――扶桑軍は呉軍港を失う過程で、大衆の門前で紀伊型戦艦『紀伊』を喪失する醜態を晒した。その醜態が一連の超戦艦群を生み出したわけである。それと同時期に問題になっていたのが、零戦二一型ですらも、満足に普及していない空母機動部隊の現状で、日本側からは『リベリオンの生産能力を舐め腐っている』と痛言されていた。M動乱にどうにか間に合わせたのが紫電改と烈風だが、日本側はそれでも性能不足と論ったため、結局は3000馬力級の戦闘機『陣風』が登場する。零式も生産タイプを1500馬力エンジン+水エタノール噴射装置の『六四型』と史実通りの『五二型』に全面的に統一される。ダイ・アナザー・デイで零式は生涯唯一にして最大の激戦に投入され、殆どは戦陣に散るか、戦役終了と共に一線を退く運命を辿る。皮肉な事に、日本義勇兵の手で『戦闘機本来の価値』を証明していったわけである。扶桑は戦艦で溜飲を下げるわけだが、その戦艦にしても、大和型戦艦すら虚仮威しと馬鹿にされる有様で、未来世界の助けで全面改装となった。更に超大和型戦艦が必要にされるなどは予想だにしなかった。扶桑の一連の混乱は、普通に日本でも報道されており、八八艦隊型戦艦の退役と大型空母の増備を提言されるのは当たり前であった――
――日本連邦体制が確立されていくと、扶桑の戦艦群は加速度的に大和型戦艦の系譜へと更新されていった。八八艦隊型以前の型式の他用途転用や退役が始まったからだが、モンタナ級以降の新鋭艦への対抗も含まれていた。ダイ・アナザー・デイで存在を明らかにした三笠型は『移動海上要塞』という別カテゴリに分類された。その改良の敷島型も同様であった。その二つが戦艦と別枠になったため、戦艦の保有枠はなし崩し的に増加。水戸型戦艦の建造が認められた。連合艦隊主力は度重なる激戦で疲労が蓄積しており、長期ドック入りは必至であった。空母機動部隊はクーデター以降は有名無実化が進んでおり、ほぼ戦力外の有様であったため、戦艦部隊が史実と真逆に酷使されていたためだ。水戸型はそれを悟らせぬための囮と見られていたが、53cm砲搭載というスペックは紛れもなく強力であった――
『扶桑海軍は新鋭戦艦『水戸』の就役を発表しました。あの戦艦大和の発展型であり……』
戦艦水戸の存在は日本にも大っぴらにされていた。大和型戦艦の発展型である事は公表されており、大まかな艦影も変わっていない。違うのは、播磨型の改善型であるので、播磨型よりも攻防力で勝っている点だ。超甲巡の強化をバーターにして認められた新型であるが、日本からは空母の刷新を優先せよと嫌味を言われる始末であった。とはいえ、扶桑は既に80000トン級空母の建造を開始済みであり、雲龍型の他用途転用工事も同時進行であった。雲龍型が空母籍から外れ始めたのも、1949年であった。油圧式カタパルトでは、射出可能な機体重力に限度があるからだ。
「雲龍型の再利用をどうするか?って先方から打診が」
「なんだって、飛龍の焼き直しに過ぎない雲龍型を量産したんだよ」
「ハイローミックスだろう?最も、大鳳は我々が計画を差止めさせたが……」
防衛省の官僚達は扶桑の通告した雲龍型の保有数に目を回した。ダイ・アナザー・デイ時点で二十隻が就役、三隻が最終艤装中であったからだ。日本はダイ・アナザー・デイ後は退役と転用を進めたが、飛鷹型を含めれば、変えるべき空母は膨大な数に登ってしまったため、空母の少数精鋭化を名目に、大型化を推進させていた。大鳳の姉妹艦の当座の代打はミッドウェイ級で済ませる事になり、49年に近代化を済ませている。ミッドウェイ級は甲板の多少の強化とアングルドデッキの設置さえ行えば、90年代まで使える能力を持つためだ。
「それで、ミッドウェイを?」
「いずれ、自由リベリオンに引き渡す契約だが、過去に改装工事を行った記録がある中では最も古い型式だ。使わん手はない。大鳳よりよほど洗練されているしな」
ミッドウェイは場繋ぎとはいえ、栄光の一航戦の旗艦を勤める。大鳳や瑞鶴では、ジェット機の運用に限界があるが、ミッドウェイであれば、F-4も運用できるからだ。
「もう一隻の名は?」
