ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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今回は二つのパートに分かれます。


第三百三十一話「扶桑の混乱からの立ち上がり、ウマ娘達の日常」

――ダイ・アナザー・デイで引き起こされた軍事的な混乱は扶桑に致命的な機甲戦力の不足をもたらした。それは四年後でも変わらず、この頃に『少数で圧倒的多数を薙ぎ払え』というドクトリンが定着し始める。それを実現可能にするための兵器が、精鋭部隊のみに与えられるという事が定着することでもある。それに伴い、正規部隊を『ショールームの軍隊』と揶揄する声が常態化しつつあった。しかし、正規部隊も兵器の刷新を急いでおり、1960年代水準の装備は手につつあった。機甲装備は日本側が供与を渋った影響もあり、遅れに遅れたが、ブリタニアが安価で装備を提供してくれたため、ようやく、まとまった数の更新に成功しつつあった――

 

 

 

 

 

――この頃の扶桑陸軍は『砲戦車が中戦車を支援する』という、1942年頃から思い描いてきた『機甲戦力運用の理想』の構図を、それまでつぎ込んできた資金、それで予算を得てきた軍の政治的都合もあり、中々、切り捨てられなかった。旧式化した三式砲戦車までの装備を第一線から遠ざけつつ、最新式の『五式砲戦車Ⅱ型』の生産と配備を、自走砲との兼任で急いでいた。甲型・乙型ともに、カールスラントの高性能戦闘車両の模倣というのが丸わかりの外観なので、『所詮はエレファントとヤークトティーガーの劣化コピーに過ぎない』という、心無い揶揄はあったが、それでも、日本型装甲戦闘車両としてはダントツにトップの火力を持つため、実際には、最前線で重宝されていた。155ミリ榴弾砲(甲型)、120ミリ戦車砲(乙型)の火力は(世界全体としてみれば、史実より戦車全体の発達が遅れ気味であるのもあって)最前線の守護神扱いであった。本土に置かれずに南洋に優先配備されたのは、当時の扶桑本土の道路網では手に余ると判断されていたからである。当時は総合的に強力な戦闘車両で相対的な費用削減を行うという思考がないので、砲戦車の整備は自走榴弾砲との兼任という名目で続けられた。ただし、すべて南洋が優先され、他戦線に旧型すら回されない事は問題になったため、旧態依然とした『オープントップ車両』の一式砲戦車はともかく、固定戦闘室式の構造である三式砲戦車は廃棄の予定が撤回され、重要ではない他戦線へ回されることになり、ようやく、他戦線にも大戦後期レベルの装甲戦闘車両が回されていくことになったが、倉庫での残存数が思ったほど無く、新規生産する羽目に陥ったという。また、性能の陳腐化を理由に、ティーガーのライセンス生産計画は放棄され、用意されていた資材はコンカラー、チーフテンの製造に流用されていく。(その計画の立案者は、カールスラントと国家的レベルで疎遠になったショックで、辞表を提出したという)しかし、1945年までに製造途中にあった数十両は仮想敵部隊用の機材として回されたり、防衛砲台同然の扱いでトーチカにされたりと、様々な運命を辿る。ティーガーⅡのライセンス生産も、カールスラントの混乱でなし崩し的に認可されたが、戦後型であるコンカラーの前では『色褪せた存在』と見なされ、棚上げとなった。唯一、センチュリオンに伍する性能であったレーヴェ戦車のみが生産に至るが、高コストと見なされた事から、ブリタニア製を嫌う部隊にのみ配備されたといいう。――

 

 

 

 

 

