――マルゼンスキーが怪我が奇跡的に完治した後、レースに戻った理由。それは自身で言っている。『同期らへの弔い』だと。マルゼンスキーは母であるニジンスキーの才能を色濃く受け継いでいたが、生まれた時代の不幸でクラシックレースへの出走権がなかった。そこはいい。だが、その才能があまりに抜きん出ていたことが、同期らを尽く、不幸のどん底に突き落とした。マルゼンスキー自身も学園から同期が自分への呪詛と共に去っていくことに耐えきれず、引退直後は精神を病んでしまっていた。トウショウボーイは本来、マルゼンスキーに会長職を譲るつもりだったが、マルゼンスキーの同期らのマルゼンへの憎悪ぶり、自身に今しばらくの時間が残されていたことから、結局はシービーとルドルフの入学後しばらくまで在任した。結局、マルゼンスキーの同期らは全員が学園を去り、マルゼンスキーはご意見番のような立ち位置で学園に居残った。また、引退したのにも関わらず、ドリームシリーズへの出走権を無条件で与えられたのは、彼女そのものが設立の発端だったからである――
――新野比家――
「何故、アンタがオグリさんの台頭する時期に、ルドルフを動かしたのか。その謎が解けたよ」
「ええ。私は母さんの子の中で、一番に速かった。だけど、私は足の脆さが災いして、八戦しか走れず、同期からは白い目で見られた。……辛かったわ、あの時は。」
マルゼンスキーは結果を見るなら、その同期らを不幸のどん底へ突き落とした張本人。だが、マルゼンスキーにも抗えなかった時代の壁があった。協会も、ハードバージらの死去などで世間的に責められ、引退後の福利厚生制度の充実に舵を切るしかなかった。マルゼンスキー自身にも深い傷を残し、生存する同期らから疎外され、ついには同世代は学園に残らなかった。マルゼンスキーの引退後の人生も狂ってしまったわけで、マルゼンスキーが学園に未だ在籍できている理由の一つは、偉大な母『ニジンスキー』の存在が大きい。日本ウマ娘競争協会は彼女の存在を恐れており、マルゼンスキーに特例を許している。マルゼンスキーは親の七光りではない実績があったが、同期らからは『ダービーの名誉を汚した』と忌み嫌われた。それを表に出させないように、学内で押さえつけていたのが、TTGの三人なのだ。しかし、クラシックレースの勝者となっても、マルゼンスキー世代は世間から『マルゼンスキーの敗者復活戦だろー?』と謗られ、正しく認められず、同世代でも有力なウマ娘たちが、その当時には『引退間近』とされていたTTG(その当時には、競争者としての盛りを過ぎつつあった)にさえ、尽く歯が立たなかった。結局はその事実が後世に禍根を残し、オグリキャップの時代にそれが遂に噴出。テイエムオペラオーが台頭するまでに規則は改定されたが、その恩恵を受けたはずのテイエムオペラオーは本人の芝居がかった大仰な振る舞いもあり、世間的な人気は低い部類であり、協会にとっては『スターである』とは言い難かった。
「世間は勝手なものよ、ブライアンちゃん。あなたも覚えてるでしょう?」
「私の場合は三冠馬だっただけに、尚更な。オペラオーにしても、アグネスデジタルに記録を阻まれてからは精彩を欠いている。ライバルがドドウしかいないのが不幸だな」
「ディープインパクトやオルフェーヴルのように、世間的にも人気があればいいほうよ。ディープインパクトの子のコントレイルは勝ったレースよりも、先輩のアーモンドアイの名声に華を添えた事が記憶されるから」
三冠を取っても、その後に落ち目となれば、名声は色褪せる。ミスターシービーがシンボリルドルフに敗北を重ねたように。ナリタブライアンが怪我のあとは精彩を欠き、とうとう引退レースもできず、競走馬としての致命傷で引退し、種牡馬としても後継を出せずに早世した事が証明している。アーモンドアイのように、ルドルフの記録をあっさり抜き去り、後輩らの三冠の名誉すら色褪せさせた(アーモンドアイ自身も三冠馬である)まま、引退まで自身の名声を保ったケースは奇跡に属する。
