――扶桑軍がハワイを一種の軍事上の目標としたのは理由がある。太平洋共和国の領土である事、太平洋艦隊の拠点を奪えば、太平洋での軍事行動に制限を加えられるという観点であった。日本が艦隊随伴タンカーの建造を急がせたのは、戦時中の戦訓が理由であったが、扶桑は主力艦の動力を核融合炉に切り替え始めていたので、タンカーの需要は以前ほどでは無くなっていたというオチとなった。とは言え、駆逐艦や巡洋艦、空母の航空燃料の燃料補給という観点からは有効であった。この頃に完成しつつあった巡洋艦が『伊吹型重巡洋艦』である。伊吹は1942年度の計画で建艦が始まっていたが、翌年度の終わりくらいにウィッチ空母への改装案が持ち上がり、決まりかけていたのが44年以降の情勢の変化で先延ばしにされ、(その頃には伊吹の建造率は既に60%に達していたし、史実より重装甲の設計である。旧来の軽空母というカテゴリが陳腐化したことで重巡洋艦のままで竣工)、結局は近代化改修で工期が更に延び、正式な就役開始は1948年12月末日であった。また、最上型重巡洋艦の改良型にすぎない同艦での巡洋艦の代替に日本は難色を示し、『殆ど戦艦の超甲巡よりも、安価な重巡洋艦の強化をすべきだ』とした。高雄型重巡洋艦の少改良型の建造よりも『新型重武装の重巡洋艦を建造すべし』とし、扶桑側と大いに揉めた。その折衷で設計が完了し、認可された重巡洋艦が『蔵王型重巡洋艦』である。これは超甲巡で重巡洋艦を代替しようとしたら、政治的理由で重巡洋艦の刷新を求められたという艦政本部のヤケクソで設計されたためだが、『対デモイン級』を当初から意識し、同艦級以上の装甲を与えられる予定である。扶桑からすれば『普通の巡洋艦にそこまでの重装甲が必要なん?』であったが。――
――巡洋戦艦と重巡洋艦の性能での境界が曖昧になったのはこの頃である。重巡洋艦の高性能化が巡洋戦艦のカテゴリを犯すというのは巡洋戦艦の成立を考えれば皮肉であった。これは高速戦艦が重装甲・重武装化し、もはや巡洋艦以下では歯が立たなくなったからでもある。日本連邦で『重戦艦』というカテゴリが生まれたのは、46cm砲を超える艦砲を持つ大戦艦が数的主力に移り変わりつつあったからだ。海軍力のシンボルとして復活した戦艦だが、日本連邦の不沈戦艦と化した化け物達が跳梁跋扈するようになったので、懸念された建艦競争は起きなかった。とは言え、1949年は1930年代以前に建艦した戦艦が老朽化してくる時代であるので、財政状況に比較的に余裕が生じた国は象徴的意味合いでの更新を行い始めた。ロマーニャの新型戦艦『インペロ』は旧式化したリットリオの更新用という意味合いでの整備であり、実用艦としての整備は『二番艦以降の整備による』とされるなど、興味が薄れている証であった。日本連邦は他国の戦力が実質的に宛に出来ない太平洋戦線において、『戦艦の抑止力』を重視している都合上、播磨型戦艦を積極的に宣伝した。51cm速射砲は当時の戦艦艦砲としては最高ランクの攻撃力であり、21世紀以降の高性能炸薬を使っていることもあり、1940年代の装甲材では大被害を免れないことは証明されているからだ。また、艦上構造物配置が大和型とほぼ同一なのは、日本戦艦の構造物配置のレイアウトは大和型戦艦で完成されてしまい、宇宙戦艦に至るまで引き継がれている以上は手のつけようがなかったからである。(超時空戦艦まほろばが大和型戦艦のレイアウトを受け継いでいるのも決め手であった)大和型戦艦のシンボル性は日本側のほうがよく理解していたので、艦橋構造物の大幅なデザイン変更を拒んだ。そこも扶桑の造船官が逆に困惑した点である。結局、『大和型戦艦の血を受け継ぐ事』を重視して、艦橋の外見的な機能性そのものよりも『戦艦大和のシンボル性』が重視されたこともあり、超時空戦艦まほろばのデザインにする案が採択された。(扶桑側は播磨型の後期型からは近代的なステルス性を重視した艦橋に変更することを検討したが、『戦艦にステルス性を求めるのは大間違い!!必要なのはハッタリなんだよ、ハッタリ!!』とされたため、大和型戦艦で完成した塔型艦橋の基本デザインを引き続き、用いることになった)戦艦の存在は日本連邦評議会で軍事予算を確保するための手段と見做されたのもあり、大和型戦艦からの大幅なデザイン変更は出来ないという制約が生まれたものの、武装の進歩でミサイルやエネルギー兵器などが搭載可能になったため、その方面での自由度は確保されていた。不満を持つ造船官らは武装のテストで宥められていたわけだ――
