ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第二百六十八話「幕間その11 ゲッターがゴルシに見せたものとは?」

――扶桑皇国海軍は結局、空母機動部隊をジェット化することなどに手間取ったため、1950年代までまともに行動できない有様であった。そのため、本来得られるはずの手柄を戦艦部隊に取られていた。とはいえ、日本側はあ号作戦の戦訓で空母機動部隊の練度を高め、敵が追いつけない技術力差の艦載機に統一したがっており、1950年代まで作戦行動は禁止されていた都合もある。軍事的には致命的なため、戦艦を通商破壊に使いまくるという贅沢極まりない運用で誤魔化していた。その運用は無茶も多いので、ドック入りの頻度も高く、予備艦が増産されるに至る。とはいえ、戦艦と空母を同時に7隻以上量産可能な国力のリベリオンは膨大な物量を誇り、多少の損害はすぐに埋め合わせできるのである――

 

 

 

 

 

――扶桑海軍空母機動部隊の最大の問題は『艦載機が一気に大型化してしまったことで、載せられる空母がない!!』ことだ。特に、F-4以降の大型機は大戦型空母では、ミッドウェイ級でさえも手狭なほどのサイズであるため、早急に超大型空母が求められた。しかし、維持費や調達費の都合から、建造開始が1940年代後半。完成は50年代半ばともされるので、結局は戦艦が通商破壊作戦に動員されたわけだ。また、ダイ・アナザー・デイ当時から提供されている陸戦艇は重宝された。実質的にラーテ戦車のネガを潰したものに近いためだ。太平洋戦争では、南洋で敵味方共に、一年戦争からデラーズ紛争当時までに建造された陸戦艇が使用され、実質的に移動司令部兼移動砲台として使用されている。ヘビーフォーク級陸上戦艦は特に移動砲台の役目に適任で、陸上戦力の近代化が遅れ気味の扶桑には助けとなった。陸上戦力の完全な近代化は10年以上の月日を要する作業だが、扶桑にはその余裕がなく、一点豪華主義にならざるを得なかった。64Fが一航空部隊としては、あまりに過剰戦力な理由の一端はそこにある――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ウマ娘達はそんな戦争の動きには関わる事はなかったが、完全にその事情と無縁ではなかった。裏で彼らリベリオンを操る者の一つである『組織』からウマ娘世界を守るための情報提供などは必要だったからである。また、組織のスパイの排除は連邦軍だけでは完全にはできないため、ウマ娘たちにも一定程度の護身術の履修は推奨された。ウマ娘達はデフォルトで人間の一流アスリートを有に上回る能力を誇るが、組織の改造人間や吸血鬼などはもっと上の能力値を持つからだ――

 

 

――2021年 骨川家 カラオケルーム――

 

ウマ娘たちの歌の練習は、骨川家が2010年代に増設したカラオケルームで行われた。スネ夫はおなじみ五人の中では比較的まともな歌唱力と音楽知識があったため、カラオケルームを(ジャイアンに半分は脅されたが)増設した。ススキヶ原は駅前通りのカラオケ店が疫病による財政難で閉店してしまっており、個人で店と遜色ないサービスを提供できる骨川家のカラオケルームのレンタルは好評であったが、最近は使う者もいないため、ウマ娘たちに練習場として提供された。曲はゴールドシップの悪ノリで『DRAGON』、『STORM』、『HEATS』の三連発から始まった。ゴールドシップはゲッターロボの存在を知っていたり、皆に発破をかけるために、大仰な狂言を仕掛けるなど、どこか『運命を打ち破ること』を望んでいるような節がある。それはタマモクロスも同様である。

 

「ねえ。あんたら、どうして、こうなるように仕向けたの?」

 

「お前も見たろ、タイシン。あの幻の光景を。ありゃ多分、アタシたちの魂に刻まれた『前世の記憶』だ」

 

「……うちもや。テイオーとマックイーンも見たって言っとった」

 

「アタシたちの前世で起こった出来事がそのまま起きたんだよ、タイシン。お前が皐月賞で勝った後、一度も大レースで勝てなかったり、タマが足を早い段階で潰しちまったようにな」

 

