――日本は政治家の少なからずが扶桑を体の良い金づるとしか見ておらず、年代差もあって見下していた。だが、軍事面は同時代の日本側を全てで超えており、艦載機も精鋭部隊のみだが、現用機水準に到達しつつあった。問題はそれらを滞りなく運用可能な空母が少ない事。大戦型空母はジェット機には小さすぎるのだ――
――一方、遠征で持ち込まれた兵器の中に火星のティターンズ残党が流したのか、ガンダムTR-6が確認された。同機は最終決戦に使われていれば、エゥーゴを敗北させていただろうとされている。だが、当時にニュータイプとして最強のパワーを発揮していたカミーユ・ビダンに敢えなく粉砕されたのが関の山と見られている。それほどにZガンダムのサイコパワーは高かったのである。――
「ガンダムTRシリーズ。火星の残党が設計図とパーツを横流ししたな」
「そうか、あれはたしか…火星に逃げた残党がパーツと設計図ごと」
「うむ。火星はジオン残党がティターンズ残党を取り込んで内ゲバ起こしてやがるからな。組織に情報を流したんだろうよ。だが、所詮は旧型だ。V2アサルトバスターやセンチュリーの敵じゃない」
ガンダム・インレはグリプス戦役当時の最強であろうが、もはやザンスカール帝国戦後の時代においては旧型のモビルアーマーに等しい。頼みのIフィールドもGバードを以てすれば容易に貫けるものだ。
「ザンスカール帝国との戦いの後だもんね、こっち」
「ああ。今日から小手調べをしていくという方針になった。M48がパンターと一戦交えてる。向こうは戦争末期のマイナーチェンジ。こっちは戦後の新規開発。互いの練度もあるから、互角だな」
「M60がありゃね」
「プロトタイプが夏に完成の見込みだ。これでも相当に急がせたと聞く。本来、あと10年近く後の戦車だからな」
「アメリカの技術供与が効いたね」
「M粒子のおかげで、ガンランチャーなんて無駄なもん造らずに済んだしな。M60A3相当で再来年には生産する見込みだそうだ」
「メタ情報と自動生産設備の導入の効果は大きいようだね」
「M48をこれで心置きなく消耗できるってもんだ。向こうの100口径75ミリ砲は大戦中の代物だ。こっちは戦後の90ミリ砲と105ミリ砲だ。撃ち合いでは有利だよ。それに砲身が長すぎても、市街地じゃ取り回しが難しいはずだ」
それは事実であった。ナチス・ドイツ側は総じて防御に回り、攻撃側の連合軍に対しては移動せずに打ち合う戦術を取っていた。パットンはダイ・アナザー・デイ以来の慣例に則り、前線で指揮を取っている。黒江達は『遊撃しろ』というご達しを受けている。サイボークとまともに戦える力を持っているからだ。
「兵士たちには撃ち合いでどうにかしろと徹底してあるか?」
「ああ。サイボーク相手じゃ、普通の人間じゃ勝てないしね。スーパー手袋使って、ようやく戦えるくらいの性能あるからね。一部はホムンクルスだろうし」
「ゲルショッカーはそうだったというからな」
「ああ。でも、数時間ごとに薬品の投与が必要なのは面倒だったのか、元の木阿弥になったようだ」
「だろうな。歩兵火力は互角、砲兵火力も互角となれば、あとは航空戦力の有無だが……」
「統括官、敵機です!」
「機種は?」
「Fw190F-8とJu87Gの模様!」
「ヤーボと掃射機で来たな!対空戦用意、急げ!」
「ハッ!」
ナッツハウスに飛来した敵機は戦闘爆撃機と対地掃射機であった。臨時で備えられたファランクスと近接防御ミサイルであるRAM、更に87式自走高射機関砲などが対応するが、まったくの無傷ではいかず、自走高射機関砲が一両、2門の37mm機関砲にぶち抜かれて擱座する。
「統括官、高射機関砲が一両、スクラップにされました」
「撃退したか?」
「はい。ですが、37mm機関砲が建物に大穴を開け、高射機関砲に被害が」
「財務省に文句言われそうだな。デストロイドの調整に手間取ってたしな」
「穴はタイムふろしきと復元光線で塞いどくよ」
「頼む」
「不時着した敵機は回収作業中であります」
「残骸を残すな。この世界に迷惑がかかる」
「ハッ」
