――ウマ娘達の持ち歌は、のび太らの提案で、試しにシャッフルして交換してみる事が決められた。しかし、それは仕事で不在のシンボリルドルフの預かり知らぬ事であった――
――テイオーはゴールドシップに空の散歩を誘われる二日前、元の世界に戻る必要が出た。トレーナーの不在で、その代理をしているゴールドシップが出走を決めたレースがあるからだった。そのままレース場に直行し、そのレースで勝利を収めた。ウイニングライブの曲はある程度、勝利したウマ娘の裁量が効くようになったため、テイオーはここで、観客は愚か、関係者用の席で観戦しているルドルフをも驚かせるサプライズを用意した――
「何ィ!?この曲は、曲は……オグリの……!?」
テイオーが歌ったのは、かつての『芦毛の怪物』オグリキャップの持ち歌であったことで知られる曲『unbreakable』である。ウイニングライブで踊る二位以下のウマ娘たちも、観客席のルドルフも、まさに驚天動地であった。オグリキャップが引退レースであった時の有馬記念でのみ披露した『幻のライブ曲』。それを何故、自分の愛弟子であるテイオーが歌えるのか。流石に平静を装えなくなり、表情は驚愕に満ちたものになっていた。
「馬鹿な……。何故……、何故……?」
絞り出すように口にした、ショックの言葉。そういうことなら、何故、自分の曲であった『SEVEN』を継承してくれなかったのかと。
「テイオーさんは、貴方に憧れていたからこそ、それを避けたのでは?」
「グラス」
グラスワンダーがいつの間にか、側にやって来ていた。スピカに移籍はさせられたものの、長らく、チームメイトだったため、お互いの交流は続いていた。
「何故、この曲をテイオーは継承したと思う?」
表情は哀しげで、かなりショックだった事がわかるもので、グラスワンダーも言葉を選ぶ。
「……それは、貴方のようになれなかったからだと思います。テイオーさんはダービーの後の怪我がきっかけで、約束されていたはずの未来が消え失せた。そのショックと、骨折の連続で、長いトンネルのようなスランプに陥った。それは会長。貴方も、よく知っているはずです」
テイオーはルドルフの正統後継者という宿命を背負うと同時に、自分はルドルフのようにはなれないという運命も同時に背負わされた。史実の競走馬としてのテイオーが度重なる故障で、キャリアに影が差したように。グラスワンダーはそれは知らないが、怪我の連続が、テイオーから何かを奪っていった事は悟っていた。ルドルフは複雑な表情だった。自分の後継ぎとして、自分の持ち歌を継承させたかったからだろう。
「どこから……、何が狂ったのだろう?グラス……」
「……わかりません。ですが、テイオーさんも、オグリ先輩も、低迷期を経験している。その共通点が結びつけたのでは?」
「……かもしれん」
オグリキャップもトゥインクル・シリーズに在籍していた頃の晩年期は、同期のライバル達が相次いで、トゥインクル・シリーズを引退したことで彼女の中の闘志が消え失せ、国民のアイドルになっていた事による取材攻勢に疲れ、数レースを敗戦していた。引退発表後の最後のレースで意地を見せたわけだが、テイオーも史実を鑑みるなら、あの有馬記念が最後の勇姿のはずであった。現役時は『体調が万全であれば、無敵のウマ娘』とされたルドルフにとっては、縁遠かった世界(ただし、ルドルフの引退理由も怪我ではある)なため、自分の愛弟子かつ、後継者がオグリキャップの持ち歌を継承したことには複雑な気持ちであった。
――テイオーはトレセン学園に帰る際に、格納庫にあった『サーブ 35 ドラケン』を使用した。複座型で、ルドルフも同乗した。バラスト代わりに、武装はそのままであった。史実より遥かに進歩した技術で製造されたため、コックピットがグラスコックピット化されているなどの細かい差異があった――
「ぶーーーー!!テイオーちゃん、ずる~~い!戦闘機に乗って、帰ってくるなんて」
駐機されたドラケンを目の当たりにして、大いに膨れるマヤノトップガン。テイオーのルームメイトでもある。
「この戦闘機ですが、えらくクラシックですね。スウェーデンのサーブ社が冷戦の始め頃に作ったものですよ、マヤノさん。」
「イクノちゃん」
