――エイシンフラッシュは確かに普通のウマ娘より強い。だが、実質的には、ジャスタウェイに才能の差を見せつけられた事もあり、精神的意味での伸びしろを自分で狭めていた。トウカイテイオーは実は事前に『ここのところ勝てていない、エイシンフラッシュの発奮材料を探してくれ』と、エイシンフラッシュの友人兼マネージメント先のウマドルでもある『スマートファルコン』からの依頼を受けており、黒江が口にしたことを文章に起こし、スマートファルコンへ転送した――
「いいのー?あんなに過激に煽っちゃって」
「エイシンフラッシュは頭がいい分、勝つと確信すると、足を緩めるという。そこがいかん。これからはサンデーサイレンスの血を継ぐ馬達の魂を持つ連中が国内の主役になる時代だ。ドイツ生まれで生真面目なのはわかるが、これからはハングリー精神がなきゃ、レースに勝てんよ」
トウカイテイオーやナリタブライアンは既にシニア戦線の年齢であり、トゥインクル・シリーズでの残された名誉は『シニア三冠』だが、クラシック三冠に比べれば格落ちである。ナリタブライアンはクラシック三冠を達成しているが、テイオーは二冠止まり。クラシックの後半期とシニア最初の一年を棒に振っている。その二人と違い、エイシンフラッシュにはトゥインクル・シリーズでの『未来』があるのだ。
「確かに。ボクに欠けてたのは、そこかもしれない。勝ちたいって心……」
「お前はルドルフ級になり得る能力はあった。だが、精神的に弱かったから、菊花賞に怪我の治癒が間に合わなかったし、それで焦って、怪我を却って繰り返した」
「うん。それに比べれば、エイシンフラッシュはまだマシかな」
「あいつはまだ若いから、トゥインクルシリーズでまだまだ輝けるが、お前とブライアンは『ロートル』に入りつつある。オペラオーもそろそろ下り坂になるだろう頃だ。ましてや、お前らは非サンデーサイレンス系のウマ娘な上、前世の活躍した時代が90年代前半期で、『古い』からな。それだけでも、サンデーサイレンス系のウマ娘が出てきてる中だと、それだけでハンデだ」
ウマ娘世界でも、非サンデーサイレンス系のウマ娘がトップアスリートの主流でいられる時代は少しづつ終わり始めている。それはエアグルーヴやエルコンドルパサーがどんなに頑張っても、サイレンススズカの影すら踏めなかった(サイレンススズカはサンデーサイレンスの子世代の歴代では随一と言われた)ことで証明されている。
「サンデーサイレンス系かぁ。スペちゃんやスズカもそうだっけ?」
「そうだ。前世では遠い親類だよ、その二人は。更に、サンデーサイレンス最強の遺産『ディープインパクト』も現れた以上、お前らはここ数年がヤマだろう」
「ここ数年か……」
「お前が可愛がってるキタサンブラックも、クラシックが終わる頃からが本番になる。それを考えると、数年がタイムリミットだと思え。お前らがシニア三冠を取れるかどうかの」
キタサンブラック、サトノダイヤモンド、ディープインパクトらが台頭してくれば、今まで以上の激戦になるのは目に見えている上、ディープインパクトが台頭すれば、クロフネ、ハーツクライ、キングカメハメハなどの血統を持つウマ娘か、ステイゴールドらの子たちの魂を持つウマ娘などでなければ、正面切っての勝負が厳しくなる。エイシンフラッシュを煽ったのは、これから多彩さを失っていく『非サンデーサイレンス系』のウマ娘として、がんばってもらいたいからだ。
「でも、随分と過激だよ?エイシンフラッシュがいたら、あ~やは追っかけ回されるね」
「だろうな。だが、ああいう頭が良くて、生真面目な奴は自分を型にはめる傾向が強い。フーリガンみてぇなことでも言わねーと、ムキにもならん。だから、ゴルシのダチのジャスタウェイにあっさり負けるんだよ」
ウマ娘界隈も、近年はシンボリルドルフのような絶対王者の支配が終わり、群雄割拠の時代であったが、サンデーサイレンス系やクロフネ、キングカメハメハ系のウマ娘が一定数以上になれば、今度はグループごとで覇を競う時代に回帰していくのは目に見えていた。前世を覚えている者の出現率は低いだろうが、グループをまとめる者は必ず現れる。
