――ウマ娘達は野比家を拠点とし、休養を楽しみつつ、医学的な検査も受けていた。真田志郎は『先祖が四足歩行の馬であったことを示す名残りが尻尾であり、馬類のかかる病気を発症する事が馬が人型へ進化した証』と結論づけた。ナリタタイシンなどはこの検査の際に処置をついでに受けたわけである――
「君たちは先祖が人型へ進化することで、競走馬の絶対的弱点であった『病気や怪我』をある程度克服した。だが、競走馬に致命傷である怪我に罹患すること、負荷をかけすぎると骨折することは同じだ。サイレンススズカ君がそうであるように」
「スズカはなぜ、天皇賞で骨折を?」
「うむ。サイレンススズカがこちらの歴史で予後不良になった後、原因を突き止めようとした動きがあったが、事後の推測では『サラブレッドの骨格の耐久限界を超えたスピードを出してしまったのでは』という説が出ている。実際、君らの仲間としてのサイレンススズカも同じような状況で骨折を起こしている」
「我々は因果から逃れられないのですか?」
「因果などはねじ伏せるものだよ、シンボリルドルフ君」
真田はそう言って微笑む。現に、マジンカイザーやマジンエンペラーGはマジンガーZEROの高次予測すら上回ってみせている。
「もし、世界に神や悪魔がいるのなら、それを超えればいい。『神を超え、悪魔も倒す』までにね」
「神を超え、悪魔を倒す…?」
「そうだ。この意味がわかって初めて、君等は因果を乗り越えられる。ある程度のことは予定調和として受け入れるしかないがね」
「それでは、私の骨折による引退や、テイオーの怪我も…!?」
「そうだ。もっとも、テイオー君はあと一回の骨折があるはずだったがね」
「な……!?」
「それが史実での彼女の運命だったいうべきだな。それが致命傷になるはずだった。だが、それを回避したことで、彼女は立場上なし得る最後の栄冠『春秋のシニア三冠』に邁進する。ナリタブライアンくんも、姉のビワハヤヒデ君の仇を討とうとしている。今後の数年は彼女らの時代だろう」
ナリタブライアン個人はテイオーに恨みはないが、怪我でターフを去る決意の姉の敵を討つため、テイオーに立ち塞がる事を選ぶ。下の妹である『ビワタケヒデ』は姉と自分のような才能はない凡庸なウマ娘であり、とてもG1に出れる実力はない。ブライアンはドリームシリーズへの昇格を先延ばしにし、テイオーやゴールドシップらとしのぎを削る道を選ぶ。凡庸なウマ娘である『下の妹』(ビワタケヒデ)には出来ないことだからで、そこも微妙に『ビワタケヒデ』にとっては残酷なことであった。
――ナリタタイシンはノビスケと触れ合うことで、本来持っていた優しさを表に出せるようになっていた。母親の『タイシンリリィ』の過保護で歪んでしまった彼女だが、ノビスケが素直に慕うことで一種の拠り所を見つけたのか、精神的に安定しだしていた――
「タイシンも変わったよな」
「うん。なんかこう……穏やかになったっていうか」
「あの子のおかげかな」
「だろうな。あ、言っとくぜ。いざとなったら、地下のマシンは使っていいそうだ」
「ブライアンとタイシンが見たっていう?」
「ああ。量産型のダウングレード品とはいえ、ゲッターロボGだ。あたしらなら、操縦でかかるGに充分に耐えられる」
ダウングレード品という表現をゴールドシップは使ったが、それは適当ではない。ゲッターD2の正式採用仕様と違い、ゲッターロボGの一部仕様を簡略化したのみで生産されているからだ。ウマ娘は『Gへの耐久力』は常人の比ではない。日頃から60~70キロほどの速度で走れるためだ。ゲッターロボは基本的に意思が強い者が乗れば、基本スペック値以上のパワーを引き出す。これは全てのゲッター線駆動のゲッターロボに言える。
「意思の強さもパワーの強弱に関係するらしいからな、ゲッターロボは」
