ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第三百十話「幕間その53 てんやわんや 4」

――ウマ娘の世界では、多くの世界では遥か昔に絶えているアイルランド王家が存続しており、その王家に偶発的に生まれたウマ娘が、ファインモーションである。その兼ね合いで、ウマ娘でありながら、アイルランド王家の継承権を有する。なお、国そのものは史実同様にイングランドに飲み込まれているため、王家のみがイングランド王家に連なる家系として存続したらしい。その一員であるため、下位ながらも、イングランドの王位継承権を持つ――

 

 

「そうか、この世界だと、ファインモーションの実家は存在しねぇのか」

 

「正確には、イングランドの一部になって久しいから、絶えてるらしいわよ」

 

「自衛の剣術か、タイシン」

 

「まーね」

 

白熱のレースから一夜明けた日。ナリタタイシンは『いざという時』に備えての護身術の一環として、格闘術を会得しようとしていた。ウマ娘はアイドル扱いである側面があるため、古今東西のアイドル達が苦悩してきた『追っかけ』や『ストーカー』と無縁ではない。そのため、ウマ娘達は何かかしらの自衛手段を持つことが推奨されており、トレーナーも男性の場合は老齢でもない限りは『ウマ娘の蹴りに耐えられる肉体を持つ事』が推奨される。これはトレーニング中の事故を避けるためで、スピカのトレーナーも、実は大学時代からジムに通っており、トレーナー就任後もゴールドシップの蹴りを何度も受けたため、実は何気に頑丈である。

 

「でも、日本刀まで、なんでこんなにあんの?」

 

「色々な世界に日本の軍刀は売れんだとさ。切れ味いいし。名刀が戦場で行方不明になる事はザラだし、それに悩んだ、あいつの故郷が未来世界に依頼して、大量に作らせた実用品だそうだ」

 

五式軍刀。扶桑が採用した軍刀の最終型である。ウィッチ世界では、ウィッチが『魔力の伝導が官給品より良いから』という理由で、先祖伝来の名刀を戦場で使うという事例が当たり前である(智子もその一人)。それを懸念した扶桑軍の当局と日本の防衛省はダイ・アナザー・デイの直前、黒江や智子が特注で作らせていた『エネルギー転換装甲材+超合金ニューZ系の素材の軍刀』の正式な量産要請を出した。同時に、将校用の軍刀も『兵器』扱いに改めた。これは名刀を使わせないためだったが、階級に見合う軍刀を自弁調達する必要があった扶桑軍の将校達はこれに反発した。とはいえ、素材の関係で、旧来の日本刀より遥かに怪異に有効な事は証明されていたため、昔気質のエースパイロットたちに好まれた。だが、1945年当時には『刀剣で戦えるウィッチ』は数が減少しており、軍が見込んだ数は前線に流通しなかった。1949年の時点では、ウィッチも『儀礼目的で帯刀する』事が多数派。実戦で用いるケースは『昔気質の古参世代か、エースパイロットの道楽』と見なされていた。余剰分は野比家に備蓄されており、その中の一振りをタイシンが見つけ、グラスワンダーが薙刀を持つように、タイシンは日本刀を持ったわけだ。

 

「飛天御剣流か。筋肉量の少ない常人が使えば、肉体にダメージが溜まっていくが、あたしらなら、肉体面の問題はないからな」

 

ゴールドシップはそう感想を漏らす。ウマ娘は基本的に、筋肉量などは普通の人間の比ではない。その関係で、緋村剣心が突き当たったような『飛天御剣流の使用に伴う、肉体そのものへの拭いようがないダメージ』の問題はない。飛天御剣流は『常人より多少鍛えた程度かつ、小柄な体躯』の人間が扱えば、10年程度で技を使えなくなるという事実があるが、そもそもの筋肉量が桁違いに多く、更に、G1レースで好成績を収めるまでに鍛え上げたウマ娘であれば、その使用に制限はない。

 

「普通の人間じゃ、この剣術に耐えられないって。下手な人間が無理して使えば、『持って』10年くらいしか使えないでしょうね」

 

「そういう例があるからな。あいつも言ってたが、この剣術は『だいぶ鍛え上げた後で、手を出した』って。素で条件が整うまで、時間を費やしたんだろうさ」

 

