ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第二百七十九話「幕間その21 ルドルフの昔語り。そして、不死鳥」

――のび太が引っ越した後、まるごと移設された格納庫。そこにはありとあらゆるジャンルの機体が網羅されていた。襲撃事件の教訓で、全機が稼働状態になっているわけだ。見かけは旧式のRX-78-7、RX-78-6もそうで、外見はデラーズ紛争までの第一世代機のままだが、近代化改修で中身は一新されていた――

 

「ガンダムの実物が置いてあるのは、事件とは?」

 

「関係ねえが、一応はガンダムだしな。ジオン残党は強奪したがるから、預かってるらしい」

 

「ジオンはなぜ、そのような真似を?」

 

「残党は共和国とは関係を絶ってるからな。表ルートでの補給は望めない。だから、野盗みてぇな真似で物資を確保するしかないのさ。特に最大派閥のネオ・ジオンも解体された後だからな、残ってるのは過激な派閥の連中だ。頭がイカれた連中って言っていい」

 

ゴールドシップはそこでコーヒーを口にする。

 

「元々、軍隊だったのなら、それらしく戦って、華々しく散ればいいものを……」

 

「連中は軍隊どころか、ただのテロリストに堕ちてる。人を多く殺せれば、それでいいのさ。あたしらの世界に偶発的にそういう連中が来てみろ、大パニックは目に見えてる。だから、備えは充分にしておく必要はある。何人かに臨時トレーナーの打診はしてあるぞ」

 

「彼ら(ジオン残党)が私達の存在を知れば、捕まえる可能性が?」

 

「解剖したがるだろうよ。あたしらは生物学的には、馬の特徴を持った人間だ」

 

ウマ娘は偶発的に生まれる種族であるため、全体的な個体数は少ない。レースを戦える者はこれまた更に絞られる。マルゼンスキーのように、怪我でシニア級を断念したり、タマモクロスのように、脚を酷使した結果、肉体が負担に耐えられず、全盛期のキレを早期に失う者もいる。ジオンは肉体を後天的に強化する手段を一年戦争期から模索してきた。その数値は『常人よりは上だが、訓練して鍛えていた人間には及ばない』程度。ウマ娘は凡百の者だろうが、その数値を軽く超える。ジオン残党は『洗脳すれば、兵士として使える』と判断するだろう。

 

「おまけに、全力疾走は平凡なウマ娘でも、時速60キロ近く。人間最速よりも遥かにはえーんだ。その秘密を科学的に探りたがる。あいつらはレッサーパンダさえも害獣扱いして、駆除しようとしたんだが、動物園の人気者だってわかった途端に保護したって過去持ちだからな」

 

ジオン公国はその点からも顰蹙を買い、統治もガルマの人気頼りだったため、政策が上手くいっていないことの証明であった。そして、アクシズは地上制圧のために数を揃えようとしたが、連邦軍は少数精鋭部隊で返り討ちにしてしまった。ネオ・ジオンはこれで少数精鋭に舵を切り、一騎当千のMSやMAに傾倒した。これはティターンズが数を揃えようとしたら、エゥーゴがZとZプラスなどの力で一気に戦局を覆し、次世代機である『ZZガンダム』や『Sガンダム』で殲滅を図ろうとしていたことの戦訓である。

 

「奴ら、ただでさえ少ないリソースを一騎当千のエース専用機で浪費する。そこそこのエースを高級機に乗せたところで、時代を変える力を持つガンダムとニュータイプの組み合わせにゃ勝てねえ。そこを学ばないんだよな」

 

歴代の敵性国家は歴代のガンダムに尽くが打倒されてきた。ゴールドシップにさえ『浪費』と断じられる『αアジール』、『ノイエ・ジール』などのモビルアーマーの建造は、凡百のジム系には無敵だが、ガンダムには一蹴されてきた。ノイエ・ジールのみが互角に渡り合ったが、それ以外はまるで役に立つ事はなかった。

 

「お前だって、スイーツ食う時は多少は順序を考えんだろ?それもないのが連中さ」

 

「ご、ゴールドシップ!!」

 

「野球の試合で、某縦縞の球団の応援でお前がエキサイトしてるのをおばあさまは知ってるそーだ」

 

「な!?」

 

「球団の関係者にメジロ家と付き合いがある人がいるそうで、『お孫さんは応援でエキサイトしてました』って言われたそうだ。おばあさまは『ユタカのサインボールを融通する』ように、その人に頼んでた。それを伝えろって言われてな。ほれ、一応はメジロ家の関係者だし、アタシ」