伝令の兵士はその命令を伝えに戻る。87式自走高射機関砲と言えど、2門の37mm機関砲を掃射されてはひとたまりもなかったが、幸いにも燃料系統の引火を免れたので、車体の原型は保っている。乗員も無事らしい。15億円超の調達費の戦後型兵器が第二次世界大戦型の兵器に破壊されたのは問題視されそうだが、37ミリ砲の掃射はMBTでも容易にぶち抜かれるものである。
「やれやれ、財務と防衛の官僚に嫌味言われそうだぜ。あのガンタンク、16億円くらいの代物だからな」
「仕方ないさ。乗員が無事だったのだけでも幸運さ。普通ならミンチになってるか、丸焦げさ」
「言えてるな。それに、いくら戦後型の35ミリ砲でも、装甲されてるドイツ製のヤーボはそう簡単には落とせんということか」
「当たりどころにもよると思うよ。実体弾なら、二次大戦型の防弾板でも効果はあるからね」
のび太はそう〆る。涼しい顔をしているのは、ある程度の損害は折り込み済みだからだろう。
「あ、インペロの元のスペックはわかった?」
「ロマーニャに問い合わせた。少なくとも、38㎝三連装砲塔を三基、ないしは四基備える可能性が大きい。史実だと、40cm以上の砲はイタリアには造れなかったからな。インペロは元々、リットリオの改良型として計画された。史実通りの諸元を持つなら、そのくらいの性能だろう」
「日本の連中はロマーニャの持ってたリットリオ級を散々にこき下ろしてたね、そういえば」
「ま、誘導爆弾で轟沈したしな、ローマ。とは言え、大和の耐弾防御がすごいんであって、他の戦艦は魚雷が三発当たれば転覆するくらいのものだぞ。大和は異常だ。だから、造船官達が泣きついたんだ、大和の防御が手薄だって糾弾された時。扶桑の手持ち技術じゃ、あれ以上の防御は考えつかんかったしな」
「造船官にしてみれば、考えられる最高の防御を与えたつもりが、君の世界じゃ想定外もいいところの水雷防御を強化しろと喚かれても、手立てがないしね」
「もともと、対ビーム防御に木材を非防御区画に詰めてたのを『ゴムとウレタンに変えて、弾力素材を充填しろ』だの言うからな。うちの世界じゃ水雷防御技術は1920年代から、儀礼的かつ、技術維持目的の研究に留まってたから、トーペックス系技術の破壊力に腰抜かしたんだ。それにUボートの猛威にもな。それで、急いで魚雷と対潜装備の再装備が進んだが、兵隊達が居住性悪化に反対してなぁ。日本軍の義勇兵がそれに憤慨して、士官にもバッタしまくって、それも問題になったんだ」
結局、大正期から昭和初期建造の既存艦艇では武装強化(万能性の獲得)と居住性の両立は極めて困難である事から、次世代艦艇の造艦が急務とされたが、日本側が補助艦艇の充実を戦闘艦艇より重視させたため、戦闘艦艇の旧態依然ぶりが目立つ形になった。大和型戦艦の増備と言っても、実際は八八艦隊型と入れ替えを行っただけである。巡洋艦は超甲巡の整備で日本と扶桑が揉めたので、空母改装が見送られた伊吹型を完成させつつあるが、不完全とされ、より大型のものが用意される見通しである。(大戦型軽空母が陳腐化し、新規に建造する必要が無くなったため)駆逐艦も自衛隊式の護衛艦に切り替えられてきており、艦の大型化が顕著になりつつある。最新式の超大和型戦艦の第一陣『播磨型戦艦』は五隻あまりが竣工し、大和型の1945年までの任務を概ね引き継いでいる。
「で、その解決で播磨が量産?」
「富士と敷島は海軍司令部を兼任する戦略指揮艦だから、あまり前線で使えん。だから、使い勝手のいい播磨型は重宝されてんだ。サイズも手頃だしな。手頃と言っても、350m超えだが」
「2014年の頃だっけ?カミングアウトしたの」
「ああ。朝鮮半島へのお灸を据えに使った時な。51cm砲だってばらしたんで、アメリカのほうがブルったよ。アイオワ級戦艦なんて目じゃない火力だからな」
51cm砲は21世紀時点でのジェット機での航空攻撃すら問題外の火力を持つため、2014年当時の海軍関係者らは一様に震えた。造船科学上の夢想とされた『スーパーヤマト』が実現し、史上空前の51cm砲が奮われたのだから。しかも、史実より巨大な350m級の船体での三連装砲が五基(播磨型の前期型は五基の51cm三連装砲塔を持つ。後期型は運用上の不都合でレイアウトが見直され、砲塔が一基削減された)。これは大和型戦艦も問題外の火力であり、アイオワ級戦艦などは『アウトレンジで撃沈される』と判定されるには充分である。更に史実の大和型戦艦で問題であった対空戦闘能力も万全。21世紀日本はこの播磨型の登場を期に、原子力潜水艦や大型正規空母の代替となる抑止力として『イージス戦艦』を志向し始めた。だが、その整備は日本には不可能(戦艦の巨砲、重厚な船体装甲構造は戦後日本には造れない)であったため、扶桑に依存する形となっており、防衛省の官僚が日本連邦化を大義名分に介入する契機となった。その関係で、超甲巡の存在意義が議論されるという『扶桑にとっての想定外』も起こっている。