――1949年の南洋島では、侵攻軍の機甲装備の大火力化の進展で、旧来の機甲装備の大半がガラクタ同然と成り果てたため、敵の装備を鹵獲し、使用する事も横行した。その代表がM24やM41軽戦車である。戦時中ではままあることである上、史実西側の装備であるので、日本側も容認した。扶桑が生産していた国産中戦車の改良型よりも、コストパフォマンスに優れているとされたためだ。両軽戦車は扶桑本土のインフラが整うまでの長期間に渡って、扶桑陸軍機甲師団の一翼を担い続ける。そのため、扶桑陸軍は各国製装備の混在状態が継続することとなる。既にブリタニア製のコンカラーとセンチュリオンがかなり出回っていたためだが、これに不満を持つ陸軍機甲本部の人員は多く、国産戦車の生産促進を強く求めた。だが、政治的理由もあり、74式戦車や10式戦車は『戦果が確実に見込める』部隊に回されていき、多くはセンチュリオンとコンカラーで統一される。なお、カールスラントからの部品供給が途絶えたティーガーは、この時期に使用が取り止められていくが、M24やM4中戦車への優位は継続していたため、ごく一部は現役に留まる。コンカラーは史実の不遇が嘘のように、扶桑で重宝される。その重装甲で壁役をこなせるからである。当時のリベリオン戦車の備砲では、追加装甲付きのコンカラーを正面からは撃ち抜けなかったからで、この時の戦闘データを政治的理由で得られなかったガリア陸軍は、後年に扶桑との戦争で辛酸を嘗める羽目に陥ったのである――

 

 

 

 

 

 

――その一方で、その両方を統一する後継戦車『チーフテン』も採用が決まっており、さながら、『英国製戦車のショールーム』と化している。ブリタニアが兵器市場のシェア獲得のため、惜しげなく新鋭戦車を提供していった事もあり、扶桑陸軍の機甲装備の主力を占めるほどのベストセラーとなる。リベリオン本国側は使い勝手の都合もあり、M4中戦車の全面的更新に手間取っている。その僥倖もあり、扶桑軍は戦線の均衡を保っていた。64Fの無双的活躍は清涼剤であっても、戦線の様相を変えるまでではない。日本側の思惑とは裏腹に、扶桑軍はゲリラ戦を行える精鋭部隊を重宝し始め、通常部隊をデコイ扱いし始める。これに気まずくなった日本は74式戦車の生産促進、余剰装備の提供などをついに自分から促進させる。装備不足に喘ぐ扶桑陸軍は『南洋戦線』で近代的なゲリラ戦の知識を身に着け始め、南洋でおびただしい数の血が流されることとなる。だが、ティターンズはそれを承知の上で、意図的にリベリオンに流血を強いた。それがリベリオンの運命を史実の分断国家同様のものに堕とす最大のきっかけとなるのだった。――

 

 

 

 

――ダイ・アナザー・デイで混乱が生じたのは、ウィッチ世界での零戦の名称は通称で、実際には史実より遅れ気味のスケジュールで開発されていた事が理解されず、『1940年初飛行の旧型機』としたことも含まれていた。1946年以降、航空機の制式採用時の名称が自衛隊式に移行したのは、その反省も含まれていた。1949年になると、扶桑在来のレシプロ戦闘機は大半が第一線から退き、ジェット戦闘機が主力を担い始めた。だが、機種が中々安定しないことが仇となり、パイロットの予備人員の確保はままならなかった。機種をコロコロ変えることが、ジェット時代では仇になったわけだ。とはいえ、既に第四世代の水準にまで一部は到達し、空中指揮管制機も使用され始めた扶桑の航空戦力は当時のウィッチ世界では最高峰に位置している。空戦ウィッチ部隊はこの軍事的な革新に追従しきれずにいた。身軽な装備を是としてきた故に、チャフやフレアなどの対ミサイル装備にも拒否反応を示すからである。しかし、ダイ・アナザー・デイを通し、64F以外の部隊がミサイル攻撃に蹂躙されたという戦訓は無視不可能なので、チャフやフレアを重量増加を承知でストライカーに積むしか選択肢はなく、武器も20ミリ機銃が普及し、近接格闘用に刀剣類を持つことが推奨される時代を迎えた。旧来の一撃離脱戦法がジェット化で陳腐化し、スピードを生かしての戦いが意味をなさなくなり、格闘戦の能力の差が勝敗を分ける。これは史実のミサイル万能論の否定に相当する混乱である。旧来式空戦ストライカーは、この混乱で淘汰されていく。逆に陸戦ストライカーはその利点が着目され、花形に登り詰める。ダイ・アナザー・デイ、太平洋戦争での苦闘は結果的に空・陸のウィッチの立場を逆転させたわけだ(64Fを例外にして)――

 

 

 

 

 

 

 

