――扶桑皇国は結局、日本側の勘違いなども要因で、ウィッチ運用に支障を来たし、艦艇整備スケジュールにも、かなりの狂いが生じた。呉軍港を事実上、失った事も大きかった。呉軍港は廃止こそされなかったが、工廠機能の復旧は分散移転がクーデターで遅れた事もあり、完全には復旧はされないまま。結局、日本側が護衛艦型の艦艇(旧世代型だが)の生産を認めたものの、第一線艦艇の平均速力が一気に30ノット以上に統一されたことで、補助艦艇の世代交代も必要となった他、高度な電子装備が一気に備えられたことで旧来型工作艦の価値が下落するなど、パニックが続発した。海援隊に一任していた兵站が軍部の所管になったことで、海援隊実働部隊を取り込んだ海上護衛総隊に空母を割く必要も出るなど、てんやわんやが開戦後も続き、『喪失の危険がほぼ無くなった』戦艦による通商破壊作戦を取るしかないなど、扶桑は予定外続きに頭を悩ました――
――とはいえ、幸運は未来兵器を積み込める余裕が大和型戦艦にはあったという点で、頓挫した怪異化研究に代わる成果としての改装として施された。未来兵器を積み、怪異を寄せ付けない防空能力、遥かに強化された防御力、23世紀の水準の電子装備が施された大和型戦艦とその系譜の艨艟たちは戦場では無敵を誇り、並み居るリベリオン艦艇を海の藻屑、もしくは『浮かぶ廃材』へと変えていった――
「敵艦隊の中央を突破する!全艦、我に続け!!」
大和型戦艦の近代化は大成功を収め、怪異化で得られただろう成果よりも『遥かに実りのある』結果を収めた。火力と防御力に物を言わせ、敵艦隊を強引に突破する『ネルソン・タッチ』戦術を取るようになった連合艦隊の戦艦部隊。近代艦としては無謀だが、宇宙戦艦時代の防御力を持ったことでこなせた。航空主兵論が皮肉なことに、『航空機そのものの近代化』で瓦解したため、相対的に水上艦隊が復権したわけだ。大和型戦艦の圧倒的強さは、ダイ・アナザー・デイ当時よりも運用側が未来兵器に熟れたこと、敵側の追随を許さない『ソフトウェア面の発達と優位性』が成立させていた。
「うわぁ。アメリカの船がバラバラに逃げていくよ」
「旗艦とその次席が今の突撃でいっぺんにスクラップになったから、まとまりが無くなったんだな。バレたら敵前逃亡で厳罰もんだよ、あれ」
箒に乗って、海戦を観測するキュアミラクルとキュアフローラの二人。リベリオンは対人戦争の経験の無さが災いし、大和率いる戦隊が猛然と突撃してきたことで、あっさりと隊列を崩され、艦隊の統制も失われる醜態ぶりであった。敵の遁走ぶりに呆れた連合艦隊は不必要な追撃はせず、沿岸に陣取り、対地射撃隊形を取る大和、信濃、甲斐とその護衛艦ら。本来の出撃目的は対地射撃だからだ。
「あ、対地射撃に入るみたい。敵の上陸部隊はこれで終わったよ」
「なんで?」
「1.5トンもある鉄の弾丸が、音速でかっ飛ぶからね。下手な地下陣地のコンクリートなんて、たちまちに貫通していくよ」
大和型戦艦の55口径46cm砲の貫通力は、下手な要塞のコンクリートを薄紙のように貫く。そのため、野戦築城による陣地などは『塵となって消えていく』運命だ。
「高度上げるよ。連合艦隊には、あたしたちのことは伝えてあるけど、大和の艦砲の衝撃波はものすごいからね」
大和型戦艦の主砲が発する衝撃波はものすごいものだ。史実よりも強化された都合、機銃群の撤去と対空装備の自動化が優先的に行われた理由でもある。(史実の戦闘で露呈した弱点でもあったため)対地支援は不発弾を避けるための改良が施された砲弾が用いられ、敵上陸部隊の多くがその餌食になっていく。大和型戦艦は、扶桑では『自衛能力のある連合艦隊司令本部』という目的で建造されていた。だが、皮肉なことに、建造時にあまり想定されていない『最前線での戦闘』でその威力を示している。オートメーション化で人員が遥かに削減された関係で、乗員一人あたりの居住空間も拡大されるなどの恩恵もあるため、近代化は好評である。M動乱の際には、ドイツ海軍にさえ『海戦の素人』と揶揄された扶桑軍だが、今や『海戦の玄人』へ成長したのだ。M動乱は、扶桑連合艦隊を史実の日本連合艦隊と同じ高みへ成長させるのに必要な戦であったのだ。
