――トウカイテイオーとゴールドシップの足は歴代ウマ娘でも随一の速さを持つ。それを以てすれば、新野比家の近所にあるスーパージャイアンズまではものの数分である。二人共、一見して普通の美少女(ゴールドシップは黙っていれば美少女である)であるので、当人たちの知らぬところで衆目の注目を浴びていた。ススキヶ原では割合に住人がとんでもない存在に慣れている(過去にパーマンやオバケのQ太郎がいたので)ので、ウマ娘くらいでは驚かないのだ――
――この頃、疫病の流行が続き、世の中の閉塞感が大きくなり、世情不安が囁かれていた。日本政府はそのはけ口の少なからずを扶桑での戦争に求めた。そのため、扶桑は少なからずの苦労を強いられた。その発露の一つが航空機の航続距離への提言である。45年のダイ・アナザー・デイでは『航続距離をあまり重視せずに攻撃力と防御力を重視する』という方針で、緊急で生産予定の零式の性能改善型(六四型/五二型)では航続距離を1500キロまで妥協する予定だったが、飛行場が飛行機の大型化やジェット化による手間などで予定より数を確保できない実情や、交戦可能時間の短さを日本軍出身義勇兵らが絶対的に嫌った(扶桑側は『欧州戦線では、2000キロ以上の航続距離は過剰性能に過ぎない』と述べたが、史実のバトル・オブ・ブリテンでの独側の敗因をバンと突きつけられ、ショックを受けた扶桑側は何も言えなくなってしまった。実戦部隊のエリート達も『航続距離はあるに越したことはない』と述べた)ため、結局はダイ・アナザー・デイでの扶桑機の平均的な機体の航続距離は2100キロを超え、結果的にはその航続距離の長さが敵に対するアドバンテージとして機能した。開発プロジェクトは日本側の介入と扶桑内部の不満分子の行動で大混乱したが、1947年春の頃には、扶桑独自の開発は震電シリーズに一本化された。エリート部隊には史実第二世代以降のジェット戦闘機が1948年以降に徐々に出回り、64F向けからだが、単座型に設計変更された(F-4EJ改に不満を持った海軍系搭乗員が単座型を望んだため)F-14の供給に目処が立つ状態であった。太平洋戦争で余りに急激に航空機の開発競争が起こったため、戦線に関わりを持たなかった他国は技術レベル差が埋めがたい差になったわけだ。ガリアは戦後第一世代がようやく普及し終わったレベルで、第四世代以降のレベルに到達した航空戦力を有する扶桑とやり合うことになる。日本連邦は史実通りの開発競争を懸念するあまり、航空機の開発を早めたが、結局は一人相撲であった。敵がF-11やセンチュリーシリーズを登場させたレベルに到達した頃には、自分はF-14/F-15の実用化にも目処が立つ状態であったからだ。とはいえ、そこまで開発を進めたとしても、扱えるパイロットがほとんどいない(この間までレシプロ機に乗っていた者が多数派である)のも事実。早急な配備に反対する者は多かった。日本側は戦線の敵兵器の更新速度が予想外に遅い事に肩透かしを食らう形となったが、史実の技術差への恐怖心からか、更新速度を緩めなかったため、ウマ娘達が野比家にやって来た日の時点では、64FにはF-14単座型が配備されるに至った。つまり、零戦がまだ現用機とされていた時期から四年で20世紀末期以降の現用機水準に追いついてしまったわけだ。少なくとも30年分以上のワープ進化を果たしたため、余剰となったF-86が各国に売却され、一部はカールスラント軍の再建に寄与する。日本の史実の戦争の経緯への恐怖心が結局、通常兵器を一気に進歩させたわけである。ただし、せっかく実用化しても、用兵側が扱えないのが実情で、デジタル機器で高度化したグラスコックピットの機体は自衛隊や米軍の教育を必要とするため、主要幹部がその訓練を完了済みの64Fからの配備になるのは当然であった。『高性能機をいきなり与えても、パイロットがそれを上手く使えなければ、何の意味もない』。