ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第百九十話「夢原のぞみのトラウマの発露と、月読調の研鑽の証」

――『戦えないウィッチのとりあえずの逃げ場』として用意された組織『MAT』は1947年からその全盛期を迎え、軍ウィッチ組織を圧迫する規模に成長していた。これは如何に『ウィッチとして覚醒めたら、軍に入る』事を内心で嫌がる者が多かったかの証明であった。だが、供給をほぼ絶たれた形の軍部にとってはたまったものではなく、定期的に起こる世代交代を無理にでも遅らせるしか方法がなかった。これはダイ・アナザー・デイで世間の評価が下がったウィッチ兵科を少しでも延命させたいウィッチ出身の参謀たちの意向が強く働いていた――

 

 

 

 

 

 

 

――第二バルカンベース――

 

「君の友人の手引した組織だが、かなり大きくなっているようだ」

 

「芳佳が手引したんですけど、ここまで急激に大きくなるなんて」

 

「それだけ、軍に入りたくない者が潜在的にいたということだ。それに、全員が君たちのような使命感を持つとは限らん」

 

第二ベースのモニターで流れるニュースに嵐山長官はそう感想を述べる。MATは加速度的に規模を膨れ上がらせており、49年初めの時点では軍ウィッチ組織より大きく膨れ上がっていた。芳佳は1945年時点で『人相手に戦えないウィッチの受け皿になればいい』として設立に手を貸したが、その芳佳の予想以上に組織が短期間で強大になったわけだ。

 

「あたしたちは当分は『柱』として支えないといけませんね」

 

「日本からの義勇兵も入り始めているが、昔気質のウィッチが頑固なのだよ。銃後に媚を売らなければならぬ時代だというのに」

 

嘆息の嵐山。昔気質のウィッチは海軍に多い。クーデターで左遷された者も海軍が多めである事、海軍青年将校の度重なるクーデターによる印象の悪さもあり、扶桑では空軍のほうが人気となった。また、『自由に行動できる』点では設立間もない空軍のほうが融通がきくため、プリキュア達は形式的にだが、空軍の空中勤務者と扱われている。(のぞみ、トワ、シャーリーが空軍にいた事による措置でもある)

 

「先輩はそれを早いうちからしてたけど、訓練を舐めてるとか、転職でも考えてるのかって、強烈に疎んじられたんですよ、長官。事変で凄い戦果出しても、認められたのは7年後ですから。しかも、ミーナさん対策ですよ」

 

のぞみは暗に、黒江の上官であった江藤を非難したが、正確には江藤に非はない。『そこまでの戦果が現実的に挙げられるとは思わなかったから』、『人事部に注釈付きで人事記録は渡した』という釈明はしているし、当時の常識的な範囲でのスコアは上層部に通達し、金鵄勲章の推薦はしている。仕事はちゃんとしていたわけだ。江藤にしてみれば『仕事はしたのに、上の職務怠慢のせいで先輩後輩に非難される』とぼやかないとならなくなったのである。この黒江たちへの扱いの急変ぶりは『思い込みによる人事評価の悪い見本』と後にされるほど、ウィッチの人事評価上の歴史に汚点を残した。ミーナ(の肉体を得た西住まほ)がノイエ・ベルリンに数十年後まで足を踏み入れなかったのは、間接的に祖国の評判を落としたことで白眼視されているのを認識し、『扶桑で手柄を立てるしか、禊の道はない』と判断したからである。ミーナの罪はひとえに『無知と坂本への恋心からの妬み』にある。異性の幼馴染で恋人を失ったことで同性愛に目覚めたことは分からなくもないが、1940年代に同性愛は公言できない。扶桑でやっと許される程度なので、欧米では『知られれば『社会的に破滅する』事を半ば意味していたような時代である。ウィッチ社会では通念上の理由もあり、ある程度は許容されていたが、『人事評価をきちんと出来ないほどに耄碌するのは論外』である。64Fが501を飲み込んだ要因も、黒江達の真の戦功を知れる立場の扶桑の将校たちがカールスラント軍と政府に猛抗議を加えたことへの対応の一環である。

