――平行世界の情報が伝わると、ブリタニアは連邦の財政的維持に血道を上げるようになり、外征に興味を持たなくなった。カールスラントがドイツ連邦共和国の手で軍事的に小国化させられると、世界の安全保障は必然的に日本連邦の手に委ねられた。日本はこの流れに困惑し、『列強国は相応に軍事的負担をすべきだ!!』と自分達が血を流さないために『猛抗議』をウィッチ世界の国際連合に加えたが、ウィッチ世界の各国にはもはや、大戦を戦えるほどの財政的余力は残されていなかった。戦争があまりに長引き過ぎたわけで、キングス・ユニオンとて軍縮の時代に入ったので、国力が比較的温存されていた日本連邦は否応なしに太平洋戦線の矢面に立たされた――
――64Fはその更に最前線に立たされている。必然的に高性能機材の必要性も高く、MSも最低でもジェガンR型であるなど、デザリアム戦役で再建途上の地球連邦宇宙軍の衛星軌道艦隊よりも良質であった。アナハイム・エレクトロニクスが秘匿していた曰く付きの機材も実戦テスト名目で多数が供与されており、その中には『RX-78GP01FB』。俗に言うフルバーニアンも補充されていた――
「ゼフィランサス本体とフルバーニアンのパーツ一式か。曰く付きなの送ってきたな」
「やぁ」
「コウさん。出向ですか?」
「ああ。ブライト艦長から君等のMS隊の教導をしてこいと言われてね。ゼフィランサスと一緒に来た」
「と、言うことは換装ですか?」
「ああ。ニナもあの戦争の咎で社内での出世が見込めなくなったからね。とは言え、ゼフィランサスやフルバーニアンの戦闘データはティターンズが消去してしまってたから、改めての実戦テストが必要になったんだ。コア・ファイター型のままだが、各部を最新のユニットに置き換えてある」
コウ・ウラキはニナ・パープルトンとの完全な復縁こそ成し得なかったが、エゥーゴに属していた事が幸いし、グリプス戦役後はエリートコースを歩んでいた。デザリアム戦役の後は北米のエドワーズ基地で教官をしていたが、ロンド・ベルに転属したわけだ。
「大丈夫っすか?」
「何、あの頃は俺も青二才だったからね。今はだいぶ、客観的に考えられるようになったさ」
コウ・ウラキはデラーズ紛争が初陣の古参で、この頃には20代後半に入っている。かつてのベルナルド・モンシア達の年齢に近づいてきているが、若々しい顔立ちと童顔もあり、若く見られる。階級は大尉で、功績の割に出世はしていないが、デラーズ紛争の只中にいたため、軍内の保守派に嫌われ者なためである。黒江たちにMSのイロハを仕込んだ一人であるので、黒江たちも彼には敬語を使う。
「ゼフィランサス、まだ使えるんすか?」
「そんじょそこらのジム系よりよほど高性能を維持してるよ。設計は古いが、曲がりなりにもガンダムだからね」
ガンダム試作一号機のレプリカはフルバーニアン用のパーツも含めて納入されている。武装は流石に新型に換装されているので、ビーム・ライフルのデザインは大型機用の新型であるジェスタ用のライフルをロングバレルに改造したものになっていた。(本来のビーム・ライフルは規格が現用機と違う上、旧型であるので)
「ビーム・ライフルは変えたんすか?」
「ジェスタ用の物を改造した有り合わせのものさ。νガンダム系の物をEパック化した新型が間に合わなかったんでね。量産型νガンダムの量産のゴタゴタでアナハイムも忙しいらしくてな」
アナハイム・エレクトロニクスはスポンサーの一つ『ビスト財団』が衰退を始め、更にサイコフレーム規制の行方がデザリアム戦役後にはわからなかったが、フルサイコフレーム機に規制がかかったものの、部分的に採用する(バイオセンサーのように反応速度を向上させる目的)はνガンダム系統とサザビー系統の存在もあり、技術維持のための保有(封印は統合戦争で強いトラウマを持つ連邦政府が撤回させた。これがミネバ・ザビの政治影響力が低いことの証明となった)を名目に認められた。同時に軍が既成事実化を急いだ事もあり、量産型νガンダムは無事に生産ラインに載っている。(当初予定より高性能化されたので、νガンダムの素体とほぼ同等の性能を持つ)