――日本連邦の兵器の果てしなき高性能化は史実での太平洋戦争での無残な無条件降伏に伴って、まざまざと見せつけられた『お互いの基礎科学力の差』に起因する強いトラウマが引き金になって引き起こしていた。『アメリカの物量を打ち破るには、絶対的な科学力の差が必要』と強く認識したからである。それが1949年時点での政治側の認識と現場の認識のズレという歪みとして顕現している。そのため、ダイ・アナザー・デイで扶桑が生産済みであった既存兵器を『鉄くず』と罵倒し、強引に回収という愚行を引き起こし、数年後における『雑多な戦車が混在する機甲部隊』という現状を生み出してしまった。少しでも改善しようと、センチュリオンとコンカラー、チーフテンのライセンス生産が日本側に事後通告で行われていたわけだ。74式の生産が遅延を重ねたためである。欧州系兵器を極端に嫌う防衛官僚だが、兵器そのものの数が足りないことは充分に認識していたため、渋々ながらも認めざるを得なかった。ダイ・アナザー・デイでの陸軍部隊の苦境を一握りの超人頼りで乗り切ったことは自衛隊には屈辱だったが、ウィッチ部隊が『特別扱い』されることが無くなった中でも、それに値する働きをしていたのが64Fである。
――2020年最後の安全保障会議――
「何故、他国のウィッチを受け入れているので?」
「本国を予備役になった後に義勇兵として来たのですよ、彼女らは。断る道理はありません。貴方方が10代前半の入隊を規制した以上、他国で実績のあるウィッチを金でヘッドハンティングせねばならんのです。他国から抗議がくるくらいにね。やってるのは野球のスカウトだと、現場はぼやいとります」
「魔導師のような永続性がないのが泣き所だからな。今の入隊者は10年後にはやめとるだろうから、仕方ねぇだろうさ」
「10年の勤務義務でも課しますか」
「軍事教育を高等教育の代替に考えられても困りますからな。その方向で行きましょう」
「学費返還は?」
「1949年の農村層がそれで萎縮している。当面は勤務義務を果たせば、士官学校の学費を免除するとしておきましょう。師範学校の在籍者を優先して教育学部に入れる救済措置で金がかかる以上…」
「学制改革もあることだし、軍への志願者減少は仕方がない。勲章などが維持されただけでも儲けものと思ってください。世の中には『軍人は白米だけ食っとけばいいだろ』なんて論調も存在しとるのですから」
「信じられませんな」
「我々の先祖は完膚なきまでに米国に敗北しましたから。負けた軍隊に対する目線というのはそんなものです。警察が貴方方に高圧的であったのも、そういうわけです」
「最近は大人しいですな」
「貴方方の歴史の方向性でしょうな。坂本龍馬が長命を保ち、織田信長も存命した。それで早期に大国になった。それが知れ渡り、気まずくなった。それに、かつての内務省もある。野党は戦後世界のような内務省の分割案を提案しとりますが、戦争中にそんな議論はしていられません」
安全保障会議では、軍部への入隊に対して農村層が萎縮していることへの対策、士官学校の学費返還の是非について話し合いが行われた。勤務義務期間を10年と設定したが、緩和の余地を残す事などが議論され、ウィッチ世界でのウィッチ入隊の敷居を低く設定すべく苦心していた。超人達に頼ってばかりでは、近代軍事組織としては好ましくないからだ。会議はまだまだ続く。その中での議題は……。
――日本政府もウィッチとして入隊したものに『10年の勤務義務』(後に7年に緩和)を課す事を検討していた。ダイ・アナザー・デイとクーデター後に精鋭部隊を除いたウィッチ部隊が機能不全に陥った教訓である。軍を高等教育機関の代わりと見ていた農村部はこのニュースに困惑し、抗議することになったが、日本からの技術流入で農機具の近代化も進み、更に都市部ではコンピュータ化も始まっていたため、収入確保のために、身分を問わずに出現するウィッチの供給を段々と再開するが、MATが全盛を迎え始めた時期と重なり、軍部はウィッチ供給不足を解消できずじまい。ヘッドハンティングはこうして公認化され、カールスラント空軍は主力を担うはずの部隊を根こそぎ引き抜かれる格好となった。しかし、一息ついた欧州戦線に戦力を置くより、風雲急を告げる太平洋戦線に主力を置いたほうが長期的に是となるのは事実である。洋上航法技能があるエースを根こそぎ、日本連邦にヘッドハンティングされたカールスラントは人材供給センターも同然に陥ったが、軍縮でエースたちに充てる職責がないために、これを受け入れざるを得なかった――
