――ウィッチ世界で重宝されたコスモタイガーだが、未来世界ではコスモパルサーへの更新が取り沙汰されていた。その一方で、既存生産ラインを改変する必要があるパルサーへの早急な転換に疑問を持つ派閥の手で、コスモタイガーⅢが試作される運びになった。この流れは早期にディンギル帝国とハイパー放射ミサイルの脅威が知られたためだ。ハイパー放射ミサイルを迎撃できる防空艦の建造に予算がつくか不明であったため、先に重武装の艦載機を開発する方向になったのだ。コスモタイガーⅢの開発はその方向性の模索であった。マルゼンスキーがツーリングに出かける日の夕方、トウカイテイオーは地球連邦軍から搬入された同機を目にした――
「ん?何あれ」
「地下に戦闘機を搬入しているようですわね」
「ありゃ……コスモタイガーの改良試作機だな。コスモハウンドほどじゃねーが……、かなり大型になってんな。現用の戦闘爆撃機並のサイズだぜ…」
宇宙戦闘機の時代、20mを超える大型機は艦載運用に適さないと判定される事が多い。しかし、重武装・高加速を両立させようとすると大型化は避けられない。21世紀の現用戦闘機は18m前後であるため、15m前後のコスモタイガーは小さめに見える。搬入されている試作機はそれよりかなり大型で、23世紀の基準では『爆撃機』と呼ぶべき大きさになっている。
「コスモタイガーって、宇宙戦艦ヤマトに出てくる?」
「ああ。この世界だと実在してるんだけど、意外にちっせえんだ。それを現用の大型戦闘爆撃機のサイズにまで引き上げてやがる。あれじゃ、戦艦や空母での運用には向かねーぞ?」
ゴールドシップは記憶の共有で、地球連邦軍の艦載機運用事情も知っているため、運ばれてきた試作機の欠点を軽く指摘してみせる。
「あなた、どうしてそんな事情まで……聞きかじりにしては……?」
「アタシはどーも、あいつの上官だったドイツ空軍の大佐と記憶を共有してるっぽくてな。そいつが体験した事をアタシも見られるってゆーか、辞書みたいに参照できる状態になってるみたいなんだ」
メジロマックイーンの疑問に答えるゴールドシップ。あまりに地球連邦軍の部内の事情に詳しすぎるからだが、ゴールドシップはここである種の確信に至っていた事実を伝えた。黒江の上官であった『ハンナ・U・ルーデル』と記憶を共有する状態にあると。生粋の現場主義者かつ『ウォーモンガー』であるルーデルは64Fの運営にも深く関わっているため、その彼女の記憶を共有可能な状態となったゴールドシップが地球連邦宇宙軍の事情に詳しくなっているのは自明の理であった。
「だから、あいつ(黒江のこと)の相談に乗ってやる事も増えてよ。戦争には関わるつもりはねぇが、相談くらいは乗ってやるって事にしたんだ。それに、会長もブライアンも、シービーも超えるウマ娘が現れる可能性を知ったからな」
「会長達を超える……!?」
「ああ」
ブライアンの後に続く三冠馬。それはディープインパクトの事である。単純なスピードではサイレンススズカが一位だが、それ以外の要素を勘案した場合、総合力ではシービーやルドルフ、ブライアンを超えていたのでは?とされるほどの実力を誇ったという、サンデーサイレンスの最高傑作。精神的にはルドルフに劣ると言われるが、基礎能力は互角であったと評される。トレセン学園在校生で、ディープインパクト後の世代の馬の魂を持っている者は少ない。ディープインパクトの魂を持つウマ娘が現れた場合、ルドルフの全盛期に匹敵するポテンシャルを以て、在校生の尽くを抜き去り、サイレンススズカしか対抗出来ないとされるようになるという未来は容易に推測出来た。ディープインパクトの全盛期の実力はまさに『当代最強』。ナリタブライアンの実力を『過去』に置き去りにしたとされ、全盛期のシンボリルドルフに匹敵しうると言われた、2000年代生まれの星。
「競走馬としては、アタシやスペ、スズカの甥っ子にあたる奴さ。会長みてぇな落ち着きはねえが、ブライアンなんて問題外。マヤノが記録したレコードを更に塗り替えた俊足の持ち主。それでも凱旋門賞は勝てなかったがな」
凱旋門賞はディープインパクトを以ても勝てていないし、ゴールドシップ自身も惨敗している。それだけ高い壁である。
