――ゲッター線の超常性。それは既に各勢力に周知されていた。無機物であるはずのゲッターロボGを真ゲッタードラゴンに進化させ、最終的にはゲッターエンペラーに到達させるという点は注目されるべき要素である。マジンガーZのプロトタイプをマジンカイザーに進化させた時点で、周囲を瞠目させたゲッター線。その進化はプリキュアであろうとも例外ではなかった――
「こっちのお前はゲッター線を浴びている。それも高濃度のやつをな。それが発端になる形で身体の変化が本格化してな。で、マジンガーとの融合で完成した。戦闘力と闘争心の観点からすれば、お前はあいつの100分の1くらいだろうよ」
「どうして、そんな事を判断できるの?」
「スペックが違うんだよ、スペックが。四肢欠損も治る自己再生能力、技の威力は地形を変え、武器も多種多様なのを自前で呼べる。格闘技も炎出せたりすんのを身につけてる。転生先での都合もあるが、タイマンじゃ、バケモンだな。もっとも、もっとすげえのいるから、目立たないほうだけど」
「えぇっ!?」
「55mも上から生身で飛び降りて、平然としてるような人外がいるようなとこに身を置いてるからな。根本的にヒトより頑丈な異種人類を素手で撲殺できるのも、一人や二人じゃねぇしなぁ」
「な、なにそれ」
「人外魔境としか言えねーよ…」
ロンド・ベル隊、とりわけスーパーロボ乗りたちは根本的に『物理法則通じない』系のパイロット揃いである。さらに、ガンダムファイターは『生身のほうが強いだろ』疑惑も根強い。また、プリキュア達もヒーロー達の中では比較的に下位(仮面ライダー達はライダーシンドロームで奇跡を容易に起こせるため)に位置する。
「おまけに、あたしたちは根本的にヒーロー達の中じゃ下位なのよな。ピンで悪の手から地球を守ってきたのが当たり前だからさ」
「ああ。日本は『仮面の忍者 赤影』や『ライオン丸』、『変身忍者嵐』の時代から、ヒーローがいたというしな…」
「え~!?」
「だから、平成に生まれたプリキュアは新参なのだ、この界隈ではな。敵は平行世界を股にかけて活動している。エターナルやナイトメアの比でないほどの規模でな。単なるナチ残党ではない」
「あいつらは何なの…?」
「奴らはこう自称している。神に愛されし者……と」
「神に愛されし者…!?」
「日本神話のスサノオ。それが奴らの大首領。そして、奴こそがアドルフ・ヒトラーを裏で操っていた黒幕だ」
キュアダイヤモンドは明言した。大首領が日本神話でのスサノオノミコトであり、絵描き崩れであったアドルフ・ヒトラーを世界征服に奔らせた黒幕であると。そして、大首領はいくつかの仮の姿を持つ。その内の一つが1930年からの10年間に記録がある『チェン・マオ』というチベットの魔術師なのは有名な話だ。
「そんな連中が今回の黒幕だ。お前には、荷が重い相手としか言えんよ」
キュアダイヤモンドはそういったところでは冷静な判断を下す。組織の者たちの相手は『B世界のキュアドリームには荷が重い』と断じた。B世界のドリームは改造人間だけでなく、超人にも太刀打ちできないからだ。
「それじゃ、ダイヤモンドとメロディは?」
「手数はあるが、決定打とは言えん」
「同じく」
「何それ……」
「決定的な技を持ってないということだ。こちらのお前は必殺技と言えるものだけで、いくつもあるからな。ギャグ補正を持たない場合は死ねるものを」
キュアドリームAはプリキュアとしては四種だが、それに縛らなければ、多種多様な技を身に着けている。先行するキュアフェリーチェも、プリキュアという枠組みに囚われずに特訓した結果、『シャインスパーク』と『ストナーサンシャイン』という絶対的切り札を得ている。大衆の『先入観の強さ』はプリキュア達の戦いに実際に悪影響を及ぼしている。優しさよりも、激しさが必要な時はあるのである。
「優しさよりも激しさが必要な時ってのは、必ずあるもんだ。全部の存在とはわかり合えないしな。倒すべき存在ってのはいる。それに、世の中ってのは優しいどころか、残酷だ。こっちのお前の転職がダメにされたように、な。大人の世界はお前が思ってるほどは優しくないんだ」
