ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第二百九十五話「幕間その39 ウィッチ世界の状況、ウマ娘達の近況」

――史実のデータが出回ることで、運命が暗転した兵器は四式戦闘機であり、雲龍型空母だった。前者はウィッチ嚮導機の役目をメインに設計され、対戦闘機用途はあくまで、副次的なものだった。しかし、当初の搭載武装の貧弱さや『防御力の低さ』を軍から指摘されていたところに、史実通りに重武装かつ、そこそこの防御力である五式戦が彗星のごとく現れ、ダイ・アナザー・デイ作戦での主力戦闘機の座をかっさらうという事態が発生。扶桑の最大手航空産業の一角である長島飛行機は、陸軍航空の技官に作業の進展をせっつかれつつ、取り急ぎの戦闘機への用途変更のための再設計を行った。だが、戦闘機型の開発と生産は紫電改への一本化を図る日本の妨害工作もあり、遅延。まとまった数での部隊配備はダイ・アナザー・デイの最大の山場にはとうとう間に合わず、その頃には次世代の航空機であるジェット機がレシプロ機に根本的に取って代わる時期を迎えており、老朽化した二式単座戦闘機の代替機としての限定的運用に留まり、配備からたった数年後の1949年には、前線から退役し始めたという結末であった。後者は第二十四番艦が起工された段階で『役に立たない空母はポイ』と一方的に断じられた。十数隻が既に竣工していたが、多くは『寸法不足』を理由に、別用途へ転用された。(実際は工程の簡略化を日本が不安視したためでもある)とはいえ、信濃が戦艦である故の衝撃は大きく、大鳳型の増産キャンセルと大型正規空母の生産に移ったものの、空母の極度の大型化による財政圧迫で、その量産は事実上の不可能に陥った。急速に彗星や流星を含めた国産艦上爆撃機/艦上攻撃機が『A-1 スカイレイダー』に淘汰されたことで、一部の航空技術者の不満がものすごく溜まっていたため、震電シリーズのマルチロール化に携わせることが促進された他、A-1をターボプロップ化させた『A2D スカイシャーク』の実用化に関わらせた結果、扶桑でその実用化が成功し、ジェット機である『A-4 スカイホーク』に抵抗のある元・艦爆/艦攻出身者に好まれることになる――

 

 

 

 

 

 

――雷撃対策研究が史実より立ち遅れていた各国は、ダイ・アナザー・デイでの日本連邦の潜水艦隊と誘導魚雷の驚異を恐れた。旧来の酸素魚雷は少数生産であったため、ダイ・アナザー・デイでその在庫の備蓄を消費し尽くしたものの、その破壊力が恐れられ始めた矢先のさらなる次世代型である誘導魚雷であった。カールスラントは誘導魚雷の開発を行っていたものの、ドイツ主導の軍縮でプロジェクトは中断してしまった。自衛隊が持ち込んだ誘導魚雷が21世紀水準の破壊力を持つこともあり、第二次世界大戦型艦艇に絶大な威力を発揮していた最中のショックであった。第二次世界大戦当時の技術では捕捉不能な潜水艦、そして、絶大な破壊力の雷撃。扶桑はその力を他国への戦争抑止力として利用した。当時、既にリベリオン海軍が人員輸送の手段として用いていた潜水艦隊は対潜哨戒機に駆逐されており、カールスラント潜水艦隊は予算不足と燃料不足で動かせずに有名無実化していたため、日本連邦の潜水艦隊に対抗できる潜水艦隊は存在しなくなっていた。日本連邦の泣き所は空母の世代交代の遅れであり、それが1949年時点での軍事上のウィークポイントでもあった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ウィッチ世界の世界秩序は日本連邦がその中心になりつつあった。カールスラントの軍事的衰退で、中心になるべき軍隊を失った連合軍は日本連邦にその役目を求めた。日本もこの国際的要請は応じざるを得ず、やむなく、扶桑軍隊の現規模の維持を認めた。ガリア軍は既に有名無実化していたし、キングス・ユニオンは双方の財政難で軍縮に入った。そのため、財政に比較的に余裕がある扶桑が軍事的負担を背負い込むことになったのだ。扶桑は急激な近代化でモータリゼーション化を必然的に起こし始めたが、乗り物に乗れる兵士の絶対的人数の不足は変えようがないため、練度の強化に勤しむしか対処法がなかった。1949年にコンカラー、センチュリオンの独自改良型が出回るようになったのも束の間、あまりに兵器がコロコロ変わるので、今度は教育が追いつかない問題が噴出。本来は10数年単位で更新されていくものを、数年の間にコロコロ変えれば、無理が生ずるのは当たり前であった――

