――扶桑軍は21世紀以降のレーションの研究成果を手にしたことで、一気に食料品の品質を改善した。クーデターの鎮圧後、一気に自衛隊との交流が進んだ結果である。日本の政治家からは『白米でも食わしとけ!』という史実の意趣返しのような発言も続出していた時期だが、戦線の現実問題として、飢えが日本軍最大の敵であったことを鑑みた連合軍は『食料品の確保と開発』に多額の予算をかけるようになった。扶桑軍は徴収という手段を封じられたため、末端の基地では市井で食料品を確保したり、自家栽培なり、基地で酪農をしなければならなくなったのだ。これに慌てた日本側は、自衛隊用の戦闘糧食の提供を申し出、ただちに供給された。64Fはこのような混乱に遭わぬよう、事前に独自ルートでの食料品確保をしており、余剰品は野比家に貯蔵されていた。『畑のレストラン』である。一つ当たりの量は常人用だが、味は確かであるため、野比家に大量に貯蔵されていた――
――ナリタタイシンは胃袋がウマ娘としては容量が小さい部類に入り、人間の大食いタレントと大差ない量で限度いっぱいである。ただし、中央トレセン学園在籍のG1級ウマ娘でも数少ない『追い込み型の脚質』のウマ娘で、スタミナはいいほうに入る。彼女はその代における、皐月賞を勝っているが、日本ダービーの後に台頭したハヤヒデの影に隠れてしまった上、ウイニングチケット共々、ビワハヤヒデとに、地力の差がついてしまったため、BNWと言われた三強の看板倒れは否めなかった。そのことへのタイシンの負い目も、担当トレーナーがタイシンにリフレッシュを薦めた理由であった――
「……ふう」
タイシンはカツカレーを食べていた。常人と大差ない量だが、彼女にはそれでいいのだ。そんなウマ娘が何故、皐月賞を勝てたのか?それは鬼のような末脚の切れ味を持っているからで、現役のウマ娘の中で随一を誇ると、シンボリルドルフも認めている。ただし、元は体調を崩しやすく、菊花賞ではそれで惨敗を喫している。現在は処置で『以前に比べれば』という修飾語がつくが、無茶の効く体にはなっていた。
「オグリ先輩、何をしてるんです?」
「ああ、中央と笠松の同期のみんなに近況をな。みんな、現役を退いているからな」
オグリキャップの同期は、テイオーやスペシャルウィークらが台頭する頃には全員がターフに別れを告げている。引退後に卒業、ないしは引退後にトレーナー課程を取った者も多いので、オグリのように、引退後にドリームシリーズへ進んだケースは意外に少ない。ドリームシリーズ自体が顕彰ウマ娘の福利厚生目的で設けられた経緯によるものだからだ。オグリに、タイシンは敬語で接している。オグリはタイシンのルームメイトのスーパークリークと同期だからだ。(会長であったルドルフを『名前呼びができる』ウマ娘であるのもあり、一応は敬意を払っている。
「私も…、すっかり仲介役が板についた。ルドルフは昔から、どこか抜けているところがあってな。引退した後は、私もカバーに回るようになった。マルゼンさんがお目付け役を退いたからだが、奴は完璧なようで、抜けている。エアグルーヴの献身に気づいていないのがな」
オグリは引退後、その時期にマルゼンスキーが表立った全ての役職を退いたことがきっかけになり、ルドルフの年下の友人というポジションに落ち着いた。エアグルーヴとナリタブライアンはその更に後の入学なので、真の意味でのルドルフの友人と呼べるのは、タマモクロス、オグリキャップ、マルゼンスキーの三人。エアグルーヴのことは『自分に良く尽くしてれる後輩』としてしか見ていない。ルドルフの落ち度はそこにあった。
「エアグルーヴさん、寝込みましたよ」
「奴の落ち度だ。前会長もそこを心配している。回復はしたようだが……そろそろ、タイキ達がくるはずだが」
「やっぱ、呼んだんですか」
