ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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今回の登場キャラクターはナリタブライアンとゴールドシップの二人です。


第三百五十四話「ウィッチ世界の経緯と、ナリタブライアンの『炎』」

――カールスラント軍は結局は自らの高慢さが仇となり、権威の失墜を招いた。また、高名な高官の多くが予備役入りを画策されたこともあり、全ての分野で衰弱した。扶桑軍も高官の少なからずが中央から追放され、旧来のエリート層が最前線で消耗された影響もあり、却って中央の統制が効かなくなった。並の兵器よりも一騎当千の兵器が政治的に求められたのだ。また、人的被害が大き過ぎると、翌年度の予算が減らされるので、量産機を完全に普及させるよりも、エース専用機を少数生産したほうが効率がいいと判断した。ストライカーの震電がその目的での量産予定であったように。日本側が人的被害を嫌うための兼ね合いで、64Fのようなエリート部隊がまかり通ったわけだ。(実際、有事即応のエリート部隊は政治受けがいい)これは人的資源・鉱物資源に乏しい国家がたどり着く答えである。日本連邦は国力差のある相手と戦争をしているため、通常の戦闘では人的被害が大きい。そこで考えられたのが『数個ほどのエリート部隊を作って、最前線で戦果を挙げさせ、前線の弾除けにする』というゲリラ戦法であった。『安定した性能の兵器』は逆に言えば、平凡な特性しかないということでもあるため、史実第二次世界大戦のM4シャーマン戦車がそうであったように、敵の高性能兵器+熟練者の組み合わせに『平凡な兵器』はめっぽう弱い。その人的被害は無視できない(米軍さえ、M26パーシング重戦車の配備に最終的に踏み切っている)。それが現実である――

 

 

 

 

 

 

――地球連邦軍はジム系のMSを幾度となく数百単位で喪失する戦闘を経験してきたため、対エース戦闘をガンダムタイプに依存するドクトリンへ変遷していった。人手不足と無人兵器の厳しい使用制限が重なっての変遷で、そこは民間軍事会社に対して、人的意味で劣勢となった時代故の苦しみであった。連邦政府は肥大化する民間軍事会社の実務部門を規制するため、エース部隊と言われる者達の召集を行い、正規軍に組み込んだ。その行き場とされたのが『外郭独立部隊』の枠組みである。その内、特に著名な部隊は地球連邦軍最強で慣らすロンド・ベルへ編入され、そこから64Fに機材や人員が貸し出されているわけである。バルキリーの搭乗資格のある者はそれもよく使う。この時期には、イサム・ダイソンのツテで新鋭機も多数が配備されている。VF-19の事実上の後継機『VF-31H』(扶桑採用モデル。ジークフリートとカイロスの間の子であり、機動力重視のために前進翼機となっている一方で、武装面はカイロスのもの。言わば、カイロスプラスの別バージョン)も保有しており、標準機でさえ、VF-19S型以上の機体である。また、決戦時には『YF-29』も使用するため、下手な移民船団のバトル級よりも『保有機の質』は遥かに上である。デザリアム戦役時に移民船団で普及していた機体は良くて『VF-171』、下手すれば、旧世代の『VF-11』が当たり前であるため、64Fは下手な地球連邦軍の航空部隊より『新鋭機を迅速に受領できる』。なお、『S・Vワークス』の摘発で接収され、テスト名目で回された『Sv-262』も改修された上で保有している。こちらは先祖に当たるドラケンのフォルムをした通常仕様をHs型の部品で部分的に改修し、地球人が乗ることを前提にしてのコックピット周りの改修がされている。元々はウィンダミアに卸す物であったが、製造会社に対するプリベンターの摘発で接収され、64Fに送られた『いわく付き』の機体。VF-27の流れを汲むため、元来は装甲キャノピーであったが、M粒子下では機能の誤作動の可能性があるのと、整備部品の調達の都合で、他のVF同様の通常キャノピーに改修されている。同機は基本的にユニバーサル規格に則っているが、M粒子が高濃度で使われる戦場では『装甲キャノピーとバーチャルコックピット』の組み合わせは整備力の兼ね合いで忌避されるため、地球連邦軍の制式機の部品でかなりの変更が加えられている――

