ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

343 / 788
前々回の直接的な続きです


第二百二十六話「黒江とジョージ・パットン将軍の朝」

――カールスラントは国内の対立が一気に表面化したため、国勢を瞬く間に損なう事態となった。軍事主体から無理に民需主体へ転換させようとした事の大失敗であった。日本連邦は購入予定であったラーテ超重戦車の代わりをMSなどの大量購入で代替とし、ラーテは生産済みの七両全てが博物館行き、もしくは解体となった。カールスラント軍はラーテ用に集積していた資材の余剰分の再利用に困る事になったわけだが、結局は多くが鹵獲艦の修繕に費やされ、鹵獲艦は破棄されたビスマルク級三番艦と四番艦の代替とする『H級戦艦』として再利用された。衰退の機運濃厚なカールスラント軍へのせめてもの慰めであった――

 

 

 

 

 

 

――各国の軍縮は同位国の都合によるものだが、日本連邦に安全保障を押し付け、安全に財政を立て直す事を考える財務当局の思惑が絡んでいた。日本連邦は『戦費』をその思惑を利用して捻出しつつ、軍備更新を急いだ。自由リベリオンを内に抱えることをその大義名分にして。1949年になると、官僚軍人らにその認識は共有されていた――

 

 

 

 

――扶桑では、巡洋艦の旧式化などの都合で完成に至った大型巡洋艦。俗に言う『超甲巡』はその費用対効果に疑問が多分に持たれていたが、現実的に考えて、高雄型に代表されるような旧来型の日本巡洋艦は元来、敵に魚雷を撃つことに半ば特化した設計であり、軍縮条約の軛から解き放たれている『デモイン級重巡洋艦』に対しては圧倒的不利であったのも事実だ。1949年頃には、海軍保有の巡洋艦の多くが大正期以前の老朽化したポンコツ艦であるという用兵側の切実なる要望もあり、『弩級戦艦級の火力がある』超甲巡はあちらこちらで重宝がられ、その使用と量産は継続された。その結果、魚雷装備とミサイル装備を備えた『ミニ大和』へ改良されていく。怪異よりも艦隊戦が重視される時代になったため、積める装備はとにかく積む方向になった。居住スペースは内装の近代化などで対処した。(水偵の予定スペースは後部に移動させ、ヘリコプター用のスペースに変更させた)日本連邦は大正期から昭和前期までの旧来型巡洋艦の大半を1949年までに退役させ、自衛隊式護衛艦(戦後世代式)と新型重巡洋艦で置き換えつつある。また、史実で強度不足が指摘された大和型戦艦の強化も更に進み、扶桑が史実通りに建造していた初期ロット艦も『まほろば』に準ずる改良が進んだ。その結果、1949年に大和の第五改装が完了した。ソビエツキー・ソユーズの搭載品を解析しての『原子砲』、ラ號からのスピンオフである『熱戦砲』と『冷凍砲』が砲塔型式で搭載され、総合的戦力ではラ級並の超戦艦として生まれ変わった。(この過剰なほどの強化に唖然とした他国は徐々に戦艦の整備への興味を無くしていく。また、他国の実用的な艦砲の口径は45cmが限界であった)この改装は超モンタナへの対抗のためというのが名目だが、実際は新たに得た超兵器の実験のプラットフォームにしたかったわけだ。――

 

 

 

 

 

 

 

 

――この光学兵器の搭載には核融合炉や重力炉と波動エンジンの大出力が必須であり、日本連邦の持つ軍事的優位の表れであった。当時、光学兵器対策は世界的に進んでいたが、怪異の低速・低出力ビームを前提にしていたため、メガ粒子砲などの高出力・高速高貫通のビームにはむしろ無意味であった。また、ウィッチの防げるビーム出力と密度の限度も判明し、ウィッチは陸戦で花形となる一方、肝心要の空戦分野では衰退したと言っていい。第二世代理論は『死にかけの老人に栄養剤を与える』ようなものと揶揄されていた。だが、対ビームコーティング技術が伝わったことでストライカーの装甲の意義が再認識され、のび太やゴルゴでなくても『不意を突いてのの焼夷弾などでの狙撃で簡単に無力化できる』弱点がダイ・アナザー・デイで看破されたため、空戦ストライカーの防弾板は急速にその地位を回復した。(シールドは保険だと思えという思想の浸透も起こった)第一世代式ではどうしてもシールド頼りになるため、第二世代は扱う装備の関係で徐々に装甲箇所が増えていき、第三世代では完全なパワードスーツに変貌していく。その型式の完成形を64Fはタイムマシンで入手。おおっぴらに使用していた――

