――23世紀。ジオンは消滅し、ラプラスの箱も開示されたが、それで世界が変わったといえば、変わなかった。サイド3のジオン派、連邦、ビスト財団の考えるように連邦政府は揺るがず、(ドラえもん達が連邦政府を過去の人間として肯定した事もあって)、スペースノイドが既に戦乱の火種となる時代になっていた事もあり、箱の効力はもはや失われていた。ミネバ・ラオ・ザビも連邦の手で『宇宙戦乱期に技術を封印しようとした愚かな小娘』というレッテルを張られようとした。ミネバはそのレッテルをなんとか否定しつつ、平行世界の自分である『メイファ・ギルフォード』にジオンの後始末を託し、『オードリー・バーン』として生きる道を選んだ。それはシャア・アズナブルも認め、後押しした。こうして、地球連邦は外宇宙との戦乱期を迎えることで中興を迎えたのである――
――地球連邦軍も仮想敵がジオンから外宇宙の敵性国家に移行し、外宇宙艦隊が主力編成に移行していく時代を迎えた。それに伴い、内惑星艦隊は縮小された。連邦政府もけして財政状態がいいわけではないからだ。その分の人員は有事即応部隊へ回され、資源の有効活用が図られた。軍のエース・パイロットだったユングならばの即断即決であった。旧式化したマゼラン、サラミスの売却と解体で得られた資金は新型MSの購入、福祉を回すための資金へ回された。地上軍はこの時に、やっと新鋭機を回されたわけである――
――とは言え、ジオン派(旧ギレン派など)のテロが根絶されてはいないわけではないのも痛いところだ。以前ほどの頻度では無くなっただけで、テロ行為は色々な時代の思想などが混在して行われている。ウィッチ世界のティターンズはそうしたテロリストからもMSを購入し、ダイ・アナザー・デイで失われた自前のMS戦力を立て直していた。ウィッチ世界はティターンズがリベリオンを傀儡国家としたことで本格的な大戦期を迎え、ウィッチが特別視される時代が終わりを告げた。ティターンズ残党は『今回の歴史』においても『ガンダムMk-Ⅴ』などのグリプス戦役時の高性能機を虎の子として保有しており、連邦正規軍に対抗できる術があるのには変わりなかった。ウィッチ世界は彼らの存在で軍事的変革を余儀なくされたが、空母の加速度的な大型化、艦載機のジェット化は多くの国に空母機動部隊保有を諦めさせる結果となったので、日本連邦は他国の意向もあり、国家総力戦に耐えうる軍備を揃えるように促されたと言える。日本側の世論は力を軍に持たせたくたくはなかったが、ウィッチ世界の世論がそう仕向けた以上は仕方なかった。問題になっている『一点豪華主義』は軍事費圧縮を目論んだ日本側が押し進めた結果だったと言える。――
――21世紀と23世紀。二つの世界の思惑に振り回されたウィッチ世界では結局、ウィッチの権威が失墜し、ウィッチ装備の更新重要度が下がる結果を呼んだ。特に空戦ウィッチはサボタージュを行った事もあり、扶桑では穀潰し扱いされる事も増えてしまった。差別抑止のために従軍記章と武功章が『自分は国のために戦った』証明のように使われている。変容し始めた扶桑社会で生きていくためのウィッチの防衛策であった。従軍記章の授与対象が『東二号作戦発令時にリストに載っていた全員』になったのも、東二号作戦の撤回で『実際に欧州戦線に参加出来なかった人数が多かった』からで、金・銀・銅で等級が部内で区別が図られたのは、実際に最後まで従軍した者は精鋭部隊に属した者だけで、実際は他地域の防空に回されたり、戦役の途中で負傷して後送されたか、輸送途中で動員令の根拠が消え、輸送艦の寄港地に軟禁された者が多数派だったからである。日本もその実情に些かの罪悪感があり、太平洋戦争ではその人員を優先して前線に配置したが、負傷率も高かった。軍の治癒ウィッチの大半は宮藤芳佳のそれほどの効果は見込めない技能でしかないので、それが治癒ウィッチたちの自信喪失に繋がったのは否めない。時空管理局の医療設備が基地に導入されたのは、治癒ウィッチ達が自信喪失で、相次いで予備役に編入願いを1948年に出したからだ。その対処で軍部は医療技術水準を23世紀世界の水準にまで上げなくてはならなかった――
