――ウマ娘たちは野比家を活動拠点として手に入れたわけである。ゲッターに乗った者たちは副作用で闘争心が増大する一方で、思いっきりが良くなっていた。レースがある都合で、一時的に元の世界に戻る者がいるわけだが、ゲッター線に当てられた者は『それまでが嘘のような』好走を見せつけた。ナリタタイシンもそうであった。ゲッターライガーに乗ったことが影響したか、加速力が段違いに上がっており、とある『GⅡ』のレースに出走。他のウマ娘を置き去りにする鬼脚を見せつけた。そして、そのウイニングライブで歌った歌こそが『HEATS』と『Bloodlines 運命の血統』であった。前者はウマ娘世界にも存在しているが、後者はゲッターアークがウマ娘世界においては『アニメ化されていなかった』ため、タイシンが始めて持ち込むことになった――
「♪真っ赤に燃える闘志はぁ~父と同じさ~雄々しく、激しく!輝き続ける~!さぁ、見せてやれ!そのパワーを!!」
運命を超えること。それは別世界での流竜馬の実子である拓馬が父・竜馬へ言った言葉であり、それをゴールドシップから聞かされたトウカイテイオーも強く意識し、ナリタタイシンも意識している。トウカイテイオーと違い、BNWの三人は『平成三強』の直接的後継者を期待されたものの、ビワハヤヒデが突出して強かったこと、ウイニングチケット、ナリタタイシンがクラシック級時代に一勝しかできなかったことで、平成三強の真の意味での後継者にはなれなかった。協会が用意した既成の歌でなく、持ち込みの歌を歌う事は例がないわけではないが、この時点で、運命を超えることを最も意識し、『誰かを笑顔にしたい』のは彼女かもしれなかった。
――トウカイテイオーも新調した勝負服に変えた途端に連続で怪我をしたからか、原点回帰という体裁で、元の勝負服に正式に戻した。ルドルフの正統後継者という箔も得られたからだ。シニア戦線に正式に参戦した年、入学後のキタサンブラックが正式に弟子(自身のトレーナーの教えを受けることになったからだ)となり、自身がシニア戦線に初参加となったレースにて。
「おぉーと!トウカイテイオーが前に出た!完全に全盛期の勢いを取り戻しています!早い、早い!」
実況アナウンサーの声が上ずる。テイオーの速力は完全に往時のものへ戻っていたからだ。学園の広報部の戦略もあり、彼女がルドルフの後を継ぐことが公表されていたため、出場を『ルドルフの後継者になるための箔付け』と冷ややかな声もあったが、レースを盛り上げていたのは事実であった。なお、レースに出走しないマルゼンスキーは野比家に残っており、のび太から許可を得たカウンタックを乗り回している他、ネットで競走馬としての自身の末裔にあたる『レイパパレ』(レイパパレは母方でマルゼンスキーの血を継ぐ)のレースの映像を見たりしていた。ルドルフが生徒会からも引退すること、自身は半引退状態な事もあり、学園に戻っても暇だからである。
「トウカイテイオー、有馬記念に続き、このレースも制しました!!ここに来て、かつての走りを取り戻しましたーーー!」
トウカイテイオーは全盛期が戻ったかのような走りを見せることで、シニア戦線を勝ち抜くための狼煙を上げる。レースに出場する際の間隔は基本的に個人の裁量に任せられているが、テイオーは表向き『足の調整を長めにする』という名目で、長めの休みを取る事になっている。実のところ、その間に実務的意味での会長職の引き継ぎも兼ねているからである。一見すると、華麗な復活劇のようだが、実際の裏事情は意外にドタバタであったりする。ウマ娘世界で二週間経ったものの、キングヘイローの目撃証言はあれど、発見には至っていない。ルドルフ不在時の政権の残務整理はエアグルーヴが主に行っており、テイオーがレースのために学園に戻った時には、エアグルーヴが八割方終えていた。レースを終えた次の日に生徒会長室に行くと。
「テイオーか」
「残務処理、ご苦労様」
