――日本は戦後の反軍的風潮もあり、扶桑の軍学校の改編と縮小を断行させた。だが、幼年学校だけでも、何万もの在校生がいたために、社会へいきなり放り出すわけにはいかなかった。魔女候補生には一桁の年齢の者が多かったからだ。その彼女らへの救済措置の問題、魔女の不足の問題もあり、1945年八月までに在校済みの学校生は改編後の工科学校への在籍資格を持つとされた。工科学校は三年の教育期間となり、そこから統合士官学校に進むという長期的なコースになったので、1945年に一旦は任官されていた生徒でも、正式な任官はその四年後になった。電子工学などの21世紀以降の必須知識が詰め込まれたからである――
――教育の長期化は正式な任官数の減少を招いた。魔女の寿命が市井に知れ渡っていた故だが、多くはよほどの事情がない限りは『数年の勤務』を形式的に勤めた。正式な改編後は十年近くの勤務実績が恩給や年金の受給に必要となる故か、改変寸前の1947年度に駆け込みで退役する魔女が多かった。だが、華族や皇族、資産家、代々の軍人一家の令息や令嬢はそうはいかないため、そのまま太平洋戦争に従軍した。日本の左派はそれら『富裕層の令息・令息』を世間知らずの連中と小馬鹿にしていたが、元々、扶桑の富裕層の令息\令嬢は社会のエリート層を担うべく、最高の教育を受けていたため、下手な日本の社会人より精神的によほど律されていた。そのことが皮肉な事に、日本が平等性の観点から廃止を目論んだ扶桑『華族』制度の利点が示された形だった――
――扶桑軍は様々な制度改変とダイ・アナザー・デイの影響で、生え抜きの魔女の新規入隊は減少し、代わりに恩給と年金を目当てにしての日本義勇兵が多く入隊するようになった。日本の義勇兵(魔女)は一昔前の扶桑の候補生らのように政治思想にかぶれていないため、日本連邦の体制下では重宝された。それが扶桑生え抜きの魔女より平均値で強大な魔力を持つものだから、世の中わからないものであった。日本では、自衛官になっても退職後に生活苦になるケースが多いが、扶桑の軍人になれば、生活がある程度は保証されるからだ。この差は日本の中で批判を呼んだが、仕事の内容の都合、福利厚生の充実は必要であるのと、のぞみの一件からは流石に『内政干渉』がクローズアップされたので、強くは言えなくなったのだ。その流れで、歴代プリキュアの従軍を認めた。扶桑軍所属ではない者がいたからである。のぞみの一件が魔女の雇用問題にまで発展してしまったため、『触らぬ神に祟りなし』を決め込んだからだ。ヒーローユニオンを認めたのも、過去の警察の不祥事が彼らの手で白日の下に晒されるのを異常に恐れたからであるので、これ以上、のぞみの一件での傷を抉るような事は避けたかったのだ――
――その代わりに、プリキュアを軍の広告塔として活用する事には積極的であった。のぞみ(キュアドリーム)はもちろん、ラブ(キュアピーチ)、シャーリー(キュアメロディ)の三羽烏が中心であったが、マナ(キュアハート)、トワ(キュアスカーレット)も起用された。ダイ・アナザー・デイからの数年の間の戦間期、クーデター後の苛烈な粛清人事で、上は上級将校から下士官までの人的資源に大打撃を被った扶桑皇国の窮状に配慮した日本側が認めた事柄であった。特に航空関係者は史実の特攻の考案への意趣返しも兼ねて、多くが粛清人事の対象にされたため、(基地航空隊が主力化していたため)空母勤務に主に二軍を配していた海軍航空隊は瞬く間に形骸化してしまった。坂本はその再建に軍生活を捧げる事に決めていたので、本来は45年の段階で『64Fとは関わなくなる』はずであった。だが、自らが推薦した後輩の『志賀』が隊を離れたため、その補償で出戻る事になった。その関係上、海軍軍人+武士の厳格な気質を保っている事から、実質の風紀委員のような立ち位置にいた――