「スペシャルウィークのことも心配でな。ゴルシの奴がやらかしたこともあり、こちらに呼んだ。タマが連れてくるはずだ」
ややあって、呼び鈴がなる。オグリキャップが応対した。すると。
「すまんな、オグリン。大人数になってもうた」
疲れた顔のタマモクロス。
「タマ、どういう事だ?」
「こういうことや」
オグリキャップが玄関のドアを開けると、なんと、事前の連絡以上の人数が来ていた。現在の主だった一流のウマ娘の六割以上だ。
「ど、どういうことなんだ?」
「それは私から説明します」
「スズカ」
「実はキングちゃんのの失踪事件で、心ここにあらずの子が増えてしまって。それで、事態を重く見た理事長がしばらくの間、休校にしたんです」
「それで、こんな多くが…」
事前の連絡の有に10倍以上。各寮の年中組以上の主要な生徒が勢揃いであった。これはタイキシャトルのせいで、彼女がはしゃいだため、そこから雪だるま式に人数が増えてしまった。地球連邦軍が急遽、ガルダ級をチャーターしたほどだ。
「先方が骨を折ってくれてなぁ。ウチら以外はガルダ級で運んでくれたんや」
「ミデアは大人数用の作りではないからな。」
人数が多くなりすぎ、ミデア輸送機では運べない。かと言って、扶桑の輸送型大艇『晴空』(二式飛行艇の輸送型)は出払っていたし、自衛隊の輸送機は機甲装備などの運搬中で、とても回せなかった。そこで、機関オーバーホールがされて間もない、超弩級輸送機のガルダ級『アウドムラ』がチャーターされたのだ。21世紀の基準では、まさに怪鳥。あまりの大きさで、21世紀の日本の飛行場の手に余る。当然、東京港湾に着水した。扶桑からの輸入品を運ぶ任務のついでであった。この時に運ばれたものには、扶桑軍で退役し、日本に買い取られた旧式戦車やレシプロ戦闘機の現物の他、扶桑で実働していた『亜細亜号』の車両などが含まれている。日本側にとっては『未来永劫、失われた』代物だけに、大金が関係者に積まれたのは想像に難くない。スポーツも後世の基準に合わせられた改革が行われ、扶桑で有馬記念が創設されるなどしているが、その見返りに日本へ提供された品々が運ばれたわけで、それに便乗させてもらったわけだ。アウドムラの威容は凄まじい。全長300mを超え、全幅は524mを誇る、23世紀初頭時点での『地球最大の大気圏内用航空機』である。
「でも、ガルダ級はいい注目の的じゃないのか?」
「別の任務も『ついでに果たすため』に来たから、表向きはそれで来たことになっとるで」
「それに、クリークも来てもうて」
「なに、クリークが?」
「オグリちゃん。タイシンちゃんの様子が気になって」
「く、クリーク…。しかし、まいったな。どうする?ルドルフ」
「うむ…。この階のそれぞれの部屋に分散させよう。とりあえず、荷物を置かせてもらう。中で繋がっているのが幸いだな」
それから程なくして、ウマ娘達の部屋割りが通達され、仕事から戻ったトウショウボーイが総括指揮を取り、ウマ娘たちは新野比家のあるマンションの野比家保有分の階の各部屋に分散して居候する事になった。その内の野比家の直接管理下のところは、現在における最高のチームに登りつめたスピカのウマ娘及び、野比家と強い関係を持ったウマ娘、生徒会、マルゼンスキーらが住まうことになり、それ以外の部屋にその他のウマ娘らが回された。
――新野比家――
「で……食料作るのに、クリークさんが?」
「うむ。クリークが色々と心配してな」
「……心配性なんだから」
スーパークリークは食事係としての役目を負ったが、元々が世話焼き好きなためと、実家が託児所を営むせいでもある。これはルドルフの先輩の一人で、ルドルフの新人時代に後見人の一人だった『グリーングラス』と似ているという。
「ああいう手合の者は好きにさせておけ。私も新人時代、グリーングラス先輩に似たような事されていたからな」
