――日本連邦の『ミスを犯した人間への不寛容』は連合軍でも問題視されていた。ミーナは特に501統合戦闘航空団の司令としての輝かしい実績があったので、下士官への制裁的降格と勲章の一切の剥奪は日本側から提案されたが、パットンが庇った事、モントゴメリーも『そこまでする必要はない。現場が余計に恐慌状態に陥るだけだし、人事書類の確認ミスよる早合点だったと、本人が認めているのだ。過剰にミスを叩いても、君等に益はないよ。精神的な溜飲は下がるかもしれんが、彼女を精神病院行きにする気かね?それと、後任の手配は済んでいる』と一蹴した。ミーナへの最終的な人事処分は『戦時階級の剥奪、指揮・飛行資格の一年間の停止処分、授与予定の勲章の撤回、給与数ヶ月分の自主返納』という形で決着した。ウィッチとしては異例なほどの厳罰であった。エクスウィッチへの差別を助長するという批判も大きかったため、二階級降格は必然であったと言える。エディタ・ノイマンの降格と併せ、『45年ショック』と後の世の歴史書には記されている。数年後のカールスラントの内乱、扶桑のクーデター事件の引き金になったからである。その双方の事件と内乱の結果、ウィッチそのものの権威は時間をかけて低下していった。それらが終わった後の1949年の初夏にさしかかる頃には、軍ウィッチは『一芸特化のならず者』という評価さえ生じていた。それを払拭するため、軍に残っていたウィッチは万能選手化の道を選んでいく。人型機動兵器の最初期の搭乗員の大半がウィッチ兵科出身の将校であった事がそれを裏付けていた――
――技術チート上等と言わんばかりの日本連邦は、この年から数年以内の予定に入れていた反転攻勢の主力を人型機動兵器と位置づけ、量産を急いでいた。既存兵器の保有数に政治的理由で制限がかけられそうなので、その抜け穴となる人型機動兵器を主力と位置づけたわけだ。これに慌てた日本政府は『戦時の消耗を考慮に入れていない試算であるから……』とお茶を濁した。平時なら事足りるが、戦時にはとても適応できない数なのは把握しているからだ。そして、国内の軍需産業に活気を与えるための格好の市場と見込んだはずの扶桑が『兵器不足を補うために、躊躇なく他国産兵器を購入する』事は予想外の事態。更に、時代的に不相応なはずの人型機動兵器を別世界から躊躇なく購入し、カテゴリーそのものが陳腐化した軽戦車や騎兵の代わりとした事は大いなる驚きであった。この衝撃により、日本産兵器の設計図とライセンスの輸出が促進され、カールスラントが涙目となる『技術超先進国』となる扶桑。一般層への普及は戦後の時期になるとは言え、軍事分野では『21世紀水準の性能のコンピュータ』が1949年の時点で普通に使われているし、インターネットも『ある』など、時代を超越した光景が実現された。また、暗号もスーパーコンピュータがランダムに作成した『使い捨てのデジタル暗号』が作戦の度に作成されるために、日本軍の絶対的弱点であった『暗号の解読』は無くなった。旧来の暗号機はデコイ目的での使用にシフトした。コンピュータによる暗号作成で『失職する暗号作成の技術者』にコンピュータ技術の取得が奨励されたのもこの頃だ。とはいえ、絶対的に足りないのが『乗り物を動かせる』人間だ。1949年はモータリゼーションが始まってもいない時代であったため、『ウィッチのために』技術者が多めにいるのはいいとして、『乗り物を動かせる人間の確保は急務』であった――
