――日本連邦が反応兵器の保有を進めた理由は、旧来型核兵器の定義には入らないので、核兵器にありがちな残留放射能を出さない点であった。目的は『敵が原爆を使った場合の報復のため』。放射線による弊害が正式に把握されたのは、史実では冷戦の後期頃。1940年代では把握されているはずがない。そのため、日本連邦は苦渋の決断の末に『反応兵器』を貯蔵し、南洋の地下に貯蔵している。リベリオン合衆国は核兵器の威力を見せつけられたが、放射線による弊害が殆どない世代のものだった事もあり、保有自体にはむしろ賛成であった。そこは日本とアメリカの国民性の違いであった。核兵器の発展の歴史を知った故に、感情論で減らされた開発予算を少しづつ戻してゆく。ただし、潜水艦の攻撃用途への転用にはウィッチ閥から反対論が根強かったが、在来式潜水艦が払底したことを理由に、リベリオン合衆国もその用途に足を踏み入れていく。ウィッチ閥はこうして、行き場を失い初めていく。通常兵器の発展にストライカーが逆に追従しきれなくなったのも不幸であった上、日本連邦側が人型機動兵器、それに付随するビーム兵器やレーザー兵器を躊躇なく投入した結果、ウィッチ部隊を陸戦支援目的以外で用いるドクトリンは一時的に衰退。敵味方ともに独自に研究していた第二世代理論が完成し、その理論に基づくストライカーが本格量産に入る1950年代中期まで、空戦ウィッチ部隊は『ウィッチの雇用維持のために存続させた』と揶揄されることになった――
――ダイ・アナザー・デイ、クーデターを期に、扶桑のウィッチ達の多くは『ならず者』の烙印を押された。ダイ・アナザー・デイに出征できなかったウィッチ達の不満はクーデター後に政治家にも認識されたため、日本側は最終的に『欧州戦線従事記章』を設けようとした扶桑の動きを容認し、等級を設けることで、実際の状況に応じた見返りをするように促した。ウィッチが社会的に迫害されそうになっている状況は、近代的な民主政治を国是とする国家連邦としては『不味い』からでもあった。結果、従軍記章は社会的に一種の免罪符のような効果を期待された。従軍記章は元々、戦功を知らしめるためのものなので、ウィッチたちにとっては、社会的迫害を逃れるための道具であった。また、日本側の誤解のせいで、少なからずのウィッチが軍歴に悪影響を生じさせた事は問題視されていたため、従軍記章が個人の名誉を守るのに役立った例も多かった。等級の差が実際にどういうものを意味するのかという事は、数十年後まで機密扱いされるわけだ。扶桑軍の空気が完全に1944年より前の落ち着いたものへ戻るには、戦乱が一息つく時代を待たねばならない。戦乱の時代は1943年から続いているが、扶桑どころか、全世界の存亡がかかってしまったのが太平洋戦争の扶桑の状況なのだから――
――扶桑皇国は他の全ての国から、あらゆる方法で戦費を調達し、太平洋戦争に軍事費の全てを費やしている。それでも、やるべき事が膨大になってしまい、二年目であるのに関わず、攻勢に出れずにいた。64Fの活躍は清涼剤ではあったが、それだけでは戦争の大勢には影響はない。日本側の左派政治勢力、市民団体等の送り込んだテロリストの摘発などにも多額を費やしていた都合上、兵器の刷新は遅々たるものであった。更にアサルトライフルやバトルライフルへの懐疑心の強いウィッチ部隊の説得、ウィッチ教育カリキュラムの刷新などに追われ、もっぱらの戦線維持は連合艦隊の第二戦隊以下のゲリラ攻撃や、64Fの奮戦に依存していた。震電改一の配備はそんな状況下で始まり、実質的な秋水の代替機として扱われ、拠点によってはゼロ距離発進用のカタパルトとロケットブースター付きで配備され、重爆迎撃の新たな要とされた。レシプロ機の淘汰も進み、二式戦、四式戦などはこの時期から退役が始まった。世の中は東海道新幹線の開通の促進へ向かい、戦争は片手間と言った様子であった。それに反発する軍人は多かったが、報道に戦時色を出すのを日本が嫌ったため、軍隊はとにかく、黙々と戦うことが求められた。その代わり、給与、賞与、危険手当などは現場への慰謝料も兼ね、倍額化がなされた。また、ダイ・アナザー・デイの反省により、武功章の旧基準での発行も急がれた。この『軍事と銃後が意図的に切り離された、近代国家と近代戦にしては奇妙な状況』は日本連邦特有の事情によるものであった。――