――とは言え、64Fも酷使される上、主力が相次いで産休に入り、ローテーションの組み直しをせねばならなかった。プリキュア達はこの時に編成上の主力と見做されるようになったわけだ。プリキュア達は自らの持つ力だけでは、超人や強化人間、はたまた『義体』も含む敵軍に正面からの対抗は困難であり、何機かのMSを新システム適応に改造し、使用されたケースがある。MSに抵抗がない者で、なおかつ『戦闘向けの特性ではない』者が主に使用したが、技能を持つ、あるいはシステムの簡便性から、戦闘向けの能力を持つプリキュアも使用したという。64Fの全員がMSの操縦に精通しているわけではないため、ダイ・アナザー・デイからテストされている操縦システムは太平洋戦争でも、引き続き使用された。基本的に限界性能の高いガンダムタイプが適応改造を受けているが、システムは機体に負担をかけるため、機体構造の頑強さを必要とする都合で内部フレーム厚があり、なおかつ外部装甲厚が一定水準を確保可能な大型機が適応に好ましいとされる。モビルトレースシステムより使用は簡便だが、整備時間がそれなりにかかるのが難点であった。とは言え、ガリバートンネルを併用すればだが、MSを『ガンダムの外見と機能を持つコンバットスーツ』感覚で運用可能という利点は整備の手間を補って余りあるため、『ガンダムに乗りたいが、操縦技能が生身での戦闘能力と釣り合わない』者にはうってつけであった――
――のぞみが休暇を終えた後の日の休憩室――
「うらら、何で訓練してんの?」
「ジェガンですよ。戦車なら慣れてますけど、ロボットは流石に勝手が違いますからね」
「ジェガンかぁ。あたしは、最初からガンダムタイプだったからなぁ。初期型が訓練機に回されてきてるって聞いたなぁ」
デザリアム戦役の後の時間軸、ジェガンタイプで一線機と見なされるのは『R型以降の末期型』で、それ以前の型は練習機や仮想敵機としての裏方仕事に回され始めていた。グリプス戦役後に仮想敵機として用いられてきた『ハイザック』が老朽化し、更に第一線機の世代交代で第一線機との性能差が大きくなったことでの要望であった。64Fへのアグレッサー任務を請け負った地球連邦軍のアグレッサー部隊もハイザックやハイザック・カスタムを運用しており。MS戦術の教授を請け負っていた。
「でも、なんだか不思議な感じです。戦車より動かしやすくて、戦闘機より自由が効くなんて」
「最初はそんなもんさ。違うのは、戦闘機のミサイルと違ってさ、ライフルは『ロックオンすりゃ当たる』なんて便利なものじゃない。見越し射撃の技能が必須なんだ。あたしはその点、ウィッチの技能の応用でどうにかなったけど、うららは大丈夫だった?」
「私も二次大戦中の戦車の照準器を使って、行進射してたクチなので、割にすぐコツは掴めました。これでも、戦車道じゃ鳴らしてたんですよ?」
「マナちゃんから聞いたよ。ジム系ってさ、第二次大戦のM4中戦車によく例えられるんだってさ。稼働率良し、そこそこ性能がいい、動かしやすい、整備のしやすさ…」
「自衛隊でよく文句が出ませんね」
「現場は歓迎してるよ。装甲戦闘車両の何台分かの働きができるから。政治屋が装甲戦闘車両の保有台数を規制しようとして、数合わせの日本軍式の古い装甲戦闘車両を処分してね。それで問題になってるんだ。クルクスの戦車戦みたいな大戦車戦なんて、全然考えてないって。それでMSやCB、ナイトメアフレームのオーバーテクノロジーを頼ったら、日本の防衛産業が政府と官僚に文句言ったわけ」
「日本的な顛末ですね」
「本当だよ。向こうの物量はこっちの3倍や4倍なんてのは当たり前。日本本土より広くて、おまけに平野部が多い南洋島を自衛隊に毛が生えた程度の数じゃ守れないって。向こうは平気で数千くらいの戦車を送ってくる。数ヶ月前にメガゴジラが輸送船団捕まえたけど、向こうはそんな損害くらいカバーできるし、M47が混じってるってことで官僚はパニックだしさ」
