ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第三百九話「幕間その52 てんやわんや 3」

――地球連邦軍が扶桑に供与した兵器は艦艇も含んでおり、比較的艦齢の新しいラー・カイラム級戦艦も多く含まれた。これは宇宙開拓時代に移行した後では、波動エンジン艦の需要が大きくなり、ジオン残党の解体が進む時期では『内惑星航行艦』の需要が減っているためである。また、主力艦の機関スタンダードが波動エンジンやフォールド機関へ切り替えられていく時代を迎えたためだ。そのため、ラー・カイラム級はウィッチ世界へ複数が供与された。64Fのラー・カイラムは、ロンド・ベルの先代旗艦かつネームシップを供与され、それを波動エンジン搭載に改装強化したものである。これは轟天と廻天の竣工に伴い、それと隊列を組むためでもある。日本側がそれを通告されたのは、供与後の事だった――

 

 

 

 

――防衛省――

 

「どうして、宇宙戦艦をもらったのを!」

 

「事前に言うと、いちゃもんつけてくるでしょうが。カールスラントからも文句が来てるんですよ、燃料噴射装置などの件で。正式な同盟国ではないのに、風評被害を受けたと。先方のメンツを潰したはいいが、その後のケアをしないから、こっちに技術者がどんどん亡命してくるんですよ」

 

日本は扶桑が供与を受ける話では、事後通告を受けるだけになっていた。ダイ・アナザー・デイの際に、兵器調達で引っ掻き回された教訓によるものだ。

 

「あれはドイツのぼったくりが原因です。徹底的にメンツを潰してやったまでです」

 

「その後は先方は内乱ですよ。ケアくらいはすべきですよ」

 

カールスラントは日本に徹底的に技術立国のブランドを叩き潰されたこともあり、内乱を経験する事になった。愛鷹の一件の賠償金もあり、国家財政が逼迫してしまった事が理由であった。

 

「それは我々の仕事ではないでしょう」

 

日本は史実の日独伊三国同盟が有名無実なものだったおかげで、独系国家へ一種の不信を抱いている。そのこともあり、カールスラントへ冷淡に接し、それに慌てた戦後ドイツが仲介に走るという珍事も頻発した。1949年においては、カールスラントはズタボロになり、皇室もスイス連邦相当の国家に事実上の亡命をするほどに治安は悪化。本心奪還などは夢のまた夢と成り果てた。

 

「我々はドイツに、都合の良い駒としてしか見られなかった。その意趣返しですよ」

 

バダンと歴代の暗黒組織も元を正せば、ナチ残党に行き着く。そのためか、戦後日本はドイツには愛憎入り交じる感情を抱いていた。カールスラントとしては完全にとばっちりだが、『帝政が解体されなかっただけ、マシだと思え』と扱われるほどの身であり、扶桑では同情論が強かった。

 

「それはあなた方にとってのドイツのことでしょうに」

 

呆れる扶桑の駐在武官。カールスラントを追い詰めておいて、後の処理は知らんぷりだからだ。NATO軍は結果として、軍政を引く必要があったし、大量の失業軍人を雇う必要に迫られているからだ。有力な軍人の大半がカールスラントを見捨てて扶桑に移住し、義勇兵として従事している。扶桑の内部では、『自分たちに合わせろと、技術力の優位を理由に、無理強いしてくる』日本への嫌悪を持つ者も多く、アメリカ合衆国や英国が日本に釘を刺すことを外交ルートで頼む有様であった時期もある。戦争が長引いているため、武功章も多数が発行され、授与されているが、日本はこれすら廃止を迫った(自衛隊に合わせろという大義名分で)。しかし、ダイ・アナザー・デイで多数の自衛官が扶桑の金鵄勲章を叙勲されたことで流れが変わり、米国が日本を外交ルートで諌めたこともあり、金鵄勲章廃止論は潰えている。ただし、戦役終了後に一斉授与という形となったため、軍は戦功章を急遽、大量に創設する必要に迫られた。これはミーナに黒江達が冷遇されたのが発端であり、ミーナの凡ミスが結果的に、扶桑軍の戦功章の大量創設に繋がったという皮肉がある。

 

