郎などの若造は青二才扱いであるので、プリキュア達にはなぜか優しい。改造時の年齢が23歳前後と若めだが、強面の村雨良は特にプリキュア達には優しい。曰く、『俺は女の涙を見るのは嫌いだ』との事だが、亡き姉のしずかの事が影響している。大決戦でキュアウィンディがシャドームーンに重傷を負わされた際に怒りの『ZXイナズマキック』を披露したのもあり、黒江からは『ZXさん、顔は強面だけど、気のいいあんちゃんだぞ』と評されている。

 

「仮面ライダーをトークイベントに呼べるように調整中だけど、裏話オーケーでいいか?」

 

「構いませんよ。仮面ライダーのぶっちゃけ話は大人も聞きたいでしょうし」

 

司会者に振り、仮面ライダーのイベント参加を取り付ける。仮面ライダー達も単独では情報収集に限界があるので、現役時代のような『少年仮面ライダー隊』を必要としていた。立花藤兵衛と谷源次郎亡き後の時代では組織は解散して久しいが、仮面ライダーらの現役時代にライダー隊に属していた者たちが成長し、公安職に就いているケースもあるので、再結成の余地は残っている。しかし、昭和の頃より色々とうるさくなっているので、表向きは『ヒーローとの交流と社会貢献活動の勉強の場』という触れ込みで後日、『ジュニアライダー隊』という名で仮面ライダー達のサポート組織が日の目を見る。ヒーローユニオン傘下の『T・T特殊警備』(正式名称・東京特殊警備)の運営という形で。運営の都合で仮面ライダー達のメディアへの顔出しは徐々に増えていき、本来は23世紀に生きる南光太郎以降の新世代ライダーも顔出しを行うことになり、光太郎達は困惑しつつも、ヒーローであることの意味と向き合うことになる。

 

「あたしたちは仮面ライダーより大変だよ、ある意味で。仮面ライダーより身近なヒロインだしな。だけど、現役時代と変わった事はあたしには一つある。……聞かせてあげる、女神の歌を――」

 

「あなた、ピアノはできると伺いましたが、歌えました?」

 

「現役時代といつまでも同じじゃねーよ。あたしのちょっとした憂さ晴らしだと思ってくれ」

 

司会者は巧みにメロディを歌うように仕向ける。実は彼、キュアメロディのファンなのだ。

 

キュアメロディはここで特訓の成果である歌唱力を披露する。曲はワルキューレの持ち歌である『一度だけの恋なら』である。ピーチがとっさにバックダンサーを務め、メロディは現役時代と違い、歌手としての力がある事を衆目に示す。23世紀で有数のシンガーと騒がれる美雲・ギンヌメールそのままの妖艶な歌声はプリキュアに興味がない層をも惹きつける。そして、美雲が行うポーズも真似て。曲が終わると、拍手喝采の嵐。この歌唱力は先天的なものではなく、ダイ・アナザー・デイ時に黒江が特訓させて身に付けさせたもので、黒江の幼少期の英才教育が役に立った例になる。黒江曰く『音楽のプリキュアなら、歌えるようにしろ』との無茶であった。

 

勇者(スーパーヒロイン)なら、歌えていいだろ?』

 

その考えに基づく特訓でシャーリーの潜在能力が開花したらしく、驚くほど短時間で美雲・ギンヌメールそのままの歌声と歌唱力に至った。これにはシャーリー自身も驚きの結果だ。

 

「どーだ、ドリーム。お前の持ち歌でも披露すっか」

 

「ぐぬぬぬ……それなら、こっちも考えがあるもんねー!」

 

ドリームはメロディからマイクを受け取ると、次の曲を流してもらうが、なんと、それは自分のチームのアニメの主題歌ではなく、スイートプリキュアの主題歌であった。

 

「なにィーー!?お、おま、その曲はうちのチームのぉぉ~~!」

 

「やられたね、メロディ」

 

「のぞみの分際で生意気だぞぉ~!」

 

と、完全に虚を突かれたキュアメロディ。しかも曲調と歌詞から後期バージョンである事が分かる。

 

「アコのやろぉぉぉ~……!」

 

のぞみに歌詞を教えたのが調辺アコ(アストルフォ)である事を悟ったキュアメロディは大人げなくぶーたれる。キュアドリームは『してやったり』な顔で歌っている。しかも、黒江の特訓の成果か、そこそこ上手い。映画の宣伝を兼ねていたこのイベントは予想以上の成功を収め、大手メディアもイベントを取り上げた。ドリームの『主題歌分捕り』とメロディの『一流シンガー級の歌唱力』はすぐにネットを中心に話題を呼んだ。特に、ドリームが後輩チームの主題歌を分捕ったというインパクトは大きく、ネットニュースでは『プリキュア5、後輩プリキュアの主題歌を豪快に奪う!!』という見出しで報じられ、イベントの配信動画も一日で60万再生を叩き出した。そして、サプライズは……。