「量産されたんすか」
「無事にね。ジオン共和国も無くなったし、ジオン公国も法的には既に消滅した国だ。ミネバ・ザビも戦乱期故にこればかりは呑んだようだ」
ミネバは『メイファ・ギルフォード』を名乗る、事故で来訪してしまった平行世界の同位体を羨ましがり、条約交渉とムーンクライシス事変の戦後処理後はシャア・アズナブルの協力で隠棲生活に入ったが、『オードリー・バーン』なる偽名で生活している事は市井で目撃されている。彼女は『ミネバ・ザビとしての活動』を実質は『メイファ・ギルフォード』(そういう偽名を持つミネバ・ザビ自身の同位体)に託したため、デザリアム戦役後における『ミネバ』とされるロングヘアーの少女はメイファである。
「デザリアム戦役後はメイファにすべてを押し付けたとも言えるが、彼女はザビ家から開放されたかったんだろう」
「同位体とは言え、いいんですか」
「彼女はオードリー・バーンとして生きたがった。だが、ジオンの連中は支柱として彼女を利用したがる。だから、メイファが事後処理を引き受けたんだろうさ」
メイファ・ギルフォードはオードリー・バーンに転じた同位体に代わる形で、ジオンの幕引き役を引き受け、共和国の移民船団化などの決定式典に『ミネバ・ラオ・ザビ』として出席している。髪型がストレートのロングヘアーなため、幼少期のショートヘアのままで成長した同位体とは異なる印象を与える。とは言え、ジオンの軍服姿はメイファのほうが様になっており、自分の境遇を皮肉りつつも、ミネバ・ラオ・ザビとして残された役目を果たしている。ジオンはこの頃には『歴史の一ページ』になり始め、地球連邦も反統合同盟とジオン公国の影からようやく解放され始めたわけだ。
「ネオ・ジオンのMSは?」
「残存機はサイド3の移民船団で使われることになる。ハイザックは流石に老朽化してるからね」
「移民船団の出発は?」
「『来年以降』だよ。共和国軍の移民船団護衛軍への移行手続きやら、ネオ・ジオンの機材引き渡しやらで手間取ってるのさ」
「なるほど」
格納庫で組み立てと整備を受けるゼフィランサス。フルバーニアンのパーツも納入されているので、宇宙に出れば換装するのを前提にしているようだ。MSなどの整備はロンド・ベル本隊から派遣されたり、アナハイム・エレクトロニクスの厚意で派遣されたメカニックやエンジニアが行っており、扶桑軍ではもっとも手厚い整備体制を誇っている。(とは言え、地球連邦軍基準では『普通よりいい程度』の部類だが)整備の大事さは近代兵器では特に重要であるので、501でのミーナの不手際が厳しく糾弾されたわけだ。黒江たちが幹部を務める64Fではそれを反面教師に、整備側と運用側のコミュニケーションが積極的に行われている。(ミーナAの将官への出世の道が閉ざされた理由の一つである)
「君たちも大変だったね」
「ここ最近は忙しくて。うちの軍隊でガンダムタイプを使えるのはここだけですよ」
「ガンダムタイプは専用部品もかなり多いからね。整備に手抜かりは許されない。若い頃、ゼフィランサスの調整をミスって大破させてしまったことがあって、フルバーニアンはそこから生まれたんだ。ゼフィランサスは何の変哲もないRX系ガンダムだが、フルバーニアンになると、じゃじゃ馬に早変わりする。シミュレーターをやってみると良い。」
コウ・ウラキはフルバーニアンの操作性をじゃじゃ馬と評する。第一世代コクピットの操作性とG緩和能力の限界も関係しているが。フルバーニアンはカタログ上の総推進力はZガンダムタイプに匹敵するが、身体への負担はZガンダムタイプより大きく、コウも相当に負担を強いられた。復元機は耐G技術の向上で負担は緩和されたとは言え、じゃじゃ馬である事には変わりない。
「ドイツのことは聞きました?」
「ああ。ドイツはナチス化を未然に防ぐため、旧い政治体制である第二帝政を合法的に解体した上で共和制化して、カールスラントを自分達の政治的植民地にしたかったんだろう。とは言え、ウィッチ世界はフランスが醜態を晒した挙句の果てに、あちらこちらの亡命政権が派閥抗争をする有様だからね。それを目の当たりにしてるカールスラントは帝政を形の上だけでも存続させるのを望むだろうな。ノーブルウィッチーズとして、ガリア自身が権威を宛にした事実はガリアの失態だよ」
