――ミーナは結局、『慣習の重視』を外部から理不尽に叩かれ、失脚寸前に追い込まれた。その報に怯えた中堅層は軍を抜け、民間軍事会社に転じたが、その民間軍事会社にも規制が入った上、世界的に『ウィッチ不要論』が軍縮で生じ、ウィッチ研究が停滞してしまう時期に入った。日本連邦が順調にウィッチ研究を発展させられたのは、皮肉なことに戦時の青天井の予算があったからだ。日本連邦はクーデターで『科学者の自尊心を満たしてやる必要がある』と学んだわけで、震電改の予算を承認した。独自研究に一定の予算を与える事で『有事に役立つかもしれない』という事を21世紀での疫病の流行で痛感したからでもあった。古くは八木アンテナでその事は証明されているからだ――
――扶桑はブリタニアからの情報で電探の有効性は認識していたが、怪異戦に必要なしと見做されていたソナー研究は停滞していた。M動乱での駆逐艦の大量喪失以降は必死に研究し、技術供与もあり、どうにか自衛隊水準にまで向上した。魚雷兵装、対潜兵装も載せるようになった影響で旧来型艦艇では居住スペースの確保が重大な問題になり、その兼ね合いで艦艇の更新と大型化が加速度的に進んだ。伊吹型に続く新型の重巡洋艦は230mもの巨体が予定され、超甲巡の存在意義が疑問視されていた。とはいえ、旧来型日本巡洋艦では、デモイン級重巡洋艦にさえも全く対抗できないという現実問題もあり、超甲巡は建造と使用が継続された。仮想戦記でありがちな『36cm砲への強化』は用兵側の投射重量の低下の懸念で見送られたが、SHS対策で装甲強化がなされた。(この過剰なほどの装甲強化は死人が出ることを極端に嫌う防衛省の圧力でもあった。戦前日本の製造した装甲板の性能は他国の半分という情報も市井に出回っており、その悪評の払拭は必要であった。)その結果、装甲が頑丈になった日本連邦の艦艇を一隻でも撃沈するのに、他国は多大な出血を強いられる羽目になったのは言うまでもない。日本連邦では装備の喪失=次年度の予算縮小に繋がりかねないため、設計値より頑丈に造るようになっていた。見積もり値で設計し、墜落事故を起こした初代スーパーXの教訓である。実際の例として、翔鶴型航空母艦は飛行甲板への被害を最小限にするために『爆風を舷側に逃すよう、格納庫の側壁は簡易なもの』とされたが、不安に思った造船現場の判断で仕様どおりには側壁が造られなかったので、実際には飛行甲板が大破したように。(ちなみに、装甲空母もジェット化で半ば淘汰された分類である。大鳳が量産されなかったのも、ジェット機化に対応しきれないからである)日本連邦海軍は皮肉な事に『頑丈に作った事で戦局が優位に運ぶ』事を学び、実際に求められる性能を高い水準で確保するために『艦の大型化』を押し進める。ウィッチの大規模運用そのものが軍事思想として淘汰されつつある世界であることが改めて示されたわけだ。ウィッチは純軍事的には陸戦では多大なメリットが見いだされる一方、空戦分野では『空戦がとりあえずこなせる歩兵』の粋を出ない(一部の『超人』は例外である)ことがダイ・アナザー・デイで示された事で衰退期に突入した。熟練兵の多くが同作戦で失われた事、高性能無人戦闘機(最速でM5.5)には当時の第一世代理論式では、いかなる方式(ロケット含め)を以てしても『手も足も出なかった』ことが理由である。怪異でさえ、その最高速はマッハ2から3程度であるのを考慮すれば、ゴースト無人戦闘機の速度は神速であり、真ゲッターやマジンカイザーなどの上位のスーパーロボットか、最高位の有人戦闘機などでなければ『追いつけなかった』からだ――