スーパークリークとグリーングラス。両者の共通点は『大器晩成型』のウマ娘であり、世話焼きであった事、属する世代での最強の一角を占めた事である。
「会長さんも?」
「ずいぶん昔の事だ。マルゼンが若手と言われていた頃だからな」
「あたしがガキ、もしくは乳幼児だった頃か…」
「ハハ、そこまで昔ではないさ。少なくとも、君等が子供の頃さ」
冗談めかすルドルフだが、実際にマルゼンスキーが全盛期の頃、サクラチヨノオーが子供だったというので、かなり昔の出来事であるのは間違いない。タイシンはこの頃には、ノビスケに心を開いた影響で、周囲へかなり温和な接し方ができるようになっており、ルドルフとの会話も弾んでいる。
「タイシン。君は運命を変えることを選んだそうだね」
「ええ。アタシの運命がG1を一勝なら、それを超える。ハヤヒデは理論派で、頭でっかちだから、運命に抗わないのを選んだ。ブライアンに託すって体裁で。なら、アタシは運命に抗う。チケットもそのつもり。ハヤヒデはあの有馬が堪えたのと、怪我をしたからって」
「だろうな。ハヤヒデは未知の理論の実験材料にされたことで、安全牌を取ったつもりなんだろうが……妹の気持ちを裏切った。引退レースはブライアンの出るものに出走すると言ってきたが、ブライアンは下の妹達からの期待もあり、精神的にはかなりカツカツの状態だ。しばらくはブライアンを休ませることにした。幸い、次のG1までには間がある上、ここは平行世界だ」
ルドルフはブライアンを休ませることにしたようだ。ブライアンは平静を装っていても、姉との公の場での対決の機会を奪われた上、自分や姉と違い、才能に恵まれなかった『下の姉妹たち』からの期待を背負わされてしまうなど、意外と本人からすれば、割に理不尽な目に遭っていた。本人は措置で全盛期の走りを取り戻したが、周りはメンタル面のダメージを心配していた。ブライアンは無頼を気取っているが、幼少期は臆病なところがあったのは有名だからで、親類であるナリタタイシンは『虚勢を張っているところがある』と、ルドルフに教える。
「あの子、虚勢張ってるとこあるからなぁ。だから、アマさんに懐いてるのよね。それと、ガキの頃から肉に目がなくて」
「それで、タイキのバーベキューに顔を出していたのか」
「知らなかったんだ、あの子の肉好き」
「本当の意味でチームメイトだった期間は短かった上、奴が出てくる頃には、私はドリームシリーズに行っていたからな。籍はチームに残っていたとはいえ…」
世代は移り変わる。ディープインパクト、キングカメハメハ、ハーツクライ、クロフネらが台頭してくれば、現在の主軸世代の持つ記録の殆どは塗り替えられていく。例えば、マヤノトップガンが塗り替えた記録も、ディープインパクトの手で更に塗り替えられていく運命にある。
「ディープやハーツクライらが出てくれば、我々の世代はお払い箱になるだろう。だが、まだまだ若い者には負けん。ウマ娘は元来、サラブレッド種の特徴を強く受け継いでいるせいで、肉体の絶頂期そのものは短い。だが、絶頂に到達した後は、ひどく緩やかに『落ちていく』。通常の人間より遥かに長く『若くいられる』という種族だ。だが、我々はサラブレッドから進化したという種族の鎖を断ち切った。つまり、全盛期の実力を維持できるわけだ」
ルドルフは選手時代の晩年期に『ウマ娘は馬類が進化した種族であるため、ピーク時のポテンシャルを長くは保てない』という宿命に悩んでいた経験があるため、措置でそれを打破できた事を素直に受け入れていた。ハヤヒデはそのことを疑問に思ったのもあり、そのまま引退の道を選んだ。ルドルフらは対照的に、措置でグンと強化された体をすんなり受け入れ、ドリームシリーズを席巻する道を選んだ。ルドルフもなんだかんだで、ゴールドシップが素直に素質を認めるほどの新入生らに『大きい顔をさせない』ために、自身の往時の実力が健在であることを示したかったのだ。