 

メジロマックイーンは元の世界で、某縦縞の球団の四番打者『ユタカ』を贔屓にしていて、彼の出場する試合を練習より優先させるほど入れ込んでいる。名家の令嬢でありながら、野球に傾倒している事はギャップ萌えということで、後輩らに人気がある。ボディビルに傾倒しているメジロライアンといい勝負なので、メジロドーベルがコンプレックスを抱くのは当然であった。実はマックイーン自身は気づいていないが、そのユタカ選手はウマ娘界随一の強豪であるメジロマックイーンが自分の大ファンであることは承知していた。そのため、メジロアサマの要請に応じ、サインボールをメジロアサマ(おばあさま)に渡している。

 

「ほれ。サインボール。おばあさまに渡せって言われてなー」

 

「なぜ、あなたがそんな重大な任務を!?」

 

「おばあさまも、アタシが別世界では、お前の孫にあたる事はそれとなく察したみたいでよ。おばあさまから見れば、アタシは玄孫にあたるから、出入りは自由になった」

 

ゴールドシップの出自がメジロ家にあるという事は、メジロ家そのものが何世代かを経て消滅する可能性があるという事であった。実際、メジロ家黄金期と言えるマックイーン世代がターフを去れば、後の世代は質が加速度的に低下していく。それをゴールドシップは知っているため、メジロ最後の雄『メジロブライト』の出現を待っている節があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――自衛隊は結局、中国の加速度的軍拡に追いつかなくなったため、扶桑の軍備を自分たちのために使う事にした。そのため、扶桑の戦艦のうちの数隻は日本の世界で抑止力に使われた。核兵器が実質的な禁忌である以上、物理的に強力な水上打撃力は抑止力になる。ロシアがキーロフ級ミサイル巡洋艦を持ち続けるようなものである。数年ごとの交代であるが、史実の戦艦大和以上の打撃力を持つ戦艦を好きに使えるというのは大きなメリットであったのである。アイオワ級戦艦以上の近代化を施された状態の戦艦は戦後艦艇に求められるものに余裕を持って、応えられる。特に示威行動でのインパクトは抜群で、違法漁船などがグンと減った理由は『違法漁業の取り締まりに戦艦大和が出張る』という事が噂になったからでもある。対潜能力も有するようになった上、ミサイルでは致命傷にならない装甲を持つことは重要なメリットであった。航空兵器も世代交代期に差し掛かる時期だが、日本では福利厚生費が膨れ上がっており、軍事費に金をかけられない事情がある。しかし、未来からジオン残党が襲ってくるようになり、モビルスーツやモビルアーマーを使ってくるようになると、通常兵器では損耗率が跳ね上がってしまった。航空兵器も、M粒子散布下の状況ではアウトレンジ攻撃は不可能となるため、有視界戦を余儀なくされる。21世紀最新のF-35はステルス性を活かしてのアウトレンジ攻撃が運用の主目的なため、持ち味を有視界戦闘では活かしきれずに苦戦する。ましてや、航続距離は短いが、空戦性能は高めのドップと戦闘を行えば、損傷させられることは常態化する。ステルス戦闘機の意外な弱点が明らかとなり、空自は悩んでいた――

 

 

 

 

 

――防衛省――

 

「黒江くん、詳細の発表は控えているが、我が方のステルス機は有視界戦闘で脆いのかね」

 

「ハッ。そもそも、M粒子は未来で有視界戦闘に持ち込むために用いているものであります。この時代のステルス戦闘機は強力な電探などと複合してのアウトレンジ攻撃と一撃離脱が戦法ですから、昔ながらのドッグファイトでは意外に脆いのです、大臣。財務省が知れば間違いなしに予算は削られるでしょうから、発表は差し控えたほうが」

 

「うむ」

 

遠征の先発メンバーからは外れた黒江。21世紀での仕事が多く入っていたためである。統括官の仕事はこの時期には多忙化している。Gフォースの出動の円滑化、ウィッチ世界へ出征している部隊の福利厚生、装備更新手続き。やるべき事が多くなったため、責任者としての仕事が多忙になっていた。

 

「統括官、お疲れ様です」

 

「うむ。最近は事務処理やら、大臣との打ち合わせなどが多くなって参るよ。出撃の機会が減っちまった」

 