 

 

 

 

 

 

――これはモノアイが忌避されるため、ゴーグルタイプのフェイスに変更された『鹵獲品のギラ・ドーガ』を思わせる変更であるが、こちらは『部品が確保できない』という切実な事情によるものなのが違いである。そのため、戦闘では慎重に扱う必要があるので、まだ誰も搭乗していない。普段使いがVF-19系である者が多いのは、型落ちになったものの、開発当時の地球連邦の航空技術の粋を結集した機体であった事、たいていはVF-19の性能水準で事足りてしまうという『地球産技術主体の有人機の限界』を極めていた事、通常戦闘機の部隊が撃退された場合の『最後の砦』という位置づけで多用されているからだ。実際、VFは『他の航空部隊が撃退され、都市の最終防衛ラインに迫った』時に出動し、B-29、B-36、B-47などの戦略爆撃機とその護衛機の撃退で活躍している。VFはMSよりも直感的に操縦できる要素があるため、MSよりも搭乗資格を持つ隊員が多い。第一世代空戦ストライカーでは追従困難な巡航速度と到達不能な高度を誇る敵爆撃機への『手っ取り早い迎撃手段』であるからだ――

 

 

 

 

――通常兵器の物量戦では、絶対的に不利である日本連邦は一騎当千のエース、ないしは超兵器に頼る風潮がある。これは兵隊の頭数だけ揃えて戦った結果、連戦連敗した史実太平洋戦争の記憶によるもので、人的被害を忌避する戦後日本人の気質の表れであった。そのため、64Fには『敵の全滅』が絶対条件として課されてしまっている。64Fが敵を片付けてしまうため、他の部隊に緊張感がないというクレームも佐官級の参謀から出ている。補助艦艇を充実させたら、今度は肝心の戦闘艦の物量が不足するという事態になった。(前弩級戦艦改造の工作艦を退役させたりしたためもある)そのため、海軍はゲリラ的な攻撃を主体にして戦略を立てざるを得なくなっている。近代武装を備えた護衛艦タイプの建造は手間がかかるため、量産ペースは遅い部類。自動工場でも、艦の竣工までに数ヶ月かかるのである。21世紀よりかなり早いが、第二次世界大戦では、アメリカの駆逐艦は日刊駆逐艦とさえ謳われたほどのペースをマークしているので、遅い部類に入ってしまう。潜水艦は近代化の遅れと世代交代の遅れで、大規模投入が見送られている。ダイ・アナザー・デイの損害すら、たった数年で回復する国力を備えるリベリオンは『正攻法では勝てない』。その認識を得た扶桑は『五大湖付近に反応兵器を叩き込む』手段を講じることを、予てから議論してきた。昭和天皇は難色を示しているが、史実の広島と長崎のこともあり、『使用は敵の核攻撃への報復措置に止めよ』と厳命している。彼なりの国民感情と政治を天秤にかけての『妥協』であった――

 

 

 

 

 

 

 