「我々も彼らの無知を利用はしましたが、あなた方ほど冷酷非情ではない。どうかと思いますよ」

 

「勝てば官軍、負ければ賊軍というでしょう」

 

このやりとりに代表されるように、扶桑と日本には温度差があった分野もある。ミーナが故郷の土を数十年は踏まなかった理由は、自国の衰退とその権威の失墜を招いた張本人と見なされたからである。扶桑は結局、ミーナの凡ミスのせいで、人事費が増大する羽目となったが、『現役世代に古参世代が舐められる事がなくなった』ため、結果オーライであった。とはいえ、諸問題は多く残っており、ウィッチの新陳代謝が停滞し、世代交代がなされていなかった。扶桑のクーデターの要因は、江藤を1937年まで記録を遡及しての訓告処分に処した事、志賀を皇居に呼び出して、つるし上げ紛いの査問をしたことへの中堅世代の強い反発であったが、その事への人事的粛清の結果がこれであった。ただし、高練度ウィッチを長く用いることができるようになっていく時代を迎えたため、この当時は大戦世代がまだ青年期であったこともあり、政府首脳を含めても問題視されず、その世代が壮年にさしかかってくる1960年代以降に問題が表面化してくるのである。それを予め、予測していた1949年当時の一部高官達はGウィッチが今後に儲けるであろう、その子孫たちを軍に入隊させることを願う。黒江たちもこれを了承していたが、子の世代は時勢もあり、殆どが入隊せずに終わる。その更に先の孫の世代の時に約束が果たされることになる。そのため、子世代で軍務に服した者は希少とされ、一部は退役後も嘱託で教官職につく。21世紀のウィッチ世界では、大戦世代のノウハウは殆どが失われた(子の世代が軍に入隊しなかったなどの理由で)からだ。そのため、家伝の秘伝書がオークションに出されるなどの事態も多く発生。孫世代はその分も軍務に服する事が世間的にも求められたのだ。

 

 

 

 

――1949年――

 

 

「彼女らは私達の孫世代のウィッチだが、さる事情で手伝ってもらっている。時には影武者を頼んでいるよ」

 

B世界のウィッチ達は、A世界における孫の世代のウィッチと出会った。自分達に『よく似ているが、どこかが違う顔立ち』の者が多い。

 

「どうして、そんなことを?」

 

「この子らの時代だと、技能継承などが上手くいっていないのでね。それで、我々の時代にやってきたのだ。子供の代は軍務を嫌う者が大半だったからな」

 

坂本Aの明言するように、A世界では『1940年代の第一線ウィッチ』の子供世代は反戦運動の華やかりき頃に青年期を迎えたため、『素質はあれど、軍務につかなかった』例が多数派。そのせいで、親世代のノウハウが失伝する事態に陥り、1970年代に社会問題となっている。数少ない入隊組が辛うじて残したものをその次の代が受け継いだが、往時から失われたものが多く、扶桑が長年の研究で独自に開発したタイムマシンを使い、やってきた。ドラえもんのタイムマシンやドラミのタイムマシンを解析し、それを超長期スケジュールで研究開発をしたためだ。実用品として生産されだしたのが、ウィッチ世界の2010年代前半。最高機密でもあるため、軍では、64F関係者以外に使用は許可されていない。

 

「員数外の人員という奴だ。公式な記録には残せない類の」

 

「員数外……」

 

「私達は義母たちを手伝うのも仕事ですが、半分は故郷の時代に、この時代の家伝や秘伝を伝承する役目を負っているのです」

 

「子供世代が継がないだけで、伝承の断絶というのは起きるのか?」

 

「扶桑では『一子相伝の口伝』というものが多いのです。それに、私達はここから、70年以上が経過した時代の人間ですから」

 

70年。だいたい、25年から30年で世代が一個進むため、曾孫の世代であってもおかしくはない。その間に有事があれば、容易に断絶することは想像できる。孫・曾孫世代のウィッチ達は『A世界では、ウィッチの役割が変化したままで21世紀を迎える』事の証明であるため、B世界の芳佳は複雑な表情を見せた。

 

「必要とされなくなったわけではありませんよ、おばあさま」

 