「あたしらにとってのブロワイエ……この世界だと『モンジュー』か。その血統が日本勢の挑戦を退けてきた。エルコンドルパサーが差されたのが最高順位のままだから、如何に凱旋門賞の敷居が高いって話だ。ブライアンの奴、この世界だと胃の破裂で死んだから、偏食させんようにしねーとな。あいつ、ステーキにビーフシチューとかつけるくらいに、肉が好きだろ」
「うん」
「明日から五日間、肉抜きだと伝えておいてくれ。ハヤヒデからの伝言だ」
と、そこに。
「あ、噂をすれば」
「おい、ゴルシ!!姉貴からのメールを見たが、どういうことだ!!」
ショックな事があったか、凄まじい勢いでやってきては、ゴールドシップに食ってかかるナリタブライアンだが、ゴールドシップは飄々としている。
「見てのとーりだ。五日間の肉抜きだよ」
「ヒシアマゾンが心配してたぞ、お前の偏食。胃に負担かけてるから、胃を労れよな」
「だからって、肉を食わせんなど、どういうことだ!!」
「お前、聞いたぞ?野菜を全く食わねーんだって?んなんだから、胃がヘタるんだっての」
「うっ……!」
「ハヤヒデも心配してんだ。少しは姉貴を安心させてやれよ」
「お、お前は私のおふくろか!?」
一気に恥ずかしくなったか、赤面しつつもムキになるナリタブライアン。ゴールドシップはルーデルを彷彿とさせる態度で翻弄する。また、メジロの血を受け継いでいたという自覚も生まれたためか、面倒見の良いところも出来ている。
「あなた、いったい…」
「なーに、あたしも色々あったんだよ、マックイーン」
それまでの自由奔放さが嘘のように冷静な雰囲気を纏うゴールドシップ。頭脳明晰な一面があるのも事実だが、物事は単純ではないことを匂わせる。
「暇だし、見に行ってみようぜ」
一同は地下格納庫に入り、格納庫に置かれるコスモタイガーⅢを見に行った。23世紀の世界で試作された機体だが、ゴールドシップの言う通り、23世紀世界の戦闘機にしては大型。現用機と比較しても、かなりの大型の部類に入る巨体であった。コスモタイガーの基本フォーマットを使った大型爆撃機という方がしっくりくるものだった。
「カナードつけて、エンジンを双発か?なんか方向性が迷走してる気がすんな」
コスモタイガーⅢはパルサーへの機種変更が既定路線化している事に反対する者たちが開発させた機体である。既存のコスモタイガーの部品をできるだけ流用したので、前型機と機首などは共通しているが、全体的に大型化している。どちらかと言うと、重戦闘機・攻撃機という方が正しいような気がする姿だ。
「やあ、皆さん」
「これは?」
「軍が試作させた戦闘機ですよ。我々の世界に置いてあると、テロリストが強奪しに来ますからな。野比氏の厚意で置かしてもらっています」
デラーズ・フリートが行ったガンダム強奪を皮切りに、新兵器強奪は未遂を入れると、実はかなり発生していたため、メカトピア戦役の直後から、連邦の新兵器は野比家で一旦は保管される決まりになった。
「しかし、パルサーに次期主力は決まってんだろ?なんで、別なのを?」
「それが、戦車はともかくも、戦闘機などでは競作が原則でして」
「ほーん。ギャンがコンペに出されたのと一緒か」
ゴールドシップは『まるで部内の人間』であるかのように、普通に運搬担当者と話す。それにツッコむメジロマックイーン。
「お待ちなさい、ゴールドシップ!何故、そんな普通に……」
「さっき言ったろ?その関係だよ」
ルーデルが大佐であるため、その同位体であるゴールドシップも相当に高い待遇を受けているのがわかる一コマである。
「そうだ。こいつに肉味の大豆フードを手配してくんね?検診で胃が荒れてるって言われてさ」
「ご、ゴルシ!」
「姉貴に連絡してやれよ?」
「わ、わかった……」
ナリタブライアンは佐渡酒造が行った検診で『胃が荒れている』と診断され、『ワシがいうのもなんじゃが、胃を労ったほうがいいぞい』と言われていたため、恥ずかしそうに俯く。
「ゴールドシップ、人脈があるのでしたら…」
「メロンパフェなら、頼んでやるよ」