「でもさ、日本がそれで造艦方針に口出ししてくるようになったよ」
「まあ、お前の時代の日本じゃ、砲熕型艦艇はもう造れんからな。気持ちはわかる。とはいえ、超甲巡の一件は無知にすぎる。ありゃ戦艦とはやらんフネだぞ?」
「日本はアイオワの快速を恐れてるのさ。ウィッチ世界じゃ、護衛空母や軽空母の嵐はないけどね」
「それだよ、ダイ・アナザー・デイで護衛空母と軽空母は血祭りに挙げたし、造船会社を離反させたから、補充されんというのに。ジェット時代にあんなのは鉄の無駄使いだ」
「日本は楽観主義で物を言うところと、冷めた目でモノを見るところがある。デモインとアイオワに神経過敏になってんのさ。スペック的には、アイオワのSHS(スーパーヘビーシェル)弾は大和の装甲を抜けるとされているからね」
「ありゃ遠距離専用の砲弾なんだがな…。それに、時代相応の射撃指揮装置しかない戦艦の主砲がそうそう当たるか?レーダーと連動しての追尾射撃なんぞ、宇宙戦艦の時代でないと実現し得ないんだがね」
「VT信管と同じだよ、俗に言うレーダー神話ってやつさ」
「やれやれ。エレクトロニクスへの過信ってやつか。そんなだから、アンドロメダ級戦艦なんていう『悲劇』を後の時代に生み出しちまうんだよ。要塞に拡散波動砲なんて効くわきゃねーだろうに」
21世紀の通説に苦言を呈するのび太と黒江。超甲巡はあくまで『金剛型戦艦に代わり、水雷戦隊を指揮・補助する艦』が設計目的である。戦艦との殴り合いなど『始めから想定外』であるため、日本側は現時点以上の艦の建造停止と、アイオワ級戦艦と戦える『高速重戦艦』の整備を推し、1946年からの数年間、議論が交わされた。これは結局、敵艦の建造動向の調査でアイオワ級戦艦は建造の主流から外れ、中速重戦艦であるモンタナの系譜が大和型戦艦への対抗で量産されていた事から、(既存重巡の陳腐化もあり)、超甲巡は重宝されている。もっとも、火力増強計画は諦められてはおらず、現時点(1949年春時点)では31cm長砲身砲への換装が始まったが、新式の36cm砲塔も試作中である。これは日本側が『より確実に敵艦と戦えるし、対地攻撃力も高まる』と推すものだが、用兵側からは『そんなのが必要なくらいなら、戦艦部隊の大和型を呼ぶんだが…』と困惑中である。これは限られた予算で最大効果を追及し続けた海自と、『豊富な予算で戦艦の量産も可能』な扶桑皇国との兵器の価値への認識の差異と言えた。一点豪華主義じみた日本の建艦方針は『1600年代から300年以上もアジア唯一の強国であった』扶桑には理解され難かった。とは言え、兵器の高額化の進展と人的資源の問題で扶桑も『量での勝負が厳しくなる』時代を迎え始めたため、兵器一つ辺りの基礎戦闘能力を極限まで高めるようになる。この一点豪華主義じみた『兵器の万能性の追求』は日本系国家の軍事的必然であり、その系譜を間接的に継ぐ国家であったジオン公国が万能兵器であるモビルスーツを開発するのも必然であったのかもしれない。
――シンボリルドルフにとっての「カイチョー」であった『トウショウボーイ』とは何者か?シンボリルドルフの一期先輩であり、チームメイトであったミスターシービーの親類であると同時に、ルドルフの子供時代に一時代を築いていた『TTG』の筆頭格である。トレセン学園の卒業生であり、先代の生徒会長である。現在のシンボリルドルフが生徒会長室に飾っている、ちょっと色褪せ気味の古い写真に写る『先代の生徒会長』が若かりし頃のトウショウボーイである。また、ルドルフは『ルナ』という幼名を持っていたこと、新人時代は現在のトウカイテイオーと同じような振る舞いとキャラであったという事を赤裸々に告白したが、その知恵熱で寝込んでいる。ルドルフはやはり、テイオーと似た者同士だったわけだ――
