ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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今回は前半は坂本美緒、後半がナリタタイシンが主役のパートに分かれています。


第二百五十九話「幕間その2 説明の終わり。そして、ナリタタイシンの感情ノ黎明」

――ミーナBは冷静に、別の自分の失敗を分析してみせた。そして、書類の不確認が査問を招いたことを認められないAが自己保身を図り、そこも含めての懲罰を兼ねての二階級降格(表向きは戦時階級の剥奪)を受けた様子にも動じなかった。そして、以後の501は完全に扶桑が主導権を握り、64Fに組み込まれたところで、世界が世界大戦と呼ぶ戦争の口火が切られたわけである。欧州戦線は結局、ウィッチ達の力ではどうにもならず、芳佳の力を以ても、それ以外の力がシールドをぶち破るという事態に陥った。また、時空管理局の体系化された魔法のほうが平均的に使い勝手が良かったため、それらに失望したウィッチたちは民間軍事会社を次々と設立したが、国際会議で規制が議論されたら、主要二カ国で内乱に発展してしまった。日本連邦は『ウィッチであることそのものに執着する者』は少なくなっており、それ以外の技能を磨いておくという選択が当たり前になりつつあった。そのおかげで、内乱も一過性で済んだ。だが、カールスラントの内乱は色々な史実の対立を表面化させてしまい、NATO軍による鎮圧が必要であった。ウィッチたちは二カ国の内乱で『ならず者』と見なされる事が増えてしまった。その一方で、事変以前からの古参は英雄視されるのだから、1945年当時に『盛りを迎えていた世代のウィッチ』には面白くない。だが、ダイ・アナザー・デイでの『スタンドオフ兵器の応酬』と『超兵器の登場』で現実を思い知らされた彼女達は『自分たちが必要とされなくなる事』を極端に恐れた。そこをティターンズに利用された結果がオラーシャの分裂であった。黒江達の未確認スコアが原則として『公認された』政治的な背景には、『ウィッチの人心を落ち着かせ、反乱を防止するため』というのも多分に含まれている――

 

 

 

「……大昔のように、彼女らのような『突出した個』が許されるようになったのは、そういうことなのね」

 

「そうだ。あいつ等は『大戦果』を武器に、今の地位を築いた。それでいて、前世の記憶で、宮藤のわからない気持ちを理解している。言い方は悪いが、宮藤は自覚なしに、自分の考えを他人に押し付けるところがある。前にあっただろう?宮藤は強力な魔力と、自分専用の新鋭機を持つ立場だ。のぼせていたところもあるだろう。宮藤博士との約束は否定せんが……誰しも、宮藤のようにはなれんということだ」

 

芳佳Bは『Give and Take』な振る舞いをし、持たれ持たれつという言葉の意味を知る芳佳A(キュアハッピー)と違い、史実通りの純真な性格である。だが、そのまっすぐさが『力を失って久しい』黒江Bらを大いに傷つけたのも事実だ。芳佳Bは『お父さんとの約束を守ってるだけなのに……』と言うが、ウィッチの力は本来、時限的なものなのだ。

 

「だから、この世界でのウィッチたちは、あいつらを異端視し、一度は迫害した。だが、自分たちでどうにもできない何かが現れると、保身のために、その力にすがった。厚顔無恥とは、ああいう事を言うんだよ」

 

坂本AはBと違い、転生者であるためか、物言いが大人のそれになっている。また、一度目の現役時代のように『武士道にかぶれている』わけでも無くなっているため、Bと違い、多少なりとも砕けた物言いであった。

 

「貴方、なんていうのかしら。この世界では砕けたような雰囲気ね?」

 

「私も転生者なんでな。そのあたりは気にせんでくれ。それに、大人になってみれば、それまでと違った世界が見えてくる。その時の失敗を避けたいのが本音でな…。」

 

「貴方らしくもない」

 

「過去に一度、人生に失敗してしまったからな。だから、土方と話しあって、今回はどちらかが家にいるようにすることにするよ。宮藤すら、今は子持ちだからな」

 

ウィッチに言い伝えられている『純潔を失うと、シールドを失う』という事が迷信であった事が判明したため、この時代になると、部内結婚も当たり前になってきている。芳佳Aも、1949年には一児の母である。ミーナAは黒江たちを頼る坂本を見て、ある種の嫉妬心を抱いてしまったのだと、Bは坂本の物言いから理解に至った。