 

 

 

 

――64Fは未来知識を組織的に持っていたからこそ、ジェット戦闘機のみならず、モビルスーツや可変戦闘機、ナイトメアフレームと言った超兵器に対応できたわけである。21世紀人でも、人型機動兵器には対応できるわけではないため、人型機動兵器に対応できる知識の存在は絶対的な軍事的アドバンテージであった。全軍に広めたくても、必要なハードルが技術士官でも難儀するほどに高いため、人型機動兵器は限られた部隊の特権となった。また、液冷エンジンが軍用エンジンとして淘汰される時代を迎えたため、戦線に残る飛燕の修理に難儀する部隊が続出していた。二線級としては使用されていたが、陳腐化が顕著となったり、エンジンと機体の生産終了などで整備に支障が生じ始めた。そのため、多くが現地改修で五式戦へ改造された。エリート部隊と違い、一般部隊は機材更新が遅れているからで、日本連邦の懐具合の寒さが見え隠れする。敵味方共に、用兵側の都合で、最新兵器が嫌われるのはありがちな展開であるが、根本的な世代交替期には、それが大規模に起こる。日本側の完全に想定外の展開であった。とはいえ、ある程度は予測できるものであったのも事実だ。当時の搭乗員らの多くはレシプロ機が前提条件で訓練されていた。ジェット戦闘機に触れた経験のある者は全軍の三割以下。スロットルレスポンスの悪さを嫌う者も大勢おり、そこも悩みのタネであった。更に、海軍出身者ほど『防衛』を軽視して『攻撃は最大の防御なり』を固く信じ、『攻勢』に強くこだわる傾向が強く、根本的に防空へ無理解な者も多い。そこが扶桑空軍がこの時期に『呉越同舟』と揶揄されていた理由である。

 

 

 

 

 

 

――64Fがエリート部隊であると同時に、防空部隊としての責務を負わされているのは、志賀少佐がそうであったように、『陸海出身者の派閥抗争』が起こっていたからだ。また、海軍系部隊ほど、戦闘機を撃墜することにこだわる傾向が強いという弊害も多く、見せしめ的懲罰も上層部が科さねばならなかった。64Fは開明的で有能な士官の集まりであった事もあり、南洋防空の何割かを一手に引き受ける羽目となっていた――

 

 

 

 

 

 

――扶桑空軍は技術開発競争に無我夢中になるあまり、技術の普及を怠っていた。そこも日本の『技術開発に力を入れよ』という提言の弊害であった。とはいえ、当時の搭乗員達の中には語学力が低い者も多く、それが原因で航空管制の近代化が遅れている。やむを得ない事情ではあったが、ジェット戦闘機の普及と航空管制の近代化を狙う日本の狙った施策として、明らかにつまずきであった。とはいえ、ダイ・アナザー・デイで指摘された野戦防空の軽視は携帯式対空誘導弾の普及で解消の目処が立っているなどの成功した施策も存在する。扶桑軍はエリートと一般部隊の練度に差があると言われるようになるが、その要因は日本側が『大勢の死者を出さないために、精鋭部隊が敵を受け止める役目を果たせ』という、通常の軍事的常識を逸脱した通達を出したことも理由であった。64Fとその支援部隊は政治的意味合いでの『弾除け』代わりにされたのだ――

 

 

 

 

 

 

――64Fは事実上のロンド・ベル隊の現地支部でもあるため、地球連邦軍本隊にもまだ配備前の機体が配備されていた。その内の一つが量産型νガンダムであった。ジェスタの登場で存在意義が薄れていたが、ジェスタの大規模量産がUC計画の終了とネオ・ジオンの解体で頓挫したため、その代替機種として、改めて量産された。グスタフ・カールが軍の多数派の工作で『治安部隊へ供給する』ことが正式化した事も影響していた。量産型νガンダムは部材の変更と設計のアップグレードで、スペック上は原型機の素体の状態と同等の性能に向上しており、64Fのような攻勢を担うエリート部隊に歓迎された。そのため、地球連邦軍の多くがまだ、ジェガンの前期型を使っているのに、評価試験名目で、新型が別世界の友好関係にある部隊に配備されていたのである――