これは未来世界のゲルググでも証明されていることだからであるが、一般部隊の装備更新が遅れるという弊害も生ずる。地球連邦軍とネオ・ジオン軍のドクトリン『当代の高性能機を最高の部隊にまずは与える』事の大本は日本連邦軍の時代に確立されたと言っていい。そんな情勢であった。また、この頃は日本帝国時代と共通する軍の慣習の多くが自衛隊との事実上の一体化で消え始めた時代であり、扶桑海軍航空隊の将兵たちはそれに激しく抵抗していたが、時代の流れがそれを許さず、中堅層が開戦劈頭からどんどん戦死していったため、集団の規律よりも個を重んずる風潮が拡大。64Fのように『式典以外の普段の日は個人単位でだらけている』部隊が増え始めている。逆に言えば、『伝統に一番こだわる世代』が『合法的に』減ったおかげで、気風の刷新が進められたわけである――
――話は戻って――
「疫病ねぇ……」
一応、スーパージャイアンズの前でマスクをつけるゴールドシップ。トウカイテイオーも続く。彼女らの世界では疫病は流行っていないからか、不思議そうである。
「疫病かぁ。信じらんないけど、なんかピリピリしてない?」
「何回も緊急事態宣言してる上に、経済的には儲けにならなくなったオリンピック控えてるから、それに苛立ってるんだろうよ。アタシにいわせりゃ、半分は戦争みたいな感じだけど、戦後の平和な空気に慣れきった連中には親方日の丸主導の規制はキツイんだよ」
「時々、的を射た答え言うよね、ゴールドシップ」
「るせー」
ゴールドシップは奇行が多いので、大まかには変人扱いだが、時々、インテリじみた発言も多いなど、意外に賢いところもある。また、アクの強いメンバーのリーダーシップを取れるのもあり、意外にまともなところもある。同じ21世紀の世界から来たので、貨幣価値に差がないのは大いに楽である。
「さーて、CMとかの契約で得た金は持ってきてるから、ついでになんか買ってこーぜ」
ゴールドシップはこのノリだ。のび太達が戦闘態勢に入りつつある頃、彼女たちは平和に過ごしている。スーパージャイアンズは5、6階建ての建物で、竣工は2013年冬の前後。この時点では、営業8年目を迎えていた。二人は中央トレセン学園(ウマ娘の育成としては全国最先端の学園)に在籍中だが、CM撮影などの都合で収入がないわけでもないので、意外と財布は潤沢である。生活必需品が主体であるので、営業自粛は特にしていないスーパージャイアンズ。のび太の知り合いと言えば、ジャイアンの意向で30%ほど割り引いてくれるので、二人はそれを活用し、買い物を楽しむ。ちなみに、ジャイアンはのび太の要請で、仕入れる食料品の数割をほぼ無償で、64Fへ提供している。これは扶桑軍の食料品配給優先権が政治的理由で廃されたためだ。兵站部門の育成途上にあった扶桑軍だが、総人数は1000万人(予備役・事務方含め)にほぼ達する。その人数の軍人を食わせるわけの食料品を確保するだけのツテは軍の兵站部にはなかったため、自衛隊の厚意でのレーションの提供だけではとても足りず、結局、地球連邦軍がドラえもんに依頼し、自動食料生産機を用意してもらい、各基地に設置するに至った。日本の横槍で、軍の食料確保に却って支障が出た例である。日本軍の士気が崩壊した理由も食料品不足での餓死であるのは周知の事実。ジャイアンは、このツテと骨川コンツェルンの援助で、『この時代でもっとも成功した経営者』となった。(軍部は結局、食料品や兵器の確保に多大な支障が生じた。兵器はダイ・アナザー・デイ当時に購入したモノを倉庫から引っ張り出す有様であった。これに悩んだ扶桑軍は自衛隊と同規格の兵器の早期調達を諦め、数を揃えるために外国産兵器の調達を進める。これは陸戦兵器で特に顕著で、ブリタニアからライセンスを購入し、チーフテン戦車を日本連邦向けに改良し、その仕様で生産するに至った。74式戦車で出回った車両は装甲面で不安があったので、比較的に重装甲を誇ったチーフテンは好評であった。ウィッチ世界の年代を考えれば、当時の最高峰の戦車の一つである)