――旧式のボルトアクション式小銃は狙撃銃に配置換えとなり、銃の名手らの手で『牙』となっていった。三八式や九九式小銃は狙撃銃としてかなりの精度を持つ個体も多いため、そういった個体がスコープ付きに改造され、狙撃銃として戦果を挙げていった。のび太はスポーツ・狩猟用という名目で、九九式小銃を保有している。のび太は表向き、猟友会にも籍を置いているからだ。良好な精度の個体は実際に狙撃向けで、犯人の無力化のため、ゴールドシップは麻酔弾を装填し、ひったくり犯の鎮圧に用いた――

 

「ゴルシ、貴様、何を!?」

 

「日本じゃ、ライオット弾も使えないかんな。麻酔弾を撃ち込むのが最善さ。吹き矢じゃ非現実的だろ、エアグルーヴ。特別製だから、当たったら、三日はおねんねだ」

 

「本当は旧ドイツ軍の小銃使いてぇが、あいにく在庫切れ。日本軍の小銃なら、ボルトアクション式としちゃ最高に近い精度だ」

 

九九式小銃、それも貴重な初期型用に麻酔弾を製作したという点で、敷島博士に依頼したのが分かる。特別に製作した麻酔弾(ウマ娘をも昏倒させられるもの)を発砲する。ウマ娘だからか、7.7ミリ弾の発砲の反動を完全に制御していた。

 

「今だ、捕まえろ!」

 

「わ、わかった!」

 

ゴールドシップはこの時点では、現役ウマ娘達のまとめ役のようなポジションにあった。ウマ娘達の中ではほぼ唯一、銃器をプロといえるレベルで扱え、その気になれば、喧嘩も強いからだ。(意外なことに、縁日で鍛えたのか、ナリタブライアンもそこそこは射的が上手いという)

 

「ねぇ、ゴルシちゃん。そんなの、どこから持ってきたの?」

 

「のび太の部屋の武器庫からさ。あたしなら、使う許可が出てるかんな。ライオット弾は日本じゃ文句来るとかで、使えなさそうだからな。それで麻酔弾にしたんだよ。特別製だから、オグリさんにも効くぞ」

 

「嘘……」

 

マヤノトップガンが真顔になる、その一言。オグリキャップは現役で学園に在籍中の全ウマ娘で最強の薬効への耐性を備えており、一般的な経口薬程度のものでは、どんなものでも効能を発揮しない。更に、免疫力も高く、同世代では最も病気にかからない。その事は後輩らの間でも有名だ。マヤノトップガンが真顔になるレベルで驚くほどに。

 

「だから、人間相手だと、薬の量を調整してんだ。オグリさんに効くレベルじゃ、人間の致死量に近いから。今のは微量とはいえ、人間が三日三晩は眠り込むレベルだしな」

 

「だろーねぇ~…」

 

「待て、ゴールドシップ!お前……どこで、銃の扱いなど覚えた!?それも、大戦中のボルトアクション式を!」

 

途中で合点がいったエアグルーヴが言う。

 

「サバゲーとかしてれば、覚えるさ。それに、機構を模した精巧なモデルガンくらい、金出しゃ買えるご時世だろ?」

 

「それはそうだが……」

 

納得がいかないエアグルーヴ。ゴールドシップはサバイバルゲーム用のモデルガンと言ったが、実際はルーデルの記憶がソースである。手際が良すぎるのだ。装填済みとはいえ、ボルトアクション式の小銃を鮮やかに撃ち、撃った後の空薬莢を排出する様は手慣れているも。確かに、実銃の機構を擬似的に再現したモデルガンはあるが、ゴールドシップの手際は良すぎるのだ。

 

「ほれ、犯人を警察に突き出すぞー」

 

「待て、お前が何故、場を仕切る?」

 

「そこは気にすんな。本当なら、お前は会長と現役時代が10年はズレてるんだし」

 

「ウマ娘としては二世代ほどの差だ。オグリキャップが引退した頃に入学し、その後に会長の座を争った」

 

「ほーう?初耳だな」

 

「会長もあまり話されてはいない事だ。私はその当時は……世間知らずの青二才だったからな」

 

エアグルーヴらの入学は、オグリキャップが現役を引退した時期以降。そして、ルドルフと生徒会長の座を争い、その敗北後にルドルフの補佐としての副会長職に抜擢されたのが、エアグルーヴの副会長への就任の経緯。また、その当時の自分を青二才と断じるなど、当時は世間知らずであったと言う。

 

「お前さんも、かーちゃんのダイナカールに似てきたな?」

 

「お前らの面倒を見ていれば……。……待て!貴様!!お母さまの名をどこで知った!?」

 