 

 

 

 

 

 

 

――64Fは扶桑唯一の宇宙戦艦運用部隊の顔を持つようになっており、地球連邦で厄介払いされた装備の引き受け先にもなっていた。ガイアとの政治的兼ね合いで早期退役を余儀なくされた『アンドロメダ級戦略指揮戦艦』が戦隊旗艦として運用されていた。これは23世紀の地球連邦軍はガイアとの政治的兼ね合いでアンドロメダ級を手放すしかなく、転生者が多く、なおかつ地球連邦軍にも便宜的に籍がある者が幹部の64Fがそれを安価で引き取った面も大きい。その一方で、ジオンの消滅で需要が減った内惑星用艦艇の外宇宙航行改良型の試験も委託されていた――

 

 

 

 

 

 

 

――プリキュア5の世界のある日の朝――

 

 

 

「壮観だな、こりゃ」

 

「武子が送ってきた。カイラム級が二隻、クラップ級が六隻。衛星軌道艦隊だとお目にかかれないものだぜ」

 

地球連邦宇宙軍は外宇宙に目を向ける一方、内惑星艦隊の整備の関心が薄れたため、サラミスやマゼランと言った一年戦争型の旧式化甚だしい艦艇が未だ現役の座にあるほどに、軍の財政がカツカツの状況であった。これはガミラス帝国戦以降は『外宇宙艦隊』の整備に全力となる一方で、宇宙戦争で役に立たなかった内惑星用艦艇の更新を顧みなくなった大衆の罪でもあった。ラー・カイラム級とクラップ級はこの頃、『ビームシールドとミノフスキー・クラフト装備』の後期生産型が竣工してきていたが、内惑星艦艇というだけで配備されないなど、不遇を囲っていた。そのため、外宇宙航行能力を与えた型式が開発され、その仕様となったものが回された。

 

「地球連邦も最近はアースフリート(太陽系直掩艦隊が再編された第一独立艦隊)の整備にかかりっきりだからな。ウィンダミアの反乱の警戒なんだろうが……」

 

「辺境の反乱が何故、問題になる?」

 

「ゲッターエンペラーの逆鱗に触れかねないからだ。エンペラーが動いたら、有無を言わさずに住民ごと星団そのものがこの世から消えるからな。最悪、ロンド・ベル隊で鎮圧せにゃならんそうだ。エンペラーが動く前に」

 

黒江はパットンにいう。ウィンダミア王国の強硬派が政権を握り、かつての行為の報復として、地球連邦に宣戦布告すれば、ゲッターエンペラーがたちどころに捻り潰す。圭子いわく、ゲッターエンペラーは敵と判断した者には、銀河ごとの虐殺も辞さないという。ウィンダミアも星団ごと抹殺される可能性が大きい。そうなる前にヴァールシンドロームに耐性がある本星の人間のみで構成された艦隊で鎮圧するか、それそのものが、そもそも意味をなさないほどの超人揃いのロンド・ベル隊で電撃的に鎮圧するか。ユング・フロイトは後者を選ぶだろう。真ゲッタードラゴンやゴッドマジンガーであれば、ウィンダミアの全戦力を返り討ちにできるからだ。

 

「最悪、ヴァールシンドロームを『ウソエイトオーオー』や『ソノウソホント』で無くす手を使うしかない。ウソエイトオーオーを以てすれば、ウィンダミア人の短命すら取り消せるかもしれん。22世紀のロストテクノロジーが生んだ『森羅万象強制逆転エキス』のパワーはオリンポス十二神さえも驚く代物だ。俺も知ったのは最近のことだがな」

 

黒江が口にした『ウソエイトオーオー』。ドラえもんが持っている道具の中で最も効用が強力で、オリンポス十二神の権能すら凌駕する。それを恐れた西洋諸国が中国とロシアをけしかけたのは容易に想像できる。統合戦争が長丁場になりすぎ、歯止めがかからなくなった結果、ドラえもん時代の技術の多くがロストテクノロジー化した。そのことの報復を日本が行ったのは当然である。そして、ジオンがその復興を妨害したのも。