 

 

「立場上、容易に情報を知れたはずなので、彼女の手落ちだが、扶桑があの子らの戦果を誤認したままで通告したことは不幸だよ。時代が違うとはいえ、100機以上を落としていれば、格下と見るだろうからね。更にスコア訂正が遅きに失したのも不幸だよ」

 

ミーナは人身御供のような形で政治的意味合いで行われた『つるし上げ』で隊の運営から身を引いた。そんな中、ロシア連邦の嫌がらせもあり、カールスラント空軍の名誉が失墜した後における代替物として見いだされたのが扶桑の撃墜王達。それに反発した海軍航空隊がクーデターを起こした後の扶桑は空軍を事実上の主力の軍隊と見做し始めている。海軍は一見して華やかだが、内実は単独での立体作戦の遂行能力を失っているも同然であり、実際の戦場で活躍する空軍のエースにコンプレックスを持つ海軍航空隊の軍人は増加傾向にある。これは度重なるクーデターで信頼は失墜しており、『予算対策で存続した』と内外で揶揄される立場であるからだ。ただし、海軍航空隊の設立すらゲーリングに阻まれ、実質的に自力での設立を諦めたカールスラント海軍に比べれば恵まれている。また、扶桑軍人もかなりが外部からの誹謗中傷などで精神的に潰されてきたため、扶桑空軍の風土が自由なものになったのはそうした事の教訓であった。また、扶桑で奨励されてきた集団主義が否定されたため、個人戦功の感状の発行が強く推奨されるなどの影響もある。勲章授与の規定でゴタゴタがあったのもあり、武功章が乱発されることへの日本側の懸念と意向で、武功章の今後の授与に厳格な審査が入る事になったので、感状の発行は比較的に手続きが容易とされた。(とは言え、旧基準に適合する将兵が多いため、一種の経過措置としての授与は40年代の内に済ませられた)空軍はこうした動きを経て、組織像を次第に確立させていく。この時代はその過渡期である。

 

「君らのプリキュアとしての働きへの正式な武功章の授与だが、夏頃になるそうだ。」

 

「遅いですね」

 

「娘から連絡があったが、日本側が年金などの財政支出を渋って、授与が遅れていたそうだ。君はその名義では初の武功章になるな」

 

「ええ。ダイ・アナザー・デイじゃ、錦ちゃんの名義でしたから」

 

「これまでの基準での授与は冬にもう一回してから終えるそうだから、君も運がいい」

 

「今回は多いんですか?」

 

「武功がたまった者へのご褒美的意味合いで授与するというからね。ほっ、出来たようだ」

 

「あれ、ご飯とカレールーを別に?」

 

「珍しいと言おうか、古風ですね」

 

「今日は昔のライスカレーのスタイルをしてみた。偶には実験も必要だよ」

 

のぞみとうららはカレールーがご飯にかかっている状態の『カレーライス』に慣れているため、ハイカラなスタイルの『ライスカレー』が珍しいようだ。

 

「あれ?バルパンサーのあの人、見ませんね」

 

「そうそう。いつもなら、食堂でカレーを食べまくってるのに」

 

「豹はパトロールに出ていてね。今日の基地担当は飛羽なんだ」

 

「そういうわけ」

 

バルパンサー/豹朝夫はこの日はパトロールであるため、不在という珍しい日であった。カレーが好きなイエローというのは実は希少であり、イエロー枠が定着した後のプリキュアオールスターズにおいても少ない。プリキュアオールスターズでも、明確にカレーが好きなのはうららのみだ。

 

「スパイス効いてますね」

 

「おっ!!く、来る~~…」

 

カレーの辛さで悶絶しそうになるのぞみ。うららは辛さに慣れているので平然としているが、のぞみは耐性が低いので、ヒーヒーいっている。

 