――坂本自身も規律面で融通が利かない事を自嘲しつつも、64Fをなんだかんだで支えていた。黒江らが神輿にしている『源田実』の事は好いてはいない(戦闘機無用論からの変節者と見ていたため)が、現場への理解度が高く、なおかつ、反骨精神旺盛な菅野が敬服していた参謀級の軍人は彼しかいない事により、やむなく妥協していた。坂本自身、史実と違い、飛行への未練は無くなっていた故だった。また、事変とリバウの経験則から、大和型戦艦の不沈性を信じていたが、実際はそうではない現実に悩んでもいるなど、傾向として、純真なところが残っていた。産休前、坂本は別世界の自分自身にこう述べている。
「子供ではいられなくなったのは当然だが、大和型は事変以来の海軍力のシンボルだ。その不変性を子供の頃は信じていたよ」
……と。A世界では、艦娘の登場をカモフラージュしたかった、事変当時の連合艦隊司令長官であった吉田善吾(山本五十六の前任者。最終決戦前のクーデターで、作戦の直後に正式に辞任)の意向で、大和型戦艦一番艦『大和』は1937年の竣工と扱われ、坂本も当時はそれを支持していた事を明言した。大和型の存在が戦争抑止力になることを願ったためだが、実際には建艦競争を呼んでしまった。幸いにも、その予定を完遂できた国は数カ国のみであったが、坂本はそれで『政治』を学んだのである。
「しかしだ、なぜ、武蔵の後も大和型を?」
「普通に考えてみろ。二隻だけでローテーションが回せるか?」
Bは艦隊決戦が夢想と扱われて久しい世界の出身であるため、A世界での建艦競争が理解し難いようであった。現実に大和型戦艦を実効戦力として運用するには、三~四隻以上が望ましい。それは史実の日本海軍も実際に試算している。
「だから、空母閥を抑えたんだが、大和型の船体を空母に使えば…となって、実際に承認寸前だった。だが、それらは戦艦として完成しすぎていたので、改装はできなかった」
「それで五隻もあるのか?」
「紀伊の代艦さ。艦政本部は嫌がったがね」
B世界では『戦艦信濃』は存在しないことがわかる。紀伊が戦没していないからだ。A世界でも『1952年頃まで使い倒す』前提で改装計画が1943年に考案されていた紀伊だが、あえなく戦没。史上初の『砲撃戦の敗者となった近代戦艦』の不名誉を被ってしまった。
「紀伊が戦没したのか?」
「ああ。史上初の近代戦艦としての戦闘の敗者としてな。それで承認されたようなものだ。政治的にはな」
同じ『坂本美緒』同士だが、Aは『魔力を温存して引退した世界』の存在であるので、その気になれば戦える地力を保っている。一方、Bは『引退を勧告されるくらいに魔力が減退している』世界の存在であるので、Aのほうが精神的に余裕があった。
「なぜだろう。お前と話していると……羨ましくなる」
「私が最盛期の魔力値を維持しているからだろう。お前とは違う道を歩んだ以上は当然だろう?」
「しかし、宮藤とそれほど付き合いがないとはどういうことだ?」
「宮藤はこの世界では、私が見つけたわけではないしな。同僚ではあるが、細かい育成は穴拭や黒江に投げたし……」
坂本Aは宮藤との関係がそれほど深化しなかったが、震電を与えようとしたくらいには目をかけている。そのため、対外的には『宮藤は坂本の弟子』と発表されていた。
「それでは、誰だ?」
「醇子だよ。あいつが候補生の中から見つけたんだ。穴拭のツテで。あいつの知り合いだったからな」
坂本は『この周回』における、芳佳とのなめ初めを教える。メタ情報で魔女の訓練校に入れさせていたとは言えないための嘘であったが、半分は本当だ。また、入隊後はシャーリーが面倒を見ていたとも教えた。
「シャーリーに面倒を?」
「黒江達の着任はロマーニャでの事だったからな。ブリタニアではシャーリーに育成を任せた。奴はこの世界では、新人育成に定評があったからな」
