ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第三百五話「幕間その49 ナリタブライアンの涙」

――ブライアンがシニア三冠を目指す動機になったのは『姉の引退』、前世での自分の惨めな晩年期の記憶であった。ブライアンは後輩の三冠馬たちが有終の美を飾っていったことで、余計に前世での自分の惨めさを思い知ってしまった。それがブライアンの闘志を再燃させた。前世の記憶の覚醒もキーとなり、往時の末脚が完全に蘇っていた――

 

 

 

――そのブライアンは、2021年も晩秋を迎えつつある頃、一人で競馬場にいた。三冠馬としての後輩にあたる現役馬『コントレイル』の引退レースを見に行った。一言で言えば、後輩競走馬の姿を見たくなったのである。この頃には、ウマ娘の事は競馬関係者にも、ある程度は存在が知れ渡っており、競馬場につくと、競馬場の運営関係者と運良く話す事ができ、自分がかつての三冠馬『ナリタブライアン』の生まれ変わりであると申告した――

 

「あなたが……あの……ナリブーの生まれ変わり…!」

 

「ええ。その名で呼ばれたのは、父たちに子供の頃に言われていたので、それ以来ですが」

 

ナリタブライアンは公の場用の振る舞いをしてみせ、言葉遣いも場を弁えて、敬語だ。こうして、関係者の厚意で、コントレイルの引退式で、『彼』を労うスピーチを行うことになった。ナリタブライアン自身も、三冠馬という栄光を味わった経験者であり、全三冠馬の中で最も悲運の最期を遂げたものの、ウマ娘としては直近の三冠ウマ娘であるという自負も多分にあった。

 

「私も三冠馬の端くれです。たとえ、有終の美を飾れなかったとしても」

 

ちょっと哀しげなのは、競走馬としての晩年期は苦難の道を歩んだ故であり、後輩たちが有終の美を飾ってきたことへのコンプレックスがあることを滲ませていた。

 

「とは言え、私のことなど、何人が覚えていてくれているか。ましてや、今はこんななりですから」

 

自虐的とも言えるが、ナリタブライアンの競走馬としての全盛期からは既に四半世紀が過ぎており、皇帝の異名を持っていたルドルフ、アイドルであったオグリキャップの栄光も『歴史の中の一ページ』となった『令和』。ましてや、自分の親であったブライアンズタイムの血統はサンデーサイレンス系の繁栄に押されている現実。それが入り混じった感情を滲ませた。

 

「陣営には、私から話を通します。古い世代になったとは言え、あなたのような偉大な三冠馬に労ってもらえるのは、彼らにとっても誉でしょう」

 

「すみません、無茶を頼んでしまって」

 

「なに、いい体験ができましたよ。我々の願いが、ある意味では叶ったようなものですから」

 

ウマ娘はある意味では、人々の願いが『転生』の原動力となって生まれし存在。ブライアンは『彼』に元気づけられることで、前世で背負いきれなくなっていた何かが背負えるようになったような気がした。また、この時は前世での『三冠馬』に立ち帰ったような感覚だったという。

 

 

 

 

 

――彼女の存在と『頼み』は関係者の全員を驚愕させた。かつての三冠馬が生まれ変わって現れ、スピーチをできるように頼んできた。これはまさに前代未聞の事態であった。コントレイルはナリタブライアンとは縁もゆかりもない馬だが、『三冠を取った』という点では共通している。また、ブライアン自身の栄光から四半世紀が経過し、顕彰馬にもなっているという功績、ブライアンがわざわざやってきたという事は、箔づけとして充分すぎる。そう『彼』が説得し、コントレイルの陣営もこれを了承した。――

 

 

 

 

 

――果たして、レース展開はコントレイルが有終の美を飾る展開となった。ブライアンはプレッシャーを跳ね除け、有終の美を飾った後輩に拍手を送りつつ、自身が為し得なかった『有終の美』(ブライアンは故障で、明確に引退レースと位置付けられたレースへの出走は叶わなかった)への羨ましさを滲ませつつも、その日に行われたコントレイルの引退式に際して、急遽組まれたスピーチを行った。既にウマ娘の事は世に知られていたが、現れたウマ娘が『かつての顕彰馬にして、(2021年時点では)最後の非サンデーサイレンス系三冠馬であったナリタブライアン』であることは、関係者らも驚きを持って迎えた。自分が栄光を刻んだ時代からは四半世紀が過ぎ、自分の名を覚えている者は少ないと考えていた……。場内アナウンスが流れた瞬間、事情を知らない観客達はどよめいた。現れたウマ娘こそが『かつての名馬であり、三冠馬でもあったナリタブライアンの生まれ変わりし姿』であると――

