――さて、コズミック・イラ歴への地球連邦軍の介入でその世界はどうなったのか。それを語る時がやってきただろう。その当時、地球連邦宇宙軍ルナツー基地は次世代波動エンジンの実験中であり、そのエンジンの暴走で要塞ごとコズミック・イラ世界に飛ばされ、現地の戦乱を収めるために、その武力を行使した――
――最初はC.E71年の第1次連合・プラント大戦の最終局面。地球連邦軍の艦隊はたまたま、ルナツー付近で整備中であった新マクロス級戦闘空母『バトル13』に率いられ、介入。双方の戦力をほぼ壊滅に追い込んだ。その時に主に使われたのが『拡散波動砲』である――
「拡散波動砲、エネルギーチャージ完了!マルチ隊形も済んでいます」
「よし、一斉射撃!この波動砲を世界の戦争を終わらせる光とする!!撃て!!」
タキオン波動収束砲の第二世代モデル『拡散波動砲』。23世紀世界では主流になれなかったが、対艦隊殲滅用としての有用性から、使用は継続されている。このときは固まって航行していた上、数の多い地球連合軍残存艦隊へ向けて遠距離から放たれた。(艦隊ごと吹き飛ばす兵器を戦艦に搭載するという発想が乏しかったのも彼らの不幸だった)
「て、提督!!前方からとてつもなく強力なビームが!」
「回避せよ!」
「あ、ああ!?」
地球連合艦隊の面々は我が目を疑った。前方から迫りくるエネルギー流がシャワー状に拡散したのだ。昔の榴散弾やショットガンのように。彼らが相互援護のために固まって航行していた事も重なり、艦隊ごとタキオン粒子のシャワーに塵とされる。地球連合艦隊は一瞬にして継戦能力を失ったわけだ。回避する間も与えられぬ一瞬の出来事であった。恒星間宇宙船を撃ち抜けるタキオン粒子の光を内惑星間航行すらままならない技術力の世界の宇宙船が防げるわけはない。
『地球連合並びにプラントの両軍へ通告する。我が艦隊の力はご理解いただけただろうか?これ以上、戦闘を継続するものなら、両軍の全戦力を殲滅してご覧に入れよう』
地球連邦の通告は特にプラント首脳を憤激させたが、艦隊戦で万に一つの勝ち目がないことは素人目にも明らかであった。そのため、機動兵器戦なら…と当時に残存していた機動戦力の六割強を投入したが、最低でも1800kwを超えるジェネレーター出力を持つ核融合炉持ちの機動兵器の存在、ネオ・ジオン、ザンスカール、クロスボーン、ギガノスといった歴代の敵性国家との戦争を潜り抜けた猛者が多く配置されていたこと、核融合炉は地球連邦軍にとっては『廉価な動力』であった事が勝負の明暗を分けた。ディープストライカーとハミングバードもこの時に使用され、その想定された戦果をもたらした。また、頼みのプロヴィデンスも『連邦の蒼き閃光』の異名を持つエースであるハリソン・マディン大尉のF91に抑え込まれ、最終的にフリーダムに討たれた。その結果、明堂院いつきの素体になったステラ・ルーシェのいた世界とは明確に別の世界である事がわかる。ただし、シン・アスカやルナマリア・ホークの故郷の世界ではあった。彼らはこの時の大損害を立て直すために祭り上げられた世代で、以前の時代のザフトレッドに比べ、質的意味では劣る。デザリアム戦役後の時代にルナツー方面軍から提出されたレポートによると、地球連邦軍が介入を実施した場合のコズミック・イラ歴の世界は地球連邦軍が限界までプラントの人的資源を損耗させた結果、国家としての維持すら危うくなり、『二度と総力戦を起こせない』とされた。また、再三に渡る構成員の離反と最新兵器技術の流出で結局、ザフトを正式に正規軍に昇格させるのに合わせて、階級制を結局は導入する羽目となるなど、かつての最高評議会議長『パトリック・ザラ』の思惑と真逆の結果になった。一方の地球側もオーブが相対的に国力を温存したものの、地球連邦の二度目の介入後は『停戦監視団』が駐留している。