「しかし、誰が宮藤を訓練校に?」
「穴拭だよ。奴が宮藤の子供の頃に偶々、横須賀に赴任中で、父上の事を教え、魔女としての基礎を教えこんでくれた。醇子はスカウトを行って、座学を教え込んだ。だから、こちらでの宮藤は正規の手順で教育を受けている」
智子はその時期、本当に偶々、横須賀に赴任していたので、宮藤博士と知己になる機会を得られた。黒江もそれに便乗している。吾郎技師による手引もあったが、宮藤博士は温厚な人柄であり、人望もある人であった。二人に愛娘の事を託し、弟子の吾郎技師には次世代理論の概念図を遺している。宮藤博士は二人と出会った瞬間に自らの未来を予見したのだろう。芳佳の戦う理由になる遺言を遺し、黒江と智子に後事を託している。彼は事変中から死期を悟ったように、いくつかの設計を腹心の曽根技師や吾郎技師に託し、手紙という形で『近未来に採用されるであろう、ストライカーの基礎設計』を遺していった。
「宮藤博士だが、最後の方は寝食も惜しんで、設計を進めていたよ。その甲斐あって、宮藤は闘い、撃墜王になった。零式の正統後継機『烈風』でな」
「烈風だと…!?」
「そちらでは存在していないようだが、こちらでは大量生産は見送られた代わりに、エース専用のスペシャルチューンアップ機として存在した」
「それがその写真だ。報道班が載せ忘れていた余り物の写真だが」
「こ、これは……リベリオンの新鋭重爆の『B-29』!宮藤はこいつ相手に……」
「こちらではそうせざるを得なくてな。そちらの宮藤が見たら、泡を吹くだろう」
その写真は『菅野の僚機として、B-29編隊と交戦中の宮藤芳佳』を写したものであり、烈風改を履いての戦闘であった。菅野は史実通りに紫電改を履いていたが、飛行特性に違いはそれほどなかったため、坂本の判断で組ませていた。そのコンビは、自分と若本のコンビの再来を謳われたとも付け加える。
「ん?宮藤は誰と組んでいる?」
「502の菅野直枝。そちらでは……『管野』だったな。原隊が同じで、訓練でも組んでいたから、こちらでは組ませていた。リーネも飛びたがっていたが、あいつにはペリーヌを任せたくてな」
「醇子が戦闘隊長を務めていた504はどうした?」
「うちの隊に取り込まれたが、ドッリオ少佐や赤ズボン隊は参謀本部に取られた」
504統合戦闘航空団はメタ情報で『戦績が良くない』ことがわかったため、64Fに合併された。だが、ロマーニャとヒスパニア空軍の判断で、赤ズボン隊関係者は転出させられてしまい、残ったのはリベリオン系の二人と、中島錦、諏訪天姫であった。戦力減が否めないと思われたが、更に諏訪天姫も本国召還が決まってしまい、実質的に四人しか前線に残らない有様となった。黒江も錦の事は『テスト畑か。実戦経験が少ないが……』と懸念していたのだが、夢原のぞみに転じた後は『百戦錬磨』の戦士そのもの。信頼をすぐに得たのは言うまでもなく、ダイ・アナザー・デイの戦功第一の英雄であった。
「まぁ、その代わりにプリキュアが加わってくれたから、戦力減どころか、却って強力になったよ。彼女らは一騎当千の強者だからな」
「しかし、お釣りが来るほどか?」
「黒江達が来た時点で、お釣りは充分に来る。だが、任務の重大性に比しての人数が不足していたのには変わらんのでな」
ダイ・アナザー・デイ当時の人的窮状を愚痴る坂本A。504の主力を取られた事、506のメンバーの半分以上が『再訓練の必要あり』との判定で離脱してしまうなど、統合戦闘航空団の統合部隊という謳い文句も『看板に偽りあり』な有様であった事を教える。だが、山本五十六やのび太などが駆けずり回り、人員をあらゆるツテでかき集めたため、ダイ・アナザー・デイ途中の時点で『予定より強力だろ』と言われるほどの陣容に成長した。セラもその時点で既に補充候補であったが、陸軍少将であった父親が源田実の配下に娘を置くことに反対したために実現せず、着任は1948年以降にずれ込んでいる。