「ゴルシ、そんなのどこで聞いたの?」
「あいつから電話で聞いた。起動に必要なゲッター線の供給は専用のゲッター炉からの供給で賄ってるそうだ。有事に備えて、いつでも使えるらしい」
「なにそれ」
「あたしに聞くなよ、チケゾー。ゲッターロボが現実にあって、実際に使える状態なんて、誰が考えるよ?しかも第二世代のゲッターロボGを」
ゲッターロボが順調に発展した場合、90%以上の確率で生まれる後継機『ゲッターロボG』。戦闘用に製造用途を変更してから生まれた初のゲッターロボで、後のゲッターエンペラーの大元の一つでもある。ゲッタードラゴンそのものは設計的に優秀であったので、世界によっては量産されている。その量産型は基本武装以外はオミットされているが、64Fの保有する物は異世界の個体を解析したことで得られたデータを使い、オリジナルの設計で改良して新造した量産検討機なので、シャインスパークを使える。塗装パターンは簡略化されているが、シャインスパーク解禁時のスペック値を再現されている。
「なにそれ」
「さーな。キングヘイローのことは会長に任せてきた。多分、今回の混乱の責任を取る形で生徒会長を辞任するだろう。そうなれば、テイオーが次期会長になる。エアグルーヴは反対するだろうが、テイオー以外に適任はいねぇよ」
キングヘイローの騒動の現場責任を取る体裁で、シンボリルドルフは生徒会長の座をテイオーに譲る大義名分を得た。ゴールドシップもそれに同意しており、テイオーの後援者になることを伝えている。自由奔放なゴールドシップだが、実はそれなりにリーダーシップを取れる。シンボリルドルフもそこを高く評価している。そのため、今回の騒動では、スペシャルウィーク達の指揮を取っている。エアグルーヴが新政権下でも留任するのは、テイオーの意向であった。今回の事はエアグルーヴには非はなく、マスコミ対応もよくやっていると、TTGも評価しているからである。
「でも、生徒会の面子をガラッと変えるわけにもいかないよ?」
「テイオーも主要メンバーは留任させるそうだ。テイオーはレースの実績が少ない部類だ。それを生徒会長にすることは反発出るだろうからな」
テイオーは連勝記録の途絶後はモチベーションが次第に低下し、惨敗も多くなっていたため、実績はルドルフに比して低い。いくら、ルドルフが潜在能力を見込んでいても、だ。『怪我さえなければ、三冠を取れたであろう』というのは衆目一致の事項だからだ。
「今回の騒動で会長は辞任する。だが、協会が今学期は留任させるだろう。テイオーに政権交代する事は談合に近いが、極秘だ。今の状況じゃそれしかない。スペやエルコンドルパサーに会長職は無理だ」
エルコンドルパサー、スペシャルウィーク、キングヘイロー、グラスワンダー、セイウンスカイの世代は黄金世代だが、それぞれ高い実績を持つので、却って決めにくい。そこで自分と世代がさほど離れておらず、信頼するテイオーを選ぶことはルドルフにとっては既定路線であった。だが、テイオーは度重なる怪我でルドルフほどの実績をクラシック級時代に積めなかった。残された道はシニア級で完全制覇を達成する事しかない。ゴールドシップも妙に聡明な一面があるので、地味にシンボリルドルフを補佐している。また、自らゲッタードラゴンを動かす決意であるなど、地味に戦闘に臨む覚悟もできているなど、単なるウマ娘ではない事もわかる。
「ゴルシ、何を考えてんの?」
「アタシは今まで通りだが?」
ウイニングチケットの問いを煙に巻くが、テイオーを補佐する決意を決めている事はウイニングチケットにもわかる。ゴールドシップはその後、シンボリルドルフの要請で次期生徒会メンバーに抜擢され、そのニュースはトレセン学園を震撼させる。ハジケぶりと聡明さが同居しているのがゴールドシップなのだ。
