――陣風。扶桑海軍最後のレシプロ艦戦であり、3000hpの大馬力空冷エンジンを試作機の時点で積む。姿は紫電改の発達型なので、紫電改の単なる改善型と見られがちだが、構造からして、別物である。紫電系のロールレートの高さと重武装が反映された新型なため、紫電改よりも若干大型化したものの、3000馬力級のエンジンによるハイパワーが懸念を消し飛ばした。この機体の成功で『パワーバンザイ!!』な思考となった扶桑だが、機動力との両立が至上指令であった都合上、F-104Jは元は『秋水』の運用を予定していた部隊を中心に邀撃機として配備されるに留まり、すぐに『より優れた』F-15JやF-14の扶桑型が現れるに至る。F-16については、その派生モデルであるF-2を作れば良いので、それが優先された。それらジェット機までの繋ぎの役目を任された機体こそが陣風なのだ――
――陣風の元々の計画は紫電系統と別の制空戦闘機の開発であったが、紫電系統の早期の陳腐化を警戒する日本側の要請もあり、モックアップまで進んだ計画を再利用した。その過程で、使用発動機や武装のさらなる変更が行なわれ、紫電系統の後継機として投入され、ちょうど、キュアドリームが救出された日に部隊配備が開始され、それから二週間の内に初期型の紫電からの置き換えが進んだ。当初からのF8FとF2Gへの対抗馬であったが、日本側はターボプロップエンジン機の登場を懸念し、ジェット機の開発を促すなど、繋ぎ以上の扱いはされなかった。だが、初期型で既に3000馬力級の大パワーと機動力(自動空戦フラップの効果もあり)の両立ができたのは扶桑の航空研究の成果であり、広義での『日本型艦上戦闘機の集大成』と言えた――
――正統な艦上機の血は継いでいないが、結果として『日本最後のレシプロ艦上戦闘機』となった陣風。ドリーム達が参加した洋上戦闘でも、主力部隊の航空機として配備されており、紫電改から制空戦闘の主役の座を受け継ぎつつあった。烈風は大柄な機体が『戦闘爆撃機運用に適する』と判断され、次第に戦爆の先駆けとしての使用に移行していった。これはロール速度が『零戦とほぼ変わりない』有様であったからだが、改良はきちんと施されており、後世には『戦闘爆撃機という分野を普及させるため』と見做される措置であった。これは急降下爆撃機や艦攻の爆撃運用が陳腐化した故の対応策で、爆弾も搭載量の勝負になり始めたからだった。烈風は艦上戦闘機の主役にはなれなかったが、戦闘爆撃機という居場所を得て、制空特化に近い特性の紫電改が比較的短期の運用で退役を始めるのに対し、こちらは戦闘爆撃機として使用され続け、かなり長期の運用がなされる。その点を指して、『和製F4Uコルセア』という渾名をもらったのは言うまでもない。扶桑海軍はダイ・アナザー・デイをこの機種らを配備する事で乗り切っていった――
――ジェット空母は大規模・少数が当たり前となるため、扶桑が望むような大規模運用は非現実的であった。また、ウィッチ運用に必要なスペースの余裕もないため、ウィッチの海上運用は強襲揚陸艦へ移管されていった。ハリアーやF-35Bのような垂直離着陸機が理論上の存在でしかない当時、ウィッチは(似た存在の魔導師に比べてのデメリットが目立ってしまっていたが)強襲揚陸艦での制空権確保にうってつけとされたからだ。だが、それを『空母からの追放』と取った中堅層がクーデターを起こしてしまい、結局は64Fの精鋭におんぶにだっこな有様に陥るのである。扶桑軍の悲劇は過剰に『みんなでできること』を信奉させたがために、『突出した才能を持つ個人』が必要な時代に突入すると、途端に烏合の衆と成り果てることであった。黒江たちが冷遇された事を引き金に、くすぶっていた『カールスラントへの反感』が爆発し、各戦線でカールスラント軍人がいじめられる問題が起こってしまい、今度は『カールスラント人は人種差別をしていない』という事が悪魔の証明になってしまう。その流れが続き、連合軍は今後、長年に亘って、人員の相談に悩まされてしまうのである。有能なカールスラント軍人たちはこの情勢を鑑み、扶桑の64Fへ次々と移籍。ダイ・アナザー・デイの時点で元・52JGと44JVのエース達が移籍をし初めており、カールスラントでも指折りの撃墜王らは既に扶桑の指揮下にあった――