 

「出だしをとちんなよ、のぞみ」

 

「シャーリーこそ、歌詞覚えてんの?」

 

「黒江さんとフェイトが流してたの聞いてりゃな。フェイト、自分が歌えんのに、ランカのファンなんだな?」

 

「子供の頃に知り合って、親交あるんだって」

 

フェイトは子供の頃に出会って以来、ランカのファンを自負している。オズマ曰く『ランカの歌は無敵だ!!』とのことである。フロンティア船団に一時滞在した時はフェイトは子供だったが、この時点では成人済みである。住んでいる世界の違いによるものだが、ランカはその時と変わらずにフェイトと接しており、シェリル・ノームもフェイトと交友がある。黒江がその後、イサム・ダイソンと親交を結んだために、フェイトもミュン・ファン・ローンや熱気バサラとも面識があるという。イサム・ダイソンは『歌っつーもんはハートがあれば良いんだよ』と述べており、ミュンの持ち歌『VOICES』が亡き親友のガルドと自分との思い出を蘇らすからか、ある種の持論を黒江に語り聞かせている。黒江はイサムの教育もあり、歌の力を信じている。シェリルとランカも実体験、ガムリン木崎から伝えられた熱気バサラの逸話でその事に奇妙な確信を抱くようになっている。その彼女たちの歌は黒江とフェイト経由で伝えられており……。

 

「行くぞ」

 

「うん」

 

メロディとドリームによるデュエット曲は『ライオン』。シェリル・ノームとランカ・リーのデュエット曲である。コスチュームは気合が入ったため、現役時代における最強形態を無駄遣いしており、そこの面でも注目を浴びた。また、ライオンで終わるかと思いや、その翌日には最強フォームで翼が生えているのを良いことに撮影陣が撮った『サヨナラノツバサ』の動画も配信された。意外な事に、歌のパートはドリームがシェリルのパート、メロディはランカのパート担当という大方の予想を裏切る大胆な構成で、最後に多少照れているシャイニングドリームが『こんなサービス、滅多にしないんだからねっ!』とぶちかますので、動画再生数はうなぎ登り。イベントは大成功だった。ちなみに、プリキュアコミュニティの長であるキュアブルームこと、日向咲は後日、『非番だったら、あたしもバックダンサーくらいできたのに~!』と大いに悔しがったが、咲は咲で戦闘面での見せ場が増えたので、それはそれでご満悦だったという。咲はコミュニティの長を引き継いだ事もあり、メディア露出の頻度は低めだが、戦闘面では元・ソフトボール部キャプテンの面目躍如で指揮戦闘に才能を発揮。のぞみたち第一期ピンクプリキュア達が指揮で信頼を置く理由を二期以降のピンク達はこれから思い知ることになる。

 

 

 

―― ウィッチ世界 64Fの基地の医務室――

 

「ねぇ、マナちゃんにめぐみちゃん。どうして、のぞみちゃんたちは咲さんを推したの?」

 

療養中の春野はるかが相田マナと愛乃めぐみの二人に問う。すると。

 

「なぎささんは向いてないのよ。他人に指示すんの。のぞみちゃんがさんざ愚痴ってたよ、なぎささんの大雑把さ」

 

のぞみたち第一期ピンクプリキュアは美墨なぎさが他人に指示できないためにえらい目にあった事を覚えているため、なぎさは『戦士としては宛にできるが、指揮官には向いてない』という事を実感している。マナはみゆきからそれを聞いていたのだ。

 

「なぎささん、ラクロス部のはずなんだけどねぇ」

 

めぐみもこれである。なぎさは運動神経は良いが、ほのかに頭脳労働を任せている都合で、自分が指示するような事は苦手どころか、できないと言っていい。それがオールスターズ戦で露呈したので、のぞみ達同世代のピンクは愚か、第二世代の後輩にすら伝わっている。

 

「そ、そうなんだ…」

 

「まー、はるかちゃんの代からはオールスターズ戦自体が収まっていったからね。知らないのは無理ないって」

 

めぐみがいう。めぐみの代までがオールスターズ戦の最盛期だからだ。はるかは実のところ、とても恐れ多くて、なぎさとは話す機会が少なかった。転移直前の共闘で初めて人となりを知ったくらいに合う機会もなかった。そのため、一年や二年違うだけで面識が多くある二人の先輩を羨ましがる。

 