コウもそう予測したように、ウィッチ世界では『人心をまとめるシンボル』を列強国は必要としたので、ガリアは実質的にド・ゴールの権威としての地位を確立させる道を選び、王室/皇室が存在する、あるいはした国々は王政復古や既存の王室/皇室の保全を行い、人身御供に仕立て上げ、国家統合の象徴にしていく。つまり、ウィッチ世界では民主共和制や共産主義などが栄える余地が怪異に潰されてしまった結果、『立憲君主制』が最良とされていくわけだ。怪異という脅威は皮肉なことに、共産主義や独裁主義、全体主義的風潮が近代で興る余地のみならず、権威を定めない欧州的民主共和制が史実のように栄えるだけの余地を潰していってるわけだ。また、大和型戦艦やGウィッチの例を見ても明らかなように、人心を束ねるための象徴を心理的に必要とし、戦闘の中で実効果が認められていくことは地球連邦軍におけるガンダムの地位確立の過程にも似ている。
「やれやれ。そのとばっちりでうちらは軍拡の圧力か」
「日本人は対外的圧力がないと、事態の重大さを認識しない民族だからね。これで扶桑の立場を少しは理解するだろう。軍拡で他国との文明格差が広がるが、仕方がないだろう」
「やれやれ。ガンダムGPシリーズを持ってるなんて、防衛装備庁が知ったら目回しますよ。特にデンドロビウムなんて…」
「痛いところを突くねぇ、君も」
「連中と立場上、やり合う羽目になってますからね」
「その時は俺も顔出しするよ?」
「あんたの顔見たら、ガンダムヲタクが狂喜乱舞しますよ」
茶目っ気のある黒江とコウ・ウラキの会話だが、現実は厳しいのも事実だ。日本は自国基準の技術を一気に供与し、近代化を図った。とは言え、国内インフラの入れ替えや近代化を伴う再開発は下手すれば20年以上はかかる大仕事。青函トンネルの建築も行うだろうというのは容易に想像がつく。また、東京などを史実戦後基準で再開発するには膨大な時間を必要とする。インターネットなどのインフラ整備も含めれば、扶桑が南洋でその試験を行うのも理解できるものだ。軍事面のインフラ整備や近代化も容易なものではなく、当時はまだ、上昇力やエンジン始動の速さ(第一世代ジェット戦闘機比)などを理由に、レシプロ戦闘機を緊急対応機として運用し続けている部隊も存在するほどだからだ。そう簡単にできないことは日本側も重々承知済みであり、一点豪華主義を押し通しているわけだ。(1940年代の一般兵にアビオニクスやベトロニクスの概念は理解できないだろうとする偏見もあったが)ミーナAが日本に事更に批判されたのは、一般的に『ドイツ空軍のエリート』だからであるので、ある意味では不幸であったと言わざるを得なかった。他国との文明格差とは、他国がまだTVが最新技術の時代に、早晩にPCやインターネットなどを使うようになるということでの格差で、日本からもたらされた技術で急激に近代化が進む扶桑での暮らしは疎んじられ始めた各国の軍人や予算食いと見なされるようになった科学者には『夢』と見なされた。そこも扶桑の超大国化に大いに関わっていくのだった。
――扶桑の軍事力は1945年度から一気に質の面で向上。カールスラント軍の衰退と正反対に、世界最大最強の軍隊としての旭日を謳歌し始めていた。とは言え、世界屈指と言われたウィッチ部隊も解体が進んでおり、空戦分野での衰退ぶりは目に見えて現れていた。これはMATの台頭によるものだが、当時はまだ代替役と公式には認められていないものの、かなりのウィッチが部隊単位で移籍しており、発足から三年あまりで軍のウィッチ組織を凌ぐ規模にまで急成長を遂げていた。しかしながら、自衛隊の所管とは言え、扶桑国内では代替役と法的には認められていない上、怪異の活動が小康状態にあった時期である事も重なり、かなりの数のウィッチが遊軍化している事実はウィッチの存在意義の議論を扶桑で呼んでいた。