「簡単な推理だ。母娘でオークスを制したウマ娘で、名門の出と言ったら、お前さんの家だ。あんたの血筋は名門だしな」

 

ダイナカール、エアグルーヴの二代の成功は血筋の繁栄を約束した。エアグルーヴ自身も、そのひ孫に至るまで、一流馬を輩出する血統として残っている。また、母のダイナカールはエアグルーヴと似た容姿だが、性格は明朗快活の一言で、ゴルシとSNSでグループチャットをし合う。その事を教えると。

 

「き、貴様!?」

 

顔を真っ赤にするエアグルーヴ。それをのらりくらりと躱すゴルシ。

 

「安心しな。頼れる先輩とは言っといてある」

 

ゴルシはそこはきちんとするところを見せ、エアグルーヴをからかう。曰く、真面目ちゃんほど、からかいがいがあるとの事。ゴルシは破天荒な振る舞いが許されるほどの実力者。その実績はオグリキャップを超え、ルドルフに次ぐ。彼女の凄さは奇人変人扱いされる振る舞いながら、面倒見の良さとレースの実績を兼ね備えるというもの。エアグルーヴよりは年下らしいが、精神的には同等とも取れる。そこがウマ娘界の七不思議であった。また、この頃になると、グッバイヘイロー(キングヘイローの母)は世間的なバッシングで社会的地位をあらかた喪失し、本人も失語症に陥ったことが報じられ、同情論も出てきていた。グッバイヘイローは『世間知らずのお嬢様』がそのまま成人してしまったような性格であるのが報道された(史実でのダンシングブレーヴの役割も担っていたと思われる)からだ。高慢なように見えたのは、本当に世間知らずだっただけで、理解さえすれば、慈悲深いのが本質だったからだ。そこはかつてのフランス王妃『マリー・アントワネット』に似ている。キングヘイローが行方を眩ませたのは、父母の思い出をたどる事で、自らの血の根源を探りたかったのでは?と推測されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その頃、マルゼンスキーは、トウショウボーイという先達がいるため、久方ぶりに後輩ポジションになっていた。その後、『スタミナ不足』を指摘された。引退後しばらくは走っていなかったため、感覚が微妙に狂っていたのもあるが、スタミナが現役時代より大きく低下していたのも敗因と指摘されたのだ――

 

 

「先輩は……何故、引退後も現役時代とさほど変わらないスタミナを?」

 

「トレーニングそのものは実家でも続けていたからな。三強と言われた以上、そのイメージは保たなくてはならんからな。シービーも、ルドルフも、能力の低下は最低限度に押さえていたろ?お前は怪我があったから、仕方ないが」

 

「あたしの存在そのものが、同期を不幸のどん底に追いやったのは、ご存知でしょう?」

 

「あれは時代がそうさせたのだ、お前が気に病む事はない。それはお前の母上も望んでおられる」

 

ニジンスキーからの伝言を伝え、マルゼンスキーに再起を促すトウショウボーイ。マルゼンスキーは速力そのものは全盛期に戻れたが、感覚のズレに伴うスタミナ配分のミスは、いいわけしようもない事だ。

 

「そう、頭を垂れるな。速力そのものは全盛期のキレに戻っている。後は鈍っている体に持久力を取り戻しさせるだけだ。それに、奴も様子を見に来たからな」

 

「え!?」

 

「あらあら~。久しぶりね、マルゼンちゃん」

 

「ぐ、グリーン先輩!?」

 

スーパークリークの魁とも言うべき気質のウマ娘。トウショウボーイ、テンポイントと覇を競った三強最後の一人『グリーングラス』。マルゼンスキーも若手時代に『世話になった』。スーツ姿ながら、往時の面影を偲ばせる。

 

「ルドルフちゃんの残務処理が終わったから、様子を見に来たの。あなたとボーイのレースの映像は見たわ。カンが狂っているのは確かよ。ドリームシリーズはお遊びに近いから、緊張感は薄い。ルドルフちゃんが心配してるわよ?」

 

「先輩方、あたしをどうなさるつもりですか?」

 

「お前を鍛え直す。テンポイントの奴の前で、無様な走りを見せたくはなかろう?それに、奴らの墓前でも、な」

 

「…!」

 

 