オーブも非合法的な手段で武力の技術水準を高めていたため、結果的に第三者のストップで財政・政治面で一応のバランスの回復が図られた。また、オーブは日本の系譜を継ぐ後継国家的側面があったため、日本連邦が主導権を握る地球連邦政府の統制下に入る事に異論は生じず、実質的に地球連邦軍の手による停戦監視と財政援助が行われた。これをオーブがあっさりと受け入れた背景には『コズミック・イラ歴の最新鋭機であるストライクフリーダムだろうと、地球連邦軍最強を誇る歴代ガンダムを投入されれば撃破は必至なほどの戦力差がある』(ストライクフリーダムは連邦からすれば旧式技術の原子炉で動いていたため、より世代が進んだ技術である核融合炉、ないしはそれ以上の機関のモビルスーツとの性能差は意外に大きかった)ことであった――
――このルナツー・レポートはコズミック・イラ歴の世界の優れた点を自軍に取り込む一助となったが、兵器技術については『推進剤の効率向上などの点は見るべきものがある』とされた程度である。コズミック・イラから入手したインパルス、ガイア、デスティニーはコンペイトウ(旧・ソロモン)で調査が行われた後、デザリアム戦役までに改修が行われた(インパルスはコア・ファイター構造に酷似する構造であるが、メカトピア戦役当時に鹵獲されたミネルバに積まれていたシルエットはフォースシルエットとソードシルエットのみであった。何らかの要因。おそらく、ルナマリアの射撃の腕の問題であろう…。と、推測される理由でブラストシルエットは降ろされていた。また、インパルス自体もフレームはPS装甲材でないため、フレームに過剰な負担をかけた場合、空中分解(正確には、シルエットの合体維持機構が誤作動を起こしてしまう)を起こす事が指摘された。デスティニーも原子炉稼働ながら、武装のエネルギー消費効率が悪く、シンが史実で行ったようなエネルギー消費の激しい武器の連続使用や、機体に負担をかける機能の使用を短期間に頻繁に行った場合、エネルギーゲインがレッドゾーンに落ちてしまう(原子炉のエネルギー供給量は限られており、機体の稼働を維持するのが優先されるため。これは核融合炉にも言えるが)。デリケートな設計であるためか、そのままでの実戦投入は見送られたのだった――
――インパルスはその後、ソードシルエットとフォースシルエットを別個のコアスプレンダーで試験することになり、ミネルバに残されていた予備機を使って試験が行われた記録がある。その後、頭部パーツが一時的に不調をきたしたデスティニーに装着され、擬似的に『デスティニーインパルス』状態になった日もある。試験後は『実戦に投入するほどの性能はない』と判定され、ギアナ高地でしばし保管された後、両機はさらなる改修の対象になり、試験中の新操縦システムの試験機にされた。なお、PS装甲はビーム兵器に対するメリットがない事から、最新のガンダリウムε合金製のものにフレーム・外装共に変更され、デスティニーのビームシールドも地球連邦軍製のものに換装された。なお、インパルスの換装機能は機体強度の確保のために一部撤廃されたという――
――『アカツキ』の存在が明らかになり、フラッグシップとなったので、オーブからお役御免になったストライクルージュ。地球連邦軍製の個体は朝比奈みらいが改修後に使用した。実は返却までにプロパガンダに使われていた個体はこちらである。カガリ・ユラ・アスハの腕でも充分に動かせるからだ。オーブが急速に軍事面で台頭した理由は、アナハイム・エレクトロニクス製の制御OSの大本を模倣し、キラ・ヤマトがそれを仕上げたことで操縦難度が相対的に下がったからである。