「あいつらは実戦と無縁の世界で仕事はしちゃいねぇんだ。アタシらが暴漢に対応せにゃいかん時もあるだろうし、エイシンフラッシュみてぇに、素のスペック値だけで人間に勝てると思ってる奴は泣きを見るぜ」
「あの子、そんな事を?」
「トレーナーと揉めた時に聞いたんだよ。ま、あいつのトレーナー、アタシの蹴りに耐えられるガタイだからなぁ」
トレーナーは優男風の男も多いが、ミホノブルボンのトレーナーのような筋肉隆々な男もいる。また、ゴールドシップは流竜馬やドモン・カッシュのような『素でウマ娘を超える』人間を知っていたのか、ウマ娘の一部にある『自信』を否定する。そもそも、極限まで鍛えた人間は異種人類を素手で撲殺できるのだ。(流竜馬は爬虫人類を殴り殺せる)どこか、妙に聡明なゴールドシップは何かの秘密を握っているようであった。
「ゴールドシップ、アンタ……」
「プリキュアの連中は遠征で出払ってる以上、あの子はあたしらで守らないとならねぇってことだ、タイシン。あの子の父親は環境省の役人だが、そりゃ表の顔。裏の顔は政府が頼りにするスイーパー。昔で言うところの仕事人だな。あの子の親父は一代で財を成す実力者だが、政府の依頼で裏稼業をしているのが実情でな。その分の恨みも凄い。だから、あの子が幼稚園の時、バスごとゴロツキ共に拉致られそうになった時もあるそうな。だから、今はあたしらしか、あの子を守れるのはいねえってこった」
「で、でも、どーいう手段が取れるってのよ!?」
「格納庫にあっただろ、あれを使う機会があるかもしれねぇだろ」
「まさか、アンタ。ゲッタードラゴンを!?」
「量産検討機だっていうが、実際にはスペックをフルで備えてるそうだから、戦闘能力に差はねえ。この世界は学園都市っていう廃止された実験都市でカタギからあぶれたゴロツキ共が多いって言うし、そこで造られてた超大型パワードスーツが持ち出される事もありえる。あたしらがいきなり、剣とか銃とかの武器を扱えるわきゃないだろ?グラスワンダーとかの例外はともかく。だけど、ロボの操縦なら、ある程度の訓練さえ積めば、一応は形になる」
「そりゃそーや。ウチらは普通の人間より多少(というには語弊があるが)身体能力が上ってだけや。訓練を積んだ人間なら埋められる差でしかあらへん。取れる手段があるなら、使わない手はあらへんで」
何気に同調するタマモクロス。タイシンは数秒ほど考えたが、自分たちにやれる事は限られているし、頼みの身体能力もこの世界においては、大したメリットではない事から、操縦訓練をトレーニングの合間に受ける事にする。
「……トレーニングの合間だけよ。それならする。やっと見つけた『守りたいもの』だもの、あの子は」
「気持ちはわかるで」
「テイオーは訓練を開始してる。有馬の後は次に出るレースを決めてなかったようだしな。三号機はアタシが乗ってやる。ゲッターの三号機は死亡フラグだからな。マックイーンには言うなよ?……あいつ、心配すっから」
ゴールドシップは自らが三号機に乗ると公言した。ゲッターロボのパイロットは基本的に、三号機の生存率が異常に低い。どの世界でも巴武蔵は死ぬし、車弁慶や大道剴も世界によっては、ゲッターに取り込まれる結末だ。
「ゴルシ、なんで三号機に?危ないよ」
「アタシは不死身だ。心配すんなって」
ウイニングチケットにそう返してみせる。それはゴールドシップなりの気遣いでもあった。
「そうと決まれば、善は急げ。帰って、トレーニングを積んだら、シミュレーターをやる。Gが強烈だが、ウマ娘のあたし達が耐えられないほどじゃない」
「やってやる。伊達にG1レースに勝ってないんだ!ゲッターだろうが、コン・バトラーだろうが、なんでも……」
「タイシン、そういうの見てたんだ」