――なお、ミーナの無知や、過去に起因する整備兵の冷遇の行為は結果として、くすぶっていたカールスラント空軍への不満を爆発させてしまう形となってしまい、連合軍の上層部は対処に苦悶する羽目に陥った。そのため、多くのカールスラント空軍将校はダイ・アナザー・デイ中に『身の振り方』を考えなくてはならなかった。戦前から戦果を挙げてきた古参は(コンドル軍団の経歴を持つ者も多い)本国での冷や飯食いを予見し、高待遇で扶桑へ事実上の移籍を行った。ルーデル、エーリカ、バルクホルン、マルセイユらは実質的にその第一陣と扱われ、ダイ・アナザー・デイの途中からは『日本連邦空軍の義勇兵』という形の身分となった。『年上を立てる』という、儒教の名残りの文化に上手く適応できた者が扶桑に移籍できたわけだ。実力主義が強かったカールスラント軍の軍人たちは『頭の切り替え』に難儀するので、早期に移籍できた者ほど『国際的』という評価を得る。統合戦闘航空団の経験者は優先的に移籍が推進されたが、既にいくつかは壊滅していた上、隊員の生存も定かでない航空団すらあったため、64Fに集まっていた者は下位編成の統合飛行隊の経験者も含まれた――
――統合戦闘航空団及び統合飛行隊は統廃合の末に、64F内にいくつかの中隊を儲け、その預かりにするという扱いに落ち着いたが、中小国はその前に人員の引き上げを敢行したので、ダイ・アナザー・デイ後半には『カールスラントで冷や飯食いが予想された撃墜王たちの溜まり場』と化した。カールスラントのトップ30の撃墜王の内、その大半が集まったため、当初はそれまでの機材も継続使用されたのだが、カールスラントの生産打ち切りの通告で部品入手が困難に陥ったので、まずはF-86ジェットストライカーへの統一が図られた。これはカールスラントの補給がおぼつかなくなる一方で、自由リベリオンが補給線を確立したからであった。その過程で、どうしても大威力の武器が必要となったため、ついには『ダウンサイジング化されたMS用の火器』に行き着いてしまう。プリキュア達が一挙に主役に躍り出た背景には、武器や機材を軍が供給し、個人単位でカスタマイズする必要がないという『補給上の都合』もあったのだ――
――ちなみに、本来、ウィッチのサポートが主眼であった扶桑陸軍の航空機『疾風』は『搭載予定の火器が性能不足に陥った』事で再設計が必要になり、更に想定任務が制空になったため、制空戦闘機に立ち帰る。だが、量産化は遅すぎた。改修キットまで作ったことが仇になったのだ。ジェット機も現れた戦場では魅力が薄れ、大規模量産化するほどは価値がないと判断されたのだ。とはいえ、二式単座戦闘機の当座の後継機が必要であったのも事実であるので、その用途に宛てがわれた。巡りに巡って、史実通りになったわけだ。本来は四式の史実のポジションを担ったはずの『二式単座戦闘機三型』が『リベリオンからの部品供給ができない』という理由で頓挫したからだ。結局、基礎設計が古い二式単座戦闘機は1945年の戦場には『旧式』と見なされ、ダイ・アナザー・デイにも動員されずに終わり、疾風も完全な戦闘機型がごく少数出回ったのみである。逆に、零式や一式戦は本土の機体まで動員され尽くした結果、戦後の残存数はごく少数にまで減少した。紫電改や雷電、烈風、陣風へ置き換えられたからだ。ダイ・アナザー・デイの大空戦は常に味方の数的不利な状態であり、それを新型機とエースパイロットで補わなくてはならなかった。極端な開発競争で、ついにはジェット戦闘機も敵味方全体で使われた戦場ながら、扶桑全体の戦闘機の稼働機の大半を注ぎ込んだ甲斐はあったわけだ――