「自由リベリオンが書類を無くしたとかで、確認中だ。改装工事は済んでいるようだが」
「キティホーク相当の扶桑国産のはいつだ?」
「急いでも、50年代だな。F-14やライノに慣らさんとならんし」
「なぜ、先方はトムキャットを?」
「黒江統括官が推したそうだ。単座型と複座を製造できるようにした上で」
「トムの単座型だと?」
「グラスコックピット化すれば不可能ではないそうだが」
「64Fが試験運用を地上で始めたそうだ。第二世代機が出始めの時勢にな」
「反則だろ?」
「フェニックスが当たれば、な。統括官んとこは独自に調達してくるからな。俺たちの出る幕がないぜ。タイガーシャークなんて、どこで手に入れたんだ??」
「統括官は骨川コンツェルンにコネがあるからな。タイガーシャークやドラケンの採用は彼女がダイ・アナザー・デイで使ったせいだしな。財務の連中が泡吹いてたぜ」
「米軍もF-5系列をうちの国が採用するのは予想外だったみたいだしな。F-5Eも採用するのかね?」
「タイガーシャークが上位互換だから、しないんじゃないか?」
「いや、統括官がいるとこ以外の部隊から要望が出たらしい。紫電改でF-100の相手は酷だからな」
「ハチロクは本土優先にされたのか?」
「政治屋の剛腕でな」
彼らの会話からは、本土防空を最重要視する日本側の意向で、前線の航空装備はチグハグであり、未だに紫電改などが現役機であることがわかる。扶桑は基本的に新鋭機は前線に配置する方針だったが、本土防空の強化を名目に転換されたせいである。
「統括官の部隊だけだよ。第四世代機を組織的に飛ばせるのは。もっとも、統括官の道楽かもしれんが」
「コスモタイガーを持ってるものな」
「ああ。あれを増やしてほしいよ」
コスモタイガーの存在は知られているので、コスモタイガーの購入を望む彼らだが、コスモタイガーは『64Fがロンド・ベルの分署としての顔を持つ』からこその保有である。
「ああ、そのことか」
「これはこれは……ハンナ・ルーデル大佐。日本までご足労ですか?」
「魔弾隊向けの機材の配備についての報告に来たのでな。事後報告になるが」
ルーデルは日本の防衛省に足を運んでいた。カールスラント空軍の軍服で決めている。なお、ルーデルたちは『カールスラントからの公式の義勇兵である』という扱いで落ち着いたため、カールスラント空軍の軍服と階級をそのまま使っている。ドイツ連邦からは疎まれ気味だが、同位体と違い、政治思想を持ち合わせない『戦闘狂』であるのが幸いし、(嫌味混じりだが)大佐殿と呼ばれているという。
「大佐、バルキリーの新型を?」
「YF-29を要望しているが、今はトルネードパックで済ませている。通常はこれで事足りるがね」
「あなたの配下になぜ、これほどまでに撃墜王が?」
「コンドル軍団の経歴持ちを拾ったからだ。連中を集めて、義勇兵になったからな。閣下のご命令でな」
「しかし、トルネードパックですか」
「トルネードメサイアはカノーネンフォーゲルに比べたら、素直なものだ。全周射撃出来るのは便利だしな。アーマードは重いし」
「しかし、可変戦闘機を持つのは贅沢では?」
「黒江くんが気を回してくれたのでな。ストライカーユニットはF-86を当座は使っているが、マルヨンになりそうだ。ハルトマンが怒って、グンドュラを病院送りにしたが」
「あの方ですが、『超電磁砲』をなぜ?」
「オフレコだが、御坂美琴という人物の転生がヤツだからだよ」
「グンドュラ閣下が……超電磁砲の…!」
防衛省の役人は腰を抜かす。御坂美琴は2020年代での消息は不明だが、14歳当時に名を轟かせていたため、防衛省の仮想敵の一人であったからだ。
「更に言えば、シャーロット大尉は『原子崩し』だそうだ」
「あの超A級指名手配犯の…!?」
麦野沈利。学園都市第四位の能力者であったが、暗部に属していたり、仲間も躊躇なく手にかける残虐性などにより、日本警察から『超A級指名手配犯』とされ、2023年でも指名手配のままであった。シャーリーはキレると、その片鱗を見せるため、ルッキーニがクロエになる寸前は怖がられていたりする。