タマモクロスは大切な者たちの治療費を稼ぐために無茶をしたせいで、『脚を潰す』格好になった。それが前世の出来事に極めて酷似していることに気づいたため、処置を早い段階で受け、全盛期の実力を取り戻した。ゴールドシップは『別世界の記憶が呼び覚まされた』ことを感じ取り、タマモクロスを抱き込んだのである。

 

「そんな!?それじゃ……!」

 

「そうだ。因果って奴の鎖が縛ってんのさ。それを断ち切るためには、ゲッターエネルギーの『進化を促す力』が必要なのさ」

 

ゴールドシップはゲッターエネルギーに魅入られたかのような言動を見せたが、テイオーの度重なる怪我が『どんなに適切な治療とリハビリをしても』起こったことを疑問に思い、調べていく過程で辿りついた皮肉な答え。ゲッターエネルギーという人智を超えたものにすがることで、ウマ娘という存在そのものを縛る鎖を断ち切ろうとしている。ゲッターエネルギーにはそれだけの魅力があるのだ。

 

「だから『乗ろう』っていうペテンを打ったわけ?」

 

「まぁ、ライセンスを取る分にはタダだしな」

 

ゴールドシップはどういうわけか、協会の動きすらも把握していた。ルドルフに退任の最終的な決断を促す、テイオーらにゲッターエネルギーを浴びることを薦めるなど、色んな意味で危ない領域に突入している。

 

「ゴルシ、色々危ない事になってない?」

 

「本能に身を委ねれば、全てわかってくる!なんで、アタシ達が走るのか、アタシ達には、そうすることしか道が無いことも……」

 

ゴールドシップはゲッター線に魅入られたかのような台詞回しで、その問いを肯定した。前世の記憶に目覚めたからか、因果に引っ張られ、ウマ娘としての願いが叶わなかった者たちに『信じられないほど』慈悲深くなっていた。その一方で、走ることを本能と言い切るなど、闘争心も増幅している事が示されている。

 

「確かに…ね」

 

「タイシン?」

 

「あたしは結局、クラシックのG1は皐月賞しか取れなかった。テイオー、アンタも三冠は取れなかった。それが魂レベルの既定路線なら、あたしは運命に抗う。ゲッターの力を借りても、ね」

 

タイシンはゲッターの力を借りても、魂レベルで刻まれた因果を超えることを宣言した。物言いが柔らかくなっているのは、ノビスケとの交流でTPOを弁えたり、本人が刺々しさを捨てた事による。

 

「トレーナーには連絡入れたか?」

 

「ん、ああ、入れたよ。ハヤヒデが腰抜かしてたけどね」

 

「お前、ハヤヒデと同じトレーナーだっけ?」

 

「成り行きでね。今度からは誘いは断らないようにする」

 

ノビスケとの交流で、自分の行いがひねくれていたことを自覚したタイシンは徐々に本来の優しさを表に出すようになっていく。タイシンは史実では事実上、ライスシャワーに引導を渡されている。その意趣返しでライスシャワーをレースで倒す(抜き去る)事も考えたが、そのライスシャワーもサイレンススズカと同等以上の悲劇的結末を迎えてしまう因果を持つ(競走馬・ライスシャワーは京都競馬場が終焉の地である)ため、その友人のミホノブルボン(さすがのミホノブルボンも、友人にその因果があると知れば、どうしようもないほど取り乱すのは容易に想像できる)の事もあり、やめている。ウマ娘としてのライスシャワーは良き友人だからだ。

 

「何の因果か、ゲッターに関わることになったけどさ、エネルギーの凄さ的に、機体は入れ物に近いんじゃ?」

 

「ドラゴンの領域を超えるとな。機械的に制御が効くのは、ゲッタードラゴンまでだ。それを超えると、一気に人智を超えた領域になる。だから、ゲッターアークが優等生だって言われんだ」

 

ゲッターロボの強さとゲッター線の意思の器になる率は比例しており、ゲッターロボGを超えた領域に突入すると、一気に機械的制御は困難になる。真ゲッターロボも一文字號の気合で『神ゲッターロボ』へ進化する機能を得るなど、意思次第でゲッターが従う様子もある。ゴールドシップはゲッターロボアークの存在も知っているなど、かなりの機密情報に触れる事が許されているらしき素振りも見せる。

 

「ちょっと待った、ゴルシ!なんで、そんなことまで知ってんの!?」

 

「なに、ツテがあるんだよ」

 