――本国の疎開で大規模開発と量産化に難があったカールスラントは、瞬く間にダイ・アナザー・デイの開発競争から置いてけぼりにされ、同位国が介入し、軍縮とリストラを急激に行ったため、数年後に軍のクーデターが起こり、NATO軍に制圧されるものの、モチベーションを奪われた国民は無気力に陥り、『過去の遺産で食う二等国』へと転落していく。政治的にも、人種差別が取り沙汰され、規律の引き締めが強引に行われたため、軍部は却って堕落・腐敗してしまう。気骨ある将校・下士官達は次々と他国に移民していき、予算も無くなった軍隊などは『擬死の狸』も同然の惨状となった。NATO軍の軍政が長く続いたのは、無気力化した国民に『モチベーションを与える』方法が『本国の地を奪還する』以外に見当たらなかっ。その要因を作った形の日本連邦は『責任を取れ』とウィッチ世界の他国に責められる事になり、やむなく超大国への道を歩む。日本側はブリタニアに押し付ける気満々だったが、1940年代の英国には『超大国を続ける国力は残っていない』。その仕方ない事情から、扶桑の超大国化を容認せざるを得なかった。核兵器は(扶桑が裏で貯蔵した反応兵器を除き)有さないが、70年以上先の兵器を有するというセールスポイントは、カールスラントから『技術立国』のブランドを奪うのに充分であった。日本連邦に兵器を売り捌くアメリカ合衆国の立ち回りもあり、扶桑は1940年代後半から『覇権国』に変貌を始める。ダイ・アナザー・デイの惨禍とその後の政情不安で欧州列強の多くが大ダメージを負い、再起不能寸前にまでいった国も複数出たためだ。扶桑は(軍隊優先であったが)必要であったことから、ネットワーク化が急速に進展。ダイ・アナザー・デイから数年後までには、基地内にネットワーク接続可能な端末が設置されるのである。軍隊が優先であったのは『段階を踏んで、情報化社会に慣れさせたほうがいい』という科学者の意見、時代的に、電子機器の欠片もない頃の人間たちにそれを与えても、『豚に真珠』だという社会学者の意見が作用したからだ。日本による供与もあり、ダイ・アナザー・デイから三年半を過ぎる頃には、PCのネットワークが扶桑軍で構築されるに至る。扶桑に高度経済成長期が訪れ、本土の再開発も進行し始めたわけだが、情報化は1960年代以降に始めた方がいいという意見が政治家にあったため、本土では電話の普及が促される程度の進歩に留められている。その一方で、64Fなどでは、ネットワークを介しての情報交換や備品の発注などが当たり前になり、ついには宇宙艦を部隊単位で保有するに至るので、防衛省は『両極端』とぼやいたという。
――プリキュア達はダイ・アナザー・デイ、デザリアム戦役のゲリラ戦を経て、必要であったことから、得意な者に限るが、機動兵器の操縦資格を得ている。その中でも、64Fは他部隊と違い、ガンダムタイプとその派生モデルの保有を容認されているため、ジム系のほうが少ない。エースパイロット達がひしめき合う部隊には、相応の装備が必要なのである――
――格納庫――
「ここまでになったか」
「ロンド・ベルの本隊の格納庫に入らない保有機も引き受けてるから、かなりの機数になったわよ。ガンダムタイプのマイナーな奴もかなりあるし」
「ネオもあれば、クラスターもあるからな」
1949年度にもなれば、ネオガンダム(三号機)やクラスターガンダムを有し、ネオの後継機『センチュリーガンダム』も配備予定であるという通知もきていた64F。機種はかなりの充実を見せていたのだが、問題もあった。ガンダムタイプは初心者向けでない『高等なマシン』が大半であるので、操縦系の改良と調整が必須であり、それなりに費用が嵩むのである
「操縦系の改良と改造にかなりの金がかかったのだけど……」
「それは仕方ねぇよ。新しいシステムは金がかかるもんだし、不備も多い。だから、キュアサンシャインとキュアミラクルに予てからのテストをさせてんだろ」
「コズミック・イラ世界のMSはOS技術が21世紀の延長線上というけれど?」
「量子化は進んできてたと聞く。だが、MSを動かす技術は未来世界のほうが上だ。デバイス単位の省エネさでコズミック・イラ、パワーと精密な動きでは未来世界だな。お前用のバイオコンピュータの調整も大変なんだぞ、武子」
ある日、黒江は格納庫の視察を武子に随行する形で行っていた。アストナージ・メドッソの研修と、アナハイム・エレクトロニクスのエンジニアやメカニックの指導で、MSの整備が行なわれている。
「シーブックさんのおふくろさんにバイオコンピュータの理論を聞いて、お前のバイオリズムに合わせたから、オリジナルのF91のポテンシャルを引き出せるんだからな?」
「量産機はグレード下げたの?」
「フルスペックのバイオコンピュータなんて、量産機に載せられっかよ」