 

 

 

 

 

 

――ロンド・ベル本隊もボラー連邦が『次なる敵』となることが確定しつつあった時期、さらなる近代化改修が各機に施された。これにより、実質的にはモビルスーツというより、その発達型の兵器『マン・マシーン』と呼ぶべき状態となった機体も多岐に渡った。マン・マシーンは基本的にモビルスーツの発達型である兵器である。モビルスーツを改修して『格上げした』機体がさらなる未来の時代の地球連邦軍でも、当たり前にあるという状況である。機械工学上はマン・マシーンに格上げされていても、単語として『モビルスーツ』が当たり前に使われる時代なので、マン・マシーンという単語は書類上の分類である。それが一般的に普及するには、モビルスーツの発達の真の意味での限界が見え始める時代を待つ必要があった。サイコフレームやバイオセンサーなどの技術はウィッチ世界にも伝わり、それが第二世代宮藤理論の実現に寄与した。宮藤芳佳が多くの世界で起こす奇跡。それは、ウィッチの『限界が示された』この世界では、周囲の嫉妬を招くものでしかない。その関係上、彼女のウィッチとしての表立っての活動は鳴りを潜めていく。B世界の芳佳自身が半ば暴発したのは、A世界でウィッチが疎んじられている世情への反発もあったのでは?と周りに言われている。それほどにダイ・アナザー・デイは『分水嶺』だったのだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ウィッチたちは、ダイ・アナザー・デイで世間的に疎んじられる側に回ってしまった。各国軍のウィッチらの『ウィッチ至上主義的』言動が外部に漏れたが故の自業自得であった。カールスラント軍人の相次ぐ不祥事の発覚もウィッチへの反発となり、比較的にウィッチへ寛容な扶桑でさえも、世間の反感が強まっていた。その事への反発が芳佳Bを行動に駆り立てたのも事実であった。ウィッチは『10代の時のみの儚い奇跡』というものがプリキュアの登場で強調された結果、諦めが『一定以上の加齢と共に失われる力』への失望に変わったからだ。また、軍の志願可能年齢が高齢化し、勤務義務が7年以上に定められた結果、ウィッチの従来通りの寿命では、教育を終了する段階で『寿命を迎えてしまう』事も羨望が失望へ転じた理由だった。従って、Rウィッチ化は重要な意味を持つようになった。この頃になると、18~20歳の前後が軍学校を卒業して任官される下限となり、通常のウィッチはその頃には、戦士としての寿命を迎えている。農村部は『軍隊でいらん知恵をつけられても……』というのが本音であり、玉音放送がなければ、ウィッチを納屋に隔離するつもりだった。そこも、農村部の過疎化が史実よりも早いうちから始まる理由であった。1949年には、早くもその兆候が表れており、農村部が事の重大さに気付かされるのは、世代交代が起こった昭和50年以降のこと。また、1946年度から始まった『ウィッチ世界の帝都改造計画』により、史実の戦後の町並みに近づける都市計画も既に始まっていたため、1950年代の扶桑は史実以上の速度で発展していく。そんな中でも戦乱は続くため、64Fの面々は終始、戦線の矢面に立たされていく――

 

 

 

 

 

 

 

――戦争そのものには関わらないが、防衛目的の戦闘や街の安全維持には関わったウマ娘達。(ウマ娘世界を見渡せば、旧・日本軍の軍馬の生まれ変わりであるウマ娘達もいるだろうが、軍馬はトレセン学園には関わり合いを持たないため、記録がない)アグネスタキオン曰く、『第二次世界大戦以前の記録はトレセン学園に殆ど残されていないんだ。レースが色々な事情で中断していた時期だから、当時の学生らが抗議の意味で、主だった資料を焼き払ったらしいのだが、言い伝えだからねぇ』と話している。また、その頃に旧・日本陸軍と何かがあったらしく、政治的な話を学内でするのがタブー視されているという慣習が戦後の時代に残された。その事の真相は一切合切が不明であるという。トレセン学園の現在の自由な校風は、多くの先人達の労苦をかけて、ゆっくりと出来上がってきたもので、戦前・戦中期の頃は違っていただろうという事は想像がつく。アグネスタキオンはいう。

