ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

389 / 612
前回の続きです。


第二百八十九話「幕間その32 太平洋戦争の現状と、キュアブライトのボヤキ」

――日本連邦は扶桑での戦争が日本にも波及。日本側にリベリオンの機動艦隊が出現した。エセックス級六隻を基幹とする大規模なもので、日本連邦海軍は扶桑艦隊を主軸に、各護衛隊から供給された艦艇を編入した臨時艦隊で迎撃した。後の歴史によれば、これが戦艦の復権の始まりに重要な役目を果たしたことになっている。21世紀の常識ではイージス艦が旗艦になるべきところだが、敵が直接打撃力に秀でる砲熕型艦艇である事から、戦艦が旗艦になった。それは正解で、敵にはモンタナ級戦艦の四隻がおり、その砲弾が当たれば、21世紀型艦艇などはひとたまりもないからである。そのため、味方の旗艦は播磨型(超大和型戦艦)の『美濃』であった――

 

 

 

 

 

――統合戦争でかなりの記録が失われるものの、その海戦は軍事的な意味での戦艦の復権の道を切り開いたということで、統合戦争後も記録が残存していた。21世紀の視点からすれば、『本来なら実現し得なかったはずの超戦艦の真っ向勝負』ということで、軍事的な注目度は高い。なにせ、戦艦の発展の一つの到達点と言えるクラス同士の砲撃戦は架空戦記の世界でしか見られないとされていたのだから。それも、日米が構想した戦艦の内、『実現の可能性があった』クラスの中では最新最強のもので。ミサイルという近代兵器に充分に耐え、砲兵四個師団と同等の火力に例えられるその主砲を炸裂させること。1945年を境に消えたはずの古式ゆかしい海戦。その復活の狼煙は『史実で戦艦を終焉させる引き金を引いた』はずの日米両国の手で上げる。それもまた、因果な話であった――

 

 

 

 

 

――扶桑陸軍幼年学校は廃止されたが、制度の廃止が通達された段階では年少のウィッチ候補生を含めて、国土各地を合計すると、数万に及ぶ人数が在籍中であった。更に、上層部にも、中学以降の中等・高等教育を受けた者への猜疑心や嫉妬が残っていたため、廃止に反対する声は大きかったが、『反乱の温床・軍国主義の尖兵』というイメージのレッテルを払拭できず、予定通りに廃止された。だが、軍に入隊を前提に送り出した農村部を中心としての抗議運動が起こったため、軍入隊下限に達しない年少の生徒たちは『高等工科学校予科』という形で囲い、卒業後に統合士官学校で学ぶという緊急手段が講じられた。これは数万にも及ぶ陸幼生徒を市井へ放り出すわけにいかなかったためで、受ける教育の長期化で、家庭の事情でドロップアウトを選んだ者も多い。これが前線の人手不足の顕著化の理由の一つである。求められる人材が『数合わせ』から『良質な人材』へ転換していくにつれ、従来通りの教育を受けた者達は傍流へ追いやられていく。とはいえ、太平洋戦争は国家総力戦であるからして、贅沢は言えないため、戦中任官の士官の多くは太平洋戦線で戦い、少なからずが戦陣に散る。騎兵や軽戦車などの前時代的な存在が実戦に供された最後の戦とも記録される。騎兵は太平洋戦線が名実ともに最後の戦であるため、『最後のご奉公』と言わんばかりに、積極的に騎乗突撃を敢行。機甲戦力の拡充が遅延を重ねていた扶桑軍に取り、『前時代的』と自嘲しつつも、意外に効果があった。これはウィッチ世界では、古くからの『騎乗突撃』すらも対策が殆ど取られていなかったためで、日本側には衝撃の結果であった――

 

 