(コズミック・イラの一般的なナチュラル用MSのOSは動作がひどくパターン化されており、地球連邦軍やジオン軍のそれと比すれば『高等専門学校の学生が実習で組んだOS』程度の完成度しかなかった)オーブはアナハイム・エレクトロニクス製のOSを模倣する形でソフトウェアを強化し、ムーバブルフレームを基にしてのハードウェア強化を同時に行うことで強国になった。ただし、ガンダリウム合金やチタン合金セラミック複合材などの装甲材はコズミック・イラの技術では模倣できず(PS装甲材に依存してしまったため、通常の金属素材での装甲材技術が却って停滞している)、量産機は発泡金属系の素材で落ち着いたという。地球連邦軍は既にマイクロ・ハニカム技術やマルチプル・コンストラクション・アーマー構造という次世代の技術の段階に到達済みであるが、第一世代機の時点でフレーム構造というのは、一年戦争中の連邦とジオンよりは進んだ発想であったと言える。――
――コズミック・イラ世界でコーディネイターの優位性が気にされなくなったのは、一つは地球連邦軍の二度の介入で『コーディネイターは基礎能力がいいだけで、あとは普通の人間にすぎず、ニュータイプという超常的な空間認識能力を持つ者の前では赤子同然だし、それと渡り合える熟練兵にも圧倒される』こと、コーディネイターには個々のエゴが肥大化した者が多かったため、連携の平均レベルがジオン以下のレベルであった事が二度の地球連邦軍との紛争で示されたからだった。ニュータイプという概念も伝わり、ナチュラルには希望の光になったが、コーディネイターには自己の存在意義の否定と捉える者が多数派だった事が地球連邦軍の二度目の介入での大敗を現実にした。多少の基礎能力の差は百戦錬磨の地球連邦宇宙軍将兵の前では些細なもので、『既にモビルスーツが兵器として確立されている』世界としての互いの技術力の差、第二の介入の際には、プラント側に残されていたエースパイロットのトップクラスが軒並み離反した事もあり、軍事面で『下手したら、プラントは二度と立ち直れない』ほどの打撃を被ってしまった。SガンダムやF91などの『次元が違う』超高性能機が使用され、プラントのトップエリート部隊を『バッタバッタとなぎ倒す』光景は互いの技術力の差、特にモビルスーツの技術的完成度の差を示すものであった。元々、第二次大戦はプラント側の大義名分が次第に希薄化しつつあったため、聡明な者はクライン派に鞍替えしていき、ミネルバ隊が抜けた穴も埋められず、地球連邦軍の巨大な軍事力には為す術はなかった。元々、地球連合を半ば分裂状態にした後に温存していたプラントの兵力で反対勢力を殲滅し、世界を治めるのがギルバート・デュランダル(第二次大戦時の最高評議会議長)の計画だったが、地球連合の比ではない力を持つ『地球連邦軍の再来』は予想の斜め上をいくもので、デスティニーやレジェンドという『ストライクフリーダムとインフィニットジャスティス』に対抗しうる存在』を失っていたところへの彼らの登場は計画を破綻させた。オーブが地球連邦軍の圧倒的軍事力を後ろ盾にし、立ち回ったおかげで戦後の地位を得たが、地球連合の反オーブ派並びに、ザフトの脱走兵の過激派らはなおも抵抗を継続するが、地球連邦軍がその軍事力で鎮圧していく。外宇宙にまで版図を伸ばす世界の地球の軍事力なのだから、当然であった。皮肉なことに、『抵抗しようがないほどの力』で統べる事が『絶滅戦争をやらかした』世界での最適解であった――
――プリキュアたちの内、操縦技術を持つ一人であるキュアサンシャインとキュアミラクルはテストを継続しており、21世紀の旧・学園都市の元・暗部部隊崩れの掃討に使用していた――
「やれやれ。まさか、ガンダムをパワードスーツ感覚で使うとはね」
ガイアガンダムを駆る明堂院いつき。この頃にはモビルアーマー形態も機能解禁されているが、使い勝手が悪いために、モビルスーツ形態のみで戦っていた。
「デルタの遺産!……炸裂ボルトよ!喰らえっ!」