「新入生、大物揃いだものね」
「ああ…。私達の後にターフを支配していく集団だよ。だからこそ、見せておきたいのさ、90年代以前に名馬と言われた者の意地を」
2000年代以降、ターフを席巻した馬たちがウマ娘となって現れた。それを知ったルドルフは、史実では彼らに淘汰されつつある血統の持ち主として、意地を見せたかったのである。更に言えば、ディープインパクトの後には、エアグルーヴを遥かに上回る能力を持つ『真の女帝』たるアーモンドアイが控えている。
「今はエアグルーヴが女帝と言われているが、近い将来、その称号はアーモンドアイのものになる。私を超えていったのだからな。だが、その前に一花咲かせたくてね」
「ああ、史上最強の牝馬と言われた…」
ルドルフはゴールドシップから、アーモンドアイやコントレイルといった『未来の三冠馬』のことを聞かされていたようだ。また、女帝の異名も近い将来にアーモンドアイへ継承される。
「ところで、ブライアンのニュース、見た?」
「うむ。奴も大それたことをしてのけたものだ。奴も三冠馬の生まれ変わり。それも、サンデーサイレンスの血を持たない者としては、史上最後になる。その宿命に突き動かされたのだろう」
サンデーサイレンス。偉大な種牡馬であり、大まかには、ディープインパクトの父、コントレイルの祖父に当たる。また、エアシャカール、ナカヤマフェスタ、オルフェーヴル、ゴールドシップ、サイレンススズカ、アグネスタキオン、スペシャルウィークらもサンデーサイレンスの血を受け継いでいるため、サンデーサイレンスの血を持つことは90年代後半期以降の時代では、競馬界の超エリートの証である。ブライアンはその血が競馬界を席巻するのが本格化する前の時期に活躍した、最後の『非サンデーサイレンス系の三冠馬』。オグリは一代限りの突然変異とも、祖父の隔世遺伝とも言われ、自身の子からは優秀な者が出なかった。トウカイテイオーの子供も、ルドルフとテイオーの優秀さを持った者は殆ど出なかった。サンデーサイレンス系はその優秀性で、過去の多くの名馬の血統を淘汰している。しかし、かつてのノーザンダンサー系の最盛期がそうであったように、飽和状態になっている。ブライアンはサンデーサイレンスに淘汰されつつある、『ブライアンズタイム』系の血統を持つが故、自らの存在証明を求めているとも取れる。
「…『おばさん』……、つまり、ハヤヒデとブライアンの母さんは……」
「おそらく、前世での父母の双方の役目を担っているのだろう。キングヘイローの母親がそうであるように。おそらく、ブライアンは前世での記憶の覚醒で、下の妹たちが大成できないことを知ってしまったはずだ。それで、ハヤヒデが引退するからな。ブライアンも可哀想なものだ。因果がそこまでも縛るとは」
「ハヤヒデのヤツ、頭でっかちの堅物だから。前はそんな気にならなかったけど、今回ばかりは腹立たしいのよね……」
「ハヤヒデを責めるな、タイシン。彼女は彼女なりに、ブライアンへの償いをしようとしているんだ」
語気を強めるタイシンを諌めるルドルフ。ハヤヒデは前世と同じように、引退の道は選んだが、『償いはする』と明言したからだ。措置で怪我は完治しているが、本人が『潮時』と感じたが故の引退だからだ。
「引退するってのに、どういうことで償いをするってのよ、あいつ」
「私が色々な方面に根回しをしている。引退レースをさせることをね。キングヘイローの捜索はアメリカの警察と『彼ら』、それとメジロ家のコネクションに託す。日本警察の手からは半ば離れることになる。21世紀でのインターポールはあくまで、国際的な警察組織の連絡組織のようなもので、漫画のような、国際的な警察組織ではないからね。だから、地球連邦政府も気を回したんだ」