ゴールドシップはトウカイテイオーの指摘をそう言って誤魔化したが、実はゴールドシップはカールスラントのエース『ハンナ・U・ルーデル』の同位体でもあったので、ルーデルの記憶を共有していた。そのため、ルーデルの持つアクセスコードで地球連邦軍の情報ネットワークにアクセスし、そこから情報を得ていた。(ルーデル当人とも邂逅済みで、ゴールドシップの破天荒さの由来の一部はルーデル由来のところもある事が判明している)妙に聡明なところがあるのは史実での父方の祖父『サンデーサイレンス』とルーデル、気性が荒い面は父『ステイゴールド』と母方の祖父であるメジロマックイーン由来であるなど、ウマ娘随一の複雑怪奇なところを持つ。

 

「ところで、アンタ。マルゼンさんの世代が悲劇ってどういう事?」

 

「あん?なんだ、タイシン。知らねーの?あいつの世代を語る時に、常について回る言葉が悲劇なんだ」

 

「ええ。マルゼンスキー先輩の世代は……マルゼンスキー先輩が外国の出生であるというところから始まっていたのですから……」

 

ゴールドシップとメジロマックイーンはナリタタイシンに教える。マルゼンスキーと同世代のウマ娘たちが辿った苦難と悲劇を。

 

「私達も、彼女の先輩であるTTGの皆さんから聞いたのですが……」

 

TTGの三人がシニア級の年齢を迎えた頃に、マルゼンスキーは新人としてデビューした。同世代の中では突出した速さを誇っており、長距離への適性は疑問視されたものの、中距離以下では天下無双というべき脚を誇った。ただし、新人時代から『怪我をしやすい』という不安点もあったため、その大成については、新人時代は疑問視されていた。だが、いざレースに打って出ると、ぶっちぎりでの一位を連発。対決を避ける者が多すぎた結果、レースが成立しないという珍事も日常茶飯事であった。(従って、TTGの三人とはあまり年齢が離れていない事がわかる)さらに、マルゼンスキーは『日本生まれではない』という点が災いし、日本ダービーへの出走資格がなく、世代最強でありながら、真価を問える場を失った。シニア級の有馬記念に出走する事なく、トゥインクル・シリーズを引退した事もあり、同世代の国内生まれのウマ娘達は『盛りを過ぎたはずのTTGにも歯が立たなかった』という事実が重い十字架となり、多くは引退後も協会への就職さえも困難を極め、ハードバージに至っては不幸にも、若死にしてしまった姿を晒した。彼女の死は『引退した後は知らんぷり』であった協会への批判を生み、ドリームシリーズの創設、引退後の年金制度の創設など、福利厚生が改善するきっかけとなった。また、マルゼンスキーの存在が出生地での規制の緩和の道を開き、オグリキャップの存在がクラシック登録制度を改善させるきっかけとなった。

 

「……というわけですわ」

 

「マルゼンさんとオグリ先輩が……」

 

「そうだ。あの二人がスター性を持っていたのに対して、オペラオーはメイショウドトウしか、まともに戦える同世代がいねぇと来てる。しかも、ドドウは弱気な性格だ。イナリワンやスーパークリークみてぇな闘争心はない……としか言えねぇ。だから、あいつはスター性を得られていない。芝居じみた態度は母親が舞台女優だからだって言ってるが、スター性を求めてるのもあるだろう」

 

 

オグリキャップの全盛期が『ウマ娘競争絶頂期』であるとするほどの盛り上がりであった。オグリキャップ引退後にその恩恵を受けたの存在がテイエムオペラオーだが、『オペラオーが出るレースでは、メイショウドトウがいつも二着である』という点から、スター性、ドラマ性に欠けるとされ、世間も彼女をスターとは見なしていない。オグリキャップがタマモクロス、タマモクロスが去った後はイナリワン、スーパークリークと鎬を削っていたのと対象的に『同世代にライバル意識を持つウマ娘がいない(メイショウドトウ含め)』のがオペラオー最大の不幸であった。結局、オペラオーはシンボリルドルフの実績を超えることはならずじまい。獲得賞金は歴代随一であった事から、『金の亡者』という悪評さえ生じてしまう。彼女が『スター性』という意味では成功しきれなかった事で、世の中はナリタブライアンの次代の三冠ウマ娘の登場を願うようになる。後に『ディープインパクト』というウマ娘が成すが、それは当分は先のこと)