「しかし、我々が『物語の中心』では無くなるとはな」
「いや、充分にその役目は果たしている。彼女達は『ゲスト』のようなものだからな。最も、我々にしか意味のわからんことだが」
坂本Aは私服姿だが、眼帯をしている。魔力が残っている証拠だ。
「彼女らはあくまで、『世界が求めた救世主』であって、我々が戦う努力をしなければ、出現することもなかったさ。だが、彼女達は我々以上に過酷な運命を背負わされている。お前も知っているだろうが、強大な存在は周囲に疎んじられる。なら、彼女らに安息の地を与えるのも、我々の為すべきことだよ」
坂本Aはプリキュアの出現を、そう解釈していた。それに呼応して出現する転生者達のことも。自分自身がそうであるのだから、当然だが。
「今、こうしている間にも、彼女達は戦ってくれている。対人戦争への移行で醜態を晒し続けている我々に代わってな。私は情けなく思うよ……」
「お前……」
それが坂本Aの偽らざる本心であった。故に、『個を捨ててでも、大義を為す』という思考に至ったのだと明確にする。この日は遠征が行われる数週間ほど前。64Fが遠征の準備に入っていた時期であった。
「お、噂をすれば、だな」
「な……に…?」
坂本BがAの言葉の意味を計りかね、思わず上空を見上げると。
「逃がすかぁ!」
シャイニングドリームである。彼女が追っていたのは、組織の送り込んでいた刺客であるショッカーの飛行怪人『蝙蝠男』であった。蝙蝠男は事前の格闘戦でボコボコにされたようで、必死の形相で逃げる。
「夢原、オーラギャラクシーの試しどころだぞ!」
「あ、坂本先輩!」
「復唱はどうした!」
「り、了解っ!」
坂本Aは産休中でも、無線マイクはつけていたので、とっさに指示を飛ばした。シャイニングドリームも驚きつつも復唱し、光戦隊マスクマンから伝授された『伝家の宝刀』を使った。
「オーラロード・スパート!!」
メディテーションでオーラパワーを迸らせ、そのまま相手まで続く道を駆けぬける。相手が避けられないタイミングを見計らい、宙返りしつつも、右の拳にパワーを一点集中する。
『鉄拳オーラギャラクシー!!』
その叫びとともに、パワーを宿して発光する手刀で以て、蝙蝠男を一刀両断する。普段は黒江が得意とする手刀での攻撃だが、この頃には、のぞみも光戦隊マスクマンから『鉄拳オーラギャラクシー』を伝授されたのがわかる。坂本Aはそれを知っていたので、周囲に被害を与えない『始末の仕方』として指示を出したのだ。蝙蝠男はこうして倒され、跡形なく消滅していく。
「ご苦労」
「いいんですか、産休中でしょ?」
「お前の戦果になるから、別にいいだろう?今日は向こうの私と会っていたんでな」
「身重の身で大丈夫ですか?」
「何、予定日まではあと半年近くはある」
と、大笑する坂本A。この半年ほど後に長女(多少ズレたとのこと)を儲けるわけである。1949年は64Fの主要メンバーの産休ラッシュでもあったわけだが、1930年代以降生まれの若手が台頭しない点に、扶桑の魔女覚醒の『休眠期』が、史実で日本が非武装であった時期に重なっていることが示唆されている。なお、皮肉にも、学園都市崩壊に伴う混乱を脱するため、自主的に扶桑に『留学した』留学生に覚醒者が多く、その留学生が扶桑の新規育成ノウハウの維持に貢献するという報告がなされたのも、この時期だ。
「こうして見ると、双子みたいですね」
「平行世界の同一人物同士だからな」
二人がいたところは海辺の公園であった。遠目には、訓練航海に出る超甲巡『黒姫』の勇姿が見える。超甲巡は『黒姫型超甲巡洋艦』が正式名称で、前世代の戦艦である紀伊型(253m)と同等のサイズに拡大され、主砲も新式の36cm砲に換装されている第二期型のネームシップだ。外観は大和型戦艦に全体的に寄せられている。水上機の陳腐化とヘリコプターへの世代交代で船体中央部に水上機運用設備を持つ必要が無くなり、大和型以降の主力戦艦の配置を欺瞞する必要が出たためである。