マルゼンスキーは同期への弔いを義務づけられた。間接的に不幸に陥らせた同期は意外に数多く、クラシックレースの優勝経験者とて、それは例外ではない。協会がマルゼンスキーをドリームシリーズに必ず出走させているのは、同期らがマルゼンスキーを憎んでいるのを承知の上で、人身御供にするため。『TTG』の三人は、そんなマルゼンスキーの境遇に同情した上で、鍛え、全盛期の輝きを完全に戻すことで、マルゼンスキーという光に埋もれ、消えていった者たちへの弔いとしたいのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ススキヶ原はこんなそんなで一応の平和を保っていた。治安は悪いが、警察に代わり、治安維持を担当するヒーロー達の存在が抑止力として認知され始めていたからだ。仮面ライダーたちは言うに及ばず、スーパー戦隊、その他のヒーローたちは21世紀には戦闘行為の是非が議論される立場であるが、色々な兼ね合いで『民間警備会社』という位置づけに落ち着き、彼らが東京の治安を実質的に守っている。日本警察の怠慢であったが、2010年代に『学園都市というパンドラの箱』を開けてしまった警察庁に打つ手は殆ど残されていなかった。だが、皮肉な事に、ヒーローユニオンから一報が入る。『いつからか、旧日本軍の松代大本営跡で眠りについていた機動刑事ジバン』を発見したと――

 

 

 

 

――松代大本営跡。そこは戦後の日本にとっても戦前以来の『秘密を隠す場所』として使われ、超人機メタルダーの格納庫があった場所でもある。その構成技術を現代技術、組織の技術と組み合わせ、1988年当時に殉職した警視庁の刑事『田村直人』を被検体にして生まれた『ロボットポリス』。表向きはロボットとされるが、実際にはサイボーグに分類される存在。開発者が亡くなってしまったことで満足な調整を受けられなかった事もあり、1990年代頃に機能停止し、彼を知る誰かの手で、松代大本営跡に安置されていた。ジバンの蘇生を望む者たちの依頼で、松代大本営跡は発掘され、回収された。メカトピア戦争の末期から蘇生作業に入り、大決戦の直後に蘇生された。装備はヒーローユニオンの管理下にあったものは再装備され、ビーグル類も再建造されたという。なお、彼の蘇生を願ったのは、彼が守った『妹』の子孫らであったという。何故、そうなったかは定かでないが、23世紀の荒廃した地上の現状を憂いていたとされ、23世紀の地球連邦の警察機構の腐敗を正すために、彼の存在が求められたからだと言う。そんな彼が21世紀世界に派遣されるという点では、20世紀の犯罪多発時代の遺産に守護される日本警察という皮肉があった――

 

 

 

 

 

 

 

 

――そんな事情は露知らぬウマ娘たち。この日は暇だったため、タイシンはノビスケのラクビーの試合を見にいった帰りに、ゲームセンターへ立ち寄ったのだが。――

 

「テイオー……もしかして……」

 

「なんだ、タイシンじゃん」

 

「あんただったの!?あのプレイヤー名!!」

 

「分かるかと思ったんだけど。もしかして、行く前に、音ゲーで対戦したのって…」

 

「あんただったのなら、話は早い。シャカールとも話したけど、ここで、あの時のリベンジをさせてもらうから…!」

 

「にしし~。ゲームはボクの得意分野だもんね~。実家がゲーム業界に出資しててさ」

 

「んなっ…!?」

 

「実家の事はあまりいいたくなくてね。過保護気味だし。執事もいるからさ…」

 

「何、そのブルジョア発言!!こうなったら、あんたを負かしてやる!子供の頃、スーパーに置いてあった筐体が楽しみで、なけなしの小遣いでプレイしてたってのに…!」

 

現在はレースの賞金で裕福な財政状況のナリタタイシンだが、生家は自営業、更に実母はレースで勝てなかったウマ娘であるため、福利厚生制度の対象から漏れているなど、幼少期は『余裕のある生活』は送れていなかった。幼少期の頃、スーパーに置かれた筐体に目を輝かせていたタイシンにとって、ブルジョア発言をしたテイオーは『倒すべき対象』であった

 

「あのさ、燃えてない…?」

 

「っるさい!!レースでも、ゲームまで負けちゃ、BNWの名折れだっての!」

 

