――ゴールドシップが何故、トウカイテイオーとナリタタイシンをドラマティックかつ、強く煽ったのか?その真意は――
「おい、ゴルシにタマ。どういうつもりだ!?」
電話越しに凄い剣幕の黒江だが、ゴールドシップは飄々として、全く動じない。肝が座っているとは、こういう事をいうのだろう。
「家にいるついでに、ゲッターロボの操縦ライセンス取るくらいなら、別に問題はないだろ?あいつらをテキトーに煽ったのはだな。お前のいる世界は単純に平和じゃないって事を連中に自覚させるためだよ」
「あのな、ゴルシ!もう少し、やり方を考えろ。本当に『そうなっちまったら』、その時にどうするんだ!ボケ!!」
「仕方あらへんやろ。学園都市の残党に襲われる可能性だって、無きにあらずやろ?おまけに、ノビスケの両親は各所で恨みを買っとるっーやろ。ウチものっかって、みんなを煽ったのはな、あんたの仲間を呼び出して。あの子を敵から守らすための大義名分を与えるためや。ご両親、特に親父さんは、裏世界の連中に顔が割れてるやないか。あのゴルゴ13だって、休暇のためにホテルに居るだけなのに、『たまたまそこにいただけで』その筋の関係者に勘違いされて、そのまま東西冷戦の諜報戦に巻き込まれる事あったって聞いたで~。ま、手配は頼むで。とはいえ、ウマ娘は他力本願ってのが嫌いなのが多いのも事実や。それは理解してくれや」
「タマ……、お前らなぁ……。ネイサーに正規のゲッターチームの手空きの要員を回してもらうように手配する。普段は俺らや仮面ライダー達が裏でどうにかしてきたが、あいにく、プリキュアも仮面ライダーも出払ってるし、俺らは任務中なんだよ。おまけに、しずかは公安警察の仕事で潜入捜査中で、数年は帰れんときてる。ススキヶ原は学園都市の隣で、治安が悪いから、普通の警備会社は仕事を引き受けがらなくてな。かと言って、自衛隊に個人の邸宅を歩哨付きで警備させる事は不可能だしな。のび太も、あの事件からは気をつけてはいるが、敵もさるもの、あいつが不在だったり、ヒーロー達が不在のところを上手く狙うんだよ」
「……どんなやつも、24時間ぶっ通しで守れるわけはねぇからな。件の事件も、送迎中のところを狙られたんだろ?しばらくはマルゼンの車で送ってもらうか?歩いてるとこを拉致られるってのは古典的な手だが、王道だし。マルゼンのテクなら、ピーキーなセッティングのマシンも乗りこなせるはずだ」
「頼む。ゲッターロボの操縦ライセンスの件は、ネイサーの神隼人って人に問い合わせてくれ。初代ゲッターチームの一人だ。あ、送迎用の車だが、地下にあるスーパーカーを好きに使っていいそうだ」
「マルゼンに言っとく。あいつ、喜ぶぞー。」
ゴールドシップとタマモクロスは真意を黒江に問いただされ、そう答えた。『ドラえもん世界のピリピリした空気に慣れさせるための方便』であると。タマモクロスとゴールドシップはのび太が『誘拐事件』の直後、スネ夫のツテで、日本の大手警備会社に家の警備について問い合わせていたと思われる走り書きを見つけていた。走り書きに残されているものを読み取ると、現地の治安の悪さを理由に、自宅の警備を湾曲的に尽く断われてしまい、官僚としての仕事もあり、どうしても不在が多い故、常に息子の身を守れはしない事に悩み、更に運悪く、妻が公安警察の指令で長期的な潜入捜査を行うことになり、家を長く開ける事になってしまい、息子の警護にかなり悩んでいた様子が窺える。その様子を見かねた養子のコージがキュアドリームとキュアフェリーチェを介し、歴代プリキュアに正式に警護を依頼したのが2017年から2019年の前後にあたる。更に、ドリームがその後に誘拐事件の話をヒーローユニオンに通し、自身が依頼することで、彼等が正式に警護をしてくれることにはなったが、彼等も色々な都合で常に守れるわけではない。のび太夫婦が共働きなのは、しずかが『専業主婦に収まる』事をしずかの父(大学教授職にあった)が勧めなかった事、しずか本人も就業意識が高校時代以降は強くなっていた(良家出身であるが故に、『良妻賢母になる』事を子供の頃から押し付けてきた母親への反抗心から)事、幾多の冒険を経験したことから、国際線キャビンアテンダント志望を覆し、警察官になったのだが……。