「ん?おい、あの艦はなんだ?大和型に似ているが……」
「そうか、お前の世界では存在せんかったな。超甲巡洋艦だ。計画時はアラスカを仮想敵にした『巡洋艦』だったんだが、政治屋の横槍で戦艦扱いにされてしまったフネだ」
坂本Bが見た『超甲巡』。極初期の艦は史実通りの艦容であったが。31cm砲という主砲口径が『帯に短し襷に長し』(アイオワ級との遭遇が懸念された)と批判されたり、装甲もまったく不充分な『おもちゃ』とされてしまったため、ヤケクソ気味に戦艦的運用をこなせるように攻防力を強化された経緯がある。換装後の砲威力は金剛型を完全に凌駕し、射程以外の全てで加賀型戦艦に匹敵する。そのため、扶桑としては装備全般の調達価格の高額化に悩んでいる。電子装備その他が高額なので、必然的にそれに見合う自動化も必要だからだ。
「ああ、ポケット戦艦のようなものか」
「そうだ。だが、色々な政治の兼ね合いで、完全に戦艦へ仕立て直されてしまった。戦艦は大和型で間に合ってるんだがなぁ」
超甲巡は大きさが完全に戦艦サイズなのを理由に、高速戦艦化されていた。装甲も完全に対36cm砲防御にされたため、完全に36cm砲搭載の戦艦の建造となってしまい、艦政本部をがっくりさせた。日本としては、空母の維持費確保や政治家への説明、アラスカ級の『失敗』のメタ情報があるため、超甲巡洋艦を戦艦化するのは理に適うものであった。また、さらなる強化も予定されていた(38cm砲までの換装へのターレットリングの余裕が確保されていた故だが)。水雷装備とミサイル装備の装備が進んだため、戦艦と説明したほうが(軍事に無知な政治家と財務官僚を)理解させやすかったのだ。
「250mあるからかもしれんが、大きな巡洋艦なんだがね」
そもそもの存在意義は甲型巡洋艦と金剛型の代替であったが、日本は「金剛型の後継」を重要視しつつ、アイオワ級を異様に恐れていた。そのため、金剛型以上の功防力を求めたのだが、扶桑の艦政本部は乗り気ではなかったが、乙型巡洋艦の陳腐化もあり、水戸型戦艦の承認を条件に従ったわけだ。要は旧式巡洋艦と金剛型の役目を担える新型の万能艦と理解させればいいのだが、それが骨であり、ダイ・アナザー・デイに極初期艦が間に合ったのが奇跡だと称された。
「大蔵官僚の連中はその辺に無知ですからね」
「ご苦労だった」
「先輩、オーラギャラクシーを知ってたんですね」
「ああ、黒江から聞いていたのでな」
と、シャイニングドリームに返す坂本A。現役時代より穏やかな表情であった。
「しかし、この世界はどこでそうなったのだ?」
「そうですね。44年。いや、43年の秋頃かな」
「その辺りか?」
「たぶん。その辺りから、連中が現れてきてますからね」
ティターンズは44年頃に公然と行動を開始したが、43年の秋頃には既に転移していたという。一方、プリキュア達は1945年に覚醒し、ダイ・アナザー・デイ以降の連合軍を支えている。彼女らの登場は『魔女至上主義』に却って打撃を与えた。超ヒロインである彼女らも『無敵ではない』事が示された事、近代化された諸兵科連合は魔女をねじ伏せるという戦訓が提示されたからである。
「ブリタニアのあの大将はどうなった?」
「ああ、ガランド閣下が先手を打って、ウォーロックが暴走した瞬間に拘束されて、赤城の沈没の責任で左遷だよ。一年後に戦死したがね。そのついでだが、宮藤が不名誉除隊扱いにされることはなかった。むしろ昇進したよ」