「今後、ウマ娘界隈も、サンデーサイレンス系のみならず、キングカメハメハ系、クロフネ系とかの『近年の名馬の血統』が出てくるだろう。平均レベルがますます上がるから、お前らがルドルフやマルゼンスキーみたいに『絶対王者』になれる可能性は低くなる」
「だろうな」
「だが、協会はお前らに『トゥインクル・シリーズで最後の一花を咲かせる』ことを望んでいる。そのタイムリミットは長くて数年。それは覚えとけ」
「何故だ」
「世間は勝手気ままだ。落ち目になれば、見限るのも早い。ディープインパクトがレースにデビューすれば、世間はシニアのウマ娘より、新星の快進撃に注目する。ディープインパクトはゴルシが誇るように、それだけの力を持つからな」
「……三度目の怪我をした時に、それは身に染みてるさ。世間は負け組に冷たいからね」
「私もだ。レースで勝てなくなると、途端に掌返しを食らったからな。ルドルフ超えが成らなかったからって、なんだってんだ!」
二人は落ち目になったスターウマ娘が辿る道のテンプレートをなぞったような経緯を辿っていた。マルゼンスキーやトウショウボーイなどのように、華々しいスター街道から外れずに、ターフを去れた例はそれほどない。あのオグリキャップでさえも、不振が続いた時には、世間から見放されかけていた。ナリタブライアンは全盛期に四冠を達成しており、ルドルフ超えを周囲から期待され、持ち上げられていたため、テイオー以上に落差の大きさに憤激している。そのため、黒江の言葉に真剣に耳を傾けている。
「エイシンフラッシュを奮起させる手段として、罵詈雑言じみたことを選んだのは、そうでもせんと、奮起しない性格らしいからな」
エイシンフラッシュは史実では、GⅠのレースの出走数に比して、敗北が多い。ウマ娘世界では、スマートファルコンの『ウマドル』業のマネージメントをしている姿のほうが認知されているが、ちゃんと、日本ダービーと天皇賞・秋は史実通りに勝利している。とはいえ、あまりにスケジュールにこだわるのが彼女自身の仇になった事もあり、それがジャスタウェイに敗れた、あるレースだという。
「あ、返事来たよ。ファル子ちゃんからの伝言だけど、案の定、エイシンフラッシュは怒ったって」
「まぁ、俺と競争してもいいけど、却って、ひどい結果になるぞ、エイシンフラッシュが」
「あんたの走りはどうなってるんだっての……」
「ちょっと力入れりゃ、アラレちゃんもかくやの速度がすぐに出ちまうからな。難しいのよな。俺、仮面ライダーのトレーニング相手もした事あるから」
聖闘士の不便なところは、ちょっと力を入れた場合、走行速度がすぐに100キロを超えてしまうところだ。過去、白鳥星座の氷河が横断歩道に猛スピードで突っ込んできた乗用車を片手だけでストップさせた事があるように、聖闘士は聖衣がなくとも、既に常人を超越しているのだ。
「それで音の速さか?」
「いや、ほんのちょっとなら、0系新幹線くらいだ……ん、220キロ出てるか」
「ウマ娘より速く走れる奴がこの世にいるとは……」
「お前らもトレーニング重ねてるし、片足は突っ込んできてると思うぜ?タマモクロスを見てみろ。あの瞬間的な超加速は、小宇宙が燃え、ゲッター線が奔って、初めてできる事だ。テイエムオペラオーだって、覇王を大仰に名乗ってるんだ、並のウマ娘じゃない。世間の評判は良くないが、実力派だ。それが視認出来ない速度で抜くのは、いくら『境地』を発動していたって、ありえないことだ」
ここで、黒江はタマモクロスが小宇宙とゲッター線の制御に片足を突っ込んでいることを教えた。
「どう見分けるんだ?」
「調が送ってきた映像を見ろ。タマモクロスが発動させた境地の発動中に散るスパークに、緑色のが混じってるし、瞳がすごく、なんていうか、グルグル巻きになってるだろ」
「うーん……。静止画で見ないと、わかんないよー!こんなの!」
とはいえ、こうなった場合は『同じ領域』に至らなければ、手がつけられなくなるのは事実である。テイエムオペラオーが本当に視認すらできない俊足を見せたとなると、本当にウマ娘の限界速度である時速80キロの壁を超えているのだ。