――空母機動部隊の運用基準は厳格に定められ、日本側の失策を隠す目的もあり、結局は空母航空団のパイロットの専属(史実の航空作戦の失敗による弱体化の戦訓もあり)規定(訓練目的の地上基地駐留は認められた)、実戦に出る飛行時間の明確化(人手不足のため、600時間へ緩和)が明文化された。また、パイロットの士官への階級の統一もなされた。その兼ね合いで、史実での悪弊の筆頭であった軍令承行令は死文化が進み、1948年には完全に廃された。(芳佳のように、軍医中尉以上になっても、飛行任務では、兵科曹長扱いで遇されるケースがあった事が理由。覚醒前のミーナが殊更に悪役にされた理由は、特務士官出身の日本義勇兵からの強い指摘があり、ドイツから『スケープゴートにしていい』という極秘通達がされていたためであった。連合軍は扶桑における大変革で『搭乗員の入隊時の階級を少尉/准尉にする』ことにした。坂本も『時代の流れだ』とし、同期達を説得して回ったという。)艦載機の度重なる更新に教育が追いつかないのが課題で、1949年にはヘッドアップディスプレイとグラスコクピット、射出座席が標準装備と化し、学のない叩き上げのパイロットたちや整備兵への教育が長引く要因となっていた。とはいえ、第三世代以降の高性能ジェット戦闘機を第一線で運用可能とされる唯一の軍隊なのは、大いなる意味があった――

 

 

 

 

 

 

 

 

――調達経費が高額化し、なおかつ運用に耐熱アスファルトの長大な滑走路が必須のジェット戦闘機の装備は賛否両論であったが、初期のものでの『難点』が解消された世代のものが次々と現れた事、高高度を悠々と飛行しつつ、頑強な戦略爆撃機への『ミサイルと高射砲以外では真っ当な迎撃手段であった。陣形を組んだ場合、旧式のB-29でさえ、レシプロ機には重大な脅威となるからだ。とはいえ、大陸間弾道ミサイル迎撃用のミサイルがレーダー共々に戦略爆撃機の迎撃に転用されてきたため、戦略爆撃機の『高高度飛行による安全性』は失せているため、レシプロ機でも到達できる中高度での戦闘が常態化しているのも事実だ。B世界のウィッチたちは、B世界にはない『B-29』、『B-36』、『B-47』といった戦略爆撃機群に言葉もなかった。運用目的も『都市爆撃』であるため、嫌悪感の強い者もいた。だが、ウィッチの軍事的有用性が薄れ、ウィッチの母機としての運用が取りやめられ、高性能爆弾を用いたピンポイント爆撃が主流になりつつあるのは、ウィッチが以前のような『空の女神』ではなくなったためである。20ミリ砲でも容易に落ちない高性能戦闘機が主流となっているので、仕方ない変化でもあった――

 

 

 

 

 

――怪異が小康状態になり、なおかつスーパーロボットという『手っ取り早い鎮圧手段』が使えるようになったので、無理してウィッチを動員する必要もなくなった事も、ウィッチの権勢の衰えの要因であった。また、ミーナがそうであったように、自分の築いたものを侵されることに異常な拒否反応を起こす場合が多かった。史実での坂本が紫電改などの局地戦闘機が主力化するのを、心の中では快く思っていなかったように。また、政治的にジュネーブ条約を遵守する姿勢を見せなくてはならないのも、10代のウィッチの立場を悪化させた理由である。軍在籍の10代のウィッチが佐官以上に出世できたのは、1940年代が最後となった。ミーナの一件が如何に、人事的意味で悪影響を及ぼしたかがわかる。ただし、1945年以前に入隊した者については『それ以前の規定が適応される』ため、昇進速度が調整される事になる。扶桑では『特務士官出身のウィッチが正規将校のウィッチより上位の扱いである』事の明文化は正規将校に配慮した文面でなされることになった他、人事書類の確認義務は連合軍全体に課されることになった。ミーナが人格変貌の直前に、事の重大さを知った後、自然と保身を図った(届いた書類に『扶桑側の手違いで、不備があった』ように申告し、責任を扶桑へ押し付けるつもりであったなど)事が『年齢だけで戦えないと判断する事の誤り』のモデルケースにされたからだった――

 

 

 