「アーモンドアイ、か」
「日本史上最強の女帝。牝馬が牡馬と対等の能力を持った時代の牝馬三冠だから、メジロラモーヌの時代とは意味合いが違うわ」
アーモンドアイ。日本史上でも最強の牝馬三冠馬である。その力の意味を関係者よりも理解しているのが、名馬の生まれ変わりであるウマ娘達というのは面目躍如である。
「そういえば、ルドルフも、プレストウコウのことは知らなかったようだな」
「あの子の入学前の事だもの。メジロアサマさんの事は知っていたようだけど」
「芦毛は走らない……なんて、誰が言い出したんだ?まったく」
呆れ気味のナリタブライアン。世の中は勝手気ままだと感じているようだ。
「私だって、同世代の尽くを不幸のどん底に落としたことに負い目を感じなかった日はなかったわ。だから、怪我が奇跡的に治った後にドリームシリーズに登録したのよ。プレストウコウやハードバージ、ラッキールーラへの償いなのよ、ドリームシリーズに出ることは」
マルゼンスキーはドリームシリーズへの出走は不幸のどん底へ自分が落としたようなものだという同世代のクラシックレースの勝者たちへの償いをしたかった。だが、三人は引退後はいずこかへと姿を消した。マルゼンスキーは償いたいため、母のツテも使い、手を尽くして探した。だが、それを以てしても見つけ出す事はできず、意気消沈していた数年後、ハードバージとラッキールーラの死去が報じられた。クラシックの覇者の経験者としてはあまりに悲惨極まりない最期であった。マルゼンスキーはこれが負い目となり、怪我の完治後はカーレースにのめり込む、ドリームシリーズの設立後は必ず出走する、ウマ娘の福利厚生の改善の旗振り役になるほどの心の傷となっている。また、自身の後輩らに親身になるのは、現役時代に同期から敵視されていた事の反動ではないかとされる。
「あんた、現役時代は嫌われていたのか?」
「同期からね。『あんたに日本で走る権利はない』ってまで罵られたわ。でも、世間は私を持ち上げていたから、不祥事を恐れた学園の判断で、それが表に出る事はなかったけどね」
マルゼンスキーも相応に『強すぎた故の不幸』に逢い、精神のバランスを崩しかけていた。その時代の学園のギスギスした空気は、協会が言わば『黒歴史』とし、ルドルフとシービー世代が入学する時期には闇に葬っていた。マルゼンスキーも同期らの事は語ってこなかったため、半ば忘れ去られている。現在で言うG1を勝ったウマ娘らが尽く、『世代最強格への敗者』と扱われ、引退後も不遇の人生を送った事は、ウマ娘競争協会にとっては『闇に葬るべきもの』だった。
「まさに、黒歴史だな」
「ええ。だから、羨ましいのよ。切磋琢磨できる同期を持てる子達が……スペちゃんは……孫だもの、前世での…ね」
マルゼンスキーの不幸は『TTGの三人の直接の後輩にあたる世代』で、マルゼンスキー世代がクラシックを走る頃には、三人はシニア級の覇を競っていた』というほど、年齢がさほど離れていなかったことも作用している。つまり、TTGの『玉座』を脅かせる実力を、当該世代はマルゼンスキーしか持っていない事の証明をするのみだったのだ。その最後の一人『グリーングラス』にマルゼンスキーの同期らが太刀打ちできなかったため、『マルゼンスキーが健全であれば、彼女らを打倒できたのに』とする『夢』だけがターフに置き去りにされた。マルゼンスキーもそのことに未練があるらしい。