「この程度、どうということはない。どういうことだ?お前たちは最盛期の実力を取り戻している。いくら異世界に招かれたとは言え、可能なのか?」
「宇宙戦争が起きてる時代の治療を受けたんだ。ボクの場合は骨格そのものの強度を強くして、体の柔軟性に追いつけるようにしたみたい。ボクは骨格の強さが柔軟性に追いついてないのが難点だったしね」
トウカイテイオーの肉体的弱点は骨格の強度が肉体の柔軟性に追いついておらず、本人が無自覚に無理な力をかけてしまうために骨が折れてしまうこと。テイオーはその悪循環に陥っていたが、措置のおかげで全盛期の力を取り戻した。さらにそこから鍛えていると明言する。
「それに、あることもわかったしね」
「あることだと?」
「ボクと会長は別の世界じゃ、実の親子ってことさ」
「なにぃーーーー!?」
固まるエアグルーヴ。テイオーはドヤ顔になる。自分がルドルフの正統後継者であるとする理由の拠り所でもある。エアグルーヴが昇格するかと思われる中、テイオーの抜擢は驚かれている。ウマ娘としても親子、姉妹になった例があるのは事実だが、ウマ娘としての血のつながりは無くとも、正統後継者となった例となった。
――この帰還している時期、ナリタタイシンはレースでの収入をオートバイの購入に充て、運転免許証も合宿で取得した。これは野比家には、黒江が通勤やレースで使うオートバイが置かれており、それに触る内に興味を持ったからである。運転免許証を合宿で取得したタイシンはオートバイの購入をトレーナーに相談。学生時代はオートレーサー志望だった彼のアドバイスで、比較的に扱いやすい250ccクラスのオートバイを購入し、野比家に置くことにした。(ウマ娘からすれば、自分で走る方が原動機付自転車より疾いため。ちなみに、黒江は2020年代に入る頃に運転技術が熟れたため、大排気量のオートバイに乗り換えているため、お古ももらえたが、新車の購入を選んだ)オートバイ購入を志望しつつ、年齢的に運転免許証を取得できないウォッカ(スピカの若手ウマ娘)が、タイシンがオートバイの試運転で、試しにトレセン学園への通学に使った日に、それを目撃したため、ウォッカが死ぬほど羨ましそうな目でタイシンを見ていることに、タイシン自身は気づいていなかったりする。また、仮面ライダー達と組織はモトクロス戦の都合上、250ccから400ccクラスの車格のシャーシに原子力エンジンを積むという手法で幹部怪人用のバイクを都合しており、ライダーたちも組織が残した製造プラントを使っている時はある。ライダーマシンもオーバーホール中のモノ、足回りにガタが来て、走行できなくなったモノを野比家で預かっており、ガワだけは復元できた『二号用の改造サイクロン号』が地下に置かれていた。(一号用は立花藤兵衛が生前に『ネオサイクロン号』に強化していた)
――タイシンがレースを終え、野比家に戻った日――
「ん?なに、この70年代のヒーローが乗ってそうなバイク。足回りがボロボロじゃん」
「仮面ライダー二号が現役時代に使っていたスーパーバイク『サイクロン号』ですよ」
「うわっ!だ、誰!?」
「僕は野比のび太。ノビスケの父です」
「ど、どうも……ナリタタイシンです…。はじめまして…」
この時に、タイシンはノビスケの実父であるのび太と出会った。目測で20代の後半から30代前半に見え、それなりに高身長(のび太は18歳以降は175cm。それなりに長身に成長している)のイケメンである。
「あの子から、貴方のことは窺っています。息子がお世話になりました」
「い、いえ…。ここにあるのは、あなたが集めたんですか?」
「子孫たちのツテで預かったり、ヒーローユニオンからの委託で収蔵したモノが大半ですが、私個人の趣味で集めた車もあります」