 

『戦中のことに触れるウマ娘はいない。ウマ娘社会全体のタブーなのさ。生き残った当事者も口を閉ざしているからねぇ。明らかにならないほうがいいだろう』

 

タキオンをして、そう述べる『戦争の時代のトレセン学園の詳細』。旧日本軍の記録にも残されていないが、言い伝えによれば、日本軍のある部隊が『徹底抗戦』を唱えた者たちに同調して、蜂起。トレセン学園を占拠しようとし、それを止めようとした当時の生徒会メンバーが『それを止めようとして、交渉に臨んだが、何人かは戻って来なかった』という。すぐに終戦を迎えた事、『交渉が揉め、血気に逸る青年将校と一人のウマ娘がもみ合う内に、青年将校の銃が暴発し、ウマ娘が撃ち抜かれる形で死亡してしまった』ことを、終戦後に事後処理に当たった軍部の高官が問題視。『トレセン学園と帝国陸軍の後世の名誉のために』闇に葬り、双方が一切の記録を残さなかった(公的には練習中の事故死とされた)』という。アグネスタキオン曰く、『真偽の怪しい、眉唾物の言い伝えだよ。終戦~戦後の混乱期にはそんな事が起こりかねない下地はあったのは事実だが、宮城事件で日本軍の複数の部隊が近衛師団に同調したって記録はないから、噂の範疇だろう』との事。

 

「繰り返すようだが、私たちは戦争には関わらない。しかしだ、恩義は返させてもらうよ。それに、あの子のことを、タイシン君は好いているようだしね」

 

「しかしだ、タキオン。行く前に聞くが、ノビスケはなんで、タイシンに懐いたんだと思う?」

 

「タイシン君は元々、小柄だ。多少は成長したが、けして背が大きい方ではない。下手すれば、小学生に見られてもおかしくない。母上のタイシンリリィさんから聞いたが、あの子は元から体も丈夫でなく、臆病な性格だったそうだ。母上も心配するあまり、過保護気味にしてしまったらしい」

 

「それで、一人前に見てもらいたい、周囲にナメられたくないって?」

 

「おそらくは。ノビスケくんも、似た環境にある。お父上は努力で日本連邦の華族・政府機関の官僚にまで登りつめた俊英。母上も、警視庁の当代屈指の才女として鳴らしている。だが、彼はおじいさんの名を表記違いで受け継がされた。そこがコンプレックスの第一歩だろう」

 

タキオンは淡々と、ナリタタイシンと野比ノビスケ(のび太の嫡男)との共通点を黒江に教えた。ノビスケは偉大な両親のみならず、一族の通字を使うためとはいえ、のび助という名を祖父から受け継がせられた事がコンプレックスになっているのだと。

 

「のび太の一族、嫡男と次男坊は原則的に『のび~』の通字を継ぐのが、遥か昔から定められてたぽくてな。あの子が生まれる時、のび太としずかは親戚一同にいなさそうな『のび夫』を希望したんだが、表記違いのが、のび太の爺さんの代にいるってのと、あのおふくろさんが孫の名前に通字を入れるのに、どうしてもこだわってな。仕方なく、親父さんの名前の表記違いにしたんだ。これはあの子には言ってないはずだが…」

 

「おそらく、自分で聞き出したんだろうが、学校で感じるプレッシャーなどもあるだろうね。父上と違い、あの子は『良家の子息』っていうプレッシャーがかかる上、父上と同じ学校に通っている以上、古参の教師に父親同様ではないかと、一種の色眼鏡で見られる。教師の全部が他校にいっぺんに異動するわけでもないからね」

 

「つまり、ノビスケは親父やじいさん達と違う道で生きたいと?」

 

「代々のいじめられっ子のポジションに収まる器じゃないよ、あの子は。むしろ、往年の剛田氏のポジションがピタリくる。この手のタイプは精神が成長してくると、性格がガラリと変わる場合もあるんだが、あの子は心配はない。あの子は自分を見つけたいのさ。一族の型にはまらない、ね」

 

「そういうところは母親似なんだよ、あの子は。しずかも、ガキの頃は世間体を気にして、清楚で可憐な風に振る舞ってたけど、実際は男勝りな性格だからな」

 