「辛いですよぉ、長官…」

 

「のぞみさん、大丈夫ですか?」

 

「なんか……見えちゃいけない光景が一瞬…」

 

「ハハハ。今回のスパイスは効いたようだね」

 

「そう言えば、大決戦で13人ライダーが助けにきた時はどういう感じだったの?」

 

「なんといおうか、複雑になったって子が多かったですね。いつもは助ける側なので、その逆の立場っていうのは堪えるみたいで」

 

「仮面ライダー達の敵と戦うには、現役時代のままじゃね…。」

 

「俺達が助太刀に入ったが、素直に喜べない子がいてね。悔しそうにしていたよ。シャドームーンの強さは、綾香ちゃんと智子ちゃんが二人がかりでも苦戦するほどだ。俺たちも相当に手こずったからね」

 

「先輩たちが二人がかりで……」

 

「もっとも、外見は君とラブちゃんと入れ替わってたから、誤解を招いていたが」

 

黒江と智子は大決戦で、のぞみとラブの代わりに『プリキュアとして』戦い、当時の時点でののぞみとラブが至っていないパワーアップ形態を見せたものの、光速に対応できる世紀王であるシャドームーン相手には苦戦を強いられた。ドリームとピーチの強さが先輩後輩に誇張されて伝わったのは、大決戦に参戦したプリキュア達がその後のオールスターズ戦で後輩達に大決戦の経緯を教える内に尾ひれがついたためだ。これはオールスターズ戦の歴代プリキュアは『戦いの度に次元世界からランダムに呼び出される』ことが事後に推測された。これは大決戦後に加わった何人かのプリキュアが大決戦の経緯を覚えていた(思い出した)ためだ。

 

「とは言え、発奮材料にはなったのは事実だ。せつなちゃんは大決戦での二人を見たから、君等の行方を探り始めたというし、あの二人の力が間接的に君たちの潜在能力を引き出したように」

 

――ドリームのエターニティ形態、ピーチのエンジェル形態のパワーアップは大決戦でナインセンシズまで少宇宙を高めた二人が最初に具現化させた。のぞみはデザリアム戦役の際にそれを自家薬籠中の物としたが、ラブはまだまだである。とは言え、キュアエンジェル形態への任意的な変身はできるようになっており、地味ながらもパワーアップしている。

 

「あの時のあなた達はとても強くて……それで私達を守ってくれた。でも、正直に言えば、自分たちの弱さが際立った気がしたんです。あの場にいたプリキュア達の殆どは現役を終えてたはずで、前より強くなってるはずでした。だけど、なぎささんたちが万全の状態でも、歯が立たない敵がいるなんて……」

 

うららはスプーンを持っていないほうの腕をギュッと握りしめ、悔しさもある事を零す。なぎさとほのかで歯が立たなければ、他のどんなプリキュアも歯が立たないのでは?との絶望が覆った事、だが、マナ、めぐみ、響、ことはを中心にした『本来はいないはずの』新世代組が奮戦した事で、本来の新人枠である『ハートキャッチ』が霞んでしまったり、シャインスパークやストナーサンシャインなどの『プリキュアオールスターズの合体攻撃が霞む』威力の技が放たれたこと、もはや、『その世界のプリキュアオールスターズ』の手に余る戦いに発展し、事態の解決を実質的にヒーローユニオンと64Fに一任せざるを得なくなった事は『当事者としての悔しさ』があると。

 

「うらら……」

 

「ごめんなさい。愚痴になってしまって……」

 

「その悔しさがあれば、君たちは強くなれる」

 

「そう。あたしみたいなイレギュラーな経緯がなくたって、前を向けば強くなれるし、変われる。あたしはその事を教師生活で忘れてたけど、のび太君がそれを思い出させてくれた」

 