 

「日本連邦は統合戦争の結果、地球連邦の実権を握っているが、それを快く思わない者は多いからな。ジオンはそいつらに利用されたんだろうと思う。そうでなければ、ギレンほどの人物が三十対一以上の国力差のある戦争に乗り気になるか?アジア最強で鳴らした日本帝国も一年半で限界に達したことくらいは知ってるはずだしな」

 

ジオンを生んだサイド3の住人の先祖は統合戦争当時に反・超テクノロジー派だった日独の移民が主体であったという。その彼らがMSを生み出し、コロニー落としという残虐行為を働いたのは『歴史の皮肉』であった。日本連邦は二つの時代で悩み事を抱えているのだと言える。

 

「なるほど……」

 

「つまり、俺らの国は二つの時代で悩み事を抱えとるわけだ。21世紀は終わりの見えない疫病の流行、23世紀はジオン残党の後始末だ。そんな鬱憤を『変な方向で晴らされても困る』わけだ。例えば、ドイツの連中はカールスラントを無理に抑え込んで、時代遅れのカールスラント帝室を解体させ、一気に西方地域主体(史実西ドイツに相当する)の共和制化をしようとした。その結果はどうだ?同じ民族同士の血で血を洗う内乱だ。それを第三者視点でで見た日本は『時代遅れの華族という身分の解体、反乱の温床である軍隊の活動自粛と将来的な自衛隊への縮小改編』を遂に諦めた。ウィッチの安定した確保には、華族や士族のノブレス・オブリージュを煽るしかないのも大きいからな」

 

カールスラントはドイツ連邦共和国の稚拙かつ強引な介入で内乱に入り、NATO軍の介入を招いた。日本はそれを他山の石とし、扶桑への政治介入レベルを大きく落とす代わりに、扶桑の市場を日本に開放させる方法で懐柔路線に移行。成功を収めた。軍隊の運用は合議制に移行した(扶桑国内での食料品供給優先権が廃止された事で食料品専門の工廠が設立されたり、民間からの調達専門部署が創設された。)が、色々な柵や戦後日本からの偏見に苦しめられており、最も潤沢な予算を割り当てられた64F隊員は全てをこなせる『なんでも屋』にならざるを得なかった。当然ながら、他部隊の者達は日本に『64Fの真似は色んな意味で不可能だ』と具申した。他部隊の士官は当然ながら、自分の専門外のことには無知、あるいはそれに近い状態。食料品の確保の手配などは主計科や旧輜重科将校や下士官でなければ、知らぬ存ぜぬ同然。この太平洋戦線では、主計・輜重分野を軽視していた部隊から順に壊滅していったが、部隊の壊滅の頻発は困るため、64Fの存在は実態以上に喧伝されているのだ――

 

 

「実態以上に喧伝されるもんだから、俺たちゃ常に最前線だからな。ま、最前線でドンパチを政治家から過剰に要求されて、官僚が扱いに困ってる戦艦部隊に比べりゃマシだがね、パットン」

 

「扶桑はそれでヤマトの同型艦を用意したのか?」

 

「酷使すりゃ、どっかに不調が出るだろ?穴を空けないために、大和型とその一族を多めに持ったんさ。艦政本部にいる知り合いは愚痴ってたがな」

 

 

「何故だ?」

 

「元々が量産前提に設計していないワンオフの移動司令部だからさ。紀伊型戦艦を1950年まで酷使する計画だったらしいが、俺らやガランド閣下が情報流した事、42年だか、43年のリバウ撤退戦の戦果で、主砲口径がバレただろ?あれで多くの国の建造中、もしくはペーパープランの戦艦の運命が決まった。うちにとっては呉の壊滅。あれで空母改装派の息の根が止められた」

 

「つまり、モンタナにブルったと?」

 