イクノディクタスが現れた。イクノディクタスはチームカノープスのメンバーで、テイオーやマヤノトップガンの一期上のウマ娘である。ただし、デビューが怪我で遅れたため、デビュー年次はテイオー達の後である。その関係で、テイオーたちに敬語で接している。なお、マックイーンに理由は不明だが、(正確には体重キープの秘訣などから)憧れられており、前世からの縁が結びつけた(イクノディクタスは競走馬としては、マックイーンと同期である)と思われるところもある。
「50年代に量産されたクラシックな機種です。ジェット戦闘機は世代交代が遅い乗り物ですが、今となっては博物館行きの代物です。そんなものをどうやって……」
「行った先で世話になってる人が大富豪でな。その人が個人的に収集していたコレクションを借りたんだよ」
「あ、ゴルシちゃん。戻ってたの?」
「おう。生徒会に入ったから、前任者からの引き続きもあるしよ」
「え~~!?ゴルシちゃんが生徒会に?なんのアメリカンジョーク?」
「しかたねーよ。エアグルーヴとブライアン以外のメンバーが殆ど交代すんだから。それに、今回のキングのやつの事件で、生徒会に入ろうとするのも減っちまったから、新入生の内の有力者を抜擢するって議論までされてんだからよ」
ゴールドシップも一旦は学園に戻り、生徒会の新メンバーとして、前任者からの引き継ぎをしているらしい。ゴールドシップは人手不足を予期していたようで、自身の『おじ』(ウマ娘としても、縁筋にあたる)である『ディープインパクト』、そのライバル『ハーツクライ』を生徒会の新メンバーに推薦していた。
「今回の事件はそれほどの傷を?」
「聖域扱いだった会長が降りる時点で、大事だよ。イクノ、下手すりゃ、お前にもお声がかかる可能性はある。テイオーは会長ほどのカリスマ性は持たないからな」
ルドルフは現役時の圧倒的な成績を武器に、トレセン学園の権益を確保してきた。だが、テイオーは怪我で伸び悩んだ結果、G1四勝に留まっている(とは言え、史実のウイニングチケットとナリタタイシンはG1は一勝しかしていないので、充分に強豪に入る)。ルドルフという偉大な前任者に比すれば『凡人』の部類に入ってしまう故の措置でもある。とはいえ、ゴールドシップは知っている。将来は自分の姪であった『アーモンドアイ』がルドルフの記録すら軽くぶち破り、同世代の三冠ウマ娘になるであろう『コントレイル』(アーモンドアイとコントレイルは、サンデーサイレンスの血を継ぐため、親類といえる)をも超える『史上最強のトリプルティアラ達成者』になる未来が待っている事を。
「それに……、そう遠くない未来に、会長も軽く超えるようなバケモノが出てくるかもしれないが、それまで学園を守らなくちゃならんからな」
「そんな事あるの、ゴルシちゃん」
「昔、ミスターシービーが前会長の正統後継者として、三冠を取った直後も、そういう奴は大勢いた。だが、実際はシービーを会長が超えていった。それと同じことが将来に起こらないとは、かぎんねぇだろ?」
ゴールドシップはイクノディクタスも驚くほどにインテリ風な発言をする。実際、ルドルフの記録は現在におけるオペラオーが並び、更にディープインパクトが近い将来に並び、さらなる未来で、アーモンドアイが超えていく。ルドルフという『栄光の軌跡』を超えた者が、かのサンデーサイレンスの血統であるところは歴史の流れである。
(あたしの『姪っ子』のアーモンドアイが将来、会長の記録を派手に超えていくんだが、会長も流石に、盛大に腰抜かしてたな。並ばれる事はあっても、超えられるのはなかったからな、あの人の記録は)
アーモンドアイのことを独白するゴールドシップ。ルドルフの打ち立てた記録を『サンデーサイレンスの孫が超えた』事は史実の色々な事実からすれば(ルドルフ自身の父系子孫は絶えるか否かの窮状である)、ルドルフ自身は教えられると、色々と複雑なようだが、競走馬としての自分の死後に、自分をも超える者が遂に現れたことには嬉しいようであったが、同時にその強さに腰を抜かしたらしい。また、アーモンドアイにとっては、牝馬三冠も単なる通過点に過ぎないため、ルドルフはその圧倒的実力に敬服し、これ以後は『皇帝』としての看板を下ろしたらしく、言動に変化が生じたという。
「しかし、オペラオーさんをして、ダメだったものが、私達の後輩にできると?」