――将校の質は1941年あたりまでの入隊の者は安定していたが、自分達の価値観に凝り固まる傾向が強まり、その世代の代表であった志賀少佐が『日本的な集団主義の権化』のように報じられた。実際は『先輩方から託された海軍航空の伝統を守る』ことだけを考えていたに過ぎず、それが扶桑軍の英雄である黒江に逆らうという行為のせいで、悪目立ちしてしまっただけである。志賀は『海軍航空の伝統を守りたい』という以外に私心は一切合切なかったが、結果的に小学校の先輩である坂本の顔に泥を塗ってしまった事、日本側の航空戦力運用の一本化の論調に説得力を与えてしまったという悪手、震電の焼却を止められなかったことの責任の一切を負わされ、閑職に左遷させられた。昭和天皇に諭されたことで空軍の意義と『撃墜王の存在意義』に気がついた彼女であったが、海軍航空の形骸化を招いた張本人と見なされ、針の筵状態。戦争の終戦を以ての退役を、この時期に決めていたわけだ。坂本は志賀の一期後輩にあたる雁淵孝美を通して、彼女と連絡を取り合っており、坂本へは『黒江閣下には、海軍航空の伝統を守って頂きたかっただけです。旧64Fと違い、343空を基本にするなら、海軍航空の気風を……』と本心を吐露している。この事は空軍の気風が旧・陸軍航空をベースする事への異論を挟めなくする理由付けにされ、海軍航空は『前時代的な集団主義の権化』として悪役にされた。予算対策と揶揄される海軍航空の再興に坂本と若本の両名が長い年月をかけていくのは、『レシプロ機とジェット機の世代交代期に入る頃に、海軍航空は基地航空隊が主力化していたせいである』と後世に断じられるわけだが、その旗振り役であった井上成美大将は『1930年代に言ったことだし、水上艦隊の機動力が固定基地を力でねじ伏せるなんて、予想もしていなかった』と釈明する羽目になったというオチであるあたり、ここでも、日本的グダグダが表れていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――入れかえロープで、『プリキュア』というものを体験してみることにしたナリタタイシン。ちょっとした息抜きも兼ねていたものの、仕事自体は本気でやらなければならないものであった。オートバイによるひったくりなのだが、昔ながらの『原動機付自転車』のみならず、大型のスクーターもよく使われており、昭和期の名残りが残るススキヶ原の治安が悪化する一端を担っていた。ナリタタイシンは借り受けている肉体が『ウマ娘の要求に充分に応えられる』ものであることを悟ると、スクーターを追うため、古くは『時代を担う一流の者のみが到達しえるもの』とされた境地を発動させる。分かる範囲では『シンザン』、『メジロアサマ』(マックイーン、ライアン、ドーベルなどの祖母)の時代から確認され、近年は『TTG』の三人、マルゼンスキー、ミスターシービー、シンボリルドルフなどに発現の記録がある。オグリキャップの世代以降は急速に増えている。それはサンデーサイレンスなどの90年代以降の名種牡馬を父に持つ競走馬の魂を受け継いでいる者が次々と現れたり、ミスターシービーやシンボリルドルフが現れてからは、ウマ娘の平均能力値が向上したためだ――

 

 

『速く!速く!!……どこまでも速く!あんたらさ、甘く見て、あとで吠え面かかないでくれる?アタシがマジだってこと……、教えてあげるッ!』

 

発動時の言い回しが以前より幾分か穏やかになっているが、それは心境の変化によるものである。前世での悔しさ、自分に引導を渡したライスシャワーの悲劇、ブライアンが史実で辿った苦難の果ての早世。それらをひっくるめての感情の発露。大型スクーターは有に60kmを超える速さに加速していくが、タイシン(肉体はキュアフェリーチェ)はそれに追従していった。ウマ娘の力を全力で発揮し、なおかつ精神が極限まで研ぎ澄まされた場合、『鬼が宿る』と言うが、それは精神が極限に研ぎ澄まされ、なおかつ自己意思で『何かを掴み取ろう』という意志が引き起こす一種のオーバーブースト。その中でも珍しい部類のものである。その急加速は仮面ライダーのマシンにも匹敵しうるもの。市販の大型スクーターに市販のエアロパーツなどをつけただけのもので振り切れるものではない。