F91はオリジナル機には高価なバイオコンピュータがフルスペックで積まれているが、量産機では簡略化されていた。これが不評を買ったのは言うまでもないが、エース用の量産機という枠組を想定していなかったサナリィの落ち度であった。
「量子コンピュータのほうがコスト安いんだが、機体の反応が若干鈍るってんで、エース用にはバイオコンピュータをフルで積んだ仕様の選択肢が出たそうだ。たぶん、オリジナルの構成的に、量子コンピュータは想定していなかったんだろうな」
「サイコフレームはいいの?」
「νガンダムより少ないし、操作レスポンスの改善用途だから、条約の範囲外だそうだ」
「一つ聞くけど、F91はムーバブルフレームなの?」
「セミモノコックとムーバブルフレームの真ん中の構造らしい。コア・ファイターの構造じゃないし、フレーム構造に慣れた整備兵のためでもあるそうな」
セミモノコックとムーバブルフレームが入り交じる構造が小型ガンダムの特徴だが、構造が複雑になるため、純正のサナリィ系のガンダムは市井の部品での修理が困難であるという指摘がある。そのため、ネオガンダム系が見直され、64Fに最後のネオガンダムが配備されたわけである。
「整備にコツがいるのも、サナリィのガンダムの悪い点でな。アナハイム・エレクトロニクス純正のネオガンダムがここにきて、評価を持ち直した。たしかに、慣れないと、ずいぶんと扱いにくいが、Gバードの火力はV2のメガビームライフルを超えるぞ」
Gバードはメガバズーカランチャーの小型化のようなコンセプトの武器なので、使い勝手よりも威力が優先されている。ジェネレーターに負担もかからず、それでいて、V2バスター級の火力をもたらす。バスターランチャーのようなオーバーロードの危険もないので、人間サイズのそれも制作されている。ハイメガランチャーやメガバズーカランチャーの発達した武器ながら、小型化されているというのは、地球連邦軍にはこの上ない魅力だったのだ。
「試作の人間サイズのものを、あなた使ってたわね?」
「ああ。威力は変わんねーし、他のライフルのダウンサイジングじゃ、どうも火力に不満があったからな」
Gバードはヴェスバーとほぼ同じ技術で構成されるが、手持ち式である分、前線では評価は高い。これはヴェスバーは高性能MSの専用装備であることが当たり前であるが、Gバードは必要な定格出力を出せるマシンであれば、極端な話だが、マジンガーでも撃っていいという利点がある。マジンガーZやグレートマジンガーの改良過程で『手持ち武装』も検討されており、アナハイム・エレクトロニクスはGバードを薦めたという記録がある。黒江も、使い勝手の悪さは承知の上で、大威力のビームを連発できるという利点を優先し、これまでに幾度となく携行していた。
「シンフォギア世界でも使ったよ。向こうの世界の護衛艦の艦橋を超遠距離で蒸発させたから、ブルって撤兵したよ」
Gバードのビームはシンフォギア世界でも、『防げる場合が少ない』。模擬戦で、中程度の出力で撃っても、イチイバルのリフレクターが自壊するほど(巨大構造物のビームよりも貫通力が高かったため)の出力であったので、最大出力では防ぎ得ないという結論が出ている。
「でしょうね。あのビームは芳佳の最大シールドも破る。あの世界の錬金術師も腰抜かしたでしょうね」
「ああ。加減があんま聞かないから、滅多に撃たなかったがな。バスターランチャーよりは慈悲深いだろ」
「あなたねぇ…。まぁ、錬金術師の防御が現代科学で破れる事の証明にはなったわね?」
「バスターランチャーなら、キャロルの奴が予備の躯体に記憶を転写する暇もなく、空間ごと消すからな」
黒江はシンフォギア世界での魔法少女事変の際、キャロル・マールス・ディーンハイム相手に、最大出力のGバードを問答無用で放ち、倒した事がある。そのため、キャロル・マールス・ディーンハイムは予備躯体を一体、余分に消費していることになる。
「まぁ、キャロルは最終決戦の前に、人格を仮想データとして残しておいたらしく、事後にそのデータで復活したらしい。Gバードのことで愚痴られたよ」
「そりゃ、あんな周囲にプラズマが発生してるくらいのビームを手持ち武器で撃ちゃねぇ……」