「あそこまで壊れちゃいないから安心していい。不味いこと言わなきゃな。前に、ブリタニアのお偉方が彼女を侮辱した時には、輻射波動やりそうだったけど」
「紅月カレンが混じっているのは本当だったのですね」
「シャーロットは本人ほど壊れちゃいねぇから安心しとけ。プリキュアを兼業してるんだしな。あ、ルッキーニ少尉は不満がっていてな」
「例のアレですか」
「うむ。むしろ、今はリネット曹長の変わりようが人気だな」
「あれこそ、本当の魔法少女ですよ」
「高町三佐が聞いたら、顔を真赤にするだろうがね」
「彼女は子供の頃のほうが…。なぁ、みんな」
『然り』
その場で仕事をしていた若手官僚が声を揃えての大合唱であった。
「君たち、彼女が聞いたら、知らんぞ?」
呆れるルーデル。なのははダイ・アナザー・デイで成人、少女時代の双方の容姿で活動したが、少女時代の姿の方が『かわいい』と言われるためにショックを受けていた。とはいえ、なのはは成人以降、組織人としては上手く生きていけないだろう振る舞いをしているので、少女時代の姿でいる時は本人も『気が楽になっていた』時間であろう。
「映画撮影のために取っていた姿だが、その方が……その、需要が?」
「ティアナさんのこともあるので…。怖いんですよ」
「やはりそうか。彼女はそれは起こしていないんだがね」
「自分、A’sの頃が推しなんで(テレテレ)」
「照れながら言うな!きもちわるいぞ?」
若手官僚たちは張り切ったのか、気持ちを表明してきた。とはいえ、少女時代の姿に戻したのは、映画撮影を済ませる&『事件への罰則』であるのも事実だ。
「うーむ。八神一佐に頼んで、君たちを慰問させようか?」
「一佐は今は何を?」
「君たちにも報告が行くと思うが、アニメと違い、局の要職だ。それと、中身がな…知ってると思うが」
「はい…。それでよく務まりますね」
「人格が変容したくらいで、機械の得手不得手は変わらんよ」
「ティアナ君に至っては……黒江君の報告は?」
「見ましたが、なかなかにチートですな」
「それ故に、時空管理局に気を使わんとならなくなった」
「それで、ティアナさんの容姿を?」
「軍籍も別に用意させた。彼女の異能もそうだが、我々の手ほどきで撃墜王になったということは、時空管理局の教育関係部署の面子を潰す事だからな」
「しかし、あなた方もチートの塊ですな」
「私はかわいいほうだよ。夢原君など、肉体そのものが変異してしまったのだからな…?なんだね、君」
「実はうちの課長からの命令でして」
「もしかして、課長の子供さんが?」
「え、ええ……。大佐のお立場なら、と」
防衛省にもかなりオタクがいるようで、なんと、部下に『プリキュアのサインをもらってこい』という命令を出すような課長クラスがいたのである。
「その課長に言い給え。『任務中につき、かなりの時間がかかる上に、古い世代が中心になるが、いいのか』と
「ハッ……」
普段はお硬い雰囲気の防衛省だが、この時はコミカルな空気に包まれていた。ルーデルはこの要請に応え、後日、その課長に『できる限りのプリキュアにサインを書かせた色紙』を手渡すのであった。
――政治面での内部の衝突はあれど、ドイツに比すれば『円満な運営』がなされる日本連邦。とはいえ、治安維持の主導権争いはかなり見苦しい有様であったり、軍事大国への忌避による、日本の大衆の独善による暴走行為も起こるなど、けして順風満帆ではない。それでも、ドイツと比べれば共通項が遥かに多かった故と、日本側が(経済的に)死に体に近い有様であったため、扶桑の活力と資金力を必要としつつ、その軍事力を活用したいからであった。日本の一部政治家は敵であるジオン残党が未来の地球人である事に気づいており、ジオンが戦乱の種になることを憂いていた。そのため、ジオンの解体の一助になるであろう『メタ情報』を野比家に提供していた。それは日本で漫画やゲームとして存在していたジオンに関する情報であり、その中には、ジオン残党には致命的なスキャンダルになるものも含まれていた。環境破壊用生物兵器『アスタロス』のコロニーへの使用の決定に関する記録などがそれである。キシリア派の非人道ぶりが白日の下に晒されることになるため、ジオン残党には都合の悪い情報そのもの。