――1949年 連合艦隊の南洋・泊地――
「よろしいのですか、山口長官」
「空母が揃わんことには、政治的に空母機動部隊は使えんよ。我々にできることは、戦艦と航空戦艦によるゲリラ攻撃で、こちらの建造方針を欺瞞することだが、敵も気づいとる者はおるだろう」
山口多聞は小沢治三郎の後任として、連合艦隊の指揮を執っている。とは言え、第一戦隊の出番はない。第一戦隊はあまりに大仰な陣容過ぎて、却って動かせないというのが現実。全長800mの超弩級戦艦というのは、半分は抑止力目的の保有なのだ。
「本艦が鎮座したままでよろしいので?」
「本艦が動けば、敵を却って刺激する。第二戦隊以下で充分に対応できるよ、大抵の敵戦艦は」
「はぁ…」
若い参謀はあっけらかんとしているが、超大和型戦艦に対抗可能な戦艦など、他国には殆ど存在していない。51cm砲を艦砲にする発想は過去、ブリタニアにしか無いもので、それも移動砲台同然の代物であった。それと異なり、相応の攻防速を兼ね備えた設計のものは扶桑とリベリオンしか作り得ない。そもそも、280m級のものすら、『航行性能に問題が生ずる』という懸念があり、机上の空論扱いされていたため、それを凌駕する大きさの船が現れることなど想定外だったのだ。この時代の金属では、艦砲としての実用的な砲身命数を50cm台の口径の砲に持たせられなかった事も、大和型が規格外と言われた所以だが、扶桑は未来科学の活用で遂に51cm砲艦を実現させ、その更に上位の56cm砲を艦砲として実用化した。56cmが実用的な艦砲の口径の大口径化の限度であり、今後は長砲身化からの超電磁砲化、エネルギー砲化が進化のメインになるだろう。とは言え、実体弾としても、50cm砲は充分な破壊力を持つ。この時点では、正面から50cm砲の撃ち出す徹甲弾を防げる装甲はウィッチ世界の技術では造れないのだから。
「この世界の技術では、46cm砲まではどうにかなっても、50cm砲を防げる一枚板の装甲板などは不可能だ。敵もそれはわかっているだろう。我々も三重ハミカム構造にすることで、ようやく満足のいく耐弾性を得ているのだからな」
初代ガンダムが後世に語り継がれた耐弾力であった理由の一つが、耐弾装甲の構造とされる。後代のガンダム達に引き継がれたとはいい難いその装甲構成は初代ガンダムの伝説に華を添えている。扶桑は艦艇の近代化にあたり、それをより頑強な素材で造ることで再現した。表面には対ビームコーティングをした上で。それが済んでいる艦艇の能力は大抵の国の戦艦を超越している。速度面は平均を超える程度だが、その他の能力は完全に時代を超えている。当時に模索段階の戦闘指揮室を二一世紀以後の第一線水準で備える事が情報処理能力の圧倒的格差として現れている。そして、プロパガンダじみているとはいえ、歴代のプリキュアを抱えている事は一種の精神的清涼剤として機能している。
「我々は政治屋の道具だ。昔と違ってな。やることなすことにお伺いを立てる必要がある。故に、中央の指揮下にない部隊が前線の細かい動きをカバーせねばならん。あの部隊はそのために存在している。それは理解することだ」
「ハッ…」
山口多聞もY委員会の委員であるため、64Fの存在意義を理解している。64Fの存在意義の少なからずは未来世界における『ロンド・ベル隊』のような平時の火消し、有事においては独自裁量での敵軍の撃滅が入る。『64Fを使いこなせてこそ、一流の司令部付き幕僚』と、半年後にはそう言われだすのである。64Fは戦術的観点で無敵を誇るため、参謀本部の『幕僚教育に使える』と見なされ始めている。扶桑が大日本帝国より国力にかなりの余裕を持つからこそ、初めてなし得ている事でもある。その代わり、現場はかなりの苦労を強いられているのは言うまでもない……
――ミーナBに坂本Aは『一つの証拠』として、アフリカ戦線で、圭子がその異名を得た戦いの記録映像を見せる。圭子の実年齢は、当時の時点で既に22歳に達しており、戦闘要員と見なされていなかったはずであった――
『さて、久しぶりに……踊るとすっか』