「バスターランチャーよりは安全だったからな。他の錬金術師は老師が廬山百龍覇でアジトごと瞬殺だったから、あの世界だと、光明結社の蜂起は起こってない事になった。後で、サンジェルマンの転生でもあるキュアダイヤモンドに愚痴られたけど」
「まぁ、痛みを感じない一瞬で死んだ分、マシじゃない?」
「それはそうだが。俺も自業自得とはいえ、フロンティア事変の直後から魔法少女事変の始まるまでは大変だったんだからな」
「仕方がないとはいえ、断れば良かったじゃないの」
「事前に頼まれてたし、あそこで断ったら、未来と響が口喧嘩しそうだったのは目に見えてた。俺の言動が二転三転したとか、報告書からは読めるだろうが、俺としても、マリアとの密約があったし、おっさんがあれこれと誤魔化すのに必要な時間を稼ぐためだったんだよ」
「遊びすぎよ。おかげで、切歌の立場が変化しちゃったじゃないの」
「俺がこうなってる時点で、本筋から外れてるよ。口で言っても、フィーネに憑依されてるって思いこんでたから、やるしかなかったんだよ。俺が二人の仲を裂いたのは事実だし、容姿が入れ替わったなんて、ギアを纏える時点で信じてもらえなかったしなぁ」
「で、あとで本人が帰ってきた上、別世界で戦ってたから……」
「あいつはベルカにいたから、響が俺にさせたことを承服できなかったんだろう。俺が『容姿が変わっただけの別人』なのに、自分の役を頼まれてたからと、一年くらい演じたことを。未来がなんとか宥めたんだが、学校にほとんど行かないで、のび太んちにいったくらいだから」
「で、あの子はあの子で、切歌への善意で選んだ選択だったから、調が反発した理由がわからなかったのね?」
「まぁ、あいつは口下手なんだよ。で、最悪だったのは、調がベルカ騎士の気風に染まってたことだな」
「調も言ってたけど、下手に取り繕うより、最初から真相を話すべきだったんじゃ?」
「マリアに言った事はあるが、調の存在が精神安定剤だからって、却下されたんだ。後で帰ってくりゃ、俺が別人って分かるんだからって言ったんだが。まぁ、屈折した愛だな。あの二人はお互いに過去の記憶を失った状態で生きてきて、素質がわかった時点で、マリア姉妹と一緒に訓練を課されてきた。だから、想いが強すぎた。響は下手に入れ替わる前の二人と会ってたから、俺が別人っていっても、すぐには信じなかった。そこも参ったよ」
「あなたがギアを使ってたのが原因じゃ?」
「今となっちゃな。だが、あの時はそうしか選択肢がなかった。シンフォギアは装者の鍛錬と心象でデザインが変わるから、俺が使った時もそう見られたのは誤算だった」
シンフォギア世界で失敗したというべき事も多い黒江。だが、結果的に、シンフォギアの力は絶対ではなく、『極限まで発達した現代科学が異端技術を超える事もある』という教訓を残した。また、黒江が調の姿で風来坊をしていたおかげで、日本政府向けのパーソナルデータの捏造をしやすかったのも事実だ。
「グレートマジンカイザーに見せ場を与えられたのは僥倖だった。ジュンさん、ミネルバに『無駄な事』と言われて、体調崩したって言うんだ」
「ああ、ミネルバはあれが負ける世界を見てるものね」
「妊娠してたから、甲児も相当に叱ったんだそうだ。親父さんはその言質を取って、エンペラーの予算を得る口実にしたけど」
グレートマジンカイザー。未来世界では、オリジナルのグレートの進化として生まれた機体だ。『どこかの平行世界』でZEROに敗れた事があることから、ミネルバは『無駄な事を』と断じたが、その世界でも、カイザーソードで一太刀浴びせ、一矢報いていたのだ。
「エンペラーとGカイザーは表裏一体ね」
「ああ。ジュンさんは俺に託した。ZEROの奴にも釘は刺しといたぞ」
「世界を滅ぼしまくった魔神が三代目プリキュアの妖精ポジなんて、キュアミラクルがよく許したわね」
「お前、聞いてないのか?デザリアム戦役で、あの二人、それで殴り合ったんだよ。月が欠けるくらいに」
「あいにく、デザリアム戦役が落ち着いた時は太平洋戦線への移動の説明で、本土の厚木に行ってたのよ。責任者だから、自治体のお偉方の機嫌取りがあるのよ」
未来世界の月は最強フォームのプリキュアの大喧嘩で一部が欠けてしまい、真田志郎が再建工事を指揮している。最強フォームのプリキュアが本気で戦った上、ドリームはマジンガーの武器を、ミラクルは最高位の魔法を後先考えずに撃ちまくったからだ。