のび太はラリー仕様のミニクーパーが愛車である。これは成人までのどこかで『ミニミニ大作戦』(1969年度版)を視聴する機会があったこと、大叔父の一人の形見がミニクーパーであったことが由来。それと別に、骨川コンツェルン主催のオークションの常連であり、裏稼業の稼ぎの多くをその費用に当てているという。子供の頃、玉子の教育方針で高価なラジコンカーをほとんど買ってもらえなかった(ドラえもんを介する形で入手してはいる)反動が成人後にモータースポーツに関与するという形で表れ、その一環か、この時代には『往年の名車を集めるカーコレクター』にもなった。
「これは仮面ライダー二号から寄贈されたものです。足回りが駄目になっているので、自走できませんが、ガワは組み立て直しました。外見は70年代のバイクですが、スペックは時速450キロを超えています」
「よ、450!?」
改造サイクロン号は時代相応に古めかしい外見だが、スペックは21世紀最速級のハヤブサやニンジャZX-12Rも霞むものである。原子力エンジンを積んでいることでの圧倒的トルク、燃料補給の必要のなさも利点で、改造人間でも、相当なスペックがなければ完全制御は困難である。
「改造人間でなければ、完全な制御は困難です。貴方方でも難しいでしょう。なにせ、最も非力なライダーマンマシンでさえ、最高速度は250キロありますからね」
「その逆は?」
「スカイライダーのスカイターボですかね。音速超えてますから」
「お、音速!?」
普段は強く周囲に反発、あるいは拒絶する態度を取るタイシンも、年上の前では礼儀正しい態度を見せる。23世紀では、化石燃料を使う内燃機関の時代がほぼ終焉を迎え、エレカに移動手段としての車が統一されているが、エレカは色々な兼ね合いで、トルクと吹き上がりが内燃機関に劣るのと、バッテリーの劣化に伴う航続距離の低下は依然として問題として残っているため、内燃機関の燃料が確保できる移民星では、内燃機関使用車のほうがが好まれる。
「数百馬力のパワーと戦車を吹き飛ばすほどのトルクはあなた方であっても、制御に骨が折れるでしょうな」
「確かに…」
サイクロンやハリケーンなどの初期のライダーマシンでも、その馬力は300馬力以上のモンスターであり、普通の人間では手に余る。ウマ娘であろうと、制御に難儀するのは目に見えている。特に、昭和ライダーのマシンは早ければ音速にも達する。その事実を教えられ、『上には上がある』と実感するナリタタイシン。
「この世界は千差万別の楽しみ方があります。あなたも肩の力を抜いて、楽しむといいでしょう。倅にも、そういう風に教えています」
のび太のこの一言がナリタタイシンをモータースポーツへ誘う事になった。この日を境に、ナリタタイシンはマルゼンスキーと親交を結び、トゥインクル・シリーズのレースがない時は野比家を訪れては、学園都市の走り屋たちと覇を競う『走り屋』コンビとして、その名を知られていく。
「運命って何か考えた事はありますか?」
「ありますね。ですが、私はそれを超えたことで、今の幸せを掴んだ。あなたにもできるはずですよ」
「あたしにも……できると?」
「ゴールドシップさんはそう見込んでいますよ」
「ゴルシはあたしを買いかぶってます。あたしはあいつみたいには……」
「思いは引き継がれていきます。時代を超えて。あなたの親友であるビワハヤヒデさんはそれをわかっていた。だからこそ、盟友のあなたやウイニングチケットさん、妹のナリタブライアンさんに後を託したのです。それに、あなたのように『なりたくても、なれない』子達のほうが多いのはわかっているはずです」
「姉のユーセイフェアリーがそうでした。GⅡを一勝しか…。それと従姉妹のケイキロク姉さんはオークスを……。だけど、アタシは皐月賞しか……」
ナリタタイシンは従姉にオークス優勝経験者のケイキロクがいるが、姉のユーセイフェアリーはGⅡを、自分はGⅠを一勝しかしていない。そのことで劣等感を抱えていた。だが。
「ウイニングチケットさんの史実は見たはずでしょう」