――敵艦の内、戦意喪失した艦は機会を伺うように、自由リベリオン海軍に亡命する船が続出。上陸部隊も艦砲射撃で装備ごと蹴散らされ、結局は日本戦艦の力を示すのみに終わった。日本での海戦も、自衛隊の潜水艦隊の援護もあり、大勝利に終わったことが後日に扶桑でも報じられる。長門と陸奥無き後の連合艦隊のシンボルは、まさに大和と信濃であった――
「戦艦大和って、この世界じゃ、ミサイル積んでるの?」
「改造されたんだ。元々は時代に即した姿だったけど、改造が何回もされるうちに、上部構造物の基本配置以外は別物になったんだ。戦艦大和くらいの大物だと、中のスペースに余裕があるからね」
大和型戦艦のFRAM済みの姿は、近代化後のアイオワ級戦艦以上に近代化されつつも、二次大戦世代戦艦までのお約束である巨大な檣楼は改良されつつも、未だ健在である。イージス艦の艦橋も、高雄型重巡洋艦の司令塔のように巨大化しつつあるので、基本的なイメージは守りつつも、作り替えられた。従って、高度な電子装備を受け入れる余裕がある。そのため、二次大戦型砲熕艦艇の近代化の一種の叩き台として活用された感はある。そのため、当時の既存戦艦の大半を大きく引き離す性能になった。装甲も素材を変えたのみならず、対ビームコーティング化されている。(隠し機能だが、波動防壁の展開が可能)
「多分、戦艦が生き永らえた理由、大和がいるからってのは入ると思うよ」
「な、なんとなく」
キュアミラクルの言う通り、大和型戦艦のFRAM後の威容のみならず、その総合性能の飛躍が戦艦という艦種を生き永らえた理由である。ミサイル兵器と航空兵器の高額化と高度化が戦艦以上に軍事費を圧迫していくことが判明したため、ウィッチ世界の海軍は『確実な打撃力を残す』という大義名分で、戦艦の保有自体は続けていく。とは言え、戦隊をいくつも編成するほどではなくなっていく。第一次世界大戦型以前の戦艦は対怪異火力としての意義も喪失していたが、1945年の時点で『今後に渡る第一線の火力を持つ新戦艦』を整備可能な国力を持つ国は数カ国である事から、戦艦の数そのものは純減し始めている。政治的な必要から、保有しなければならない列強も『怪異戦の開戦当時から、大きく能力が優越する戦艦の保有は叶わない』ケースも出てきている。ガリアはペリーヌが国土復興を優先させ、軍備の再建を二の次にしていたことを国民が支持していた結果、後年に『リシュリュー級で超大和型戦艦に挑む』という構図が出現。リシュリューの儚い最期は、ド・ゴールの失脚に繋がっていく。カールスラントは内乱での混乱からの立て直しの一環で『鹵獲品の修繕』という形で更新が認められる。バダンから得たH41級は一隻で『既存のビスマルク級三隻分の戦力価値がある』からだ。カールスラントの南米地域での軍事的抑止力としての意義が見いだされたためでもあり、一定範囲の水上艦隊の再建が長期スパンで行われ、数十年後に目標値を達成するのだ。二大国以外で唯一、戦艦の定期更新が成功したのがロマーニャで、ヴェネツイア公国が連合国への復帰時に『賠償』として引き渡したリットリオ級を使用しつつ、難点を改良した『インペロ級』の整備にこぎつけた。しかし、周囲からは軽んじられたために、『地中海の番人』以上の役目は周囲から与えられなかったが――
――日米の戦艦対決は大火力で粉砕する日本側が優位にあったが、数では、リベリオン本国軍の圧倒的優位である。戦艦の数隻分の損失を半年もあれば、元よりも回復できると言われる、圧倒的工業力は日本連邦の恐怖の的であった。皮肉にも、大義名分を持つ日本連邦側は数的劣勢を『質で覆す』しか方法が見いだせず、ウルスラ・ハルトマンの提言と真逆の『質で量を超える』ドクトリンが定着していく。軍に残るウィッチ達の質が両極端になってしまった、敵の『魔導殺し』が定着し、それに怯えた者達が軍へ入らなくなるなどの弊害も、ウィッチの軍事的価値を下落させた。その価値を元に戻すには、物理的装甲を備え始めた世代かつ、第二世代理論式を前提に開発された新式ジェットストライカーの普及、新式陸戦ストライカーの登場を待たねばならず、もうしばらく先の事である。21世紀世界はそんな戦争と完全には無縁ではないものの、概ねは平和であった――