「はい……。ボクはトウカイテイオーです。はい……会長は今、寝込んでまして…」
「ほう。君がルドルフが可愛がっとる妹分か」
「あ、あなたはいったい……」
「おお、申し遅れたな。私はトウショウボーイ。ルドルフの先代の生徒会長で、今は協会で仕事をしている者だ」
「せ、先代の……会長ぉぉ!?」
素っ頓狂な声をあげてしまうトウカイテイオー。電話の主は先代の生徒会長だったのだ。
「マルゼンスキーから、君についての報告は受けているよ。なかなかの実力だそうだね」
「ありがとうございます。でも、なんで先輩がわざわざお電話を?」
「ルドルフの生徒会長としての方針を快く思わん者が奴の失墜を望んでいるのでね…。それを教えるためにだ」
「誰なんです?会長はオグリキャップ先輩を見出し、このボクも……。実績に文句は…?」
「今後、協会に入れば、ルドルフは間違いなく要職が約束されている。だが、その前の世代であるマルゼンスキーの同期らを間違いなく抜かしていくのは誰の目にも明らかだ。君も座学で習ったろう?悲運の世代と言われるマルゼンスキーの同期らの話を」
「え、ええ……。確かに」
さすがのテイオーも、シンボリルドルフの更に先代の生徒会長であるトウショウボーイからの電話には、これまでないほど畏まって応対した。ましてや、自分は『シンボリルドルフの秘蔵っ子』と先輩世代にも知られている。自分の不手際は『シンボリルドルフの教育不足だな』と周囲になじられるためか、かなり言葉を選んでいた。テイオーも伊達に二冠ウマ娘ではないのだ。
――トウショウボーイも言う『悲運の世代』とは、一般的にはマルゼンスキーと同期のウマ娘達を指す言葉である。マルゼンスキーが当代最強を謳われながら、全盛期に日本ダービーに出走できなかったこと、同世代のウマ娘たちはマルゼンスキー不在のレースを制しても、誰も褒めてくれず、ひたすら『マルゼンスキーの敗者復活戦』と揶揄され、その世代のウマ娘の多くが悲劇的結末を迎えた(例えば、この世代の皐月賞を制したハードバージというウマ娘はマルゼンスキーの存在で招来に絶望し、ある時に故郷に帰ったが、その時には実家が傾いており、父親に過重労働を強いられた挙句の果てに、ある日に熱射病で不運にも死去してしまっている。更にその世代のダービーウマ娘であった『ラッキールーラ』に至っては『歴代随一に弱いダービーウマ娘』という不当な評価を受けたショックで、レースからの引退後は音沙汰なしであるという…。)事が有名だ。これは『マルゼンスキーが同世代であまりに飛び抜けて強かった』故の悲劇であり、ウマ娘の引退後の『年金制度』などの福利厚生面の充実の契機になり、マルゼンスキーが全盛期に大レースに出られなかった原因である『外国で生まれた、もしくは帰国子女のウマ娘は大レースに出れない』という規則も二世代のスターウマ娘であった、ハイセイコーやTTGの政治的尽力で撤廃された。これは『日本生まれのウマ娘の保護のため』という名目で、一時期のウマ娘協会が掲げていた方針だったが、マルゼンスキー世代の『不幸の星の下に生まれた』と言わんばかりの悲劇ぶりが世間を大きく騒がしたため、シンボリルドルフがデビューする前後の時代に遂に撤廃された。マルゼンスキーは『全盛期の力でルドルフとサシで勝負してみたかった』と度々語っており、衰えが始まった現在でも『全盛期のルドルフと互角に戦える力をまだまだ維持している』時点でオカシイのである――
「マルゼンスキーの代の不幸ぶりは時のウマ娘協会の会長の進退問題にまで発展してな。結局、当時に既に元・スターウマ娘として成功していた『ハイセイコー』さんが我々を率いて、社会を動かした。ルドルフはオグリの新人時代、彼女の存在を忘れたような事を言いおったから、叱ってやった」
トウショウボーイはハイセイコーの後継者の一人として『トゥインクル・レース』を賑わした。その自負がある(ハイセイコーは地方の出である)ため、ルドルフはシメられたのである。
「そういえば、ハイセイコーさんは……」
「そうだ。記録に残る中では、地方から中央に打って出て、スターダムに登りつめられた最初のお方だ。オグリは二代目にあたる」