オフィスにいる部下に愚痴る黒江。立場上、デスクワークが増加するのは避けられないが、本質的には現場の人間である。黒江は事務処理もできるので、立場は出世しやすいが、本人は『戦前の日本軍の空中勤務者』らしい現場主義である。

 

「しかし、統括官。数年前以降、ジオン残党の襲撃が増えましたね」

 

「あれ以来、タイムマシンの技術が連中に漏れたからな。のび太たちの子孫が地球連邦で『名家』で、意思決定に関わってるから、それを消そうとしてる。一年戦争の時、あいつらの分家が一個まるごと全滅したって聞いた。そりゃ、平和に暮らしてるところを、シドニーとキャンベラごとぶっ飛びましたっていわれてみろ。どんなに温厚な奴でも怒るぜ。ジオンはその時点で、自分の大義名分なんての吹き飛んでるよ。あそこのエースだったヴィッシュ・ドナヒューだって、そう言ってたそうだ」

 

「彼らは何のために過去へ?」

 

「ジオンを勝たすためだろうよ。数年前の残党、どこで作ったのか、グロムリンまで持ち出しやがったからな。ゲッターアーク様様だぜ、本当」

 

「モビルアーマーまで持ち出されれば、我が方の兵器では対処が不能に」

 

「今、地球連邦軍と対応を調整中だ。先方から返事が来たら、私が対応する。今日はご苦労さん」

 

この日の勤務を終えた黒江は、自身のオートバイで野比家に戻った。応対したのは、ゴールドシップ、メジロマックイーンの二名だった。

 

 

 

――野比家――

 

「よぉ、今日はずいぶん遅いな」

 

「あれこれの調整が勤務時間外に入ってな。幸い、今日が週末で良かったよ」

 

「ご苦労さまです。食事と風呂は用意してありますわ」

 

「おお、ありがとな。マックイーン。マルゼンスキーとナリタタイシンは?」

 

「マルゼンさんとタイシンなら、ツーリングだよ。マルゼンさん、地下にあるカウンタックの使用許可もらってさ」

 

「この辺だと……学園都市線か?」

 

「ああ。そこで走り屋が煽りやがってな。今、レースしてる」

 

「そいつ、命知らずだな…。仮にも、G1レースで名を馳せたマルゼンスキーの運転するカウンタックを、車のスペックだけで抜けるものか」

 

「だろ?あの人はカウンタックの扱いは手慣れてる。たぶん、そんじょそこらのスポーツセダンでイキってる走り屋には負けねーよ」

 

「しかし、同乗しているタイシン先輩がその運転に耐えられるかどうか」

 

「あー。そこだよな」

 

三人はそこで頷きあう。そこが心配だからだが、意外にも、ナリタタイシンはマルゼンスキーの運転に耐えていた。それどころか、運転に慣れたか、マルゼンスキーを煽っていた。負けず嫌いの性分なためだろう。余談だが、このツーリングの後、自身も興味を持ったのか、ナリタタイシンは皐月賞の賞金をオートバイの購入資金にし、後日に運転免許を取得(二輪・四輪共に)。後輩のウォッカがフィーリング的に(父が乗っているため)欲しがっているのと対照的に、こちらは本格派(オートバイを乗り回す者が身近にできていたため)。堅実に250ccのツーリング用オートバイを購入。暇な時に乗り回すようになったとか。

 

 

「しかし、野比氏はなぜ、あのようなコレクションを?」

 

「一つは税金対策だそうだ。あいつ、本業も結構稼ぐ官僚でよ。収入が多いから、税金がかかるんだと。それで、モータースポーツをするようになってからは、税金対策も兼ねて、往年の名車をコレクションするようになった。乗る用、コレクション用、投機用。要はオークションに出して、マニアに売っぱらう用の奴をキープしてるそうだ。マルゼンスキーの使ったのは……たぶん、乗る用の奴だな。」

 

「それと、ゴールドシップの言い出したことはご存知なのですか?」

 

「ああ。こいつのいうことはぶっ飛んどるからな。普通のゲッタードラゴンなだけ、まだいいがな」

 

「どうしてなのです?」

 

「そこまでなら、人智の及ぶ範囲だからだ。真ゲッターや真ドラゴンは竜馬さんたちレベルのメンタルとフィジカルで、初めて乗りこなせるバケモノだ。初代ゲッターやゲッタードラゴンとはわけが違う」