「超人的な跳躍に耐えられる柔軟性、理想とする疾さに必要な脚力、攻撃を見切る反射神経と動体視力。それを全部満たす人間がガチでいるの?」

 

「歴代の伝承者が少なくとも、13人はいるからな。しかも初代は、戦国時代の人間だっていう話だ。戦国時代の人間からすりゃ、この剣術の伝承者は鬼に見えたかもな」

 

「言えてる」

 

飛天御剣流は一子相伝だが、話に聞いただけで、エーリカ・ハルトマンが会得してしまっており、彼女が記録したノートが非公式(比古清十郎の預かり知らぬところなので)の秘伝書という形になっていた。そのノートの更に写しを見つけたのが、ナリタタイシンである。ゴールドシップはその会得に協力しており、タイシンも主にゴロツキの持ち出す『学園都市製パワードスーツ』の破壊などに使うつもりであった。

 

「グラスが薙刀を持ってるのと、同じようなもんって言い訳、通ると思う?」

 

「ライスの勝負服には短剣ついてるし、グラスは薙刀を振り回してんだ。たぶん通るだろ」

 

と、ゴールドシップはいくつかの例からの憶測を口に出す。そもそも、薙刀は熟練者の手にかかれば、強力な武器となる。そこを鑑みれば、日本刀も充分に審査に通るだろう。

 

「でもよ、お前。勝負服を外にそのまま着ていっても、違和感ないよな」

 

「子供の時、ストリートファッションに憧れててさ。それで、勝負服をそういうデザインで発注したんだ。うち、花屋しててさ。母さん、いつもエプロン姿だから、ガキンチョの時は不満に思ってた。うちらが子供の頃に流行ってたストリートファッション風にしたんだよね」

 

ナリタタイシンの勝負服は、2000年代前半期くらいまでのストリートファッションにとても良く似たデザインである。ゴールドシップは『そのくらいの時期に、タイシン世代は子供だったんだろう』と話している。ゴールドシチーが最先端のモードを着こなし、モデルを兼務していることを考えると、ファッショナブルであるものの、タイシンの憧れなどが投影されていると言っていい。背丈は多少なりとも成長したため、150cm後半台に成長している。(今までは、145cmしかなかったという)そのためか、以前と違い、子供に間違えられる率はグンと減っている。

 

「でもよ、良かったな。身長が伸びて」

 

「なんか、急に伸びてさ…。着せ替えカメラで誂えなきゃ、着る服がなくて。まさか急に…」

 

「ま、アタシが着せ替えカメラを借りといて、正解だったろ?」

 

「何と引き換えで?」

 

「どらやきを数週間分。ドラえもんの奴、どらやきを三日くらい口にしないとよ、薬切れの患者みたいに、禁断症状出るんだよ」

 

「どういう人工知能なのよ。禁断症状まで出るなんて」

 

「殆ど、ゴーストを宿らせたも同然の代物だからな。それ故に『ロストテクノロジー』なのさ。プログラミングだけじゃ、説明がつかない『個』を持ってるし」

 

ドラえもんらの人工知能の基礎技術は量子コンピュータとされるが、プログラミングの高度さだけでは説明のつかない事が多い。特に、のび太の成長と共に起こる感情の揺らぎにも楽々と対応したり、本来の用途外の『戦闘』でも場の指揮を取れたり、完全に『ドラえもん』という存在を確立している。恐るべきことに、ドラえもんは『ごくありふれた』量産型の子守ロボットの一個体であり、ドラえもんズのような『特別な特徴』を付与されていたわけでないのだ。

 

「恐ろしーことに、あいつは高級品って括りだけど、ジムとかザクと同じ『マスプロダクト』の一製品だぜ」

 

「嘘ぉ!?特注のハンドメイドじゃないの!?」

 

「ドラミちゃんは特注だけど、ドラえもんは本当に量産機の一個体。地球連邦に残ってる、未来デパートのマツシバ工場に関する記録だと、2112年の九月三日に製造された二体目らしい。そこで落雷に遭って、ネジが何本か抜けたそうな。それがあいつの『自我』の確立のきっかけの一つだとよ」

 

