ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第二百六十七話「幕間その10 ゴールドシップとタマモクロスの真意とは?2&日本連邦の極秘選択」

――結局、日本は内外で不祥事を重ね、扶桑への介入にかまけるわけにはいかなくなったため、太平洋戦争への政治介入は収まった。扶桑はそれを見計らうかのように、反応兵器を続々と武器庫に運び入れた。扶桑は敵が原爆を投下してくることを当初から想定していたためだ。核兵器の弊害が知れ渡ったのは、史実でも1970年代以降であるからだ――

 

 

――日本連邦評議会――

 

「それはありえないのでは?」

 

「軍事的には、充分にありえる事は申し上げます。敵は原爆を戦略爆撃機を使い、南洋のどこかに落とすことはありえます。本土が無理ならね」

 

「馬鹿な、費用対効果は……」

 

「街を吹き飛ばす威力は、軍事的には大いに魅力なのです。そちらの世界で、京都に三発目の原子爆弾の照準が合わせられていたように」

 

ウィッチ世界では、怪異への効果が疑問視されたため、表向きは『早い段階で放棄された』原子爆弾だが、実際には扶桑との戦争で使用する前提で、フランクリン・ルーズベルトの極秘指令で『リトルボーイ』が完成されていた。トルーマンも二発目(ファットマン)を用意していたわけで、こうして、怪異対策を名目にしての核兵器開発を進めていた事が明るみに出た。扶桑はそれらが使用された場合、東海岸の都市のどこかを未来における核兵器の後継である『反応兵器』で以て、『跡形もなく』消し飛ばす形での報復を取るつもりである。

 

「そうなった場合は、我々は何かしらの形で報復措置を取る事を通告いたします。軍事上の情報管理の関係で明かすことはできませんが」

 

「報復ですと?」

 

「ええ。国民感情的に、それはしなければならないのですよ。『目には目を、歯には歯を』というでしょう?」

 

「うぅ…む」

 

「あなた方の時代より、扶桑の国民感情は分かりやすく生ずるのでね。日比谷が焼き討ちされても困るのですよ。激昂性があるので」

 

 

扶桑の武官たちは『扶桑人は日本人が敗戦で捨て去った激昂性を持つ』ため、国民感情的な都合と問題で、原爆には『それ相応の報復』をしなければならないことを通告した。目には目をの理屈だが、『速やかな報復』は1940年代の国際常識では当然のことであった。その内容は防諜を名目として、日本側には明かされなかったが、それが核兵器の遥か未来における『後継兵器』であり、核兵器のネガを潰した発展型の『反応兵器』とは想像だもしないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――2021年の晩夏――

 

ゴールドシップとタマモクロスの共謀により、ウマ娘たちはゲッターロボの操縦ライセンスを取得させられる流れになったが、ゴールドシップの目的である『ヒーローユニオンや地球連邦軍にノビスケを守らせる事の確約を引き出す』という事は無事に達成された。ゴールドシップ一流の演出であった。神隼人の計らいで、(初代チームの活動再開で手空きになった)二代目ゲッターチームが滞在する事になった。一文字號はナリタブライアンやゴールドシップ、タマモクロス、トウカイテイオーとつるみ、橘翔はシンボリルドルフの相談役になり、大道剴は前職でもあったメカニックの仕事をし、スーパーカー好きのマルゼンスキーと仲良くなっていた。

 

 

「馬鹿な……!ウマ娘である私が……腕相撲で押されているだとぉ!?」

 

ナリタブライアンは一文字號と腕相撲をしてみたが、彼女のほうが押されていた。號は元々、砲弾を野球のボールのように投げられる怪力の持ち主で、高校時代に恐竜帝国の攻撃に巻き込まれたために実家が困窮。一時は闇プロレスの不敗のチャンプとして名を馳せていた時期もあるほどの超人であり、なおかつ竜馬と並ぶほどの『適性』を持つ。また、世界によっては真ゲッターロボを『神ゲッターロボ』に昇華させられるほどの闘志を持つため、ナリタブライアンが驚愕するパワーを秘めていた。號は生物学的な差を覆しつつあった。