その議論を気にしてもいられない軍部は、MATの勃興で開いた穴を『日本や各国からの義勇兵でとりあえず埋める』という選択を実行。46年度から世界規模の軍縮で食いはぐれた軍人やウィッチを集め始めた。カールスラント空軍のエースたちは早期にこの動きに同調し、祖国に見切りをつけ、部隊ごと予備役編入をした上で、日本連邦への義勇兵に転じていった。カールスラント政府がその動きの阻止に動いた頃には『時既に遅し』。カールスラント空軍の英雄と言われたトップ20の撃墜王達が部隊ごと義勇兵になった後であった。日本連邦で厚遇してもらったほうがいい暮らしができるからでもあるが、英雄を切り捨てようとしたドイツ連邦に大いに問題があるのは事実。結局、カールスラント空軍は多くの有能な人材を日本連邦に合法的に『横取り』された形となった。軍縮で自力での国土奪還が不可能となった事への無力感や無気力感の蔓延もあり、『規律に厳しい』とされたはずのカールスラント軍のモラルは短時間で崩壊。悲惨極まりない内情を晒すことになったが、それと同期して、日本連邦軍が急速に台頭していったわけである。国際連盟/国際連合発行の雑誌の表紙を飾る艦艇が以前はビスマルク級やライオン級、エンタープライズ級空母だったのが、ダイ・アナザー・デイ以降は一貫して、日本連邦の象徴である大和型戦艦の血族であるのが連合軍内の地位の向上ぶりの証左であった。――
――元々は日本のダメ出しに応えるための近代化であった大和型戦艦だが、目的が『バダン帝国の海軍と戦うため』に転じてからはタガが外れ、ついには超時空戦艦まほろばに近い状態にまで到達していた。バダン帝国の戦艦が馬鹿みたいに強かったからで、他国の戦艦の殆どを時代遅れに変えた。その一方で、『際限なき重武装化』に懸念を示す日本の一派が『アイオワ級戦艦に勝てる程度の性能の高速戦艦』を志向するのも無理はないほどの大艦巨砲主義であった。とは言え、戦艦の性能水準は戦前の長門型戦艦などを完全に時代遅れとするほど向上しており、各国も大和型戦艦に追いつくために46cm砲を研究し、一部は形になりつつあったため、結果として、扶桑の戦艦のスタンダードは大和型戦艦を基本にした重戦艦で固まっていく。扶桑は51cm砲を新世代のスタンダードとしていく。怪異の進化でも『15年前後は優位を確保するため』である。怪異は地球の意志ではないか?とする研究もあったため、海の軍備の限界を極めておく必要があったのだ。海は満足できたが、問題は陸軍の装備だった。陸軍は日本が優先順位を下げる割に近代化にこだわったため、機甲兵器不足が未だ解消されず、ダイ・アナザー・デイで購入した外国製戦車が未だ現役であった。74式戦車の生産は遅々として進まず、その間に軽戦車などはコンバットアーマーに代替されてしまう有様であった。空軍はそれを補うため、地球連邦軍から供与されたジェガン以前の機種を装備化。『手足の生えた戦闘ヘリコプター』であるコンバットアーマーを補う『機動歩兵』として配備を始めている。要は余り物の処理だが、軍縮で余った新古品のMSはごまんとあったので、地球連邦軍は積極的に供与。工場と倉庫でホコリをかぶっていたネモからジェガンまでのジム系が出回る事になり、64Fと他部隊との格差是正が一応は図られた。これは兵器の不足が顕著であった扶桑のなりふり構わぬ対策の一環であり、日本の軍需産業が政府と防衛省に圧力をかける理由ともなった――
――調DはA世界の自分から経緯を聞き出す事に成功した。その際にAの師である黒江が自分として行動せざるを得ない状況になった事、そのおかげで自分が戻った後に罪悪感ができ、元の世界から旅立つ決心をした事を知った。体質の変化はその頃に起こったとAは言い、のび太の世界に行った際に着の身着のままである事に気づいたのと、外見的にのび太の両親に学生(当時)で通した関係もあって、自然とギア姿で通すようになり、黒江などからの仕送りが来るようになった後も変えなかった事を教えた――
「服は仕送りで買えるようになったんだけど、色々な理由でギア姿で通すようになったんだ。そのほうが修行にもなったから」
「……。ギアの整備の頻度は?」