盛大に腰を抜かすタイシン。ドラえもんがあまりに自我を確立させているため、特注のハンドメイド品かワンオフモデルだと思っていたらしい。実際はジムやザクと同じ位置づけなのだ。

 

「2125年には、あいつの功績を称える意味で、あいつの分類『猫型ロボット』の後継機種『スーパードラえもん』が開発されている。そいつが実際に、市場に流通したかは記録が残ってないそうだが」

 

 

のび太の書斎にあるPCを操作しつつ、その情報をタイシンに見せるゴールドシップ。接続先のネットワークは未来世界で『宇宙完全大百科』の情報衛星を修繕し、それを基礎に再建された『宇宙開拓時代のインターネット』。正式名称は『銀河ネットワーク』。一年戦争で情報技術を意図的に退化させた結果、第二次世界大戦のドイツと同様に、国が『大衆を意図的に熱狂させやすい』環境を作ることで、ザビ家やティターンズなどの跳梁を招いたことを反省した情報技術者たちが復興させたものだ。デザリアム戦役直後の段階では、タキオン通信とフォールド通信の併用ネットワークで『タイムラグなく、天の川銀河の地球連邦勢力圏内の流行やニュースを知れる』というところまでに拡大していた。フォールド通信のみでは、通信の遅延が起こる環境が存在したが、タキオン通信であれば、問題はない。これもイスカンダル星、ひいてはその源流である『古代アケーリアス』の有した超高度なリアルタイム通信手段である。

 

「あんた、どこのネットに…」

 

「え?未来世界のネット」

 

「はぁ!?」

 

「タキオン通信だから、時代が違っても繋がるんだ、これが。」

 

「あれ?基本はうちらの時代と変わんないじゃん」

 

「規模が天の川銀河に広まっただけで、基本は21世紀のインターネットから変化はないぜ。時代相応にフルダイブ型のゲームもあるらしいが、一年戦争の時、過激なスペースノイドに目の敵にされたらしく、一時はアングラに潜ったんだそうな」

 

「なんでよ?」

 

「ジオン系の人間は嫌うんだよ、21世紀の先進国型の生活規範を。理想にしてるのが、80年代くらいの『ちょっと古い』時代の風景らしいからな。スペースコロニーで過ごすから、軍関係以外を管理しやすいようにしたかったんだろうさ」

 

ギレン・ザビが演説で『21世紀の情報化社会を怠惰と切り捨て、スペースノイドの自立心を育てるため』と謳い、M粒子の軍事利用で衰退をするであろう『インターネットネットワーク』に別れを告げさせると述べたとも伝えられるが、実際はジオンも軍事上の必要から、2000年代前半水準の軍事ネットワークは維持・運用していたし、占領地には旧来のインターネットインフラの代替という名目で、一定程度の民生サービスを提供していた。とはいえ、ジオンの『戦争に勝つために、旧来の情報化社会の歴史を切り捨てる』選択に多くの情報技術者・電子技術者が疑問を抱き、ジオンの敗戦後直ちに、彼らが一斉に『M粒子散布下でも運用できる広域ネットワーク』の研究を初めていた点からも、その正当性は消え失せている事がわかる。統合戦争の悲劇を知っている者ならわかるが、『技術の恣意的な封印』は過ちそのものだからだ。

 

「だけど、宇宙開拓期には、そんな独りよがりな考えは通じないだろ?その結果がこれだそうだ。あたしらが口を挟む余地はねえが、そういう争いごとが『どこかで起こった』って事は覚えとけ」

 

「まあ、大多数は今まで通りの生活を望むだろうから。で、その時代、オーストラリアはどうなったの?」

 

「お前も見たと思うが、ブリティッシュ作戦のせいで、どでかいクレーターが穿たれた。爆心地のニューサウスウェールズ州を殆ど抉り取るくらいのな。10キロの地殻を貫いて、造山運動も起こったくらいの破壊力だ。オーストラリア地域は経済の中心と旧・首都をいっぺんに失って、地球連邦での地位を喪失した。臨時州都はアデレードだが、造山運動まで引き起こした代償に、オーストラリア地域は無人地帯のほうが多い辺境に堕ちたそうだ」

 