「エイシンフラッシュには悪いが、奮起してもらわんと困ると、ルドルフが言っていた。あの世代は、どうにもパッとしないからな」
「仕方あるまい。本人はゴルシの一期上だが、史実での同期が殆ど現れていない以上、エイシンフラッシュの世代はパッとしないのも事実だ。だから、ルドルフからも依頼されていたんだよ。ま、何にでも『谷間の世代』はいるがね」
エイシンフラッシュの世代は一期上と下に強豪が引きめいている事から、『谷間の世代』と協会から揶揄されていた。ルドルフも協会のその揶揄の払拭には、エイシンフラッシュの奮起しかないとしている。そこも状況の複雑化を招いている。最も、今後はディープインパクトとハーツクライ、キングカメハメハ、クロフネなどの2000年代以降に名を馳せた強豪たちの本命が続々と現れていくだろう事は容易に想像できるため、エイシンフラッシュの奮起は殆ど、ルドルフの最後の使命と化していた。
「汚れ役は慣れてる。エイシンフラッシュを煽れるだけ煽ったが、あとは本人次第だ」
と、黒江はそう言った。エイシンフラッシュはこの後、自身がマネージメントするスマートファルコンのためにも奮起し、レースに勝ち始める。潜在能力は悪くないが、勝てるレース展開にならなければ『勝てない』という史実の鎖を断ち切るためには『怒りの感情』が必要不可欠である。そこもウマ娘の種族そのものの問題であった。黒江は出立の前に、自分は仕事柄、『憎まれ役』にも慣れていると苦笑交じりに言う。黒江に『憎まれ役』を依頼したという、スマートファルコンとシンボリルドルフはそこまで計算に入れていたのだろうか?ナリタブライアンとトウカイテイオーにはわからなかった。
――野比家の地下格納庫で整備を受けているガンダムの一つ『ガンダムmk-Ⅱ』。デザリアム戦役後は機体そのもの旧式化もあり、アナハイムのテスト機からも引退し、博物館の肥やしにされていたが、強奪の危険度が増したため、野比家に移され、管理されていた。キュアフェリーチェはこの日もナリタタイシンの体を借りたままで、オグリキャップとウイニングチケットを案内していた――
「これは?」
「初代ガンダムの正統な後継機『ガンダムmk-Ⅱ』。レストアはしてありますが、後継機種が多く作られたので、余生を送るために送られてきたそうです」
ガンダムマークⅡは地球地上主義が盛んな時期の設計・製造の機体なため、早くにロートル機と化してしまった。グリプス戦役は技術の発達が急速であったため、戦役の初期の頃の技術で作られたマークⅡは瞬く間に旧式化した。エゥーゴカラーで塗られている機体なので、グリプス戦役と第一次ネオ・ジオン戦争を戦い抜いた個体なのが分かる。
「横浜の初代ガンダムの立像の隣に飾る企画がありまして。今、飾られているG3ガンダムはここから貸し出したものですから」
連邦はガンダムタイプの現存する個体はすべて秘匿する方針であったが、戦乱期が続くため、Zと同世代以降のガンダムは改修を施して現役復帰させ、プロパガンダに多用することにしたが、ロンド・ベルに代表的ガンダムのメインパイロットが集った事、キャプテンハーロックの技術提供もあり、ロンド・ベルとその傘下の部隊での集中運用に切り替えられた。デザリアム戦役後は正式な方針となったが、一年戦争中のガンダムは博物館に飾ることが有力であったが、ジオン残党やティターンズ残党による強奪への懸念から、野比家で保管されることになった。G3ガンダムも、その一環で保管され、貸し出されたものだ。
「でもさ、年式が古いのと、新しいのが入り混じってない?」
「仕方ありません。作られた時代では、地球連邦軍も戦争続きで管理が行き渡らないそうですので、ここに集めたそうです」
ナリタタイシンは仕事が押してしまい、次の日もプリキュアの姿から戻れなかった。そのため、ウイニングチケットにも事情が説明された。タイシンは恥を偲んで、プリキュアとしてイベントに出る羽目になった。
「しかし、昔はお台場に立ってたような?」
「10年ほど前ですね。オグリさんはご覧に?」
「子供の頃に、お母さんに連れられてな。ウマ娘として生まれたのは2000年代で、メカに興味はなかったから、あまり覚えてないんだが」
「人によりけりですね、それは」