ゴールドシップは微笑みながら、そう返す。気が利かせられるため、破天荒でありながらも人望がある。何気に仲間の健康に気を使う一面もあるため、本質的には姉貴分的な人物である。地球連邦軍のルートで物資を調達できるあたり、自分独自のコネクションも短時間で築いたらしい。
「ゴルシ、いつの間に……」
「ふふ……ひ・み・つだよ~ん」
テイオーを煙に巻く。ゴールドシップは生来の破天荒さに加え、面倒見の良い面を表に出していく。ナリタブライアンはこの日よりしばらくの間、肉味の大豆フードを食べる羽目になったが、そのおかげで胃腸の荒れが治ったという。
――マルゼンスキーはその日、ご機嫌であった。のび太が成人後の趣味でモータースポーツに傾倒していたため、往年の名車達が地下に揃っているからだった。稼ぎが安定しだした後、のび太は税金対策も兼ねて、モータースポーツを始めた。ニューヨークで、カーオークションを主催する事がある骨川スネツグ(スネ夫の実弟)のツテで往年の名車を揃えており、マルゼンスキーの愛車でもあるカウンタックはもちろん、フェラーリ・テスタロッサ、フェラーリF40などのスーパーカーから、のび太が足代わりにしているミニクーパーまでをカバーしていたからだ。――
「さいっ……こうね!!こんなにあるなんて!!」
「ご機嫌だな、マルゼン」
「見てくださいよ、先輩!!憧れの車がこんなに!!」
のび太が保有している車のリストに興奮するマルゼンスキー。のび太が成人し、就職してからの10年あまりで買い揃え、保有している車はかなりの台数である。維持費その他は裏稼業で稼いだ金から捻出している。スーパーカー、ラリーカー、スポーツカーが中心だが、マルゼンスキーが憧れていたものがズラリである。普段は年上として振る舞っているマルゼンスキーも、自分の先輩がいる場では一人の少女へ立ち戻るのである。
「ほう…。カウンタック、ディアブロ、テスタロッサ……お前の好きなものばかりだな」
ランボルギーニ系だけでも有名な車種を取り揃えており、のび太の趣味人ぶりがわかる。
「マブイものばかりですよぉ~!カ・ン・ゲ・キ!!」
「お前のそのセンスはどうにかならんのか?」
マルゼンスキーは言葉のセンスがやけに古い。父親の影響なのだろうが、世代が更に上であるトウショウボーイにもこの扱いである。
「先輩まで~!あーーん!」
「年甲斐もなく拗ねるな、まったく。乗りたいなら、彼に許可を求めろ。彼の持ち物である以上は彼に許可をもらうのが筋だ」
「わかりました!」
この後、マルゼンスキーはのび太が電話で借用を快く許可してくれたため、意気揚々とカウンタックへ乗り込むわけだ。
「しかしだ、お前の父上はスーパーカーブームの世代なのか?カウンタックなど、すぐにスペックは旧態化したはずだが」
「父が最初に乗り回してたんですよ。それで私がデビューした頃、ディーラーから状態のいいモノを得たんです。今は私が使っています」
スーパーカーブームは実物が『高嶺の華』であった事もあり、すぐに沈静化してしまったブームである。マルゼンスキーの父は、娘がレースで稼げるようになった頃に『子供の頃の夢を実現させる』と、カウンタックの良好な個体を中古で入手。しばらくは彼が乗り回したが、身体の老いが進んだことで、運転免許を取得後の娘に名義を変更。そのため、マルゼンスキーは自宅から学園に通っている。
「そうか…」
「今は程度のいいスポーツセダンでも、300キロは突破できるけど、それじゃ、納得出来ないような気がするんです」
21世紀の初頭時点の『ハイスペック』は300キロを超える領域だが、マルゼンスキーは『スーパーカー』にこだわっている。それは自分の父がスーパーカーブームを体験し、大人になっても、カウンタックの『偶像』を追い続けたのを目にしてきた故の想いだった。
「……お前が昔に家に模型を飾っていたのは、そういうことか」
微笑うトウショウボーイ。マルゼンスキーの家に生徒会長時代に『家庭訪問』の経験があった故であった。
「わかってくださるんですね!」
「気持ちはわかる。テンポイントの奴が最近、現役時代に付き合いのあったスポンサーから、フェラーリ・テスタロッサを贈呈されたからな」