 

真ゲッター以降のマシンは『マシンが人を選ぶ』という恐るべきものであるが、ゲッターGまでは『常識的なマシン』であった。竜馬たち以外の補欠要員が乗っても、フルに性能を引き出せるからだ。

 

「ゲッター線はハングリー精神を持つ者に目がなくてな。お前らは特に好みだ。隼人さんみたいなのは『嫌いじゃないけど、自分から行くほどじゃない』。意志があるエネルギーってのは恐ろしいが、考えようによっては使いようがある」

 

「無機物にさえ、意思を与えるエネルギー……」

 

「そうだ。もし、乗る時は意思を強く持て。スペック値以上の実力が出せるからな。プリキュアたちにも、そういう風に注意している」

 

「そもそも、ゲッターロボは何のために?」

 

「元来は宇宙開発用の重機として造られていた。それが初代ゲッターの戦闘データを分析して強化したゲッターGからは戦闘ロボに開発目的が統一された。真ゲッターロボは実験機も兼ねていた。真ドラゴンはイレギュラーだ。オリジナルのゲッタードラゴンが進化したものだからな」

 

「機械も進化させられるのがゲッターエネルギーの凄いところだが、その特性を悪用しようとしてるのもいるからな。そいつらとも、俺らは戦ってる。逆の特性を持つ『反ゲッター線』もあることがわかったから、敵があれこれ動いてな。俺なんぞ、三つの時代を行き交ってるから、時差ボケ対策もしてるよ」

 

「そいや、あの子だけど、タイシンに懐いたぞ」

 

「本当か、ゴルシ」

 

「ほら、両親が仕事で不在だろ、あの子(ノビスケ)。父親も滅多に帰れないだろ?それで、両親に反発して、ガキ大将になったろ?それがガキの頃のタイシンに似てるみたいでな。タイシンもガキの頃はあの性格だから……」

 

「想像はつく。俺もガキの頃、そういう経験があるからな」

 

「意外ですわね」

 

「人は環境で変わるってことだ。マックイーン」

 

黒江たちはノビスケがなぜ、ナリタタイシンに懐いたのか?ナリタタイシンもなぜ、ノビスケに心を開いたのか?の話題に移る。ナリタタイシンは気難しいウマ娘で知られ、現在の担当トレーナーに心を開いたのも、菊花賞後の事であった。それは母親の『タイシンリリィ』が病弱な娘を過保護に扱った事、病弱で成長が遅い故に、周囲に馬鹿にされて育ってきたという経験が歪ませていただけで、タイシン個人は本来、心優しいウマ娘である。ノビスケが『父親では、けして埋められないもの』を求めている事をタイシンは感じ取り、タイシンは『母親代わりにはなれないが、寂しさを紛らせる事くらいはやれる』と決意し、ノビスケへは優しく接している。しずかが公安警察の潜入任務で不在だったこの時期、ナリタタイシンはノビスケの寂しさを紛らせるに充分な役目を果たしていた。

 

「あいつ、招来はいい奥さんになるかもな」

 

「言えてる。ノビスケに弁当作ってやってるしよ」

 

「本当かよ」

 

「ええ。朝早く、練習前に作ってるようで、ある日、意見を求められましたわ」

 

「マジかよ。あいつも凝り性だなぁ」

 

「あいつ、音ゲーマーでよ。駅前のゲームセンターでフルコン出してたぞ」

 

「プロだからな、お前ら」

 

「我々はライブも仕事の内ですから」

 

「会長、お戻りに?」

 

「ああ。打ち合わせも終わり、前会長も私の退任を承諾してくださった。後は任期満了を待つのみだ。すまんが、ゴールドシップ。何か食事を頼む」

 

「あいよ」

 

この日の打ち合わせなどの仕事を終えたシンボリルドルフが帰ってきた。学生という身分上、制服姿である。

 

「ウイニングライブはいつしか定着した文化ですが、我々は全力で取り組んでいます。元の世界では歴代のウマ娘達のアルバムも出ていますよ」

 

「なるほどな。お前のこれまでの思い出を話してもらえるか?この時間は『大人の時間』だからな」

 

「わかりました。これから話すことは生徒会の先代メンバーしか知らない事も含んでいます。少し……想い出話をしましょう」

 

シンボリルドルフはゴールドシップとメジロマックイーンも同席する場ながら、想い出話を始めた。ゴールドシップが食事を作るわけだが、その匂いでオグリキャップが起きてしまう。それを止めようと踏ん張るタマモクロスの姿が見えた。

