ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです



第三百十四話「幕間その57 BLAZE 3」

――日本は紆余曲折の末に、戦艦、重巡、軽巡などの古典的艦種を識別表に追加した。扶桑の一艦隊がいるからであるが、敵が時たま襲撃するからである。特に重巡と戦艦は敵が最終世代のそれを送り込んでくるため、自衛隊の艦艇は(革新政権時の交戦規定の影響も大きい)潜水艦以外は交戦を避けるようにされている影響も大きい。モンタナ級戦艦以上の新型は現代型ミサイルに充分に耐えられる装甲を持つ上、砲弾は戦後型艦艇を一撃で撃沈可能。そのため、自衛隊は潜水艦と航空攻撃以外に対処手段がない。さらに、航空攻撃は財務当局が難色を示していることもあり、潜水艦が常に『ゲート』付近に張り付く必要があるなど、自衛隊の艦隊運用を圧迫している。艦隊戦は扶桑連合艦隊の分艦隊のみが遂行できる。これに政治家は反発していたが、『あなた方は、銀玉鉄砲でライフルを持つ相手に挑めとでも?』と海自幹部が例えたことから、事の重大性を理解した。戦艦と重巡の主砲は現代型艦艇を一撃で大破、もしくは轟沈できる威力だからだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

――日本側の嬉しい誤算は、大正期以前の建艦である八八艦隊型の戦艦が紀伊型戦艦と加賀型戦艦以外は現役でない事だった。長門もM動乱後に予備役になり、ダイ・アナザー・デイ後に正式に退役。紀伊型戦艦もモンタナ級戦艦への能力不足から、既に第一線級とは見なされていない。扶桑にとっては『建造から10年未満の軍艦が陳腐化してしまった』という大問題である。当時、既に40cm砲はリベリオン軍では普及仕切っていた上、怪異への優位性も消失しつつあったために、扶桑は『量産するつもりがなかった』46cm砲の普及に踏み切ったが、モンタナ級戦艦の防御力の高さが(多少の誇張込みで)伝わったことで、扶桑はさらなる大口径砲の開発に踏み切り、遂には実体弾を用いる艦砲の『実用上の限界点』に到達した。大口径化の頂点を極めたのは、日本連邦が唯一となった。これは他国に戦艦部隊を大規模に維持するだけの能力が失われていき、また、高額化した兵器の維持費の負担に耐える余裕がなくなる国が続出したからである。他国は大和型程度の艦砲を持つ新世代艦を志向したが、財政的都合、投射量を重視していたドクトリンなどに適合しないという問題から、大半がペーパープランで終わった。だが、冷戦の最前線に立つ国はやむを得ず、そんなプランを今後に具体化させていく。日本連邦の海上軍事力の突出を抑えるためもあるが、リベリオン軍の当該地域への侵攻が具体化しつつあったからでもあった――

 

 

 

 

 

 

 

――ダイ・アナザー・デイで存在感を示した日本連邦が急速にウィッチ世界の『次代の覇者』としての地位を確立させ、ブリタニアが相対的な財政難で『緩やかに』衰退し始めた時代、ガリアのド・ゴール派は自国の国情を無視する形で軍拡を志向しだした。カールスラントが本土失陥で没落し、自分達の中興の時だと錯覚したのだ。だが、実際には日本連邦が急激に台頭しだしたわけで、これに憤慨した彼らは1947年度に日本連邦を仮想敵に認定し、極秘裏にティターンズに接近し、鉱物資源の提供を受ける見返りとして、魔導技術の提供を行った。ガリアは鉱物資源を怪異に吸い取られ、その備蓄量が大きく目減りしていたための戦略的選択であった。だが、これが日本連邦の怒りを買ったのは言うまでもなく、アルジェリア戦争でのガリアの無残な敗北の伏線となる。まさに自業自得だが、ペリーヌ・クロステルマンの国土復興を至上とする考えが全てに受け入れられているわけではない証であった。実際、ペリーヌ・クロステルマンは娯楽などの復興は、『国家があれこれ口出しするものではない』と考えていたのだが、国家からの補助金を宛にしていた者も多く、彼女は1947年だけで、四回も暗殺されかかった。ペリーヌはそんな祖国に失望し、慈善事業にのめり込むようになっていったというのが『公に記録されている彼女の足跡』である。だが、実際には日本連邦で『紅城トワ』として暮らし、プリキュアとして戦っていたりする――