「テンポイント先輩は、フェラーリ派なんですか!?」
「そういうわけではないが、速い車がいいと、その方に冗談めかして言ったら、後日に進呈されたそうだ」
テンポイント。その現役時代の渾名は『貴公子』。体質は虚弱に分類されるが、トウカイテイオーが現れるまでは『歴代随一の美しさを誇るウマ娘』の称号を持っていた。現役引退後にモータースポーツを嗜むようになったのは有名である。
「テンポイント先輩、昔はフェアレディZに乗ってた気がするんですが…」
「それがエンジンブローでダメになったから、乗り換えたんだそうだ。奴もレースでは余計に荒くなるからな」
トウショウボーイはテンポイントの近況を教えた。トウショウボーイは従妹のミスターシービーの薦めで、スカイラインのGT-Rに乗ったが、テンポイントはフェアレディZからフェラーリ・テスタロッサに変わったという。グリーングラスにはそのような趣味はないので、普通のファミリーカーだそうだが、現役引退後にモータースポーツの世界に足を踏み入れるウマ娘は意外に多いという。レースの感覚が忘れられないからであろう。
「フェラーリもランボルギーニも、車体の整備を気をつけんと、すぐに炎上するのはお前も知っているだろう。使ったら、自分で整備して返せ。彼もレースに出るので、整備スペースはあるそうだからな」
「わかりました!」
スーパーカーには高度な整備技術を要し、整備にミスがあると、路上、駐車中でも容赦なく『炎上』する。それは二人もよく知っている。マルゼンスキーも実は現役引退後に整備士の資格を取得しており、自前で愛車のコンディションをキープしている。のび太は成人後は骨川コンツェルン傘下のディーラーに頼んで、定期整備をしてもらっているが、ディーラーに持っていく手間が惜しいためか、整備スペースを26歳頃に設けている。マルゼンスキーはスーパーカーのユーザーとしての礼儀を心得ていたため、走らせた後に整備をすることをすんなりと受け入れた。
「さっそく、許可をもらいます!!」
鼻息も荒く、仕事中ののび太に借用の許可を求める。返事は『OK』。コンディションが良好な『カウンタック・5000QV』を使える事になり、夜中に出立した。ナリタタイシンを巻き込んで。
――出立後――
「そういうわけだったんですね。何も、アタシを巻き込まくても…」
「ナビゲーターは必要でしょ?」
「……あまり、手荒くしないでくださいよ」
「それは相手に言って」
マルゼンスキーは自分を煽ってきた『国産のスポーツセダン』を追っていた。日頃からカウンタックを足にしていた事で培ったドライブテクニックは伊達ではなく、スーパーカーに相応しい優雅な走りを見せている。自身が現役時代にそう呼ばれたように。
「タイシンちゃんも、レースで勝ち星を増やしたいのなら、私のドライブテクニックを参考にすべきよ?」
「言われたくって…!」
不服そうだが、それは事実なので、それ以上は言わないナリタタイシン。カーレースもウマ娘競走も同じような性質を持つのは知っているからだ。トレーナーにもよるが、モータースポーツを観戦させ、更にレースゲームをさせた上で、カーレースで得られた知見を自分の競走にどう応用させるか?どう走れば速いか?と問答を出させる者も多い。ましてや、マルゼンスキーは現役時代に当代最強を誇り、担当トレーナーに『外枠でもいいから、彼女を日本ダービーに出させてくれ!!そうすれば、真の意味での『世代最強』が決まるんだ!!』と言わしめたほどの逸材であった。同世代の有力なウマ娘らを間接的に不幸のどん底へ叩き落とした事実を持つほどに。ナリタタイシンも担当トレーナーに誘われ、レースゲームをしているため、その心得は充分にあった。
――マルゼンスキーのテクニックは見事なもので、パワーでは最新のスポーツセダンに劣っても、それを補うコーナリング技術、フットペダルの使い方、ギアチェンジのしどころの見極めで肉薄し始めていた。相手は『50年も前の骨董品に等しいスーパーカーに肉薄され始める』ことで焦りを見せ始め、運転が次第に強引になっていく。ゴールドシップは相手側が配信している動画を視聴することで、状況を把握している――