「ああ。どこの世界にもあるのが、『大人の事情』を押し付けてくる連中だからな」
二人はそれぞれが別々の理由で『大人の事情』に苦しめられた経験があるからか、切実であった。キュアダイヤモンドは『サンジェルマン』であった頃に、キュアメロディは『アネモネ』、『紅月カレン』、『麦野沈利』の三通りの人生で、それを散々に味わっている。
「お前はお前なりの道を選べ。だが、一つの結果としては、心に留めておいてほしい。こちらのお前がどうして、それを最終的に選んだのかを」
のぞみBには残酷かもしれないが、二人はのぞみAの辿った道を教え始める。大人の事情も多分に絡んでいるため、本人の望んだ道は必ずしも選べなかった。その重みも含めて…。
「私達がついた商売というのは、万人に受け入れられるものではないからな。特に日本では」
「アメリカと違って、体育会系の脳筋みてぇに見下される事も多いからな。それに因果応報って場面にも出くわす事あるしな。こっちのお前、コロニー落としとか、毒ガス注入を止めたしな」
ジオン残党はデザリアム戦役では、連邦が混乱状態なのをいいことに、コロニー落としや反ジオンであったコロニーを毒ガスで皆殺しにしようとするなどの蛮行もしっかり働いている。連邦がサテライトシステムや波動砲を量産するのも無理からぬことである。
「過去の戦争が自分たちを否定したからと、その戦争に関係していない者たちをも殺そうとする輩が多い世界に身を置いているからこそ、こいつらを動かすことになった。皮肉なことだが、戦争を止めるには強大な力が必要なのだ」
「ああ。戦中の日本海軍が戦艦大和と戦艦長門を拠りどころにして、アメリカが核の力で20世紀後半から平和を保ってきたように、強大な力ってのはいるもんさ。そういう考えで、マジンガーも生まれたしな」
核ではない強大な力を求めた日本が行き着く先が波動エンジンであり、ゲッター線、光子力などの超エネルギーの制御という点はなんとも言えないものがある。なお、ここで言う波動エンジンはタキオン粒子の制御技術の到達点である『タキオン波動エンジン』のことで、反地球(ガイア)の次元波動エンジンとは似て非なるものである。
「逆に言えば、あたしらは一度は世界を守ったからこそ、敵に狙われてるし、一箇所に集められたようなもんだな……」
プリキュアオールスターズの半数近くが集まりつつあったこの頃、単純に現役時代の能力を行使するだけでは、敵に手もなく捻られることが常態であったためもあり、転生先で得ていた技能を応用するなどして、戦闘能力の補強が図られているが、得手不得手もあるため、どうしても古参世代が多めになる。
「つぼみやえりかは正面切っての戦闘メンバーからは外れるし、かと言って、スマイル以降の連中は虫食いみたいに欠員が多くてなぁ」
ハートキャッチは追加メンバーのほうが基礎能力が高い特徴がある(転生したとは言え、花咲つぼみは頭脳労働担当なので、あまりパワーアップはしていない)。スマイル以降は欠員が多い状況であり、ホイップまでの歴代ピンクはいるが、それ以外のメンバーに欠員が多い。とは言え、SS、5、フレッシュ、ハートキャッチ、スイート、ドキドキ、魔法つかいは全員が揃ったため、充分に『スターズ』とは言える状態ではある。とは言え、太平洋戦争の最中であるため、全員を連れて行けるわけではない。留守番も大事なので、メンバーは選抜されている。
「でもさ、どうして、メロディはそんな喋り方なの?」
「転生してるんだぜ?そりゃ、昔とキャラ違うの当たり前だろ?別人として過ごしてたし」
「同じく。中には、目的ごとに口調も変えてるのもいるがな」
キュアコスモは元々が怪盗であったため、いくつもの口調を声色とともに使い分けている。アグネスタキオンはお互いに感応し合う『同位体』である事もあり、比較的容易に真似られるようで、以前に一回、口調を試した事がある。
「お前は口調と態度が荒くなった程度だな。攻撃性が強まったと言えば、それまでだけど、姉御肌の日本軍将校がベースにしては、現役当時と大差ないくらいに、よく収まったもんだ」