――1949年までに坂本が引退した理由は公には『任務の主体を後方任務に移行するため』だが、『零式が完全に時代遅れになったのを認められないから』と陰口じみた噂も飛び交っていた。坂本は前線任務に人一倍のこだわりを持っていたことは部内では周知の事実であったからだが、実際は前世の反省と教訓による判断である。坂本は自分の同位体と思われる日本海軍撃墜王に『ペテン師』の評判があるのを強く気にしており、黒江達が合流した時点で『引退』を公言しだした。それがミーナの黒江達への先入観を抱かせた形になり、『黒江たちの強さを先に見せてから、口に出すべきだった』と1945年から数年後に述懐している。ミーナが書類を調査した段階では、既に彼女への査問は通知されており、彼女は『軍人としてのキャリアに傷がつく』事よりも、銃殺刑すらありえる事へ絶望感を抱いた。それが『錯乱』に繋がった。この騒動は後世に『新規人員に関する書類はきちんと確認しよう』という大きな教訓を残した。ミーナは本来の人格であった期間、黒江、智子、圭子という『扶桑最強』のトリオをついぞ活用できずに終わったわけだが、シャインスパークがゲッターロボの必殺技である事を知ったのと前後して、三人がその力を行使できる『転生者』であるという注釈付きの書類が見つかり、万事休すとなった。その経緯はB世界のミーナにも他人事と思えないものであった――
「他人事とは思えないわね、この事は」
「しかし、扶桑は何故、このお三方の戦果を矮小化して通知していた?」
「1930年代の時点では、こんなスコアは夢物語と言われてたのよ。20ミリ機銃すらまともに生産されていない時代よ。当時の佐官や将官たちからすれば、非現実的だったと思うわ。私が志願する時期よ、トゥルーデ?」
A世界の自分がたかをくくっていたのもわからないわけではないミーナB。1937年前後の時期、自分は12歳前後。ハルトマンとマルセイユは幼年学校も出ていない時期だ。その時代に全盛期であった三人なら、1945年には『使い物にならない』と先入観が生ずるのも無理はないと。だが、実際の三人の神通力は健在であった。サンダーボンバー、シャインスパークという大技を使える『血まみれの処刑人』の圭子、サンダーブレークやエレクトロファイヤーなどを駆使する『電撃使い』の黒江、『氷と炎の魔術師』の智子。1943年以降に確立された評判でも、このような大仰な異名が伝わっているのに関わらず。
「ウィッチはサラブレッド並にピーク短いから、余計に世代サイクル短くて、世代間の断絶が起こりやすいんだろうな」
「言えてるわね。ここの私の醜態は目も当てられないわね、まったく…」
「20代でも飛ぶ者はいるにはいるが、公にはいないことになっている。だからなんだろうが、これはお前自身のミスとしか言えんな」
「書類を確認しなかったツケね。黒江閣下なんて、好きに武器使ってるじゃないの」
黒江Aが渡した資料には、『とある飛行訓練の帰りに、新型怪異に苦戦するリーネを救うため、人サイズのGバードに武器を持ち替えて発砲する』際の写真があった。その様子を目撃したバルクホルンAは『黒江さん、レシプロでそいつを発砲するんですか!?』と言い、素で驚いていたという趣旨の文章が綴られていた。黒江は501への配属間もない時期でも武器の切り替え速度は早かった。曰く、『シャル(シャルロット・デュノア)からコツを教わった』との事。また、その日のシメはロングライフルの『ロングビーム・サーベルモード』でリーネを襲う怪異を一刀両断して決めている。その時は『Zのライフル』にそんなモードがあるのを知らなかったハルトマンAは「えー!銃で切れるの!?」と仰天したという。
「しかし、未来装備を何故、おおっぴらに使用しようとしなかったのだ?」