「ええ……。あいつは日本ダービーで燃え尽きて、以後は涙に沈む……その無念を晴らせる子孫は曾孫の代に……。あたしは結局、ライスシャワーに引導を渡されて…。そのライスシャワーはそのレースで……。見ちゃったっていうんですか、こういうの…。わかんないですよ!!なんであんな光景を……。ライスはやっと報われ始めたのに……!チケットはダービーに勝てたのに……それが絶頂だなんて……残酷すぎるよぉ……」
途中から泣き声に変わるナリタタイシン。ライスシャワーに引導を渡された史実、そのレースで史実のライスシャワーは悲劇的結末を迎えた事、親友のウイニングチケットは日本ダービーの栄光が絶頂で、後は落ちるだけという残酷な事実にショックを受けたのが容易に推察できる。
「あなたが何故、『史実』を見ることになったのか。それはわかりません。ですが、その運命が立ちはだかるのなら、超えていけばいい。ゴールドシップさんもそれを望んでおられる」
「運命を超えろったって……どうすればいいんですか!!わからないですよぉっ!」
「それはそれから見つけていけばいい。私のように。あなたに守りたいものがあれば、それだけでいいんですよ」
「……っ、守りたいもの……?」
「ええ。私がいうのもなんですが、その昔、仮面ライダーたちへ向けて作られた歌があります。その中の一節にこういう歌詞があります」
――♪たった一つのこの命~はるかなる愛にかけて戦う~それだけでいいのさ――
スカイライダーが現れた時代に、ライダーたちへ向けて送られた歌『はるかなる愛にかけて』の一節を引用し、ナリタタイシンに奮起を促すのび太。その言葉には、彼女が自分のトレーナーへ感じているものと同じ何かがあった。仮面ライダー達は愛にすべてをかけて、悪と戦った。なら、自分は何を守り、何と戦うのか。自分の自己満足のためではなく、自分の大切な誰かを笑顔にするため、そして、運命を超えるために。
「……誰かに見られたら、どうするんです?これ」
「……すみません。だけど、今はこうさせてください……」
のび太に抱きつくナリタタイシン。彼の胸に顔を埋めて、自身の涙を隠している。ウイニングチケットが辿るであろう苦難の道、ライスシャワーに待ち受ける残酷な光景。それらの史実に心優しい彼女は耐えられなかった。普段は虚勢を張って強がっている彼女も、心を抉るような残酷な『史実』(特にライスシャワーの悲劇)を前にしては、平静でいられるはずはなく、泣きじゃくる。のび太は黙って、優しく抱きとめてやる。そして、タイシンが泣きつかれて、眠ってしまったのをお姫様抱っこで運ぶ羽目になったので、マルゼンスキーとウイニングチケット(ウイニングチケットはダービー後はレースへの出走予定が当面はないため、野比家に留まっている)が腰を抜かし、のび太は説明に一時間もかける羽目となったのだった。(遠征が長引いているため、ノビスケの様子を見るために戻ってきたからだ。数日ほど休んだら、また戦いに赴く)
――同時期に発表された『ビワハヤヒデの引退』が、ウイニングチケットをしっかりとさせるきっかけになり、ノビスケに『良きお姉さん』として振る舞うようになり、快活さは維持しつつも、奔放さはなりを潜めていく。それは事実上のリーダー格であったビワハヤヒデがターフを去っていくことで、『変わらなくてはならない』事をウイニングチケットが自覚したからである。ビワハヤヒデの引退に伴うBNWの事実上の解散(三人はメイクデビュー以来、平成三強の後継を期待されたが、かつての平成三強ほどの強さには至らず、ビワハヤヒデが突出した実力を備えるに至った)はウイニングチケットに衝撃をもたらし、史実の自身の苦難を知った事もあり、ウイニングチケットもゴールドシップに誘われ、『運命を超える』事を選び、チームスピカへの所属を正式に表明する。その結果、チームスピカは有力ウマ娘を多く抱える強豪チームへ躍進し、将来的な解散も視野に入れられた『チーム・リギル』に変わる最強チームへとなり始める。ゴールドシップはオグリキャップ引退後に空洞化したチームを支え、続々と有力、あるいは有望なウマ娘をスカウト。