「ゴールドシップ、こんな夜中に何を見てるんですの?」
「どっかの走り屋の野郎が、自分の走りを配信してんだけどよ、よりによって、マルゼンさんのカウンタックを煽りやがった。生きて帰っかな、相手の方」
「精神的に打ちのめされるでしょうね。かつてのマルゼンさんが他の同世代の先輩らの心を打ち砕いたように…」
「マルゼンさんは車でもはえーかんな…。車の性能差なんて次元じゃねえ。多少の馬力の差はテクニックで補えるかんな」
ゴールドシップは走り屋という文化が衰退期に入って久しい時代、走り屋という文化は長年の不景気による若者の趣向の変化、環境意識の高まり、法的規制の強化などで『絶滅危惧と言われるまでに消えかかっている』事を知っていた。故に日本政府が規制を放棄したも同然の学園都市のインフラを最後の拠り所としている。カースポーツという分野そのものが消えかけていると嘆く者も多いように、日本ではモータースポーツそのものが衰退しており、メーカーもファミリーカーに生産の重きを置くようになって久しい。学園都市は日本政府が体制崩壊後も『暗部の遺産』を恐れたことで、警察による取り締まりを放棄したも同然である。絶滅危惧種と言われる彼らは学園都市を『天国』と称するが、日本政府の及び腰がそんな状況を作り出したわけだ。
「こういう連中は今の時代じゃ絶滅危惧だが、学園都市を最後の拠り所にしてる。皮肉なもんだ。暗部の遺産とやらのせいで、学園都市の法的な取り締まりを日本警察そのものが放棄したんだからな。銀河連邦警察がいなけりゃ、学園都市はとうに『世紀末』だろうさ」
学園都市は体制の崩壊が起こった後、暗部の遺産などを恐れた政治家などの政治判断で『当たらず触らず』の状況に陥り、一時は都市そのものがスラム化しつつあった。だが、銀河連邦警察が介入することで『改善』され始めている。銀河連邦警察が能力者の取り締まりに動き出したからで、学園都市の遺産整理と学園都市の再生も、この時代の日本連邦の課題であった。
「しかし、いいんですの?このような行為」
「若者の車離れって知ってんだろ?エレカや水素電池の車とかが完全に普及しちまえば、ガソリンエンジンのハイスペック車なんてのはすぐに淘汰されるし、モータースポーツそのものも消える可能性がある。学園都市での走り屋の行為を利用して、なんとかが若者に興味を持ってもらいてぇんだよ。このご時世、車なんてのは移動手段以外の何物でも無くなってきてるし、ご老人達の事故も多くなってるからな」
ゴールドシップは日本におけるモータースポーツ熱の衰退、ひいては内燃機関車そのものが遠からず『代替エネルギー車』に淘汰される可能性にも言及した。車が『楽しむもの』から『移動手段』以外の何者でもないように変質しつつある時代、施政が半ば放置されたも同然の学園都市を利用し、絶滅危惧種となった『走り屋』に拠り所を与え、若者に購買欲をそそらせるようにするというカーメーカーの涙ぐましい努力も教える。高齢化社会の日本でまず起こり得る光景にも触れて。
「車は東京、横浜、大阪、名古屋とかの都会じゃいらねーかもしれねーが、地方では必需品だ。運転をやめた老人が途端にボケちまったり、『旦那が運転するから…』って免許証を返納した老婦人が、途端にその旦那が脳溢血や脳梗塞で半身不随になって、毎回、何千円もかけて大病院にタクシーで行く羽目になって、死ぬほど後悔したって話もザラにある。だから、あれこれの研究が進むんだが…」
それら問題を解決すべく開発された『自動運転車』も22世紀に入る頃には普及していたが、コロニー時代を迎えた後のジオンの台頭で『機械に安易に頼ることは怠惰である!!』とギレン・ザビに断じられ、特にサイド3出身のスペースノイドに支持された。その後に無人兵器の規制が強められた時期と時を同じくして、スペースノイド主体で法的規制が強められた。その世論は21世紀以前の人々が思い描いた『機械の進歩による未来』へのアンチテーゼを自称するが、文明の進歩の否定につながるというアースノイドの危惧が生まれ、結局、地球圏そのものの健全な発展のため、『マニュアル運転とオートマチック運転を任意で切り替えられる』ようにする形で落ち着いたという経緯をマックイーンへ教えるゴールドシップ。モビルドールの台頭や無人戦闘機『ゴースト』を操った『シャロン・アップル』の暴走事件が人々に一種の恐怖を埋めつけたのは事実であった。