「あの子のオカンやけど、どうして警察、それも公安警察になんて入ったんや」
「引き抜かれたんだよ。警察学校で優等生だった上、元々はキャビンアテンダント志望だったから、マルチリンガルでな。おまけに、夫の裏稼業が警察関係に一部漏れたみたいでな。牽制の意味で引き抜かれたみたいだ」
「なんやそれ」
「どういうことだ?」
「連中の言い分は監視だろうな。防衛省がのび太を使って、邪魔者を好きに消してるんじゃないかっていう疑心暗鬼からの…。要するに、ここのところは冷や飯食わされてる警察関係者の僻みだよ。キュアコスモに調べさせた。警察関係には、学園都市と癒着してた連中も多いから、キュアコスモに監視を命じていたんだ」
「夫を妻に見張らせるんかいな。エグいこと考えおるわ」
「日本の警察もなかなかエグいことやりやがる。悪名高い、東ドイツのシュタージまがいの行為だぞ?」
「公安警察は悪くいえば、形を変えた特高警察だからな。自分達にある種の矛先が向くのを恐れてるのさ。馬鹿らしくなるぜ」
ゴールドシップとタマモクロスはドラえもん世界の日本という国の中で行われる警察組織の思い込みからの独走に呆れ返る。防衛関係当局の増長を抑え込むという『使命感』を自分勝手に解釈して暴走させている警察組織の上層部は、政府お抱えなので、本来なら『味方』であるはずののび太と防衛省との癒着を疑い、妻であるしずかに監視を命じていた。それはキュアコスモが調べ上げており、黒江はコスモに『警察上層部の監視』を逆に命じている。
「夫を妻に見張らすなんぞ、旧東側諸国が使った手だぞ?公にバレたら、警察のお偉方の首がいっぺんに飛ぶんだぞ?下手したら、公安委員長もだぞ?旧東ドイツじゃあるまいし、そんな露骨なのをやらせるのか?」
「のび太が消した奴の中には、私腹を肥やしてた、警察のOBも含まれてんだ。『天下り』の口利きとかで儲けてた奴だ。前の総理の時代に始末したんだが、そいつ、現役時代は警察内部でかなりの派閥を持ってたみたいでな。そいつの息がかかってた連中から敵視されるようになった。誘拐事件の二年前のことだ」
「それで、そいつを慕ってた奴らが上級ポストにでも?」
「ああ。それで、そっち(ススキヶ原)に応援が余計に回されにくくなったってわけ。表向きは超能力に対抗できないからって言い訳で。誘拐事件の時も、拉致られそうになった場所はよりによって、警察署のある通りだぞ?俺が怒鳴り込んだ時、警察署長は『上の命令だったんです……』と見苦しい言い訳をしやがった。それでプリキュア達が治安維持の仕事も始めたんだ」
ノビスケの卒園した幼稚園は、しずかが安全を考え、警察署や交番が送迎コースの通路に含まれているところに通わせていたはずだった。更にその警察署には、しずかの縁戚の従兄弟が勤務していた。ところが、学園都市出身の能力者達が誘拐の実行犯だったために、現地の警察は殆ど動かず、その場に居合わせた彼が必死に止めようとした。その従兄弟は重傷を負わされ、彼の奮闘も虚しく、ノビスケは送迎バスごと拉致られそうになった。その時、のび太が『危ない時に使いなさい』と手渡していた、手製の防犯ブザーで難を逃れた。ノビスケはその事件で警察が殆ど何もしてくれず、唯一、誘拐犯を止めようとしてくれた母方の伯父が暴漢に殴られ、その場に倒れ伏す光景を見てしまったこと、必死に戦って負傷したのに、伯父をねぎらうことを警察関係者がしなかったことで『警察』に不信感を抱くようになったという。(警察署の同僚が『余計なことをした』と、彼の陰口を叩くのを聞いてしまったため)
「おまけにあの事件、後味悪い顛末がある。警察にいる、あの子の母方の伯父が通りかかって、必死に戦ってくれたんだが、警棒と拳銃くらいじゃ、能力者には手も足も出なくて、殴り倒されてしまったんだ。歯を折られるほどの一撃でな。彼が応援要請してたのを、警察署は黙殺しやがった。で、そいつには事後に口止めと肩たたきだ。それを教えられたのび太が苦情を言おうとしたが、門前払いされる可能性が大きかったから、俺が時の防衛大臣に頼み込んで、彼を通して、警察庁長官へ文句言ってもらった」
「なんやそれ」
「その時、のび太は公安警察の監視対象にされてたから、文句を言おうにも、色々と調べられたら困ることも多くてな。俺が手を打ったんだよ。それでいて、プリキュアをぬけぬけと表彰してるから、ノビスケが警察不信気味なんだ。実を言うと」