 

「嘘だろ、いくらプリキュアでも、時速70キロ近くのスクーターに追いつけるのか!?」

 

「言ったでしょーが。吠え面かかないで……って!」

 

タイシンは搭乗者に蹴りを入れ、スクーターから強引に降ろす。次いで、同乗者も肘鉄で吹き飛ばすと、スクーターのブレーキをフルでかけ、停止させる。スクーター自体が大型だったため、その場で運転者ごと転倒させるより、普通に停止させたほうが安全だったからである。

 

「おっと、逃さないよ」

 

フェリーチェの言付けどおりに、タイシンは念じて、片手斧タイプのトマホークを出現させて、わざと外す形で犯人の目の前の地面に突き刺す。後輩のグラスワンダーが悪ふざけをしたエルコンドルパサーへ薙刀で行っていた『脅し』を見た事があるので、その真似でもあったが、実はキュアフェリーチェ本人も、ゲッターの力を得てからは『よくやる』戦法でもあった。

 

「いい?今度、ひったくりをしたら、あんたの大事なとこが使い物になんなくなるよ?」

 

「す、す、す、すみません!!」

 

目から青い炎が吹き出ている状態で、ひったくり犯を脅すナリタタイシン。元の世界でも、小学校時代に自分に懐いていた身体障害者のクラスメイトが、クラスの半グレから精神的ないじめを受けるのを目の当たりにし、それで堪忍袋の尾が切れたのが、境地の発現のきっかけであった。タイシンの発現した境地は彼女のトレーナーいわく『復讐の女神の名を与えた』とのことである。それが発現している状態での刺すような冷たい眼差しはひったくり犯を失禁させるほどの威圧感に溢れていた。

 

「警察に突き出すけど、いいね?それと、そのスクーター、違法改造っしょ?親方日のご沙汰を待つんだね」

 

「は、はぁ~い……」

 

「それと、そのズボン……脱いだら?濡らしてるよ」

 

「あんたのせいです~!」

 

「……るっさい!今度こそ蹴り上げられたい!?」

 

流石に犯人の言うことにむかっ腹がたったタイシンは思わず、アスファルトの地面を思いきり踏む。すると、アスファルトがいっぺんにひび割れ、そこだけ大きく凹んでしまう。

 

「…あ」

 

タイシンは軽くやったつもりだが、借り受けている肉体がプリキュア化していたことで、パワーが常人より遥かに強かったこと、そこにタイシンの現時点での脚力がプラスされた事もあり、全盛期のオグリキャップさながらの足跡がアスファルトを陥没させる形でついてしまった。

 

「ま、まぁ……いっか」

 

気にしないことにし、交番にひったくり犯を連行するナリタタイシン。この時に見せた鬼脚は後に、記憶からのラーニングという手段でキュアフェリーチェ本人も会得。犯人追跡で威力を発揮することになる。

 

(治安維持、かぁ。この街、かなり危ないよねぇ…。ひったくりも日常茶飯事だし、強盗が普通に大口径の銃を持ち出すし。脅し目的とはいえ、バスターランチャーまで使用許可降りてるし)

 

――バスターランチャー。それは『どこかの世界での最強の火器で、質の高いエネルギーカートリッジをフルロードした上で、機体が高性能であれば、空間が歪んでしまうほどの威力を引き出す。(なお、この世界では、かの『一方通行』らがどうなったかの記録は残されておらず、学園都市の統括理事長に就任したという記録もない事から、どこかで世界が分岐したと思われる)そんなものの使用が許可されるというあたり、学園都市の耐性が何らかの理由で崩壊した後に、外の世界に放り込まれた能力者達はその特異姓故、外での行き場がなく、暗部残党共々にチンピラやゴロツキに身を落とすしかなかったことが妙実に表れていた。しかも、能力者相手では、外の世界の警察官では無力そのもの。『警備員』と『風紀委員』のマニュアルも警察庁の移行で破棄された都合もあり、ススキヶ原とその隣接の数地区の警察は有名無実化。プリキュア達や仮面ライダー達が治安維持に乗り出す有様である。――