「補給の頻度などを心配したんでしょうね。オーパーツ的な兵器は魅力的だけど、皆に持たせることでのリスクも考えただろうし」
結局、ミーナの二度の査問が終了する時期になって、それどころでない大事である『のぞみ達の覚醒』が起こったわけだが、ミーナAが本来の人格でプリキュア達を指揮する事はなかった。整備兵らの一部の人事異動がされたのは、ミーナの事を口外させないためでもあった。ミーナの罷免は整備兵の線からドイツ連邦共和国側に知られており、罷免論が吹き出ていた。それを『単なる誹謗中傷』として火消しするには『整備兵の一部入れ替え』が必要だったのだ。また、戦線の急激な変化で正規の補給が不安定化していたため、未来兵器の使用を控えるという判断は間違っていない。ダイ・アナザー・デイでの地球連邦軍の本格参戦で補給が安定化した頃には、501を取り込んだ64Fの主力はプリキュア達や魔導師たちに移行していたので、逆に未来装備は大っぴらに使われた。公式の記録上では、その時期にリーネは特務に引き抜かれ、ペリーヌは慈善活動に専念したいと、予備役編入を願い出ているとされている。
「しかし、ペリーヌは慈善活動に専念したいと言ったそうだが……ガリアがよく認めたな」
「ドゴール将軍の抑え役を期待されての政界入りみたいね…。実際には復興至上すぎて、顰蹙を買っているようだけど」
「あいつらしい」
ペリーヌは公には政界入りしたものの、あまりに復興を至上としすぎ、国民の娯楽や自分の私事を顧みない姿勢が却って顰蹙を買い、暗殺未遂に何度も遭っている。それはB世界のミーナ達にも知らされている。ペリーヌは戦備の性急な復興を論理的に潰していったが、結果的に世界の軍事的な流れからガリアが取り残されるという危惧を生み出し、暗殺未遂を何度も起こされ、国民の一部からも反感を買っていた。ペリーヌ自身も大人たちの心無い言葉に傷つき、憔悴してしまった時期がある。トワがここのところは肉体を動かしているのは、ペリーヌに『心の休養を与えたい』からである。その発端になったのが『娯楽や芸能は国家がどうこう言うものではありません、国家はまず国民生活の基盤を護る事、ひとまずはインフラの整備を行うのが使命と考えます』という記者取材への解答が曲解されてのものなので、そこにペリーヌの直面した悲劇がある。
「しかし、彼女らが花形として祭り上げられるとはな」
「ええ。宮藤さんがあの時にごねたのも分かるわね。自分より年下の子たちが戦ってるもの」
ミーナBとバルクホルンBは芳佳Bが戦わせろとごねた原因がプリキュア達にあるのを悟った。プリキュア達の外見年齢は平均で14歳。501がロマーニャに展開していた時期に相当する芳佳Bより僅かに若いため、芳佳Bの責任感と使命感などが肥大化してしまったのも分かる。
「宮藤はお父上との約束に、とかくこだわるからな。それで我々の世界の御三方と揉め事を起こしたろう?」
「ええ。私も上官として詫びたわ。誰しもがあの子や美緒のようにはなれないし、この世界の三人は特別な存在だもの…」
芳佳の原動力は基本的に『父・一郎が別れる際に交わした約束』にある。それでエクスウィッチ(あがりを迎えたウィッチ)の心を抉るような言葉を強い口調で悪気なく言ってしまう。黒江Aもその事を強く叱責し、シャーリーAも言い聞かせている。黒江B達は後輩(芳佳BとリーネB)に責め立てられたのだが、特にかつては陸軍撃墜王の筆頭と謳われていた智子はあまりのショックでふさぎ込んでしまっていた。仕方がないが、B達は『自分たちが呼ばれた理由がわからない』と述べており、既にまともな戦闘力を持たない身であるのもあり、ホテル暮らしを抵抗なく受け入れていた。