――21世紀世界では、ウマ娘たちがバンキッシュ・レースの存在を知ったための訓練、『空の散歩』をしたいという思いの両立を兼ねて、格納庫に収容されている通常戦闘機に乗り込んでいた。
「マヤノの奴が聞いたら、羨ましがるぞ~」
「日の丸のF-14?レプリカなの?」
「日本が、別世界の海軍に採用させた設計改良型だ。注文する部署によ、マニアがいたかもな。わざわざ、史実にない単座型を作らせたんだから」
「物好きね」
F-14は、史実ではF-4の後継としての邀撃機として用意されたこともあり、レーダー要員を乗せる複座戦闘機である。だが、扶桑が戦闘機は単座を強く望んだため、より世代の進んだグラスコックピット化などで対応した(ノースロップ・グラマンの了解を得ている)。より進んだ電子装備、細かな改善などもあり、事実上は『トムキャットの皮を被っているスーパーホーネット』と言っていいくらいの細かい差異がある。
「その世界の日本にF-18じゃなくて、F-14を先に薦めるあたり、確信犯だぜ。絶対にトップガン好きがいたに違いねえ」
F-14は相応に高価であるため、アメリカをしても『ハイローミックス』で落ち着くほどであった。しかし、軍事費が戦後の常識の数倍を誇る扶桑であれば、史実の生産数以上の数を揃えられる。その思惑は当たり、扶桑はF-4EJ改に代わる主力機に選定している。
「空のクルージングには大仰だが、この辺の空域、民間機の飛行は避けられてるからな。戦闘機で飛ばねえと、ゴロツキ共に落とされるそうだ」
「うへぇ。なにそれ~!?」
「仕方ないだろ、学園都市ってとこのゴロツキやチンピラ共は人工的なエスパーが多いんだ。普通の警察は匙を投げてるし、あいつら、民間機を落とそうが、お構いなしだ。だから、戦闘機で威圧する必要があるんだ。フライトプランは、親方日の丸に出してある」
との理屈で、単座型と複座型の扶桑皇国製造の『F-14』に乗り込む一同。ゴールドシップは自由奔放なようで、大本のルール自体は意外に守るのである。
「表向きは民間機で通してるが、武装は念のためにフル装備だ。ただし、バルカン砲は証拠の残らないように、レーザー砲に変えてあるそうだ」
「実弾だと、色々と証拠が残るからね」
「それと、協会からの通達もあるから、万一の場合でも『自衛』になるようにしろ」
「面倒だね」
「色々と兼ね合いがあるからな。あたしだからって許されるとこはあるけれど、限度はあるからな」
「大人の事情って奴でしょ?オグリ先輩のクラシック登録みたいに」
「ああ。これからは、こういうとこで息抜きしねぇと、肩がこる生活だぜ。イメージを守る必要がある程度は出てくるんだからな。ほれ、マックイーン」
「どうして、わたくしが貴方の後部座席なのですか!?」
「いーだろ?戦闘機なんて、いくらメジロ家でも、個人所有はできないだろうし」
ゴールドシップは愚痴りつつも、スイスイとF-14のエンジンを始動させる。未来世界の熱核タービンを積んでいるため、起動は容易だ。
「さすが。実験的に熱核タービンに変えてあるのか。大気圏内はどこでも行けるな」
「熱核タービン?」
「滅多なとこで口外すんなよ、マックイーン。未来の技術で安全に扱えるとはいえ、核だからな。この時代の日本人が騒ぐと面倒だし」
「わかりましたわ。未来の世界では、普遍的な技術なのですね」
「タキオン波動エンジンや、ゲッター炉、光子力反応炉まで普通にあるからな。核融合炉なんてのは、かわいいもんだ」
「あなた、どうして、このような戦闘機をスイスイと…」
「同位体のおかげってやつだよ。それと、元になった機体よりかなり近代化されてるからな。多分、初心者でも、とりあえずは動かせるようにしたかったんだろう。とはいえ、それなりの基礎はいるけど。タイシン、そっちはどーだ?」
「大丈夫。基本はゲットマシンと変わらない。むしろ、こっちのほうが楽」
「そうか、それは良かった。さあ、行くぞ。テイオーも遅れんなよ」