――皮肉な事に、治癒ウィッチの減少が基礎的な医療技術を飛躍的に向上させたわけだ。芳佳は致命傷でも治癒させる事ができるが、彼女以外の治癒ウィッチは『応急処置』の域を出ない治療しかこなせない。芳佳の才能の異常さが際立ったわけだが、治癒魔法の精度は個人の魔力量と訓練度に依存するため、ナノマシンなどで四肢の欠損さえ再構築が可能となった時代の高度医療に比して、精度が安定しない問題がある。時空管理局のカリキュラムが導入されたのは、体系化が必要とされたからだが、期限付きの能力故に、魔法の体系化が殆どなされていなかった事が兵科の価値を低下させてしまったわけだ――
――南洋に築かれた第二バルカンベース。そこは64F基地と繋がっており、太平洋戦争における連合軍の秘密基地も兼ねていた。スーパーロボットの大規模整備設備を備え、ジャガーバルカンなどの歴代母艦の発進基地機能も維持されている。そのため、海中にある部分だけでもかなり広大である。嵐山長官からカレーの試食に呼ばれたのぞみとうららは、片道30分の地下鉄でバルカンベースを訪れた――
――第二バルカンベースのプラットホームは複線になっており、人員の連絡・物資の輸送などに活用され、駅になっている部分も大都市のターミナル駅と同レベルの大きさである。その内の人員輸送用ホームに降り立った二人。うららが案内標識を見てのぞみを導く(のぞみは現役時代が超弩級の方向オンチだったので、チームメイトからは方向感覚は信用されていない)形でエレベーターに乗り、嵐山長官のいる食堂についた――
「やぁ、来たね」
「長官が自分でカレーを?」
「私は太陽戦隊の現役時代には、偽装で食堂を営んでいてね。その名残りと言うべきか、カレーづくりを続けているのだよ」
嵐山長官。地球守備隊(地球連邦軍の前身の前身組織)の高官であり、80年代初頭の自衛隊の最高幹部でもあった。バトルフィーバー隊の倉山鉄山将軍が確立させた地球産スーパーロボットに『変形合体』の要素を加えた事でロボット工学で功績のある科学者でもある。また、サングラス姿が印象的なナイスミドルでもある。
「君たちも呼ばれたのかい」
「飛羽さん」
「長官は君たちのような女の子の意見も聞きたいそうだ。第三者のね」
「娘では、身内のサービスが働きそうでね。第三者の意見を聞きたくて、君たちを呼び出したわけだ」
「嵐山長官は海自のご出身なんですか?カレーにこだわるのは……」
「世代的には、防大生え抜きの初期になるな。若い頃はヘリ搭載護衛艦もない黎明期でね。太陽戦隊の時代は、しらね型護衛艦が最新鋭だったよ」
太陽戦隊サンバルカンの現役時代である80年代初頭の頃の海自は経済が上昇傾向に入ったこともあり、拡大期に差し掛かっていた。嵐山長官は防大出身の最初期の世代なので、しらね型護衛艦が最新鋭の頃に高官になったと述べた。のぞみとうららの時代はひゅうが型護衛艦が建造中である頃なので、如何に過ごしている時間軸に差があるかの証明であった。
「しらね型ですか」
「君たちの頃には退役が近い老兵になっているだろうな、ハハハ」
「えーと、のび太君の頃には、いずも型護衛艦が空母になるっていうから、長官のおられた時代からは…」
「40年かかっとるね。それだけ経てば、時代も変わるものだよ」
嵐山長官は大日本帝国海軍が消滅し、ほぼ0の状態から建て直されていく時代に生きるため、のぞみとうららが本来いた2008年前後の『世界有数の外洋海軍』にまで再成長した姿には感慨深いものがあるようだ。
「飛羽さんは空自ですか?」