公には『ジオン最強の精鋭』とされたキマイラ隊が『対シャア・アズナブル用の部隊』であり、キシリアは国の存続のために彼らを用いるつもりがなかったことも明らかになっていった。つまり、21世紀日本で『ジオンは内輪もめの果てに終焉を迎えていく』事が予見されていたのである。ミネバ・ザビがジオンの存続を『兵士をまとめるための方便』と見ているのは、その事をシャア・アズナブルから、どこかで聞いていたからである。野比家は21世紀の段階でそれを知りつつも、一時はジオン・ダイクンのパトロンであった。その当時の当主がリベラルな政治思想の持ち主であったからだ。だが、ジオン・ダイクンの死後、ブリティッシュ作戦でその次男一家が全滅したことで決別する。その時の当主は引退間近であった野比セワシ(老年期)であり、後継者として期待していた次男とその一家の全滅が彼をジオンとの決別に傾かせたわけだ。逆に言えば、家族を政治利用する酷薄さが本質というジオン・ダイクンも『聖人君子』を装えるくらいには外面が良かった事の表れである。その外面の良さこそがジオン・ダイクンの最大の才能かもしれないと、のび太は後に評する。野比家はノビスケを例外として、代々がリベラルな政治思想を持っており、ジオン・ダイクンは連邦きっての名家である野比家に好かれる事で、サイド3の経済的自主性を確保しようとしていた。だが、ザビ家はそんなダイクンの姿勢を惰弱とし、野比家の後継者候補のいたシドニーにコロニー落としを敢行した。野比家の当主であるセワシは老齢で気力も萎え始めており、後継者候補を消せば、自分達に隷属するだろうという希望的観測で。だが、それが却って、萎れる寸前とまで揶揄されていた老セワシの心の火を灯し、反ジオンに転換させ、孫たちに軍の入隊を促すなどの行動を取らせる事になる。なお、デザリアム戦役での死後に家督を継いだ、彼のひ孫のノビタダは『野比家でも凡庸と評された、セワシの長男の孫』に当たる――
――二つの時代の野比家を仕切るのび太。ノビタダとしては、デザリアム戦役当時に入隊したばかりの『名家の令息』である。魂は同一であるが、互いに別の存在であるという認識で動いている。野比財団がビスト財団に取って代わり、アナハイム・エレクトロニクスを支配するようになるように仕向けたのも、のぞみにガンダムX系統を与えたのも彼であった。これはのび太の指示であり、23世紀ではノビタダにやらせたほうが早かったからだ。のび太は転生体にあたるノビタダに乞われ、自分の末裔たちを統率。彼らからは『のび太様』と呼ばれ、野比財団のコントロール是正を実行する。その際に『右腕』に抜擢する体裁でノビタダにフリーハンドを与える。野比財団の祖としての威光は子孫たちには絶対的なものだからである。のび太はある日、『何が悲しくて、セワシの子供や孫を僕が仕切んないとならんのよ』と、セワシ死後に規範が弛緩していた一族の有り様を嘆いたという。ノビタダはそんなわけで、のび太の意志の『代行者』の顔を持つようになり、一族を統率する権利を得ると、アナハイム・エレクトロニクスを実質的に手中に収め、64Fメンバーの援助をさせつつ、財団の富でコロニー再建計画と移民政策の推進を政府に促す。サイド3の住民を穏便に外宇宙に移民させ、残党の戦う理由を根本から無くす。シャアもデザリアム戦役をその事の大義名分にしようとしていたため、デザリアム戦役の直前、ノビタダに極秘に接触していた。
――デザリアム戦役の直前 旧アメリカ合衆国 ニューヤーク――
「見えますかな、シャア・アズナブル大佐、いえ、クワトロ・バジーナ大尉?」
「ええ。ジオンが犯した罪の象徴のようなものであり、私にとっても、人生の転機になった場所ですからな、ノビ・ノビタダ少尉」
シャア・アズナブルはネオ・ジオンの総帥に戻っていたが、クワトロ・バジーナに戻りたいのか、その時の制服を保管し、髪型も一時的に『クワトロ・バジーナ』としてのものに戻すなど、下手な変装を見せていた。二人が密談しているのは、荒廃した『ニューヤーク』のとあるバー。
「あなたはアムロ・レイ少佐と戦う事で、これまでの人生に決着をつけたいだけでしょう?」