――カールスラント空軍は結局、ヘルマン・ゲーリングの失脚と有力な人材の喪失、軍縮で有名無実化した。海軍も空母を『遠洋航行中の偵察用プラットフォーム』としてしか考えていなかったことを世界三大海軍から『田舎海軍の考えそうな情けない発想』と公然と揶揄された挙句、方針の迷走の果てに、『敵から鹵獲したグラーフ・ツェッペリン級航空母艦をビスマルク級改装の新空母と併せて、1950年代に戦力化する』方針になった。これは扶桑式の艤装であった『初代グラーフ・ツェッペリン級』の存在を否定するものであったが、カールスラント海軍の妥協的な施策であった。海軍総司令のカール・デーニッツも、潜水艦重視の艦政の誤りを指摘され、更に威風堂々たる地球連邦軍の戦闘空母に刺激されたことで、失脚前に『空母戦力の整備』を容認した。なんとも虫のいい話だが、ヘルマン・ゲーリングの中央からの失脚で、空軍の政治力が大きく減退した事で海軍独自の航空戦力の創設に目処が立ったための『掌返し』レベルの方針転換であった。日本連邦に莫大な賠償金と違約金を支払ったおかげで、軍予算が相当にカツカツなカールスラント海軍は、1949年度にようやく、水上艦隊の再建を『鹵獲艦の再利用』という形から開始する。従って、往年の大洋艦隊のようにはなれないが、誇りを持てる程度の再建は認められた。これは『軍関係者に目標を与えることで、今後の内乱を防止する』とする目的も含まれていた。ナチスの台頭は民族の誇り、かつての帝国の復興論者の心をくすぐることで起きているからで、ドイツはナチスに類するものの起こりをあまりに警戒しすぎたのだ。この無理な軍部の押さえつけはバダンの人員増強に寄与してしまい、後年にドイツ領邦連邦が『かつての強国だが、今は衰退している国』と評される原因となる。ガリアはフランスが同位国に肩入れせず、更に太平洋戦争後の時代、アルジェリア戦争で日本連邦に対して、完膚なきまでに敗れ去ったことで肝心要の国威はガタ落ちになり、敗戦の責任を取らされ、シャルル・ド・ゴールが引退した後は国家方針が迷走を続けていく。21世紀頃には宇宙からの資源採掘に目処が立ったため、ようやく再建の目処が立つ。ペリーヌ・クロステルマンの存在がガリアで再評価されたのは、21世紀に入る頃である――
――兵器の刷新は順調ではあったが、兵器刷新速度がウィッチ世界の常識では『早すぎる』ことで、現場が兵器刷新速度に追従できない問題が日本連邦軍には強くあった。20世紀後半型以降の兵器は電子装備が普遍化する関係上、第二次世界大戦型よりも遥かに操作や整備が複雑である。戦車にしても、大口径化が進展しているため、当時の扶桑人の標準的体格と体力では『継続的に装填速度を保てない』問題が重くのしかかっていたため、自動装填装置の装備が『本来は装備されていない戦車』にも施されるようになった。五式中戦車改の生産の継続がされていた理由も『74式改、10式の配備までのストップギャップ』であったが、より強力な戦車である『センチュリオン』や『チーフテン』のほうが太平洋戦線では重宝されていた。その二つの英戦車は平均的な技術レベルが史実より遅れているウィッチ世界では、高性能の『重戦車』と言えるレベルの性能である。敵が用いる徹甲弾の平均レベルが大戦中盤の『高速徹甲弾』であった事、味方の徹甲弾は21世紀現用の『装弾筒付翼安定徹甲弾』であるため、攻撃力に絶対的優位が存在する。防御力にしても、21世紀以降の精錬技術で造られた防弾装甲を第二次世界大戦レベルの技術レベルで造られた徹甲弾で貫くのは至難の業である。『戦車そのものは更新できたとしても、細かい部分は大戦中のレベル』であるがために、思うほどには上手くいかない敵、兵器の刷新を行っても、国家総力戦に無理解な者たちの政治的妨害に遭う味方。双方の陣営が似たりよったりの難点を抱えていた――
――軍需産業の突き上げに遭った防衛省だが、正式に調査に乗り出した段階においては、第一線の戦車部隊の主力は『チーフテン』、『センチュリオン』、『コンカラー』といった英国産の戦車が大勢を占めていた。ブリタニアと長年の同盟国であったから可能なことだが、日本側からは英国の二枚舌ぶりなどから、『自分達が戦後の甘い汁を吸うために、扶桑を尖兵として利用しているに違いない』と見られてしまう事態となっていた。とは言え、ブリタニアとしては『エリザベス一世の時代から同盟を結んでいて、本国の陸軍にさえも配備していない『新戦車』を優先的に引き渡してるのに』という言い分がある。空母赤城の沈没への賠償金も規定以上の金額を支払っているからだ。日本側もブリタニアから支払いがされた賠償金の総計額が『戦艦大和を1.5隻は造れる』ことに気が付き、クレームを慌てて引っ込めた。防衛省は欧州の軍需産業を信用しない傾向があるので、ブリタニアへ『兵器のアフターフォローをする気がちゃんとあるのか?』ということを強く問い合わせたが、ブリタニアは帝国の威信の維持のために、そうしたフォローはきっちりするほうであり、懸念は一応は払拭された。そんな政治的な動きと関係ない現場では――