「え、お、おば……!?」

 

「私はこの世界での貴方の二番目の子の娘、つまり、貴方の孫です」

 

「わ、私の孫ぉ!?」

 

芳佳の戦士としての才覚は次子の系統に受け継がれ、長子の系統に医療ウィッチとしての才覚が分かれて遺伝した。そのため、医療ウィッチとしては長子の系列が後継ぎとなり、戦士としての系統は次子の系列が後を継いだ。

 

「この世界では、貴方は二人の子を儲けます。私は『戦士』としての貴方の後継として育てられました」

 

芳佳の孫はそう述べた。この世界で生まれる次子が将来に儲ける子供が自分であり、戦士としての才を受け継いだと。

 

「つまり、宮藤の才能を二人の子が半分づつ受け継ぎ、その更に子供の世代の一人が君なのか?」

 

「ええ。トゥルーデおばさま」

 

「お、おば……!?」

 

「ああ、貴方は母様を幼少から面倒を見ていて、私達も世話になっていますので」

 

「そ、そういうことか…」

 

バルクホルンAは芳佳の子や孫たちの面倒をよく見る事になり、その関係で家族ぐるみの付き合いとなる。退役後も顔を出しているとの事。

 

「ねー、あたしは?」

 

「ああ、今はいませんが、ウルスラさんのお孫さんが後を。貴方は独身なので、直系の子孫はいません」

 

「そ、そうなんだ~…」

 

ハルトマンBは自分に直系の子孫がいないのを聞いて、がっくりしたようだ。

 

「恋バナなかったの?70年も時間あって」

 

「あったんですが、相手に意中の人がいましてね。それもあって、21世紀でも独身ですよ」

 

エーリカはダイ・アナザー・デイ当時に、剣鉄也に仄かな思いを抱いたが、剣鉄也は当時の時点で炎ジュンと婚約済みであったため、失恋に終わった。それ以降は独身を貫き、家は妹のウルスラが継ぎ、その子孫らが21世紀まで続いている。エーリカの才は姪と大姪が継いでいるという。

 

「21世紀では、私達も老婆に成り果てているだろう?」

 

「ところが、この世界でのあなた方は特別な存在になっていまして…。これを。2010年に実家で撮った写真です」

 

「……何!?ふ、服装以外は現在と変わりないだと!?」

 

日付は2010年のある日。エーリカの家で撮られた写真だが、服装以外は現在と変わりない姿のバルクホルン、エーリカらが写っていた。2010年なら、普通に加齢していれば、(生きていても)90代の老婆になっているはずの年代だが、この時代と変化がないのだ。

 

「あなた方は歳を取れなくなり、また、『死ねない体』になったのです。所謂、不死というものですね」

 

「どういうことだ!?」

 

「神に愛された……としか申しようがありません」

 

「人々が英雄の存在を信仰した末の結果であるので、ある意味では理想ではありますが」

 

『それ』はある種の『軍神』的な恩恵ではあるが、『不老不死』が思わぬところで実現してしまったために、色々な面で苦労が出てくるのは仕方がない。本人の意志と別の次元で、世界が不滅を願ってしまったための結果としての『神格化』なのである。

 

「あなた方は人々の信奉を集めた。それがいつしか、貴方方の存在そのものを変えた。古来から、扶桑では何でもかんでも拝む文化がありますが、その実例ですね」

 

「馬鹿な、そんな事が現実に」

 

「この世界の母様の姿が、1937年から変化がまったくないのに、おばさまはお気づきになられましたか?」

 

「そういえばそうだな。我々の世界の黒江少佐の顔つきは大人びている。だが、この世界の彼女は……我々より若いくらいの姿を保っている」

 

「あの人、本当は何歳なんですか?」

 

「この時点では20の後半で、世間的には結婚してていいくらいですよ、宮藤のおばさま」

 

「20の後半!?」

 

「あくまで、戸籍上の年齢ですが。肉体的には、15歳前後のままです。そこで成長が止まっているのです」

 

「何故だ?」

 

「10代半ば~18までが、ヒトの肉体の能力値、それと、『鍛えた場合の伸び代』がもっとも高い時代』だからかもしれません」

 