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダイ・アナザー・デイが終わった後、歴代プリキュアのうち、帰るべき場所がない者は野比家に居候した。そのうち、正式に住処にしたのは、ドリーム、フェリーチェ、ミラクル、メロディ、ハートの五名。ハートは戦車道世界に戻れば、心労を重ねるのは確実なため、当面は『相田マナ』としての生活を送ることにした。西住みほとして、戦車道世界での明るい前途が約束された四葉ありすと異なり、相田マナは黒森峰女学園の非西住体制(三年ぶり)の隊長『逸見エリカ』としての責務があるからである。とはいえ、黒森峰女学園の再建が『プリキュアとしての戦闘より精神的に辛い』のは四葉ありす(西住みほ)も察しており、マナが『逸見エリカ』として、大学選抜を試合で蹂躙したくなった気持ちにも理解を示していた――

 

 

 

 

 

――特に、キュアハートは色々と逸見エリカとしての生活で精神的ストレスが溜まっていたため、相田マナとしての姿にもならず、キュアハートとしての姿を維持している日が最近は多かった。一方の朝日奈みらいも、野比家で暇をつぶす内に『ロボットアニメオタク』に変貌していたため、疲労軽減のためか、キュアミラクルの姿で、『メカの整備をしている』事が多くなった。プリキュアの姿になっていれば、基礎スタミナなどが飛躍的に向上するからである――

 

 

――太平洋戦争中のある日(遠征よりは前)――

 

「ミラクル。どうして、急にメカの整備の勉強を?」

 

「やることないから、単に暇つぶしもあったけど、もう魔法は極めたも同然だったから、今度は科学を極めようと思ってね」

 

魔法つかいとしては、最強フォームの開眼で極限に達しているも同然の身であったため、今度は科学を極めようという名分で、メカの勉強を始めたキュアミラクル/朝日奈みらい。プログラミングもこの頃には勉強しだしており、太平洋戦争が数年目を迎える頃には、コーディネイター張りの高速プログラミングを披露。センチュリーガンダムの調整に携わることになる。

 

「それに、今度の戦争は相当な長丁場になる見込みだしね。一芸特化じゃつぶしが効かないからだよ、マナちゃん」

 

「確かに」

 

「でもさ、カールスラントはよく、レーヴェを量産する気になったね」

 

「内乱がNATOに鎮圧される見込みじゃん?それで、既存の機甲装備のラインが壊されたから、辛うじて残ってた『パンターⅡ』と『レーヴェ』のラインを雇用創出の意味で再稼働させたからだって。レオパルト1は、戦車の装甲がペラペラな世代の戦車だから、用兵側が反対してるんだって」

 

「あー……」

 

レオパルト1の弱点は、開発当時の『避弾経始』の理論が華やかりし頃に開発されたため、実際の装甲厚そのものは二次大戦後期世代のドイツ戦車より劣ることで、第二世代主力戦車そのものの限界である。そのためか、カールスラント将兵からの評判は悪いという。とはいえ、当時のカールスラント機甲師団には、旧式化して久しい『Ⅲ号戦車』と後期型の『Ⅳ号戦車』も多数が残っており、それに比べればマシではある。また、当時の他国の機甲装備の水準は、日本連邦が用いる『装弾筒付翼安定徹甲弾』を用いる段階ではなかったため、傾斜した厚い装甲は大いに需要があった。そこも不評の理由だ。

 

「とはいえ、APFSDSなんて、日本やアメリカとかの援助受けてる当事国しか使えないんだし、避弾経始の考えがある大戦後期世代の需要はあるんだけどね」

 

「だから、パンターの生産が続くんだってさ。Ⅳ号やⅢ号戦車がたくさん残ってるから」

 

「まあ、中戦車が発達したのが『主力戦車』だけど、日本連邦みたいに、生産施設が整わない内に増産命令が出たり、ラインの改変指令が出るよりはね」

 

「グダグダだよ。話聞くと、日本軍式の戦闘車両の全部をいっぺんに退役させるつもりだったのが、戦線の窮状が伝わった途端に、『マシな性能のものだけ』生産継続、74式戦車の生産に五年もかかったんだから」

 

74式戦車の生産が軌道に乗ったのは、計画から四年後の1949年の春だが、その頃には、センチュリオンとコンカラーが需要を満たしているという有様であった。とはいえ、三菱重工業の後押しで、扶桑本土を中心に配備が始まったのも事実であり、自衛隊の61式と74式戦車は扶桑が『近代戦車を勉強する上での習作』と扱われたわけだ。直に本格的な実戦テストとして、日本の工場から10式戦車が直送される手筈ではある。