 

「わりーな。おりゃ、真ゲッターのフルパワーを制御してきてんだ。サラブレッドのエリート様とは、潜ってきた修羅場がちげーんだよ!」

 

ナリタブライアンは號の力がウマ娘である自分をも超える事が信じられないようだ。號はウマ娘とヒトの間に横たわるはずの能力差を覆し、腕相撲で勝ちそうになる。

 

「ちょっと!ブライアン、何してんのよ!押し返しなさいよ!!」

 

腕相撲で手加減をしているように見える、ナリタブライアンを煽るナリタタイシンだが…。

 

「わかっている!!だが……!」

 

ナリタブライアンほどのウマ娘になると、人間が車で引っ張るしかない重さのトラックを単独で引き上げられるのだが、號クラスの超人はそのナリタブライアンを更に超えられるわけだ。號がゲッター線に選ばれし存在である事を差し引いても、異常な力であった。ナリタブライアンが冷や汗タラタラになりながら、『お前は何者だ!?』と絶叫した時点で、號は勝利を確信した。

 

「二代目ゲッターチームの筆頭格だ!コノヤローめ!」

 

號の左腕がナリタブライアンの右腕を机につかせた瞬間、タイシンは驚愕のあまりに固まり、ブライアンは現実を受け入れられないと言わんばかりの顔を見せる。

 

「馬鹿な……!?私は三冠ウマ娘なんだぞ……!?」

 

「腕相撲くれーで現実逃避かよ。三冠とやらの冠が泣くぜ」

 

「……お前!!」

 

「ぶ、ブライアン!!」

 

激高したブライアンは我を忘れ、本気で拳を見舞ってしまった。タイシンは止めるのが間に合わないため、思わず目をつぶる。血を見るのは間違い無しと見たからだが。

 

「……なかなかのパンチじゃねーか。筋は悪くねぇが……腰が入ってねーな」

 

「……なッ!?」

 

「嘘……でしょ!?ブライアンの全力を受け止めた…!?」

 

本気になったウマ娘のパワーは人間のヘビー級チャンプ級のボクサーのパンチをも超える威力であり、ウマ娘たちは成長の過程で『パワーの加減』を覚える。この時のブライアンは激昂していたため、普通の人間なら病院送り確定の一撃であったのだが、號は左の手のひらで受け止めていた。しかも、號自身は涼しい顔のままである。普通のセダンタイプの乗用車のフロントが大きくひしゃげるほどのパワーであったのに、だ。

 

「嘘でしょ……。車のボディがひしゃげるくらいの力なのよ!?アンタ、なんともないわけ!?」

 

「こちとら、闇プロレスで不敗のチャンプだったんだよ。ルール無用のデスマッチって奴でな。そのくらいなら屁でもねぇ」

 

號は涼しい顔である。元々、恐竜帝国に家族の暮らしを壊され、両親は死亡。四歳下の妹は行方不明になり、號がゲッターロボで戦うようになった後に記憶喪失状態で発見された。なお、名は『渓』とのことで、世界によっては號と恋仲になったり、橘翔の立場を担う場合がある『渓』という人物の同位体である事が示唆されており、神隼人をして瞠目させたという。ドラえもん世界では號の『血の繋がる妹』であった。號はナリタタイシンのツッコミにも平然としている。號はゲッター線に選ばれていることも考えても、明らかに『オカシイ』。(一文字號は殴り合いでも、流竜馬と互角に渡り合える唯一の後輩である)

 

「鬼や改造人間共とドンパチしてきたからな、俺達は」

 

號は、人間が肉体を鍛えることで得られる能力の極限を体現する一人である。デフォルトの能力が多少優れているだけでは、とても並び立つ事はできないのだ。

 

「バカな……それだけで私達を超えるなど……」

 

「それがうぬぼれだってんだ。種族の違いなんぞ、気合でどうにでもなる」

 