のぞみの言う通り、敵にM47パットンが混じっていただけで、官僚はパニックに陥り、ヒステリックに現場に喚き散らしている。とは言え、徹甲弾技術は遅れているので、史実ほどの脅威ではない。メカゴジラやMSのほうがよほど脅威であると、敵の捕虜はぼやいている。とは言え、日本連邦も兵器ラインが安定しないという点があり、数年は『変えないで済む』くらいの性能差が財政的にも求められている。自衛隊式の自動小銃を普及させ、対戦車携帯火器を支給させようにも、空戦ウィッチが対戦車携帯火器を輸送途中で分捕っていくことも起こったため、問題になっている。(とは言え、旧来型ストライカーが新式に置き換えられきっていない時代では仕方がないことであるが、自衛隊で使用される01式軽対戦車誘導弾などの個人携行型の対戦車誘導弾は一部の空戦ウィッチによって重爆迎撃に転用されることがままあった。それまでの主力火器であったフリーガーハマーの支給がカールスラントでの生産中止を理由に停止されたためだ)この事の解決を図るため、第二世代宮藤理論式ストライカーと第一世代型の魔導誘導弾の生産数が増やされたのは皮肉であった。
「官僚はいつでもどこでも、似たようなことしかやらないんですね」
「だから、前線の部隊でまともな装備持ってんのが、うちらを入れてもさ、ごく少数なんだよ。他は四式中戦車でさえも、そんなに出回ってないし」
「なんでですか?」
「日本が経費削減だとか、旧型の処分と博物館行きにするとかで、四年前に強引に現場から持っていったからさ。それで四年前からMSとかが緊急で買われたわけ。とは言え、コンピュータ技術の結晶のMSを扱えるのは、部隊としちゃ少ない。上は色々な人型ロボを買って、あちらこちらに回してるけれど、80%超えの稼働率、一戦あたりの戦果を両立できてるのはうちらだけだよ」
人型兵器はアナハイム・エレクトロニクス製が普及しきったデザリアム戦役後の時代においても、整備兵の練度で稼働率が決まる点があるので、ロンド・ベルの一支隊的側面を持つ64Fは八割の稼働率を保っているが、他部隊は六割程度でも良いほうだ。
「なんで八割なんです?」
「うちはガンダムタイプが主力だから、整備に手間がかかるのさ。可変機構とか複雑なのも抱えてるね。二割くらいは整備中なのさ」
「それと、性質上、生身で戦うこと多いからね。先輩達はマスクマンとか、ダイレンジャーを手本にしろとかいうけどさー。三年前のあの戦いで先輩、あたしの姿で好き勝手してくれたから、帳尻を合わせるの苦労してさー…」
「黒江さんは好き勝手してましたからね。ニンジャレッドの満月斬りもしてましたよ」
「本当!?」
「ええ。技のデパートだった上、のぞみさんの姿で柄の悪い台詞回しをしまくってたんで、えりかさん、後々までビビってましたよ」
「なぎささんとは?」
「咲さんからタネを教えられたらしく、後で気まずくなったって言ってました。まぁ、響さんも大変でしたけど」
「だろうなぁ」
「ん?プラモメーカーがやたら取材に来てますね」
「連絡機の名目で、古いレシプロ機を飛ばせる状態で維持してるからね。疾風と紫電改とか。日本には飛行可能な実機はもう無いからね。ましてや、往時のフル装備を持つとなれば」
――のぞみとうららのいる休憩室から見えるところに展示中の紫電改と烈風、疾風の三種。日本のプラモメーカーの人間向けに駐機されている姿で展示され、写真が撮られている。飛行可能かつ、実戦装備が施されたそれらの実機はもはや日本には存在しないため、64Fは運営費捻出のため、博物館の特別展示展のようなものを定期的に開催している。模型メーカーの人間がこぞって見学に来るからだ。これはエディタ・ノイマン元・大佐(1949年現在は実業家)が1945年当時にデロス島を艦砲射撃で吹き飛ばす作戦を提案した後、人間否定級に叩かれ、鬱病を患った末に三年後に正式に退役したことの教訓であった。エディタ・ノイマンは有能な将校だったが、作戦提案の選択を誤っただけで恩給無し(約半年後にマルセイユの尽力で名誉回復され、受給できた)の退役に追い込まれたこともウィッチ志願数低下の理由だったので、64Fでは広報業務に力が入れられた。それが扶桑のクーデターの大義名分に使われたため、ウィッチ兵科解消の内定の遠因である。ウィッチ兵科、その中の空戦ウィッチは戦争での実用性の低下で『飾り人形』とさえ揶揄されており、1949年では業務が楽なMATで働く方が多数派である。Gウィッチは文字通りに『軍での空戦ウィッチの雇用を守る』役目をも背負わされたわけだ――
「私達も一応、ウィッチなんですよね?」