ニヤニヤするウイニングチケット。ナリタタイシンは子供の頃からインドア派であったため、『せっかくウマ娘に生まれたのに、インドアはどうか?』と心配する母親のタイシンリリィが仕向ける形で、レースの世界に足を踏み入れた経緯がある。私生活では、ゲームセンターの音ゲーの上位ランクのプレイヤーであったりするなど、全体的にインドア派である。ただし、それは幼少から病弱であった事も関係している。
「うっさい、チケット!人がせっかくやる気になってんのに、ちゃかさないでよ!」
「ごめんごめん」
怒るナリタタイシンだが、言い方が柔らかくなっており、『ウザい』などの刺々しい言葉を言わなくなっていた。ノビスケが幼いため、彼への悪影響を自分なりに考えたためであった。そこもタイシンが自分を可愛がる先輩のスーパークリークの気持ちを理解したからであった。
「帰ったら、マニュアルに目を通せ。万が一を考えとけ。武器を扱えとは言ってないが、護身術くらいは身につけとけよ」
「うーん、あたしもやろうかなぁ」
「やるに越したことはないで、ウイニングチケット。マルゼン先輩の車でも車酔いしなくなるで」
タマモクロスとゴールドシップの言う通り、G1レース級のウマ娘は加速Gが凡百のウマ娘とは格が違う。G1ウマ娘の中では『格落ち』とされるナリタタイシンでさえ、凡百のウマ娘と格の違う加速を誇る。それに充分に耐えられる肉体を持つため、G1級のウマ娘は『格が違う』とされる。オグリキャップが現役当時、同期で太刀打ちできた者はイナリワン、スーパークリーク、タマモクロスの三人のみであったように。時代を切り開いた、時代を担った、変えた競走馬の魂を持つ者にしか許されない『潜在能力と魂の記憶の片鱗の開放』。ゴールドシップ、ナリタタイシン、トウカイテイオーなどはそれを備えていた。この後、ナリタタイシンはゲッターライガー、ゲッター烈火(ゲッターロボ斬)の操縦ライセンスを取得。トウカイテイオーはゲッタードラゴン、ゲッター紫電(ゲッター斬)のライセンスを、ゴールドシップはゲッターポセイドン、ゲッター金剛のライセンスを取得し、体裁を整えるのである。もちろん、レースのトレーニングも怠らなかったため、三人の力はグンとアップ。こうして、シニア級のトゥインクルレースは群雄割拠の時代を迎えるのである。
――魂の因果を越えようとする者に、ゲッターは力を与える――
その格言はトウカイテイオー、ナリタタイシンに自信を与え、ナリタブライアンの闘志を掻き立てた。ブライアンはテイオー個人に恨みはないため、生徒会メンバーに留任する。しかし、レースでは姉の『仇討ち』に邁進する。それは自分の更に妹であるものの、才能があまりない『ビワタケヒデ』がレースで無理をして、姉のように体を壊すことを心配してのことでもあり、家での『次女』ポジションを窺わせた。また、ビワタケヒデからは『ブライアンお姉ちゃん』と呼ばれており、ビワタケヒデからブライアンへの電話を取り次いだシンボリルドルフをほのぼのさせたという。
――扶桑皇国では、急激に大日本帝国風の風習の多くが『時代遅れ』として捨てられていったが、その一方で、華族という身分は(ウィッチの安定供給のためと国家功労者への褒美も兼ねてだが)妥協的に存続した。扶桑国民が『負けてもないのに、制度をいきなり変える必要があるのか?』と考えていた事、ウィッチ世界では関東大震災が影も形もないため、華族の財政基盤であった銀行が昭和期にも健在であるからであった。カールスラントがドイツ主導で帝政廃止を推進しようとしたら、国家運営が自力で不可能なレベルに混迷し、NATOの現地部隊の独断で軍政下に置かれた事も扶桑国民の判断に影響を与えた。