ルドルフはキングヘイローが日本を出国したらしき形跡があると、地球連邦政府の特殊情報部(プリベンターのこと)から報告を受けており、表向きはインターポールという形で、現地で捜索活動を行うという。
「あいつ……いや、あの人のツテって、すごいのね…」
「故郷の日本軍では、あの年で高官の職にあるし、地球連邦軍の世界でも、相応の相応の扱いだそうだ。彼女もけして万能ではないが、我々の助けに相当になっているのは確かだ」
「前に言ってた、転生の繰り返しと、それに伴うオリンポス十二神の『加護』か……。外国の宗教家とか、歴史家だか……が聞いたら、目ぇ回すよ?」
「どこかの世界で実際に起こったことだ。私達には口を挟む余地はないさ。我々とて、考えようによってはだが、立派な転生者であることには変わりはない。彼女らは日本風に言えば、八百万神。信仰を得る内に、その領域に存在が到達してしまったのだろう。日本ならばの信仰の賜物だよ、タイシン。我々とて、ウマ娘の始祖たる『三女神』をなにかかしらの形で崇めているのだからな」
ルドルフの言う『三女神』とは、ウマ娘世界の過去に存在した『種族の始祖』たる三人のウマ娘。史実で言う、サラブレッド種の始祖である三頭に相当する。ダーレーアラビアン、バイアリーターク、ゴドルフィンアラビアン。その三頭が馬種の性質を強く持ったままで、ヒトとほぼ同様のボディと知性を持って転生したのを以て、ウマ娘という種が始まった。現代のウマ娘たちの祖先を辿っていくと、この三人に行き着くため、ウマ娘世界での歴史のどこかで神格化され、三女神としての信仰が生まれたと考えられる。『ウマ娘たちは走るために生まれた』と例えられるのは、その種の始祖が『サラブレッド種の三大始祖』の転生体であった関係なのだ。
「……確かに」
「我々は先祖代々からして、走るために生まれた。その運命を超えるのも、また一興だ。ハヤヒデは、ブライアンが自分を超える才能を持つことを知っていた。それが、引退の選択に繋がったのだろう。万全の状態で、『病み上がり』のテイオーにちぎられたことで、自分の才の限界を悟ったのだろうな」
「それだけで、ブライアンを泣かせるのは間違ってますよ!!」
「そう逸るな。ハヤヒデは怪我のリスクを気にしていたが、ブライアンに後事を託したのもある。私も負けていないわけではないし、前会長が在籍していた頃は、前会長に泣きじゃくったことも多い。ハヤヒデが引退しても、君等がいる。ターフの上で、今度は君たちが好敵手になればいい。後輩達も時期が来れば、メイクデビューしていく。私やマルゼン、タマモ、オグリらがしてきたことを、君たちがする番だ。私がかつて、前会長らの薫陶を受けたように。私など、エアグルーヴのことに気づけん青二才だが」
自虐が入っているが、エアグルーヴが抱いている好意に気づいていなかったことを、トウショウボーイ(前・生徒会長)に指摘され、テンポイントに電話で叱られたからである。
「上の先輩方に叱られたんですか?」
「恥ずかしい話だが。テンポイント先輩はおっかなくてな。頭はいいんだが、レースが近づいたりしてると、ひどく苛ついていてね。かわいがってはもらったが、怖い先輩だったよ」
ルドルフは新人の頃、その当時におけるトウカイテイオー的な『自由奔放で、天真爛漫』のポジションにあった。その当時の自分から見た『TTGが学園に在籍していた時の生徒会』を回想した。現在におけるルドルフのポジションがトウショウボーイ、現在におけるエアシャカール、ゴルシ、アグネスタキオン、ナリタブライアンを足して割ったようなポジションがテンポイント、スーパークリークの『先代』がグリーングラスである。ルドルフはテンポイントには(レースなどの時は不機嫌になるため)あまり懐かなかったが、かわいがってはもらえたという。また、現役時代から『流星の貴公子』という異名を誇った程のイケメンだったことから、『モテた』という。