「君等の上官の綾香ちゃんの入隊した頃の高官になり始めた世代が俺と大鷲の世代だね。俺の入隊したての頃はファントムが一番新しくて、マルヨンとセイバーも残ってたからね」
バルイーグル(二代目)の飛羽高之は前任の大鷲龍介と同じく、空自の出身。当時の最新鋭機であるF-15Jのパイロットであったという。81年当時に20代半ばであるので、イーグルドライバーとしては最初期の世代にあたる。なお、電子戦隊デンジマンの現役時代にセイバーは退役しているので、飛羽と大鷲はちょうど世代交代期に入隊したことになる。
「俺と前任の大鷲は空自の同期でね。地球守備隊に出向になる前は腕を競い合った仲だ。それで太陽戦隊に選ばれたんだ。選抜ももちろんされたけどね」
黒江が空自に入隊したての頃、古参の隊員が引き合いに出したパイロットの中に、大鷲龍介と飛羽高之の名があった。80年代の空自のエースとして記録されていたからだ。
「先輩があなたのことを尊敬してるのは……」
「どうやら、俺は未来で『空自の出した歴代最高のパイロットの一人』として言い伝えられてるみたいでね。コズモバルカンに比べれば、イーグルやマルヨンなどは容易いものだよ」
飛羽と大鷲の元の所属部隊などについては、黒江が統括官になった時代には記録が残されていないが、ごく一時期にF-104Jに乗った後にF-15に機種変更したという事は記録が発見されている。その事から、15に変更した邀撃部隊に最初は属していたのでは?と黒江は推測している。黒江が自衛官として駆け出しの頃に古参の隊員から『彼ら以来の逸材になれる』と太鼓判を押された事があると言うことを飛羽に伝えたのぞみとうらら。
「俺と大鷲はかの有名なロックの後輩の世代でね。俺と大鷲は彼のようになろうと、腕を磨いたものさ。そうか、そういう風に伝わったのか」
微笑む飛羽。大鷲は戦いの途中でNASAにスカウトされて出向。後にNASAの宇宙飛行士になったという記録があるが、飛羽のその後の進路については書類の散逸で不明だ。
「伝えておいてくれないか?俺は戦いの後に飛行教導隊の最初の一人になっていると。綾香ちゃんの時代で言う教導群の前身だな」
飛羽は腕を見込まれ、設立当初の飛行教導隊(後の飛行教導群)に招かれて、属している事を自分で明かす。彼は教官資格を持っているため、少なくとも、ブラックマグマが滅んだ直後はアグレッサー任務についたらしい。
「え、教導群の前身に?」
「俺の時代になると、アグレッサー任務を自前でこなせるようになってたのさ。その後の任地は当時の最高機密でね。記録に残されていない機密飛行隊なんだ。綾香ちゃんの時代には探れんだろう」
「綾香君の頃に正式に編成された事になっているGフォースの前身だよ。それで飛羽の記録が殆ど後世には残されていないのだ。オーバーテクノロジーの利用が軌道に乗りだした時代だ、表ざたになれば、政治家によって破棄されるのは目に見えていたからね」
嵐山長官も補足する。Gフォースには記録に残されていない前身部隊が存在し、公然の秘密であった事、鉄山将軍が主導し、彼の更に先輩ら(旧軍出身)の頃から極秘裏に続く『旧軍の遺産の具現化』をサンバルカンの時代に軌道に乗せ始めたのだと。つまり、メーサー殺獣光線やスーパーX、メカゴジラを実現させた『旧軍から引き継がれた極秘研究』が80年代の始め頃に実用試験段階に到達したのだと。
「だから、松代に特撮みたいな超兵器が保管されてたんですね」
「松代大本営跡には元々、ラ號やまほろばの補給拠点となるためのスペースがあった。そこに我々も秘匿したのだ。歴代の幕僚長や総理大臣しか詳細は知らされておらん」
「もしかして、吉田公の時代から?」
「彼が承認したと伝えられている。彼は元々、将来の有事を懸念しておられたし、自衛隊に対する法制の厳しさを悔いておられた。旧軍の高官から得た轟天計画の遺産を黎明期の幹部に託したのだよ」