「ねー、ゴールドシップ。これ買っていいー?」
「おう。金はあるから、別にいいぞー」
ゴールドシップはTVゲームをソフトと周辺機器ごと買おうとし、トウカイテイオーもプラモデルを買うらしい。代金はゴールドシップが支払い、食料品をトウカイテイオーが運び、ゴールドシップが重要物を運ぶ事になった。ちなみに、プラモデルはウィッチ世界に実物があったため、形状の考証が正確になった四式中戦車である。(ウィッチ世界で実際に量産されたのは、三菱重工業が自主的に改良して納入した90ミリ砲とトーションバー仕様の改良版だが、史実の試作二号車と同様の仕様の試作品は量産前の検証という名目で現地生産を担当した宮菱重工業で保管されたため、1946年以降も現存していた)
「お前、戦車のプラモデルなんて買うのかよ」
「うん。ちょっとね」
黒江が仕事での視察の際に10式戦車に乗った経験があるのを話していたので、その先祖にあたる四式中戦車に興味があるようだ。こうして、ゴールドシップが支払う金額は数万円になったが、目的は果たせたわけである。御満悦の二人であるが、二人の前を、老婆から強引にひったくりを行った犯人が通過した。これにトウカイテイオーは怒り、日本ダービー、皐月賞、有馬記念制覇経験者としての血が騒いだのもあり、追跡を開始した。
「待て~!」
「ひぇぇ!?捕まってたまるかぁ~!」
犯人は駐車場にあった自分の原付バイクで逃げたが、原付バイクの速度は平均で50キロから80キロの間である上、東京の郊外の開発途上の街の入り組んでいる路地を走るのは容易ではない。更に最高速度が100キロ超えに達したトウカイテイオーを振り切れず、逆に詰められる有様であった。
「嘘だろ!?60キロオーバーだぞ!?」
犯人はスクーターのスピードメーカーを二度見して驚く。オリンピックのメダリストでも追いつけないはずの速度だからだ。そして、赤信号と通行人に慌てた犯人がハンドル操作を誤り、子供を轢きそうになったため、トウカイテイオーは轢かれそうになった子供をとっさに助ける。犯人はハンドル操作を直せず、スクーターごと八百屋の店先に突っ込む。
「ふ~。まさに危機一髪~」
店先の野菜などが緩衝材となり、スクーターは倒れ、犯人は伸びただけである。トウカイテイオーは轢かれそうになった子供を抱きかかえ、そのままスライディングでスクーターを躱す。老人のものと思われるバックを回収する。ややあって、ひったくりの通報が行われたのか、警察がやってきた。子供を親のもとへ帰し、自分は警察に事情を説明していると、ゴールドシップが追いついてきた。
「オイオイ。ガキを助けて、犯人は自滅……。お手柄だぞ、テイオー。」
「スタミナ上がってるの実感したよ。前なら、こんなに長時間は全力疾走を維持できなかったよ」
「お前の肉体が強化されてるのは、本当だって事だな」
「ゴールドシップ……なにそれ」
「サングラス、安かったんだよ」
「昔のロックスターじゃあるまいし…」
ゴールドシップは妙に昭和以前の風俗に詳しい。長身である事もあり、サングラスがよく似合う。さながら、80年代に一世を風靡したロックスターを彷彿とさせる出で立ちである。
「いーだろ、これ。ニシシシ……」
「警察の事情聴取に行くから、伝えといて~」
「あいよ。でもよ。名前聞かれたらよ、どうすんだよ。名前が競走馬だろ、あたしら」
ウマ娘世界には馬という生物は現存しないが、このドラえもん世界には存在するので、名前を聞かれたり、書く時にどうするという問題がある。そこに気がつく。
「……どうしよう」
「仕方ねーだろ。別世界から来ました~としか言えねーしな。だいいち、人間の耳の位置に耳ねーし、あたしら」