キュアメロディも自覚しているが、性格の基本はシャーリーのそれを保ちつつ、紅月カレンのガサツさと麦野沈利の攻撃性が発現している。キュアドリームAの場合は錦の面倒見の良さと闘志が元にプラスされ、レントン・サーストンの純情と一途さも加わっているため、結果的には、現役当時より『大人になったが、総じては荒くれ者気味に寄った』程度の変化で収まった。
「なにそれ~!」
「アタシに言うなって。最近はみらいが忙しいから、はーちゃんの面倒見てんだぞ、お前」
「え~~!?」
「みらいはリコとモフルンがいないと、変身できねえだろ?その関係だよ。おまけに、あいつは魔法使えるかんなー。イベントとかに引っ張りだこなんだよ。おまけに、ここ5年以内のプリキュアだから、若い連中の知名度もまだ高いし」
キュアメロディはみらいが多忙な理由を話す。朝日奈みらいとしては、大学の国際学部に行き直している(大学生時に巻き込まれたため。蘇生措置の都合で、外見は現役当時に戻っていているが、精神的には大学生である)上、身辺警護の意味もあって、空軍将校になったためにイベント出演は控えているほうだが、比較的近年に活躍し、ファンが多めのプリキュアであるため、どうしても依頼が多いのだ。
「ここ5年?」
「そっか、お前には残酷だけど、あたしらの活動拠点の一つは2021年なんだ。この時代から13年後の世界だ」
「じ、十三年!?」
「そ。普通に年食ってりゃ、お前はアラサーだよ」
「あ、アラサーぁ!?」
2021年には、1993年生まれののぞみは30代が目の前の年齢に達する。地味にショックな一撃にしょげかえるのぞみBであった。
――ダイ・アナザー・デイ以降、軍隊への社会的優遇策が日本の意向で廃止、もしくは代替措置の模索に向かい、軍人を名士扱いする現地の風潮も払拭され始めた事もあり、軍への志願数は総じて低下していっている。日本側の軍、とりわけ高級将校への悪感情が強いため、扶桑軍の人事も日本の意向が強く働くようになり、『史実で有能とされる将校しか要職につけない』という誤解が生まれ、クーデターの一因になった。加えて、太平洋共和国のご機嫌取りも課題になってしまったため、日本は太平洋戦争の攻勢計画の本格検討を余儀なくされた。大まかには、ハワイを『奪還』後に本土侵攻が考えられたが、日本側が『国力の限界を超える』ということで本土侵攻に反対していた。とは言え、ブリタニアの援助を受けての挟み撃ちという手段も使えるし、史実より人的資源は温存されているため、練度もあるし、装備の精度も史実ほどの差はないという点もある。ドイツ連邦から譲られた『第1降下装甲師団』(俗に言う『ヘルマン・ゲーリング装甲師団』。ドイツ連邦は完全解体を検討したが、ダイ・アナザー・デイで奮戦したため、お情けで陸軍へ管理を移管。その際に現有装備を日本連邦に譲渡)の装備の活用も課題であったため、日本連邦は南方で活用している。それらは日本連邦の国産次世代戦車が普及するにつれて、徐々に一線を退くものの、扶桑人や太平洋共和国の日系人に『戦車の進化の方向とは?』を教え込むには充分な役目は果たした。また、後世の人間から見下されがちだった戦中日本型戦車の徹甲弾も史実より質が良かった事での掌返しも起こり、機甲本部の関係者を憤慨させたというエピソードも伝わる。とはいえ、扶桑軍の戦車運用に多大な影響を与え、MBTの登場後しばらくも『重戦車』も平行運用されるほどの影響を残す。ダイ・アナザー・デイで、ティーガー系やコンカラーがその火力と装甲で活躍したからでもあり、その点は重戦車の存在意義を満たせたと言える――