日本では『彼の地で中国が完全に滅んでいるのなら、扶桑が台湾や南洋を統治するのは、地域の安全保障として仕方ないことだ』と容認する声が多数派であるが、『台湾や南洋は自治領にした後、充分に育ったと判断した時に一国として独立させ、拘束のない連邦で互いの繋がりを保たせるのが自然だ』とする声があるが、扶桑も日本同様に本土に近代国としての重要資源が本土に殆どないため、資源の多くを南洋に依存している事、アジア地域の唯一無二の先進国が扶桑であることから『ウィッチ世界では非現実的』と見られている。ウィッチクーデターを鑑み、露骨な政治介入は避けられるようになったが、官庁レベルでの介入や横槍は尚も盛んであり、のぞみの予備士官入りが潰された要因となった。予備士官制度にイメージ的な大打撃を被った軍は教職への転向を望みつつも、とばっちりで潰された希望者を軍学校に配属させたり、嫌味の意図で防大に留学させた。当ののぞみはプリキュアであることもあり、64Fから転出する事はなかったが、日本側からのお詫びという事で『中佐への昇進と多額の補償金(半分は口止め料代わり)の支給』がなされた。補償金は被害者に一律で支払われたが、のぞみが群を抜いて高額であった。天皇も裁可していた話を潰したからで、文部科学大臣が更迭された理由である。――
――日本は、のぞみの一件がそうであるように、自分たちが却って打撃を受けるケースも多く、扶桑への介入に次第に興味を無くしていった。しかし、主だった軍閥の解体には成功した。統制派の長である東條英機夫妻の事実上の国外追放が成ったためだ。こうして、旧来の軍閥は1945年で解体されたが、新興の軍閥であるウィッチ閥が抵抗を続けた。坂本はその動きに与せず、逆に潰す大義名分を黒江に与えた。だが、軍閥を潰した事による『横の繋がりの希薄化』が部隊間の連携の無さに繋がってしまうという想定外の悪循環に繋がった。実に日本的な顛末である。64Fはそのこともあって、司令部直轄という事もあり、他部隊から交流を避けられ、極わずかの親密な関係にある者たちとしか連携できないという状況であった。単騎戦闘力を極限まで高めるという選択肢しかなかったのは、そういった裏事情も大いに関係している――
――新京――
史実では満州国の地名であった新京だが、ウィッチ世界では華僑移民が多い都合で、中国の地名が多く受け継がれているが、扶桑独自の地名として南洋に生まれた経緯がある。人口は80万人を超え、再開発も進展中の南洋の州都である。日本も流石に南洋の重要資源は魅力的な輸入物であるため、南洋独立論は自然消滅していった。(日本が本来は斜陽の時代であるため)坂本とミーナBはホテルのレストランで食事を楽しんでいた。基本的に最前線は沿岸部であったり、新京から遠く離れている地であるので、郊外が爆撃機の爆撃を受ける以外は平和そのものであった。
「平和ね」
「前線から離れているからな。弾道ミサイルまで想定した防空部隊が郊外に配置されている。この時代の戦略爆撃機で手を出そうなど、大馬鹿のやることだ」
戦略爆撃機。ウィッチ世界では、基本はB-17やランカスターが最新鋭のレベルであるが、A世界ではB-36や富嶽が完成していた。そこにVF時代の迎撃兵器が持ち込まれたため、B-29は無力化した。ディフェンダーとファランクスが扶桑各地や高射砲部隊に旧式砲や野戦高射砲の代替として急速に出回ったためだ。
「未来兵器が急速に旧来の高射砲を代替したからな。並の戦略爆撃機は為す術もなく粉砕される。迎撃機もジェット化されてきてるから、よほどの大部隊でもないと、戦略爆撃機は到達できん」
南洋の防空網は日本側もびっくりな『デストロイド』で構築され、B-29程度はハエ同然の存在。とはいえ、敵も低空飛行での突破を試みるなど、『高度が武器にならない』故の試行錯誤を行っていた。しかしそれは、雷電や紫電改と言った旧世代機でも充分に迎撃できる高度を飛ぶことでもあり、史実における日本軍が高高度邀撃に死ぬほど苦労した事実からすれば皮肉な光景である。