「数ヶ月にいっぺん。歯医者の検診の感覚でいいくらい。常に展開状態にすると、逆にギアへの負担が減るみたいでね」
「……」
調Dは妬みを隠さなかった。自分は最終決戦を経ても、基礎的適合率はあまり向上しなかったからだろう。Aはごく自然にギアを纏っている上、形状変化で仮面ライダーたちのようにマフラーをしている。これは現在の調Aの心理が反映されてのものである。響と違い、首に巻いているのがその証拠と言える。調はある世界では科学者を兼ねていたが、A世界では正規軍人である。
「貴方達はどうなっていくの?」
「力を持った者の宿命として、あらゆる敵と戦い続ける。戦う力がない人達の代わりにね」
AはGウィッチとしての宿命に覚醒めている。地球人類の守護という大いなる目的に。それでいて、日常も大事にしている。如何な戦士も安らぎは必要なのだ。これは英霊たちも証明していることだ。また、社会のコミュニティに溶け込んで、普通に職を持って過ごすことは人間らしさの証である。
「貴方はこれから次第にシンフォギアを纏う機会そのものが減っていくと思う。だけど、それも一つの結果。私は貴方のように『普通に生きていく』ことはできなくなったけど、貴方には貴方の生き方があるし、戦いから引く事もできる。その意味をよく考えて」
Aは騎士/戦士としての生き方を選び、SONGのメンバーとは別の道を歩んだ。Dには『自分で生き方を選べ』と示しつつも、Dの力を渇望する姿勢に理解を示す。かつての自分そのものだからだ。
「あなたはこれからどうするの…?」
「時間はたっぷりあるから、いつか平和になったら、世話になった人の家でハウスキーパーでもやるさ。異世界でそういう教育もされたからね」
調AはDにそう明言した。『平和になったら、ハウスキーパーでもやる』と。ハウスキーパーとは家政婦の最上位階級を意味する単語である。調Aは古代ベルカで生活していた時期の後期には、ベルカ聖王の守護騎士と王家のハウスキーパーを兼ねる地位に置かれていたため、野比家の手伝いをするようになったのはごく自然な流れである。単に居候では悪いので、ベルカで培ったノウハウを活かし、野比家に居着いてしばらく経ち、ことはがやってきた時期に家政婦の仕事を自主的に始めた。黒江やG機関からの仕送り(連邦大学の卒業後はG機関から給与が出ている)で学費や遊興費を賄いつつ、のび助の出世、はたまた、のび太の成長で段々と体面上の理由で様々な出費が次第に増えていった野比家の家計を玉子を補助する形でだが、取り仕切った。ちなみに、のび太の両親が老境に入り、のび助の定年退職後に二人が隠居生活を始め、のび太が大学卒業からそれほど間を置かずに静香と結婚し、彼女と一端の家庭を儲けた後も野比家で仕事を続けている。
「あなた、メイドの教育を?」
「騎士見習いの時とかに上位の騎士の身の回りの世話をする古式な事してたし、その方面の教育はされるよ?近世以降の軍隊でいう従卒だと思って」
古代ベルカは『古い時代の騎士の風習と近代以降の軍隊で生まれたものが混在する』国であったという。調Aは近代軍隊的な階級制度も存在していながら、戦闘の中枢を担う魔導師を騎士と呼び、昔ながらの中世的な風習を守っていた古代ベルカで10年あまりを過ごしたため、近代軍隊の軍人としての思考と騎士としての誇りが混ざる状態になっている。騎士道精神と近代軍隊の士官としての性質を併せ持つ点はかつての『OZ』を思わせる。
「私も色々あってね。あ、ごめん、今日は訓練がこれから入ってるんだ」
「訓練?」
「新しくやってきたプリキュアの子の訓練相手をすることになっててね。話の続きはまた今度」
部屋の時計を確認した調Aは急いでそのまま駆け出し、ホテルを出、ギアの脚部ローラーで市街を疾駆しながら、64Fの基地に戻っていった。正式な入隊手続きが戦闘に間に合わなかったキュアフローラやキュアソードの護衛も兼ねて、基地で留守番をしている都合であった。(留守を預かる者も必要なので、調は戦闘には参加しなかった。療養中のキュアフローラの護衛のためでもある。キュアソードは五体満足であるので、留守を預かっている若本が監督しての模擬戦の予定が入っていた)