タイシンはテイオーと知らず知らずのうちに、スマホゲームアプリやゲームセンターで対戦していた。プレイスキルそのものは互角だが、テイオーにあと一歩のところで負けてしまう。それは模擬レースでも、ゲームでも同じ。テイオーはタイシンの闘志に火をつけてしまったことに『アチャー!!』といいたい心境であったが、勝負そのものは受けた。そして、カーレースもののゲームで勝負したのだが。

 

 

「オーバースピードだよ、曲がれない」

 

「……ッ!!くっそぉぉぉ――ッ!!曲がれぇぇぇ!!」

 

コーナリングで無駄に熱いやりとりを交わす二人。ゲームセンターの店主がやりとりの雰囲気を察し、ユーロビートを流したため、二人はそんなBGMに乗せられる形でヒートアップしていき、ギャラリーも増えていく。

 

「……いいテクニックしてる。だけど、設定しだいで、シリーズ物でも、特性が変わる場合がある。それを掴まないと」

 

テイオーは冷静に、ゲームの中のマシンを操る。ステアリング操作も手慣れたものだ。対するタイシンは音ゲーやスマホゲームアプリ主体のゲーム生活が続いていたため、実機でのカーレースものは久方ぶり。リアル志向のセッティングがされた筐体の操作に戸惑ってはいるが、マルゼンスキーに付き合ったりしたせいか、マニュアル車のシフトチェンジ操作に戸惑う事もなく、テイオーに追従できている。実車に近い挙動が売りの筐体だが、二人の操作はその目的を満たすものであったのは確か。また、ウマ娘世界と違い、疫病で衰退傾向が加速しつつあるゲームセンターにとっては絶好の起爆剤であるのも確か。

 

「ギャラリーが多くなってきたね?」

 

「ブルった?……後で吠え面かかないでよね。あたしが本気だって事、教えてあげる!!」

 

「ボクも……『ワガハイちゃん』のプレイヤー名は伊達じゃないって事を見せてあげるさ!」

 

二人の対決はヒートアップしていく。二人共、マルゼンスキーのドライブテクニックを見慣れ、レースでの攻め方を学んでいる。それは二人のレースのカンを養う効果もあった。二人のレース運びは(ウマ娘として)全く異なるが、レース戦略を立てるのに役立つ。そのため、少なからずのトレーナーがレースゲームを担当ウマ娘にさせている。オグリキャップやタマモクロス、マルゼンスキー(全盛期)、ミスターシービー(全盛期)のように、天性の才能と多少のアドバイスだけで、出走したレースを支配できる者はごく少数。テイオーとタイシンも才能は持つ方だが、それでも『最大ポテンシャルを引き出せる』状態でのレースは経験が少ない。どのような状態でも、高確率で勝ってきたシンボリルドルフ、脚がだめになる寸前のボロボロな状態でさえ、同期らの追従を許さなかったマルゼンスキーのように、いかなる場合でも『王者』に君臨し続けられたケースは少ない。オグリキャップは、ライバルの引退に伴う精神的ショックの大きさで、G1を大敗した経験が選手生活晩年期にあるし、ナリタブライアンは史実においては、股関節炎をきっかけに、その地位は凋落。ミスターシービーはその能力の衰えがルドルフの台頭に重なった結果、能力がルドルフに劣るという評価が定着してしまったからだ。

 

「負けないもんねー!」

 

「必ず追いつく、追い越してやる!!」

 

 

――テイオーもルドルフの正統後継者という自負がありながら、『ターフの王者』になりそこね、タイシンは三強の一角に数えられながら、先代の三強である『平成三強』のようにはなれなかった。その悔しさが二人がハングリー精神を持つきっかけとなっている。ギャラリーが二人の正体を知れば、どよめくだろう。競馬界で名を馳せていた名馬の転生であり、しかもそれが時代を担ったレベルの名馬であると…――

 

 

「ん…。何だ、あの人だかりは」

 

横浜にダグラムを運び終え、テイオーと別行動で商店街をぶらついていたナリタブライアンはゲームセンターが妙に賑わっている事が気になり、覗いてみると…。

 

「あいつら、何をしている?」

 

レースゲームでタイシンとテイオーの二人が張り合うのを目の当たりにし、若干呆れた様子だが、インドア派のタイシンがムキになるのは、親類のナリタブライアンにとっても珍しかったため、二人にバレないように、そっと見学することにしたのだった。

 

 

 


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