 

 

「あれがナリタブライアンの生まれ変わり……」

 

往時の勇姿を知る者がボソッとつぶやいたのが伝播し、観客達は驚愕の渦に巻き込まれた。2020年代にもなると、その名はオールドファンでなければ知らない程度にまで忘れ去られていた。だが、オールドファンは覚えていた。サンデーサイレンス旋風が吹き荒れる前の時代に輝いていた『非サンデーサイレンス系三冠馬』。

 

「私のわがままに際し、このような場を設けてくださり、ありがとうございます。私はナリタブライアン。かつて、シンボリルドルフに次ぐ三冠馬であった者です」

 

ブライアンは静かに語る。かつての三冠馬として。

 

「後輩世代の見事な走りを見られたのは、私にとっても胸躍るものでした。私は有終の美を飾ることは叶いませんが、『彼ら』の成した事は偉業として語り継がれるでしょう。おめでとう、コントレイル」

 

ブライアンは正式な引退レースを走ることは叶わなかった。それは関係者のみならず、晩年期のナリタブライアンを知る者なら、周知の事実だ。どこか寂しさも滲んでいるのは、ウマ娘になっても、正式な『姉妹(兄弟)対決』が実現する可能性が薄れたこと、自分の後の代の三冠馬は全頭が有終の美を大レースで飾っていることへの悔しさも入っているからだった。すると、一人のオールドファン(50代ほど)がマナー違反を承知で、マスク越しに声を張り上げる。マスク越しのくぐもった声であったが、それはブライアンへの声援であった。

 

『俺は忘れてないよーー!ナリブーの勝ったレースーーー!』

 

オールドファンたちが中心になり、声が一つの渦となる。

 

『あの時の姿は忘れられるはずないよー!』

 

ブライアンはその瞬間、思わず涙した。自分の全盛期から四半世紀も経過し、サンデーサイレンスの血統が競馬界の王者として君臨するようになった時代でも、自分の事を覚えていてくれた人々がいる。ブライアンは涙を堪えつつ、絞り出すように言った。

 

「ありがとう……」

 

自分が走った事は無駄ではなかった。そう実感し、涙したブライアン。普段は無頼を気取る気質だが、この時ばかりは目頭が熱くなり、ファンへ心からの謝意を述べた。また、鼻に絆創膏をつけていたことは『前世でシャドーロールをつけていた名残り』であることも認めたため、ブライアンは元・三冠馬という箔もあり、クラシックレースで名を挙げた経験のあるウマ娘としては、最初に『競馬場に足を踏み入れ、更に全国的にその存在を知られた』のだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――一方、オグリキャップは相変わらず、定食屋の食い放題チャレンジで食事を済ませていた。ドリームシリーズへの参戦は、往時の担当トレーナーが引退済み(オグリ自身の引退とともに、トレーナー職を退いている)であることもあり、そんなには真剣に考えていなかった。だが、親友のタマモクロスが復活の狼煙を上げたため、その後を追う形でだが、参戦を示唆した。奇しくも、往時のライバル関係が復活した形であった。これを聞きつけたイナリワン、スーパークリークといった『平成三強』の残りの面々もドリームシリーズへの出走を表明。『顕彰ウマ娘のサーカス』と影で揶揄されていたドリームシリーズは一夜にして、『平成三強とタマモクロスが主役』となる見込みとなった。だが、そこにマルゼンスキー、シンボリルドルフの両名も参戦を表明。元・G1ウマ娘たちの中でも『第一級』として鳴らした者たちが一挙に集結することとなり、ドリームシリーズの名に『名前負けしない』陣容が整いつつあった――

 

 

 

 

――これにウマ娘世界で大慌てだったのが、ルドルフの幼馴染であり、スケバン気質の『シリウスシンボリ』であった。彼女も出走予定(取り巻きたちを鍛えていることを生徒会に文句を言わせないため)だったのだが――