――実際、黒江達は年齢からは考えられないほどのパフォーマンスを発揮した。ストライカーを装着しなくとも、信じられないほどの戦闘力を見せ、当時に世界最高とされたはずのハルトマンやバルクホルンすらも上回る戦果を挙げた。ルーデルの護衛としても有能であり、ルーデルが仕事で従える誰かは大抵の場合、彼女らである。その事もあり、ミーナは人格変貌前の時点で、隊を主導する力を失っていたといえる。変貌後は一士官として実直に仕え、日本連邦の永住権を取得。以後はカールスラントに住む事は(政治的理由もあって)なく、後の時代における、彼女の子孫は日本連邦で生まれ育っている。要はシングルマザーになったわけだが、カールスラントへの帰属意識は贖罪のために捨て去り、音楽関係の仕事で立ち寄る事はあれど、正式な帰国はしなかった。祖国への自分の罪だとし、扶桑軍に貢献し、引退後は戦車道の開祖として地位を築いていく。音楽家として名を馳せることはなかったが、趣味としては続けていったという――

 

 

 

 

 

 

 

――それと対照的に、シャーリーは過去生での『北条響』の名を別名義として用いつつ、亡命してきた家族を養うためもあり、レーサー活動はあまりできなくなり、前線で戦い続けることになる。こちらは引退後にポップミュージックやロックミュージックの歌手に転向し、成功を収める。レーサーとしての名声も持ったまま、歌手としても成功を収めたことは転職の好例とされた。転職が全て上手く行った稀なケースかつ、どの分野でも高い地位を得るに至ったため、シャーリーは『ウィッチの人生計画の範』とされた。元々がリベリオンの片田舎の出でありながら、最終的に『名士』扱いにまで栄達した。一般層からの栄達という観点で言うなら(黒江達は先祖が由緒ある士族であり、なおかつ、圭子と智子は北海道出身で、おそらくは祖父の代で屯田兵であったとのこと。なおかつ、家が現時点で資産家だったりするため、元から富裕層に近い位置にいたといえる)、シャーリーはその代表とされた。プリキュアでありつつ、厳密には日本連邦の所属ではないのは、転生先の都合もあるが、彼女が唯一となった――

 

 

 

 

 

 

 

――変則的だが、転生前の実績で名を上げた者の代表がのぞみであった。これは肉体の容姿そのものが変容した事、名家であるが、軍需産業との疑いが(濡れ衣に近いが)マスメディアによって書きたてられた中島家に迷惑はかけられないと考えた結果、公に『夢原のぞみ』としての第二の生を生きるとした。プリキュア5の中心戦士であったのが幸いしたのもあるが、中島錦としては『無名』であったのと対照的なポジションを手にしたが、全てが順風満帆ではなかった。前世の壮年~晩年期から抱えていた『闇』が表面化し、デザリアム戦役ではそこを突かれ、情緒不安定と化し、営倉入りも経験している。だが、マジンガーZの陰の側面が肥大化し、自我を得た存在『マジンガーZERO』と対峙し、浄化に成功し、融合。キュアミラクルとの大喧嘩を経た後は錦としての人格との融合が進捗し、更にナリタブライアンと入れ替わった体験の折に、『継承現象』が起こると、三人の特徴が上手く噛み合った人格で落ち着き始める。教師への転職は諦めたものの、気分転換に陸上競技を始め、スポーツ大会に出場してゆく。『常に、そこそこの順位を取っていく常連参加者』くらいのポジションに落ち着くわけだ。現役時代から、プリキュアとして事実上の『ナンバー2』の地位にあるので、本人の言うように、全体のリーダーではないが、事実上はその役目を果たしていたと言える。――

 

 

 

 

 

 

 