――一線部隊のボルトアクション式小銃が戦後型のバトルライフル及び、アサルトライフルに置き換えられ、弾薬消費率が上がった(ボルトアクション式は狙撃用で生き延びる)ことが良しと判断されるほどの激戦がダイ・アナザー・デイで繰り広げられたのは事実だが、後方では睨み合いのまま終わった箇所も少なくない。また、ウィッチを持つ空戦部隊で、ダイ・アナザー・デイ中に一貫しての戦闘状態にあったのは、当時は結成間もない64Fのみ。他部隊はサボタージュに与していた事もあり、本格的に動き出したのは同作戦が佳境に入る時であった。対戦闘機訓練を積んでいない者も多かったため、死傷率と機材全損率は高く、魔導殺し弾を装填した7.7ミリ機銃の射撃が数発ほど命中しただけで、ストライカーユニットが酷く破損する事例もあり、全ての空戦ウィッチ部隊で横行していた『ストライカーの防弾板外し』改造はダイ・アナザー・デイで事実上の終止符が打たれたと言える。プリキュア達でさえも苦戦を余儀なくされるティターンズの超人たちは銃を使っても『夜間でもカンでの遠距離狙撃が可能』なため、ウィッチ・ハンティングを実践。いくつかの部隊は夜間飛行中に一斉に狙撃され、撃滅された。その事例を鑑みた軍当局は重武装化に舵を切った第二世代理論型ユニットの量産を急ぐ。舟形の武装ユニットを備えるので、多くが実用性に疑問を呈していたが、航空戦がミサイル攻撃から始まるようになると、『ウィッチの時代への適応策』として注目され、急速に実用品が生まれていく。しかし、本来は『パワードスーツ型への移行に必要な過渡的な形態』である。どっちつかずという評価もあったが、未来型のパワードスーツを持てる部隊は希少であったため、それに近い飛行速度を出せる第二世代理論は歓迎されていく。第三世代理論の技術的下地はこの世代のおかげで培われるため、先発と後発の理論より地味な理論であるが、技術史的には重要な一ページであった――
――トウショウボーイは前置きとして、『協会は一枚岩ではない』事を皆に伝えた。ウマ娘競争協会とて、大組織の常だが、けして一枚岩ではない。もののたとえとしては強引だが、地球連邦軍の軍閥のように『改革派』、『守旧派』、『中央中心主義』、『地方分散主義』などが存在する。シンザンがスターであった時代に確立された利権は後年に負の遺産として顕現してしまった感もあり、シンザンの子『ミホシンザン』(シンザンの次子。ルドルフの先輩で、マルゼンスキーの一期後輩。二冠を達成したウマ娘だが、現在は故あって、卒業済み)が卒業後、協会に軽んじられ気味なのは、彼女が盛りを過ぎる頃に現れたシンボリルドルに負けたからである。だが、ルドルフとて、シンザンが信条としていた『肝心要のレースに必ず勝つ』という事は達成できていない。ナリタブライアン、ミスターシービーも尽く達成できなかったことだ。それ故に、シンザンは『神馬』と謳われ、後輩たちに絶対的な権威を持っているのだ。
「シンザンさんはお前たちを守るために奮闘しておられるが、協会の長老達はルドルフ。お前を失脚させようとしている。現役時代、お前の引退はひっそりとしたものだったからな」
「はい…」
ルドルフも皆がいる前では、生徒会長モードになる。オグリキャップを地方から引き抜いた一件が地方の中央への禍根となっている(実際、史実でオグリキャップを地方で成功させたかった者達は、中央での活躍を喜んではいなかったという)。
「長老たちの遺恨はオグリの一件……ですか」
「そうだ。あの一件は中央のルールを変えるきっかけにはなったが、オグリキャップ自身のキャリアアップには何も寄与しなかったからな。テイエムオペラオーのキャリアアップには繋がったが、あの子自身はスターダムには完全には登れていなかった」
「私の力不足です、会長……。」
「あの時点で、お前は大衆を動かせるだけの権威と力を持っていた。それを行使しようとしなかったことがまずかったのだ」
「わ、私はあの時、自分の権限が及ぶ範囲で……!」
ルドルフは反論した。当時の自分のできる範囲で最善を尽くしたからだが。
「改革派はそう思っておらん。お前が世間を騒がせれれば、協会も否応なしにそうせざるを得なくなったはずだと。そうすれば、オグリキャップ以外にも、もっと才ある者を得られたのではないか?世代の代表格が『出走できなかった』ことで、その後の道が暗転した例は多い。マルゼン、お前の同期たちがそうだったな?」