 

「ルドルフの野郎、私へのあてつけか!?出走を表明しやがって!!おまけに、マルゼンスキー、オグリ、クリーク、イナリ、タマモだと!?くそったれ!!」

 

次のドリームシリーズの出走表を握る手がぷるぷると震え、語尾に怯えが見られるシリウスシンボリ。自身もダービーウマ娘だったが、その栄光は、彼女の世代の本命と見込まれていた『ミホシンザン』が怪我で不在だったからこそ、棚からぼた餅で得られたという陰口があり、シリウスシンボリ自身、海外での戦績そのものも『良くはないが、悪くもない』程度。現役晩年期、若手時代のオグリキャップに完敗を喫した事があることから、オグリの名を聞くと、腰が引けるようになったという噂も有名になっている。とはいえ、ルドルフには及ばない事は知っていたところに、オグリという規格外の怪物と出会い、心をへし折られた事があるため、自分と世代の近い強豪達が一挙に参戦する事になってしまったのに、ものすごく狼狽えている。しかも、いずれも全盛期は自分を軽く超える実力を誇った怪物が勢揃いである。

 

「ヒーロー番組のお祭り回じゃあるまいし、こんなにG1の勝利経験者がいていいのかよ!」

 

と、大いに愚痴る。世代を問わずに、第一級のウマ娘が本当に集まるとなれば、ドリームシリーズは『名前負け』でなくなる。元の設立目的からはかけ離れてはいるが、ある意味では『上位リーグ』としての面目は保つ。いずれもG1レースで鳴らした者たちがエントリーする。言わば、プロ野球で言うところの『OBたちによる特別試合』から『オールスターゲーム』に変わるようなものだ。既に能力が下降線に入った年齢であるシリウスシンボリは、この陣容にめまいを覚えた。

 

「あいつら、覚えてやがれ~!」

 