 

「オグリ!!そっちにいっちゃあかんで!今は夜や~!」

 

「タマ、行かせてくれ!私の腹は……もう限界なんだ!!」

 

「なんだよ、お二人さん。この匂いに釣られたか?」

 

「うちをオグリンと一緒にすな、ゴルシ!オグリンを止めてくれへんか!?」

 

「その目だと無理だぜ。軽いもんなら作ってやっから、それまで会長の想い出話でも聞いててくれ」

 

「わかった」

 

「およ、随分と素直やな」

 

「私も興味はあるんだ。私がデビューした時代には、会長は既に一線を退いていたからな」

 

傍から見ると、まるでギャグ漫画のような構図だが、オグリキャップは食べ物のこと以外では意外に聡明なところがある。タマモクロスはオグリキャップから手を離し、椅子に座る。オグリキャップはその隣だ。

 

「では、始めます。私の母はウマ娘で、スイートルナという名でした……」

 

ルドルフ自身の幼名は『ルナ』。髪に三日月を思わせるメッシュが入っている事、自身の母の名がその由来であったという。幼名を持つウマ娘は意外に多いが、長じた後も愛称として残ったのはルドルフのみである。そして、その時期、先代の会長であるトウショウボーイの前で『強くてカッコいいウマ娘になる』と啖呵を切った事を赤裸々に告白する。

 

「テイオーが会長にした事を、会長自身も前会長にされていたんですか」

 

「オホン…。若気の至りだよ、マックイーン。あの頃は小学生だったからな。そのくらいの歳なら、不思議ではないだろう」

 

ルドルフは咳払いしつつも若干、恥ずかしそうだったが、後年にテイオーが自分に啖呵を切る姿に、かつての自分を思い出したのは事実であった。そして、テイオーが有言実行でトレセン学園に入学してきた時。裏では小躍りするほど喜んだ事、前会長のトウショウボーイに『ルナにも、こーはいができたよ~!!』とその時点での歳を考えれば『子供っぽい』メールを送って報告した事を離す。

 

「なんや、会長にもかわいーとこあるんかい」

 

「タマモクロス。私だって、かわいい後輩ができれば興奮は隠せんよ。ましてや、テイオーは子供の頃から私の背中を追っていた上、異世界では実の息子だ。これを運命と言わずになんとする!?」

 

「へいへい。あんたがテイオーをかわいがっとるのはわかったから。ほな、次いこっか」

 

「う、うむ……」

 

タマモクロスにさらっと流されたが、シンボリルドルフはトウカイテイオーとの初対面の際、『他人のような気がしない』という感覚を覚えた事を覚えている。それは親子であった故の『魂の共鳴』であった。テイオーはそれを知った後は『(自分は)かいちょーの不肖の子』と自嘲する言動すら見せる様になったが、それは競走馬として、種牡馬として、父・シンボリルドルフのようにはなれなかったという悔恨の感情を蘇らせたからであった。実際、競走馬としてのトウカイテイオーは素質だけは父を超えられる可能性も有していたが、実際は適性の違い、有した体力の違い、在籍した時期の違い、度重なる故障なども重なり、ルドルフほどの実績は残せなかった。その記憶を得たため、テイオーはせめてもの『父への手向け』と、春秋シニア級三冠を目指すようになったのだ。

 

「テイオーと私に特別ななにかがあるのは感じていたが、まさか……、実の親子の生まれ変わりとは…。異世界での事とは言え、テイオーが愛おしく思えてくる。私と同じ舞台に立ってくれたのは嬉しい。……が、あの子には……私のようにはなれないという運命が横たわっていた…。今からして思えば、たまらなく悔しい…!たられば…というのは禁物だというのはわかっている。だが……。テイオーが私の後を継ぎ、三冠ウマ娘になる事を……夢見ていた。君等には『親バカ』と言われるかもしれんが……、あの子は三冠を取れる、いや、取っていて当然なほどのポテンシャルはあったんだ!なのに、日本ダービーの後の怪我が全てを変えてしまった……!!何故だ!?何故……!!」

 