――現場ではどうなっているのか?64F遠征軍に在籍中のプリキュア達は全員が現役時代を上回る強さを発揮しているわけである。彼女らが一騎当千の強さを見せつつ、自由リベリオン軍の将兵が勇戦するのが遠征ではありふれた光景であった。自由リベリオン軍は書類上、日本連邦軍の一軍的位置づけである。だが、運用管理は元・リベリオン遠征軍の関係者が行っていることから、自由リベリオン政府の軍隊という体裁は整えていた。装備も米軍系のもので統一されており、海軍の持ち込んだ艦艇は順次、近代化改修が施されている。特に大和型で存分に近代化改修のノウハウを得た後に完成した改修を受けられる幸運により、持ち込まれたモンタナ、アイオワの両級の戦艦は徹底的な近代化改修で敵方の改良型以上の総合性能を得ている。とは言え、敵方のような46cm砲の搭載は見送られている。これは敵方のモンタナ級は元々は別の艦用に造られていた古いものを増産して積み込んだ事が判明したこと、自由リベリオン軍は戦艦による艦隊戦を躊躇なく挑めるほどの物的余裕がない事によるものだ。遠征では海軍の出番はなく、比較的に余裕がある陸・空軍が行っているが、百戦錬磨のナチス・ドイツ空軍に比しての練度不足の懸念から、Gフォースが任務を代行している。聖闘士級の戦闘力へ飛躍したプリキュア達が少数で戦線を支えないと、自由リベリオン陸軍は各個撃破に持ち込まれるのが関の山である。それが暗黙の了解であった。(実戦経験そのものはあるが、ナチス・ドイツの残党はアフリカ戦線やら、スターリングラード攻防戦の生き残り揃いであるため)――
「戦車戦はパットン戦車を使って、ようやっと互角ですの?」
「敵はスターリングラード攻防戦やアフリカ戦線の生き残りだ。それを考えれば、よく頑張ってるほうだ。ある程度の損害は折り込み済みだ」
「アメリカ軍が聞いたら、目を回しますわよ」
「敵は戦中のペーパープランを完成させている。取り回しをある程度は犠牲にして、火力を優先している。こちらはまともな戦車戦の経験がない連中が大半だ。ダイ・アナザー・デイの生き残りは教官に回されたからな。日本連邦とはそこが違う」
「日本連邦はじっくりと育てることよりも『即戦力』を重視しますから。予算不足がそうさせるのでしょう」
最初の交戦が済んだ後、回収車に運ばれている、撃破されたM48パットンを一瞥し、キュアダイヤモンドはキュアエースに言う。遠征軍の実働を担う兵士の大半は実戦経験のない若者達。ダイ・アナザー・デイの生き残りは優先的に教官職につかされたためで、実戦経験者に『継続的な戦果』を求める日本連邦軍と思考を異にする。むしろ、世界的には、自由リベリオンのドクトリンのほうが主流である。日本連邦軍は史実太平洋戦争で『新人をむやみに実戦に出して、それが原因で戦力の中核を失う』ことを嫌というほど味わったためか、エースパイロットを精鋭部隊に集める事を進めている。(冷戦期以降にありえる、対テロ戦争を見込んでいるのだと、一応の釈明はしている)扶桑軍はこの特殊部隊重視の方針もあり、一般部隊と特殊部隊の練度に天と地ほどの差が生じていた。これは政治的に多数の戦死者を出せない日本側の意向も含まれている。そのため、日本連邦が多国籍軍行動を好むのは、一般部隊と精鋭部隊との平均練度の差を誤魔化すためもあった。
「おかげで、一般部隊の練度は見るに耐えん。多くが訓練名目で本土に留め置かれてる有様だ。多国籍部隊で体裁を整えているが、実際は日本人の血を流させないために、日本政府が考えた方策だ。だから、それに対応していく必要がある。兵器も一騎当千を可能にするモノが必要になる。そのためのガンダムだ」