自身の体の状態を少しでも、往時に近づけようとするシリウスシンボリ。涙目なのは、選手生活の晩年期の頃、オグリキャップの噛ませ犬という雰囲気があったからだろう。エアグルーヴには居丈高に振る舞うシリウスだが、自分が完全に負けた相手には涙目になる。その考えが、ルドルフほどは大成できなかった理由であった。そして、その世代の本命であった『ミホシンザン』と戦うことがなかった事もあり、シリウスシンボリはオグリキャップの全盛期の六割程度の力しかないと評されている。オグリキャップに敗れた事、海外で一勝もしていないことから、二流の誹りを受けている。逆に言えば、雪辱の機会であったが、全盛期から力が落ちている自覚があった事が彼女の悲劇であったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――2021年が冬に差し掛かると、日本でも、扶桑向けの装甲戦闘車両をごく少量だが、生産しだしていた。流石に、1949年度に『九五式軽戦車』が残置しているのは大問題であったからだ。とはいえ、ウィッチ世界では通常兵器の開発速度は遅れ気味であったため、日本連邦やリベリオン、キングス・ユニオンの開発速度が異常なだけで、その他は史実通りであれば良い方、スオムスに至っては『カールスラントのお下がり』をありがたがる有様であった。史実の鞍替えの経緯から、最新兵器の供給が避けられるようになったことが、スオムスが日本連邦の『イエスマン化』した理由は、ダイ・アナザー・デイで他国がスオムスへの最新兵器の供給を止めた事、日本連邦の軍事力が一挙に近代化されたことでの『軍事的制裁』の可能性の恐ろしさ、『それを受けることでの部隊の解体』が懸念されたからだ。スオムス陸軍にはまともな機甲部隊はおらず、ダイ・アナザー・デイで急速に強力化した日本連邦の機甲師団とは比較対象にならないからでもある。スオムスは1945年を境に、日本連邦のイエスマンと化していったが、それを侮蔑していた者達は、日本連邦の恐ろしさを思い知らされることになっていく。カールスラントから『技術立国』のブランドを奪い、『世界第三位の海軍』の地位をガリアから奪い取ったように。キングス・ユニオンは史実のメタ情報で、彼らとの敵対は選ばず、経済活性化のため、日本連邦の良き同盟国として振る舞っていく。ブリタニア連邦はコモンウェルスの存在があるおかげで、有力国の地位を維持しているからで、それが分離独立した場合は怪異への抵抗力すら失うからである。言わば、『連邦の維持のために、日本連邦のご機嫌を取る』振る舞いを選んだのだ。――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――日本連邦は装甲戦闘車両と火砲の不足を、陸戦艇で補っていた。地球連邦軍から供与された『ヘビーフォーク級陸上戦艦』、『ビックトレー級』で補い始め、その護衛に未来兵器を配備していた。これは日本が扶桑に戦後レベルの装甲戦闘車両と火砲の供給を露骨に渋ったための対策で、『却ってすごいものをもらえた』ケースにあたる。ラーテの戦略的価値がゼロになったのは、ラーテは対空能力が時代相応でしかなく、主砲も『ポケット戦艦程度』のものであり、怪異への継続的効果は、プロジェクトが進行中の1943年時点で疑問視されていたからである。地球連邦軍の陸戦艇は水上でも航行でき、火力は当時の世界最強水準とくれば、日本連邦陸軍は地球連邦軍の倉庫で眠っていたそれらを欲し、倉庫の整理を急ぐ地球連邦軍も、それらの多くを好条件で供与した。結果、ラーテ計画への深入りによる損害を最低限に済ますことに成功した。陸戦艇は旧来型機甲兵器には『陸の戦艦』そのものであるため、戦線に現れると、圧倒的火力で蹂躙していく。護衛も人型機動兵器の大群であるため、リベリオン陸軍は機甲部隊が師団単位で消し飛ぶ事は日常茶飯事であった。人的被害も常に三割超えになりつつあり、流石に攻勢が控えられるようになった。民主主義国家を建前でも体をなしている国家は人的被害がアキレス腱になるのである。ベトナム戦争でのアメリカのように。日本連邦は日本側が特に人的被害に敏感であるので、兵器更新頻度が異常に早く、第一線のエリート部隊には74式戦車、F-4EJ改などが出回ってきている。しかし、教育が追いつかない問題があり、航空無線符号の近代化もその影響で遅れている。当時のパイロットの多数派は中学校すら出ていないような学歴の者が多く、階級も多くが下士官。戦後の基準に則り、士官にしたくても、たいていは素行が悪い。そのため、一部のエースを戦時任官で士官に抜擢することが行われた。とはいえ、陸海の航空隊時代に花形ではなかった影響もあり、エースパイロットはそもそも、ダイ・アナザー・デイで生まれた分しかいない。黒江達は一応、ウィッチの枠済みに入るため、専任のパイロットではない。そこが問題であった――

 

 

 

 

 

 

 

 

――戦争はティターンズの思惑もあり、各地に火種を生んだ。日本連邦の誕生で影響力減を懸念するガリアのド・ゴール派の暴走、カールスラントの内乱、ロマノフ王朝の斜陽。結局、戦乱そのものは冷戦期を通して消えなかった。そして、人型機動兵器の構成技術はストライカーユニットの装甲パワードスーツ化を促し、1950年代にはその研究の第一段階に到達し始める。そして、日本連邦は各国の疲弊が進行するに従い、超大国化していく。それは史実アメリカ合衆国が辿る道であり、扶桑皇国は本土空襲などがなかった代わりに、血の献身を続けていく。後年、黒江達が一線を去った後でも、その直系の後継者たちが軍部の中枢を抑えていることから、1980年代以降の『扶桑のフィクサー』は彼女らを指すようになった――

 

 

 

 

 

 