炸裂ボルト。元来は増加装甲のパージ用装備を攻撃に転用する兵器で、榴弾をショットガンのように敵機に浴びせるものだったが、モビルファイターからのスピンオフが進むと、ナックルガードを展開しての『電撃パンチ』に変容した。これはアナハイム・エレクトロニクスで保管されている『フルアーマー百式改』がその仕様であったことに由来し、オプション装備として、他のMSも使用可能になった。(一説によれば、ガンダムマックスターなどのネオアメリカ系ガンダムからのスピンオフという。)ガイアもオプションで装備されたナックルガードを展開し、パンチを食らわす。製造中止になった学園都市製の駆動鎧の外部装甲を貫き、内部の駆動機構を電撃で使用者ごと行動不能にする。
「23世紀の最新兵器が、21世紀水準のもので防げるかってーの!」
別の駆動鎧の一体を蹴りで吹き飛ばす。格闘技を前世でもしていた明堂院いつきはプリキュアとしての経験とステラ・ルーシェとしての訓練の成果などもあり、新操縦システムとの相性は良かった。
「あれ、モビルアーマー形態は使わないの?」
「ゾイドみたいな四足歩行だし、空中からの攻撃には弱いんだ。砂漠とかで、ホバークラフトでの移動が主流の世界で使う意義は見いだせないよ、みらい」
「ま、四足歩行は蹴られたりしてコケると、態勢を立て直すのに苦労するからね。ドムとかがある世界だと、メリットがないしなぁ」
「それに、バクゥやラゴゥみたいに、足に無限軌道があるわけじゃないしね」
この日も二人は休暇中ながら、MSをパワードスーツ代わりの感覚で運用していた。MSを人サイズに縮小して運用することは多大なメリットが見いだせたが、量産型MSに用いるには導入コストがかかりすぎるという難点が指摘されているのも事実。通常コックピットに慣れてから教育するという手間も現場の一部から異論が出る理由だ。しかし、立て続けの戦乱で熟練兵がどこの部隊でも不足していた事は揺るぎない事実なので、導入は否定されず、『ある程度の経験を持つパイロットへの選択肢』という方向性で定まりつつある。これは通常コックピットの操作法を覚えきらない内に、新システムを使わせる事への懸念が大きかったからであった。とは言え、既に通常コックピットに熟練した者が使う分には文句は生じていないので、要は使う者次第なのだ。
「でも、その炸裂ボルト、名前だけ百式系のもんだけど、やることはモビルファイターだよね」
「仕方ないさ。仮面ライダーストロンガーの華々しい活躍の影響だし、シャッフル同盟のガンダムの内の一体はボクサータイプになれるから、その機構のスピンオフを造るのに、予算確保のために、名前だけ使ったんでしょ。飛行機や戦車の世界でも、昔から使われてきた古い手さ」
「そういえば、座学でそういうの習ったっけ」
「政治屋や官僚はいつの時代も新規開発の予算を渋るもんさ。ジェガンだって、マイナーチェンジを5回以上繰り返してきてる。連邦軍のジム系とししては最高記録だそうだよ。飛行機や戦車の時代の頃、平時は一つの兵器を30年から40年、下手すれば、50年は使い倒したけど、MSは最新技術の塊な分、陳腐化が速い。半年で『時代遅れ』になりかねない。だから、エース用に最先端技術の塊を与えて、一般用はそのスピンオフの量産型。初代ガンダムの登場から固定された認識さ」
その傾向は連邦軍で顕著だが、連邦軍も一時、F90でそれを崩そうとしたが、結局はそれには至らなかった。ミッションパック方式の欠点が性能と別次元で発覚したからだ。特にF90に簡易的な可変機構を与えようと模索されたWタイプのミッションパックはどう見ても『BWS』の焼き直しにしか見えず、連邦軍も『普通にTMS(可変MS)を量産したほうが安上がりじゃないか?』と結論づけるものであった。F90は小型MSの実証機であるため、その実証実験はF91以降の後続機の登場後も続けられていたが、わざわざ小型機で生産する必要性のない分野の発覚もあり、結局、地球連邦軍の従来の開発様式を崩せなかった。F8シリーズと仮称されていたジム系相当の廉価量産型が立ち消えになり、従来のRGMシリーズがそのまま代替わりしていったのは、サナリィの開発体制の限界を示すものとされた。