「でも、地下を超低空飛行で飛ぶってのは、難しいね」
「仕方ない。騒音問題とかの兼ね合いだ。小高い丘の中腹から出ないとならなかったそうだ。今はそんなでも無くなったが、周辺住民への配慮だよ」
「会長は?」
「拗ねて、前会長に慰めてもらってる」
「はぁ?」
「昔の発言がほじくり返されて、週刊誌のゴシップ記事にされたんだと」
「……それはなんとも」
各自の機体は超低空飛行で、トンネルを飛ぶ。ゴールドシップが言及した『昔の発言』は、不躾な頼みをしたオグリキャップに釘を刺す目的で述べた『中央を無礼るなよ』だ。どういうわけか、それが外部に漏れたのだ。そのため、ルドルフは次姉に怒られ、週刊誌に不祥事扱いされるわ、散々であった。
「誰かが音声データを売りやがったんだよ。もう随分前の事だし、地方出のオグリ先輩に釘を差す以外の意図はねーし、ゴシップ記事が煽り立ててるような気持ちは抱いちゃないが、地方の関係者の怒髪天を衝いちまった。エアグルーヴが模索した政権存続の動きは、これで潰えた。元の世界から、あたしが取り寄せたゴシップ誌の見出しだが、ひでえもんだ。タイシン、ここから出る前に、スマホで写真を見てみろ。データはお前のに送ってある」
「何々?……『地方は中央の二軍なのか?』、「地方から中央に出て走ることが、そんなに偉い事なのか!』……あーあ。ここぞとばかりに叩いてる。」
「人の性さ。強者のアラ探し、強者への弱者の精神的優位をくすぐって、弱者の溜飲を下げる。ゴシップ誌ってのは、卑しい作りのものさ。ここが発祥のネタが有名人を苦しめることも多いから、侮れないぜ」
ルドルフも結局は過去の発言に足を引っ張られる形で、地方レース関係者の反感を買った。これがルドルフの退陣の方向の決定打となった。実のところは、協会のシンザン体制の構築に利用されたわけである。ルドルフに『若気の至り』があった事を知らしめ、長期的にルドルフの世間的なカリスマ性を維持させるため。既に引退して久しいシンザンは、遠大な目的のために、ルドルフを利用したのだ。
「協会はなんて?」
「新会長のカリスマ性の獲得に利用してるのさ。将来、現・生徒会長が協会に入った時、失敗談があった方が大衆人気が確保できるし、今の教会長の寛大さを演出できるって寸法だろう。やれやれ」
「うっわ。なにそれ」
思い切り引いたらしいトウカイテイオー。
「駆け引きだよ、テイオー。レースの当事者のあたしらとは縁遠い世界のな。そろそろ、外に出るぞ。スロットルを開いとけ」
トンネルから出る瞬間、一同はスロットルを開き、勢いよく飛び出す。地下からの出口は裏山の中腹辺りである。正確には『小高い丘』というべきだが、住民達の慣習で、山と扱われている。土地の地権者が代替わりの際に、相続税を回避するために、あるホテルに売却したわけだが、街単位で地権者の息子は非難を浴び、ホテルも風評被害のとばっちりを受けたわけだが、ホテルの経営陣の厚意で、裏山は千年杉の移設以外は守られ、憩いの場としての地位を保った。街単位でバッシングされては、ホテル側もたまったものではないからだろう。結局、そのホテルは22世紀の頃までの100年以上に渡って存続するが、未来での戦乱期に遂に経営破綻し、裏山から撤退。マンションも解体され、千年杉の新たな苗木が元の場所に埋められ、裏山は元の姿へ戻る。23世紀のことだ。裏山の地権はその時代の野比財団の手に渡り、自然保護公園という形で再整備されるのである。
「F-14って、翼がコンピューター制御なんだね」
「そうじゃないと、実用的な可変翼なんて、無理だしな。別の世界のドイツ空軍は血の涙そうだ」
「なんで?」
「そこは第二次世界大戦の時間軸だから、自分たちが必死こいて作ってるものの完成型を見せつけられるわけだしな。日本にやたら抗議したそうだが、日本に一笑に付されたそうだ」
「確かに」
「それに水冷エンジンのライセンスとかでぼったくりがわかって、向こうの方が泣きを見たそうだ」