 

「大丈夫だった?」

 

「あ、は、はい。なんとか」

 

「凄い速さだったね」

 

「それが取り柄ですから」

 

この日のススキヶ原の治安維持の担当であったキュアブライトへ謙遜するナリタタイシン。キュアブライト(日向咲)もソフトボール部のエースだったため、足の速さには自信があるのだが、ナリタタイシンはそれ以上だったからだ。

 

「えーと、皐月賞だったっけ?」

 

「は、はい。クラシック級時代は、それしかG1を勝てませんでしたけど」

 

ナリタタイシンは皐月賞を勝ったが、ダービーはウイニングチケットに敗れ、菊花賞はビワハヤヒデに敗れている。同時に自分は二流と周囲から見られ、見限られ初めていた。その事への強いショック、担当トレーナーが周りから『無能』、『二流のウマ娘に入れ込む若造』と陰口を叩かれている現状をなんとかしたかった事、トレセン学園高等部の卒業という『別れ』が近づいている故に、卒業までにシニア戦線を戦い抜きたいという願望が強く、メジロマックイーンに同行する形で、ドラえもん世界を訪れた。彼女のそんな屈折した感情を氷解させたのが、ノビスケである。ノビスケは両親には言っていないが、自分の名前が父方の祖父のそれを受け継ぐものであることにコンプレックスを強く抱いていた。(これは彼の父方の祖母である野比玉子が『野比家の長子は代々、通字をつけられてきた』とし、通字をつけることを強く希望した故の妥協の産物で、のび太夫婦は『のび夫』を考えたのだが、のび太の父方の叔父の一人の名であったためと、野比家は平安時代には既に祖先がいたため、あらかたのバリエーションが既に使用済みであったため、のび助の名を受け継がせたわけだ。後世の歴史におけるノビスケの戸籍上の名は『野比のび助』(二代)である。外国で言う『二世』に当たる。それ故に『父親達と違う存在になりたい』という願望が強く、反骨精神旺盛であった。それでタイシンになついたわけだ。

 

「後で駄菓子屋に寄っていいですか?あの子にハロウィンのお菓子を買いたいし…」

 

「あの子、あなたになついてるもんね」

 

「なんか、なつかれちゃって……なんでだろ…。言われれば、構う程度だったのに」

 

タイシンは気づいていないが、タイシンは自覚なしに母性を出しており、母性愛に飢えるノビスケの心の癒やしになっていたのである。

 

「母親代わりなんてやれないし、そうなるつもりもないけど、あの子を泣かせたくないし……。それに、誰かに打算無しで慕われるのは……久しぶりだったから」

 

久しぶりと表現したのは、小学校時代の思い出が蘇ったからである。タイシンは子供時代に良いことがあまりなかったので、その出来事も半ば忘れていたが、スーパークリークから『手紙が来ている』と連絡があり、そのクラスメートが引っ越しつつも、自分との交流を心の支えにし、無事にどこかの大学への推薦を勝ち取ったことが記されていた。タイシン本人は手紙がくるまで、そのことを忘れていたため、バツの悪い思いになったが、トレーナーがタイシンに代わり、手紙の返事を書いたという。タイシンがG1ウマ娘であり、忙しいという名目を使って。その出来事をクリークから知らされたため、自身も忘れかけていた記憶が蘇った。その出来事と、ノビスケからの敬愛で、タイシンはそれまでの自分を見直すことにし、人当たりが良くなったわけだ。

 

「それでいいんだよ。あたしも妹が一人いてさ。良いお姉ちゃんなんて、やれてるわけじゃないし、違う世界に来ちゃってからは会えてないけど、きっと、あの子なりに生きてると思うよ」