 

 

「そちらの私は……クルトを失った後は、貴方を支えにしていたんでしょうね。それでいつしか、貴方を…。それを急にやってきた三人に奪われると考えてしまった。そうでしょう?」

 

「だいたいはな。私たちの誤算は、お前が座学を殆ど省略されて、前線に配属された時の世代にあたることだ。士官学校は何をしておったと、ロンメル元帥が頭を抱えたほどだ。外交問題一歩手前まで行った時は、こちらも気が気でなかったぞ」

 

「知った時の私は?」

 

「なんといおうか……。ヒステリックに喚き散らしてなぁ。見るに耐えん様相だった。二度目の査問は確実。保身も通用しないとわかると、私に銃を向けようとした。が、ハルトマンが鎮圧した。そうだな……。あれで、お前本来の人格は見限られたな」

 

ハルトマンが見限るほどの醜態から、信頼を取り戻すのに、人格の変容が必要であったミーナA。厳密に言えば、その信頼は『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ』に対するものではなくなっているため、ミーナBは自分の暗黒面が表面化してしまったことで、ハルトマンに見限られたと悟った。人格の変容が結果的には、ミーナAを『救った』が、一面的には破滅と同義に至っている。完全には消失していないであろう、『ミーナA本来の人格が4年の間に、一度も表面化していないのは、ハルトマンの冷たい視線が絶対的恐怖として染み付いたためでは?』という推測を抱いた。

 

「そのせいじゃない?そちらの私の本来の人格が消えてないはずなのに、表に出てこないのって」

 

「あるな。氷のように冷たい視線だった。こちらのほうが背筋が凍るような……。それがお前本来の人格が一切の俗事…、いや、俗世そのものを捨てた理由かもしれん」

 

ミーナは他のGウィッチと違い、それまでの人格が第二人格となった側に統合されたわけではない。だが、表に出てこないのは、自分のしでかしたことの大きさ、長年の友人に許される一線を超えてしまった事の恐怖による破滅への絶対的恐怖が抜けないためだろう。

 

「おそらく、お前本来の人格は統合されていく事を選ぶだろう。友人に顔向けができない上、故郷を傾けたも同然だからな。今の人格が聞き取ったという『声』のメモが、おそらくはあいつにとって、人生最後の懺悔だろうな……。」

 

「美緒……」

 

「愚痴ですまんな」

 

「いえ、あなたのこの世界での悩みが聞けて、良かったわ。新京のレストランにいかない?気分転換に」

 

「あ、ああ。構わんよ」

 

ミーナAの中に眠る『本来のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケとしての人格』は人格の統合を選んだようだと、『西住まほ』は言っている。ハルトマンには『今更、謝っても許してもらえるとは思っていない。だけど……』と侘びていたという。坂本は『いつの日か、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ本来の人格は西住まほに統合されていく』事を知った故か、どこか寂しそうな顔だった。そんな哀愁漂う坂本を励まそうと、新京のファミリーレストランに誘う、ミーナBであった。

 

 

 

 

 

 

 