ゴールドシップがテイオーにいうように、液冷エンジン『DB601』関連のライセンス料で、カールスラントの当局によるぼったくりが判明し、激怒した日本連邦は国際司法裁判所に提訴することを示唆。揉め事を嫌うドイツの手でその他のライセンスを含め、格安で与える事になったが、日本連邦は液冷エンジンに見切りをつけ、空冷エンジン機を主力にしつつ、米国製ジェットエンジンへ早急に切り替えた。
「ところが、日本は液冷エンジンに早々に見切りをつけて、ジェットエンジンとターボプロップエンジンに切り替えていってな。おまけに、アメリカの戦後式の高性能ジェットエンジンがドイツ製ジェットエンジンを市場から駆逐するオチもついた。プロペラ機は、史実で実績のある空冷エンジンで充分ってこった」
日本は扶桑に史実戦後の航空技術情報を与えたため、カールスラントの劣化コピー状態といえる開発中のいくつかの航空機は見切りをつけられ、史実で実績のある機種の生産が重視されることになった。カールスラントは頼みの軍事技術までも『時代遅れ』とされたことで経済が傾き、まさに死に体寸前の状態に追い込まれた。それが日本連邦の報復であった。だが、日本連邦も、現場で別の問題も多々発生したため、ジェット機は防空部隊とエリート部隊の特権のようなものになっていた。ジェットエンジンに抵抗の強い搭乗員やウィッチも多かったからで、その問題も、64Fの酷使に繋がっている。
「あいつのとこも、大変ってわけね」
「そうだ。あたしたちだけが気苦労背負ってるわけじゃないからな。向こうも、色々な進行中のプロジェクトを犠牲にしたようなもんだ。そのおかげで混乱の最中で、あいつの部隊だけが、まともに最前線で機能してる状態だそうだし」
扶桑のクーデターで多数の試作品が失われた。その中には、『震電』ストライカーの量産前提仕様の試作機、速度追求の実験機であった『研三機』の殆どの資料も含まれていた。不幸中の幸いで、直前に昭和天皇の勅命が下ったおかげで、研三機そのものの損失は免れた。だが、その当時には、研三機の記録した最高速度である時速699キロを遥かに超える機体が次々と登場していたり、速度記録の最終的な保持者が空冷エンジン機であることで、同機の存在意義が失われており、(空冷エンジン機のF8Fの改造機が850キロの速度を記録している。)同機の改良プロジェクトは打ち切られ、博物館送りになった。機に関する資料も、プロジェクトに派遣されていた陸軍の武官の独自判断で焼き払われたからだ。その関係で、テスト部隊は責任を強く問われ、解体。懲罰的に、各テスト部隊のテストパイロットたちは最前線に送られた。結局、その関係もあり、1945年にテスト中とされた機体は、彼らの手で殆どが歴史の闇へ葬り去られることになった。
「おまけに、やらかした部隊の多くが、居合わせた将校たちのその場のノリにのったのがバレたからな。それで、あいつんとこが曲芸飛行の仕事まで背負わされたわけだ。超絶ブラックだろ?」
扶桑皇国軍航空部隊は大多数が曲芸飛行に無理解であったため、専門の曲芸飛行隊の設立は先延ばしにされた。しかし、軍への志願数の低迷で『源田サーカス』の再来が求められたため、源田実直轄の部隊である64Fがその任を担うことになった。中堅へ成長した世代の多くが空軍の設立を嫌い、軍を去ったため、本来は教官にしたい古参の者達が前線を支える羽目に陥った。これは軍全体の問題だ。
「つまり、あーやんとこは戦闘、テスト、サーカスまでやらされるわけぇ?」
「最前線だから、昼夜問わずに戦闘だ。時には、船とも戦わされるからな。いくら、交代制だからって言ってもよ、ブラックすぎるぜ」
「労働基準法違反じゃ?」
「人事院の仕事なんだが、戦時中な上、時代の倫理観的に、全員がいっぺんには休暇を取れねえと来てる。それに、人手不足だからって、向こうのパイロットを日本の民間航空会社が引き抜こうとしてるらしい。それで、エース・パイロットには、自由勤務権を与えてるそうだ。あいつが好きにしてる理由だよ」
「なにそれ」
「エース・パイロットを引き抜かれても、軍が困るからだ。向こうは政情不安で、中堅が民間軍事会社にに流れちまったから、エース・パイロットを優遇して、引き止めを図ってんだそうだ」