ノビスケは野比家歴代当主の中でも『異端児』で、『子供時代、子供の世界で下位のヒエラルキーであった』経験がなく、その後の人生でも、高い社会的地位を維持していたという。野比家歴代当主の通例通りに純情な面はあるが、少年~青年期に至るまで、いろんな女性と浮き名を流すという独自性を持っている。母親のしずかが学生時代、その時々に属するグループ内のマドンナであり続け、いろんな男性との噂が絶えなかったが、最終的にのび太と添い遂げたように。このことからも、ノビスケは源家の要素が色濃く生じた存在である事がわかる。

 

「タイシン君も、過保護への強い反発、周囲に舐められたくないという気持ち、それらが綯い交ぜになったものを抱いていた。そして、純真な気持ちで走る、二人の友人への劣等感と羨望。それらが彼女の往くべき道を狂わせたんだ」

 

――菊花賞に「出るな」なんて言わないで……!アタシには、レースしかないの。走って勝つしか、道がないの……!お願い、トレーナー。走れなかったら、アタシ…………なんにも……なんにもっ……なくなっちゃうよ……!!!――

 

ナリタタイシンの本心の涙ながらの吐露。トレーナーも言葉が出なくなってしまうほどの本音での懇願。アグネスタキオンはそのことをどこから知ったのか、黒江に教えた。タイシンは本質的には臆病ながらも、優しい性格なのだ。普段のつっけんどんな態度は虚勢に過ぎず、追い詰められると、自分で自分を信じられないとまで漏らすような臆病さが表れる。それ故に、『家柄、祖父と同じ名であることで、自分固有のアイデンティティを探し求めている』ノビスケに『過去の自分を見た』のだろうと、タキオンは推測した。

 

「これはあくまで、私の推論だがね。タイシン君は『前世』を垣間見たことで恐怖を感じたが、運命を知りつつも、今を強く生きる野比氏に勇気づけられたところもあるのだろう。彼は11歳の時点で、自分の行く末を知ってしまっている。だが、それでも生を精一杯に全うしている。タイシン君はその上で、運命を超え、友人のビワハヤヒデ君の代わりに走り続けるために、ゲッター線の力も借りたのだろう」

 

「ゲッター線の意義は『進化』だもんな。その上で、前世の運命を超えるための意思を歓迎した。そう考えれば腑に落ちる。タイシンは前世の因果を乗り越えるため、史実のその先に行くために。ノビスケは一族の柵を超えて、自分だけの生き方を掴みたい。そんな共通点が二人を結びつけたと?」

 

「それだけじゃないさ。タイシン君は本来、周りの面倒見はいい。ライスシャワー君やハルウララ君から慕われているようだし、すぐ下の後輩達からの評判も悪くない。ゲーマーだからか、ゲームの話をしていると、さり気なく混ざってくるようだし。作為や悪意がない相手には、心を許すのかもしれないね」

 

「それもまた一興、だな」

 

「ノビスケくんのおかげで、穏やかなところを自然に出せるようになってるから、表情も随分と柔らかくなった。ハヤヒデ君が見たら、腰を抜かすだろうねぇ」

 

ナリタタイシンの変化は大きく、ノビスケから『タイシンねーちゃん』と呼ばれることもあり、(自分では否定しているが)スーパークリークのような優しげな表情を以前より自然体でできるようになったり、人当たりも良くなり、ゴールドシップを『ゴルシ』と呼ぶなど、全体的に穏やかになっていた。とはいえ、闘志が増幅されたのには変わりなく、グラスワンダーが薙刀の型を取ることで、レース前の精神集中を図るのに対し、ダブルトマホークを構えることで精神集中が可能となっていた。

 

「それと、境地はあくまで、そのウマ娘が本来、発揮しうる限界速度を引きだすものだ。だからこそ、サイレンススズカくんは肉体がそれに耐えられなかった。言わば、火事場のクソ力のようなものだからね、肉体に無理を強いるものだ。タマモクロスくんはやりすぎて脚を潰し、オグリくんも不振に陥った事がある。会長とて、引退時には最盛期の力は無くしていた。ましてや、今後は私たちのような、サンデーサイレンスの血統を持つ馬の魂を持つ者が続々と登場していく時代だ。今後のウマ娘の勢力図はかなり塗り替えられていくだろう。キタサンブラック君も、前世では、あのディープインパクトの甥(兄の子)だ。90年代前半以前の名馬の血統は殆ど、『我が父』に淘汰されたようなものだ」