オーストラリアはシドニーとキャンベラという、地域国家時代の主要都市が消滅させられた事で、地球連邦内部での地位を失ってしまった。地球連邦軍の現地における最大の基地『トリントン基地』が『辺境の一地方基地』としか見なされていない点からも、オーストラリア地域の価値低下が伺い知れる。

 

 

「コロニー落としや、隕石落としの生態系へのダメージはコスモリバースシステムでなんとかなったが、地殻とかへのダメージはどうにもならなかった。あの世界の地球は、栄えてる地域は指で数えたほうが早いな。地球連邦の首都も月に移動してるし」

 

アジア地域は比較的に戦火が及ばなかったため、往時の面影を比較的に残す。香港などにマスドライバー施設を抱えていた関係で、ジオンも大規模侵攻は控えたのだ。とはいえ、チベットのラサは吹き飛んでいる。その関係で、比較的に安全な土地である極東の東京、香港などの地域に生き残った人々が集まる事になり、地域人口が五年ほどで飽和状態に陥ったため、フォン・ブラウンやグラナダなどへの移民を進めている。

 

「原因は戦争か……」

 

「地球人同士のいざこざだけじゃなくて、本物の宇宙人との生存競争もしてきてるからな。東京がよく残ったもんだ」

 

地球は何度も地表を焼き払われているが、日本連邦時代の研究成果で『ジオフロントを大規模に維持していた』日本州は奇跡的に、往時の主要都市が健在である。その関係で、一年戦争後からしばらくは『地球連邦議会の所在地』であったが、地球連邦そのものの組織再編の際に、首都の座をフォン・ブラウン市に明け渡している。

 

「どうやって」

 

「都市がある地表まるごとを、ある時代から改造して、数十年で『都市部を地下に退避できるようにしてあった』んだ。元は米中の核戦争に備えての用意だったらしいが…」

 

山間部を除いた都市区画を地下へ退避できるようにしてあった日本州は、有事運用の地下都市も機能が充実しているため、ガトランティス戦役以降は『地球連邦政府の近場の退避所』と扱われている。旧世界の主要都市の大半が戦乱で荒廃していった中、往時の姿を留める東京は『アースノイドの誇り』である。とはいえ、それも完全ではない。統合戦争で破壊された地区もまだ復興されてないからだ。また、電気自動車は日本の寒冷地などでは結局はインフラ整備の面で普及せず、内燃機関車が生き残っている。移民星が化石燃料を輸出してくるようになったため、枯渇間近とされる地球の化石燃料に頼る必要がなくなったのだ。

 

「それに、電気自動車も日本の寒冷地とかじゃ、バッテリーのインフラとかの問題で普及しなかったから、昔のガソリン車を騙し騙し使ってるらしい。で、移民星の輸出品で燃料を賄えるようになったから、好事家は大喜びだそうだ」

 

「あー…。って、宇宙戦艦造れる時代になっても、そこは変わんないの?」

 

「バッテリーの構造的問題と、日本は水素自動車とかを模索してたからな。結局、両方ともがガソリン車を駆逐できなかったオチだそうだ。電気自動車はバッテリーを使い込むと、どうしても劣化して、航続距離が減る。それを日本は嫌ったのさ。で、水素も結局、安全性への懸念で電気自動車に勝てずじまい。だけど、レースとかで面白みがなくなったから、空のレースに人気を奪われた」

 

23世紀世界では、往年のガソリン車のスーパーカーなどを用いた『クラシックカーレース』が人気になる一方、電気自動車に移行した有名なカーレースは『静かすぎる』などの理由で人気を失っていき、バンキッシュレースが代わりに隆盛している。ジオンは電気自動車の娯楽すら『技術の無駄遣い』と断じていたため、真っ当な方向性の技術者からも顰蹙を買い、一部のマッドサイエンティストなどが暴走しやすくなった。アプサラス、グロムリン、ビグ・ザム、ザクレロなどの機体がどんどん生み出された理由でもあった。ジオン系勢力の殆どが南極条約を破っていることも、ミネバ・ラオ・ザビが地球連邦との交渉で主導権を取れず、サイコフレーム研究の全面的封印が否決される原因となった。

 