――ティターンズは自らの自然消滅をも計算に入れていた節があり、ウィッチ世界に深い爪痕を残す。分断国家となったリベリオンは再統一後も経済・文化面での復興は立ち遅れ、カールスラントは本土奪還が遅れた影響、鉱物資源貯蔵量の問題の発覚で、本土に首都機能を帰還させられずじまいとなったが、領土としての奪還には成功した。ティターンズがいなくなった後も、彼らの行為の結果として、ウィッチの軍事的な潜在価値の相対的下落、平和主義的・経済至上主義な価値観の浸透での軍事への関心の低下現象。軍人の冷遇の恒常化。結局、長い戦乱と冷戦に疲れた人々は軍事への関心を薄れさせ、ウィッチの価値の低下による、彼女らの就職口の確保の早期性が問われるようになるなど、1990年代以降は軍事に関わる人々への待遇の悪化が次第に社会問題化し、更に時代の進んだ2000年代になると、MATの人員の世代交代による『要員の世代交代と基本練度の低下による、怪異の早期鎮圧の失敗』がほぼ常態となる一方、軍もその頃には往時の精鋭達は既に定年を迎えており、その孫世代の達が台頭する時代になる。しかし、相対的な質の低下はやはり免れないため、往時の精鋭達を呼び戻すことが採択される。ティターンズが残した爪痕は『64Fに属していた者の家系以外の家系のウィッチは21世紀には、先祖代々の秘伝の大半を喪失していた』として表れた。結局、64Fに属してきた代々の隊員が冷戦後の軍の立て直しに奔走する羽目になり、2010年代以降は彼女らの関係者が政治・経済・軍事の社会でその中枢につき始める。隠居生活を送っていたGウィッチらが表舞台に舞い戻るきっかけの一つが『ウィッチ世界のウクライナ/オラーシャ帝国の国境紛争の勃発』であった点で、世代交代を重ねた扶桑軍隊に、往時の政治的抑止力が無くなった事の表れであり、尖った練度の部隊が冷戦後に消えていった事がその要因とされた。次善策として、64Fの次世代組の練度向上が図られた。その施策が過去の一連の戦役への極秘裏の参加であった。黒江達がダイ・アナザー・デイで子孫たちの援護を受けられた理由の一つである。ウィッチ世界はこうして、日本連邦と同盟国の手中に収まっていくが、これを良しとしない者も多かったのは事実である。そのため、連合軍は1949年当時には、不穏分子とスパイの摘発も仕事のうちであったのは、そういうわけだ――

 

 

 

 

 

 

 

――アグネスタキオンは通達で大混乱のビコーペガサスを不憫に思い、彼女にしては、極めて珍しい完全な善意で行動し、歴代仮面ライダーの変身の様子を撮影した動画をビコーペガサスへ送った――

 

「タキオン、何をしているんだ」

 

「ビコーくんが、協会の出した通達でパニック状態だというから、彼女のトレーナーくんに頼まれてね、歴代仮面ライダーの変身の動画を送ったところさ。彼女の心の慰めになるだろうと思ってね」

 

「ああ、あの変な通達か。協会は何を考えている?」

 

「おそらく、キング君の失踪などでできた傷をこれ以上広めたくなかったからだろう。だが、実際にはパニックをより深刻にしただけだった。」

 

食事帰り、お腹がポコンと出ているオグリは、タキオンに、彼女が直前までしていた作業を聞いてみた。意外にも後輩への善行であったため、オグリも意外そうな顔だった。

 

「タキオンも……たまには、いいことするんだな」

 

「これは心外だね、オグリ君。私とて、一応の分別は弁えているつもりさ。カフェには色々とオカシイ扱いだが…」

 

おどけつつも、一応は分別を弁えていると述べているタキオン。かの敷島博士よりはマシであるということだろう。

 

「ビコーくんは、ヒーロー番組が大好きでね。先の通達で、彼女はひどく混乱していてね。これはカワカミプリンセスくんも同様らしくてね。彼女らにせめての慰めをと、ね」

 

タキオンは両者に、それぞれの好みに合致するヒーロー/ヒロインの変身の動画を送った事を明言した。そして、何気なくTVをつけたところ、さすがの両者も驚愕した。21世紀の競走馬『コントレイル』の引退への労いのスピーチをナリタブライアンがしていたからだ。

 

「ぶ、ブライアン……?」

 

「あの子も、なかなかやるじゃないか。まさか、こういう手を……」

 

公の場に姿を見せ、自身が三冠馬の生まれ変わりだと明言する、ナリタブライアンの姿に関心する、アグネスタキオン。往時の勇姿がターフの上にあった時代から、有に四半世紀。ブライアンはウマ娘として、自身が競走馬として走ったターフの上に立っている。涙ぐむ様子も見られ、『悲運の三冠馬』と呼ばれつつも、ファンは自分を忘れてないでいてくれ、声援を受けたことに目頭が熱くなり、自身の泣き顔を見せまいとする、彼女なりに健気な姿に、オグリとタキオンはほっこりとさせられたのだった。

 


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