――このように、それなりに転生後の人生を過ごしつつも、転生時の素体の持っていた地位での安寧は得られなかった、あるいは失ったケースはそれなりにあった。のぞみは転職を諦める代わりに、職業軍人としての道を全うするし、シャーリーは家族からの厳命で、引退後にレースの道へ戻れなかったが、歌手として成功を収めた。宮藤芳佳はウィッチとしては強すぎる力のために、同郷の同年輩から、却って妬まれたため、軍医/プリキュアとしての活動がメインになった。これは史実での活躍が伝わり、同年輩からの嫉妬を買ってしまった(専用機まで持てる上、かの宮藤一郎技師の遺児である)のも関係している。そのため、宮藤芳佳個人のウィッチとしての活躍はあまり見られなくなり、代わりに、軍医としての活躍が目立つようになり、角谷杏の姿を使っての交渉術でも存在感を見せる。ウィッチ世界の奇跡の体現者であった分、史実でどうなるかが伝わったために、逆に『割を食った』と言える。リネット・ビショップは芳佳が宿命を背負ったことで、ビショップ家の一員としての安寧を素直に得ることに強い罪悪感を覚え、ダイ・アナザー・デイ後は『美遊・エーデルフェルト』としての生を選ぶ。サーニャが祖国を捨て、『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』として生きることを選んだのに合わせた形である。カールスラントとオラーシャの内紛が激しさを増し、扶桑とリベリオンが戦争状態に突入したことがリーネの進路を決定的に変えたわけだ。それに付き合う形で、フランチェスカ・ルッキーニも『クロエ・フォン・アインツベルン』としての顔を持つようになったので、カールスラントで途絶えたアインツベルン家の名跡はサーニャとルッキーニの別名義での活動の隠れ蓑に使われたのだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ウマ娘達にとって、ドリームシリーズへの出走と移籍は元来、全盛期を過ぎた事を示す『肩たたき』同然かつ、エリートにしか許されない道なので、反感も大きかった。顕彰ウマ娘によるサーカスとさえ揶揄されていたのは、G1レースに勝っても、不幸な道を辿ったウマ娘達がいたからで、その最初の元凶たるマルゼンスキーはドリームシリーズでは、全盛期から大きく衰えた状態を晒していたからだが、未来世界の科学力で、種族的な限界(ウマ娘はその多くがレース用に特化されたサラブレッドがベースになっている故か、身体能力のピークを保てる時間がヒトより短い)を超越できる事を知ったシンザンは、タマモクロスの『復活』の秘密を知ると、直ちに次期ドリームシリーズに出走予定の有力ウマ娘達へ自ら電話を入れ、処置を受けさせた。ウマ娘に限った話ではないが、アスリートは加齢や病気、怪我などで全盛期のパフォーマンスを次第に失っていく。例として、サクラチヨノオーはシニア級に属した最初の年にピークを過ぎてしまい、怪我が治りきらなかった上、次世代の台頭もあり、引退を選んだ。マルゼンスキーも、現役時代の怪我は時と共に完治したものの、ピークがその間に過ぎ去り、往時の走りを再現できる能力は失われていた。それでも走っているのは、自分が走ることで不幸に陥った同期達への贖罪をするため。更に、同期達とその時代のトレーナー達に『母が外国の名ウマ娘』というだけで『敵視』されたトラウマがあり、当時の学園上層部もその事を黙認してしまったことへの償いとして、マルゼンスキーが大学生相当の年齢になった際に『付属大学』を開校させているほど、罪の意識を抱いている。名実ともに大団円を迎えられたスターウマ娘は意外におらず、オグリキャップがその代表例となる。(シンボリルドルフでさえ、海外遠征での怪我・敗北での引退という最後を迎えている)マルゼンスキーは自分も憧れていた『TTG』に怪我で挑めず、同期に敵視され、同世代の友人を得られなかったことへの悔恨、ルドルフは皇帝を謳われつつも、最後は敗北の二文字を突きつけられ、ひっそりと帰国。直後に引退式をするしかなかったことへのトラウマを抱えており、そのトラウマの払拭のためか、愛弟子のテイオーに過度な期待をかける形になり、結果として、テイオーは自らの再来になること叶わず。ルドルフはシンボリ一族の全盛期をもたらしたが、結果として、その後のシンボリ一族の嫡流からは彼女に続く者は現れず、事実上の後継者は分家筋のシンボリクリスエスとなった。――