號は爬虫人類を素手で殺せるため、その一言は実体験に基づく。衝撃を受けたブライアンはこの出来事以降、トレーニングに本気で打ち込むようになる。後日、話をナリタタイシンから聞いた『スピカ』のトレーナーは驚天動地になったという。號は闇プロレスと陸上選手であった経験則から、体の正しい鍛え方と使い方を知っていたためか、この日、シンボリルドルフに請われ、ウマ娘達の臨時トレーナーを引き受けることになる。

 

 

 

 

 

 

――號、翔、剴の二代目ゲッターチームはシンボリルドルフの要請により、ウマ娘の臨時トレーナーを引き受けた。グラスワンダーがそうであるように、一定程度の護身術を身に着けている者もいるが、身体能力だけでは、どうにもならない。ウマ娘たちの中では乗り気でないナリタタイシンであったが、護身術の必要性は痛感していたため、参加自体は真面目であった。そして、橘翔の手ほどきで居合術を身に着け始める。グラスワンダーは護身も兼ねた薙刀を持っているが、薙刀は扱いが難しい(ウマ娘の能力を以ても、である)ため、体格が小柄であるナリタタイシンは剣術を選んだわけだ。また、ノビスケの影響と大道剴の薦めで、サッカーを始めていた――

 

 

 

 

――ウイニングチケットやゴールドシップから、スペシャルウィークたちへ送られたメールには、トレーニング風景が写っていた。パワートレーニングがすごいもので、70トンもあるティーガーⅡ戦車を人力で引っ張るというもので、ゴールドシップやウイニングチケットも必死の形相で引っ張っているのがわかる。ゴールドシップをして、息も絶え絶えであるため、流石に70トン級の重戦車を引っ張る事は難行であった。――

 

 

 

 

 

 

 

――トレセン学園 寮内――

 

「な、なにこれぇ!?」

 

スペシャルウィークは腰を抜かした。ウイニングチケットとゴールドシップが青色吐息寸前の顔で戦車を引っ張っている写真が送られてきたからだ。

 

「ケーニッヒティーガーじゃないですか!よく残ってましたね…」

 

食堂でスペシャルウィークが食事を取っていたところ、エイシンフラッシュが話に入ってきた。スペシャルウィークは結局、キングヘイローを見つけられずじまい。グラスワンダーとエルコンドルパサーに連れ戻されたわけだが、留守にしているゴールドシップから送られてきた写真や動画は衝撃であった。

 

「エイシンフラッシュさん」

 

「大戦中のドイツ軍の重戦車ですが、70トンあるんですよ、これ」

 

「な、70トン!?」

 

「ウマ娘でも、それだけの重量物は単独では引っ張れません。しかも、戦闘重量のケーニッヒティーガーを引っ張るのは……骨ですよ」

 

「えぇ!?」

 

ゴールドシップとウイニングチケットはG1級レースで名を馳せる一流のウマ娘だが、その二人が二人がかりでも、ケーニッヒティーガー(ティーガーⅡ)を引っ張るのは骨なようで、青色吐息の顔である。

 

「あ、次の動画は……。ぐ、グラスちゃぁん!!エルちゃぁん!!」

 

大慌てのスペシャルウィーク。呼ばれた二人がエイシンフラッシュと共に、スペシャルウィークのスマホを見たところ……。

 

「えぇ!?」

 

「な、なんデスカ、これはぁ!?」

 

二人もスマホの映像に釘付けになる。居合術の修行をするナリタタイシン。サンドバッグに向けてのパンチングで汗を流しつつ、プロレスで臨時トレーナーの男性(號)に挑むナリタブライアン、ウマ娘として怪物とされるマルゼンスキーに普通に追従する軍服姿の女性(翔)、オグリキャップと互角にやり合う巨漢の男性(剴)の姿も写っている。

 

「ぶ、ブライアン先輩相手に有利に戦えるなんて、どうなってるデスカ!?」

 

「あ、ゴールドシップさんからの添付メールだ……。何々……」

 

「『タイシンの奴、受け入れ先の大家の子供になつかれてな。その子のおかげで、物腰が柔らかくなったよ』ですって」

 

「タイシン先輩、子供好きじゃなさそうに見えたけどなぁ」

 

「ワタシもデス」

 