それが武勇を知らない芳佳とリーネには『やる気がない』と取られたわけだ。この問題はこの時期にも尾を引いており、芳佳Bは強く罪悪感を抱いていた。坂本の更に先輩で、自分が幼少の頃に世界を守った事を知ったからだ。この問題を解決するため、黒田と坂本が動き、「ウィッチとしてじゃなければ出来る事はいくらでも有るよ、本来の領分を越える覚悟が要るけど…」と勧誘し、防空隊の機動兵器パイロットをさせることになった。A世界の三人より外見が加齢していて、微妙に変化しているのもあり、公には『A世界に存在するという、そっくりな従姉妹』扱いにする事にした。
「いいのか?従姉妹扱いで混ぜるなど」
「黒田中佐が決めたことよ。それに、人間、そっくりさんは世界に数人はいるというでしょう?」
「それもそうだが…」
B世界の『桂子』は目つきが『温和そう』であるので、ヤサグレで目つきが鋭い圭子と容易に区別がつく。そこも決断の理由づけだ。本人達もやりがいを見つけた事に嬉しかっており、黒江Bは『台湾にいる黒江の父の兄弟の子供』と名乗っている(黒江の父の兄弟は本当に台湾に住んでいるという)。黒江家はどこの世界線でも兄弟姉妹が多い家系なので、不自然ではない。桂子は『樺太に移住していった親戚の忘れ形見』、智子は『父方のはとこ』と最もひねりがないが、智子が最も発想が貧困である証左である。三人は黒田の配下の航空学生とされ、公には『少尉候補生』として行動している。
「しかし、別人としての軍籍を数週間で用意するとは。扶桑の情報部も上手いな」
「処方面の口裏合わせに時間を要したんでしょう。士官候補生としての軍籍を造るのには色々な方面の根回しも必要だもの。情報部お得意の手ね」
「しかし、こちらでの私は教官だと?」
「ええ。エーリカの抑え役みたいね」
「こちらのマルセイユが聞いたら泡吹くだろうな。最も、奴はここでは加東閣下に仕えているようだが」
B世界では、黒江の部下であるマルセイユ。A世界での転生前の圭子との関係に近い関係であるのが窺える。転生後の圭子は武闘派であるので、マルセイユも恐縮している節がある。
「しかし、こうも違うとはな」
桂子は巫女装束と小具足姿で執務する事も多いというが、圭子はタンクトップとホットパンツで執務することが多く、アフリカ戦線でのファッションリーダー的側面も担っていた。圭子のアフリカ戦線での写真に驚くバルクホルンB。声色もB世界では高めの優しそうな声(大まかに、コズミック・イラ世界のミリアリア・ハウを想像されたし)であるが、A世界ではドスの利いたヤサグレ低音ボイスだ。なお、マルセイユは正史、ないしはそれに近い世界では圭子に書類仕事を押し付けているが、この世界では圭子が書類仕事を面倒くさがるので、マルセイユのほうがやっているのも違いと言える。
「しかし、今は穴拭閣下が留守番とはな」
「この世界では、昔年の腕は健在なようだし、美緒もその腕は信頼しているわ。さて、今日は見学だから、彼女の腕前のお手並み拝見といきましょう」
この日は智子の出陣に随行する事になっているミーナBとバルクホルンB。ハルトマンBは前の出撃の際に肋骨にヒビが入り、水無月かれん(キュアアクア)の指示で休養を命じられているので、その代わりにエイラBが随行する。なお、智子の護衛はキュアラブリーとキュアピーチの二人だ。二人は迎えにきた東せつな(キュアパッション)と四葉ありす(キュアロゼッタ)に連れられ、智子の待つ基地の格納庫に向かった…。
――こちらはゴールドシップ御一行――
「ゴールドシップ……タキオンのせいで記憶がないのだが…」
「同じく…」
「知らないほうが幸せだぜ。ハハ…」