吉田茂は一般には反戦的な政治家とされるが、元が外交官であるので、現実主義者である。大日本帝国が解体された後、追求を逃れるために秘匿された大日本帝国軍の最大の遺産である轟天計画の情報を掴み、旧軍の高官らを抱き込み、国土を守るために極秘裏に計画を再開させた。当然、当事者の生存中にそれは実現しなかったが、1980年代にプロトタイプを経ての実用試験に到達したと、嵐山長官は明かす。のぞみたちの上官の黒江が自衛隊の最高幹部であるためだ。
「だから、いきなりスーパーXなどは造れんと言うことだよ。地道な研究でモノにしたのがメーサー殺獣光線車であり、スーパーXシリーズなり、メカゴジラなのだ」
「その割に、スーパーXは電磁パルスに弱かったような?」
「強大な電磁パルスに遭遇することは考えられておらんよ。元は核シェルターに近い代物を有事に備えて武装したにすぎんからね」
初代スーパーXは強固な構造を持つが、搭載電子回路に対する電磁パルス攻撃をあまり想定しなかった結果、90年代までの試験で回路が何らかの試験中に全損、乗員が全員死亡という痛ましい事故を起こしたという。X2は無人操縦であったが、X3で有人に戻され、2010年代の大震災で原子力発電所の沈静化の指令が来るのを待っていたが、革新政権がその存在を知らなかったというオチがついている。なお、当時の革新政権の関係者はその存在を防衛省から知らされても『フェイク』と嗤ったが、本当にあったのを目の当たりにすると責任転嫁する始末であったので、防衛省はこれで秘匿兵器の公表を政権再交代まで控えたとの逸話がある。
「君等の時代にあったという大震災の時に、Gフォースの持っていた研究を用いればな。たらればの話だがね」
Gフォースは前身時代から核反応抑制の研究も行っていた。原爆への恐怖心を持つ世代の人間達から引き継がれた研究で、1990年代にそれは実用段階に達していた。投入の機会である2010年代の大震災で使われる事がなかったのは痛恨の極みだと、当時を知るGフォースの隊員は語る。
「私もその研究に携わっていてね。後世に存在が知られていないために死蔵というのは堪えるよ」
核反応抑制の研究が実用段階に達していたから、歴代の保守政権は原子力を推進した。それが世に知られたのは2018年と最近のことだと伝える。この研究の存在は原子力研究に波紋を呼んだとも。
「「まぁ、あの政権に良い様に使われるよりマシだったのかもしれんがな、下手したら震災復興後に解体とかされてたかもしれんぞ、あのルーピー共ならな」
「言いますね、長官」
「この前にそのご祖父の一郎翁に会う機会があってね。瞬間的にお湯を沸かす勢いで怒っておられてた」
「脳の血管切れそうな事を…。だから、総理大臣の椅子をこの世界で逃すんですよ」
のぞみも黒江がY委員会の幹部であるため、黒江に連れられ、鳩山一郎に会った事があるらしい。鳩山一郎はウィッチ世界では総理大臣になる前に病を得てしまったが、意欲は健在であり、21世紀に生きる孫を怒ってやったと語っていた。
「のぞみさん、いつの間にそんなに偉く?」
「先輩が委員会の幹部なの、話したでしょ?その関係。黒田先輩が事業の関係で委員会に出られない時の代理。お偉方ばかりの会議に先輩たちが普通にタメ口だよ。ハラハラもんだよ」
黒江たちは委員会の幹部である政財界の重鎮や軍の最高幹部らと友人関係である。吉田茂も黒田は『吉田のおっちゃん』と呼んでいるほど。黒江たちが普通にタメ口なことに、代理で付き合わされた事があるのぞみは『生きた心地がしない』ほどハラハラ・ドキドキだった。ちなみに、のぞみが初めて、Y委員会の会議に連れて行かれた時に同席していた山下奉文陸軍大将(64Fが陸軍所属時の上位編成の責任者)に対し、黒江が『山下のおっちゃん、景気はどー?』とフレンドリーに話しかけた時には顔面蒼白になったとの事。