「一応ね。とは言え、ストライカー履いて飛ぶより、プリキュアに変身した方がずっと楽だしねぇ。先輩も最近は星命点を突いて応急処置してるし。みゆきちゃんクラスの魔力でないと、実用性は低いよ」
「なのはちゃんやフェイトちゃんみたいに、ミッドチルダ式やベルカ式の魔法は使えないんですか?」
「魔力に永続性が必要だから、あたしたちなら理論上は習得できるはずだよ。普通のウィッチは手を出さないけどね」
「なんでですか」
「使用魔力量が桁違いだからさ、あの世界の魔法は。魔力量もこの世界のウィッチは平均が低めなんだって。先輩達は比較的に高めだったけど、ティアナより多少いい程度だそうな。坂本先輩もそのくらいだって聞いた」
ウィッチ世界のウィッチの魔力値は芳佳を実質上の頂点に、分かりやすいピラミッド型の階層である。ミッドチルダ/ベルカ式の魔法を会得可能な魔力量を持つ者は上位の階層の魔力量の者のみ。ウィッチ世界のウィッチでは自前での細かな制御に難があるため、ミッドチルダ式/ベルカ式の魔法を使う者はごく少数である。また、なのはやフェイトに遜色ない魔力量を持つとされる芳佳でも、なのはたちほどの魔力回復量はないために、手慣れた魔法以外の魔法の使用は控えているため、黒江が転生を繰り返した事で魔力そのものには早期に見切りをつけたのも無理からぬ事であった。ティアナ・ランスターは時空管理局局員としては『平凡な魔力量』と卑下していたが、ウィッチ世界の基準では『特に高い部類』に入ってしまう。扶桑軍への転属後は圭子の副官を務めているが、人手不足に喘ぐ時空管理局の要請で局員としての籍も形式上は復活している。これはクロノ・ハラオウンの要請によるものだ。
――ウィッチ世界の太平洋戦争の頃、時空管理局は実質的に地球連邦の傘下に入っていた。一応の形式的な権威は保持されている一方で、真の設立目的がM動乱で知れ渡ると、人心を失い、元からの人手不足に拍車がかかる形になった。質量兵器の解禁が進められたのは、首都を取り戻せなかったという事実上の軍事的敗北のショック、見下していたはずの純粋科学が魔力という才能を凌駕する局面が幾度も生じた事、時空管理局の切り札だったアルカンシェルも地球連邦軍の誇る波動砲の前には、かなり見劣りすることが明らかになり、軍事的意味での権威が明確に失墜したことで改革が始まったからである。組織としての大改革がダイ・アナザー・デイのあたりで始まり、それまで一体化していた『警察』・『司法』・『軍隊』としての機能がそれぞれ独立した部門へ分割された。とは言え、現場の要請で、フェイトやクロノなどの特に優秀な執務官は特例で『それまでの業務を引き続き行う』事と定められた。(ティアナ・ランスターを執務官として遇する事、その兄の名誉回復も決められた)ちなみに、フェイトは姉がキュアブロッサムに覚醒したこともあり、『時空管理局の執務官』という肩書にデザリアム戦役後の時点で執着は無くなっている。地球に愛着が湧いた事、姉が前世から守ってきた地ということで、執務官を辞し、正式に時空管理局の軍事部門に移籍する事を決めていた。それは義兄と義母の必死の説得で撤回させられたが、自由行動権と自由勤務権は勝ち取り、太平洋戦争ではゴルゴムとバダンの追跡調査をしている。繋ぎ目的とはいえ、獅子座の黄金聖闘士になっているため、交戦しても生き残れるからだ――
――戦線はGフォースなどの活躍もあり、小康状態を再び取り戻していた。扶桑はその間に新兵器の生産配備を急いだ。日本はその流れに食い込もうと、なんとか自国製兵器を売り込もうと画策した。74式戦車と16式機動戦闘車の失敗で数を揃えることに注力していた扶桑はイギリスからチーフテン、センチュリオンの両戦車の生産ライセンスを取得しており、機甲部隊への配備を急いだ。こればかりは日本に止める術はなかった。74式戦車は必要とする局面に間に合わなかったからだ。防衛官僚は1949年の日本列島のインフラでは、センチュリオンなどは使用できないと喚いたが、扶桑は『インフラは整備すればいい!今は南洋を防衛することが先決である!』とし、反対意見を退けた。扶桑は『兵器の数』が必要だったからだ――