芳佳は医務中尉にその時点でなっており、49年現在は中佐であった。坂本Aはウォーロック事件からしばらくは『宮藤が海軍にいられるように、差別を受けないように』と軍令承行令の廃止の温度を取るほど、芳佳に便宜を図っていた。当の芳佳は『海軍航空隊の空気がきつくて』といい、空軍へ移籍している。(故に、数日はショックで寝込んだとのこと)
「もっとも、あいつには空軍に行かれてしまったがな。海軍航空隊は集団主義だからな……」
海軍航空隊の風土のせいで、宮藤を空軍に取られたと、日頃からぼやいている坂本A。とはいえ、坂本A自身も海軍航空隊内部で異端扱いである(撃墜王の制度を奨励していたため)が、空軍との連携が必要であるために、高い地位にあると見られていた。だが、粛清人事が何度も吹き荒れた結果、坂本Aはエリート扱いのままだ。日本は高級軍人らを『銃後を守らない報いだ』とし、高級軍人への集団リンチすら黙認したが、現地の軍政・軍令が却って大混乱した他、志願数の大幅減少に繋がった。海軍航空の関係者への見せしめ的な人事とリンチの結果、史実で空自に属した記録のある者か、開明的な魔女出身者が中枢を担うようになり、航空部隊全体の風土も空自に近づいてきている。古い世代の参謀や指揮官の層の多くが失脚したからだが、今度は部隊の中枢を担う中堅層が『海軍の伝統を害悪から守る』と暴走してしまい、今度はその世代の魔女らを最前線送りにする……ということが繰り返されたため、海軍航空隊は形骸化していた。
「まぁ、その傾向はうちにもあるから、否定はできんな」
と、苦笑交じりの坂本B。
「こちらでのミーナが君のことでぼやいていたが、そちらでの彼女は残念だった」
「死んだわけじゃないから、対外的には『療養』で通してます。その方が外交的にも棘が立ちませんからね」
「君が自由に飛べるというのがな。我々は戦闘機よりは自由だが、君たちほどではない」
「仕方ないですよ。ストライカーユニットは熟練者でも、戦闘中に三次元的な機動は取りにくいですからね。早く飛ぶには、オクタン価の高い燃料も必要だし」
「そちらではどうだった?」
「表立ってはいえない方法で、120オクタン価の燃料を使いました」
「黒江がちょろまかしてきてな。まぁ、その備蓄もほとんど使わなかったが」
「何故だ?」
「ストライカーユニットで出る魔女が減ったからだ。更にいえば、ジェットエンジンに切り替えが始まってしまって、専用の燃料が必要になったからさ」
それは日本の意向で、レシプロを減産し、部隊のジェット化を促進するという名目の施策が採択されたからだが、その実は扶桑を日本の軍需工場としたい政治家の思惑によるもの。黒江がちょろまかしてきた直後に、多くのメンバーが離脱し、既存のストライカーも相次いで生産中止になり、代替機が『最強の第一世代ジェットストライカー』と名高いF-86に指定されてしまったからだ。なお。その時点で既にかき集めていた高オクタン価燃料はダイ・アナザー・デイで活用され、充分に部隊の需要は満たしたが、所属した戦闘魔女の減少で使用量は大きく減り、他部隊への提供分にも回されたという。
「ジェットエンジンは開発が進むと、それ専用の燃料が必要でな。従来の燃料は使えんのだ」
「黒江先輩、あの時は電話しまくってた日が多かったですもんね。坂本先輩は武器を集めてましたね」
「ああ。輜重は門外漢だが、あの時は必死だったんだよ」
坂本Aはダイ・アナザー・デイでの苦労を回想し、多少懐かしそうな顔をする。従卒に任せきりであった分、書類と格闘した時間が長かったからだろう。そのついでに戦うようなものであった。64Fの書類仕事のかなりが免除されるようになったのは、ダイ・アナザー・デイの戦局が激しさを増した頃だが、武子は子供達の勉強の機会と称し、書類処理の仕事は続けさせたため、坂本はえらく苦労を強いられたが、将来の糧にはなった・
「まぁ、書類仕事が多いのも軍隊ですからね」
「私も電話をしまくったぞ。回線を増やしてなきゃ、あの時の需要に対応できんかったろうな」