「新京には、沿岸部から疎開した人々が増えている。南洋の場合は飛行機か船で事前に本土に戻るか、内陸に逃げるしかない。新京の中心部は疎開してきた人々でごった返している。それと、本土からの物資の集積地でもあるからな」
「地下街を整備しているのは?」
「空襲対策だ。近頃の戦略爆撃機は31トン級の搭載量も当たり前だからな。それにコンクリートくらいは軽く貫通する貫通爆弾も出ている以上はそれに更に耐える構造の避難場所を確保せねばならん。敵はグランドスラムという超大型爆弾を既に確保し、実戦で使い、いくつかの鉄橋を崩落させたし、Uボートのブンカーを崩壊させた。トールボーイという爆弾に耐えられたが、もっと巨大な爆弾を持ち込まれてはな。だから、ラーテ戦車の生産計画の実働実験が撤回された。高機動の人型ロボットで戦艦級の火力を叩きつけるほうが手っ取り早いからな」
「あの計画はウルスラ中尉が関わっていたはず。こちらでは投入予定だったけれど、そちらでは違うのね」
「あんなどでかい代物、爆撃のいい的だし、ベルリンであんなデカブツが活動できるものか。中止命令が出た時点で出来上がっていた七号車までで中止さ。出来上がっていたモノを除いた製造中の個体は解体された」
レストランで注文をし、料理が出来上がるのを待つ間、坂本とミーナBはお互いの世界の違いについて話していた。ラーテはウィッチ世界では『陸上巡洋艦』扱いで生産されていたが、『鉄の無駄遣い』とされ、計画が中止。実戦投入も見送られた。その代替の一環でダイ・アナザー・デイで使用されたのが『一年戦争期の陸戦艇』たちで、ビックトレー級、ヘビーフォーク級陸上戦艦が持ち込まれ、ダイ・アナザー・デイで使用された。その後は扶桑の要請で南洋に配備され、『自衛能力のある移動司令部』代わりに運用されている。
「でも、どうするの?ベルリンの奪還は」
「先送りだ。太平洋が風雲急を告げていたからな。下手すれば、1960年代までずれ込む可能性も大でな。お前らには気の毒だが、これがこの世界でのカールスラント本土だ」
ミーナBは複雑だった。A世界におけるカールスラントは本土奪還どころか、東西分裂すら囁かれるほど情勢が悪化し、軍の主だったエースウィッチは日本連邦の義勇兵となっているからだ。
「全てが破綻したのね、軍備計画が」
「別世界のドイツという同位の国家がカールスラントの極右化を恐れ、帝政そのものを廃し、共和制に無理にしようとしたからな。更に、カールスラント東部を別国家に割譲しようとしたのが明るみに出てな。それで内乱に陥り、今では連合軍(NATOだが)の軍政下にある。帝室も日本連邦に匿われているよ」
カールスラント皇室は日本連邦に匿われ、少なくとも、ノイエ・カールスラントの治安が安定するまでは帰国は叶わなかったという。放出された軍備のうち、機甲装備は日本連邦に買い取られ、太平洋戦争で使用される。全ての目論見が破綻したカールスラントは、その復興に1990年代までの長い時間を費やす羽目となる。
「この世界においては、そう遠くないうちに扶桑が超大国に登りつめるだろう。ブリタニアにはもはや、世界を守るだけの力はない。扶桑の力の象徴が超大和型戦艦だよ」
「超大和型……」
ビスマルク級戦艦の『38cm砲』がおもちゃに見えるほどの巨砲を有する超ヘビー級の戦艦で、大和型戦艦の直接発展型。文字通りにカールスラントやガリアのプライドが木っ端微塵に吹き飛ぶ強さで、単艦で下手な国の海軍の水上部隊を粉砕できると評される。急速に台頭する、扶桑連合艦隊の力の象徴。ミーナBは、ホテルのレストランの壁にかけられていたポスターに描かれた『大和の改良型』がそうであることを悟り、かつての大洋艦隊を記憶している世代であり、一大海軍国であった頃からのプライドを粉微塵にされたでだろうエーリヒ・レーダー元帥(ドイツ海軍元帥)に心底から同情するのだった。