「あの子は人懐っこさと口八丁を持つ『人たらし』だからね。お偉方に気に入られやすい。それがコミュニティで疎んじられたというが、かわいそうだと思う」
「先輩、上に気に入られやすいから、仲間内で敵視されやすかったって聞いてます」
飛羽は黒江の口八丁と人懐っこさは諸刃の剣だと教えた。黒江は家庭環境もあり、人の心を掴むことはどういうことかを自然と学んでいった。だが、ウィッチのコミュニティでは、その特技は敵視されやすい傾向にあり、黒江は事変後にそれに直面した。基本的に実直で誠実である黒江は求心力が備わっており、軍の幹部らはその姿に未来の将器を見出したからこそ、事変の頃からかわいがった。だが、その誠実さは上層部が経験のために後方に下げた時に裏目に出た。機械より正確にテストの結果を感じ取れる固有魔法があった事が周囲のテストパイロットの嫉妬を呼び、組織だってのいじめに遭ったのだ。その時の騒動はのぞみも周知の通り、天皇の判断を仰ぐに至り、エースパイロットである者は前線で使い倒すべしとする暗黙の了解が生まれるに至る。ミーナは結果的に、(知らなかったとはいえ)その問題が蒸し返されるきっかけを作ってしまった上、人種差別の疑惑がカールスラント空軍にまとわりつく要因となったため、人格の変容がなければ、軍法会議で下士官への降格すらあり得たのだ。
「ミーナ君……人格変容前の彼女だが……はあまりに無知だった。単純な無知であれば、まだ良かったが、査問の直前に取り繕おうとした形跡があると報告されたのが心象を悪くした。パットン将軍が裏で庇う事をしなかったり、人格の変容が起きていなければ、軍刑務所行きもあり得たと、ロンメル将軍は述べられてたよ」
「どんな事を取り繕おうと?」
「そうだな。カールスラントの沽券に関わるらしいが、坂本大佐曰く『自己保身に走っていた』とのことだ。二回目の査問は密告がきっかけだから、整備兵の扱いに関することだろう」
ミーナは人格の変化の直前に自己保身に奔った形跡があるのは、坂本が知っていた。坂本が失望し、半ば見放していたほどの浅はかな行為。推測するに、書類の改ざんだろうか。整備兵への箝口令だろうか。事後となってはわからないが、坂本が『名誉に関わる』としばらく伏せていたほどの事。
「まさか……坂本先輩に……?」
「そんな、どこの女子校ですか…」
うららはのぞみの言いたい事を察したようだ。
「それが原因なのか?」
「前になのはが言っていたんですけど、ミーナさんの坂本先輩を見る目が『部下を見る目』じゃないって、坂本先輩に言った事があるそうで。坂本先輩もその時は否定したそうなんですが…」
飛羽もまさかと言いたいようだ。坂本が整備兵の扱いの改善を試みていた事はダイ・アナザー・デイの際に知っているが、ミーナが黒江らを当初は敵視し、表立っては整備兵の待遇を変えていなかったのか?根源にあるものが、ある意味では幼稚と思える感情なのは、立場的に考えにくいからだ。
「坂本大佐、男前ですからね。その大佐が自分を頼ってくれないのを妬むのは充分に……」
「そんな、ミーナさんは佐官だよ?陸軍なら大隊指揮官でいい地位だよ?そんな人が……」
「個人の感情は時として損得勘定を超えるよ、のぞみちゃん。君もそうだったろう?」
のぞみは二人の言葉に頷くが、あまりに信じがたいらしい。
「坂本君は言っていた。ミーナ君には整備兵になっていた幼馴染がいて、引退後に結婚を誓い合っていたと。純白のドレスを家に残していたとも」
「そんな、昔のフランス映画で…そうだ、黒衣の花嫁だ!それじゃあるまいし…」
ミーナの幼馴染のことは坂本も知っていたし、黒江も転生を重ねる事で知った事項だ。だが、今回の歴史では『純白のドレスが黒い喪服に変わった』という『黒衣の花嫁』という1960年代のフランス映画のような経緯が存在し、黒江も驚いている。怪異によって『幸せの絶頂から奈落の底に落とされた』経緯はその映画を思わせるほど悲劇的であった。のぞみがその映画を知っている事にうららも、飛羽も、嵐山さえも驚く。