 

「日本の防衛省は10式の性能を誇示したいようだけど、数がね。だから、74式も必要だったんだけど、防衛省がなかなか生産許可を出さないもんだから、イギリスの戦後世代を緊急でつなぎで買う羽目になったわけ。三菱重工業の後押しがなかったら、今でも、74式の生産許可は出てなかったろうね」

 

三菱重工業の重役が防衛省を説得したという。『扶桑の装甲戦闘車両の需要は国産で満たせるべきだ』と。実際、三菱重工業は戦後に一定のブランクが有るものの、一貫して戦闘車両の生産を行ってきたためだ。扶桑で生産された戦闘車両は扶桑の管理になるため、日本の財政的負担にはならない事はその時に遅まきながら理解された。だが、その時、既に扶桑陸軍の機甲装備の内、交戦機会の多い部隊の主力は『ブリタニア製の戦車のライセンス生産品』に置き換わりつつあった。これに危機感を抱いた陸上幕僚監部と三菱重工業だが、戦線ではパーツの枯渇した旧式の国産品の運用は終わり、安定した高性能を発揮し、すぐにブリタニアが輸送してくれる『ブリタニア製の新式戦車』が好評を博しており、センチュリオンとコンカラーに続く『チーフテン』も採用が内示される段階であった。三菱重工業と陸上幕僚監部もこればかりは決定の撤回を諦め(キングス・ユニオンとの国際問題になりかねないため)、扶桑の豊富な財力を背景に『同時運用』を認めさせる方向に舵を切った。扶桑にはその余裕があるからだ。日本の財務省も、扶桑の軍需産業の技術陣のご機嫌取りの必要は認めていたため、提案を認めた。扶桑の責任で運用するからだ。部隊配備の本格化は、黒江らが遠征で三号と戦ったその日。計画立案から有に四年以上の月日が経過していた。その間に、技術的には冷戦中期の装備である『74式戦車』を大規模に生産することの意義は薄れてしまっていたが、『国産の意地を見せる』という政治的な都合で生産が本格化していく。(とはいえ、『単に、日本語で書かれた操作・整備マニュアルを読めばいい』という点は大好評であったという)ただし、生産品がそのまま使われた10式戦車は『MS相手でも、よほどの無理をしなければ生き残れる』高性能を発揮し、国産戦車の存在意義を信じる者達の溜飲を下げる大活躍を演じているのも事実。(エースクラスの戦車兵に優先して回すなどの人員の選抜はしているが)

 

「近ごろの軍事系のニュースサイトだと、10式の扶桑での無双ぶりが大げさに書かれてるけど、運用側の努力が実ってるおかげなんだよ?」

 

「そりゃ、どんな機械だって、使う側がそれをわかってなきゃ、豚に真珠だからね。泥臭い整備兵の苦労なんて、ニュースには取り上げられないよ」

 

キュアミラクルはメカニズムやプログラミングの勉強をすることで、機械を『使えるように整える』人間達の苦労を知ったため、『兵器の表面的な戦果だけを見て、大喜びする』ことは避けるようになっている。それは陸海空、どの分野であっても同じだ。

 

「自衛隊の人達がわざわざ現地に行って、自分達で使い方を教えて、実際に戦ってみせてるんだから、そっちの方を注目してもらいたいもんだよ。相手は良くて、冷戦初期のレベルの戦車だよ?21世紀の日本が金かけて作った最新作なら、弾があるだけの敵を倒せて、当然だよ」

 

 

10式は2022年に入る頃には、部隊での運用開始から12年が経過しているが、戦後の軍事開発の世界では、『運用開始から15年以内』の兵器は充分に『新しい』。21世紀の平和な世界では、冷戦初期の製造の古い代物でさえ、貧困国では第一線装備なのが普通である。これは未来世界でも同じ。ジオン残党の最大派閥であった『ネオ・ジオン』が一年戦争期の『ゲルググ』、『ザクⅡF2型』をネオ・ジオン解体の日まで現役で稼働させてたり、地球連邦軍の二線級部隊では『ネモ』がまだ最新機種扱いで稼働中であったように。機種の世代交代サイクルが特別に早い『人型機動兵器の世界』でも、『ザクⅡ』、『ドム』、『ジムⅡ』、『ネモ』、『ジェガン』については、戦場で常に、何かかしらの形で姿を見る『常連』扱いである。そのため、2022年時点で『運用開始から12年』の10式戦車が戦場で活躍しても、なんら不思議はないのだ。(特にジオン系の『ザク』と『ドム』は生産台数も多いため、地球連邦軍の仮想敵機として使用されても久しい)