――演習場――
「キュアフローラ……はるかは基地で療養中だから、今日の演習は私だけか。貴方がセコンド役なの、コスモ?」
「ま、私は今月、出撃の定期ローテーションに入ってなくて暇だしね。10分くらいで相手の子が来れるようだから、待っててニャ」
「それは別にいいのだけど、私は元々、トランプ王国の守護戦士だったのよ?今更、実力を図らなくても?」
「ここには君の想像以上の猛者がごまんといるからね。『あの』キュアドリームが大甘に見積もっても、中堅がせいぜいってところで察せないかい?」
「待ちなさい、のぞみはプリキュア5の中心たる古参なのよ?あの子の実力で『せいぜい中堅』って!?」
驚くキュアソード。のぞみのことは普段は『みゆきの同類』と見ているのもあり、呆れているところが多いものの、プリキュア戦士としては一流であるのは認めていた。プリキュア戦士(中心格であるピンクプリキュアでは、最初に剣を取って戦った)としては見習うところが多いからだ。戦闘センスで明確に自分より上であると認めていたためか、驚いたのだ。
「次元世界は海千山千だよ、ソード?」
含み笑いを見せるキュアコスモ。現在のキュアハッピーとキャラは若干被っているが、コスモはイタズラっ子っぽさのほうが出ている。これは二人の気質の違いによる。
「あなたねぇ……」
呆れつつも、今の自分の実力が猛者揃いとコスモが豪語する、64Fでどこまで通用するか試したいのか、ため息の後に微笑みを浮かべる。ソードの名を冠しつつも、現役時代、『きちんとした形の剣戟』を見せたことはない事が指摘される彼女、同じチームのキュアエースが剣術を嗜むようになったことに危機感を持ったらしく、コスモが声をかけに、基地で割り当てられた部屋に行くと、キュアエースのダイ・アナザー・デイからの戦闘記録を確認していたほどであった。
「ソード……。君、焦ってるっしょ?」
「な、何よ、急に…」
「君にとって、エースは主の善の心が転生した姿だから、驚くのは分かるよ?…うん。まぁ、君は名前負けしてる感あるからね」
「機会が無いだけで、剣術自体はちゃんと訓練してたわよっ!そうでなければ、王国のプリキュアに選ばれないんだから!」
コスモの指摘に若干ムキになって反論するソード。彼女は地球出身でないプリキュアの一人であり、トランプ王国の国防を担うプリキュアの中では『有望株の新人』とされていた。彼女は王宮で歌を披露する事が多かった歌手ながら、戦士としての素質が見いだされ、プリキュアに任命された。それから一ヶ月で『ジコチュー』との戦闘が起こったのは、のぞみたちにも周知の事実だ。正式な任命までに訓練は積んでいたこと、マナがプリキュアに覚醒するまでは地球で一人で戦っていたため、戦闘術のレベルには些かの自信があるようだ。
「で、相手の子はどういう子?」
「そうだね。のぞみの姉弟子だけど、年齢は下だから、妹分のような子だよ。プリキュアとは別の力を持つ。かなり戦慣れしてるよ~?」
調は黒江への弟子入りがのぞみより早かったので、ポジション的には姉弟子にあたるが、実際は調のほうがのぞみより肉体的な年齢が下なので、のぞみは妹のように可愛がっている。コスモはそれをややこしいと感じつつも、ソードにご祝儀的な一言を言う。
「私だって、ドキドキプリキュアのキュアソードよ?見てらっしゃい、そのすました態度をボコボコにしてやるわ!」
キュアコスモは普段、目上にもあまり敬語を使わない。とにかく生真面目な(元は上下関係に厳しい環境にいたため)キュアソードにとっては鼻持ちならないらしく、演習相手よりも、コスモをギャフンと言わせたいらしい。
「私に言ってもねぇ。相手は私じゃないにゃよ?」
「わかってるわよ、そんなの~!!」
コスモに翻弄されるソード。コスモ曰く『まこぴーやトモコみたいな真面目な性格はいじりやすいニャ』とのこと。コスモの現在におけるイタズラっ子でありつつも、自分の隊内でのポジションが『緊張のほぐし役』である事を理解する高度な振る舞い方。ソードの緊張をほぐしつつ、調の到着を待つのだった。