「ベガ星連合軍、肝冷やしたでしょうね」
「スーパー1が止めてくれなきゃ、余波で小さい月面都市は崩壊してたかもしれん。ベガ星連合軍の前線基地(工事中)はそれで潰れたし、月に潜んでたジオン残党が燻り出されて、二人の殴り合いに巻き込まれてたから」
「その残党、どうなったの?」
「グワジンの改良型のどれかは忘れたが、その戦艦がへし折れて、エンドラ級が四隻くらい墜落したな…。一也さん、怒ってたぞ」
「で、二人は?」
「当たり前だが、俺も叱ったよ。あんな超パワーを月面で奮われたら、月面都市のインフラが壊れちまうから。で、二人仲良く、反省室行き。始末書も書かせた」
「独房に入れなかったの?」
「一也さんの執り成しだ。幸い、真田さんに言ったら、ガイアの銀河ってゆーヤマトタイプに出動してもらえたし」
「で、その後に、キュアルージュの記憶が?」
「サイコフレームの光が回復を促したらしい。それでのぞみが落ち着いた。本人は『迷惑かけたから』ってんで、何か覚えたいようだ」
「忍者してそうな声じゃない、あの子」
「本人はそのネタは勘弁と」
キュアルージュ/夏木りん。彼女は某有名なジャンプ漫画の主人公と声が似ていることは生前から言われており、本人は兄弟にそれでせがまれまくった経験から『勘弁して』と述べている。よほど真似をせがまれていたのだろう。
「切実ね。あ、そういえば、向こう(B世界の)の坂本が聞いてきたわ。『どうして、震電が量産化されなかったのか』、と」
「前にストライカーは教えたはずだ。戦闘機として、か?」
「ええ」
「ほとんど同じ理由だったと伝えろ。ジェットにした方が有望だったし、P-51HやF8Fへの優位性がほとんどなかったからって」
震電は戦闘機としても、レシプロ機としての実用化は諦められた。P-51HやF8Fへの優位性が殆ど確保できない見込みだった(P-51Hは761kmを誇り、震電よりも高速である)ためだ。無論、陣風用の3000馬力エンジンで強引に解決する案もあったが、エンジンの冷却問題があったのも事実だ。ジェット機に変更した方が将来性があったし、機体設計そのものも、ジェット機にした方が適しているのだ。
「震電の存在意義もねぇ……」
「ジェットの実用化が成った後じゃな。プロペラ機は800キロで頭打ちになるし、空戦機動する時はどうしても速度は落ちるからな」
震電はシミュレーションでも『ジェットにした方が真価を発揮できる』と結論づけられ、実際にその型が運用された。しかし、それはレシプロ機としては『未来のない』表れであるので、やはり、横空の起こした不祥事の際に機体を燃やされてしまっている。そのため、横空の人員への懲罰は苛烈となったのは言うまでもない。1940年代末までに、その時の隊員の六割は前線で戦死していた。
「そうだ、震電で思い出した。横空の連中、名誉挽回を求めて、無理に出撃を重ねんから、死ぬんだ。日本で罪人の名誉挽回なんて、できた方が少ないってのに」
「左遷先の辺境で飼い殺しにする案もあったみたいだけど、最前線で死なせた方が評価される世の中だからねぇ……」
「うちの国の世間はその方を褒め称えるからなぁ……。武士の時代の名残りだな」
武士の時代の名残り。それは扶桑人の倫理観の多くを左右する要素であった。23世紀世界の日本にも残っている要素であるので、そこはなんとも言えない二人。士族の出であるため、それを余計に感じるのだろう。
「日本でもあるものね、それ」
「21世紀になって、だいぶ薄れたが、軍人への見方としては残ってるからな。自衛隊が装備を壊しただけで、すぐに叩きやがる。現場の隊員は疲労困憊なんだがなぁ」
「軍人の転職にまで、ケチつけられるとは思ってもみなかったわよ」
「あれは文科省の官僚と、偏ってる思想の現場の教員が悪い。お上の面目を潰したんだ、扶桑の人間なら、不敬罪で銃殺刑ものだ」