――扶桑が整備した地下工廠では、急ピッチで各種兵器が生産されていた。扶桑の機甲部隊の再建のため、戦車工場では、チーフテンとセンチュリオンが74式戦車に混じって生産されていく。歩兵装備も自衛隊に準ずるモノに更新すべく、大量生産がされており、軍事博物館に収蔵された九九式短小銃以前のボルトアクション式小銃(一部は要望で狙撃銃として残置)を代替すべく、生産中である。事変前に『弾薬消費が増えすぎる』との当時の高官達の懸念で見送られた自動小銃の全面配備は事変以上の緊急事態であるダイ・アナザー・デイと太平洋戦争でなされたのである。その関係で戦争の様相は急速に近代化していったが、国家総力戦であるので、史実第二次大戦とあまり差異はない。また、ボルトアクション式と扱いが根本的に異なる自動小銃は扶桑兵への教授にそれなりに時間を必要とするので、前線部隊では、自由リベリオンから『U.S.M1カービン』を購入して使用するケースも多かった。当時の扶桑人の間では、実績のない自衛隊式の小銃よりも、使った事があるU.S.M1カービンを信頼する意見が主流だったためだ。太平洋戦争は急激に扶桑の歩兵装備をも刷新させ、1945年当時に『最も進んでいた』とされるリベリオンとカールスラントをも圧倒的に上回る近代化を成し得ていた。(それでいて、銃剣も変わらず現役である――
――軍用機の刷新も進んだため、1949年ではレシプロ機は大半が退役しつつあった。とは言え、パイロット/整備兵の教育に時間がかかっており、ジェット機の普及はまだ途中であった。ジェット機時代になろうと、空戦の様相はレシプロ機時代と本質的な変化はないため、カールスラントの予測は的外れであり、権威の失墜の要因となった。とは言え、完全に更新は済んでいるわけではなく、所々でレシプロ機は飛んでいる。これは敵味方で共通である。レシプロ機を戦闘用途に用いていないのは、64Fくらいなものである――
「でも、のぞみさん。クフィールやF-20なんて、好事家しか知りませんよ?」
「先輩が好みで揃えたんだって。…ん?うらら、クフィール知ってんの?」
「いやぁ、前世の大学生くらいの頃にミリタリー系の作品に出た事あるんです。女優としての役幅を広げたかったので」
「なるほど~。今はここが一番進んでるよ。ジェット機を戦闘用途でバンバン使えるのはね。この世界のフランスは国土自体がメタメタ、イギリスは経済の都合で上手くいってないし、ドイツは軍縮で軍需産業が死に体、アメリカは分裂で物資はともかく、人手不足だから切り替えは上手くいってない」
エンジンに高性能の耐熱合金などが必要なジェット機は各国軍部の予想より遥かに高度な技術を要する。メタ情報で時代ごとの最善の機種を選べばいいと考えていた日本連邦にとって、戦中の時代の各軍需産業の技術者のプライドの高さは予想外であった。とはいえ、ジェットには、レシプロのノウハウが活かせないことも多いために、少なからずが他分野へ転向していったが、チャレンジ精神旺盛な者などが残り、扶桑の航空産業をこれから勃興させていくのだ。
「でも、昼夜問わずにスクランブルのコールされるのは勘弁ですよ」
「仕方ないさ。うちは戦線の『火消し』の役目も期待されてるしね。50Fも、今日の戦闘で損害出てるからね。連中にはうちほどの装備は無いし、練度も一段落ちるくらいなんだ。それを考えれば、連中はよくやってるよ」
とは言え、それは陸海の出身を問わずの百戦錬磨のエースが隊員の八割方を占める64Fに比しての話で、50Fも軍部に残された熟練者を引退済みだった者も必死にかき集めて再編されたため、平均練度は64Fには劣るが、それでも現時点での扶桑空軍で五指に入る練度だ。MATがここからおおよそ、半世紀後の1990年代まで扶桑で軍役の『代替役』と正式に認められなかったのは、太平洋戦争で苦難を味わった世代のウィッチの総意だったからだ。
「あ、そうだ。うらら、のび太くんのお母さんからカレーが送られてきたから、いちかちゃんに細かい調理頼んでるよ」
「本当ですか!」
「好きだねぇ。おかげで、いつきちゃんが困ってたよ」
「いつきさんも『イエロー』ですからねぇ」
キレンジャー/大岩大太の時代から『黄色はカレー好き』という事項が有名になり、90年代頃にはステレオタイプとして定着した。それはのび太の両親も知っており、歴代のイエロープリキュアが息子一家の家にいる時にはカレーを送ってくる。明堂院いつきはカレーを好んで食うほどではないので、対応に困っているとボヤいている。(スーパー戦隊でも、『カレー好きのイエロー』は実は歴代通しても数人しかいないのだ)