遂にリギルを最強の地位から追い落とすに至った。だが、スピカもけして順風満帆ではない。スペシャルウィークの早期のドリームシリーズ転向に伴う目論見の狂い、メジロマックイーンの怪我による長期離脱。トウカイテイオーの怪我の連続によるチーム成績の低下。また、教会内部の保守派と改革派の派閥抗争によるダイワスカーレット、ウォッカの両名の正式なメイクデビューの遅延、ヘイロー家のお家騒動に伴うキングヘイローの失踪、アオハル杯復活(過去に行われていたチーム対抗リーグの復活)のスケジュールの大幅な狂い。世間を騒がせたことでのシンボリルドルフの生徒会長からの引責辞任などの渦中にあったため、リギルからのメンバーの『押し付け』に伴う受け入れ準備、移籍メンバーのトレーナーの編入手続きなどの事務作業に追われ、スピカのトレーナーは過労死寸前の労働時間になっていた。ある日、騒動の渦中にいた故の過労で長期入院を余儀なくされてしまう――
「ゴールドシップさん!!」
「スペ、どうした!!今度は何かあった!?」
「トレーナーさんが倒れちゃったんです!!すごい熱で…。どうしたらいいんですか…?」
「今度はあいつかよ!?スペ、泣くんじゃねぇ!!泣いてても状況は変わんねぇぞ!!いいか、すぐに誰か呼べ!エアグルーヴはもう戻ってるはずだ。それと、エルコンドルパサーでも、セイウンスカイでもいいから、人を呼んで、トレーナーを保健室に運べ!!いいな!!」
「は、はいっ!」
ゴールドシップは野比家に滞在し続けているため、そこからスペシャルウィークに指示を飛ばす。彼女はすぐに助けを求め、偶々に近くにいたエルコンドルパサー、セイウンスカイ、エアグルーヴ、エアシャカールがこれに応じ、スピカのトレーナーを保健室に運び込んだ。そして、ゴールドシップの計らいでトレセン学園へ派遣された『メジロ家お抱えの主治医』による往診が行われ……。
「先生。トレーナーは……」
「過労です。それも、しばらくは休養が必要になるレベルのものです。彼のスケジュールの過密さを拝見するに、精神的にもかなり抱え込んでしまっていたのは間違いありません。メジロの経営する総合病院にしばらく入院してもらい、体調を回復してもらうしかないでしょう。すでにお嬢様(メジロマックイーン)とゴールドシップさんの要請で、入院の手筈は整っています」
主治医ははっきりと過労と告げる。肩を震わせ、自分のせいだと泣きじゃくるスペシャルウィークを懸命に宥めるエアグルーヴとエルコンドルパサー。トレーナーを追い込んだのはスペシャルウィークではなく、協会の無計画な方針策定と派閥抗争による意思統一の遅れ、熾烈な派閥抗争に伴う意思伝達の遅れが招いた色々なしわ寄せなのだ。
「スペシャルウィーク、今回の一件はお前のせいではない。そう気に病むな」
「でも、私がシニア級に出てれば、トレーナーさんに負担がかかるのを少しは……」
「果たして、そうなったのか?なんて、誰にもわかりませんよ、スペちゃん。今回の事はヘイローの失踪がきっかけで起こった抗争が原因デスよ」
災難続きのスペシャルウィーク。グラスワンダーの不振の原因と見なされ、グラスワンダーの海外遠征を目論んでいた協会からは嫌味を言われまくっており、かなり気に病んでいたのだ。もっとも、グラスワンダーはマルゼンスキーの影を振り切ったと思えば、スペシャルウィークに執着するなど、精神的に脆い面があり、マルゼンスキーのような絶対的な強者にはなれなかった。燃え尽き症候群の発症で成績が落ち込んでいるうちに、次世代のウマ娘たる、テイエムオペラオーとメイショウドトウが台頭しているために協会からは見放された感がある。
「私はどうすればよかったんですか……先輩…」