のぞみの一件は扶桑の職業軍人の転職活動そのものに悪影響を強く及ぼした。副業が認められたのも、のぞみの事件の影響による。平時に別の仕事を行う軍人が以後の時代に当たり前になったのは、この時に予備役制度が混乱してしまい、新制度で教職などと軍務は両立不可能な風に改変されたため、代々が教職ながら、時局の都合で軍に入った者らの要望があったからだ。結局、扶桑の予備役制度はこれまでほどの自由度が担保されなくなる事から、副業がなし崩し的に認められ、平時はそちらを主にする者も出現する。日本は公式には『一部の者の暴走による混乱をお詫びする。扶桑の軍務制度に干渉するつもりはなかった』と言い訳しつつ、当事者を昇進させて、前線送りにする手法を用いた。これは口外され、スキャンダルになるのを阻止させたい思惑によるもので、戦時中の海軍の行った懲罰人事と本質的に同じ行為であった。罪悪感はあったので、のぞみへの補償は手厚くなり、大佐までの早期昇進などは人事表に記されている。
「ダイ・アナザー・デイでもそうだったが、史実の経験から、日本の民間は補償がないと、船を一隻も出さないから、全部をうちの軍隊で賄う必要が出た。そこが扶桑の誤算であって、連中の誤算だ。連中は自分たちに船の注文が来ると思ったんだろうが、こっちには工廠がある」
「彼等は民間主導でやりたがるけど、金がなくなると、すぐに放棄するもの。それでいて、すぐにせびる。だから、扶桑が工廠をフル稼働させるなんて、考えなかったのかしら」
「大方、史実の造船能力を基準に考えてたんだろうよ。だから、こっちに大神や室蘭、更には南方に大規模工廠があるなんて、思いもよらなかったんだ。戦闘用の軍艦を犠牲にしても、それらを増やせる力があるなんてな」
日本の船会社の誤算は黒江の言った通り。扶桑には軍工廠があちらこちらにあり、それらをフル稼働させれば、だいたいのものは賄える。品質も史実の戦後日本の基準に到達するほどに高い。これに驚いた日本の民間会社は慌てて、扶桑軍に発注を乞う事態となった。日本は扶桑での大口注文を見込んでいたからで、結局、扶桑の造艦関係に口出しはできても、肝心の大口注文の多くを逃す羽目となったが、戦車輸送艦や資源輸送タンカーなどの受注はでき、関係者を安堵させた。また、空母の改造や修理に噛むことにも成功はしたため、一定の旨味はあった。
「とはいえ、こっちも兵器生産量を犠牲にしなけりゃなんなかったから、こんな事をしたわけだ。一番儲かったの、23世紀の軍需産業かもな」
「艦艇はどこが?」
「艦艇部門は南部大重工業、ヤシマ重工、ヴィックウェリントンとかだな。地球連邦系の軍需産業は異世界にも商品売ってくれるから。ラー・カイラム級や波動エンジン艦の大規模整備はそこに任せりゃいい。あ、マクロス級は自動工場製が多いそうだ」
地球連邦の軍需産業は商機をつかむのが巧みで、既に粗方の企業は扶桑へ出資し、製品を売りさばいている。RGM-89『ジェガン』などは新品が扶桑に卸されているほどだ。艦艇も、扶桑空軍が連邦宇宙軍の放出した『マゼラン改級戦艦』、『サラミス改級巡洋艦』を既に購入し、精鋭部隊向けに回してもいる。
「マゼランやサラミスが他の部隊に出回ったが、あれらは衛星軌道の監視用だ。大気圏再突入可能な『ラー・カイラム級』(ラー・カイラム級は最終仕様になれば、自力での大気圏突破が可能)とかが与えられていれば、優遇されてる証だよ」
64Fは主力戦艦級、ラ級戦艦やアンドロメダ級も有するため、他部隊と比較はできないが、質の差で区別はできる。64Fとほぼ同格の待遇であれば、高級機種やラー・カイラム級(地球連邦でも、内惑星巡航艦隊の旗艦と扱われる艦級)が与えられているからだ。
「他の部隊はパイロットの育成が遅れてるそうよ」
「機械が得意な連中ばかりじゃないからな。俺たちみたいに、21世紀に派遣されて、その時代の空気を感じてきたのはエリート層だしな。菅野の後はますます簡略化された教育だから、他兵科に無知な魔女も多い。講習会が大盛況だよ」
「兵科がなくなるっていう噂、貴方が?」
「ケイが意図的に流した。そうすりゃ、他兵科の事を少しは勉強するだろ。まぁ、戦争が終わって、竹井のじいさまが亡くなれば、本当に無くなるのは予定されてる。彼の功績でもあったからな」
扶桑の魔女兵科が廃されるという噂は人員に危機感を与えた。司令部直属ではない魔女達にとって、兵科の廃止で『それまでの威張りくさった態度への報復は現実味のある結果』であったからだ。竹井退役少将が亡くなれば、政治的な後ろ盾も無くなる。そうすれば…という現実的な近未来もあって、以前のように『魔女第一』な内規を持つ部隊は消えてきている。急激な通常兵器の進歩で、魔女に以前ほどの優位性が見いだせなくなったのも要因である。ミーナへの厳しい懲罰は世間への軍の示しでもあった。