黒江達は10代半ばから後半時の肉体を維持しているが、なぜ、肉体が完成される20代ではなく、未成熟な10代なのか。それについての議論はGウィッチが公職を退いた後の時代で、偉い学者達がしているが、実際のところは単純なものだ。

 

「私達は直接的、あるいは間接的に本人達と血縁がありますので、その性質を受け継いでいます。それ以後に生まれた者たちはなにかかしらの加護を受けるようで。もちろん、公にはしておりません。色々な兼ね合いがありますからね。特に、西洋では」

 

Gウィッチは人類の夢をある意味で叶えてしまったが、十字教などを拠り所にする者達の倫理観とは相容れないであろう存在(吸血鬼が穏やかに暮らすフィクション作品でも、たいていは『隠者』として描かれるようなもの)であるのを自覚しているため、戸籍年齢が『隠居する』年代に達してからは『隠者』としての生活をしていることも暗に示す、孫世代のウィッチたち。複雑怪奇かつ、色々な意味で、人という存在を超えてしまったが故に生ずる困難を背負った事、人々を守り続けることを未来永劫、義務として課されたかもしれないということの重大さ。年長組のウィッチはその意味の大きさを理解した。Gウィッチが直面しているものがなんであるかを。ある意味では、B世界の年長組ウィッチこそ、Gウィッチの真の使命を最初に真の意味で理解した第三者であるのかも知れない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ウマ娘たちもある意味では、元になった『競走馬の運命』に縛られた存在である。メジロマックイーンやサイレンススズカに選手生命に関わる怪我が起こること、トウカイテイオーの骨折が何度も起こること、オグリキャップの現役時代、彼女のライバルと目された者たちがオグリ自身よりも先にターフを去っていったこと。その運命を知った者たちが運命を超えることを目指し始めるのは必然であった。そして、ルドルフ以前の世代のウマ娘たちの存在がクローズアップされだすのも――

 

 

 

「ほう。腕を上げたな、マルゼン」

 

「さすがは先輩。私のトップギアについてこれるなんて」

 

マルゼンスキーはトウショウボーイの一期後輩であり、順調にシニア級に進めていたのなら、その前世代の筆頭であり、一時代を築いた『TTG』(彼女らが、後に当代屈指のウマ娘の三人を総称して『三強』という概念を定着させたため、後の平成三強、BNWらとは別格扱いである。)

相手に対等に渡り合っていただろうと謳われている。これは競走馬としてのマルゼンスキーの生き様とほぼ一致しており、本人も薄ら寒い思いをしたのは言うまでもない。『処置』で全盛期の能力を気兼ねなく発揮できる状態になったマルゼンスキーの能力は全盛期のトウショウボーイとほぼ同等であり、本調子でないエアグルーヴとは差があった。

 

「エアグルーヴ、大丈夫?」

 

「病み上がりなので。こちらに気を使わないでください、マルゼンさん」

 

気丈に返事を返すものの、ルドルフが慕う偉大な『前・生徒会長』の前で本調子を見せられない事が相当に口惜しいようである。しかも、マルゼンスキーとトウショウボーイは『境地』とも『領域』とも呼ばれる状態に入っているが、通常考えられる超集中状態と異なり、バトル漫画のようなパワーアップ状態に近い。(トレーナー達は『漫画のような能力向上ではなく、潜在能力の瞬間的解放』と解釈しているようだが、明らかに通常の限界能力を超えるわ、オーラが出ていたりする)その状態の二人に追従できている点で、エアグルーヴ本来のポテンシャルはうかがい知ることはできる。

 

 

――やがて、街を貫く一直線の大通りに出たマルゼンスキーとトウショウボーイはほぼ同時にラストスパートをかける。マルゼンスキーも相手が相手なこともあり、普段の余裕ぶった態度は微塵もなく、必死の形相になっていた。トウショウボーイは微笑みを浮かべ、久しぶりのレースを心から楽しんでいた。その様はミスターシービーによく似ており、前世での関係(親子。トウショウボーイが父、ミスターシービーは子である)を思わせた――

 

『カイチョーが加速した!!ここでやる気!?』

 