スペシャルウィークは泣きじゃくる。さすがのエアグルーヴも声のかけようがなく、親友の一人であるエルコンドルパサーも、何も言えなかった。グラスワンダーはこのことをエルコンドルパサーから聞かされ、スペシャルウィークのために再起を誓う。だが、彼女の時代はすでに終わっていたのである。テイオー、ブライアンがカムバックし、更に次世代のウマ娘であるダイワスカーレット、ウォッカらが台頭してくるからである。一方、ドリームシリーズの改革の象徴として、タマモクロスが全盛期の力を取り戻した事は最大限に宣伝された。タマモクロスの復活はそれほどの出来事だったのだ。
――扶桑皇国海軍の航空戦力は日本側に烏合の衆と見なされていた。それは1940年代なかばの頃には人材が枯渇していたという史実、戦争半ばからは陸上航空隊のほうが重視されていた現状からの判断であったが、実際は井上成美中将の主導で『海軍の空軍化』が進められていたからであった。これが日本連邦化で覆った。孤立した太平洋の島々の基地航空隊が圧倒的な空母航空団に捻り潰されたという戦訓が写真付きで突きつけられ、彼と言えども反論が不可能に陥った。海軍高級士官としては政治的に失脚。1947年に表向きは要請という形で空軍へ移籍した。この影響で、空軍は陸海の基地航空のほとんどを抱えることになってしまったが、空母航空団の根本的な再建が難しくなってしまった。機種がコロコロ変わった上、ジェット機の登場がダブルパンチになった。64Fへ優先してエースが集められ、更に名うての古参の多くも同隊に属したための実務上の弊害は空母航空団の再建の遅れとして現れた。もっとも、日本側にとっては、『短絡的に空母決戦を挑み、あ号作戦のように返り討ちに遭われても困る』という理由があったので、空母航空団の再建の遅れは裏で歓迎されていた。しかし、信濃型航空母艦が存在していなかったことは予想外の要素であった。後世に欠陥空母と揶揄される『大鳳』が最新の状態であったためだ。地球連邦軍から人員含めてのウラガ級護衛宇宙空母やプロメテウス級大型空母の供与を受けたものの、その内の二隻をウィッチ世界の沖縄防衛のためのフラットフォーム化せざるを得なかった(これは日本の市民団体が運動を起こし、沖縄から軍を『追放』したためだが、怪異を恐れる現地住民の嘆願で、結局は防衛力を置くことになったためだ)ためでもある。結局、空母航空団の正式な再建は1950年代以後にずれ込むが、20世紀末時点の第一線機で艦上機が統一されるには充分な時間となった――
――一方、陸軍と空軍は数も重要な要素であったため、比較的高性能とされる既存兵器の生産も続けられた。陸軍では、慣れ親しんだ九七式中戦車や九五式軽戦車から遥かに大型で『重戦車』然とした車両への転換を嫌う者も多かったが、扶桑陸軍の実務者は1940年代後半には『ダイ・アナザー・デイ』経験者が大半を占めていたため、車両の世代交代は比較的に円滑に進んだ。また、日本側が主導して『旧式兵器』を処分してしまったことの補完として、兵器庫に保管されていた地球連邦軍の陸戦挺が大量に譲渡され、南洋戦線で使用された。ビックトレーやヘビー・フォーク級の主砲口径は第二次世界大戦中の大型戦艦と同等以上であるため、機甲兵器不足に喘ぐ扶桑陸軍には福音であった。空軍も、数を補う目的で、ターボプロップ化された既存レシプロ機の運用は続けられた。最低でも時速650キロ以上の最高速を誇る機体が乱舞し、25ミリ機銃やリボルバーカノン、バルカン砲、パルスレーザーの火線が入り交じる戦場となったため、ミサイルに耐えられる防御力を担保できる第二世代理論式ストライカーを有していないウィッチ部隊は戦闘行動を制限されることになった。