 

キュアブライト(日向咲)は元の世界に妹を残しているが、きっと前向きに生きているだろうと考えている。それは彼女なりの考えであった。そのまま終わるかと思われたが…。

 

「ん?あれは……?」

 

「ちゃー、HsB-02だね。まだ残ってたんだ。並半端な攻撃は通らないし、バスターランチャーで消し飛ばしちゃって。残骸が他の国に解析されるのも困るんだってさ」

 

飛来した超大型爆撃機は学園都市最盛期の遺物であり、カタログスペック上は極超音速に達する速度が売りのステルス爆撃機であった。B-2爆撃機と似通った外見なのは、ステルス戦略爆撃機の宿命だろうか。

 

「バスターカートリッジを使いますよ?当局への通報、頼みます」

 

「わかった」

 

タイシン(外見はキュアフェリーチェ)は彼女の空中元素固定能力を用い、バスターランチャーの量子化を解き、実体化させる。バスターランチャーの形状はMSのハイメガランチャーと似通っているが、威力は比較にならない。並半端なMSが使おうとすると、オーバーロードで自爆するというおまけつきである。高圧縮化されたエネルギーをカートリッジ内を封じ込めてあり、それを撃つ者のパワーを利用して、エネルギーとして開放するという原理だが、機体で撃つ場合はワンオフの高性能機、人間が撃つ場合は『気』、もしくは『小宇宙』の制御ができることを前提としている。このバスターランチャーは成人後ののび太と友人であるという、ある科学者が異世界のルートで入手し、64Fにもたらされたという経緯を持つ超兵器。その友人の詳細をのび太は明かしていないが、『平行世界を渡り歩く』ということは聞いているという。

 

「プリキュアとしてのエネルギーでカートリッジのロードを促すから、空間が一時的に歪むのは確定だけど、しゃーない」

 

キュアブライトも慣れてきたのか、ものすごくアバウトである。タイシンも空気に慣れてきたのか、バスターランチャーを構える。

 

「対空ミサイルを躱すからって、空間ごと消し飛ばすしかないってのも物騒だなぁ」

 

「仕方ないよ。あの爆撃機、地殻切り裂ける能力あるんだってさ」

 

「なぁ!?なんですか、それ」

 

「それで、極東ロシアの一部を切り刻んだって噂もあるからね。そんなことになる前に、ちゃっちゃと、ね」

 

「わかりました!」

 

タイシンはバスターランチャーのエネルギーをロードし、コッキングレバーを引く。そして、エネルギーが充填され……。

 

「いっけぇ!!」

 

ナリタタイシンはその場のノリでバスターランチャーを撃つ。しっかりと最大出力で撃っているため、着弾点周りの空間が歪んでいく。高速で敵の攻撃を躱すのを謳い文句にしていた学園都市製の爆撃機もバスターランチャーという超兵器を撃たれては、ひとたまりもなく消滅する。

 

「本当に空間が歪んでる……。どうなるんです、あれ」

 

「数日くらいで空間震が起きて、元に戻るよ。震度四くらいの強さに感じるくらいのが起きてね。地震計に引っかからないから、気象庁がパニクるけど。あそこらへんは数日は飛行禁止空域に設定されるよ。空間そのものが歪んでるからね。世界によっては、悪い意味で歴史に名前が残るとか」

 

「そんなの、撃っていいんですか?」

 

「連中のほうがエグい人体実験とか平気でやらかすんだから、こっちも本気ってのを見せないと、チンピラやゴロツキ共はつけあがるからさ」

 

「た、確かに」

 