ルドルフは思わず、新人時代に戻ったような口調になる。自身が憧れた『天馬』が蘇ったからだ。よく考えてみれば、この時点では彼女も『元・会長』になるし、現任者はトウカイテイオーであるので、ルドルフの素はテイオーに極めて近いものだったことを衆目に示している。そのテイオーは自分と同じような口ぶりをルドルフがしていることへの感激のあまり、鼻血を出すほどに絶頂の心境であり、サイレンススズカが介抱する始末であったが。

 

『トウショウボーイ、マルゼンスキー!!時代時代で最強を謳われしウマ娘の意地を見せるか!?』

 

いつの間にか、弁当売りから戻ったゴールドシップが即興で『どこかで聞いたような』実況中継をおっ始める。最後の直線は殆ど同列。写真判定は確実であった。

 

「おい、タマモ!!写真判定の準備は!」

 

ゴールドシップも思わず怒鳴るような声で問いかける。

 

「準備万端や!」

 

それに平常運転で応えるタマモクロス。

 

「……来るぞ!!」

 

オグリキャップ、イナリワンが叫ぶ。スパートをかけたマルゼンスキー、トウショウボーイ。この二人の疾さはまさに『ウマ娘としての最高峰レベル』であり、スパイ衛星の計測によれば、二人の最盛期における限界速度値とほぼ一致していた。

 

 

(スペちゃん、チケゾーちゃん!!あなた達が私の前世での子孫なら……、私に……トウショウ先輩を抜く力を!!)

 

マルゼンスキーは心の中で叫ぶ。ウマ娘として自分を慕い、競走馬としては自分の血統を後世に紡いだ二人の名を唱え、トウショウボーイを抜く気力を絞り出そうとする。マルゼンスキーが必死になることは、現役時代や引退後を通してもめったになかったが、この時は完全にクラシック級のウマ娘であった頃の心境に戻っていたため、スパイ衛星の映像越しに応援するスペシャルウィークとウイニングチケットが驚くほど、本気の顔をしていた。トウショウボーイがそれほどのウマ娘であるという事の証明であった。

 

「うぉぁあああっ!!」

 

マルゼンスキーが外聞をかなぐり捨て、真の意味で、ウマ娘としての原初の欲望、本能である『勝利への渇望』をむき出しにして叫ぶ。スペシャルウィークとウイニングチケットも固唾を呑んで見守り、ひたすら祈る事しかできない。

 

「フッ。それが……、お前の本当の姿か。敬服するよ。だが、こちらも『生徒会長』の座にあったという事は伊達じゃない!!」

 

トウショウボーイは最終加速をする。敢えて溜めていた脚を最後の最後で解放したのだ。これにマルゼンスキーは顔色を変え、動揺する。

 

「嘘!?先輩は……先輩は……追い込み型じゃ……!?」

 

「私の現役時代から、何年経ったと思う?グラス(グリーングラスのこと)や、テンポイントと戦う内にセンスを磨き、引退後にシービーを鍛えた。そのシービーと同じことを、ヤツの『師』でああり、従姉の私がやれない道理など……ありはせん!!」

 

そう豪語してみせ、マルゼンスキーの前に出始めるトウショウボーイ。実力伯仲の二人だが、マルゼンスキーには決定的に欠けるモノがトウショウボーイにはあった。それは『切磋琢磨する好敵手』の存在。マルゼンスキーは同期とあまりに差がありすぎた結果、走ったレースはいつも横綱相撲に近い状態。マルゼンスキーの属する期のクラシックレース優勝馬もマルゼンスキーからは格落ちと言われるほど。一方のトウショウボーイは『当代最強の一角』と言われたが、同期のウマ娘たちもレベルが高い期であり、彼女自身も『クライムカイザー』、『グレートセイカン』に敗れたことがある。また、テンポイント、後にグリーングラスが彼女の友であり、好敵手として君臨し、一時代を築いた。『敗戦の経験の有無』と素のスタミナの差が勝敗を分けた。

 

「マルゼン、私の――」

 

トウショウボーイが前に出る。マルゼンスキーは息を切らしつつも、必死に脚を前に出そうとする。だが、マルゼンスキーの脚は限界に達し、マルゼンスキーの想いについてこれなくなっていた。

 

(スペちゃんとチケゾーちゃんの前で……いかないのに、いかないのに……!!どうし……!)