「それが時代の流れだ、イクノ」
ゴールドシップはこの頃から、ルーデルから得た理知的な側面を公の場で見せ始める。それでいて、持ち前の奔放さも健在であり、逆に、マックイーンのはっちゃけ具合がクローズアップされていく。マックイーンは隠しているつもりであるのだが、後輩であり、親類のメジロドーベルとメジロブライトが台頭するにつれ、彼女の世俗じみた側面が逆に人気となる。
「それに、新入生のディープインパクトは将来、生徒会長にもなれる器の持ち主だよ」
と、自身の『おじ』をそれとなく持ち上げる。それは嘘ではなく、順番は前後するが、後々、ディープインパクトはルドルフの数代後にあたる生徒会長として就任する。ゴールドシップは在学中にはそのお膳立てに一役買うわけだが、それは、前世で偉大な功績を残した『おじ』へのゴールドシップなりの敬意であった――
「その子、強いの?」
「全盛期の会長に、今の時点で既に匹敵する。オペラオーは愚か、タキオンよりも速い。スズカでないと、太刀打ちできんだろうよ」
ディープインパクト自身も認めるのは、『スズカの兄ィには敵わんよ』ということである。そのため、ディープインパクトに優位に立つ者はサイレンススズカ、ただ一人といえる。
「エアグルーヴには悪いが、今の新入生と、その次の世代は『精鋭揃い』だ。そいつらが台頭したら、限られたウマ娘しか、同じ時代に良い戦績を残せんだろう」
ゴールドシップの予言はすぐに的中する。ディープインパクトがその圧倒的能力を以て、選抜レースを勝ち抜いた後、ゴールドシップとの縁を理由に、スピカへ入るのだ。彼女のスピカ所属は後に『リギル時代の終焉』のシンボルとして記録され、オグリキャップ引退で凋落したスピカの中興のシンボルにもなった。また、ルドルフはこの頃から、憑き物が落ちたかのように、本来の温厚篤実さを表に出す事が増えていく。役目を終えたからだろう。そして、キングヘイローの捜索に目処が立つ、ある日に任期満了で生徒会長の座を引退する。テイオーに後事を託して。テイオーはルドルフの教育を受け、シニア戦線に挑む。ルドルフの正統後継者として。それを三冠ウマ娘の意地にかけて、復活を狙うナリタブライアンが立ち塞がることになる。
「ブライアンの奴も、シニアでの三冠を狙ってるはずだ。どうなることやら」
それぞれの理由で、レースへ熱くなっていくウマ娘たち。思いがけないところで『継承』されるものもある。ゴールドシップはそれを実感しつつ、エアグルーヴを迎えに行くのだった。
――そして、その年の初夏から始まる、新生・ドリームシリーズ。その第一レースで注目を集めたのは、シニア戦線を戦うことなく、ドリームシリーズに挑戦してきたスペシャルウィーク。そして…――
「さて、久しぶりに……いっちょやってるで!」
タマモクロスである。往年の俊足を失っていたため、『往年の名声で、ドリームシリーズに出れている』と揶揄されていたのだが。
「おぉーと!!タマモクロス、どうした!!まるで、全盛期の力を取り戻したかのような威圧感です!!」
バトル漫画のように、黄金色のオーラを身にまとうタマモクロス。更に、その上に稲妻を纏ったかのようなスパークを伴う。一人だけ別世界のような存在感である。
「スペシャルウィークはおるかいな?」
「あ、は、はい」
「オグリンから話は聞いとるやろ?このレースが終わったら、タイキシャトルも呼んで、リフレッシュや」
「オグリ先輩は出先に?」
「そうや。お前らを待っとるで。それはそれとして、このレースはうちがもろたで」
不敵な笑みを見せるタマモクロス。スペシャルウィークは、シニア戦線には参加せずにやってきたため、下馬評はスペシャルウィークのほうが上々。タマモクロスはとっくのとうに『潰れている』。それは学園全体の周知の事実。ルドルフの代理で、レースを観戦することになったエアグルーヴも、『スペシャルウィークの横綱相撲だろう』と踏んでいた。レースに出走している、他のウマ娘と違い、スペシャルウィークはトゥインクルシリーズで『つい最近まで戦っていた』からだ。だが、そんな予測は、タマモクロスがラストスパートをかけたスペシャルウィークに追従してみせたことで『打ち砕かれた』。
「嘘……!?」
「中々の速さやな、スペシャルウィーク。今から見せたるで。ウチの真の力を!」