のぞみは自分と似た境遇でありながら、少しずつ聡明に変わっていき、ついには人生で成功を収めつつも、子供の頃の人間性を保ったのび太に強く憧れている。出会った最初の頃には『ときめいてしまった』こともあるように、のび太の人間的魅力に早期に気づいていた。自分と縁もゆかりもない世界のために命を賭け、ニヒリズムに満ちた皮肉じみた台詞回しを用いつつも、自分の信念のままの生き様を見せる。そんな事はのぞみ自身、プリキュアという力と大義名分がなければ選ばない。のび太は自身の非凡な射撃とあやとりの才能と幼少期から培ってきた勇気だけであらゆる敵と戦う。その高潔さはのぞみに『生前の晩年期、プリキュアの力』にすがってアイデンティティを保っていた』浅はかさを恥じさせ、『のび太の背中をことはと共に追う決意』をさせたのである。それは関係が義理の親子(のび太の養子『コージ』との結婚で、のび太から見れば『息子の妻』にあたる)となっても変わらない。

 

 

「のぞみさんはのび太さんを尊敬してるんですね」

 

「ココを通して、姻戚関係にはなったけれど、人として尊敬してるよ。あたしは他の次元と違って『挫折した』から、余計にね」

 

「それ、みんなは知ってます?」

 

「『ガイア』にいたえりかと連絡取れて、久しぶりに話したけど、素っ頓狂な声出されたよ」

 

「えりかさんらしいですね」

 

「本当だよ。あんにゃろ、後で覚えてやがれよぉ…」

 

のぞみもことはも、基本的には現役時と変わらぬ口調だが、激しさという点では現役時代の比ではなくなっており、怒ると口調が粗野になる場合が多い。(ことはは静かに怒る傾向がある)ゲッター線の影響もあるが、のぞみの場合、『素体の持っていた粗野さが顔を出す』事があったのが定着したと言うべきだろう。

 

「のぞみさん、時々、口調が崩れますよね」

 

「色々あってさ。昔より怖いって言われるんだよなぁ」

 

「と言っても、ナイトメアがココたちを傷つけた時はブチギレてたじゃないですか。かれんさんが心配するレベルで」

 

「覚えてたんだ、あのクソババア(ハデーニャ)と戦った時のこと」

 

「だって、のぞみさんがみんなの前でキレたのって、あの時くらいじゃないですか」

 

「あたしはそれの他に『シャドウ』の時にキレた記憶がある。先輩はあの子の生まれ変わりがれいかちゃんの可能性があるんじゃないか?って言ってた。もし、本当なら……。どんなにいいか。あの時、あたしがもっと上手くやれてれば、あの子は……」

 

この頃になっても、黒江が提唱する『ダークドリームのキュアビューティへの転生説』を半信半疑である事が窺え、なおかつ、転生しても引きずっているほどの『悲しい記憶』の一つがダークドリームにまつわる出来事である事、悔やんでも悔やみきれない悔しさと無力感にさいなまれる夢を見る事があると吐露する。のぞみがその生涯を通し、『守れなかった友達』の代表格であったと同時に、最大のトラウマの一つである。のぞみがダイ・アナザー・デイの際に精神バランスを崩したのも、そのトラウマが呼び覚まされてしまい、りんまでも喪う可能性に気づき、その内に頭が真っ白になり、理性のタガが外れてしまったからである。のぞみが持つ最大の心理的外傷の根源が『ダークドリームを守れなかった』ことへの悔恨である事に気がついたことはは、姉貴分であるのぞみのためにも、青木れいかがダークドリームの転生である事を願ってやまない。その可能性が小さくとも。

 

「あれは不可抗力だったんですよ、のぞみさん。ダークドリームがれいかさんに……キュアビューティになったのなら……それはのぞみさんの願いが彼女の魂を救った証だと思います。だから、私も……その可能性を信じます」

 

「うららぁ……」

 