 

無情にも、マルゼンスキーはトップギアを長時間維持したために、ゴールが目の前のところでスタミナ切れとなってしまった。視界がグラリと歪み、まっすぐ走れなくなっている。スペシャルウィークが青ざめ、ウイニングチケットも『そんな……』と半ば絶望した表情であった。トウショウボーイは勝負師としてのけじめとして、マルゼンスキーをきっちり負かす。

 

 

「――勝ちだ」

 

静かに、ゴールでそう言い放つトウショウボーイ。ルドルフは双方と深い関係があるため、複雑な気持ちになるが、『天馬』が健在であることは嬉しくもある。マルゼンスキーの敗因も悟っているようだった。

 

「スペちゃんとチケゾーちゃんの前で、かっこ悪いところ、見せちゃったな……」

 

肩で大きく息をつきながら、敗北に打ちのめされるマルゼンスキー。スペシャルウィークとウイニングチケットは励まそうとするが、ゴールドシップが止める。

 

「ゴールドシップさん…!

 

「そーだよ、ゴルシ!!どーして!」

 

「……今は、そっとしておいてやれよ。あの人にとっては、これが初めての負けなんだ」

 

「え!?」

 

 

マルゼンスキーのプライドなどを理解しているゴールドシップはマルゼンスキーの心の強さを信じ、二人が安易に声をかけるのを止めた。非公式なレースとはいえ、マルゼンスキーにとっては生涯で初の『敗戦』なのだ。そのショックは計り知れない。

 

「それは本当だ。マルゼンは現役時代、無敗のままだった。君たちが見ている前で負けを晒す事は堪えるだろう。だが、奴は怪我でシニア級を走れなかった。それに比べれば、この程度の負けなどは軽いものだ」

 

「……会長」

 

「直にエアグルーヴくんがゴールする。全てはそれからだ。スペシャルウィーク君、ウイニングチケットくん。マルゼンに私が勝てたのは、スタミナの差だ」

 

「どういうことですか、えーと、前の会長さん?」

 

「スタミナって?どういうことなんですか?」

 

「奴は母上のニジンスキーさんから、長距離に対応できるだけのスタミナをもらったが、それを実戦で用いる機会はなかった。能力値を全盛期に引き戻したとしても、勝負カンのズレは実戦で走ることでしか戻せない。私も危うかったが、私は有馬記念を一度は勝っている故に、スタミナで勝っていた。土壇場で最終加速をかけられたのは、そのためだ。あいつがカンを完全に取り戻せば、今度は負けると思う」

 

トウショウボーイはミスターシービーによく似ているが、雰囲気はまるで違う。ルドルフの先代の生徒会長だけのことはあり、マルゼンスキーの敗因をわかりやすく説明してみせ、健闘を称える。

 

「先輩……」

 

それを聞いたマルゼンスキーの表情が明るくなる。

 

「お前も先輩になったのだろう?なら、この子達を悲しませるな。一回の負け程度で、この世の終わりのような顔をするなら、お前を『いっぱし』とは、まだ扱えんな」

 

シービーを思わせる、いたずらっ子のような表情でマルゼンスキーをからかうトウショウボーイ。泣きっ面へ見事なデコピンをしてみせる。

 

「……痛っ!!み、み、み……みんなの見てる前で、昔みたいな子供扱いはやめてください!!あの時より、私も大きくなったんですから~!きーてまーす!?せぇんぱーい~~!!うわぁ~~ん!!」

 

ふくれっ面かつ、泣きっ面になるマルゼンスキー。トレセン学園在籍中のウマ娘では、現状の最古参である彼女も、更に前の世代のウマ娘がいる場では『一介のウマ娘』に立ち返るのである。トウショウボーイはマルゼンスキーをも子供扱いできる資格があり、なおかつ、ルドルフやシリウスらの世代の入学当時における生徒会長。それに恥じないだけの実力を持つ。このレースで『前の世代は現世代に劣っているわけではない』という事を示すこととなったトウショウボーイであった。

 

 

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