日本政府の予想を超えていることは『ラ級戦艦や歴代ガンダム、最新のマジンガーやゲッターを64Fが持つこと』である。この時に『派生機がたんまりあるのに、本式のゼータがない』というトンチンカンなクレームが防衛官僚から寄せられたため、Zガンダムの増加生産機を取り寄せる羽目になっている。ゼータそのものは元来、『エース専用のフラッグシップ機なので、軽装甲の傾向は容認する』方針で設計されたが、いざ実戦で運用されると、軽装甲が逆に仇になった場面が見受けられた。そのため、後継機種たちは機体強度向上に主眼が置かれた設計に移行していった。そのため、ガンダリウムの最新型『ガンダリウム・イプシロン』を使って新造し直すという方法が取られた。リ・ガズィが成功作でないと評されるのは、BWS(バックウェポンシステム)そのものの大きな欠陥もあるが、トランスフォームそのものが可変戦闘機の普及で結果的に成熟/普及したことで、コストカットのために試行錯誤された際の産物である『BWS』に固執する必要が無くなったからである。
「ゼータのオリジナルの同型が納入されたのは?」
「あれの半分は日本へのポーズだが、リゼルを使うよりはいい。ダブルゼータほどはピーキーでないし、アンクシャはアッシマーの後継機だから、形状がヒロイックではない。リゼルは所詮、『メタスになれるジェガン』に過ぎんからな」
「ZⅡ系を持って来なかったのはそれが?」
「大気圏内でウェーブライダー形態が飛行できんからだ。オリジナルのゼータ系は大気圏内の飛行を一応は考えている。それでだ。下手なジム系を持ってくるよりマシだ。敵の水準がマラサイやバーザムだとすれば、ジムⅢやネモ程度の性能はあるからな」
この時代には旧式化しているティターンズのMSだが、下手なジム系より頑強な装甲があるため、アニメと違い、旧ジオン系MSでは、エースパイロットでない限りは太刀打ちは出来ないとされる。ロンド・ベルの分隊を兼ねている64Fは、未来世界で過去の諸勢力の残党狩り(プリベンターの台頭で、組織全体が『不要』になり、解体されたマンハンターなどの特殊警察の残党も含む)も遂行している。その任務の性質上、本来の標準量産機である『RGM系』はあまり使われず、上位機種のZ系やフォーミュラ計画系、V系を持つ。ジム系にしても、好評であったものの、ジェスタが政治的理由で生産が縮小されたため、グスタフ・カールが代替機として回されている。デザリアム戦役後の連邦軍が配備を進める『ジム系の上位機種』がグスタフ・カールであったからだ。とは言え、同機は外観が『デブッチョ』なこともあって好まれず、実際には先行配備中のジェイブスB型(ヴェスバーが標準装備のジェイブスのマイナーチェンジモデル。ミッションパック方式が廃され、F91と同様のヴェスバーの標準装備に変更されている)が使われ、グスタフ・カールは予備機扱いであった。
「お互いに変わりましたわね」
「今でも学生なのは、マナとありすだからな。まこぴーはそもそも別世界人だからな…。お前は、今はなのはの世界で実家を継いでいると聞いたが?」
「ええ。今は元の世界では、親の会社を継ぎましたし、ありすの苦労がわかりましたわ」
四葉ありすはかつて、実家のコンツェルンの方針を決められる立場にあった。円亜久里/キュアエースも今はなのはの幼馴染兼親友である『アリサ・バニングス』が本来の姿であるため、元の世界では、大企業の新進気鋭の社長である。キュアエースに戻った後は軍役に専念しているが、本来は大企業の社長なのだ。
「魔法少女というのを、まさかこのような形(前世の記憶を得る)で叶えるとはな、お互いに」
「あなたはどうしてましたの?」
「10代の頃は学園都市にいた。卒業後は実家の航空会社を継いだ。継いだばかりだったんだがな」