「昔の傭兵みたいなもん?」
「大まかにはな。そもそも、上層部への不満で民間軍事会社に行った連中が多いから、政治家も扱いに困ってるらしい。完全には潰せないそうで…」
エース・パイロットは戦時の軍隊には絶対に必要な人材であるので、特例措置ということで、『エース・パイロット』として鳴らす者達には自由勤務権が与えられた。熟練者の民間航空会社と民間軍事会社による高給での引き抜きの防止策で、民間軍事会社の隆盛を嫌う日本側と、民間軍事会社が隆盛にあった扶桑との妥協であった。これは地球連邦軍にも輸入され、民間軍事会社のエース・パイロット達の軍への編入が行われるに至る。民間軍事会社の現状が知れ渡ったことで、民間軍事会社への規制が強まったわけだが、21世紀の時点で既に問題視されていたことが、23世紀になった頃に表面化したのである。扶桑を地球連邦がモデルケースにしたわけだ。最も、事情は各々で違うが、民間軍事会社のあまりの肥大化は良くないというのは一致した見解だ
「どこに行くんですの?ゴールドシップ」
「成田まで飛ぶ。成田で休憩して、戻る。飛行機なら、そう時間はかからないからな」
一同は民間機という体裁で、ススキヶ原を飛びだった。使用機は扶桑製のF-14。炎のユニコーンのマークが描かれており、64Fがダイ・アナザー・デイの時期に、後方で動作試験をしていたモノであることがわかる。グラスコックピット化されているため、史実のD型に近い特徴がある。2020年代においては『過去の戦闘機』となって久しく、退役から20年近くになる。そのF-14が2021年の日本を飛ぶというのは、夢のような光景であった。米軍は『扶桑にトムキャットを勧めた』張本人なので、その飛行情報を聞くなり、関係者はにやけたという。自衛隊としては、大規模な空母部隊を持てる扶桑海軍が羨ましく思えたという。特に、自衛隊は飛行性能を理由に、F-15を選んだ経緯もあり、見栄えのいいF-14はちょっと羨ましかった。(性能はともかく、造形美という点で、F-14は人気が高い)扶桑で採用されたというのは、空自の担当者などは知っているが、眉唾物と捉えていた。1949年という時代の史実の技術レベルでは、F-14レベルの戦闘機は造れるはずがないからだ。
「しかし、ゴールドシップ。わずか数年で、その世界では、プロペラ機からここまで技術レベルが?」
「要因は多いけど、戦時中の青天井の予算、他の世界が齎した技術が合わさった結果だよ。プロペラ機は現場の要請で、補助に使われてるだけで、直に戦闘任務の多くからは消えると思う」
史実より総力戦が長引く世界では、史実の10年分の進歩が数年で爆発的に起こる。その結果、45年には後方部隊に史実で言う九六式艦戦/九七式戦が残っていたのが、数年後には、それが紫電改/疾風に切り替えられている。第一線では、エリート部隊には第二世代ジェット戦闘機が出回り、黎明期のジェット戦闘機にあった技術的ネガが無くなりつつあるため、ジェット戦闘機でのドッグファイトも当たり前になりつつある。他の世界の思惑はあれど、技術発展は利点も多い。そして。ゲッターエネルギーの活用。ある一定の出力までのゲッターエネルギーは有用なエネルギーであるため、ウィッチ世界では、神隼人の協力で研究が開始されている。
「それに、ゲッターロボとかが使われてんからな。アメリカの物量も無限じゃないんだ。あいつの世界も、ここ数年がヤマだろう」
「数年?」
「そうさ。アメリカも史実の1945年には、弾薬供給に不安が出てきてたはずだ。それに、兵隊の頭数はあるが、雑魚ばかりしかいないそうだから、優秀な士官が現場から消えれば、希望はあるそうだ。日本軍も最後の方は、まともな士官が現場には、ほとんどいなくなってたからな。あいつらはそういう目的のコマにされてんのさ」
扶桑が一騎当千を目指す理由は、『敵の人的資源を無くすため』という目的もある。現に、開戦劈頭、対潜哨戒機による哨戒網に引っかかる潜水艦を片っぱしから海の藻屑としている内に、リベリオン本国のウィッチの人的資源が枯渇したように。