「あんたの夢の一つは、子のサクラチヨノオー、孫のウイニングチケット、ライスシャワー、スペシャルウィークが代わりに果たした。更に言えば、カレンチャンもひ孫だ。だが……あんた自身の『残り滓』は今がそのチャンスかもしれない」
「ええ…。この前はトウショウ先輩に負けちゃったけど、機会があれば、テンポイント先輩とも走ってみたいわ……。全盛期のテンポイント先輩はまさに……みんなの憧れだったもの」
マルゼンスキーも、一期上のTTGとの対決を夢見ていた。それは自身の足の『爆弾』の爆発で泡と消えたが、運命の悪戯か、神の慈悲か。夢物語では無くなりつつある。それを見越しての言葉であった。
――トレセン学園最速の座はサイレンススズカのものだが、歴代最強格は誰かという点では不毛になる。現時点に籍を置いているウマ娘達は、マルゼンスキーの後の時代、日本の競走馬のレベルが世界に通用するようになってからの競走馬の魂を持つ者たちだからだ。特に、エルコンドルパサー、スペシャルウィーク、グラスワンダーの三羽烏は協会からも大いに期待されていた。だが、スペシャルウィークとエルコンドルパサーはトゥインクルシリーズをあまり牽引しない内に、次世代へ襷を渡してしまい、グラスワンダーが燃え尽き症候群になってしまったという予想外が発生し、その次の世代のテイエムオペラオーは同等のライバルにあまり恵まれない故か、世間的な人気は出ていない。むしろ、オタク気質でありながら、そのオペラオーに敗北の二文字を突きつけ、ダートでも活躍中のアグネスデジタルが注目を集めている。アグネスデジタルは自身のオタク気質のために気づいていないが、前代未聞の二刀流の脚質、更に、あのオペラオーすらも正面から叩きのめすほどの潜在能力を備えた『異能』レベルの逸材。急激に頭角を現すデジタルだが、ゴルシ曰く『オタク的意味で危ねー奴だ』との事で、ルドルフ達にオタク知識を授けるなど、妙なところでも活躍中である――
――ゴールドシップは『悪者になる』ことで、マルゼンスキーの闇を暴き、トウカイテイオー、ナリタタイシンの両名に精神的な意味での再起を促すなど、破天荒な評判と裏腹の面倒見の良さが示された。また、ディープインパクトを慕う、メジロの血縁者である事をメジロアサマに示すなど、『史実』の情報を踏まえての立ちふるまいも増えてきている。また、ルドルフ、オペラオーに次ぐ戦績を示したため、生徒会も文句をあまり言えなくなっており、エアグルーヴはゴールドシップの扱いに難儀しているという――
「ゴールドシップさん、生徒会から文句があまり来なくなったのって本当なんですか?」
「生徒会のメンバーになったし、あたしはG1を六勝したからな。グルーヴも頭抱えてんだと」
「その割に、あの事件はぁ~……。せっかくのスイーツがぁ……」
「あれはシャカールのせいだっての。殿下は気に入ってるようだが…」
ゴールドシップは『例の事件』からは、エアシャカールとはあまり折り合いが良くない。しかし、ファインモーション(英王家の王位継承権を持つ王女。実家はアイルランド王家の血筋だという)が気に入っている事、ファインモーションを殿下と呼ぶなど、ルーデルから得た『TPOの弁え』を生かしているようだ。
「ゴールドシップさん、何かありました?時々、雰囲気が違うような?」
「色々あったんだよ、スペ」
微笑みでごまかすゴールドシップ。とはいえ、ルーデルの記憶の流入でかなり考えたらしく、纏う雰囲気がルーデルの持つものになっている事が増えてきている。『ウマ娘世界の今後のために』という意識が芽生えたのか、多少は良識を弁えるようになったらしき行動も見せている。
「テイオーの事、マックイーンの事……お前のこと…」
「……すみません」
「気にすんな。キングヘイローは必ず見つかるさ」