「体が治ったら、キュアフローラとして戦うって約束するよ。きららちゃん……トゥインクルの事は」

 

「捜索を頼んどくよ」

 

「お願い。それと一ついい?トワちゃん、この世界で何してるの?」

 

「うーん……表向き、伯爵令嬢?」

 

「なにそれーーー!?」

 

「本人に聞いてよ。のぞみちゃんも功績で華族だっけ?」

 

「そそ、騎士爵」

 

「なぁ!?し、し、爵位持ち!?」

 

「ほら、イギリスでナイトに選ばれたーなんていうじゃん?あれだよ」

 

「昔の日本にそういう制度あったの?」

 

「形の上じゃあったよ。欧米の制度を真似たからね」

 

のぞみもこの頃には功績で叙爵を受けており、トワより早く爵位を得ている。ペリーヌとしては領主だが、共和制ガリアでは先祖の爵位を名乗るのみであり、実態はないからだ。

 

「この世界じゃ、織田家が幕府開いたせいか、史実の華族より欧米に近い制度さ。ノブリス・オブリージュが徹底されてるから、華族の家柄は苦労が多いのさ」

 

「それで、のぞみちゃんが?」

 

「英国でナイトになるのと同じさ」

 

マナはそう言う。ノブリス・オブリージュが史実より徹底されている事は史実のような欺瞞も含む特権階級ではない表れで、侯爵である黒田家の次期当主が邦佳に変わったのがその証拠である。日本側が廃止を諦めた一因はそこにある。扶桑華族は当主の戦死率もそこそこあるなど、ノブリス・オブリージュを地で行く統計がある事、華族であるために相応の負担がかかるため、華族になることは金銭的意味では喜ばしくない風潮もあるくらいだ。華族というものは苦労も多く、外聞を気にする必要もあるが、国家功労者の家柄という名誉は得れる。勲功華族はウィッチ出身者がなることも多いため、史実と違い、周囲に尊敬される。史実では高位の武家と公家出身者からは『成り上がり』と馬鹿にされる対象であったが、ウィッチ世界では、ウィッチ出身の国家功労者への労い的側面を持つ。のぞみも中島錦としてその権利を与えられ、のぞみの希望もあり、二つの名でそれぞれ爵位を得ている。制度・運用そのものが日本に存在したかつての華族制度というより、ブリタニアの貴族に近い。現地の混乱防止の観点ということで、野党中心の『扶桑華族廃止論』は息の根を止められたわけだ。金鵄勲章廃止論に続いての大失敗であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これは同時期に現地に強引に手を入れたドイツが共和制化の布石として、軍部の下士官以上の軍人を予備役に編入させようとした結果、現地の治安が最悪に悪化、NATOが治安維持のために駐留する羽目になったのを受けてのものである。現地の混乱を煽ったドイツはNATOの集会で散々に叩かれ、軍人の再雇用、あるいは福祉ボランティアへの従事を慌てて進めようとするものの、有力な軍人達は扶桑に逃れた後であった。日本連邦はこれを他山の石とし、扶桑への内政干渉を抑え込む方向にシフトする。日本側の新領の警備に扶桑軍を使うためである。日本の自衛隊では極東ロシアの国境警備は不可能なのは誰の目にも明らかだが、米軍にも極東ロシアを警備する余裕はない。国家総力戦前提の膨大な兵力を持つ扶桑陸軍はそれに駆り出されたわけである。(陸軍も史実日本陸軍の最盛期以上の人数がおり、陸自の10倍以上を誇る)――

 

 

 

 

――太平洋戦争はその分の兵力が使えない事もあり、扶桑軍は守勢に回っている。それでも尚も21世紀の平均的軍隊より圧倒的に人数が多いので、人数が多いことの一応のメリットは有る。問題は軍需産業が当て込んだ需要が未来兵器で埋まりつつあることだったりする。特に出し惜しみした航空機や装甲戦闘車両は人型機動兵器での代替も始まっており、日本の軍需産業は防衛装備庁に抗議したという。戦闘機分野や装甲戦闘車両は日本も扶桑に供給の用意があり、74式をライセンス生産に切り替えさせたのはその布石だった。ところが、政治の横槍で上手くいかず、業を煮やした扶桑はイギリスからセンチュリオン、次いでチーフテンの生産権を取得していた。この通告に日本は困惑したが、扶桑としてもダイ・アナザー・デイ以来の装甲戦闘車両不足に悩んでいる故の選択だった。日本はそれを止めるため(装甲戦闘車両は自国産を志向していたので)10式の輸出をしようとするが、その計画の国内承認に時間がかかったため、扶桑がチーフテンを生産するのを阻止できずじまいであった。これは扶桑のブリタニアとの同盟関係の賜物であったが、チーフテンは55トン。扶桑本土での運用は、1949年当時では極めて困難であった。とは言え、当面は『南洋で運用できればよし』としたり、扶桑独自の改良を施した結果、幾分かの軽量化と改設計がなされた。これは当時の扶桑人の体格では120ミリ砲弾は人力装填が難しいからで、原型より改良された点と言える。実際、戦後第二世代相当の車両は同位国の援助か、地球連邦軍の技術供与がなければ、1949年時点では生産も不可能であった。当時は第二次世界大戦後期型が充分に高性能で通るからだ――