「ふぅん。あたしたちとは縁遠い世界だけど、そうとは言い切れない面はあるんだよね」
「仕方ねぇよ。この日本には、あたしらを調べようとする輩もいるんだ。異種人類をこの世界が公的に認識するのは、もう100年は先の事だ。異世界の存在を日本が認識してなきゃ、この世界に足は踏み入ることは出来なかったさ」
「言えてる。それに、F-14を操縦したって言ったら、あの子が羨ましがるだろうな」
「マヤノでしょ。あの子、部屋にトップガンとか、アイアンイーグルのポスターを飾ってたよ?」
「それなら、とびっきり羨ましがるぜ。2000年代後半には姿を消したはずの機体で、第一線級の性能なことには変わりないから、個人市場には出回ってないはずだし」
「そう言えば、ブライアンは?」
「ああ、あいつなら仕事。三冠取ってるからって、TVの仕事なんだって」
「なぬ?あいつが?おいおい、大丈夫かよ」
「確認されてるウマ娘の中じゃ、世代が一番新しい三冠ウマ娘だからって事だけど。会長でなくていいの?」
「会長はもう、古い世代に入るからなー。会長は競走馬としてはだけど、『強すぎて、逆に大衆受けしなかった』んだ。ブライアンは競走馬としては、四冠取ったところが絶頂で、後は落ち目になった。それは一つの結果だが、ブライアンはそのことを見てるはずだ。夢として。あいつも、そのことを振り切りたいはずだ。だから、慣れない仕事も引き受けたんだろう。それに、競走馬としては、スペやスズカと世代が離れてる事を知って、興味が湧いたんだろ。サンデーサイレンスの血統がエリートの証になってる時代に」
21世紀にディープインパクトが成功を収めたことで、サンデーサイレンスとディープインパクト親子の血を継ぐ事が一種のステイタスとなりつつある。同時に、オグリキャップとハイセイコー、イナリワンのように『地方から成り上がる』事も、過去のものになりつつある。ナリタブライアンは平成三強の全盛期に学園の門戸を叩いた世代であり、スペシャルウィークやゴールドシップと、現役中に模擬レースなどで対戦経験がある世代でもある。
「あの子、どうするつもり?」
「言ったろ?見てぇんだろ。サイレンスじいさまと、ディープのオジキが勢力図を塗り替えた後のレースを。自分たちが檜舞台から去った後に、日本のターフを席巻する連中の足を。……って言っても、あいつ、口下手で、無愛想なほうだからなー」
ゴールドシップもそこを心配する。ナリタブライアンは公の場では猫をかぶれるものの、普段は無愛想で、口数も多い方ではない。三冠ウマ娘になった後も、自身は歴代の強者との戦いを渇望しているが、自身の怪我による不調、周囲の期待などのプレッシャーもあり、実のところは肉体と別の理由で不調であった。ブライアンは何を見出そうとしているのか。それは当人にしかわからない。だが、ビワハヤヒデの突然の引退で、精神的な拠り所を失い、それに代わる『目標』を見出そうと躍起になっている。テイオーの前では強がったものの、運命の悪戯で奪われた目標『姉との大レースでの対決』に代わる何かを求めている。そして、いきなり背負わされた『ビワタケヒデ』達の期待(ハヤヒデとブライアンの下の妹達)。
「ブライアンも大変だと思うよ。口では強がってるけど、この間、ハヤヒデに電話口で『なんで辞めるんだよ、バカヤロウ!!』って、すごい泣き声で叫んでるの、聞こえてさ」
「あの子、ああ見えて、ハヤヒデの事は好きなのよ。公の場じゃ『姉さん』って呼んでるくらいに。それに、大レースで戦う機会はとうとうなかったことになるから、ブライアンの夢を壊す形になる。ハヤヒデは良くも悪く理屈込めるんだけど……ね」
ナリタタイシンは親類として、ブライアンを気遣う。かつての恩返しであるらしい。また、ブライアンはその気になれば、口調を切り替え、生徒会副会長モードになれることも教え、テイオーを感心させる。ブライアンも無頼を気取りたい年頃なのに、ルドルフに煽られて、引き受けた生徒会の仕事との板挟みにあっているため、実のところは意外に人気が出やすい。タイシンが変わり始めたことを、ゴールドシップとトウカイテイオー、メジロマックイーンは実感し、互いに微笑みあった。