 

アグネスタキオンの言うのは、一つの事実。サンデーサイレンス旋風が吹き荒れた結果、『サンデーサイレンスの血統を持つことは、栄達に望ましい』とまで言われるほど、日本の競馬界を支配するに至った。ただし、増え過ぎで、子孫達が相手を探すのに苦労したというオチもついている。その結果、シンボリルドルフ、オグリキャップ、ナリタタイシン、ビワハヤヒデなどの血統はほぼ淘汰されたも同然(オグリキャップ、シンボリルドルフの血統は細々と続いているが、ナリタタイシンは孫の代で子孫が絶えている)の状況である。

 

「そこは我が父・サンデーサイレンスの功罪だろうね。例えば、ディープインパクトくんはデビューすれば、トゥインクル・シリーズを絶対的な力で支配できる。かつての会長のように。キタサンブラック君は史実通りであれば、シニア戦線で輝ける。それほどに優秀な血を父は持っていた」

 

かつて、ノーザンテースト、ニジンスキーの親子が成功したように、サンデーサイレンスはその子のディープインパクトが種牡馬としても後を継ぎ、ノーザンダンサー、ノーザンテースト、ニジンスキーの三代を彷彿とさせる成功を収めつつあった。ノーザンダンサー系は国内では、クロフネが中興の祖になりつつある。サンデーサイレンス系が飽和状態になったことで息を吹き返す格好だ。

 

「これから、お前の世界はどうなると思う?」

 

「史実通り、ディープインパクトくんの天下になるだろうさ。同輩で渡り合える者は少ない上、ディープインパクト君はライバル達がその後に寄ってたかって、故障を引き起こしているからね。そこも興味深い事項だ」

 

アグネスタキオンは、前世では親類であった『ディープインパクト』をそう評した。ルドルフの再来とされるほどの実力者に成長するのは容易に想像できるし、何代か後の生徒会長の座も約束されるだろう。それほどの輝きを持っていた。

 

「キングカメハメハくんやクロフネくん、ハーツクライくんらがどこまで食らいつくことができるか。そこも興味深い。史実ほどには楽にはいかないだろうね、我が弟は」

 

アグネスタキオンもサンデーサイレンスの子であったため、前世ではディープインパクトとは血縁関係があった。その事を踏まえたか、『我が弟』(直接的な関係ではないが)と表現した。どこか楽しんでそうなあたり、マッドサイエンティストの素質があるのを伺わせるアグネスタキオン。そして、史実で有力な対戦馬たちが数年以内に引退へ追い込まれている事から、『ディープインパクトは神に愛されていたのでは?』という与太話に近い噂も流れていた事も承知しているようで、微笑みを浮かべる。

 

 

「タキオン、お前……」

 

「私とて、自分の限界は超えたいさ。だが、あまりに不自然だろう?脚に爆弾を抱えていたはずの私がレースを何勝もしていく事など。最も、それはマルゼンスキー先輩も同じだったが」

 

タキオンはウマ娘本来の欲望と、自分を気遣うトレーナーの気遣いとの間で揺れ、ある種のジレンマにさいなまれているようだった。どこか哀しげな表情に変わったのは、処置は受けたが、自身の脚を気遣うトレーナーを裏切りたくはないという気持ちがあるからで、マッドサイエンティストな振る舞いを見せつつも、素は意外に純情可憐なところがある。それ故に、マンハッタンカフェが友人というポジションでいてくれるのだろう。

 

「そのマルゼンスキーだが、ゴルシに蹴られて、やっとお目覚めだ。ゴルシがブチ切れたのに本気でブルってるから、行く前に落ち着かせてくる」

 

「相当にパニック状態だというが、大丈夫かい?」

 

「よければ、お前も付き合ってくれるか?ゴルシの野郎、怒髪天を衝く勢いで怒鳴ったらしくてな……」

 

「ゴールドシップ君の気持ちは分かるが、やりすぎたようだね」

 

「何やりやがったんだ?あいつ」

 

二人は顔を見合わせ、ため息をつく。ゴールドシップが切れると、手がつけられない。その評判がウマ娘の間で立つのは、それからまもなくであった。

 

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