「そりゃそうさ。『リベリオンの新鋭艦は陸奥や紀伊のような三万二千七百トンから四万トン位しかないちっぽけな軍艦ではない。モンタナ級の五隻などは一隻で七万トンもあるという大戦艦だ!!』って新聞がアホみたいにモンタナを喧伝した上、衆目が見ている前で紀伊型がほぼワンパンだ。それで戦艦の建艦運動が民間から起こってな。それに押されて、大和型の追加建造の継続が決議された。途中で超大和型に切り替わったが、『量産を前提にした艦の案があったのに』ってボヤいていたよ、その造船官」

 

実際は史実通りに『大艦巨砲主義に基づく大型化』が大和型にも起こったわけだが、元々、扶桑においての大和型は量産前提の設計ではないとされ、長門型戦艦や加賀型戦艦より強力だが、建造費は大和よりは安いという『量産前提の設計である新鋭艦』が1937年前後から設計されていた。仮称で『肥前』とされ、新式41cm砲を三連装で四基積む事が予定されたが、現実は攻防性能が最高水準で担保されている大和型の増産が決議され、肥前の設計案は敢えなく廃案に追い込まれた。大和型には批判も多いが、近代兵器を積むためのスペース確保に余裕がある幅の大きさなのが幸いしたわけだ。こうして、大和は日本戦艦の究極形として、その後の新戦艦たちのタイプシップになった。逆にいえば、日本の造船関係者は大和を超える戦艦のデザインをとうとう生み出せなかったことでもあるが、大和が大艦巨砲の究極到達点であることに強い執念を持つ層には朗報であった。

 

「富士や敷島が生まれたのは、日本の無茶な要求が元だからな。核兵器(ミサイル・魚雷・砲弾、機雷など)に無傷で耐えろなんて、ドゴス・ギアも無理だぞ?強化テクタイト板を装甲に使うヤマト以降の波動エンジン艦くらいだぞ、反応弾頭に無傷で耐えるの。だから、その資材を使ったそうだ」

 

「あの要塞のような化け物か。海軍の連中が日本の道楽だと言っとったよ」

 

「単艦で1000機の航空攻撃を撃退するなんて、日本の要求仕様はキ○ガイじみてるよ。それで32ノット以上の安定した速力だ。地球連邦の力がなきゃ、机上の空論だったぜ」

 

『時代遅れ』の戦艦に金を使わせないように『無理な要求仕様』を出したら、本当に実現させてしまった事は日本にとっては予想外。しかも、自分たちもまだ実現していないレーザー兵器やビーム兵器を搭載していたというのは斜め上過ぎる事実であった。しかも『56cm砲』を通常の艦載砲として搭載している。砲身命数をさほど気にしなくていい超合金の砲身で以て。

 

「下手な出力の超電磁砲よりよっほど強力な破壊力の56cm砲だ。それを普通の艦載砲感覚で撃てるからな。それも波動カートリッジ弾でだ。多分、同等の技術で作った戦艦でもなきゃ、一度の命中で敵の最厚装甲部を貫通できると思うぜ」

 

「それも恐ろしいな」

 

「史実の意趣返しを望む日本にゃ、いいお土産だと思うよ、あれ。日本が必死に四式中戦車を試作した時、海の向こうじゃ、パーシングやセンチュリオンの量産に目処が立っていたし、大和型の二隻で自慢気になったら、下手すればモンタナが量産されてたからな。そのトラウマが根深いんだろう。航空機や戦車を半年未満でラインを切り替えるなんざ、史実のアメリカでもできんよ」

 

日本は航空機の戦時における更新に敏感になっているが、史実を考慮した場合、扶桑のそれは異常な速度である。2000馬力のレシプロ機から四年あまりで大推力ターボジェットエンジン機へ、1950年代にはターボファンエンジン機に手が届く。リベリオン側もターボジェットの普及期に突入したし、ブリタニアもその段階に入りつつあるが、大半がまだ2000馬力級レシプロ機すら手に余る段階なのが、ウィッチ世界だ。

 

「言えてるな。国家総力戦など、俺らの世界では机上の空論扱いだったし、ウィッチが予算を食うから、通常兵器の開発も停滞していたからな」

 

「史実だと、1943年には型落ちの零式が最新鋭機扱いの『遅れ気味』の世界だったんだ。ダイ・アナザー・デイで紫電改と烈風、陣風を間に合わせただけでも奇跡に近いんだぞ、本当は。それをジェット機をなんて。だから、ダイ・アナザー・デイが長丁場になったんだ」