圭子は両刃のハルバード(ゲッタートマホーク)を空中から取り出すかのような仕草で構える。そして、『ストライカー無し』に空を飛び、数に頼って現れる、空戦怪異群体をそのハルバードで斬り裂いていく。彼女の振るうハルバードは怪異の装甲を『叩き割る』のではなく、『ぶった斬って』いる。更に良く見ていると、わずかに緑色の光を刃の部分が帯びていた。怪異はビームで反撃する間もなく、一撃で多数が粉砕されていく。
「凄い……ストライカー無しに飛んでいるし、……って、あのハルバード、どこから出したのよ!?」
「そこは気にするな。凄いのはこれからだ」
流す坂本A。圭子はトマホークを振り回すだけで、有に100機近い飛行怪異の群体を一掃してみせた。完全に、『22歳を既に迎えている』エクスウィッチのやることではない。
「奴の本領はこの時から発揮された。……いや、事変の頃の力が『戻った』というべきだな」
『数だけはいっちょ前に揃えやがって。地獄で踊ってろ!!』
近代的なデザインのマシンガンに持ち替え、それを二丁拳銃で放つ。圭子は『本来の歴史』での現役時代は『狙撃で味方を補助する裏方だった』が、改変後の歴史においては『人間ゲッターロボ』、『女版の流竜馬』と例えられる荒々しい切り込み戦法を是とする。以前のルートで『のび太の射撃の才覚には、固有魔法を使っても、到底追いつけない』という挫折を味わった後に選んだ道である。流竜馬や一文字號などの歴代のゲッター1系乗りの影響がかなり強く、接近戦と銃撃を織り交ぜていくスタイルも、竜馬たちに肖ったものである。単騎戦闘力は史実でアフリカ最高を謳われた現役世代のハンナ・ユスティーナ・マルセイユのそれを遥かに上回っているのが、素人目にもわかる。
「単騎で……これだけ強くていいの?」
「『みんなでできること』もいいが、こういう一騎当千の強者が求められる時代に変わったのだ。兵器が加速度的に進歩し、ジェット戦闘機同士の空中戦も当たり前になったのでな」
F-86、F-84Fと言った胴体内蔵式のジェットエンジンを持つ機体が映し出される。B世界では、フラックウルフ社が設計途中であるはずの形式の胴体内蔵型ジェットエンジン機。A世界では1945年の時点で既に量産され、レシプロ機を主役の座から引きずり下ろした。そして、1949年時点では『超音速』が当たり前になりつつある。そして、ジェット戦闘機がお互いに普及した場合、最後には技能が物をいう。ウルスラが聞いたら、研究を投げ出しそうな(A世界では、技術チートに反対したため、しばらく冷や飯を食う羽目になっていた)勢いの技術発展だ。
「一体何が…?」
「敵がこんな戦艦を造ってきたのだから、仕方あるまい」
モンタナ級戦艦は280m、全幅36mを誇る。B世界では計画自体が潰えたというが、A世界では、大和型戦艦の公表が呼び水となり、建造がそのまま行われた。そして、紀伊型戦艦を初陣で粉砕してみせ、逆に扶桑側が超大和型戦艦を造らざるを得なくなった。モンタナ級は大和型戦艦と互角に戦えるという前評判を一応は証明し、扶桑の建艦計画に大きな影響を与えた。そして、日本連邦の新戦艦はモンタナを更に圧倒するために生まれていった。その目的を脱したのは、敷島型である。
「アイオワ級?」
「それと別ラインの低速戦艦で、モンタナ級戦艦。リベリオン合衆国の戦艦の最終到達点だ」
モンタナ級は日本連邦以外の戦艦には強いことが明らかになり、各国は46cm砲艦の実用化を模索した。だが、当時の各国の砲熕技術では安定した生産が殆ど不可能であり、日本連邦の援助を得た国だけがそれをなし得た。逆に、史実の情報が伝わったせいで、戦艦整備に興味を無くす国も増えていったのも事実。正規空母も大国だけの特権へと固定化していくため、カールスラントは『兵器の高額化』に最も苦悩した国であると言える。日本連邦は空母の保有に消極的な派閥も多くいたが、史実の情報でそれらはまたたく間に霧散。空母機動部隊の近代化は命題と化した。しかし、ジェット戦闘機の登場で、必要十分なサイズとされる船体サイズが飛躍的に大型化したため、建艦計画は一気に白紙化してしまった。国産初の超大型空母『瑞龍型』は1950年代半ばの竣工と見込まれており、空軍に宇宙艦隊を保有させることが進められる理由とされた。
「こんなのが10隻以上も竣工してきてるんだ。しかも季節ごとにだ。うちの海軍も大慌てでな。戦艦の世代交代を完了させている」
「40cm砲が12門……。ビスマルクがまるで、おもちゃね……」