乾いた笑いのゴールドシップ。経絡秘孔の実験材にされ、全く眠れず、まぶたが腫れぼったくなっている。シンボリルドルフとトウカイテイオーは記憶が吹き飛んだようで、わけがわからないと言いたげだ。
「どーしたの、その目」
「タキオンに実験材にされて、寝むれねーんだ……頭は寝たいのに、体が言うこと聞かねーんだ」
「目を瞑るだけでも違うんじゃない?」
「目を瞑ると、今度は周りの音が気になって仕方ないんだよォ!」
ゴールドシップは眠れていないのに、体は元気という経絡秘孔の効果が続いている。スープの効果もあるのか、言動が多少なりともオカシイ。
「タキオンは?」
「部屋でPCやってるよ。今、のび太の義理の妹に食事を用意させてる」
「お前、それくらいできんのか?」
「無茶いうなよ…。こんな状態じゃ、砂糖と塩を間違っちまうよ」
この日は非番には入ったことは(キュアフェリーチェ)が家事を担当していた。ウマ娘達は料理スキルがない(タマモクロスなどの一部のウマ娘はあるが)ので、ことはがしている。
「皆さん、カップ麺ですけど、用意出来ましたよ」
ことはがカップ麺を持ってきた。この時は素の姿だが、精神的成長が起こっているので、現役時代より大人びた声色である。
「お、サンキュ」
「君が野比氏の妹さんか」
「私は養子ですが、もう20年以上になります。トレセン学園に出資したのは、義兄の心遣いと思ってくださいな」
ことはは公式にのび太の義妹になっているため、戸籍上は野比ことはとなっているが、仕事では公に知られる『花海ことは』名義で活動している。21世紀で『最初に実在が確認されたプリキュア』だからだ。この頃には大学も卒業済みなので、服装は『年相応』に大人びたものになっている。
「お兄さんはかなりの金額を出資してくださったが、いいのかい?」
「税金に持っていかれるのなら…。と兄も言っていました。兄は年収がありますから」
のび太はかなり稼いでいるが、相応に税金に持っていかれている。トレセン学園への出資は一面的には税金対策だが、大まかには善意である。父・のび助が若かりし頃にオグリキャップのファンで、それ以降も壮年期までは競馬をしていた縁もあるという。のび太当人はセワシほどでないが、成人後は投資家の顔も持ち、『え?単に儲け話になるな、ってのとウマ娘の走ってる姿を気に入ったからってだけだよ、トレセン学園の投資は。レース配信で既に元は取れたからね』と、後日に述べている。
「でもよ、アンタもプリキュアだろ?何十人もいるのって、大変だろ?」
「ええ。一部の子たちは拗ねてますよ。近年は浄化主体になってるから、純粋な戦闘でお呼びがかからないから」
ラーメンをすすりながら、ゴールドシップが聞く。プリキュアオールスターズも2020年代には活動が縮小している事はゴールドシップも知っていたらしい。
「ウチの学園にいるヒーローとか、ヒロイン好きが聞いたらげんなりそうだ」
「オフレコに願いますよ?子供の夢は壊したくありませんし」
ゴールドシップは後輩のスペシャルウィークの友人のエルコンドルパサーの顔が思い浮かんだようだ。エルコンドルパサーは父親(人間)がそれなりに売れていたレスラーだったようで、彼女がかぶっている覆面はその父親が現役時代にかぶっていたものである。帰国子女でもあるためか、金剛(艦娘)と似たような口調である。ただし、金剛と違い、マスクがないと内気で気弱な素が出るので、マスクは一種のスイッチでもあるのはゴールドシップも知っている。(エルコンドルパサーのライバルの一人で、スペシャルウィークの友人のグラスワンダーから聞いたという)強い自分を演じている一面もあるが、父親がヒーロー好きが高じてレスラーになったように、彼女もヒーロー大好きっ子である。
「エルコンドルパサーが聞いたら、狂喜乱舞するだろうな」