――ドイツ連邦共和国の大誤算はポーランド、それに当たる国家はウィッチ世界には現存しておらず、オーストリア・ハンガリー帝国とドイツ帝国の連合帝国に当たる、現在のカールスラントがその統治権を持つという状況を調べなかったことであり、東方地域出身者をあからさまに冷遇した事、シュタージ(旧東ドイツの秘密警察)関係者の先祖にあたると思われる者、若き日の関係者自身を一律で公職追放したことで混乱が助長された。ポーランドも、ウィッチ世界に同位国がない状況では介入の余地がない事から、傍観に徹した。結果、カールスラントはノイエ・カールスラント地域の混乱もあり、国際的地位を大きく損ね、自力での本土奪還作戦の実施を断念。そのショックでモラルの崩壊を招いた。軍隊の復興が一定水準で認められていくのは、事実上は数カ国分の広大な地域の安定をカールスラントが担っていた事、オストマルク(後に、イメージを変えるため、正式に『オーストリア』と国号を改名する)帝国は一次大戦の損害で形骸化していたことが関係していた。結果、欧州がキングス・ユニオン一強になることを、強く懸念したフランスなどの援助で、カールスラント帝国は立憲君主制国家としての近代化と再建を進める。やがて、1990年代初頭に、この時代に制定された復興目標値には達する。ただし、軍事的には最盛期である1943年の水準には二度と戻れずじまい。日本連邦はガリア、カールスラントという欧州列強の一角が軍事的に急激に衰弱した事の代わりを求められたが、太平洋戦争に突入した。結果、欧州の安定はスーパーロボットの定期パトロールに委ねられていく。欧州諸国は長引く戦争で財政難に陥っていたため、軍事的な支出を減らしたかったのだ。結果、日本連邦の覇権は1949年度には確立され始めた。ガリアの軍事復興がペリーヌの手で抑えられ、ドイツ連邦の自主的な軍縮が日本連邦の覇権を確立させたと、後世に記録される。また、カールスラントの内乱は『カールスラント固有の地域』を史実の統一ドイツ地域までにし、史実の戦後ポーランドの支配している地域を『折を見て、ポーランドの統治下に置く』という協議が漏洩した事が発端であると判明したため、ポーランドはカールスラント全軍との突発的な戦争を恐れ、『解放後の飛び地獲得』を『現地の治安への配慮』と言うことで断念する。だが、妥協的に『財政援助と引き換えの史実でいうポーランド系住人による高度な自治権の担保』を提案する。ポーランドなりの権利の主張であった。カールスラント軍の再建はガリアよりは容易と見做されたため、欧州諸国の要請により、比較的早期に目処は立つものの、ドイツの政治的都合もあり、復興の第一目標値に達するのは、1956年以後の話となる。――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――日本連邦も、将官・佐官級を中心に、粛清同然にやろうとした『選別』が実務的都合で頓挫を余儀なくされた。現地の混乱が助長されるという批判があったからである。軍事以外の分野の官僚にまで及んだ粛清人事で、有力な『パイプ』を潰されたカールスラントやオラーシャから猛抗議が来たからで、困惑した日本はあからさまな『粛清人事』は控えるようになった。航空関係では、史実で航空幕僚長、もしくは高級幹部にまで栄達したか、旧軍で成果を出している将校を中心にしての空軍構築を行いつつ、宇宙艦隊のために、海軍から少なからずの人員を引き抜いた。1949年は空軍が黎明期を抜け出し、揺籃期に入った頃であるが、空海軍が重視される一方で、陸軍の兵器更新がおざなりにされるのは、戦後日本らしい政治的都合であった。しかし、ドイツ連邦から引き取った大量の陸戦兵器を死蔵するわけにもいかないため、前線で多くが使い倒される道を辿った。本土の道路事情では、独の重量級戦車は運用が困難であり、なおかつ、九七式、一式、三式。それら旧式の扶桑製の中戦車の代替兵器がどうしても、各戦線で必要だったからである。外国の地に駐屯する扶桑軍も殆どいなくなったが、国際貢献の都合上、一定の兵力は各戦線に置かなくてはならないからで、そこも太平洋戦争の長期化の理由であった。結局、軍縮の際に放出されたカールスラント製第二次世界大戦後期世代戦車達は日本連邦やガリアなどで第二の人生を歩み、同国陸軍の機甲装備重視の礎となったが、それそのものが第一線に留まれた期間は短期間に終わった。センチュリオン、M48戦車などの『戦後世代』が現れ、パンター系を急速に陳腐化させたからである。MBT(主力戦車)の時代を迎えていく中で、時代遅れになっていく重戦車たちだが、戦場でもっとも頼りにされているのには変わりはなく、しばらくは平行運用が続けられる。コンカラーやM103重戦車が日本連邦で本懐を遂げられたのは、大戦型の国家総力戦が生起中の時勢に生まれる事ができたからであった。――

 

 

 

 

 

 

 

 

――こちらは、ドラえもん世界の野比家。のび太の息子『ノビスケ』との生活となったウマ娘達。シンボリルドルフ、トウショウボーイ、マルゼンスキーといった年長組はレースの中継についてのウマ娘競走協会とトレセン学園の『取り分』を話し合うため、野比財団及び、放映権を持つ骨川コンツェルンと協議を行う関係で留守にするため、主にノビスケの面倒はトウカイテイオー、ゴールドシップ、ナリタタイシン、ナリタブライアン、アグネスタキオン、メジロマックイーン、ウイニングチケットと言った若手(?)組が見るようになった。当時、小学校低学年であったノビスケは両親が不在がちで、実の兄弟もいない環境であったこと、プリキュア達の多くが『遠征』で家を開けていたため、ウマ娘たちは良き遊び相手であった。そのうち、両親が不在がちかつ、学校で少なからずあった『のび太の子』という固定観念に反発していた事もあり、シンパシーを感じたのか、ナリタタイシンに懐いた。タイシンはインドア派だったが、ノビスケが学校で『周囲になめられないようにしている』ことを聞くと、トレセン学園入学時の自分を見るようだったためか、ノビスケに世話を焼くようになった――