「私はグリーングラス先輩のほうが好きだったよ。今のクリークのように、誰にでも優しかったし、大器晩成型だったから、周りに威張ることもなかった。テンポイント先輩は頭脳明晰、容姿端麗ながら、性格は有数に荒かったからな。現在のシリウスのように」
ルドルフは新人の頃、グリーングラスに目をかけられ、彼女が最初のルームメイトであった。要は現在におけるタイシン的なポジションにもいたわけである。その経験もあり、スーパークリークの保護欲の発露を大目に見ていた。
「あの頃は子供だったからな。前会長は私を根気よく、導いてくださった。私が生徒会長の任を全うできたのは、前会長の教えあってのことだ。今度は私が、テイオーにそれをしなければならんがね」
「あんたの後任じゃ、プレッシャーがハンパないって。混乱してるし。あいつ、G1の勝数は四でしょ?」
「テイオーは現役を続ける。そうでなければ、エアグルーヴは自分を認めないって考えている。G1を四勝した者は十数人いるからな…。とは言え、エアグルーヴも『女帝』と言われていても、秋華賞で災難に遭っている。あれさえなければな」
エアグルーヴは、秋華賞の際に災難に遭っている。それはファンが炊いたフラッシュ撮影の光が幼少期の『雷が家の近くに落ちた時の恐怖』を鮮明に蘇がせてしまい、パニックに陥ったままに出走。無様なレースをしてしまった出来事。更に、レース後に怪我が見つかるなど、厄日だと落ちこんでしまったほどで、もし、それさえなければ、秋華賞のティアラはエアグルーヴのものだったという。(史実と違い、桜花賞のティアラは取れている)。
「ああ、あれね。どうして、ああなったんです?」
「それはだな……」
ルドルフがそこまで言いかけた瞬間…。
「会長!!それは――ッ!」
「おわっ!?」
バンと居間へ通じるドアの一つが開かれ、エアグルーヴが顔を真赤にして駆け込んできた。荷物を置いたばかりだったのか、片手にはスマホを持ったままだ。
「噂をすれば」
「タイシン、キサマ!!どこまで聞いた!?」
瞬間湯沸かし器のごとく、湯気が出そうな勢いで怒るエアグルーヴだが。
「まあ、落ち着きなよ。副会長、アンタのそのエピソードは有名だし」
「なっ、なっ、なっ…!?」
「うむ。入学前のアグネスデジタルがその場に居合わせたようでな。それに、当時のスポーツ新聞の一面を飾っていたと思うが……」
「そうそう。アグネスデジタルが証人だし、もう有名だよ?隠す必要ないって」
タイシンもこの反応である。
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
「エアグルーヴ、昔の事でしょう?」
「スズカ……。ドーベルの前で、私は醜態を晒したのだぞ!」
エアグルーヴは桜花賞、オークスを制した(桜花賞を制したことは本人の申告で正式に判明)が、秋華賞では10位という無様を晒している。しかも、自分を慕う後輩の前で。本人に非がない分、悲劇的であった。サイレンススズカが追いかけてきて宥めたが、自分を慕う『メジロドーベル』の前で醜態を晒したことは『人生最大の屈辱であり、恥辱』だったと語るエアグルーヴ。
「君に非はないのだ、エアグルーヴ」
「そうそう。アンタの目の前で強烈なフラッシュ炊いた、どっかのアホのせいで、副会長のせいじゃないって。デジタルも『入学後だったら、土下座させるまで追いかけ回してた』って言ってるしさ」
二人は話の流れに乗り、エアグルーヴを口八丁でうまく宥める。スズカがエアグルーヴを追いかけてきたことに、心の中で大きく安堵するのだった。