 

ダイ・アナザー・デイでもジェット機は使われたが、黒江たちが私的に使うもの、日米英の軍隊が持ち込んだ機体、地球連邦軍の機体を除くと、時代相応か、それより多少進んでいる機体がせいぜいであった。ジェット機はアフターバーナー(リヒートとも。再燃焼装置を指す)を搭載しない場合、長い滑走距離が必要である。それを嫌ったリベリオンの前線部隊は試験的に用いた以外に、ジェット機を積極的に用いなかった。(それでも、それなりの規模であったが)日本連邦はアフターバーナーを本来は積んでいない機にも積んでいたため、緊急対応用途にも用いる事ができたわけだ。

 

「生産工場も切り替えがな」

 

「ジェット機は高い製造精度が必要だ。サラマンダーなんて、設計の時点で没るの丸見えだろ?ウルスラがかなり執着してたから、黒田が試作機を引き取って、ウルスラに開発を続けさせているが……練習機としても使えるかどうか」

 

「彼女は何故、そこまで執着する?史実だと散々な結果だし、君らの経験した前世でも……」

 

「一言で言えば、意地だろうな。史実を考えてみろ、パットン。ドイツ第三帝国が滅亡した後、ドイツの持っていた技術はお前さんの国とソ連が奪い合った。それを知っている連中はそれを覆したいんだろう。特に戦前の航空大国のエンジニアはな」

 

黒江は戦後世界に航空開発の主導権を握った米ソという二大国の事を知っているし、その彼等の造っている機体を自分で実際に動かしている。ただし、戦前世界の航空大国の大半は時代と共に没落したし、あのメッサーシュミット博士もその後半生は不遇気味で、『成功作』を生み出せなかった。それを知っている故に、ウルスラは戦中ドイツの航空産業の息吹を感じた者の意地として、なんとしても『純粋に国産であるジェット機』を造りたいのだろう。ウルスラはそうして、サラマンダーに熱中するあまりに視野狭窄に陥っていたが、実際はクルト・タンク技師が史実の『マルート』戦闘機のさらなる改良型の制作に入っており、『開発に参加すればいいのに』と言われていたのも事実である。

 

「とは言え、マルートの改良型をタンク技師(フォッケウルフ社の設計主任であったエンジニア)が作ってるんだ。それに参加してもいいと思うんだがなぁ。たとえ、本国で採用されなくとも、他の国は欲しがるだろうし」

 

「彼女なりの心境だろう」

 

「そうだな。あ、言っとくが、今日はケイに資料をまとめさせてるとこだから、今日一日はカンヅメだと」

 

「何?何の資料だ」

 

「ここんところの出来事の時系列のまとめだよ。ごちゃごちゃしてた上、立て続けに戦闘だったから、ここ半年……いや、数年分の戦闘詳報をちゃんと作れてなかったんだよ。それに、新しいダチにどういう仕事してんのかを説明したいからな」

 

64Fの『1946年から1949年の春の始めまで』の戦闘詳報はちゃんとした形では作成されていなかったことがここで明確にされた。デザリアム戦役に従事した上、歴代プリキュアたちの相次ぐ登場での人事処理に追われ、実はちゃんとした形での戦闘詳報は制作されていなかった。黒江はゴールドシップやトウカイテイオー達に『自分の仕事の説明』に使いたいと圭子へ言ったところ、二人はここ数年分の戦闘詳報をまともに作れていないことに気がつき、遠征先でも資料をまとめる事になった。

 

「幸い、ナチも外聞を気にしてるのか、まだ本格的に動いてない。今のうちにケイがまとめる事になったわけ」

 

「今朝、ケイの姿を見ないと思ったが、そうか。部屋にカンヅメか」

 

「ここ数年はいろんな事に追われてるからまー…。思えば遠くへ来たもんだよ」

 

「君からすれば、少なくとも『三回目』だものな」

 

「ああ。まさか、こうなるとは思ってなかったよ、正直。前回とは違う選択を選んだつもりだけど、大まかには変わらない。ま、そんなもんだよな」

 

「大まかな運命は変わらないこともあるさ。だが、新たな運命や使命を与えられる者もいる。君の『後輩』たちのように」

 