トウショウボーイはハイセイコーを尊敬していたため、ルドルフの迂闊な発言を咎めた。ルドルフの生徒会長としての最初の失敗と記録されたこの出来事はルドルフにとっても堪えた出来事らしく、オグリ世代のレースからの引退後は発言に気をつけている。マルゼンスキーが先輩らに情報を伝えていたからだ。テンポイントについて、『火がつくと、殺さん勢いでキレるから怖い』とルドルフはマルゼンスキーにボヤいており、『TTG』で最も温厚な気質(現役時代には病気がちであったのも関係するが…。)のグリーングラスに懐いている。テンポイントはその外見の美しさは『貴公子』と謳われたものの、レースに関わる事に関してはとにかく粗野で、口も普段より100倍も悪くなる。そのため、先々代の生徒会長のハイセイコーは総合バランスが取れていたトウショウボーイを自分の後継者に指名したという。(ただし、TTGの三羽烏の全員が、プライベートではルドルフをかわいがっているのは共通している)
「ルドルフはどうした?」
「それが……今日は体調を急に悪くしちゃって、寝込んでます」
「しょうがない奴だ。子供の頃から、知恵熱を出しやすいのが玉に瑕でな」
トウカイテイオーは平静を装いつつ、トウショウボーイがいう話を夢中で頭にインプットする。これでルドルフの話の話の裏は取れるからだ。また、子供の頃は現在の自分とよく似た無邪気な性格であったことも事実だと判明し、内心の興奮を抑えきれなかった。また、ルドルフ自身、未だにレースに未練があるのは、オグリをカサマツから地位を悪用して無理に引き抜いたという批判が未だにあるからで、もう不要になったはずのトレーニングを継続しているのは、そのことへの贖罪の機会をどこかで求めているからでもある。実はふとしたきっかけがあれば、若き日の天真爛漫な振る舞いをしてしまうという『弱さ』をも内包し、若き日の自分とよく似たテイオーをかわいがるのはごく自然な流れであった。テイオーには想像がつかなかったが、新人時代は自分と同じような振る舞いであり、トウショウボーイらが今のルドルフのポジションだった事は確定した。
「そ、そうなんですか」
「ああ。ちょうどいい。あいつが特に慕っていたのが来た」
「え?」
「貴方がトウカイテイオーね?私はグリーングラス。ルドルフちゃんの事をかわいがってた一人よ」
「は、はじめまして!」
タブレットを手に持って、思わずペコリと頭を下げてしまうテイオー。なんだかんだで日本のウマ娘であるのが分かる仕草だ。
(何やってんの~ボク!!わけわかんないよぉ~!)
と、混乱中のテイオー。そんなテイオーのパニックな声に、隣の部屋で目を覚ましたルドルフ。
「ん……?テイオーが電話……いったい誰と……?」
うつらうつらした様子で部屋のドアのノブに手をかけるが……。
「な…な、な……」
聞き覚えのある声。マルゼンスキー以外に自分をちゃん付けで呼べる者は……。すぐに合点が行き……。
「う、うわあああああ~!?」
恥ずかしさで顔を真赤にした姿でドアを勢いよく開け……。
「な、な、な、なんで先輩が!?」
「あら、ルドルフちゃん。お久しぶり~」
「ぐ、グラス先輩!やめてくださ……」
「久しぶりだな、ルドルフ?」
「か、かいちょー!?」
思わず、テイオーと同じようなイントネーションで言ってしまったその言葉。皇帝と言われたシンボリルドルフも、自分の先輩達の前では若き日の振る舞いに戻ってしまうのだ。
「な、なんで、かいちょーたちが電話を!?」
「ハッハッハ。久しぶりにお前の様子が気になってな。それに、今はお前が会長だろう?」
「こ、後輩の前でやめてよー!わたしだって、皇帝って看板に恥じないように……」
「ハハハ……無理しおって」
ここで、ルドルフの素の振る舞いが出てしまう。テイオーの存在が頭からすっぽり抜け、トウショウボーイらがトレセン学園にいた当時に戻っていた。皇帝と呼ばれ、威風堂々たる姿が後輩たちに崇拝されているシンボリルドルフだが、そのヴェールを全て脱いだ『一人のウマ娘』としては、前世の魂の記憶』の隠れた影響もあるのか、現時点のトウカイテイオーとよく似た天真爛漫さを見せた。声のトーンも普段より高めになっており、威風堂々たる振る舞いは周囲の期待に応えるための『演技』であったことが分かる。テイオーはこれにものすごく興奮し、その日は『ドキドキ』して一睡も出来なかったという。