「恥ずかしいことですが、私にとって、アムロ・レイは生涯でたった一人の友であり、私の理解者になってくれたであろう女性を奪った張本人でもあります。アクシズ落としからおめおめと生き延びてしまった。本来なら、シャア・アズナブルでも、クワトロ・バジーナでも、キャスバル・レム・ダイクンでもない名を使うべきなのでしょうな。妹もそれを望んでいるかもしれない」
「ああ、あなたに残された、第三の名前……」
「ええ。それは世間に知られていないのでね。ですが、私の本名の重みがそうさせてくれないのですよ。ジオン・ダイクンを継ぐ存在としての」
「なら、今度のことが済んだら、エドワウ・マスを名乗るのが良さそうですね、死んでるはずの名前ですし、表にも出てないから」
「ええ。アムロたちはそう呼んではくれんでしょうが」
「名前などはいくらでも変えられる。私の国での武将は改名が当たり前でしたよ」
「そうか、あなたはニホンの……」
「ええ。先祖代々、日本人ですので」
シャアはこの時、かつて使用したエドワウ・マスを再利用するよう促され、本人もそう決めるのだが、その名で知り合いから呼ばれる事は実際にはなく、シャア・アズナブル、軍隊の内輪では結局はクワトロ・バジーナと呼ばれることになるのである。アムロやカミーユ、ジュドーなどの古くからの好敵手たちはは釘を刺す意図で『クワトロ大尉』と呼び、ミネバからは『シャア』と呼ばれるからで、本人としても散々なことになる。
「あなたが連邦に帰順した場合、私どもが『百式改』を提供します。あまりいい思い出はないでしょうが、多分、アナハイム・エレクトロニクスからは『クワトロ・バジーナ』と扱われるでしょうから」
「百式系ですか。せめて、ガンダムマークⅢは欲しいのですがね」
「サザビーやナイチンゲールは不味いですからな。ガンダムタイプに乗ってみせないと、内輪が納得しませんよ」
「百式には……あまりいい思い出はないのですがね。悪い機体ではないのは認めるが……」
百式の搭乗時にはいいところがなかったためか、ナイチンゲールに乗っている身としては、そうとしか評価できないあたり、かなり苦い記憶であるらしい。
「いや、あなた、アムロ少佐にサザビーで散々にボコボコに殴られてたでしょう?」
「うちのエンジニアに再会した時に、愚痴られましたよ。サザビーは第四世代機だから、あんなオーソドックスなガンダムに負けるはずが…とね。格闘は私の十八番だったのですが」
シャアは生還後、お抱えのエンジニアであった『アルレット・アルマージュ』と再会したのだが、サザビーでνガンダム(メカニズム的にはマークⅡの焼き直しにすぎないと、彼女は評した)に負けた事で、彼女に散々に怒られたと告白した。彼女はνガンダムの設計を『ガンダムマークⅡの焼き直し』と酷評したが、実際にはシャアの要望を叶えすぎたサザビーはシンプルなνガンダムに完敗している。(なお、のぞみがデザリアム戦役中の講習の際、その事を質問したが、アムロはサザビーを『国力の関係か、何でもかんでもつめこもうとするジオンの設計思想の難点がモロに出た例だ』と回答したという)
「まさか、νガンダムがあれほどの反応を手に入れるとは……」
「アムロ少佐ともう一回だけ戦うのは、ジオンの人たちへの最後の禊ですか?」
「父以来の勤め。私はそう思っています。残党の兵士や将校たちに最後の花道を用意してやる。それが総帥としての最後の仕事です」
シャアはそこまで言って、酒を煽る。
「サイド3やの住民や兵士達の再就職の斡旋はくれぐれも。さすれば、私も一年戦争以来の重荷を降ろせる」
「冥界にいる彼女のためですか?」
「彼女は……私の母になってくれるかもしれなかった女性ですから。私には実母との記憶が殆どないのですよ。だから、母性を自然と恋しがったかもしれない。妹にはそれがもとで嫌われていますが」
シャアは本質的には様々な家族愛を得られなかった男である。故に、アムロからは『器量の小さい!!』と失望されている。アムロは母性は得られなかったが、テム・レイからの愛情は受けていたし、ベルトーチカ・イルマとの恋愛で『男になった』が、シャアは本質的に『大人を装っていても、少年から脱皮しきれていない』のかもしれない。それがレコア・ロンドから軽蔑される理由だったかもしれない。