「だよなぁ。結局、連邦軍はガンダムやガンキャノンで効果が出た装備をジム系に取り入れる手法だもんなぁ。トールギスは別組織のものだけど、似たようなもんだし」
「学園都市も似たような事してたんだろう。独自の軍事力の解体は進んでるけど、少なからずがならず者やゴロツキ共の手に渡っている。それらを外の世界に出さないようにするのも、私達の使命だよ」
「学園都市、かぁ。統治機構の解体後は有名無実化して、ゴーストタウンだもんね」
「8年位前にロシアとの戦争があった時に住人の子どもたちの大半は親が引き取ったし、大人達もその直後の数年で殆どいなくなった。インフラ維持のために土建屋が立ち入ってる以外はゴロツキやならず者のたまり場。銀河連邦警察が駐屯を始めたけど、まだまだならず者は多いってわけ」
「やれやれ。リコが忙しいから、当面はこれでドンパチするのが続くなぁ」
「仕方ないさ。私だって、似たようなもんさ。つぼみは産休、えりかとゆりさんは当分は研修だっていうし」
「えりかちゃんはともかく、なんでゆりさんまで?」
「ガイアの地球連邦軍とアースの地球連邦軍は似て非なる組織だし、軍規も違う。ゆりさんは転生先で元から将校だから、まだいいさ。問題はえりかだ。えりか、歴代のブルーの類形には当てはまるキャラじゃないしさ」
「一からだし、おまけにえりかちゃん、勉強嫌いだしね…」
二人は来海えりかの勉強嫌いにため息をつく。みらいはピンクでは珍しい『成績はそこそこ』だったからか、ブルーの中でも異色の属性のキュアマリン/来海えりかについての認識はいつき(キュアサンシャイン)と同様だったようで、二人は動かしているガンダム(ガイアとストライクルージュ)越しに肩を落とすのだった。
――こちらはハイヤーで移動中のナリタタイシンとメジロマックイーン。ナリタタイシンは怪我と病気でレースの成績が奮わない時期が長かったのと、何らかの理由で呼び覚まされた競走馬としての『記憶と感情』が見せた悪夢に苛まれており、その悪夢にひどく怯える様子を見せ、メジロマックイーンに縋り付いて涙を流した――
「私も……テイオーという『切磋琢磨できる』好敵手に恵まれ、キャリアもまさに全盛期というところで故障を起こした。それも引退は間違いなし。おばあさまにも…今すぐの引退を強く勧められました…。ですが、私は認められなかった。まともに戦える相手がおらず、おばあさまから申し付けられた『メジロ家三代の悲願』を達成するための道具……少なくともお母様(メジロティターン)はそれを見抜いておられてた……そんな空虚さを感じていた時にテイオーと出会ったのです」
メジロ家当主のおばあさま(マックイーンが嫡流の孫娘との事から、本名は『メジロアサマ』と推測されている)は若かりし頃の自分が先代当主に認められるために『天皇賞』を制した事を契機に、自分の子や孫にも『期待』という形で『天皇賞制覇』を課すようになった。メジロティターン(マックイーンの母)は現役時代の晩年は衰えが顕著だったが、全盛期の頃に天皇賞を制している。その長女であるマックイーンは同世代の従姉妹『メジロライアン』に祖母の期待がかかっている事を認識しており、ライアンに追いつくために鍛錬を重ねた。その結果、いつしかメジロ家の期待を一身に背負う才女に登りつめた。ライアンが成績が伸び悩む様になるのと対照的に、『トウカイテイオーを負かしたウマ娘』ということで、オグリキャップ引退後の時代における最強のウマ娘の一角を担うにまで成長を遂げた。だが、気づかぬ間に病魔が彼女を蝕んでいた。その病名を宣告された時には自暴自棄に陥った。その経験、テイオーが(肉体再構築を行ったとはいえ)有馬記念を制し、自身も『処置を受けた』ことで快復。喪失した自信も取り戻した。その過程で『競走馬としての記憶』が呼び覚まされた』とも続ける。