「無人兵器の高度化を危惧する派閥が歯止めをかけたのはいいんだが、曲がりなりにも公共の福祉のために発達した分野をだ、自分たちの政治イデオロギーで否定して、技術の封印なり、技術を断つのは愚行なんだって話だ。この世界の22世紀後半からの戦乱の時代には、そんな話があっちこっちに転がってんだ。この時代の科学者は少しでも世の中を良くしようって頑張ってんのに、戦乱期の過激なスペースノイドやアースノイドの連中は『戦争を優位にするため』にしか叡智を使おうとしねえ。ガンダムに負けてきたからって、非人道的な強化人間やクローン人間をバンバン使ったりするジオンやティターンズなんてのは……クソ野郎共だよ」
ゴールドシップが吐き捨てるように、連邦政府がグリプス戦役後に、そ以前の自らの暗部の一切をティターンズに押し付けた理由も、フォウ・ムラサメやロザミア・バダムのように『戦災孤児』を洗脳して、コズミック・イラでいう『生体CPU』同然の扱いをしていたという事実がある。対するジオンも、傷痍軍人を復帰させるために『リユース・サイコ・デバイス』を生み出し、一年戦争でアムロ・レイのガンダムを倒すために、薬物や後天的な身体強化を施した兵士を生んだのを皮切りに、胚の段階で強化した『プルシリーズ』に代表される『強化人間』を、アムロ・レイ、ないしはその後継となった者に倒された『過去の指導者』をクローン技術で再生して、組織の首魁にしようとした、ないしは『していた』などの非人道的な実験もジオンの方が多かった。特に、クローン技術の成熟した『ハマーン戦争』以降、ジオンは『プルシリーズ』を少なくとも12体を用意したし、戦死した(と思われていた)過去の指導者達の遺伝子情報を使い、指導者を再生しようと試みた事もある。
――後に本人が戻ったシャア・アズナブルはもちろん、ギレン・ザビやエギーユ・デラーズ、ひいてはハマーン・カーンの再生プロジェクトを残党は目論んでいたジオン残党。その非人道性はコズミック・イラ世界のブルーコスモスとタメを張るだろう。自浄作用が曲がりなりにも作用した地球連邦と違い、ジオンはかつての過激派のように『打倒アースノイド』というお題目が達成できれば、非人道的…、20世紀では禁忌とされた領域も平然と犯す。ジオン、ないしは23世紀の過激派は『現行の連邦政府を倒すためなら、自分たちに与しない者はなぎ倒すし、20世紀以前の世界遺産も平然と壊す』。そんな事をするからこそ、ティターンズにその動きを利用され、ネオ・ジオンの台頭後しばらく経った後には、ティターンズもネオ・ジオンも、『大昔の宗教テロリズムよりたちの悪い戦争屋』の烙印を推されるに至る。ゴールドシップは直接的な表現で、『21世紀以前の科学者が目指してきたモノを、政治イデオロギーで否定し、破壊する輩』に嫌悪を隠さない。メジロマックイーンはゴールドシップに『政治イデオロギー』に絡めて、高尚に文明進化論を語る頭脳があったのかと驚き、圧倒される。タウ・リンがデザリアム戦役で叫んだ『お前らはイデオロギーで人を殺す!!』ということの意味も、『アースノイドの右派とスペースノイドの過激派のイデオロギーが、愛する姉を死に追いやった』という怨嗟にあるように、ゴールドシップをして、ここまで嫌悪させる事には、地球連邦とジオンが犯してきた罪と業がある――
――ゴールドシップはウマ娘や人の可能性を信ずるがため、『ゲッターに触れても』自我意識を保った。ウマ娘達が運命を超えることを信じて。どこか哀しげな語り口なのは、ライスシャワーやサイレンススズカの史実の悲劇を知ってしまった故のものでもあり、マックイーンと自分の『本来あるべき関係性』も知ってしまったためか、どこかマックイーンには甘えたいようでもあった。マックイーンもそれを『見た』ため、普段のように邪険に扱わなかった。マックイーンも知ったのだ。『自分は本来なら、ゴールドシップと対面はできない』と。奇妙な暗黙の了解が二人にはあった――