 

「サッカーに行くんでしょ?ほら、ユニフォームに、ハーフタイムに飲むスポーツドリンク。ドリンクはバックに入れといてあげたから、忘れずに飲みなさいよね」

 

「うんー!ありがと、タイシンおねーちゃん」

 

ノビスケに世話を焼く時は普段のつっけんどんな態度は鳴りを潜めており、同室の先輩『スーパークリーク』もかくやの世話焼きぶりであった。ノビスケを見送るその表情も、普段からは考えられないほど温和なものであった。

 

「ダイジィィィンンンン~~!!かんど~~だぁ~!!」

 

ウイニングチケットは見たことないほど、子供に優しい姿に感動の嵐である。ナリタタイシン自身もノビスケに『トレーナーと出会う前の自分』を見たのか、自然に世話を焼いてしまう。

 

「お前にしてはめずらしーな、タイシン?」

 

ゴールドシップが言う。

 

「あいつを見てると……昔のアタシ自身を思い出すんだよ。なめられたくなくて、親にも反発してさ。チケットやハヤヒデとつるむようになって、トレーナーに会ってさ…。それに、ああいう年頃って、実のところ、構ってほしいんだよ。アタシの母さん……『タイシンリリィ』はレースで大成できなくてさ、それで引退後に花屋を初めて…、子供の頃は構ってほしくてさ…。突っかかってさ」

 

――タイシンリリィ。ナリタタイシンの実母であり、競走ウマ娘としては大成できずに終わったウマ娘だ。引退後は花屋を経営しているが、レースへの未練はあったのか、実子に夢を託した。だが、成長しにくく、病弱に生んでしまった事を悔いており、それがタイシンが物事に対して、どこか斜に構える原因になってしまった。花屋の経営が軌道に乗るまで、ナリタタイシンは寂しい子供時代を過ごした。更に、レースに出走する時のハンデと、体格が小柄な彼女を周囲がどこか見下していた事もひねくれ者に育ってしまった理由だ。だが、その本質は優しく、また、誰かに見捨てられることを極度に恐れてもいる。また、自分を周囲に認めさせるには、『レースに出て、勝つ』事と考えていた。だが、ナリタタイシンの才覚はあくまで『1.5流』のものに留まったため、皐月賞以外は勝ちきれていない。日本ダービーは二着、高松宮杯でも二着と、BNWで一番の格下扱いである。しかし、ビワハヤヒデとて、仲間内で三冠を分け合った結果、世代最強の評価を得ていながら、キャリアに影が差しつつあった頃に引退となる。この頃、ウマ娘世界のニュースでは、『ビワハヤヒデ、電撃引退を発表!ラストランの予定は……』という記事が一面を賑わしていた。ウイニングチケットが引き止め、『BNW』が全員揃ってのラストレースはいつになるか?ということが注目されている。ナリタタイシンはハヤヒデがスランプに陥ったのを見ていたため、『ビワハヤヒデが治療を受けても、そのまま引退する』という道を選んだのは、有馬記念で心が完全に折れたためだろうと踏んでいた。皮肉なことだが、理詰めな性格であったために、テイオーが見せた『精神が肉体の限界を超える』事に打ちのめされたのだ――

 

「ハヤヒデが折れたのは、テイオーの走りが自分の全力を超えたからだと思う。あいつは理詰めだったから、テイオーが執念で肉体の限界を超えた事が理解できなかったと思う。それから、スランプだったから」

 

ビワハヤヒデは結局、スランプから抜け出す機会が完全には得られずじまいとなったが、この後に出走したオールカマーでは、ウイニングチケットに競り勝つ。それが最後の輝きとなり、更に数か月後に病気を理由に、レースから引退する。古馬戦線からビワハヤヒデが脱落したことで、ナリタブライアンとトウカイテイオーの二強時代を迎える。トゥインクルシリーズのクラシックレースでゴールドシップとジャスタウェイが台頭したのも、この頃である。さらなる世代交代が進展し始めたわけだが、ナリタタイシンは始まった『奇妙な共同生活』で本来持っていた優しさを自然に出せるようになり始めており、ノビスケにはごく自然に接していた。