「それじゃ、あの夢は……アタシの前世での……記憶…?」
「おそらくは。ですが、前世の記憶が呼び覚まされろうとも、私達は私達です。以前、テイオーが引退を公表しようとした時、私はテイオーに言いました。『奇跡は起きます、それを望み奮起する者の元に、必ず、きっと…』と。そう言ったはずの私は、繋靭帯炎の発症を宣告された時は現状を受け入れられず、走ろうとして…」
マックイーンは練習を強行した際に土砂降りの冷たい雨に打たれたせいで風邪を引き、テイオーたちが発見した時には気絶した状態であり、しかも肺炎を起こしかけていた。下手すれば死んでいた可能性すらあった。記憶が目覚めたのは、その時ではないかと踏んでいる。
「私はテイオーに教えられました。……先輩はどうなのですか?」
「みんなの期待に応えられないことが怖かった…。観客の憐れむような視線が心に刺さった…。ブライアン、ハヤヒデ、チケットはアタシを信じてくれてる。だけど、自分は怪我と病気の繰り返しで……。アタシは……自分で自分を信じられない…。だけど、ハヤヒデとチケットはぁ……」
ナリタタイシンは親友の友情に自分が応えられない事に後ろめたさがある上、血の滲むような努力をしても報われてこなかった競技生活を送ってきた。その経緯が彼女の心に暗い影を落としていたが、ビワハヤヒデとウイニングチケットは自分の再起を純粋に信じてくれている。二人の友情に応えられない自分の病弱さが恨めしいと涙ながらに告白した。
「二人に報いたいんだ!!だけど、夢って形で……あたし自身が体の限界を突きつけてくるんだ!!本当は二人と並んで走りたい……!BNWって渾名も……本当は居心地良かったんだ…。皐月賞しか勝ってないのに……三強って言われてさ…」
タイシンは自分を卑下するが、彼女の素質そのものはハヤヒデ、チケットに劣るものではない。追込の脚質を活かし、皐月賞を制しているのは確かなのだ。タイシンの不幸はレースに勝ちきれない展開が続き、その時の観客の彼女への落胆の声や憐れむような表情が彼女のトラウマとなってしまった事だろう。
「……自分の殻に閉じこもってるだけだってのはわかってる。だけど……みんなの期待に応えられないことが怖くて……。みんなの期待にいつも応えられるあんたやテイオーが眩しく見えてさ……」
「重圧を感じない者など、誰もいませんわ。大切なのは、『自分らしさをどのような形で表すか』です」
「自分らしさ……。」
「ええ。例えば、ハルウララですが、勝てなくとも、『自分らしく走る事』を貫いています。先輩も時間をかけて探せばいいのです。走る理由を」
「走る理由……か」
ナリタタイシンは忘れていたことにハッとなる。何のために走るのか。競走馬としては世代が違うが、ウマ娘としては同世代。その奇跡をも考慮すれば…。
「環境を変えてみるのも手ですわ。私は表向き、病気の治療のために療養生活に入りますから、それを隠れ蓑にします」
「環境……か」
二人を乗せたハイヤーは幹線道路に入る。そのハイヤーをこっそり追っているナリタブライアン。彼女の出せる速度なら、一般道を走るハイヤーに追いつくのは比較的に簡単である。
「あいつら、どこへ向かっている…?確か、この辺りは新興住宅地が立ち並ぶはず……タワマンも建てられてる……そこに何の用だ?」