 

 

 

 

 

 

 

 

――史実の関係性を知り、無碍にできなくなったのがナリタブライアンにとってのウォッカで、ウオッカは前世では(遺伝子学的に)姪っ子にあたるため、無碍にもできないのだ。(ウオッカの父『タニノギムレット』はナリタブライアンの異母弟にあたる)――

 

 

「参った。ウオッカを今後、無碍にできん。奴は………異母弟の娘だ」

 

頭を抱えるブライアン。ウオッカが前世での姪に当たる事を思い出したためである。

 

「あたしらは前世に遡ると、誰かどうかは親戚だぜ?まぁ、そこまで繋がりが濃けりゃ……好きにしな。入れ替わりの約束まで間がないから、あいつにこづかいでも渡しとくよ」

 

「頼む」

 

「でもよ、なんでまた?」

 

「生徒会として、街の自治会との約束を破るわけにもいかんだろう。通達のせいで、ビコーペガサスががっくりしてるんだが」

 

「あいつ、お前の同期だっけ?その割に」

 

「奴は子供っぽいが、そこそこの力はある」

 

「勝負服の支給がされているからな」

 

ウマ娘達の中でのエリートを見分けるには、勝負服の有無が項目に入る。G1出場経験者であれば、自己の嗜好が反映された勝負服を纏う権利が与えられるからで、ビコーペガサスのように、史実ではG1レースを二着を数回経験した程度の実績しかなくとも、エリートに属する資格があるのである。

 

「G1を勝っても、世間に忘れ去られて、行方が定かじゃない連中もいれば、時代の差で、G1に出れれば『社会的にエリートの地位が約束されてる』奴もいる。時代の流れは残酷ってことだ」

 

「まーな。オグリさんとタマさんが現れる前の芦毛のエース格だったプレストウコウのことなんぞ、会長も忘れてた。同期だったマルゼンさんも…。マルゼンさん、ものすごく気まずい顔してたが、当たり前だな」

 

「何?あの人、プレストウコウとは同期じゃなかったか?」

 

「そのはずだが、どうも……あまり接触がなかったみたいでな。まぁ、あの世代は協会の愚策の犠牲になったようなものだっていうが」

 

プレストウコウの悲劇。それは芦毛のウマ娘で初のクラシック制覇を成し遂げたはずが、同世代にマルゼンスキーがいたために、その栄光も色褪せた代物と見なされた事である。一説によれば、外国で悲運の死を遂げたとされる。ルドルフさえ、その活躍は記憶していない。同期のマルゼンスキーも『言われて、当時の記憶がようやく蘇る』という受動的な形で思い出すほど、記憶の片隅に消えた名であった。ゴルシも、流石にマルゼンスキーとルドルフに苦言を呈している。テンメイの夢を打ち砕いた『銀髪鬼』というレッテルと戦い、引退後も『マルゼンスキーの噛ませ』という評価から逃れられなかった『悲劇のウマ娘』。正確な現在の消息は不明だが、死去したらしいという噂がまことしやかに語られている。

 

「あの世代のことを協会の幹部は語りたがらんが……どうしてだ、ゴルシ」

 

「マルゼンさん一人が抜きん出てた事自体が世代全体の悲劇だからだ。アタシも気になって、当時を知ってる元・トレーナーたちに聞き取り調査したんだよ。半分はタブーだな。当時の判断ミスが響いて、今回の協会、いや、中央への世間的バッシングの根源の一つになってんだからな」

 