「でさ、カレーのCMのオファー来てるから、受けとく?」
「お願いします」
「先輩達に伝えとくよ。それと、嵐山長官が新作カレー作ったから、試食してくれって」
「え、バルカンベースに?」
「南洋に第二ベース築いたらしいから、隣の部屋にあるプラットホームからすぐに行けるよ」
「用意いいですね」
「ヒーローユニオンとはウィンウィンの関係だしね、うち。案内するよ」
二人は休憩室の隣の部屋に設けられたプラットホームに停まっている自動運転の連絡用列車で『バルカン第二ベース』に向かう。ヒーローユニオンは日本では特殊警備会社扱いだが、公職についていないヒーロー達の隠れ蓑的な意味合いが多分にある。80年代以前なら『お目溢し』されていたヒーロー/ヒロインの活動だが、2000年代を超えると、法的位置づけをきちんとすべしとする声が官僚の中で大きくなったので、こうした位置づけの会社を設立するに至った。プリキュア達も『オールスターズ』全体でそのコミュニティに入っているなど、64Fとは持たれ持たれつの関係である。のび太は彼らに情報を提供しつつ、最近は64Fと行動を共にしている。タイムスリップに巻き込まれたと思われ、行方不明になっている親戚の『のび太郎』の行方を掴むためであった。だが、のび太郎は23世紀で名と姿を変えてテロリストになっていたのである。
――道中――
「そういえば、先輩は具体的に何やったの?」
「あの時、色々ぶっ飛んだ事してました。はーちゃんは飛天御剣流使うわ、綾香さんはオーラパワー使うわ…。あの時は言わなかったんですけど、向こうののぞみさんが僻むのわかるくらいに無双してました。おまけに、あの時はまだデビュー前のはずの響さんとエレンさんも暴れたんで、相当にハートキャッチの二人がヘコんでました」
「だろうなぁ」
「エースとスカーレットも剣戟してましたから、相当にヘコんでました。えりかさん、相当にびびってましたよ」
「向こうのあたしが喚くはずだぁ……」
肩を落とすのぞみだが、咲と舞はタネを知らされていた事や、かれんとこまちに事情が知れ渡ったので、いいところもあった大決戦。
「でも、綾香さんの姿勢が私達を動かしたのも事実です。もちろん、のぞみさんがヒーローユニオンに救援を頼んでたことも」
「あの時は必死だったから。昭和ライダーが動いてくれたのは嬉しかったよ」
「彼らの強さは見習いたいです。それと、大軍団を前にしても、果敢に挑む姿勢も。あの戦いは今までで一番、精神的に堪えましたから。バグも使ってきましたから」
「え、あれを?」
「ラフレシアとザムス・ガルのコピーを使ったんです、連中は。それで隊長がF91の最大稼働で落としたんです」
「F91の最大稼働を?」
「ええ。質量を持った残像したんで、驚いてましたよ」
「あれ、幻惑に有効だけど、整備班が泣くんだって。装甲の金属片を剥離させて起こすから」
「そうなんですか」
「ニュータイプや強化人間でも捉えられないから、機動力でF91が随一って言われたんだってさ。量産型じゃ過剰性能扱いで省かれてたけど、エース・パイロットがそれを要望したから、二期ロットからは機能が復活してる」
F91は量産されたものの、結局は量産型としては高コストになったので、その特徴を受け継いだ『ジェイブス』が生産された。しかし、ミッションパック式にしたことで不評であり、ジェガン改装のフリーダムが数的主力になってしまう事になった。ジェイブスの失敗はミッションパックが機体サイズの都合で専用品であること、F90を意識しすぎな点である。なお、採用後の型式番号はジェイブスが『RGM-153』、フリーダムが『RGM-196』である。とは言え、ガンブラスター以上の基本性能を誇る新造の正統なジム系であるジェイブスは『ヴェスバーパック』装備を機体の基本装備に設計し直したタイプが検討されている。これは連邦正規軍の意向であり、ミッションパックでスペースが圧迫されることを嫌う空母機動部隊の要望も絡んでいた。予算対策で『B型』という名目で設計され始めている。
「ま、SガンダムやZZほどじゃないってさ」
「プラモで見ても複雑そうですしね、あれ」
「小型機も高度な構造を持ってるのは整備しにくいとかで嫌われてるそうな。リガ・ミリティアのは少数しか残ってないそうだし。それでジム系の新型が模索されてるんだって」
「そうなんですか?」
「プライドもあるんだよね。連邦ってガンダムは造れても、量産型はダメってイメージついたから、ヤケクソになってるそうな」