ダイ・アナザー・デイは圭子をして、『書類仕事と戦闘が半々だった。ガキどもには、いいデスクワークの勉強になったろうよ』と書き記すのが実情であった。戦闘が血みどろのものであったのは、公式記録にも記されているのだが、書類仕事もそれに近い割合で大変であったのは、この時に明らかとなった。当時は軍隊全体のネットワーク化の試行段階であった故だが、隊員のデスクワーク技能のレベルアップには繋がった。
「君はそれが正装…ということになるのか?」
「ああ、これは一段目のパワーアップなんで、普段は大人しいコスチュームですよ。最終段階だと、これよりもっと派手になるし」
シャイニングドリームは正確には二段階目のパワーアップだが、説明がややこしいので、説明を一部省いたのぞみ。コスチュームの変化が伴わないパワーアップが間に入るが、わかりにくいからだ。
「うーむ……リベリオン的だなぁ」
「先輩はどこでも、鞍馬天狗のファンなんですね」
「我々の世代の愛読書だぞ」
坂本は鞍馬天狗のファンであることを公言している他、(A世界では)日本から時代小説を取り寄せるほどのマニアであった。B世界でも鞍馬天狗のファンである事から、坂本の剣術への傾倒は鞍馬天狗が理由の半分近くを占めていることは容易に推測できた。
「先輩、鞍馬天狗の他にあるんですか?剣術に傾倒してた理由」
「子供の頃に講道館に行っていたのと、入隊後は、常に剣術使いが周りに多かったためだよ。黒江、穴拭……徹子に義子……あとは大先輩か」
「そちらでは、黒江か?一番に影響を受けたのは?」
「奴とは、志願後は一番に付き合いが長いんでな。軍に入ってからは、持たれ持たれつって感じだ」
坂本Aは黒江との付き合いをそう表現し、どことなく遠い目をした。前世への罪の償いも多分にあると、坂本Aは認識していたからだろう。剣術面でも影響は受けたが、流派が違うので、小さなものだ。
「先輩はさみしがり屋ですからね。そこを理解すれば、親戚のように仲良くなれますからね」
のぞみはダイ・アナザー・デイ~デザリアム戦役を通して、黒江の部下であった。その期間で転生者としての苦しみを含めたての人となりを知ることになり、デザリアム戦役では(結果的にだが)黒江の行ったことが、シャイニングドリーム形態を更に超える『エターニティドリーム』形態に導く流れを作る功績を残した。
「こちらでは、あまり合う機会がなかったからな。……そうか。そういうことか。改めてだが、うちの子供達の非礼を奴に詫びろう……」
「そちらの黒江は相当に堪えているようだな」
「ああ。そちらの黒江が怒るのも無理はないほどだ。子供達……宮藤とリーネは『何もしない』者を強く嫌うが、奴らは『したくても、もうできん』身の上だ。それが子供達にはわからんのだ。青二才といえば、青二才だが……」
黒江Bは芳佳BとリーネBに責められたショックで塞ぎ込んでいることが伝えられる。黒江は顔つきは童顔だが、1945年時点で22歳の成人である。リーネの姉『ウィルマ』が引退後も活動に精力的であったのが災いし、リーネもその時は一緒に痛言したのだが、エクスウィッチへの差別になる事なので、坂本Bは二人を叱る羽目となった。また、二人は黒江と智子の現役時代の武勇を『知らない』ために、黒江B、智子Bの痛いところを知らぬうちに痛撃しており、それが騒動を呼んでしまった。
「カウンセリングを受けさせるか?」
「子供達は直後に厳しく叱ったが……そうした方がいいな。新見先生に連絡を取れるか?」
「今日は新京でカウンセリングの講義なんです。一両日中には連絡するように言っておきます」
と、坂本Bも部下の教育や、親友達の心のケアに心を砕いているようだった。この日以降、三人はその関係で連絡を取り合うようになり、黒江Bと智子Bにカウンセリングを受けるようにと、三人で促すのだった。