何馬身かリードしていたスペシャルウィークが驚愕するほどの瞬発力。昔年の『白い稲妻』の復活は本当であった。そう、二人以外の全ての者にそう思わせた。スペシャルウィークはダービー制覇経験者、タマモクロスは天皇賞と宝塚記念がその栄光の証。素質の上では劣らないといえる。両者はそれ以外のウマ娘が追従できない領域の疾さに到達し、それ以外のウマ娘からすれば、『閃光以外の何でもなかった』ほどのものだった。
「馬鹿な、今のタマモクロスが……スペシャルウィークと……、つい最近まで、トゥインクルシリーズを走っていたG1ウマ娘と……『対等の速度』で走れるだと……!?馬鹿な、奴の足はとうに……!?」
エアグルーヴも絞り出すようにして、出せたのは、その一言。とうに競争ウマ娘としては『終わった』とされていたはずのタマモクロスが、つい最近まで、第一線で名を馳せていた後輩のウマ娘と対等に走っているだけでなく、往年の力を取り戻しているとしか思えない『閃光』。
「うちの……勝ちや!!」
その瞬間、雷が奔ったかのような閃光がターフに迸り、会場全体を照らしたように錯覚させられる何かが起きた。エアグルーヴも次の瞬間、我が目を疑った。スペシャルウィークがハナ差でタマモクロスに負けたのだ。
「さすがは黄金世代やな。本気のウチに食らいつけるなんて」
「あたし、ジャパンカップと同じ感じになってたのに、追い越せないなんて…。すごいですよ、タマモ先輩!」
「オグリンのお守りばっかしとるのが能じゃないんや。これがウチの力や。少しは見直してくれたんかいな?」
「ええ!久しぶりに、体が、心が……なんていうか、熱くなりましたよ。ここんとこは、ちょっと辛い時もあったんで」
「ライブ終わったら、このメモに書かれてるマンションに行くんや。」
「あ、は、はい。タイキ先輩にも伝えておきます」
「頼むで」
そこでニカッと笑い、ピースサインを決めるタマモクロス。実はオグリよりも一期上の世代であり、学園では既に古参の上位に入る。ルドルフやマルゼンよりは下だが、オグリよりも先輩である。しかし、同時代のウマ娘として、互いに親友になって長いために、この時点では二人でワンセット扱いだ。
『タマモクロス!!復活だぁあああ!!煌めいた、稲妻は煌めいた!!白い稲妻は完全に蘇りました!!ダービーウマ娘のスペシャルウィークを、ハナ差で差し切りましたぁ!!』
興奮気味の実況アナウンサー。タマモクロスは復活の狼煙を公式レースで上げた。黄金世代の筆頭とも言える、スペシャルウィークに打ち勝つという最高の形で。関係者用の観客席で衝撃のあまりに立ち尽くし、言葉もないエアグルーヴの姿があった。ゴールドシップが迎えに来た時も、そのままの姿で固まっていたという。
――扶桑は色々な制限が政治的に加えられた結果、『質で量を超える』しか方法が無くなった。それは兵器の高度化による値段の高騰、日本財務省が扶桑を『体の良い財布』としか捉えていないことでの軍事費削減がもろに前線の士気低下などとして跳ね返ってきた。扶桑は日本に『せめて、兵たちの給与を上げてほしい』と懇願。質の問題で史実の太平洋戦争後期の戦に敗れている事は承知していたため、民間軍事会社への流出防止の観点から、熟練した戦闘機乗りや戦車乗りの優遇は日本連邦体制でも続行された。ただし、昼夜問わずに出撃、必ず一騎当千が求められる64Fを配属先から避ける者も多いのが現実であった。民間軍事会社の戦時下での活動制限などの戦時特例法も施行され、日本連邦は1949年度にようやく『総力戦体制』を形にしつつあった。エース・パイロットの存在の公式化に反対した海軍は、1943年に個人戦績の公式記録を破棄していた都合もあり、エース・パイロットの公式化後のランキングでのトップ10の殆どを陸軍出身の人材に独占される屈辱を味わった。また、主力化していた『基地航空隊の人材』を空軍に取られた事もあり、海軍航空そのものが形骸化するという、もう一つの屈辱を味わう結末となった――