ルドルフもそう考えたようだ。エルコンドルパサーは戦隊ヒーローの大ファンであり、名を成した後でも、ヒーローショーをこっそり見に行っているらしいと聞き及んでいるからだ。
「なんだ、会長も知ってたのか」
「偶々、遊園地に生徒会の仕事で行ったエアグルーヴが見かけたようでな」
「あんたらの情報網はすげーな」
「私ほどの立場だと、常に俗事もチェックせんと不味くてな。オグリキャップが大食い大会を荒らすあまりに、飲食店に泣きつかれた事も…」
オグリキャップは地方出身。スペシャルウィークとの共通点も多い。スペシャルウィークもそれなりに実績を挙げたが、オグリキャップには及ばない。レースからは引退したが、その輝しい功績はオグリキャップの飲食店での大食いを学園が黙認するほどだ。引退しても名が新聞を賑わすのは彼女くらいだろう。
「そう言えば、あんたやタマ先輩はオグリキャップとほぼ同期なんだっけ?」
「ああ。君やテイオーが小学校の高学年くらいの頃に私やオグリキャップの全盛期だった。マルゼンスキーは私よりもっと上だぞ」
「マジかよ!!」
「現役時代の蓄えでマルゼンスキー、ランボルギーニだか、フェラーリ買ったんだ、マルゼンスキー。あれも飛ばし屋でな…」
マルゼンスキーはルドルフと同時代に活躍した学園最古参級のウマ娘で、既に車の運転免許証を保有済みの年齢である。現役時代に稼いだ金を車道楽につぎ込んでいるため、同期のウマ娘たちからは『変わり者』扱いである。彼女の異名がスーパーカーなので、洒落の効いている実情だ。
「どのくらいなの?」
「確か、現役時代の名声でどこかのラリーカーに試乗したら、メーカー側も腰抜かすレベルでかっ飛ばしたらしい……」
「マジかよ!?」
「嘘ぉ!?」
マルゼンスキーは自身の異名通りのスピード狂であり、愛車も当代最速レベルのスーパーカーだったり、ラリーカーのレプリカだ。
「ターマック(舗装路)で一般用ラジアルタイヤを30分で坊主にした事もあるらしい…」
「……グラスワンダーに目をかけてるらしいが……」
「基本は良いやつだ。あいつの難点はスピード狂、頭のセンスが90年代で止まっとるとこでな…。チョベリグなど、今時、誰も言わんだろ…」
ルドルフを『ルドルフちゃん』と呼べるのは同期の彼女のみだが、競走馬としてはルドルフよりも前の世代に当たるという。本人は流行りに敏感なのだが、周りからすれば『90年代半ばの女子高生』級にセンスが古いのが難点という。スピード狂という点はウマ娘としての気質が引退後も影響を与えている事の証拠でもある。現役時代に怪物と言われていた程の実力を誇っていたので、引退後もその気になれば、後輩たちがびっくりする速度で走れるという。なお、自身の後継者と目されている『グラスワンダー』に目をかけている事も有名だが、当のグラスワンダーはそれが原因で精神的スランプに陥っていたのは、グラスワンダーの同期らには有名である。ただし、学内での先輩後輩関係としては良好な関係なので、マルゼンスキーとの関係はいい意味で微妙な感じである。(グラスワンダーはあくまで『自分個人を見て欲しい』という点にこだわり、マルゼンスキー二世という周囲からの評判を吹き飛ばす事に躍起になっていた時期がある。なお、同期の中でも優秀なウマ娘であったスペシャルウィークに負けた経験がないというウマ娘である)
「言えてるね」
「確かに…」
マルゼンスキーの事に同意する二人だが、ルドルフもダジャレ大好きな割に、笑いのセンスがまったくない。テイオーでさえ困惑するレベルだ。とは言え、それ以外はほぼ完璧なので、ゴールドシップもルドルフの言うことは聞いている。それがルドルフの『皇帝』たる所以だろう…。