ウマ娘競走協会は世間的バッシングに晒され、地方と中央の対立もいよいよ表面化。その政治抗争が、協会の地位と立場を揺るがしている。その序章になったのが『マルゼンスキーの無双状態で、同世代のクラシック戦線そのものの評価が下がり、世間も参戦していた彼女らを『マルゼンスキーへの敗残者』としか見なさなかった』出来事。次なる出来事がクラシック戦線に参戦できなかった地方出身のオグリキャップが国民的ウマドルにのし上がり、クラシック戦線で名を上げることは叶わなかったが、ルドルフの成し得なかった『国民的ウマドル』(当時は『アイドルウマ娘』という言い方であったが)として絶大な人気を誇り、全盛期~引退までに稼いだ金額はアイドルウマ娘の奔りであった『ハイセイコー』に勝るとも劣らないほどとされた。なおかつ、スーパークリーク、イナリワンとともに『TTG』後の第一世代の三強として名を馳せた。彼女の存在が規定改定の決定打となったが、その恩恵を受けた最初のウマ娘『テイエムオペラオー』はルドルフに匹敵しうる実力者でありながら、本人の芝居がかった大仰な態度が世間に嫌われているためか、実力者の割に人気には恵まれず。しかも、能力のピークを過ぎ、アグネスデジタルに苦杯を嘗めさせられて以降は低迷している。栄枯必衰という奴だが、ブライアンと違い、オペラオーは同格のライバル格がメイショウドトウ、アドワイヤしかいなかった。ナリタトップロード、ステイゴールド、ラスカルスズカ(サイレンススズカの実妹)らはメイショウドトウとアドマイヤベガともワンランク格落ちが否めないが、ナリタトップロードのみは三強と呼べるだけの意地は見せている。

 

「今の世代も、オペラオーとドドウ、アドベはこれから落日は確実。主役はタキオン、カフェ、デジタルへ移行していくだろうよ。グラスも急いだほうがいいかもしれん。新鋭が台頭してくれば……」

 

ゴルシは、スペシャルウィークの親友であるグラスワンダーに『トゥインクルシリーズで低迷が許されるだけの時間』は少ないことを悟っている。既にオペラオー、アドベ、ドドウの三強でさえ、ピークが過ぎ始め、次世代の三強の足音が静かに迫りつつある。三人(主にオペラオーとアドベ)が現役を続行しているのは、テイオー、マックイーン、ブライアン、タイシンといった『その前の世代の強豪』たちがシニア級に籍を置いたままである事が理由だった。

 

「そうか、そんな時期か。なら、今の三強の連中に今度の金鯱賞で見せてやるさ。『ナリタブライアンは未だ健在』だとな」

 

史実では世代の差的にありえないが、ウマ娘世界では実現する。ブライアンは復活の狼煙を上げようと意気込むが、その事で現役続行を決めるウマ娘がいる。サクラ軍団最後の大物『サクラローレル』である。彼女はブライアンの同期であり、ブライアンに強い憧れ、ライバル心を持つ。ブライアンは全盛期には気に留めていなかったが、度重なる怪我にもめげずに奮闘する姿が低迷期以降に目に留まり、この時点では、その名を覚えられている。史実では衰えが顕著になった時期のブライアンを倒すに至っているが…?

 

「それに、ローレルが私との勝負を望むなら……前世の雪辱を果たす機会になるさ。春の天皇賞に奴が出るならの話だが」

 

「ローレルが聞いたら喜ぶぞ」

 

「全盛期のカンが戻った状態なんだ、今度はぶっちぎってやるさ」

 

ブライアンは全盛期の実力が戻っている状態なため、サクラローレルを返り討ちにできる自信がある。

 

「新世代がなんだ。まだまだ、ケツの青いガキ共に負けるつもりは微塵もない。前世の分も走り抜くだけだ」

 

明らかに自身の後輩かつ、三冠の地位を受け継ぐ宿命のディープインパクトを意識している。その一方で、サクラローレルの闘志に共感している父子もある。悲運の三冠馬と後世で語り継がれた自身の運命を超えるため、ブライアンは自身の後輩になる者たちや、同期のサクラローレルとの対決を望むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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