「何事も、単純な技術で解決できない問題はあるかんな。ジオンって国がゲテモノの大型兵器を造って、一騎当千を目論んだけど、結局はガンダムに倒されていったみたいなもんだし、第二次世界大戦のドイツ陸軍の戦車とか、日本海軍の戦艦みたいなもんだよ」

 

「まぁ、何事も一長一短。アメリカも湾岸戦争まで、第二次世界大戦末期の戦艦を使い倒してたって、本で見た気するし」

 

「そういうもんだよ。新幹線やリニアモーターカーが走っても、昔の蒸気機関車が観光用に運転されてるのと同じさ。多機能の家電も、10年未満でどっかが壊れんだろ?単純な方が持つんだよ。走らせようと思えば、昭和初期までのクラシックカーを動かしたり、昭和の頃の古い機械を直すだろ」

 

「ゴルシ、アンタ。そういう経験あるの?」

 

「実家の連中、物持ちいい上に、道楽屋が多いんだよ」

 

ゴールドシップは『実家のこと』に軽く触れる。トレセン学園上層部でさえ、ゴールドシップの実家の事はよく分かっていない。また、口ぶりから、家電の修繕を自分達でやろうとする『専門知識持ち』が多い上、古いものを好む好事家の気質らしい。

 

「アンタ、溶接とかしてるけど、そういう知識あんの?」

 

「親父やオジキに仕込まれた。メジロの遠縁だけど、家は裕福じゃなかったからな。メジロの本家に把握されたのも、アタシが本家に遊びにいった時だし。今は、将来にメジロアサマおばあさまの遺産が分配される身だけど」

 

「マックイーンのおばあさん、そんな名前なんだ」

 

「若い頃は今のマックイーンに似た姿で、天皇賞を勝ったそうだ。ただ、子供がいまいち大成しなくて、何番目かの子のメジロティターン……この人がマックイーンのママだが、天皇賞を勝ってる。だから、孫世代のマックイーンに期待がかかったんだ。もっとも、マックイーンはメジロお抱えの病院で生まれてないから、おばあさまはライアンのほうを可愛がってたそうだがな」

 

「なにそれ」

 

「ティターンママは、なかなか子を産めなかったんだよ。それでおじいさんの存命中は睨まれたらしいが、おじいさんの遺言が『ティターンの子で天皇賞をとれ……!』だったことで、お互いのわだかまりが氷解した。マックイーンはそんなこんなで色々なもんを背負わされた。だが、前世のあいつは再起不能の怪我で引退してる」

 

「えーと、繋靭帯炎…だっけ」

 

「そう。会長さんもそれで、選手生命に終止符を一旦は打たざるを得なくなった。お前の屈腱炎と並んで、ウマ娘と競走馬のガンだ」

 

「会長もかかってたの…?」

 

「最後のレースで発症した。テイオーには黙ってるけど、あの人も相当に取り乱したってよ。アメリカ遠征中での事らしい。だから、処置を受けたんだよ」

 

ウマ娘は種族的には『人型に進化した馬類』であるためか、馬が起こす怪我を発症してしまうという難点を持っている。その中でも、悪性の腫瘍に等しいほどに恐れられているのが『繋靭帯炎』と『屈腱炎』。前者はシンボリルドルフ、メジロマックイーンの前世における引退の原因、後者はタイシン、ブライアン、ウイニングチケット、ビワハヤヒデ、マヤノトップガン、フジキセキなどがかかる、あるいはこれから起こす因子を持つ。

 

「ウマ娘になっても、怪我で引退するケースは多いからな。ブライアンは、関節炎で全盛期の能力を失ったところに追い打ちだ。それで、引退レースもできなかった。その事があるから、この間のニュースになったことをしたんだろうさ」

 

「あいつはコンプレックスが?」

 

「…ああ。自分の後の歴代三冠馬が華々しく引退レースで勝っていったことに、強いコンプレックスを抱いてんだ。無頼を気取ってても、実のところは悔しいんだろうさ。それに、あいつの親戚にトレセン学園での影武者を頼んだそうだ」

 

「待って、まさか……あいつじゃ」

 

「ほら、お前も知ってるだろ?あいつの何歳か上で、ハヤヒデも間違えるくらいに、よく似てるとかゆー親戚の……」

 