 

「地球連邦軍だって、田舎の基地じゃ、ジム改がまだあるんだそうだよ」

 

「本当?」

 

「まあ、ジムの初期型があるよりはマシだけどね」

 

「南極とか、トリントンとか?」

 

「それとニューギニアとかね。あの辺、グリプス戦役でも戦域から外れてたから、グリプス戦役のMSがあれば、そこはマシなんだって」

 

「うへぇ」

 

「まあ、ダイ・アナザー・デイの時に鹵獲したペイルライダーも、中身は一年戦争中の機体だったからね。あのパイロット、肉体の培養が終わったから、脳の移植手術終えて、ロンデニオンで療養だって」

 

「連邦も危ないことしてない?」

 

「エクザムとかハデスは、狂ってる人間が立ち上げた計画だもの」

 

ペイルライダーはダイ・アナザー・デイで鹵獲された後、パイロットであった『クロエ・クローチェ』の『復元肉体』の培養に数年はかかったためと、機体から脳を切り離すための調査の必要もあったため、数年は『人間サイズに機体を縮め、ハデスを技術的に封印した状態』で取り置かれた。とはいえ、エクザムの劣化コピーなためか、クロエ・クローチェの感情が高ぶると、リミッターを力技で突破してしまうという事も起こった。そこを差して『エクザムの劣化コピー』とされる。そんな状態だった数年間だが、マイクローン化したゼントラーディの暴動鎮圧に『参加』した記録がある。また、クロエ・クローチェが肉体を取り戻した後は、首から下をムーバブル・フレームタイプのモノに置き換え、名を『トーリスリッター』に変えたという。(本来はネオ・ジオンが行った改修だが、未来世界では連邦軍の手で行われた)

 

「戦争してると、狂人の1人や2人湧くのはしょうがないよ、敷島博士みたいにコントロールしなきゃ」

 

「あのジジイも大概じゃ?」

 

「まあ、敵でなくてよかったよ。先祖は日本軍で水爆を研究してたそうだから、筋金入りの危ない一族だよ」

 

博愛主義のキュアハートさえ、敷島博士だけは『ジジイ』呼ばわりなところに、彼のネジの外れぶりが窺える。最も、キュアミラクルもこの後、ロボ好きが高じ、野比財団の資金力と政治力を使い、自分で独自の機動兵器を製造してしまうので、敷島博士の影響はかなりあったと見るべきだろう。ちなみに、野比財団は23世紀以降にビスト財団に取って代わっていくが、当代の若き当主『ノビ・ノビタダ』がかなりの物好きであるため、キュアミラクルに多額の資金と一級の製造設備を提供するのである。

 

「ん、ミラクル。何持ってんの?」

 

「ああ、のび太くんの生まれ変わりの人に渡すつもりの設計図。ロボットを自分で設計したくなっちゃってさ~」

 

とは言うものの、ロボットを動かす内に、自分で設計したくなるのは、ロボ好きの至る考えである。また、フェイトとはやてが『面白そうだ』ということで手を貸し、魔力炉を提供した事もあり、それは更に数年後に、フォン・ブラウン工場で試作機が完成する。その間に真田志郎に教えを請うなどの下準備を経て、設計士の資格をアナハイム・エレクトロニクスの専門校で取得するのである。

 

「設計士の課程でも取るの?」

 

「暇ができたら、かな。アイデアは浮かぶんだけど、元は国際学科の学生だったから、今は門外漢の浅知恵だしさ」

 

そう言って、この時は冗談交じりに笑い飛ばすキュアミラクル。とはいえ、その言葉に嘘偽りはなく、ピンクプリキュアで唯一、メカニックの資格を取得し、後に自分専用の機体を自主製造する。エンジニアリング方面で才を持ったプリキュアは彼女が唯一となるが、魔法も忘れていないため、そこの辺で時空管理局から出向願いが出るほどに成長する。はやてはそんなミラクルを『チートね…』と標準語で評したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1949年も夏にさしかかる時期になると、戦線の膠着状態が定着してしまった。双方が攻勢を控えたからである。そんなところに舞い込んだ『ウマ娘の登場』のニュースは待望の明るい知らせであった――