ウマ娘は人間の耳たぶの位置に耳がないという生物学的違いがある。人と同様に二足歩行に進化したためか、ヒト(ホモ・サピエンス)とほぼ同様の身体構造と外見になっているが、ウマ種が先祖であった故の特徴である尻尾や馬耳などに馬としての名残りを残す。もっとも、異人類はドラえもん世界には、元からたんまりいるので、ウマ娘くらいでは驚かれないが。(種族としてのお化けがいるので)
「お、メールだ。……嘘だろ」
「どしたの?」
「これ見てみろ……」
「お、オバQ!?」
タイミングよく送られてきたラウラからのメールには2000年代に撮影された『オバケのQ太郎とO次郎が空を飛ぶ』風景が写っていた。ラウラは『ウマ娘くらいでは、この世界は驚かん』という一文も添えられていた。ウマ娘の世界にも『オバケのQ太郎』が漫画として存在することの表れでもある。
「ほ、本物……だよね?」
「わざわざ、こんな合成写真作るかよ。コンピュータグラフィックス合成も楽な作業じゃないからな」
「えーーーー!?」
「アタシらには関わりはないだろうが、この世界、マジンガーやゲッターやガンダムがいずれは造られるんだと」
「嘘ぉ!?」
ゴールドシップは年長者であるためか、シンボリルドルフと共に、黒江達の仕事についての詳細を聞かされていた。その関係上、黒江達がマジンガーやゲッターなどの超兵器を駆っている事も知っている。21世紀の日本政府と官僚もそれは知っているし、国民もある程度は知らされた。21世紀の暗い世相に希望を与えるためで、横浜に展示されている『RX-78ガンダム』の立像がお披露目された後、未来世界の計らいで、RX-78ファーストロットタイプで現存する唯一の個体『G3ガンダム』の実物が特別に展示されている。(G3ガンダムについては、アムロは戦中に搭乗していないという。一年戦争中に実戦投入も無く、戦後の残党狩りで使用された記録がある程度。なお、ガンダムの実物はセミモノコックタイプの外装を基礎フレームにつけた連邦系MSでは最初期の構造である。完成されたフレーム構造はガンダムマークⅡ以降の世代である)
「横浜に実物を置いたんだと。立像は客寄せパンダのレプリカだが、G3ガンダムは実物だそうだ。流石に操縦は禁止だけど、武装状態で展示だってよ」
「へー…」
「一線機はF91とかZの世代だからだそうだ。だから、こういう世相に希望を見せるために、日本政府が要望したんだと」
「だけど、それって一年戦争が起きることが前提になるよね?」
「オーストラリアにとっては、シドニーとキャンベラに代わる都市を探す時間の猶予が100年単位で与えられたようなものだから、アデレードを整備する事になったそうだ。一年戦争が起きりゃ、オーストラリアは少なくとも、首都圏の喪失で先進地域から滑り落ちる未来が起こる。んな未来、あの国が認めっかよ」
「言えてる」
一年戦争の被害を軽くするには、アデレードを『その時以降』のオーストラリア大陸最大都市として機能させるしか、被害軽減の方法はなかった。メルボルンはジオン占領下に置かれ、戦後も残党のテロで荒廃してしまうことは確定事項だからである。地球連邦軍がシドニーとキャンベラの教訓で『コロニー落としを問答無用で阻止できる火力』を追い求め、サテライトシステムの開発や波動砲の外洋航行用艦艇への標準装備化を実現させたのは必然的な流れだが、ギレン・ザビが一時期、最終手段としての『月爆破』をエギーユ・デラーズに研究させたのは、連邦のその動きを警戒したためだ。こうして、オーストラリア政府が一年戦争を知ったことで選んだ未来のための道は『首都機能の分散と世界遺産の保護』で、表向きは『アデレードの再開発』だが、真の目的はオペラハウスの招来のための移設を含めた『未来のための遷都』である。つまり、シドニーとキャンベラを表向きは首都圏としつつ、一年戦争で生ずるだろう被害の軽減のために、アデレードを招来の首都として再育成する。オーストラリア政府が取れる最も穏便な形の『対策』である。東京やロンドンは都市部のジオフロントへの避難が可能なように、この頃から極秘裏に研究がなされ、学園都市の遺産も活用しての努力の賜物、21世紀中には実用段階に到達した。