 

「三冠ウマ娘はディープインパクト、コントレイル、オルフェーヴルのどれかが現れるまでは出ないことはわかってる。ブライアンの成績が低迷して、リギルのトレーナーが悪者にされたのは、三冠ウマ娘は普通、低い頻度でしか出ない事を協会はわかってたんだ」

 

戦前の三冠ウマ娘であるセントライト、戦後の三冠ウマ娘となったシンザン、ミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアン。史実では、セントライトからシンザンへの間隔は、凡そ20年あまり。そのシンザンからミスターシービーまでも19年。それを考えれば、シンボリルドルフからナリタブライアンは短いといえるが、ナリタブライアンは三冠を獲得した時がピークであり、それ以降は下降線であった。ブライアン自身、『その幻覚を見てしまった』故に、レースへの渇望は強まっている。

 

「ゴルシ……なんか、目がグルグルだよ…?」

 

「気にすんな。副作用みてーなもんだ」

 

ゴールドシップは全てを知っているような口ぶりかつ、直接、ゲッターエネルギーを浴びたかのようである。更に高濃度のゲッター線を浴びたのか、普段と全く違う恐ろしさを見せていた。

 

「ゴールドシップ。お前……何を知っている!」

 

「そう熱り立つなよ、ブライアン。お前の後、しばらくは三冠ウマ娘はでねーって言ってるだけだ」

 

熱り立つナリタブライアンを驚くほどに冷静な口ぶりで制するゴールドシップ。声の雰囲気もどことなく落ち着いているものの、どこか恐ろしさをも感じさせるものだ。

 

「……どういうことだ、ゴールドシップ!!お前は……なんだ、なんなんだ!?」

 

「『宿命』を超えたいと願ったウマ娘の一人さ。それ故にゲッターを受け入れた。それだけだ」

 

静かに、ゴールドシップは言う。ゲッターを受け入れたのは、ウマ娘という種族・形質の宿命を超えんがためだと。そして、ゲッター線が彼女に見せた光景が『自分の知るウマ娘たちの競走馬としての運命』であり、当然、その中には悲劇的最期を遂げるサイレンススズカとライスシャワーが含まれており、さすがのゴールドシップも、あまりに『残酷な光景』に発狂寸前になった。そして、テイオーも『あの有馬記念が競走生活最後の輝きであった』事を知り、ゴールドシップはゲッターの意思に願ったのだ。『友を因果から解き放ってくれ』と。その結果、ウマ娘として初めて、ゲッター線の意思にその身を委ねる事になったのだ。黒江たちはもたらされたゲッターの力を戦場で使ったが、ゴールドシップはその力を『友を因果から解き放つため』に使ったわけだ。その点からも、ゴールドシップは明確に線引をしていることがわかる。

 

「『戦い』そのものはあいつらに任せる。アタシ達の種族的存在意義は走ることだ。三女神が生まれ、彼女らがウマ娘の祖となった時点で決められたことだ。もちろん、あの子を守ることそのものを否定してるわけじゃない。あいつらも、あたしらが『戦い』に深く関わるのは避けようとしてる。だから、お互いに線引は必要ってことだ。あいつらが戦場で『地球に関係するものを守る』のなら、アタシらは『帰るべき日常』を守る。そのために、ゲッタードラゴンを使う事はあるだろうってことだ」

 

ゴールドシップは自分らの過ごす日常を壊す事は許さない事を直接的な表現で断言した。黒江たちの『戦争』には関わらない事。それはゴールドシップの考える大前提だが、組織はそんな事情を考慮してはくれない。守るためには力が必要であるのだ。

 

「守るためには、力ってことか…?」

 

「そうだ、ブライアン。お前の姉貴がお前に背中を見せ続けるために強くなったように、何かを守る、貫き通すって行為にはな、犠牲を伴うんだ。別世界のお前自身は三冠馬としては悲劇的な結末になったからな…」

 

ブライアンはその言葉の意味を悟り、青ざめる。彼女自身も見たからだ。競走馬・ナリタブライアンの波乱万丈の馬生を。そして、三冠達成後に待ち受けていた残酷までの運命を。

 

「……ああ。だが、この私に何ができるというんだ!答えやがれ!!」

 

「運命を超えることだ。」

 