 

「ゴルシ先輩、レースのトレーニングはなされないんですか?」

 

「あたしはぶっつけ本番でも、G1を六回も勝ってんだぞ?バイトのほーが重要だ」

 

ゴルシは黒江から頼まれた『データの解析』に精を出すが、レースのトレーニングはサボっている。グラスワンダーからの問いかけもサラッと流す。G1相当を六回も勝った強者だからこそ言える言葉である。何気にオグリの記録を有に超えているあたり、ステイヤーとしての天賦の才能は当代最強級なのがわかる。

 

「そこがオカシイんです!いつも麻雀牌を磨いてたり、焼きそば売りさばいているのに、私達より数段良い戦績なんですかー!!」

 

若干、震え声気味のグラスワンダー。ゴルシを超えるものは数える程度しかいないからだ。史実より勝数が多くなっている者もいるが、それは史実での下馬評通りに事が運んだ結果でもある。エアグルーヴが桜花賞とオークスを制したように。

 

「エアグルーヴだって、桜花賞を回避せずに出て、勝ったろ?世の中、そういうもんだ。桜花賞の前日、微熱が出たそうで、会長は回避を薦めたんだが、エアグルーヴは夢があったから走って、勝った。秋華賞は残念だったがな」

 

エアグルーヴはメジロラモーヌ以来の『トリプルティアラ』を目指していた。それはゴルシも知るところで、入学前の頃のアグネスデジタルもレース場で見ていたという。エアグルーヴが秋華賞のことに触れたがらないのは、無様に負けた事もあるが、観客のフラッシュ撮影が自分のトラウマである『雷』を連想させてしまい、パニック状態に陥ったままで走ったからだ。

 

「ああ、エアグルーヴ、ファインモーションの姉貴が駄目だっていう情報が手に入った」

 

「エアグルーヴ先輩があの子のお姉さんに?」

 

「ああ、名前は確か…ピルサドスキー。アイルランド王家の末裔の一人で、ファインモーションと同じく、イギリス王家の王位継承権を下位だけど持ってる。性格はオペラオーのアイルランド版だってよ」

 

いつの間にか、『ゴルシちゃんファイル』なる冊子を手に持ち、エアグルーヴの資料をグラスワンダーに見せるゴルシ。そのウマ娘はエアグルーヴが本気で避けるほど、ぶっ飛んだ性格をし、普段の言動はテイエムオペラオーのように芝居がかっている。だが、エアグルーヴが参戦したジャパンカップにて、彼女を誘惑しようとしたエピソードがあり、そのレースで完璧な出来だったエアグルーヴを差し切り、彼女から栄冠を奪い取ったことでも有名だ。

 

「エアグルーヴの参戦した唯一のジャパンカップで、あいつを負かしたアイルランドのウマ娘いたろ?奴がファインモーションの姉貴だ」

 

「エアグルーヴ先輩がファインモーションが姉妹のことを口に出そうとすると、止めるのは…」

 

「奴を思い出すからさ。まあ、ファインモーションは知らんようだが」

 

「ん?ブライアンか?……やめろ!あのスタミナオバケに真っ向から挑む気か!?」

 

「どうしたんです?」

 

「……ブライアンが……、オグリに野良レースを仕掛けた」

 

「えぇ!?お、オグリ先輩に!?」

 

ナリタブライアンはオグリキャップに野良レースを仕掛けていた。電話口に、オグリの声がしたからだ。ブライアンが全盛期の状態であろうが、オグリキャップのスタミナは全ウマ娘でもトップ5に入るもの。真っ向から太刀打ちできるわけがない。彼女に真っ向から勝利できる可能性のある者は、現在でも数える程度。平成三強の内の二人、タマモクロスなど…だ。ゴルシは部屋にいた二人を引き連れ、マンションのエントランスに出てみる。

 

「やめろ、ブライアン!お前、無謀だぞ!!全盛期の状態のオグリに挑むだと?それこそ、お前でも、絶好調の時のディープインパクトに喧嘩挑むくらいの難易度だぞ!!」

 

「文句は……引退を選びやがった、馬鹿姉貴に言え。私は飢えているんだ!!」

 

ブライアンは身体能力の高さは同時期の頃のルドルフ以上ともされ、一時はルドルフ超えを期待されるほどの逸材であった。だが、身体能力に依存した走りであったため、史実での晩年期は低迷していた。