「異世界人が技術を持ち込んだものだから、戦艦が加速度的に大型化してな。今や、ビスマルク級戦艦はお世辞にも、一線級とは言えん」
ビスマルク級の実態はバイエルン級の焼き直しであり、しかも、大洋艦隊滅亡後のカールスラントの経験不足の設計陣の設計経験の不足が露呈し、実際は近距離以外の砲戦に弱く、ダイ・アナザー・デイに参加できずじまいなほどの脆さが知れ渡ってしまった。その一方で、Z計画が完遂できた場合の世界の戦艦たちは大和型戦艦をあわや撃沈の窮地に追い込んでおり、Z計画の完遂がなった場合に限り、真に強力なる戦艦を産み出せる事は確認されている。大和型戦艦の史実での弱点は皮肉なことに、M動乱で脆くも露呈し、その改良が短時間で進んだ。結果、イージス艦の情報処理能力と防空能力、戦艦としての攻防力、巡洋戦艦並の速力を備えたバケモノが生まれた。加えて、 核兵器の直撃に耐える生存性もあるため、第二次世界大戦当時の兵器技術では、戦闘不能に追い込むことは不可能であった。別世界のドイツ海軍の生んだ大海獣が、大和型をバケモノへ進化させるきっかけを造ってしまったのである。もちろん、改装では限界があるため、近代化後の姿を基準にしての設計図を新規に用意し、内部構造を最適化した仕様での新造も行われた。
「大和型が一種の指標になったの?」
「我々の世界では、この事を『ヤマト・ショック』と呼んでいる。とは言え、一時の流行だったがな。程なくして、戦争でそれどころでなくなったしな」
「確かに。扶桑はどこまでが戦前の計画なの?」
「二番艦の武蔵までだ。そこはお前の世界と同じだが、諜報部が各国の新造艦の動向を伝えたことで、信濃と甲斐……三番艦と四番艦が認可された。このあたりになると、航空ウィッチ閥が台頭したから、航空歩兵用の空母にせよと運動を開始して、一時は承認寸前だった。だが、44年。呉を敵艦隊が奇襲した。こちらは完全に油断しきっていたから、大混乱。呉に停泊していた艦艇は殆どが横転、着底、まっ二つ、あるいは火災でスクラップ行きだった。港湾も機能喪失。連合艦隊の泊地機能は横須賀に移転するしかなかった」
この時期、呉は一定規模の再建はされたものの、連合艦隊の泊地としての機能は横須賀へ移転し、工廠機能も各地に分散しての移転し、基地の維持がされているものの、残骸の撤去、港湾再建、機雷除去の必要もあるため、この時点では主に潜水艦中心の泊地として使われている。再建が進めば、水上艦の再配備もあり得る。44年当時の惨状、そこからの再建の道のりも映し出される。練習空母『鳳翔』も無残な姿を晒しており、同艦に乗艦していた事が、武子の前線復帰の一因である。史実では復員船として生涯を終えたが、ウィッチ世界では戦没してしまったのである。加えて、同年には赤城がウォーロックの暴走で戦没してしまった。それはB世界と共通だが。
『チェェンジ!!真ゲッターヌァァァンッ!!』
場面は、そのウォーロックの暴走の局面。真ゲッターが真ゲッター1の姿を見せる瞬間である。蝙蝠を思わせる翼、瞳のある目、その巨体。
「これが異世界人が持ち込んだ、強大な力『スーパーロボット』だ。これ一機でだいたい、国どころか、大陸を滅ぼせるそうだ。詳しくは明かされていないから、なんとも言えんが」
「なにそれ」
「そうとしか言えんよ。見ていろ」
真ゲッターの幾何学的高速機動。赤城と融合したウォーロックを容易く、両刃のハルバード(ゲッタートマホーク)で斬り裂いていく。『通常兵器では、ネウロイの装甲を斬り裂くことはできない』という光景を覆すものだ。一応、トドメは芳佳たちに譲ったが、凄いのはこれからであった。
「な、何……!?」
「これが真ゲッターの必殺技だ。このロボットが最強と言われる所以だ」
操縦者の意識を高め、両腕にゲッターエネルギーを集中・圧縮し、前に包むように構えた両手の中で一塊のエネルギー弾として生成し、敵にぶつける『ストナーサンシャイン』。ビジュアル的にも『手のひらに太陽を創造し、それを敵にぶん投げて炸裂させる』ようであるため、ものすごいインパクトがある。
『ストナァァァァァァ・サァァァァンシャァァァァイン!!』