ルドルフ自身、テイオーの大成を願った。ターフの上では『愛弟子』と言える関係でもあり、私生活でも、自分を姉のように慕うテイオーをルドルフも可愛がっているのは事実である。ルドルフ自身も自身の後継になるだろうと期待していた。だが、テイオーは菊花賞前に故障を起こしてしまった。そこから運命の歯車が狂ったのだと、ルドルフも実感していた。テイオーは度重なる故障で『全盛期には戻せない』という宣告を受け、一時は自暴自棄に陥った。その時のテイオーの自暴自棄ぶりは、ルドルフも内心で動揺するほどのもので、本当は全てを投げ出して、慰めてやりたかったとしている。

 

「キタサンブラック君やツインターボ君の引き止め、そして…、君の言葉がなければ、テイオーはターフを去っていた。マックイーン。その節は本当に感謝している……」

 

「わたくしは……自分にできる事をしたまでですわ、会長。キタサンブラックさんの言葉、ツインターボさんの頑張りがなければ、テイオーは本当に辞めていたでしょう。テイオーを本当に引き止めたのは……キタサンブラックさんですわ」

 

キタサンブラックが手製のお守りを握りしめながら、『私、ずっと待ってますから……!!』と泣きじゃくったことは、『罪悪感』と言う名の痛烈な一撃をテイオーに見舞った。子供の願いを裏切ることの卑劣さ、残酷さをテイオーはよく知っていたからだ。テイオーはそれを自覚したからこそ、キタサンブラックのお守りを受け取る事にしたのだ。

 

「あの子の涙が……テイオーの揺らいだ心を動かした。子供の夢を壊すことほど、残酷で卑劣な行為はない。私も、テイオーと出会うことで、レースの面白さを思い出した。強さ故に同期から孤立し……幼馴染とも疎遠になった時期……あの子が私の消えかけていた闘志を蘇らせてくれた。同じことがテイオーにとってのキタサンブラック君にも言えるな」

 

「テイオーは拠り所がほしかったのです、会長。目標としていた三冠も無敗も無くなり、縋れるのはみんなとの繋がりだけ…。速く走るというものもわたくしが脅かす…。キタサンブラックさんはひたすら、テイオーの復活を信じていた。キタサンブラックさんだけではありません。……皆さん方が背中を押したからこそ、テイオーは戻れたのです。そして……今。テイオーはあなたが会長として目指したものを継ごうとしていますわ。……今のわたくしにできることは『支える』事です、会長」

 

 

メジロマックイーンは自分の本来の『運命』を知ったことで、メジロ家の悲願を果たすこと以外の目的――テイオーのライバルであり続ける事、テイオーを支える事――に目覚めた事を明言した。また、キタサンブラックがテイオーの復活を一途に信じていた事そのものがテイオーの『引退』を撤回させる一助となったともいい、キタサンブラックが自分を慕う事が一種の拠り所となった事も正確に分析していた。

 

「テイオーは『あきらめない』事を宿命付けられた存在かもしれんな……」

 

ルドルフはテイオーについて、そういう風に総括した。心を折られる状況になっても『不死鳥』のように蘇る。

 

 

「さながら、星飛雄馬だな」

 

「ああ、昔の野球漫画の?」

 

「そうだ。アレだって、左腕を大リーグボール三号でぶっ壊しても、生来の利き腕は右だった~とかで舞い戻ってきて、ついには『蜃気楼の魔球』なる大リーグボール右一号にまで至ったろ」

 

「確かにな……。♪夢にかけーた血~真っ赤なかぎりぃ~よみがえれ~よみがえれ~飛雄馬~……ってか?」

 

「さすがはゴルシ。知ってたか」

 

「あたぼうよ」

 

ゴールドシップが口ずさみ、黒江が指摘したその歌はその星飛雄馬が『成人後、右投手として蘇る物語』におけるエンディングテーマであった。トウカイテイオーもそのような選手生活であるため、妙にマッチしていた。『常勝の王者』という選手生活であったシンボリルドルフ。大衆人気という点では『ヒール』じみてすらいた彼女と違い、トウカイテイオーはその『星飛雄馬』宛らの波乱万丈で、劇的な選手生活を送っているところが日本人の心を打つ。アイドルウマ娘として名を馳せたオグリキャップ無き後のターフを担うエース。テイオーはそんな期待を背負っていた。そして、周囲から半ば見放されていた中での有馬記念。テイオーは史実ではオグリキャップと違い、『時代を牽引した』とされながら、怪我で引退レースを出来ずじまいに終わったが、ウマ娘としては『不死鳥』のように蘇りつつある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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