「タイシン先輩、家庭環境が災いして、周囲に反発するようになったと、ハヤヒデ先輩から聞いたことがあります」

 

「私もです。ハヤヒデ先輩がそのように言ってましたし、チケット先輩が」

 

エイシンフラッシュとグラスワンダーが同時に頷きあう。また、タイシンがゴールドシップ相手に一歩も引かず、むしろ翻弄した事は有名である。また、子供は好きでないような素振りを見せていたとも言われるあたり、担当トレーナーも『信頼を勝ち取る』のに相当に苦労を強いられたのが窺える。そのタイシンが短時間で心を開き、一緒にゲームをする、サッカーを始めるなどの精神的影響を与える点で、ノビスケはのび太としずかの『人たらし』をより強化された形で受け継いだのだろう。タイシンは元来、子供嫌い(子供の頃に嫌な思い出が多いためか)であったが、ノビスケは野比家の男子で唯一、ガキ大将(のび太を含めた他の歴代当主は有史以来、何故かいじめられっ子である。それが緩和されるのはノビスケ以降の代からだが、ノビスケのように、ガキ大将になった者はセワシの曾孫であるノビタダに至るまで、全く出ていない)であった事、気質がタイシンに似ていたこともあって、シンパシーを感じ、なついた。タイシンも流石に小学低学年の児童相手では、普段の刺々しい態度は取れない事はわかっていたため、ぎこちないが、彼女なりに優しく接した。それがタイシンの心に余裕を生み、課題であった周囲への接し方が改善する効果を生んだ。また、一文字號という『人間なのに、ウマ娘を超える身体能力と超人的頑強さを持つ』者にライバル意識をナリタブライアン共々に抱いたことで、実は『もう限界だろう』とされていたウマ娘としての能力の伸び代が開拓されたため、いい事づくしであった。

 

 

 

 

 

――また、この暮らしでタイシンは、(二学年先輩にあたる)のトウカイテイオー(実はBNWの面々は世代的に、スペシャルウィークらの『黄金世代』とトウカイテイオー、メジロマックイーンらの世代の間に挟まる『狭間世代』であり、スペシャルウィークらの先輩だが、トウカイテイオーとメジロマックイーンの後輩である。『よく似た平行世界』と異なり、トレセン学園の入学年次が一部除いて、世代分布が競走馬としてのものに近いものの、ゴールドシップがどの学年かは不明である)と時たま組むようになり、ゴールドシップの薦めで、自分らの世界では一般に知名度はないものの、マニアの間では有名な『HEATS』をライブで歌うことにした事がメールに書かれていた。ウマ娘競争協会もキングヘイローの騒動のせいで、地方と中央の確執が表面化。政権交代を余儀なくされ、シンザン時代を迎えるため、協会の音楽部の活動資金も削減される見通しであるため、ライブで既成の曲を歌う事が増え始める。ただし、さすがのシンザンも就任後、下の世代の突き上げに遭い、『既成の曲と協会オリジナル曲を組み合わせる』ことに軌道修正していく。とはいえ、たった数曲のためにステージをわざわざ特設する事の意義が世論から問われていたため、五曲前後は歌うこととなる。そのため、既に存在する協会オリジナル曲と既成の曲を組み合わせることになる――

 

「皆さん!ウマッター(ウマ娘世界のTwitter)で話題になってますよ!」

 

「どうしたんですか、エイシンさん」

 

「これを!!」

 

エイシンフラッシュが一同に見せたウマッターには『シンボリルドルフ生徒会長、キングヘイロー失踪事件の責任を取り、今学期いっぱいでの辞任を表明!』というニュースがトレンドに並んでいた事、後任にはエアグルーヴの昇格ではなく、トウカイテイオーが信任されており、理事長も就任を容認したという内容であった。この政権交代で、チーム戦『アオハル杯』の開催の当面の間の延期が決まった事も報じられていた。

 

「会長さんが辞任!?」

 

「キングちゃんの失踪事件が大事になりましたからね…。会長の管理責任を問う声があったのでしょう。後任人事で介入がないように、信頼するテイオーさんを生徒会長に推したんでしょう」