オグリキャップの一言に微笑うフェリーチェ(外見はナリタタイシンのまま)。プリキュア達もメカにはまったく興味がなかったが、仕事で必要なので、覚えざるを得なかった。最低でも車とオートバイの運転は必須なため、苦労は大きかった。前世で免許取得経験があったり、戦車道世界にいる者はまだ良かったが、元の世界で現役を張っている者も多いため、別の意味で苦労が伴ったのは言うまでもない。
「でもさ、この世界の23世紀って、そんなに治安やばいの?」
「ええ。戦争があまりに続くので、地球連邦の首都が月面都市になったくらいに。その時代の地球で『栄えている土地』は限られてきますから」
「宇宙に行けるの?」
「銀河の何分の一かへ版図が広まっている、宇宙開拓時代なんですが、それ故の内乱も絶えなくて。先行して、ラグランジュポイントに作られたコロニーへ移民した者たちが何度も反乱を起こしまして。そのコロニーの政体が責任を取って、自治権を捨てるに至りました」
「随分と過激だな」
「この時代で言う宗教戦争に近いものに変質していきましたから。最後の方は『自分たちの死に花を咲かせる』手段としての戦争になっていました。その産物がこれです」
キュアフェリーチェは格納庫で貸出用に置かれ、貸出準備中の旧ジオン公国軍とその後継組織の主力MS群を見せた。
「うっわぁ。ウチの家族がプラモデルを作ってた奴だぁ~!」
ウイニングチケットが喜んだのも無理はない。ザク、グフ、ドム、ゲルググなどと言ったジオン系MSが並んでいるからだ。ジオン系MSは基本的に連邦より先行して開発されていたというアドバンテージがガンダムの登場で消え失せ、ジオンがどんなに高性能のMSを作っても、『ニュータイプのパイロットが乗ったガンダム』の正面からの打倒は遂に成らなかった。
「ジオンはこれらを地球圏のあちらこちらに残しました。これらを使ったテロも日常茶飯事になって久しく、地球連邦軍も対応に苦慮し、遂には、極右勢力が『残党の掃討を名目に、私兵を軍内に作る』ことが許可されるほどでした」
ティターンズは実務部門の長であったバスク・オム、その後釜に座ったパプテマス・シロッコの私兵も同然の状況であった上、宇宙艦隊がほぼ全滅してしまったため、エゥーゴにすり寄った主流派の報復人事に逆らえる者はおらず、多くが辺境で冷や飯を食う羽目になったが、一部の腕がいい+純真な将兵は広報部で匿われ、後にロンド・ベルに在籍(ティターンズ在籍という事実は削除された上で)している。ティターンズ出身でも、純真に『地球を守る』という気持ちで入隊し、上層部の横暴に加わっていない者たちはロンド・ベルへの所属が叶っている。そこがコズミック・イラ歴で社会的な抹殺を事実上なされた『ロゴス』との差であった。
「結局、反対勢力に敗れた彼らの一部は異世界に流れ着き、その世界に戦火を撒き散らしたのです。最も、これは氷山の一角ですが」
コズミック・イラ世界で、急激にMS関連技術が発達した理由などに『漂流者』が絡んでいると睨んだ地球連邦軍は『ロゴス』が倒れ、プラントも軍事的に再起不能寸前に陥ったコズミック・イラ世界に地球連邦による『秩序』をもたらしつつ、調査を行っている。皮肉なことに、地球連邦軍とその庇護を受けたオーブ首長国連邦が、コズミック・イラ世界に『地球連合』に代わる秩序を齎し、世界が復興の兆しを見せ始めるに至った。既存の地球連合は内部分裂を呈していたため、地球連合そのものが地球連邦の体制に飲み込まれるに至った。オーブ首長国連邦はコズミック・イラ世界での『仲介者』/調停者の地位を手に入れ、実質的なコズミック・イラ世界の覇権国家に飛躍した。無論、この世界秩序の第三者による事実上の統一に反対する既存国家の軍からの脱走者、第一次大戦での過激派の残党などは大勢いたが、状況を鑑み、武力による統一を選んだ地球連邦軍の行く手を阻むには至らない。事実上、暴力で崩れ去った国際秩序を『有無を言わさない武力』で再構築しているわけだ。
「もっとも、これは氷山の一角ですが」
「氷山の……?」
「ええ。いくつかの世界に、未来世界からの漂流者や漂流物が確認されています。当然ながら、あなた方の世界も調査対象になっています」