「レコア・ロンドに軽蔑されたのも、あなたが……」
「お恥ずかしい限りですよ。私を信じ、戦陣に散ったエマ・シーン、ヘンケン・ベッケナーに顔向けできない有様ですから。ブレックス・フォーラ閣下さえ生きてくれていれば……私はクワトロ・バジーナで…」
それがシャアの本音だった。ブレックス・フォーラさえ生きてくれていれば、ジオンの総帥などやらずに済んだのに、と。彼が『シャアが唯一、心から敬愛した目上の人間』であったかがわかる。
「今度の戦が終わったら、あの方のご意思を継げばいい。レビル将軍にも、それはご理解いただけるでしょうし」
「彼には、クワトロ・バジーナであった頃に会いたかったですな…」
ブレックス・フォーラと同様に、連邦軍のハト派最大勢力の長かつ、奇跡的な帰還者であるレビル将軍は、ジオン・ダイクンの掲げていたニュータイプ論の真の理解者であった。故に、クワトロ・バジーナとして会いたかったというのが本音らしい。
「では、クワトロ大尉」
「ええ」
二人はこうして密約を交わして別れる。それはシャアにとって、『一番に居心地の良い時代』が一パイロットでいられた『クワトロ・バジーナ』の時代である事であり、シャアが総帥になった後も、その頃の生活に郷愁を感じている事の証明であった。
――プリキュア達の話にあった『GO!プリンセスプリキュアとその周辺の数世代のプリキュア』が目撃した『バグ』という超兵器は流拓馬の世界の地球を滅ぼした張本人であった。彼女らは現れた『バグ』の凶行を阻止しようとしたが、その世界にいたプリキュアたちのの力では歯が立たなかった。初代とスプラッシュスターの最大必殺技の同時発射を以ても、バグのバリアを破ることすら叶わなかった。それどころか、バグの発した雷がその世界の環境そのものを一発で激変させてしまうという力の差を見せつけられ、さしもの彼女らも絶望の淵に追いつめられたという。キュアフローラの涙と叫びに呼応し、このような声が響き渡ったという――
『チェーンジッ!!ゲッター天(ワン)ッ!!』
地響きと共に、その世界の地中から超高濃度のゲッターエネルギーが吹き出し、プリキュアらを包み込む。その際に、プリキュアらの背後に突如として現れたのが、『ゲッター天』であった。キュアフローラは療養中の身ながら、その事を見舞いに来た仲間に話す。
「私はそいつになんて負けたくなかったし、諦めるつもりはなかった。だけど、あいつは……身震いするくらい怖かった。でも、逃げ出したくなかった。だって……」
バグを駆る『カムイ・ショウ』に対し、キュアフローラは精一杯の虚勢を張り、啖呵を切ってみせた。カムイは無慈悲に、その世界を地獄に作り替えてみせ、『人類の進化を断ち切る。それが私の使命だ!』と宣言する。バグの巨体に比べれば、キュアフローラは蟻のように小さく、微力であった。それでも、彼女は泣きながらも、世界を守ろうとあがいた。その思いにゲッター線が手を差し伸べたのだろうか。彼女らを救うかのように、ゲッターエネルギーが辺り一帯から迸り、その閃光からゲッター天が現れたのだ。
プリキュア達の前に姿を現した『それ』の存在をカムイは知っていた。故に、その時にこう叫んだ。『出たな……出たな、ゲッター天!!』と。
――その時のキュアフローラの知る由もないが、大地を震撼させるその声はまさしく、流竜馬のものであった。そして、その闘いに参戦していたキュアブルームとキュアイーグレットは『ゲッター……ロボ……?』とだけ呟き、周囲には気づかれなかったが、現れた存在がゲッターロボである事を知っていた。そのことから、その二人は『居合わせていた』ことがわかる。――
「ブルーム、教えて。あれは……あのロボットはなんなの?」
「あれは……ゲッターロボの進化の過程で生まれる一つの形。ゲッター天」
「ゲッター……ワン…?」
療養中のフローラを見舞ったブルームから告げられたそれは重大な事実であった。ゲッターロボという存在もこの時に知らされるのだった。