真ゲッターが従来のゲッターと隔絶した力を持ち、敵から『悪魔』と恐れられている理由がこの『ストナーサンシャイン』の存在である。最大出力では大都市を消滅させる威力であり、ゲッターエネルギーの炸裂による爆煙がパリをすっぽり覆い尽くしたため、ペリーヌが取り乱す様子を見せるが、なんと、ピンポイントで敵対対象のみを消滅させるという離れ業で怪異の巣を消滅させたのである。これ以降、怪異の巣は『巣の主となる怪異を倒す、巣が生み出せる限度まで消耗させる、巣そのものを超兵器で問答無用に粉砕する』という三つの方法が人類に提示された。通常兵器でも怪異の巣を倒せる可能性が提示されたわけだが、このストナーサンシャインと同種の力を持っているのが圭子であり、アフリカ戦線で既に使用していた事も明示される。
「この力をどこかで受け継ぎ、使ったのが加東の奴なんだが……、お前はそれを中々、認めなくてな。それで、実力を試す意図だか知らんが、あいつの部下をいびってみせてな。こっちがハラハラもんだった。扶桑の狂気だの、ガンクレイジーだ、
「私はオストマルクが落ちた時に志願したから、座学は省略されてたのよ。事変の詳しい経緯は知らなかったの。貴方が配属された時にちょっと調べたくらい。45年にその世代が送られてきたのなら、監視のために送られてきたんじゃないかって勘繰るのも無理はないわ。とても『使える』年齢とは思えない。ところが、その三人は特異体質だった……」
「そうだ。それも、前世の記憶持ちというトンデモな連中だ。おまけに、戦闘技能は当代最強を誇った頃から微塵も衰えていないどころか、磨きをかけてきた。そこがお前のこの世界での不幸だ」
坂本Aは『黒江達が特異体質のウィッチである』という風に取り繕られた人事書類に目を通さなかったミーナA(人格変容前)の行為を『不幸』とした。ミーナは本来、『話せば分かる』人物のはずで、坂本もそこに期待していたのを裏切られる格好であり、面子を潰されたようなものだった。この一連の流れは『先入観と無知は真に恐ろしいこと』という事実の証明であった。
「お前が先入観から、人事書類に目を通さずに冷遇したおかげで、私は戦友への面子が丸つぶれだったよ。で、三人に猫かぶりをやめて、本気でかかれと促した。そうすることでしか、お前に信じさせる方法はなかった」
坂本Aの愚痴とも取れる説明。ミーナBはバツの悪い思いをする羽目になったが、A世界ではそれが一つの結果なのだから、仕方がない。
「で、ここの私は整備班の取り扱いや、三人の冷遇が問題視されて、査問ね」
「うむ…。三人の冷遇が一番大事になってな。天皇陛下がカールスラント軍部へ抗議の電話入れようとしたり、公式の抗議声明を出そうとしたんだ。外務省は宥めるのにえらい苦労してな……。わかるだろう?お気に入りと言うヤツで……」
「あー……なるほど」
「で、カールスラント軍部も大慌てでな。あちらこちらに『お詫び』をする羽目になる、扶桑の大衆向けに『人種差別の意図はなく、現場責任者の無知で…』とする釈明をするわ…。ロンメル元帥やアイゼンハワー司令官も記者会見で頭を下げる羽目に…」
ダイ・アナザー・デイ終了直後のニュース映画の映像が入り、扶桑の大衆向けのポーズとして、アイゼンハワーとロンメルが三人の冷遇についての公式見解と釈明をする様子、別の自分自身が『降格処分』された後の階級章を軍服につけて、記者の前で深々と頭を下げ、必死に謝っている様子が映る。晒し者のようだが、扶桑の大衆を宥めるためには、こういう事も必要なのだ。
「大衆は熱し易く冷め易い。一時の恥のようだが、大衆を宥めるためには必要なことだ」
「わかるわ、それ。ここの私は青二才だったってことね…」
ミーナBは人格変容前のAより人物ができているのか、客観的にその様子を分析しつつ、別の自分が見せてしまった個人的感情を『青二才』と総括した。一見して、Aが大衆向けに装っていた人物像そのままであるが、BはAより『大人』であったため、別の自分の起こした出来事を客観的に分析してみせる。個人的感情を公の場で出しすぎたこともミーナAの不幸であったと言えるが、坂本Aは『Bの冷静さがあれば……』と、ミーナ本来の人物像がいい意味で出ているBの冷静さの『不在』を強く惜しんでいるが、その行動の根本にあるのが自分への『愛』であることに思い当たる様子がないのは、そこが坂本の想像力の及ぶ範囲の限界であったし、ミーナがそのような個人的感情に流されるはずはないと考えている証でもあった。