「どこもイメージは気にするんですね」
「ともいい難いよ?なのはは4年前にやらかしてからは、自分への印象を気にしなくなった感あるから」
「聞きました。色々なミスが重なった結果じゃ?」
「うん。あれは色々な組織に波紋起こしてね。なのははあれで出世コースから完全に外れた。時空管理局も人手不足だから、英雄扱いの局員を手放したくないってんで、名誉職に近い扱いにして、事実上の飼い殺しさ」
「なんだか、大人の事情ですねぇ」
「先輩も似たような事情で出世したようなものだし、大人の事情ってのは軍隊じゃあるんだよ」
「のび太さんと東郷さんのことが表ざたにならないのと同じですね?」
「裏世界のことは表ざたにしないのが、大人の世界の暗黙のルールなんだよ。冷戦時代のスパイ合戦が表ざたにならなかったようにね。裏じゃ、下手な軍隊より悪どい事を企業もおおっぴらにするんだから」
これはアナハイム・エレクトロニクスが実際にシルエットフォーミュラ計画を政府の援助の下で遂行した事例を指すものだ。裏世界のことは表ざたにしないことは冷戦時代からの慣習であると。(とは言え、のび太とゴルゴは政府や国連の諸組織の間では公然の秘密として扱われており、どう扱うかが国連安保理の主要国の議題になったこともある)
「産業スパイですね?」
「アナハイム・エレクトロニクスも政府に取り入って、それをやった事ある。しかも半官営の企業に対して」
「いいんですか、それ?」
「サナリィにも非があるから、結果としては喧嘩両成敗だって。ただ、アナハイム・エレクトロニクスも月の工場が少なからずやられたから、軍も工廠を復活させざるを得なかったそうな」
アナハイム・エレクトロニクスがネオガンダムやその後継機『センチュリーガンダム』を制作するに当たって、アナハイム・エレクトロニクスに高性能小型MSとミドルサイズMSを制作する技術を与えるように仕向けたのは地球連邦自身であるので『マッチポンプ』として、クロスボーンを利用したと言える。そして、ザンスカール戦でサナリィが咎を受けたので、アナハイム・エレクトロニクスは棚からぼた餅の要領でMS部門の中興に成功したわけだ。(これは地球連邦軍の機動兵器の部品の多くがアナハイム・エレクトロニクスグループの製造する部品を使用するという、地球連邦の政治的都合もあるが)
「そんなわけ。大人の事情なんて、教師時代から死ぬほど見てきたし、体験してるから、うんざりしてるんだけどね」
「なんだか、疲れてますね」
「まぁね」
のぞみは前世での成人後からの今まで、大人の事情に振り回されてきたので、うんざりだとぼやく。そうした事を前世からの職業柄、それとなく理解できる春日野うららはそうしたボヤキに共感する。そんな話をしている間に地下鉄は中間地点を通過する。
「あ、中間地点を通過したみたいです」
「あと15分位だね」
「ゆっくりですね」
「緊急用じゃないからね。普段の連絡用だと、そういうもんさ。バルカンベースの最下層に行くから、海底トンネルに入ってるんだ。それと敵に発見されないように工夫してあるから、日毎にルート変えてるんだってさ」
二人は連絡用の地下鉄でゆっくりと第二バルカンベースに向かう。暇なので、会話をして時間を潰す。うららは現役時代は『天真爛漫』という言葉が似合うほど、行動も天然気味であった先輩ののぞみが今は『大人の理屈』に振り回されて疲れ果てた社会人の様相を呈している事に、『現役時代からの時間の経過』を実感する。
「お互いに『歳』をとりましたね……」
「現役時代から、感覚としちゃ随分だもの。子供たちには見せられないけれど、偶には愚痴の一つも吐きたくなるさ。社会人ってのは楽じゃないからね」
「ええ。私もオーディションに落ちたりした時は落ち込みましたから」
「向こうについたら、ノンアルビールでも一杯やる?」
「ですね。溜まった後は、温泉入って一杯ですよ」
「バルカンベースの温泉、肌にいいんだってさ」
精神的には大人である二人の会話は『Gウィッチ』も一社会人であるという事の証明であった。ヒロインとして俗っぽさ全開だが、内容はどこにでもいそうな『社会人』の会話である。ノンアルビールであるところは自分たちの外見年齢を考えている事が分かる。どことなくのおじさん臭さもあるが、それが却って、彼女達の社会人としての俗っぽい悩みを際立たせていたのだ。