「運命を超えるだと…!?」

 

「そうだ。テイオー、マックイーン。お前らもだ。あいつと出会う時点で、動き出したんだよ。運命を超えるための歯車がな」

 

「まさか、私達の見た光景は……」

 

「前世の記憶ってこと?」

 

「おそらくな。だいたいは同じような道を辿った。だが、有馬記念ではっきりと分岐した。マックイーン。お前は引退を免れたし、テイオーは四度目の骨折を避けられた。ブライアン。お前は周りから『落ち目になったら、三冠の名誉のために引退しろ』と言われなくなる。それはこれからのレースでわかる。マヤノトップガンもそれを望んでいる」

 

「……あいつは私が燃え尽きないことを望んだのか?」

 

「そうだ。会長超えはお前たちには出来なくても、後に続く誰かが、いつか必ず成し遂げてくれる。それが会長に救いになるように、マヤノはお前が蘇る事を望んでいる」

 

「……それがお前の……いや、ゲッターがお前に見せた答えなのか…?」

 

「それは自分で見極めろ。だが、マヤノがお前を信じているのは本当だ」

 

ゴールドシップはゲッターの意思を代弁するかのように、落ち着いた声色で喋っている。神秘的でありつつも、どこか恐ろしげですらある独特の雰囲気を醸し出していた。一同にはわからなかった。ゲッターの意思(一同は知らないが、強いて言うなら、それは究極のゲッターロボであるゲッターエンペラーの意思であるかもしれない)がゴールドシップの身体を借りて借りて話したのか、ゴールドシップが自らの意思で喋っているのか?それはわからない。だが、自分達の魂のレベルで刻まれた因果を超えろと促すところから、ゴールドシップの思考が反映されていないわけではないことも窺える。

 

「……それがゲッターが求める答えなら、アタシはやってやる。皐月賞しかG1を勝てない二流のウマ娘のままでいたくない!!やっと……やっと見つけた気がするから。アタシが本当に欲しかったモノを……ッ」

 

 

タイシンが吠える。彼女はBNWの中で最弱という色眼鏡で見られるようになっていた事、周囲の期待に応えられない自分への自己嫌悪などが綯い交ぜになった結果、幼少期からのコンプレックスとの相乗効果でかなり歪んでしまっていた。自身でその自覚はあったからこそ、自分を見出してくれたトレーナーのことは普段は口に出さなくとも信頼している。また、病弱だったことで母親が過保護になったことで、正常な形での親愛を得られなかったため、周囲の反応が怖くなった。だからこそ、普段はつっけんどんと言われるような刺々しい態度を取っていた。だからこそ、大人にありがちの損得勘定無しで自分を素直に慕うノビスケ少年はタイシンが心の底で求めていた『温かさ』と『親愛』の象徴であった。

 

「あの子、トレーナーみたいなんだ。暑苦しくて、スポーツしてて……、それで学校で人気者。……子供の頃、アタシがウマ娘ってのを利用しようとして、近づいてきた連中はウザかったし、アタシがこんな身体で生まれた事を憐れむ大人たちも鬱陶しかった。だから、損得勘定無しでアタシに接してくるのは……居心地が良かった。あたし、ハヤヒデやチケットみたいに、兄弟いるわけじゃなかったから、嬉しくてさ…。あの子もそう。普段はガキ大将ぶってても、本質は歳相応。両親が殆どいない生活の寂しさをスポーツで埋めようとしてる。昔のアタシもそうだったから、他人事って思えなかった。両親の代わりにはなれなくても、いい『お姉ちゃん』にはなれる。だから……」

 

タイシンはノビスケの境遇に親近感を懐いていた。故に、面倒を見る気になったのだと。両親の代わりにはなれなくても、よき友人にはなれる。それは自分が子供の頃に、自分とよく遊んでくれた『一時期、家の近所に住んでいたウマ娘』(後に、そのウマ娘は若き日のグリーングラスであった事が判明する)が自分の中の寂しさを紛らわせてくれた事の経験からで、そのウマ娘が自分にしてくれたように、自分も誰かの救いになりたいと考えていた。タイシンの告白に聞き入る一同。優しく微笑むメジロマックイーン、ゴールドシップ。嬉しそうに笑みをこぼすウイニングチケットであった。

 

 

 

 

 

 

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