「ええ。プレストウコウ、ハードバージ……ラッキールーラ……リニアクイン……。もしかしたら」
「そこを突けば、協会も折れたろうにということだ、ルドルフ、マルゼン」
プレストウコウなどが代表格とされる、マルゼンスキーと同世代のウマ娘は不幸の星のもとに生まれたと言われても仕方ないような、あまりに薄幸すぎる運命を辿った。マルゼンスキーは数多の同期達の犠牲の上で、現在の名声を確立させたという辛辣な評価もあり、本人も同期たちからは半ば疎外され、現役時代は一期上の『TTG世代』と比較され続けた過去があるからか、現役時代はそのイライラをレースにぶつけていた時期もある。(似た境遇のグラスワンダーに目をかけている理由の一つは、現役時代の自分を見ているようであるからかもしれない)マルゼンスキーの(その当時としては)圧倒的と言われた能力の真価を大レースで発揮できなかったことは、マルゼンスキー世代の国内生まれのウマ娘の評価を引き下げている。『マルゼンスキーがクラシック出走を果たせていたら?』というIF。トウショウボーイも『お前が完全な日本生まれであれば……違う時代に生まれていれば、会長の座を譲ったろうに』と漏らした事がある。
「お前がもっと遅くに生まれていれば、生徒会長の座はお前に譲っていた……。昔にも言ったが、それは嘘ではない。お前には、その資格があった。トレセン学園生徒会長は代々の最強のウマ娘が継ぐべき座……。それはシンザンさんも、メイズイさんから言われたそうだ」
「シービーの大おばさまに?」
「そうだ。これはシービーに確認を取らせてある。もっとも、血縁上はもう一個上だそうだが」
シンザンの先輩『メイズイ』。ミスターシービーの曾祖母の姉であり、三冠をあと一歩のところで逃したものの、その当時のトレセン学園の生徒会長であった。シンザンは彼女とは歳が離れていたが、その後をすぐに継ぎ、ハイセイコーの台頭までの長期政権を担った。その次のハイセイコーは比較的に短期間であったが、トウショウボーイが(マルゼンスキーが世代最強でありながら、トレセン学園生徒会長になる資格を持てなかったのもあって)シンボリルドルフの台頭まで生徒会長であり続けた。ミスターシービーは三冠を獲得し、世代最強と謳われたが、すぐ下にシンボリルドルフがいたこと、当時は既に確固たる名声を得ていた(とは言え、全力で走れる状態ではなかったが)のにも関わらず、台頭してきたシンボリルドルフに一矢報いることさえできずじまいであり、結局は『世代最強と一度は謳われたのに、生徒会長の座を逃した』という後世へのレッテルを背負う事になった。また、トウショウボーイがルドルフを自ら後継に指名したというセンセーショナルに溢れた事実もあり、ミスターシービーは『すぐ下にシンボリルドルフがいた故の不運』と評される。
「私の二個上にいたハマノパレードというウマ娘がいたのだけど……。故障で引退した後、当時は何の生活保障もなかったから……生活苦になった後、現役当時の故障が原因で亡くなってしまったの。他にも、私の同期のハードバージは引退後に家業が苦しくなって、父親にこき使われた挙句に……。プレストウコウも私の噛ませという評価を受けてたから、協会でも冷遇されてて…」
マルゼンスキーが同期のウマ娘について言及してこなかったのは、デビューした時代そのものの不幸、同期たちの中で圧倒的に抜きん出ていた故に孤独を味わってきた事、自分が日本ダービーに出走できなかった故に、同期たちの尽くが自分の存在の影に苦しめられ、悲惨極まりない運命を辿ってきた事、自分も『完調状態であれば、TTGに正面から対抗し得た』とされるほどの実力を持っていた全盛期に、その能力をクラシックレースで発揮できなかった事への悔恨が背景としてあったからである。マルゼンスキー世代の日本ダービーのレベルは低かったと言われてしまうのは、マルゼンスキー自身が強すぎた故に起こった悲劇と言える。
「お前の不幸は周りがスバル360だとすれば、そこにランボルギーニ・カウンタックが一台だけ紛れ込んでしまったようなものだ。ルドルフの世代はまだマシになったが、同世代から避けられがちなのは同じでな」