プリキュアたちの中で厳密な意味での『黒江の後輩』と言えるのは、その素体が『ウィッチであった者』達のみだが、この時期においてはそれに該当しなくとも、黒江は職務などでフォローをしている。この時期にはキュアムーンライト/月影ゆりが戦列に合流する事になり、遠征が終わった後は黒江を補佐する予定である。

 

「後輩か。俺は『向こう』の俺自身より、ある意味じゃ恵まれてるかもな」

 

「君の活躍がちゃんと後輩らに伝わっているからな」

 

「テストパイロットするのがたいていの場合の俺の行く末らしいが、向こうの俺は芳佳に責められてた。あいつは坂本の弟子だ。大人しく後方に退いてるのが気に触るんだろうが…。あいつは親父さんとの約束が拠り所だから、向こうの俺みたいな『諦め』は認められないんだろうよ」

 

黒江Aは芳佳Bが自分の同位体を責め立てた事を皮肉交じりに話した。坂本Bはその際に、『黒江と穴拭はもう充分に戦ったんだ!!ヒヨッコのお前にこいつらの何が分かる!!』と激昂気味に叱責し、自分も強く叱責した。芳佳Bは父と交わした約束を拠り所にしているためか、傍観者に徹する事をこれ以上ないほど嫌うという性質があり、それを他人にも強要するという負の面があった。それが最悪の形で表面化したわけだ。

 

「この世界は君たちが諦めなかったからこそ、君らの今の絶対的な地位がある。たいていの世界ではあの子が奇跡の拠り所のようなところもあるからな。更に言えば、何かしてないとという強迫観念がバカみたいに強いのも、君との衝突に繋がった。あの子がひたすら頑張れば、森羅万象全てが味方する。今、彼女が滞在している世界はそんな世界では無くなった世界なんだが…」

 

 

パットンも史実での芳佳の強すぎる主人公補正には呆れ混じりであるが、羨んでいるようだ。とは言え、芳佳Bの不幸はエクスウィッチという存在を理解していなかった事、普通は魔力減退後は後方に退くか、退役が普通(芳佳Bは問題を起こした形なので、一度は除隊扱いになっていたが、復帰扱いになっている)という進路を理解していなかった事だろう。ウィッチA世界は良くも悪くも『普通のウィッチには生きづらい』非情な世界に変貌しているが、芳佳は戦の空を飛ぶことをあくまで臨んだ。A世界の彼女自身がウィッチというよりは『キュアハッピー』として働きつつ、軍医として成功を収めている事への対抗心もあるだろうが、A世界の戦争を止めたいという純真さもあるだろう。

 

「彼女の不幸は……敵は怪異ではなく、人間同士である世界に来てしまった事そのものかもしれん。坂本少佐の先輩である君等は普通は飛べる年齢ではない事はわかるだろうが、何かかしらの事はすべきという強迫観念に囚われているのだろう」

 

「一郎博士の言葉が、ある意味じゃ呪縛めいてきてるからな。坂本を見てきたのもあって、向こうの俺たちがホテルで言われるままに暮らすのに反感を持ってたようだしな」」

 

 

「今後はどうするつもりだ?」

 

「向こうの坂本と話し合ってるよ。俺たちの世界は向こうの世界より遥かに残酷な事になってるからな。どうしたもんか…」

 

芳佳BとリーネBが起こしてしまった問題は『怪異と戦えても、人とは戦えない』ウィッチ本来の精神的弱点をクローズアップした。A世界では、この問題がダイ・アナザー・デイ(1945年)の大規模サボタージュで白日の下に晒された結果、64Fの孤軍奮闘ぶりもあり、空戦ウィッチの世間的評価の凋落に繋がった。B世界からはそんな経緯はどう見えるのだろう。芳佳Bの強すぎる使命感は結果的に、とうに引退した『エクスウィッチ』でしかない黒江Bらとの衝突を招いた。芳佳の無知ぶりも(芳佳は『扶桑海の閃光』を見ていない)関係したとは言え、どう最終的に処理すべきか。坂本BもA世界で悩んでいるように、黒江も悩んでいたのだ。パットンはそんな黒江に同情し、どこか哀愁を漂わせる雰囲気たっぷりに、口に葉巻を咥えるのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。