 

 

――防衛装備庁――

 

「何ぃ、扶桑がチーフテン戦車を生産しだしたと通告してきたぁ!?どういう事だ!」

 

「扶桑は装甲戦闘車両の不足に喘いでいるのですよ。ダイ・アナザー・デイで員数外扱いで旧型をこっそり使ったのがその証拠。あんんたらがチハと九五式のみならず、当時にようやく配備が終わったチヌまで回収するから」

 

「旧日本軍の戦車など、ただのブリキのおもちゃではないか!」

 

「チヌは火力では当時の平均に届いてますよ。チハと九五式には同意ですがね」

 

扶桑軍の『装甲戦闘車両不足』という傷は大きく、当時に生産中のコンバットアーマーに軽戦車は代替中だが、中戦車とその発展であるMBTとの世代交代は必須であり、緊急でチーフテンが生産途中である。欧州戦線用に投入が予定されたが、インフラ面での問題で実戦テストのみに留まった。

 

「チーフテンは55トンだぞ!?あの世界でまともに運用できるのか!!」

 

「ティーガーより二トンは軽いのですが。それに、ラーテが完成し、ベルリンに投入しようとされてたのですよ」

 

「ドイツが止めたのも理解できる。あんなおもちゃを造るのなら、通常型の戦車を何両造れたのか」

 

「カールスラントはベルリンの自力奪還を目指していた。だから、生産していたのです。あれは解体するのはもったいないので、博物館行きです。それを思えば、チーフテンの重さなど、大した問題ではありません。彼らはそれに代わるものを求めたのです」

 

「だから、マジンカイザーや真ゲッターロボを呼び出したのか?」

 

「戦場は欧州戦線だけではありませんからな。ラーテでも怪異相手では不安がありましたが、地球を滅ぼせる力を持つスーパーロボットなら、如何なる怪異も倒せます。マジンガーZとゲッターロボの最新モデルですから。そのおかげで、ウィッチの権威が失墜しましたが。ゲッターロボGとグレートマジンガーでも良かったのですが、先方が気を使ったのですよ」

 

 

「あれは自業自得だろう。怪異と戦える事を傘にして威張り散らした報いだ」

 

防衛官僚達の会話からも、ウィッチの高慢さは反感を買っていたことが窺える。突然変異的に現れたGウィッチへの迫害ぶりも明らかとなり、彼女たちはこの時期、急速に権威が失墜していった。ウィッチそのものが軍社会から排除されかねない時代なので、迫害していたはずのGウィッチに縋るようになったのも、防衛官僚からは冷ややかに見られていた要因である。とは言え、日本からもウィッチが生じ始めていたので、扶桑のノウハウを必要としたのは事実。結果、ウィッチ兵科は『特技班として縮小して存続』という水面下での合意に達したのである。戦功で安寧を享受しているGウィッチ達と対照的に、通常のウィッチ達(特に航空ウィッチ)は戦闘機部隊と大差ない働きから、現在の規模を敢えて維持する必要は薄いと見られていたのだ。一芸特化でありながら、他兵科を見下す傾向も強かったこともあり、諸兵科連合化が進む時代には邪魔者と見做された。それもダイ・アナザー・デイで『階級の調整』が試みられた理由だが、それが反発を生み、クーデターに至ったわけだ。

 

「黒江統括官のような万能選手がほしいよ。一芸特化ではなく、な」

 

それは防衛官僚の本音だが、1940年代当時のウィッチ世界主要国のウィッチ世界のウィッチ教育は戦時を前提にしての大量養成を前提にしたものとなっており、戦前のような引退後を見越した教育は考えられていなかった。Rウィッチ化などは福音というべきだが、彼女たちは摂理に反するとして反発した結果、上位互換の魔導師などに押されている。魔法も体系と呼ぶべきものは殆ど確立されていないので、近代軍隊的組織での組織だっての運用では不利だった。生き残りをかけ、彼女たちはRウィッチやGウィッチを受け入れていく。社会的迫害への懸念もそうだが、自分たちの存在意義の証明のために。

 

 

 

 

 

 


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