「ブライアンちゃんも同じと言ってました。抜きん出て強いウマ娘は孤独になりがちなんですか…?先輩」
「同世代に同じような強さのウマ娘に恵まれんと、必然的にそうなる。私はテンポイント、グリーングラスという好敵手に恵まれたが……幸運な例だ」
現役時はテンポイントがその美貌と貴公子的な雰囲気から、大衆人気が高かった。だが、実際には気性が荒かったため、総合点でトウショウボーイが生徒会長に選ばれた。その雰囲気を真似する形で、ルドルフは『皇帝』へ駆け上がっていった。だが、頭角を現すにつれ、親族のシリウスシンボリとは疎遠になるなどの苦難も味わっており、実は孤立を強いられてもいた。その心の隙間を埋めてくれる相手を潜在的に求めるようになっている。マルゼンスキーもルドルフの本質は『ルナ(幼名)のまま』と評しているように、『エアグルーヴの前では弱さを見せられない』と異名ゆえの哀しみも背負っている。自分を現役当時から慕い続け、別世界では自分の実子であったトウカイテイオーをとことんに可愛がっているのは、けして偶然ではないのだ。(テイオーが小学生当時に記者会見場に乱入してきて以来、テイオーの動向をチェックしていたり、小学校卒業後のテイオーがトレセン学園に入れるように裏で取り計らうなど、テイオーの知らないところで便宜を図っていた。また、テイオーの最初の骨折にいち早く気づき、トレーナーの頼みで病院嫌いのテイオーを説得していた)
「ルドルフがテイオー君を可愛がっているのは、偶然ではない。見ろ。これはこの世界の動物としてのトウカイテイオー君の血統表だ」
「……父親はシンボリルドルフ……!?」
トウショウボーイが机に広げた、ドラえもん世界の競走馬の血統表。トウカイテイオーを中心に記されたもので、トウカイテイオーの後の代は『サンデーサイレンスの血統』が繁栄していくために先細り傾向であるのがウマ娘達の目にも明らかになった。21世紀時点で、子のクワイトファインが後継種牡馬として存命中、末子のキセキノテイオーが七歳でデビューしているのがせめての救いであるが、競走馬として名を上げた個体は『トウカイポイント』、『ストロングブラッド』などのごく少数。テイオーは競走馬・種牡馬としての双方で父親ほどに成功を収めることは叶わなかった事の証明ではある。だが、逆に言えば、ルドルフの後継者たるに相応しい事の裏付けにはなった。
「昔から不思議な感覚があったのは事実です。ですが……」
「エアグルーヴは私が抑える。あの啖呵を切った以上、あの子を後継者として育ててやれ。……私とシービーのようにはなるなよ、ルドルフ?」
「あなたの縁筋でありながら…、三冠ウマ娘になったのに、あなたはシービーを後継に選ばなかった。これは貴方の……罪滅ぼしのつもりなんですか、トウショウ会長」
「あいつへの慰めだと思ってくれていい。私にできる罪滅ぼしは、シービーが認めたお前とテイオー君を後押しすることだ」
彼女は少なくとも、ミスターシービーをどこかで見限ってしまったことを示唆し、苦笑した。少なくとも、キャリアが絶頂にあったはずのある年の天皇賞(秋)時点では、故障の発生が起こっても不思議でない状態であった事を知っていた事から、シンボリルドルフが急速に台頭し、そのレースぶりが世間を賑わし始めた頃には『シービーは盛りを過ぎた』と見限っていたのだろう。現役当時のシービーのトレーナーは『シービーが完調の状態なら、ルドルフに一矢報えたはずだ…!!』と述べているように、ルドルフはその全盛期、彼女の一個前の世代のウマ娘を『役者が違うのさ』とばかりに置いてけぼりにできた。その力に惚れたのも、トウショウボーイがルドルフを自身の生徒会長としての後継に添えた点だが、今度はルドルフが『黄金時代の到来』で逆に後継選びに悩むことになったのは、シンザン時代から続いていた、『生徒会長選考の議題にされるウマ娘が数人しかいない』状態の終焉だが、群雄割拠の時代故に、現任者の一任で後任を選べなくなったのも事実。有力候補が多すぎるのも、それはそれで悩ましいのだった。