のぞみは後輩(うららは現役時代の実生活で一学年下であった。つまり、元から先輩後輩関係だ)の言葉と気遣いにジーンときたのか、感涙に咽ぶ。のぞみはどこかでその可能性を信じたい気持ちがあるが、前世においてはスマイルプリキュアとの交流の機会はあまりなかったため、れいかに『前世を信じるか』などという突拍子もない話を切り出せなかった事で後悔があるため、ダイ・アナザー・デイで黒江がその説を提唱した時に大喜びしたのだ。とは言え、自身の娘の一人が身を落とした事もあり、『ダークプリキュアの魂の救済』を信じきれずにいる自分がいるというジレンマに苦しんだため、うららの肯定は何よりも光になった。

 

「れいかさんにダークドリームとしての記憶があったとして、あなたが謝っても、微笑って許してくれますよ」

 

「そう…だよね?」

 

「あの子の心を氷解させたのは、あなたですよ?」

 

「……ありがとう……。この事はあまり言えなくて……」

 

のぞみは前世のトラウマをさらけ出せたため、感涙に咽びつつも、初夏の青空のような爽やかさを心に感じたか、どこか晴れ晴れとしていた。

 

「のぞみさんはいつも笑ってないと。私達の思いは……」

 

「『永遠不滅』。昔、チームが出来たての頃にそう言ったんだったね」

 

「ええ」

 

「君のトラウマの懺悔も済んだことだ。カレーを批評してくれるかな?」

 

「長官~~、せっかくの感動シーンをぉ~…」

 

「いつまでもくよくよしないで、『前を向く』。それが君たちのポリシーだろ?いつの時代も美少女戦士は凛々しく……だよ、のぞみちゃん」

 

嵐山も、飛羽もちょっと不慣れであるが、彼らなりのエールを送る。のぞみはうららたちのおかげで『トラウマをさらけ出しての本音を言う』事が出来たからか、感動シーンにいきなりの茶々を入れられた事に不満は見せるが、晴れ晴れとした気持ちで、先程は気を失いかけた『サファリカレー』に改めて挑むのだった。

 

 

 

 

――こちらは64F基地の敷地内で行われていた模擬戦。キュアソード/剣崎真琴と月詠調。(本来は月読だが、表記を変えている)二人の対決となった。手刀やそれからの剣状のエネルギー波での攻撃を得意とするキュアソードだが、剣技という点で『この時点での調』と相対したことは不幸だった――

 

『磁光真空剣・鏡月ッ!!』

 

磁光真空剣の写しである鏡月は黒江がアムロに言及した『ギャバンへの頼み』で生み出された。いわば、磁光真空剣の機能面を模倣したコピー品である。調はそれにシュルシャガナの炎剣としての霊格を宿す事で、炎剣として扱える。それを使い、キュアソードを追い詰めていく。

 

「ち、ちょっとぉ!本気で振ってない!?」

 

「安心してください。峰打ちですよ」

 

「峰打ちったって……、振った時の衝撃波で地面が地割れ起こしてるんだけどぉ!?」

 

普段は冷静なキュアソードも、流石に調の見せた攻撃には平静を保てないようで、語尾が震え出している。

 

「いきますよ!!」

 

「こうなったら、破れかぶれーーー!!」

 

キュアソードは得物がない自分が間合いと技のチャージタイムで不利であることを悟り、小技とスピードで翻弄しようとする。だが、そのスピードは調にとっては追随が可能であるため、口ではヤケを起こしたように装いつつ、戦略を再構築しつつあるソードの思惑を逆手に取る。磁光真空剣・鏡月をブラフに使い、炎剣を使うと思わせておき……。

 

(炎剣は……囮!?)