 

「一度、コテンパンにやられるのも、いい薬になると思うで」

 

「それも一興か、タマさん」

 

「ブライアンはハヤヒデの引退表明でナーバスになっとるんや。オグリンも全盛期の状態や。奴に勝てるのは、ウチだけや」

 

オグリ側のサイドにいたタマモクロスはそう断言する。全盛期のオグリは文字通りの怪物。全盛期を過ぎていたとはいえ、シリウスシンボリが相手にならなかった程の実力者。それに打ち勝ったのがタマモクロスだからだ。

 

「シリウスにトラウマを植えつけたのは、こいつらだよ、ゴルシ。奴を黙らせるには、オグリとタマモの名前を出せばいいからね」

 

「あいつの栄冠は、同期のミホシンザンがいないからだし、第一、バトックで他のやつを病院送りにするんだぞ?」

 

シリウスシンボリの評判は悪い。海外遠征でも、特段の成績は出せておらず、帰国後は後輩らの噛ませぶりが板についていた。また、他のウマ娘を病院送りにしたエピソードも複数ある不良。ルドルフの幼馴染で親族ながら、オグリが台頭する頃に見せた『かませっぷり』から、ルドルフとは疎遠になっている。ルドルフとの間に絶対的な実力差が出た事も理由だった。

 

「奴は幼馴染なんだが、素行が悪くてな」

 

「昔からか?」

 

「妹を泣かせてたからな、奴は。面倒見は言いそうだが、親族の私が王者になるのが気に入らないようでね…」

 

「よくあるタイプですね、それ」

 

「お前の妹のワンダーアゲインは名馬だしな、グラス」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「アメリカに『記念レース』があるくらいの大物になったよ」

 

「……嬉しいような、知りたくなかったような…」

 

妹の行末が希望に満ちたものである事には安堵しつつも、複雑な気持ちのグラスワンダー。言わば、未来を知ってしまうことになるからだ。そこで複雑になるのが普通だ。

 

「まあ、テンポイント先輩のように、引退後に大怪我を負い、一旦はレースから離れたケースもあれば、グリーングラス先輩のように、シニア級で才能が目覚めるケースがあるからな。我々という生き物はわからんさ」

 

「現に、オグリ君は引退の年に、G1を二回は勝っている。そこも我々の神秘なのだろうな」

 

スーツ姿のトウショウボーイもやってきた。野比財団との協議の帰りであったようだ。

 

「元・会長」

 

「私も、まだまだ行ける事はわかったので、次の次のドリームシリーズには出走するつもりだ」

 

トウショウボーイはミスターシービーとよく似た容姿である。そのため、シービーから奔放さを抜いたような、不思議な雰囲気を持つ。(史実での親子なので、容姿はよく似ている)現役世代の誰かが、過去世代の誰かのポジションを継いでいく事はウマ娘界隈ではよくあることなのだが、ゴルシのような自由奔放なウマ娘は類を見ない。トウショウボーイ本人は真面目な性格なので、そこはルドルフへ受け継がれた。一方、テンポイントは『前髪にメッシュが入るウマ娘』の先駆者であり、トウカイテイオーの持つ『学園でもっとも美しいウマ娘』の称号は元はテンポイントのものである。

 

「そうだ、ルドルフ。この写真だが……」

 

「こんなところで、それ返さないでよー!恥ずかしー!」

 

トウショウボーイはルドルフに写真を返す。ルドルフが入学間もない頃、テイオーとよく似た姿をしていた時期に撮られたもので、年齢の関係で、テイオーと似たような事をしているルドルフの姿が写っている。ルドルフがいつの頃に、現在の髪型にしたかは定かでないが、入学間もない頃にはポニーテールヘアをしていた。髪飾りを除けば、テイオーと見分けがつかないほど。それがルドルフの秘めた過去なのだ。

 

「あら、あら~。会長もこんな頃が…」

 

「グラス!!見ないでくれ~!若気の至り、そう、若気の至りだ~!!」

 

大慌てのルドルフ。とはいえ、私生活では意外にやんちゃをする事は有名なのであるが、本人は隠しているつもりらしい。ルドルフも意外に子供っぽいところは残っているのだ。『皇帝』の仮面を脱いだその姿は、前世での縁通りに、テイオーと似た者同士であった。ブライアンとオグリのレース前の一幕はこんな感じにわちゃわちゃなのだった。

 

 

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