「なるへそ」
「大変だな」
誘拐事件における『しずかの従兄弟の奮闘』は後日、事情を知った警察庁長官が手を回すことで表彰され、孤軍奮闘を評価され、昇進も果たしたが、しばらくは病院から出てこれなかった。せめての慰めは彼の歳の離れた妹がプリキュアのファンであった関係もあり、しずかの手引きで、事件に関係した三人のプリキュアが変身後の姿でお見舞いに訪れたことだろう。
「それにしても、えらいことしてくれたな、えぇ?ゴルシさんよぉ」
「そんなに怒るなよ。万一を考えたんだよ、万一を。その可能性は無きにあらずって言うだろ」
「そりゃそうだが……せめて相談くらいしろ!のび太からノビスケの警護の強化は頼まれてたから、防大の同期が再就職した警備会社に頼んでみてはいたんだぞ」
怒っている黒江、それを躱すゴールドシップ。ゴールドシップなりの考えあってのことなのだ。
「あんたへの相談なしに決めたのは、わりーって思ってる。だけど、やっぱりよ、何かしら、精神的意味の備えは必要だろ。あたしらがいながら、あの子に何かあったら、トレセン学園の……いーや、ウマ娘の名折れだ。せめて、何かはさせてくれよ。何も、戦場で銃を持ってよ、敵と戦うって言ってるわけじゃねぇんだから」
「……わかった。ゲッターのシミュレーターは好きに使え。ただし、実機での訓練は第三者の監視が必要だぞ。いくらお前らでも、だ」
「わーってる。『ハジはかきたくない』からな」
「今から、ネイサーに連絡入れる。一両日中に沙汰が下ると思うから、待ってろ」
「おおきに」
「サンキュー」
ゴールドシップとタマモクロスは『精神的な意味の備え』を強調し、黒江を逆に説き伏せた。ゴールドシップは特に心得ていたからだ。『汝平和を欲さば、戦への備えをせよ』という格言を。ゴールドシップは『レースに備えない前提での惰性的なトレーニングは身が入らないだろう』という事を、早期に引退していたタマモクロス共々に実感しており、『周囲を巻き込み、精神的な危機感を煽る』ことで、トレーニングに一種の緊迫感を持たせたかったのが本当のところ。年長組には『タネ』を話しており、一種の狂言を働くことで、一同のトレーニング効果を精神的側面から向上させる思惑もあった。…が、ネイサーに話が伝わり、更に神隼人から、一文字號ら二代チームに話が伝わったことで話が具体化。理由としては『体験学習』という名目で、ゲッターロボの操縦訓練は本当に受ける羽目となる。ゴールドシップらは言い出しっぺなため、ライセンス取得への訓練をいの一番にさせられたわけだ。訓練の総監督を引き受けた神隼人に冗談交じりに、『これに懲りたら、軽はずみなことは止すんだな』と言われ、ゴールドシップも『そのつもりだよ…』とゲッターロボのシミュレーターをしてみた後、息も絶え絶えで返したという。とはいえ、シミュレーター上の成績は並走トレーニングで『相手に合わせる』事に慣れていたためか、対象者たちの成績は悪くなく、ゲッター軍団の一般パイロットの平均値を上回るという良好な数値であった。
――黒江との電話の二日後――
「ほう。体験学習とはいえ、筋は悪くないな」
野比家にやってきた二代目ゲッターチームの『橘翔』。早乙女博士の助手の一人『橘博士』の実子で、ネオゲッターロボを構成するゲットマシン二号機『ネオジャガー号』のパイロットである。彼女は地球連邦軍出身者でもあり、隼人が『ゲッター計画の再開』にあたり、スカウトした。なお、隼人とは親と亡き実兄を通じ、旧知の間柄である。
「今、体験学習をしているのは?」
「トウカイテイオー君ですね。ドラゴン号のシミュレーションを志願しています」
「すみません。後輩達の思いつきで、あなた方にとんだご迷惑を……」
バツが悪そうに謝るシンボリルドルフ。ゴールドシップとタマモクロスの口八丁にまんまとのせられてしまったからだ。だが、意外にもトウカイテイオーたちは適性があるようで、ルドルフも驚いている。
「天候などはキツめに設定してあります。正規のパイロットでも、合体タイムが伸びがちな悪天候です。ですが、この子は筋がいい」