キングヘイローはアメリカに向かった事は判明したため、ファインモーションの実家の力も借りる形での捜索に移行した。足取りは掴め始めており、希望はある。ここ最近は意気消沈していたスペシャルウィークだが、ようやく明るい光が差し込みつつあった。
「ところで、業者の人たちが運び出してた、古そうな戦車はなんだったんですか?」
「博物館に売り払った、旧日本軍のもんだ。この世界じゃ、まともな状態で残ってんのはねぇからな。向こうの世界で退役したのが高値で売れんだと」
九七式中戦車の新砲塔型、三式砲戦車など、既に旧式化し、扶桑軍から放出された装甲戦闘車両は日本で博物館の展示物になる運命を辿った。第一線兵器は既に戦後世代の外国産戦車や五式砲戦車二型(砲を155ミリ砲に換装し、自走榴弾砲としての運用に特化した甲型、対戦車能力を維持するため、120ミリ戦車砲を備えた乙型がある)などの新式に切り替えが済みつつある扶桑軍はそれらの購入費に、旧式化した兵器の売却で得られる利益を少なからず充てていた。」
「なんか、遠い世界ですね」
「そらそうだ。旧式の車両を打った利益で新型を買うってんだから、向こうのお財布事情が知れるぜ」
ゴールドシップも同情するように、扶桑は日本の横やりで、1950年までに旧式化している兵器を処分せねばならず、三式砲戦車のような『比較的新しい兵器』も放出の対象とされた。その代替が『五式砲戦車二型』であった。時代の流れに乗っかり、120~155ミリ砲を備える改良型であり、廃れ始めた『駆逐戦車』というカテゴリの掉尾を飾るに相応しい威容となった。また、装甲も時代相応に傾斜装甲が取り入れられ、外観の大まかなイメージは甲型がエレファント、乙型はヤークトタイガーに近い。ただし、従来車両と比較にならないレベルの高価な兵器であるのと、重量の都合で、1949年当時の本土には配備されていない。これは舗装道路が首都圏エリアすら、それほど整備されていないからである。本来のパートナーである国産戦車群は『旋回砲塔には75㎜砲が限度であろう』という1943年当時の予測が打ち破られた結果、74式戦車(装甲や自動装填装置搭載化中心の改良型)の配備も遅延した事から、1949年当時は使用車両の主流から外れているので、人手不足を補うため、『本来は搭載しない車両』にも自動装填装置は(当時の扶桑人の体力と平均身長では、105ミリ以上の口径の砲弾の人力装填は困難である)が搭載された。これは自動装填装置を持つ10式戦車がダイ・アナザー・デイで猛威を振るったおかげである。
「博物館かぁ。ゴールドシップさん、近頃はよく行ってますね」
「展示物の監修のバイトがあってさ。日本って、自分らに縁の薄い分野は粗雑に扱うからな。それに、ウマ娘がいない世界じゃ、それなりにやんねーとな」
ゴールドシップは競走馬としての自身の名声を活用し、バイト先を確保している。また、街の出店で焼きそばやたこ焼きを焼いたりしているなど、G1を六勝した強豪の割に、意外に世俗じみている側面がある。そこがゴールドシップの人気の秘密であった。
――同じ日、ライオン級戦艦が日本に親善のために寄港した。ダイ・アナザー・デイの殊勲艦であり、本来は新鋭艦と交代しての退役が予定されていたが、ブリタニアの財政難、海軍の事情もあり、現役続行となった。(曰く、艦齢も新しいので、スクラップにするにはもったいないとのこと)キングジョージⅤ世級が『古い』事を理由に、予備艦扱いであるが、事実上の『王室用のヨット』とされたのに対し、こちらは正真正銘の第一線艦である。砲塔を新式に変え、各部の問題点をブリタニアの現有技術で是正した第一次改装タイプと言っていい。これは新鋭艦に次ぐ砲力があったのと、ダイ・アナザー・デイでの戦功が大きかった。