 

「エアグルーヴ先輩はショックでしょう。自分に相談なしに、後任人事を決められたのデスから」

 

「TVで儀式をされた上、テイオーさんも就任の覚悟を決めてましたから。ただ、テイオーさんは実績が会長より落ちます。どうするつもりでしょうか」

 

「春秋シニアの三冠を取ることで、協会の幹部や世論を納得させるそうです。テイオーさんには、その道しか残されていませんから」

 

「エイシンさん、これからどうなっていくんですか、トゥインクルシリーズは?」

 

「……わかりません。ですが、ルドルフ会長が退かれることで、トレセン学園の生徒会もメンバーが少なからずは入れ替わるでしょう。記事によれば、副会長候補として、マックイーンさんとナイスネイチャさんが取り沙汰されるているようです」

 

「会長さん……」

 

「会長も今回の責任は取らざるを得ないでしょう。その回答が後進へ道を譲る事なのでしょう」

 

テイオーは年齢的に既にシニア級である。クラシック級の一年を、度重なる怪我で棒に振ってしまった関係で、残されている道はシニア級三冠を取ることで、会長職に相応しいだけの実績を得ることのみだ。生徒会長職は最低でもダービーウマ娘である事が要求されるが、マルゼンスキーの時代は(資格なしのはずのマルゼンスキーがあまりに強すぎたため)該当する適任者は無しとされ、シンボリルドルフの台頭まで、トウショウボーイが任を勤めている。この事でマルゼン世代が『悪夢』というべき冷遇を被った事が、ドリームシリーズの創設に繋がった。だが、ドリームシリーズは『盛りを過ぎた功労ウマ娘のための一種の興行』という面が強かった。ドリームシリーズの常設化・完全なリーグ化が決まったのは、オグリキャップの時代に表面化した『地方と中央の確執』を沈静化させるためでもあり、完全に引退しなくていいと、ウマ娘たちの進路を拡張させる狙いがあった。プレストウコウやハードバージの不幸が世論を動かしたわけだ。また、マルゼンスキーやオグリキャップ、フジキセキと言ったクラシック級レースに出られなかった『世代の代表格』たちに対決の場を与え、世論へ『説得力のある答えを提示する』狙いもあった。

 

「ルドルフ会長は本当にテイオーさんに?」

 

「テイオーさんが行っている世界のマラソン大会で『継承の儀式』を非公式に行ったそうです。エアグルーヴ先輩は取り乱してます」

 

「そうでしょうネ。相談なしに決められた上、まだまだ、お子様扱いしていたテイオーさんが会長の後釜に決まるというのは……」

 

エアグルーヴはあまりの衝撃で意気消沈している事、テイオーに生徒会長が務まるのかという心配で食事が喉を通らないという取り乱しぶりである事が噂になっていた。テンポイントやグリーングラスと言った偉大な先達には気を使い、メディア向けの生徒会の声明の取りまとめなどもあり、最近は疲労困憊であった。

 

『エアグルーヴ先輩が倒れたぞ!!』

 

『誰か、担架を!!急げ!!』

 

エアグルーヴは無理を押して激務をこなしていたが、ついに肉体が限界を迎え、食堂で倒れてしまったのだ。

 

「エアグルーヴ!!…すごい熱……あなた……まさか…!」

 

友人のサイレンススズカが駆け寄り、倒れているエアグルーヴのおでこを触ってみるが、すごい熱である。

 

「スズカ……わた……」

 

「何も言わないで、エアグルーヴ。わかってるから……」

 

「私は……あの方の……」

 

ルドルフの役に立てなかった事を嘆き悲しむエアグルーヴ。熱にうなされながらのうわ言だが、半分は本音である。サイレンススズカはエアグルーヴの悲しみを理解し、運ばれてきた担架に乗せてやる。そして、うわ言で『お母さま……』というのを聞いたスズカは保健室まで付きそう事にする。

 

「スズカさん、エアグルーヴ先輩は…」

 

「スペちゃん。エアグルーヴを保健室まで運んでくるから、スペちゃん達は野次馬の整理をお願い」

 