ハイヤーと程よい距離を保ちつつ、再開発中の地域に入ったことに気づくナリタブライアン。粗野な口調であり、姉のビワハヤヒデのことを『姉貴』(対外的には姉さんと言う時もあるが)と呼ぶなど、総じて荒っぽい性格だが、エアグルーヴの補佐役として、第二の副会長に任ぜられた。ナリタタイシンとは縁戚関係であるためと、ルドルフへの報告事もあったので、ハイヤーを追ったわけだ。ここ最近に建てられたタワマンの地下駐車場にハイヤーが入ったのを追い、偶然を装って、二人に会ったのだが。
「アンタ、アタシらを追ってきたんでしょ?」
「会長に、お前らのことを見ておけと申しつけられてるんでな…。で、こんなところに何の用がある?」
「ウマ娘の皆さんですね?こちらにどうぞ」
幹部自衛官と思われる自衛隊員が一同を出迎えた。(黒江の部下である幹部自衛官で、時空管理局との折衝役)
「彼女(黒江)は幹部自衛官と伺っておりましたが、何故、このような真似を?」
「我々はこの世界の自衛隊員ではないので、このような真似をしているのです。それはシンボリルドルフ氏もご存知です」
自衛官はシンボリルドルフは既に黒江との間に協定を結んでいることを伝える。そして、自分達がメジロマックイーンの発病した『繋靭帯炎』を根治させた事も伝える。
「それじゃ、療養ってのは…」
「周囲への方便ですわ…。誰が『通りすがりの人の施術で完治した』なんて信じます?」
「確かにな……」
「って、なんでしれっと一緒にいんのよ、ブライアン?」
「会長に報告したいこともあるし、姉貴からお前が悩んでる事を聞いていたんでな」
「ハヤヒデが……」
「姉貴のカンは当たるんだ、これが」
ブライアンはちゃっかりしているようで、同行することにしたようだ。服装はトレセン学園の制服にちゃんと着替えている。
「エアグルーヴ先輩が過労死しませんか?」
「ああ、それは心配ない。先代の生徒会長であるトウショウボーイさんがハイセイコーさんの命で、学園をしばらく束ねるそうだ」
「あのTTGの……」
「ハイセイコーさんは協会の反会長派が会長の不在を突いてくることを懸念していてな。エアグルーヴ副会長はまだ未熟だという事で、彼女を送り込んだ」
「反会長派……」
「会長がオグリ先輩を中央へ引き抜いたことは、現在でも批判があるからな。会長がトレーニングをまだ続けている理由でもある」
「会長は現役に戻る意思が?」
「私はそう見ている」
マックイーンにそれを伝えるブライアン。ある意味では、エアグルーヴ以上にシンボリルドルフの本心を見抜いていたと言える。伊達に三冠ウマ娘ではないのだ。
「ハイセイコーさんはシンザンさんの後継者として、協会で頑張って折られるが、ルドルフ会長はマルゼンスキー先輩の世代を抜かして招来は栄達するのが約束されている。オグリ先輩の一件は『中央のエゴ』だと批判を買っているのを気にしているんだろう。唯でさえ、マルゼンスキー先輩の代を抜かすこと自体、協会の幹部から異論が出ているのだ」
シンボリルドルフが気に病む唯一の選択。オグリキャップのキャリアにプラスにはなったものの、自分への批判を買うことになったもの。地方レースの関係者にはルドルフの失脚を望む者も多いが、ルドルフは輝かしい実績を築いたウマ娘であることには変わりない。
「今のトレセン学園は黄金期だ。だが、マルゼンスキー先輩の世代が人柱になっての繁栄だから、反感も多い」
「プレストウコウ先輩やラッキールーラ先輩、ハードバージ先輩の…」
「そうだ。会長はそれを気にしている」
マルゼンスキー世代の悲劇、オグリキャップの中央への引き抜き。マルゼンスキー後のスターウマ娘であったシンボリルドルフは苦難を背負う。テイオーが自分を慕う事を拠り所にするなど、かなり脆い側面も持つ。不在である事で、協会の干渉を招き、トレセン学園の生徒会による自治が脅かされる事を憂いる『ハイセイコー』はルドルフの先代の生徒会長であるトウショウボーイを学園に送り込んだ。ブライアンはその一連の動きに現役世代として関わった事を示唆するのだった。