ドキドキプリキュアのメンバーの内、二人は転生先で企業経営をしている。四葉ありすは転生先が武道の家元の家であるが、裕福であるのは変わりない。
「それでパイロットを?」
「実家の都合だったが、今では役に立っている。ゼータ系にも乗れるからな」
ゼータ系は航空機の操縦技能を必要とする。そのため、エースパイロット専用機種の体裁が強い。リゼルで敷居は下がったが、性能水準は高くない。その兼ね合いで、『MSZ~』系列の開発計画が存続していたのである。
「今は世論が軍に冷酷になったから、それを嫌う連中が民間軍事会社へ流れている。それを規制しようとしているが、止められまい。だから、誰がなんと言おうが、残ったエースパイロットを一箇所に集めているのだろう」
キュアダイヤモンドは日本連邦空軍の実情を冷静に分析する。民間軍事会社が相次いで設立され、部隊ごと人員が軍を抜ける例が後を絶たないため、司令部直轄の航空軍がどうしても必要であった事、アクの強い古参のエースパイロットらを束ねるには、源田実の『源田サーカス』時代の名声がどうしても必要だったのである。23世紀世界でも、民間軍事会社の肥大化を止めるには、『有事に民間軍事会社のエースパイロット部隊を軍役に従事させる』法律を作るしか方法がなかったのだから、日本連邦が対応に苦慮したのは当然の事であった。歴史的には宇宙時代にホワイトベース隊、アーガマ隊、ロンド・ベル隊、キマイラ隊などが続くために無駄ではないが、結果的に『エースパイロット部隊と一般部隊との練度差が大きい』風潮が根付いてしまったという点では、功罪入り交じる選択だと言えた。
――この当時の日本連邦空軍は参謀になるのに『実戦の飛行経験が豊富にある者』という条件をつけようとした世論が、実務の都合(例として、航空自衛隊出身者は実戦経験がない)に否定される事が続いていた他、出向中の坂本が同位体の日本海軍撃墜王のせいで誹謗中傷を受けるなど、当時の日本連邦航空部隊は世論の圧力で組織が回らない有様で、64Fが太平洋戦争で有効な唯一無二の航空軍という有様であった。困った日本連邦は一般部隊の訓練を促進するため、64Fの管轄地域に研修の名目で派遣するしかないという有様であった。64Fはその兼ね合いで、『未来兵器もバンバン使え』という異例の通達が出されていた――
「お前ら、こっち手伝ってくれ」
「シャーリー、どうだ?」
「参るぜ、見てくれ」
「ウルトラホーク一号ですか?」
「ああ。自衛隊が完成させたから、データ取ってくれってさ」
「合体分離機構はありますの?」
「21世紀の技術じゃ、実戦でできねーよ、あんなの。平時でもマニュアルだ。だから、オミットしたそうだ。その分、機体強度は増したんだが、アビオニクスの完成度がなぁ。改造すんから手伝ってくれ」
ウルトラホーク一号は合体分離機構をオミットして製造されたが、合体分離を前提にアビオニクスが組まれたのか、操作をミスすると、操縦桿が飛行中にロックされてしまう欠陥があり、二一世紀の軍需産業は納期を気にしたのか、それを放置したままで納入している。これに気づいたシャーリーはアビオニクスをコスモタイガーのものに取り替えて対応した。地球連邦軍で『ありふれた戦闘機』であるコスモタイガーのアビオニクスは21世紀中の航空機のレプリカにも載せられている。これは部品が多く、整備に手間がかかるヘッドマウントディスプレイが一年戦争で廃れ、ヘッドアップディスプレイに回帰していること、21世紀中のものとヘッドアップディスプレイの規格は基本的に変化していないからである。
「シャーリー、手慣れてるな」
「ナイトメアフレームとかに慣れてんから、それより簡単だよ、戦闘機のアビオニクスの改装は。規格は20世紀後半から基本的に変わんねーから」
シャーリーは21世紀の日本製の計器盤などを取っていく。2010年以降に日本国内で生産された航空機は将来の実戦運用を考慮し、整備性が特に上げられていた故に可能な芸当であった。
「しかし、コスモタイガーはどこのメーカーが作ったんだ?」
「ええ。ブラックタイガーとあまりに違いすぎますわ」