スズカはエアグルーヴの同期であり、一時はチームメイトだった経緯がある。お互いに実力を認め合う仲であり、放ってはおけなくなったのである。スペシャルウィークらはその言葉に応え、野次馬を散らす。エアグルーヴが倒れたため、その代理はスペシャルウィークやナイスネイチャが務めるようになり、その内のナイスネイチャは体制の代替わり後に本当に抜擢され、副会長補佐という役職につくこととなる。エアグルーヴはこうして、保健室で寝込む羽目となったが、母・ダイナカールが看病した幼き日の夢を見、夢の中で母の手を握っていたのだが、実際には、保健室まで付き添ったサイレンススズカの手である。スズカは校医などに口止めを依頼する。女帝と言って誇り、プライドの高いエアグルーヴが知れば、生き恥と思う事をよく知っていたからで、心配して、保健室に駆け込んできた、エアグルーヴを強く慕う後輩『メジロドーベル』にもその旨を伝えておくスズカであった。

 

 

 

 

 

――トゥインクル・シリーズはテイオーの生徒会長就任が取り沙汰される頃には、『黄金世代』(98年世代に相当)も盛りを過ぎ、次の世代であるテイエムオペラオー以降の新世代が台頭し始めていたし、ビワハヤヒデはターフを去る。黄金世代も、グラスワンダーはもはや盛りを過ぎていた。エルコンドルパサーとスペシャルウィークがトゥインクル・シリーズのターフを去ったことで『燃え尽き症候群』に罹患。レース成績が低迷していたからだ。グラスワンダーの成績低迷は結局、チーム・リギルの終焉の端緒となり、同時にチーム・スピカの中興の始まりとなる。『東条ハナ』トレーナーはグラスワンダーとナリタブライアンの低迷の責任を取らされたわけだ。(特にナリタブライアンはルドルフ超えも期待されていたが、結局は不可能になった事からの批判が大きかった。結局、ナリタブライアンの後の三冠ウマ娘はテイオー体制下で『ディープインパクト』が入学し、キタサンブラックの一期後輩として台頭するまでは出現せずじまいであるため、ナリタブライアンへの期待度が大きかった事がわかる。)ブライアンとグラスワンダーはスピカに移籍となり、更に後日にはエルコンドルパサーも移籍扱いとなる。リギルという体制そのものは生徒会の抵抗もあって存続するが。メンバーの大半が移籍させられ、残された実力者とされる『ミスターシービー』ももはや、実力的に『全盛期であっても、ルドルフより格下でしかない』と軽んじられる存在である――

 

 

 

 

ミスターシービー。三冠ウマ娘でありながら、協会からも軽んじられるウマ娘。それ哀れだが、現役時代にルドルフに一度も勝てず、従姉のトウショウボーイからも『才能の限界』を見抜かれ、その点では見限られている。それはミスターシービーの最大のトラウマである。ミスターシービーは協会を見返し、従姉に『自分はまだまだ戦える事を見せなければ』という事に因われていく。本来、ミスターシービーはシンザン以来の三冠ウマ娘であり、シンザンの次子であり、正統後継者『ミホシンザン』に引導を渡す一因を担うなど、シンザンの栄光の残光を消し去り、シンザンの影を払拭させた功労者でもあるが、一年後輩のシンボリルドルフが台頭し、七冠を達成してしまった事、ルドルフが全盛期に入った頃には、ミスターシービーは既に盛りを過ぎつつあったため、まるで勝負にならなかった事はミスターシービーの評価に影を落としている。表面的には飄々としていながら、内心ではルドルフともう一度戦い、トウショウボーイの正統後継者であることを示したい、従姉を見返したいという闘志が燃え上がり、彼女はもう一度、自分の脚を信じることにする。トウショウボーイと同じ血を継ぐ者として。別世界ではトウショウボーイの実子であったウマ娘として…。彼女はドリームシリーズへの登録をするつもりであったが、もう一回だけトゥインクル・シリーズを走る事にする。そのレースは天皇賞(春)…。かつて、自らが敗れ去ったレースであった。

 

 

 

 

 

 


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