――結局、扶桑海軍航空隊は地球連邦海軍などの協力で航空部門を中興させる事になり、旧来の悪癖は駆逐され始める。空軍主席参謀の江藤敏子も、ダイ・アナザー・デイで天皇自らによる査問を受けた影響で、エース・パイロットの公式化を押し進めることになり、広報部を自らの管理下に置いた。結果、皮肉なことに、彼女自身が扶桑空軍の広報活動を取り仕切ることとなった。黒江たちはエースであるが、中堅世代からは『世代対立のシンボル』と見なされてしまったため、広報部として、積極的な広告への起用は困難になってしまった。その代打として注目されたのが、その弟子筋に当たる者であった。宮藤芳佳、ないしは夢原のぞみ、月詠調、雁淵ひかりなどであった。のぞみは『扶桑軍に正式に属しているプリキュア』としては、最初に確認されたピンクプリキュアだからという側面もあるが、一応はウィッチの力も、転生した先の都合で持つ。そのため、ウィッチの世代間対立が顕現した40年代後半以降は、彼女らが広告塔として起用されることが増えた。相棒の一人であるキュアメロディは正式には、自由リベリオン軍に属するため、ペアで写真に写る場合は、さらなる後輩のキュアラブリーや、ドリームとしての一期後輩のキュアピーチとペアで写る。皮肉にも、軍への若年層の志願数は、エースパイロット(エースウィッチ)の存在を公にアピールすることで成り立っていたのである。――
――プリキュア達も、次元を超えた敵と『合法的に戦う』ために、軍人の身分を得たようなものなので、普段はそれほどお互いの階級は気にしていない、現役時代同様の関係であるものの、年長組がとりまとめ役なのには変わりはなかった――
――ウィッチ世界のある日――
「ゆりさん。どうして、カウンセラーをするように?」
「『ガイア』に転生していた時に、副業でしていた仕事だったから。前線の指揮は、咲やのぞみが向いてるでしょう、かれん」
「それは言えてますね」
月影ゆりは戦歴が長かったのと、チームに加わった時点で高校生であった関係で、転生後も最年長級の地位を維持している。転生先は『ガイア』(反地球)における新見薫。ガイア・ヤマトでカウンセラーであった女性で、アースの同一人物の同位体に当たる。その関係で、新見薫としての年齢は20代後半。また、アースの同位体と区別をつけるためもあり、最近はキュアムーンライトの姿を維持するようになったという。
「それにしても、お互いに不思議な縁ですね」
「まさか、こうして、お互いに軍人として再会するなんてね」
お互いにプリキュアの姿を取っているが、キュアアクアはコスチュームの上から白衣を羽織っている。
「しかも、お互いに医官として」
「正確には、私はマサチューセッツ工科大学を出る時、大学の先輩(ガイアの真田志郎のこと)に誘われて、入隊の時に技官コースを取ったのよ。それがいつの間にか、カウンセラーよ。」
「それじゃ、本来は技術士官?」
「本職はね。とは言え、アースのほうが進んだ技術体系を持つから、勉強の最中。波動エンジンも根本的に原理が違うから」
ガイアよりも、アースのほうが進んだ科学を持つ上、同名の技術でも『基礎となる理論がまったく異なる』(波動エンジンと波動砲)ため、アースの技術体系を一から勉強しなくてはならない。そのため、本職は開店休業状態だというキュアムーンライト。
「驚いたのは、貴方が医師志望だったことね。確か、ご両親は音楽家でしょう?」
「ええ。プリキュアになって一年目の時、ミルク(美々野くるみ/ミルキィローズのこと)が熱を出した事があって。それで、ミルクを看病する内に。ですが、日本の医療業界は派閥抗争やら、大学医局の関係者の汚職やら、若年での開業は敵視されがちというでしょう?」
「確かに。日本の医療業界の大手なんてのは、大昔の『白い巨塔』で書かれたことと大差ないような意地の張り合いを、21世紀になっても続けてるもの。そんな醜い争いで、院長や自分の属する派閥を束ねる教授のケツをなめて、ごますって、院内で昇進するより、軍医やフリーランスになったほうがまだ気楽に過ごせるもの。貴方も、それがわかってたから、ことはの誘いを受けたんでしょう?」
「ええ。そういうものに身を投ずるくらいなら…という感じでした。それが今では、医務少佐ですよ」
「お互いに、奇妙なことになったものね」
「ええ」
お互いに顔を見合わせる二人。プリキュアの姿で、お互いに軍務に励むとは思ってもなかったからだが、プリキュアでも、年長組同士でしかわからないものもある。二人の会話はまさにその象徴であった。