 

「お前、以前はつっけんどんだったけど、随分と変わったな」

 

「あの子を泣かすわけにもいかないっしょ?それに、誰かに頼られるのは……初めてだったから」

 

ナリタタイシンはノビスケと出会うことで、それまでの自分を振り返りつつ、子供に頼られたのは初めてだったとゴールドシップに言う。表情も以前より柔らかくなっている。

 

「アタシ……一人っ子だったからさ……。親戚同士の集まりでブライアンと会うことあったけど、学園入るまでは親しいわけじゃなかったし、アタシ、周りにつっけんどんな態度してたから、小学校ん時は友達も少なくてさ」

 

自嘲気味のナリタタイシン。ビワハヤヒデとウイニングチケットがタイシンを変えるきっかけを、彼女のトレーナーが『失いかけていた感情を取り戻す』きっかけを作り、ノビスケはタイシン本来の優しさを呼び覚ましたわけだ。

 

「あの子、父親が有名人だからって、学校で教師たちにさ、親と比べられてるんだって。それに反発して…。昔の自分を見るようでさ。放っておけなくてさ。……悪い?」

 

「いや、お前らしいよ。サッカーの試合、見に行ってやんな。あの子も喜ぶぜ」

 

「そのつもり。アタシ、G1の勝ち星が皐月賞しか無いのは恥ずいから、現役続けるつもり。ハヤヒデの代わりってんじゃないけど、処置を明日に受ける。それに、ちょっとはカッコいいとこ、見せたいし…」

 

「あの子に感謝しろよ、タイシン」

 

「…わかってる」

 

ノビスケが慕ってくる事は『居心地が良い』と感じたのか、タイシンは『大負けした時の観客の憐れと失望の視線』がトラウマになっていたのだが、競走馬としての記憶が呼び覚まされたことで闘争心が燃え上がったこと、ノビスケの無垢な言葉が救いとなり、現役を続ける事を選んだ。

 

「……チケット。アタシ、春の天皇賞の後、引退考えてたんだ」

 

「えぇ!?」

 

「あんたやハヤヒデに悪くて、言い出せなかったし、トレーナーに引き止められてさ…。でも、テイオーが復活したり、ブライアンが立ち直ったからさ、その…」

 

「ダァァイジィィィンンンン~~!!」

 

声に濁点がつく勢いで、わかりやすく感涙のウイニングチケット。史実では、この二つ後に出走する『宝塚記念』の後に故障を再発させた結果、引退を余儀なくされたナリタタイシンだが、因果を乗り越える決意を固めたこと、ハヤヒデの想いを受け継ぐこと、自分の勝った姿をノビスケに見せたいという気持ちの芽生えもあり、現役続行を選んだ。ウイニングチケットもハヤヒデから想いを託されたため、ハヤヒデの引退後は『N・Wコンビ』と扱われる形で『トウカイテイオー、ナリタブライアン、ゴールドシップらへの数少ない対抗馬』として存在感を示していく。ナリタタイシンはこうして、ノビスケに深く関わったことにより、後日に生徒会に見込まれ、野比家との窓口の役目を担うこととなった。この時期に、ノビスケの部屋に飾られた一枚の写真がその繋がりの象徴である。

 

 

――それは『勝負服姿のナリタタイシンが照れつつも、小学校低学年のノビスケの隣で写っている』写真。ウイニングチケット、ゴールドシップなども写っている。この時期を境に、ナリタタイシンの周囲への態度は一変し、物腰も柔らかくなったため、タイシンのトレーナーは『熱でもあるのか…?』と本気で心配し、彼と交流のあるチームスピカのトレーナーも腰を抜かしたという。だが、タイシンは一人の少年との出会いによって、それまでの刺々しく、レースしか拠り所のなかったウマ娘から脱皮し、人間的に大きく成長していく。ゴールドシップとウイニングチケットはそれをそっと、後押ししていく。この奇妙とも言える『出会うはずのない』者同士の出会いこそが、ナリタタイシンの『感情ノ黎明』と言えるだろう――。

 

 

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