 

調は鏡月で斬ると思わせるそぶりを見せるが、実際に攻撃に使ったのは、自身のデバイス『エクスキャリバー』であった。キュアソードの一瞬の隙を突く形での攻撃。

 

「エクスキャリバー…、フルドライブ!」

 

魔力が込められしカートリッジが弾丸のように装填され、『カラン』という音と共に『空薬莢』が外に排出される。リボルバー式の火砲を思わせるアクションだ。エクスキャリバーの鞘が空中で外れ、刃渡りが長めの長剣が姿を顕にする。古代ベルカ滞在中、調がベルカ聖王の騎士に任ぜられた時に制作された『ワンオフの超高性能デバイス』であり、レーヴァンテインと似た性質を持つ。シグナムのレーヴァンテインと違うのは、英霊達の持つ聖剣のような滑らかな装飾と西洋剣らしい刃渡りを持つ外見である事で、古代ベルカで制作されていながら、北欧神話由来の名を持たず、メカメカしさを感じさせないなど、古代ベルカのデバイスとして『特異な代物』であった。

 

「……『閃光の如く』!!」

 

――調が古代ベルカの戦乱を生き延びてきた理由は黒江から受け継いだ技能を開花させられたからだが、自らの研鑽も大きかった。また、姉弟子にあたるフェイトの影響もあり、帰還後も剣術を続けた。この時点では『古代ベルカのある剣術の奥義であったが、当時の自分では会得に至らず』という技を開眼する事に成功していた。その名も。

 

『風を、光を超える!!』

 

調の属していた古代ベルカ剣術の流派については後世では不明の一言だが、日本風の技名を持つことから、ベルカに流れついた日本人が始めた剣術ではないか?と本人は推測している。ソードを以てしても、反応すら不可能なほどの圧倒的な速度による斬撃での乱撃が奔るのは飛天御剣流の龍巣閃や九頭龍閃を思わせる。違うのは、ここからだった。

 

『奥義!!光・刃・閃ッ!!』

 

聖闘士となった事で得た動きの疾さ、黒江とエーリカの手ほどきを受けた事で得た『居合抜きの速度』。その二つを得たからこそ開眼出来た『古代ベルカに伝わっていた剣術の奥義』。キュアソードの目には『眼の前に光が奔った』ようにしか見えなかったが、実際には目にも留まらぬ疾さで居合斬りをすれ違いざまに行っているわけだ。

 

「嘘……」

 

キュアソードは調が剣を鞘に収めるのと同時に、地面に崩れ落ちるように倒れ伏す。セコンド役の若本も思わず『これが黒江さんの秘蔵っ子の実力か……』と関心するほどに鮮やかな攻撃であった。

 

 

 

 

 

 

――これを遠目からであるが、目の当たりにした北条響(シャーリー)たちはしばらくの間、開いた口が塞がらなかった。自分たちも『実力者』と認めている後輩が反応すら出来ない速度の技を峰打ちで食らわせ、見事に決めたという光景は黒江とエーリカの育成の賜物だと、すぐに北条響は悟った――

 

「あいつ、黒江さんとハルトマンに師事してるって言うけど……味な真似しやがるぜ…」

 

「調ちゃんは元々はそこまで強くなかったって。前にマリアちゃんが言ってたから、相当に努力したんだろうね」

 

「調、古代ベルカでの日々、のび太とはーちゃんと一緒にいた20年で相当に鍛えられてるって聞いてたけど……。こりゃ、中々いい筋してるわ」

 

北条響、桃園ラブ、調辺アコ(姿はアストルフォにしているが)の三人も見惚れるほどの鋭さ。短時間で敵を攻略する戦術は古代ベルカのその流派由来だろう。調が保有するデバイスを本来の形で使ったという珍しい事例であるこの日の模擬戦だが、調としても久しぶりのデバイスの使用であった。磁光真空剣・鏡月をもブラフに用いるところはキュアベリー/蒼乃美希の教えだろう。古代ベルカでどういう剣術があったか。それを間近で見れた若本徹子はちょっとうれしそうに微笑んでいた。若き日に坂本と腕を競い合った少女期を思い出したか、黒江の秘蔵っ子と聞く調の剣筋に若き日の黒江の姿を重ね合わせつつ、自分の年齢を実感するのだった。

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