その二つの都市は都市圏ごと地下奥深くに退避できるようになったおかげで、地下都市を含めての生活圏を地下に確保。宇宙時代でも往時の威光を維持できた。月のフォン・ブラウン市が地球連邦政府の首都に選ばれた後も『副首都』として地位を維持している。ゴールドシップが言うように、一年戦争が起きることは確定事項になったため、後々に残党狩りを名目に生まれた軍閥『ティターンズ』に力を与えた者たちの出身は米豪仏が中心になる。しかし、日英独などがエゥーゴを支持し、エゥーゴがグリプス戦役で勝利したため、旧米・仏の二カ国は政治的影響力を決定的に喪失してしまうこととになる。だが、米はまだ幸運である。21世紀に勃興したアナハイム・エレクトロニクスが一年戦争後には地球圏最大の軍需産業として存在。アナハイム・エレクトロニクスを通し、間接的に地球連邦を動かせるからだ。
「でもさ、あのシリーズの流れが起きるってことは、サイド3とスゥイートウォーターの連中はどうなったの?」
「ネオ・ジオン軍が解体された後、サイド3の主要コロニーは世代宇宙船に改造されてるそうだ。合法的な追い出しだよ。ネオ・ジオン派の生き残りはそこの護衛軍に再編されて、大半がいなくなる予定。一部の過激派はテラフォーミングで青くなった火星に移民していったって」
「火星かぁ。よく青くできたね」
「SFじみた技術が、ここから70年くらいで加速度的に実用化されたおかげだとさ」
21世紀前半の時代からは信じられないが、23世紀には一年戦争以来の地球の傷を少しでも軽減するためもあり、コスモリバースシステムが使用された。コスモリバースシステムで環境が再生されたわけだが、それを恐れたジオン残党は月の爆破というタウ・リンの口車に乗せられた。ジオン残党は連邦政府穏健派が共和国のために取り付けた『自治権の数十年の維持』を自ら棒に振らせる形になったわけだ。地球圏に居場所が完全に無くなった『過激な』残党はまだ開発中の火星に逃れていっている。この残党が後々の『オールズモビル』である。純粋なジオンは宇宙大航海時代に入った頃に『歴史的意義』を果たし、ムーンクライシス事変で求心力を失い、自然消滅を待つのみとなったが、その後もジオンの名前そのものは反連邦の旗印として長らく用いられ、ティターンズ残党の隠れ蓑としても機能するため、結局は『戦乱を撒き散らすならず者』の烙印を押されていく。
「でもさ、ジオン残党はなんで、自滅するっていうか、寿命を縮めるようなことを選んだの?」
「あいつ(黒江)とメールをやりとりしたんだけどよ、たぶん、コスモリバースシステムでジオンが与えたダメージの大半をチャラにされた上、他の惑星へ移民する時代に入ったから、コロニーの自治権にこだわる理由も消えた。だから最後に、自分たちの存在を歴史に刻みたかったんじゃねぇの?旧日本軍じみた玉砕精神だな、こりゃ…」
変人であるゴールドシップでさえ『玉砕精神』と揶揄するジオン残党の玉砕精神。ゴールドシップは変人だが、達観している面もあるので、そう評した。宇宙時代における『日本軍とドイツ軍の間の子』とされるほどに双方の負の面を受け継いだジオン軍はムーンクライシス事変での責任をサイド3が取った事で行き場を失い、自然消滅の道を辿る。トウカイテイオーもその種の情報は元の世界でのアニメや書籍で研究したらしく、ゴールドシップの話についていく。
「そういうところも同じわけ?」
「だとよ。投降を偽っての自爆も多かったから、ジオン残党は狩られていった。一時は地球連邦が宇宙戦争してる隙を突いて、優勢になったけれど、月爆破で起こる事態を把握したり、連邦の新兵器に押されて劣勢になって、最後はナイチンゲールがHI-νガンダムに敗れたってよ」