「ミーナの件は地味に界隈に効いた。百合な関係の連中は死ぬほどいたからな、階級を問わず。だから、関係を悟らせないためだとか、昔を思い出すからと、整備兵と魔女の接触を禁じたら、社会から重い制裁を受けるっていうのはな」
「この界隈、男との接触も憚られるから、必然的にそういう思考に行き着くことが多いのよね。だから、排他的って言われるのよ。あの子、あなた達を年齢と『司令部肝いり』ってだけで敵視したじゃない」
「あいつは生え抜きの軍人じゃないからな。それ自体が不幸だったんだ。前の上司に散々に嫌がらせされれば、俺たちを監査官と勘違いもする。ケイが整備班の不満をもみ消してなきゃ、あいつ、不名誉除隊されることもありえたよ」
ミーナには同情の余地があったため、多少の情状酌量が認められた。(坂本の口添えもあったが)事の重大さを知った後の行動も『追い詰められた少女の取り得る保身』の範囲内だったためだ。
「パットンを悪役にするのは『くさかった』わよ」
「誰かが不満を代弁しないと、あいつは事の重大さを理解しないからな。坂本への恋心が判断力を鈍らせたのさ。たぶん、俺たちが隊を引っかき回すのを恐れたんだろうが、俺たちが扶桑最強を謳われた『伝説のエース』って分かった時点で、怖くなったのもあるだろう」
エーリカの証言によれば、人事書類の再確認の際、青ざめた顔で『そんな……おとぎ話じゃなかったの……?』と呟いたのを耳にしたというので、七勇士を『扶桑が苦し紛れにプロパガンダした』架空のエース集団と思っていた節がある。
「で、部隊の指揮権を取り上げられる怖さで?」
「18の小娘にしてみれば、自分の築き上げたものを頭ごなしに取られる瀬戸際だからな。それでだろう」
そこまで話す内に、グレートマジンカイザーの置かれているところまで来ていた二人。カイザーにグレート風のデザインを落とし込んだデザインで、エンペラーよりもデザイン的な意味での人気は高い。
「刈谷、光量子反応炉の搭載はどうか?」
「スペース確保のための本体の改良作業も進めています。ハーロック提供の機材は時代相応に小型化されてはいますが、主機の陽子炉とのマッチングもありますので」
第一整備班の班長である『刈谷中尉』がやってきた黒江の質問に答える。グレートマジンカイザーは『どこかの平行世界でZEROに敗北している』存在だ。だが、その動力源をZEROの未知の存在に変えれば、対抗しえるのでは?という炎ジュンの提言が採用され、スーパーロボットも乗りこなしていた黒江の手に渡った。改修は数度に渡って行なわれており、今度は補機を光子力エンジンから『光量子反応炉』(グレンダイザーの動力源をハーロックの時代の技術で模倣した代物)に換装している。万一、別世界で生まれた『マジンガーZERO』の別個体と戦うような事態に陥ってもいいようにするという予防対策の側面が強い。
「光量子を入れれば、パワーは格段に上がるわ。だけど、あなたへの負担は増すわよ」
「な~に、俺はそういう時のために鍛えてきたんだ。最悪の事態を想定する分にはタダだ。いくらなんでも、ゲッターエンペラーがお出でになられたら、ある意味じゃ情けないと取れるだろ?」
黒江は炎ジュン(結婚後は剣ジュン)の意を汲む形で、Gマジンカイザーに乗る。Gカイザーもれっきとした『皇帝』であるという事を証明して、ミネルバXを見返してくれ。それが彼女が黒江へ託した願い。ミネルバが信奉するのは甲児と、彼が乗る魔神のみ。Gの名を持つ魔神は異端なのだろうか?そうではないのだという回答を示すため。安易にゲッターエンペラーに頼るわけにはいかないのも事実だが、ZEROの別個体が現れた場合の事は考えておく必要がある。
――Gの名を持つ魔神は『邪を祓う剣』となるべし――
グレートの開発コンセプトの決定時、兜十蔵博士は息子の兜剣造博士にそう説いたという。黒江はそのグレートの搭乗者『剣鉄也』の愛妻『炎ジュン』から託されし願いを叶えるべく、マジンガー乗りの道を歩み出すのだった