ゲッターロボの合体までを含めたフライトシミュレーターは以前から開発されていた。最初期のものが車弁慶の抜擢の際に使用され、そこから数バージョンは早乙女研究所の健在時に開発されたが、早乙女研究所の壊滅後はネイサーがゲッター計画を引き継いだ関係で、より実戦的な状況に適合するようにバージョンアップされ、デザリアム戦役後の時期の最新バージョンは最新鋭の『ゲッターロボアーク』、『ゲッターノワール』(ゲッターノワールG)のゲットマシンも収録されている。トウカイテイオーが受けているのは、ゲッターロボGのドラゴン号。合体順が一号機と二号機の合体からの三号機の合体なので、三号機から合体する他のゲットマシンより難易度は高い。
『チェェ~ンジ!!ドラゴンッ!!スイッチぃぃ~オン!』
日頃のストレス解消のためか、元気よく、ゲッタードラゴンへの合体のための音声入力を叫んでいる。シミュレーター内の合体の3Dモデルが表示される外部モニターには、ドラゴン号とライガー号が合体したところにポセイドン号が頭から突っ込み、ゲッタードラゴンへの合体を終える様子が映る。シミュレーター上での事とはいえ、かなり良好なタイムが計測されている。
「どういう合体なのですか?どう考えても、あのような……」
「ゲッターロボの外装は高性能な形状記憶合金なのです。よく見て、ご覧なさい。腕と脚の内部フレームが伸縮したところを形状記憶合金の外装チップが展開しているでしょう?」
ゲッターロボは基本的に、ゲットマシンの航空機形態からのロボ形態で使われる腕と脚の展開などは形状記憶合金の外装チップが伸縮する腕部や脚部用のフレームを覆う形で行われる。ゲッタードラゴン以降のゲッターロボに用いられる合成鋼Gは初代ゲッターのものより性能が向上しているため、傍から見れば、モーフィングに近い様相の合体だが、基本的には外装チップの展開速度が初代より増しているに過ぎない。現実化すると、意外にモーフィング変形度は低いわけだ。複雑な形状に変形する形状記憶合金であるため、物理的強度はシンプルなスーパーロボットであるマジンガーの超合金よりは低いが、MSよりは数段高い。ただし、それはゲッターロボGやゲッターロボアークなどの『大人しめな』マシンのみ。真ゲッターロボ以上のマシンは自己再生機能を有し、もはや物理的性質を超えたものを持つが。
「しかし、たった数百年でここまで?」
「宇宙人の残していった技術を解析したり、長年の戦争で軍事技術だけが異常発達した結果です。人型兵器が戦争のメイン兵器に様変わりして十数年ですから」
ゲッター合金(ゲッターロボの構成材)、超合金Z系の超合金、硬化テクタイト板の実用化は日本に古来から伝わっていたり、新たに伝わった宇宙技術を既存のものと組み合わせて昇華・実現させたものである。初代マクロスの解析で得られたものを発達させたものも含めると、統合戦争勃発前よりも軍事面では発達している。
「この世界は宇宙人が古来より飛来していたり、落とし物をたくさんしていったので、地球人の技術がある程度まで発達すると、利用せんとしようとした。第二次世界大戦のナチスや日本帝国がそれでしたが、当然、無理があった。それから数百年で安定供給できる形になったものが人型兵器であり、波動エンジンです」
橘翔は簡潔にまとめて、ドラえもん世界における技術発展を説明する。統合戦争はそれを一度は手に入れた日本を恐れた西洋諸国が意図的に戦争を拡大したはいいが、歯止めがかからない状態になり、終わった時には民生技術が低下する一方で、軍事技術だけが発達する異常な状態に陥っており、その是正に努めていた中心的な集団の一つがのび太たちの子孫たちである。スネ夫や出木杉の一族からは技術者も多く輩出している。
「この世界は22世紀の前半から、慢性的に戦争状態が続きます。失った物も莫大に登り、それ故に、宇宙に新天地を求める動きが具体化したのです。ゲッターロボも元は宇宙開発が最初の存在意義でした」
「宇宙へ移民?」
「ええ。SFでよくあるコロニーや月面都市、火星、あるいは太陽系外惑星への移民。それらへの情熱が燃え上がったのですが、我々から見て……16、7年ほど昔のになる22世紀の終盤、あるコロニー群の政治家の一族が野心を抱いた。人々の独立欲を利用する形で政権を掌握した彼らは、同胞にも躊躇なく引き金を引き、地球全域を戦場にした戦争を起こした。オーストラリアの数十%の大地をこの世から消すほどの」