「ぶ、ブラリアン!?」

 

「そそ、そのブラリアンに影武者を頼んだ。まー、最強のポニーだからな」

 

ナリタブライアンのそっくりさんかつ、ウマ娘としては親戚だという、『ナリタブラリアン』。90年代前半の頃のバラエティー番組で活躍したポニーが前世で、『ブライアンにあやかって』名乗った芸名(ポニーとしての名が別にあった)だったが、ウマ娘としては、それが本名であるらしい。ウマ娘としては、ブライアンに髪の色以外は殆ど瓜二つで、姉のビワハヤヒデすらも見分けられないほどである。なお、ハヤヒデは気づいてないが、声色も似ているものの、聞き分けはできる程度の差異はある。

 

「何で買収したのよ」

 

「牛丼チェーンの食い放題券。行こっと思った日がアタシの出走日なんだよ」

 

「つか、学園にいたの!?」

 

「最強のポニーなのと、お前やブライアンの親類ってんで、理事長が編入させたんだと」

 

「なにそれ、聞いてない!!」

 

「アタシも知ったの、この間なんだよ」

 

「ハヤヒデは気づいてるの?」

 

「ないかもな。奴もブライアンよりは小さいが、引けは取らない体格になったそうだし、髪を黒く染めれば、瓜二つだし」

 

「……ハヤヒデって、頭でっかちなとこあるからなぁ……」

 

ツッコミどころが変なポイントになるナリタタイシン。ブラリアンの存在を知っていたり、ゴールドシップの思考を当てたり、カンの鋭いところを見せつつも、彼女も次第にススキヶ原のコミカルな雰囲気に慣れつつあった。

 

「ふう。……ゴルシ、着替えは?」

 

「ん……あれ?クリークさんが洗濯しちまったか?」

 

「あ~~~!もうじき、迎えに行く時間だってのに!!どーすんのよ、代わりの服!!汗だくのジャージで行けっての!?」

 

「落ち着け!……悪い、タンスには勝負服しかねぇ。シャワー浴びてこい。勝負服で行くちゃねーぞ」

 

「普段着に見えないこともないのが救いか……。シャワー浴びてくる」

 

「刀は鞘に収めて、元の位置に戻しとけよー」

 

「あー、もう!アンタはあたしのかーさんかっての!」

 

以前ほどは周囲につっけんどんに接しなくなり、ゴルシ(ゴールドシップ)と『ウィットに富んだ』会話をこなすタイシン。その表情も当初に比べ、遥かに柔和なものになっている。ノビスケに慕われ、自身もトレーナーに心を開いたおかげだろう。制服や普段着はスーパークリークが洗濯してしまってたため、勝負服でノビスケを迎えに行かざるを得なくなったタイシンだが、どこか楽しんでいるようでもあった。

 

「ゴルシ、お前の差し金か?」

 

「いや、のび太の小倅のおかげさ。小倅の純真さがあいつの心の氷を溶かしたんだ、ブライアン。お前も、コントレイルの引退式に顔出すなんて、大胆不敵だな」

 

「……いいだろ。私だってな……思うところがあるんだ」

 

「……ブラリアンに感謝しとけよ?」

 

「うちの姉貴は気づいてるのか?」

 

「いーや、それはないと思う」

 

ブライアンがやってきて、見たことがないほど上機嫌のタイシンに驚く。ブラリアンに影武者を頼んだのはゴールドシップだが、ブライアン本人の意向もあったのだろう。

 

「ヤツだが……、どうして、私に似てきたんだ?あれじゃ、黒く染めれば、おふくろと親父でも見分けられんぞ」

 

「声が違うから、わかるんじゃね?それに、お前が醸し出す『無頼』的な雰囲気は真似できねぇだろ」

 

「……そこか」

 

呆れ気味のブライアンだが、ゴールドシップの言う通りに『声の雰囲気が似ている』こともあり、ゴールドシップの要請でブライアンの影武者を引き受けたブラリアンは、ハヤヒデにすら気づかれていなかった。ハヤヒデは理論派だが、抜けている所も多々ある。そこをゴールドシップは期待し、ナリタブラリアンは見事に、ゴールドシップの目論見を達成していたりする。

 

 

 

 

 

 

 

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