ウマ娘世界も調査の対象になったわけだが、ルドルフなどの一部のウマ娘しか知らない。調査への着手は早い段階で始まっているが、今の所は問題はない。医療技術の提供はその協力への見返りも兼ねている。特に『馬であった頃から引き継がれた、種族そのものの難点』を超えるには、23世紀以降のナノマシンとゲッター線による医療技術は必要不可欠であったからだ。それで補強された肉体を以ても、個人の資質の差は埋められるとは限らない。特に、ルドルフを以てしても、ディープインパクトやハーツクライなどの2000年代以降の強豪に太刀打ちできるかは微妙なラインだ。
「ナリタブライアンさんとトウカイテイオーさんに、春秋シニア三冠を達成できるタイムリミットが設けられた理由は、2000年代以降に台頭してきた強豪達が入学する可能性が大きくなるからです。平均レベルがグンと上がりますから、勝てる可能性は大きく減ります」
ルドルフのような絶対王者が現れる可能性は減ったものの、出てこないわけではない。ディープインパクトはその風格を備えた三冠馬であったし、オルフェーヴル、コントレイルと言った後代の三冠馬と比較しても、強い(本人はサイレンススズカに劣ると認めているが)という評判である。特にディープインパクトはその圧倒的能力で、ナリタブライアンを容易に倒してしまうだろうというのが前評判であり、ブライアン本人も危機感を抱いている。
「なんか、ピンとこないよ~。一部は出てきてるしさ」
「そこが大きな謎なのですよ。問題はもう一つあります。ゴールドシチーさんがそちらにおられると思いますが、もし、史実の因果が彼女にもあるのなら……はい、こちらは……やはり……」
電話の会話で深刻そうな顔のキュアフェリーチェに、ウイニングチケットとオグリキャップも胸騒ぎがしたのか、表情が一変する。
「……恐れていたことが起きました。ゴールドシチーさんが買い物中に子供をかばって、事故に遭われました」
「何だと、シチーが!?」
「我々の医療施設に搬送するように手を回しましたが、トレーナーさんは茫然自失の状態で、とても、声をかけられる状態ではなかったそうです」
「それでシチーは……無事なのか!?」
取り乱すオグリ。中央での友人の一人であるからだ。
「命に別状はありませんが、重度の骨折でレースには当分は出られないのと、事故に遭うまでの数日の記憶が飛んでいるそうなのです」
「……バカな……」
「頭を強く打った可能性も大きいので、これから精密検査を行うと」
ゴールドシチーはこの怪我で長期休養を余儀なくされるが、責任を感じた担当トレーナーが、彼女が意識を失っているうちに辞表を提出し、シチーの知らぬ間に学園を去ってしまうという悲劇に直面する。友人のオグリキャップ、後輩のダイタクヘリオス、トーセンジョーダンが手を回し、スピカへの編入手続きが取られるが、彼女はこの出来事のショックでふさぎ込んでしまい、しばらくは寮に引きこもりがちになってしまうのだった。そして、この事件を境に、ディープインパクトを始めとする新世代ウマ娘が台頭を始めるのだった。
――ウマ娘世界への調査の手が広がったわけだが、世代交代の波が起こりつつある。ディープインパクト、ハーツクライ、キングカメハメハ、クロフネなどの『2000年代以降に活躍した大物』らが新入生の名簿にあったからで、ゴールドシップは生徒会の次期メンバーとして『時が来た』ことを悟り、上級生らにある通達を出す。それは『何かかしらの一位を取りたいなら、数年の内にしとけ』というものである。その時に行われた新入生の選抜レースは歴代最高にハイレベルで、ルドルフ、エアグルーヴらが新入生時代に記録した記録が容易に塗り替えられていった。ディープインパクトはその中でも最速級の実力を誇ったが、ゴルシの推薦もあり、スピカのスカウトに応じる。その結果、スピカは『ここ数年来の強豪ウマ娘が属する』という箔がつく。ルドルフの生徒会長職の引退が迫り、テイオーの政権継承の日が刻一刻と迫りつつある中、メジロ家の力を用いた世界規模の大捜査線が遂に始動する……。それを知る由もない、船上のキングヘイローであった――