「のぞみさん、なんで知ってるんですか?ヌーヴェル・ヴァーグの名作だけど、暗いし、復讐劇の映画なんで、知名度は」
「おばあちゃんが持ってたんだ…。おばあちゃん、フランス映画好きでさ……」
うららの知識も正確ではないが、のぞみも祖母が持っていたのを見かけ、後であらすじを調べただけであると、はっきりと明言した。のぞみは活劇などが好きだったので、アンニュイなところを持つフランス映画とは本来は縁がないのだ。
「フランス映画はアンニュイなものが多いからね。シェルブールの雨傘、シベールの日曜日、太陽がいっぱい…。若い頃に見たものだよ」
「私、父がフランス人なので、父に薦められて見ました。ロシュフォールの恋人たち、好きですよ」
うららは生前には父親がフランス人であったので、その関係である程度は見ていたようだ。のぞみは置いてけぼりになってしまい、頭から煙がでている。
「うぅ。映画わかんないよぉ~~……」
この有様である。黒江がいたら『勉強しろ!』だろう。
「綾香ちゃんがいたら、どやされてるだろうね、君」
「先輩は凝り性なんですよぉ~。あたしは演劇部は三日でクビになった事あるし、映画も冒険ものとか特撮とかしか…」
飛羽にぼやくのぞみ。嵐山とうららはすっかり映画トークに夢中だ。うららは母親が夭折した大女優だったため、母親のようになりたくて、勉強していたのだろう。
「観といて損は無いぞ、機会があれば観とけよ」
「うわぁ!?せ、先輩。いつの間に!?」
「お前が呼ばれたの聞いたんで、のび太んとこからすっ飛んできたんだよ。ども、飛羽さん」
「やぁ。早かったね」
「俺は
黒江の神出鬼没さにのぞみは心臓が飛び出る勢いで驚いた。のぞみはあまりの衝撃に息が荒くなっている。
「なんだ、このくらいで驚いたのかよ」
「いきなり来たからですよぉ!心臓がバクバク……」
「ハハハ。俺は黄金聖闘士だぞ?テレポートもその気になりゃ…」
「やぁ、黒江くん。この間にそちらの部屋に届けさせた『別れのワイン』はどうかね」
「面白かったですよ。次は歌声の消えた海とかを……」
「先輩……」
「ま、お前はまず、ドラえもんの大長編からだな。いや、宇宙戦艦ヤマトの劇場版とかどうだ?伝説の艦の伝説たるキッカケの話だし」
「ヤマト、ですか?」
「たしか、のび太かコージが持っとるはずだ。オリジナルシリーズで五本くらいだったような?」
マニアにしかわからないような高度な会話をこなす黒江。イタズラっ子なウインクでそう決める黒江にのぞみは閉口しつつ、後日、圭子に『映画の見方のレクチャー』を頼みこむ。圭子は話を聞くなり腹が捩れるほど爆笑したとか。
「ヤマトと共闘したのに、その戦いを知らないんじゃ、恥ずかしいだろ?オリジナルシリーズを見れば、未来のヤマトの事はわかる」
「うーん…。確かに」
「映画なんてなぁ、画面見てて気になったもの、人物でもメカでも背景でも良いから、気になった物を追いかけていればあっという間さ、かしこまって考えずに見たものを感じるままに見てたら映画を観る事になるのさ。のび太は西部劇だと、銃から入ったとか言ってるし」
「そういうもんですかね?」
「あんま深く考えんなって。坂本を見ろ。あいつだって、チャンバラ映画とか時代劇しか見んが、深く考えてないぜ」
のぞみは黒江の論法に圧倒される。後日、上手く意味が飲み込めないので、圭子に助けを求め、圭子も爆笑するものの、黒江と似たような事をアドバイスし、実践と言わんばかりに『んじゃま、短いので行ってみよう』で『マジンガーZ対暗黒大将軍』を見させるのであった。圭子もなんだかんだで後輩への面倒見は良く、こうした事はノリノリである。圭子が同作のソフトを持っていた理由は『鉄也からプレゼントされた』からとの事。