――第二世代理論式は火力重視の装備であることが主流であった。この頃に生産がされ始めたF-8ストライカーは扶桑海軍の在来式に近い『機動力重視』の設計であったため、好評であり、重武装のF-4タイプより古参ウィッチに好まれた。当時にカールスラントが配備していた従来理論式ジェットストライカーのすべてを超越していた事から、扶桑空軍でも多数が使用されるに至った。同ストライカーが現役であった期間は長く、第三世代式の登場が1960年代後半になったこともあり、マイナーチェンジを重ねつつ、扶桑では1968年前後まで使用され続けたという。これはF-4がマイナーチェンジでどんどん重装備になっていくのとは好対照であり、扶桑海事変以降の戦乱を生き延びてきた古参達のキャリアにおける最後の乗機であったケースも多い。これは未来装備を好まない指揮官も多かったからでもあった。64Fは第二世代は主に訓練で使用し、戦闘任務には『戦闘用パワードスーツ』に変革した『第三世代』を自主的に持ち込み、使用した。当然ながら、機密性が『1940年代』においては高かったため、詳細が衆目の知るところとなったのは数十年後のこと――
――第三世代の21世紀運用モデルは『アリス・ギア・アイギス』や『インフィニット・ストラトス』風の外観となっており、数々の技術革新を起こしても、それらに追いつくのには、60年から70年もの時間が必要であったのが窺える。動力源の魔導エンジンも魔導ターボファンエンジンとなっており、稼働時間もかなり長い。稼働時間の延長は第一世代式・第二世代式のジェットストライカー共通の弱点であったため、燃費の向上は歓迎されている。また、21世紀を迎える頃には、かつての英雄らは代替わりで退役していたため、ある時期の彼女たちに近い戦力を均一に実現可能になった第三世代型はウィッチ系の技術士官の悲願であった。(ウルスラがそうであったように、技術士官らは一騎当千の強者を嫌い、質が平均化・均一化された戦力の物量での戦局の打開を狙っていたが、質が均一化されたことの弊害がダイ・アナザー・デイからの戦局の混迷で生じ、また、多くの人命が失われることを嫌う政治の都合で、一騎当千の強者が持て囃されるため、彼らはやがて、その力の再現を試みた。それが実現したのが1960年代後半。第三世代ストライカーが主要国空軍に普及したのが2000年代であった)大抵の国では実弾兵器が装備されるが、技術が度重なる戦乱で加速した扶桑では、実用段階に達したビーム兵器が武装になっている。ISで実現していたものをストライカーで再現する事にこだわった結果である。年月を費やした代わりに高性能であり、21世紀時の実用品としては最高レベルの性能を維持している。64Fは子孫のつてで、それらを1940年代に持ち込んでおり、幹部級人員のみが使える装備品に位置づけている。ルッキーニBが暴いてしまった格納庫にはそれらも置かれていたが、ルッキーニが開けた位置からは見えない位置に置かれていたため、幸いにも、ルッキーニBは気づいていない。そして、実は501Bの初陣の際に使われているが、あまりに未来的なため、それが『第三世代式』とは、却って気づかれていない。64Fと交流が深い部隊のみがその使用が叶い、極秘裏に使用している。当時の第一世代式では、超音速ジェット機にはまるで追いつけず、かと言って、第二世代式は武装が重く、扶桑のベテランの好みではないため、64Fに懇願し、『第一世代の身軽さと第二世代以上の武装を両立させた機体』を供給してもらうケースが公式記録には記載されていないが、最前線ではかなり存在した。そして、日本駐留の扶桑軍(Gフォース参加部隊)も64Fからの供給を受け、かなりを使用している。敵の物量であったり、学園都市の暗部残党の兵器に対抗するためである。Gフォースは2021年から『ウルトラホーク一号』の生産ラインを構築し、それ以外のウルトラメカの中で『比較的に現実味のあるもの』を(スカイハイヤーなど)試験的に建造するなど、万一に備えての準備を行っていた。それが却って、ロシアなどの復讐心を煽り、22世紀。統合戦争という形でその危惧は現実となる。23世紀で技術封印がタブーになったのは、統合戦争という『際限なき争い』で失われたものがあまりにも多すぎたからで、間接的にミネバ・ザビが連邦との交渉で主導権を握れずに終わる要因を担ったのである。――