「なっ……!?」
「この世界においては、22世紀の終わりに起きる事実です。シドニーとキャンベラはごっそり削り取られ、巨大なクレーターが残るのみになります。この時にシドニー・オペラハウスを都市ごと消滅させた事が、地球で過激派が力をつける原因にもなります」
一年戦争でジオンが世界遺産を躊躇なく破壊したり、コロニーにいない動物を害獣扱いして駆除してしまうなどの愚行を働いた結果、ティターンズという過激派の勃興を招いた。そのカウンターとなるエゥーゴが勝利はしたが、ジオン公国残党のテロ活動は同胞のはずのジオン共和国にも及んでいる。結果、最大派閥のネオ・ジオンの三度の敗北を以て、彼らの狂信的行為は幕を下ろすわけだ。
「貴方方には関係ないことでしょうが、そういった血みどろの歴史背景があることはご理解いただきたい」
「なるほど……」
シンボリルドルフはこの後、生徒会長からの勇退の表明の準備を始めることになる。空いた時間でドラえもん世界における23世紀までの歴史を調べていき、ゴールドシップがなぜ、周囲を巻き込んでの大規模な狂言を実行したのか?という疑問の答えを見出そうとする。生徒会長から退くのは来学期のことだろうが、テイオーを育てることに専念したいため、実務はエアグルーヴとナリタブライアンに丸投げしたいのが本音だ。トウショウボーイは『テイオー君をそのまま成長させると、ルドルフになる』と述べており、ルドルフの本質は現在のテイオーに近い事が明言されている。
「私はこれを見届けたら、理事長に提出する辞表を書かねば。元の世界で生徒が一人、マスコミの誹謗中傷が原因で失踪しまして……。現場指揮は私の先輩で、学園OGのテンポイントさんが執っています。件のその子の同期の子らも探し回っているようなのですが、一向に行方がつかめず…。生徒会長として、こんなにも無力さを感じた事は初めてです……」
ルドルフはキングヘイロー失踪事件の責任を取る形で、生徒会長を辞任をするのを前提に動いている。ルドルフにとっても、ヘイロー家の醜聞から始まった、失踪事件はかなりの衝撃であったようで、普段の威厳は多少なりとも鳴りを潜めてしまっているのが、耳の様子からもわかる。
「私どもも協力しましょう。現地に潜り込ませてある、この世界の自衛隊員……その内の情報戦や諜報戦の専門家を動員させます」
「ありがとうございます、橘少佐……」
「トウカイテイオー君のシミュレーターの終了時間になり次第、さっそく会議に入りましょう」
「トウショウ先輩にも伝えておきます。テイオーには、今夜は生徒会のオンライン会議だと言っておきましょう」
「それが賢明ですな」
落ち込むルドルフを見かねた橘翔は、ウマ娘世界に駐在しているGフォースの内、情報戦や諜報戦に長ける人員をキングヘイロー捜索に協力させることを告げる。行方をくらましたG1級のウマ娘の捜索は、警察の力では限界があるからである。その頃、ゴールドシップの指令を受けたスペシャルウィークは必死に府中市全域を探し回っていた。
『どこなの、キングちゃぁん!!』
ウマ娘世界の府中市の空に響く、スペシャルウィークの悲痛な叫び。スペシャルウィークまでもが一向に寮へ戻ってこない事を心配したサイレンススズカから事情を聞き出したグラスワンダーとエルコンドルパサーが探しに出るなど、トレセン学園は混乱の渦中にあった。ヘイロー家のお家騒動に始まる一連の混乱は、ルドルフの生徒会長としてのキャリアに唐突に終止符を打った事件として記録される。同時に、選挙無しで、トウカイテイオーがルドルフの生徒会長としての後継者となる事に、協会本部が口を挟めなくなった理由にもなった。そして、事件の発覚で、キングヘイローの母親のグッバイヘイローに打診されていた、欧州と北米のウマ娘競走協会の記事の就任要請も一斉に撤回されてしまい、名声が地に落ちかけていた。グッバイヘイローを銃撃した執事が逃亡先の大阪で大阪府警に逮捕されたというニュースが駆け巡ったのも、この日のこと。傷心のキングヘイローが変装と偽名を使い、神戸行きのフェリーに乗船したのは、そのニュースがTVニュースで報じられたのと同じ時刻であった…。神戸は父親と母・グッバイヘイローが出会い、恋に落ちた場所であったからだ…。