ナイチンゲールはシャアが一年戦争より保護してきたニュータイプの女性『アルレット・アルマージュ』が開発の指揮を取った『ジオン系MSの集大成』であり、νガンダムを引き離す性能を持つ『ジオン最後のフラッグシップ』であった。だが、現実はそう甘くなく、地球連邦軍もνガンダムを基にユニコーンガンダムで培われた技術で改良を重ねて、最終的な完成にこぎつけた強化型『Hi-νガンダム』を以て対抗。アムロの操縦技術とHi-νガンダムの素性の良さは元々がβアジールの計画を変更した『MAじみた肥大さ』に至った不格好なナイチンゲールをスタイリッシュなHi-νガンダムが格闘戦で戦闘不能に陥らせ、サザビーの血統はまたしても、ガンダムの正統後継機種に屈する事になった。ナイチンゲールのHi-νガンダムへの敗北は『ジオンの落日』の象徴であり、ジオンが如何な手を用いても、『強力なニュータイプの乗るガンダムは倒せなかった』事の表れである。ジオンがガンダムを倒せた例はあるものの、ニュータイプが乗ったものでは無いこともあり、その後の歴史に勇名が刻まれた『ガンダム』、『Zガンダム』、『ZZガンダム』、『νガンダム』、『F91』、『V2ガンダム』などのエポックメイキングな機体以外のガンダムの多くは歴史の影に埋もれていくが、クスィーガンダムやマークⅡのように『技術面』の功績がクローズアップされるガンダムも存在する。武装のみが後世に普及した『ネオガンダム』の例もある。
「アニメと同じ流れになるわけだ」
「ただし、展開がかなり早回しになってるがな。初代ガンダムから15年くらいでV2にまで発達してる」
「速くない?」
「戦争続きだからだな。…おっと、立ち話してる場合か。事情聴取を終えてこいよ。夕飯は頼んで、遅めにしてもらうから」
「うん。行ってくる」
ゴールドシップとトウカイテイオーは会話を終える。ウマ娘の世界にもガンダムがフィクションとして存在する証明だが、ジオンの行動は自滅と見られるあたり、変人とされるゴールドシップにさえジオンの一連の行為は『愚行』と断じられているのが分かる。この間、わずか16分ほど。ジオンはザビ家が政権を握った段階で『戦争に負けていた』とは、そのジオンのエースであった荒野の迅雷の言。
――コロニーを地球に落とした瞬間に、この戦いの正義は消え去った――
ヴィッシュ・ドナヒュー(荒野の迅雷)はかつて、ジオンの戦争をそう断じた。ジオンにも『コロニー落としは最大の愚行』と考える軍人がいた証であるが、アナベル・ガトーは生前、ムーンクライシス事変の際、自らの行為を『我々はスペースノイドの真の解放を今度こそ掴みとるのだ…!地球からの悪しき呪縛を今一度断ち切るのだ、我が正義の剣によってな…!』とまたも宣ったため、夢原のぞみ(キュアドリーム)には『そんなのは理想でも正義でもない……ならず者扱いされたあんたの……、あんたらの身勝手な復讐よ!!一年戦争からの戦争は……あんたらが始めたんだ!!憎しみだけで相手の事を考えないから、今までの戦いの連鎖を招いたんだよ!!』と断じられている。そんな連鎖を客観的に見たゴールドシップ達からも『哀れみを受ける』立場である事、ザビ家が政権を握った事そのものがサイド3とジオニズム信奉者の確定事項である『悲劇』であった。ジオン・ダイクンの実子で、第一子の(実際は正室の子でないという情報もある)であるキャスバル・レム・ダイクン(シャア・アズナブル)が父親の掲げたジオニズムとその原型であるエレズム(地球聖地論)に執着がなく、自分の持つ一年戦争以来のアムロ・レイとの個人的因縁にケリをつけるための世間的な方便にしか使わなかった事、グレミー・トト、ハマーン・カーンも『自らが権力を維持するための方便』にジオンの名を使ったに過ぎない実情。『スペースノイドの自治』も一コロニー同士の抗争が起きるようになり、サイド単位の独立というジオンの大義名分が全く持って希薄化した事もジオンの悲劇性に花を添えている。『人類の発展過程で生まれた徒花といえる輝きを見せた国家』。それがジオンという国家であろう。