「真田さん曰く、基本設計は日本系の軍需産業が、製造は連邦宇宙軍工廠が初期、途中から各軍需産業の担当になったそうだ」
コスモ・ゼロが主力機にするには高価であるため、ブラックタイガーに代わる廉価な万能戦闘機として開発されたのがコスモタイガーである。コスモ・ゼロがエースパイロット用の少数生産に落ち着いたのに対し、コスモタイガーは『地球連邦軍でもっとも成功したマルチロールファイター』として普及している。後継機であるコスモパルサーの試作も進んでいるものの、コスモタイガーが当面は主力を担うとされている。(22世紀後半以降の戦闘機の就役期間の最短記録は、就役からたった四年で完全に退役したレイヴンソードがそれにあたる)
「23世紀の戦乱の時期には兵器の入れ替わりが激しいから、四年で完全に退役した戦闘機もザラにあったみたいだ。だから、幾度とない戦争で地球連邦軍の空母機動部隊の一翼を担ってるコスモタイガーが如何にすげえって奴だ」
コスモタイガーはデザリアム戦役でも戦功を立てている。通常戦闘機としては、ここ数十年で最も成功した機種だろう。ブラックタイガーが短命で終わったのと対照的に、新野比家の地下格納庫にも複数が置かれるなど、普及度が高い。実は大気圏内での機動性はブラックタイガーに譲るが、スピードや火力がブラックタイガーの比でないため、『重戦闘機』的な運用がなされている。とは言え、それは同時代の戦闘機比の話で、総合的な機動性は二一世紀の如何な戦闘機よりも上である。生産機数が多いので、部品取りに使われるものも膨大である。
「いいのか?コスモタイガーの一機をバラして」
「エンジンがお釈迦になって、部品取りに使われてる奴のものだから、問題ねーよ。コスモタイガーは『ありふれた戦闘機』だから、最近は辺境にも配備されてきてんだ」
「コスモタイガーって、そういう扱いですの?」
「初期型ベースの三座型が消耗したから、新コスモタイガーの生産を促進させることになったみたいで、旧型の単座タイプは余ってんだと」
コスモタイガーは大まかに、白色彗星帝国戦役の際に使われた『ショートノーズ』の初期生産型、レーダーを新型にし、機体構造を強化し、デザリアム戦役まで使われた『ロングノーズ』の中期型、エンジンを次世代型に換装、アビオニクスと武装を併せて更に強化した後期生産型『新コスモタイガー』に分けられる。ロンド・ベルは新コスモタイガーを早い段階で受領していた部隊の一つである。なお、新コスモタイガーで主に用いられ、有名となる『機体上面を濃緑色、下面を明灰白色で彩る』日本海軍風のカラーリングは宇宙戦艦ヤマトの艦載機部隊で独自に定められたものが軍に制式採用されたもので、他は赤茶色であったり、ネイビーブルーだったりしている。シャーリーがバラしたのは、エンジンが壊れたのと、機体の飛行時間が膨大になり、用途廃止になった機体のものだが、アビオニクスは新品同様であるため、ウルトラホークの改造に使われたわけだ。
「自衛隊への通達は?」
「欠陥の放置で納入しやがったから、メーカーに直接、抗議を入れたよ。あのままじゃ、新兵のせらんねぇよ。直に黒江さんが帰投してくるから、報告しとく」
こうした苦労が遠征軍の台所事情の表れである。航空自衛隊はウィッチ世界で戦功を立てることで保証される『金鵄勲章と、それに付随する莫大な金額の年金』目当てに出向を志願する自衛官の続出に困惑中だったが、日本連邦軍の参謀として必要な資格として検討されている要項を満たすために必要とされた事もあり、志願者の扶桑行きは認めている。航空自衛隊は2010年代前半の『ロシアとの戦争』を経験したものはごく一部しかおらず、扶桑軍も実戦経験者を新規に航空参謀にする事が憚れているなど、参謀を担う人材の不足が深刻化している。それ故に自由リベリオン軍を主力にしたというのが実際の所。日本人が大喜びな『将官の現場での指揮』は弊害もかなり多いが、大衆受けする事項なのは事実なので、対応に困っているのが連合軍の実情であった。