学園都市の保有していた独自兵器の多くは2010年代前半から半ばの時期にかけての動乱で多くが失われ、体制の崩壊後は日本政府主導で残存のものは廃棄が進められていた(非人道性が強いことから)。ところが、体制の崩壊で行き場を失った者たちが一部を保管し、世の中への復讐に使用するようになり、バブル時代に作っていた対重犯罪用装備の一切が所在不明状態の日本警察はこれらに無力ぶりを露呈し、Gフォースに対応を丸投げした。信じがたいことに、学園都市の遺産と言える大型兵器の耐久性は高く、平均的なプリキュアの攻撃に耐える。そのため、プリキュア達も超兵器を携行して鎮圧にあたる事がある。

 

「でも、ゴロツキやチンピラがあんなの持ち出すって、いったい…?」

 

「あたしも聞いたばかりだけど、この街の隣りにある学園都市ってのは、表向きは科学の最先端だったらしいんだけど、裏で危ない研究や人体実験を押し進めてたのが明るみに出てね。2015年かそこらくらいの動乱で体制が崩れたらしいんだ。日本政府はここぞとばかりに学園都市の条例とか、独自組織を廃止させたんだけど、それが裏目に出て、周りの街の治安まで悪化した。だから、最終的にはあたしらに丸投げしたってわけ。世も末だよー。元はただの中学生だったあたしらにさ、東京の数地区の治安を守れなんて」

 

キュアブライトは便宜的に軍の階級を持つが、ドラえもん世界の日本警察の派閥抗争の末に、東京の学園都市周辺の数地区の治安維持を丸投げされていることには不満があった。元はただの中学生だった自分らに『プリキュアだから』というだけで、実力以上のものを背負わされることに反感を持っているらしい。

 

「とはいえ、誰かに感謝されるのは嬉しいし、古くからの友達が、仕事でそこそこの地位に出世しちゃって、あたしよりよっほど人気だから、過労死しそうな勢いで引っ張りだこでね。それで先輩のあたしが裏方も引き受けることにしたんだ。プリキュアっていっても、人気の格差ってあるからねー、あは、あはは…」

 

最後の方はやけくそ気味だが、SSは二代目という美味しいポジションながら、エポックメイキングな要素の多く、キャラ人気も高いプリキュア5の影に隠れてしまった感が強く、のぞみがオールスターズの展開が一段落ついた後も『物語に絡む』客演と単独必殺技の披露の機会に恵まれたのと対照的に、咲はオールスターズの事実上の終了後は声付きでの客演の機会は2021年当時でも未だになかったことも、コンプレックスであるようだ。(つぼみは2021年にトロピカル~ジュ!プリキュアと共演したが)

 

「なんか、最後はやけくそになってません?」

 

「なるって。あたしとパートナー……美翔舞ってんだけど、未だにピンでの客演ないんだ。後輩の夢原のぞみちゃんは、TVに映画。あっちこっちに呼ばれるってのにさ…」

 

「苦労してるんですねぇ…」

 

「後でさ、喫茶店で愚痴聞いてくれるかな?パートナーに愚痴るわけにもいかないしさ…」

 

「い、いいですけど……?」

 

そこの面だけは強いコンプレックスらしい、キュアブライト(日向咲)。拗ねているのは、のぞみの更に後輩の花咲つぼみへトロピカル~ジュ!との共演のオファーが来たからで、それもまた、ショックらしいことが窺える。しかし、キュアブロッサムには映画オリジナルのパワーアップは与えられない見込みであるため、ドリームキュアグレースという新フォームを与えられたキュアドリームが頭一つ抜きん出ているという事実は揺るがない。キュアブラックに次ぐ顔役と認識されている点は仮面ライダー一号に対す仮面ライダーV3と共通してもいる。そのため、メディア露出に積極的になったとぼやくキュアブライト。仮面ライダー二号ほどのポジションにはなりきれないのは、ドリームが高いカリスマ性を持ち、自然とピンクプリキュアの次席に収まっているからでもあり、そこに『美墨なぎさと夢原のぞみの間に挟まれた地味なコンパチ属性の二代目主人公』というレッテルと戦う、日向咲の意外な苦労が忍ばれ、ナリタタイシンは思わず同情してしまうのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。