一応は史実艦ではあるが、未成艦だったため、その威容は史実で言う、ヴァンガードに近かった。ただし、史実の情報で『艦橋の装甲司令部』は改修で復活している。(艦橋への被弾で容易に要員が死傷することが史実であったため。また、戦闘司令所を艦内に設けられるだけの空きスペースがなかったためでもあった)搭載された未来兵器は電測兵装中心であり、武装の近代化は部分的なものに留められている。これは日本連邦と異なり、戦艦一隻に『万能性』を求めないからで、運用思想面は曲がりなりにも『大英帝国』である事がわかる――
――一方、日本連邦は『一騎当千』を戦艦にコストパフォマンスを大義名分に、強く求めるために、『万能性』を与える傾向が強く、新戦艦は思いつく限りの未来兵装を搭載され、船体構造にすら手が加えられている。日本特有の事情が作用するため、単艦性能が突出してしまう結果となり、護衛艦隊の方を近代化する必要が生まれてしまったほどである。ライオンが、その近くに停泊する改大和型に比して『時代相応の艦容』なのは、戦艦の単艦運用をあまり考えていないお国柄であるからだ。――
――この日のニュースは戦艦『ライオン』の親善訪問で占められた。アイオワ級戦艦とほぼ同等の威容を持つ同艦はブリタニアの武威を示すのに充分な効果を見せた。1939年から1942年にかけての起工であるため、普通に考えれば、1949年時点では、充分に第一線級の艦齢である。戦艦という艦種が生き長らえた世界の船である以上、主砲弾も1152kgの重量弾を用いる。新戦艦の中では『中程度の能力』と評されているが、日米の怪物が異常なだけで、欧州戦艦の中では最優秀に属する。旧式戦艦が一斉に解体、もしくは予備役入りしたブリタニアにとっては『連邦の武威を示す』道具であり、かつての『フッド』に代わる外交手段であった。ダイ・アナザー・デイでの武功もあり、欧州戦艦で最強と誇るものの、カタログスペック上ではガリア製の40.6cm砲に及ばない。しかし、『大和型戦艦と共に戦える能力』がある点が重視され、運用終了予定が変更され、1949年でも現役にある。旧式戦艦が戦力外通告を受けたダイ・アナザー・デイ以降でも現役である点は稀有な既存艦であった――
――ブリタニアから日本連邦に提供されるセンチュリオン戦車、コンカラー重戦車が、ライオンに随行してきた貨物船から続々と降ろされる。日本連邦は扶桑の兵器生産を全面的に民間委託しようとした混乱もあり、国産の『新戦車』を満足に生産できない有様であるが、戦時であるため、外国産戦車の購入が現地部隊の独断で進められるに至る。センチュリオン、コンカラーは扶桑での足回りや装甲などの改良が施され、前線へ回されている。日本は扶桑にそれらを提供する前に、あれこれの改良を施している。元のままでは機動力や『継続的な生存性』に難があるため、21世紀の技術で改良を施すのである。国産戦車の増産が上手く進まない現状での手っ取り早い策が『同盟国から供与してもらう』というもの。ブリタニアも日本連邦の持つ先進技術が是非とも欲しかったためと、外貨獲得のためもあり、センチュリオン、コンカラーを快く供与。有に500近い同車両が第二陣として供与され、日本で改良作業中であった。扶桑が自前で行うものと違い、足回りや防御面中心であるが、(日本から見て)旧型車のアップグレードとしては、堅実な改修であった。これらは前線に輸送され、旧式車両を置き換える。機甲戦重視になっているため、後方や別戦線からは大いに不満もあったが、南洋島は機甲戦が大規模に行えるに値する土地柄である上、軽戦車すら、75ミリ砲を持つに至った時代故に、南洋島に殆どが回されていく。扶桑皇国が『たった数年での戦車の異常な発達速度』に困惑しているのは、ウィッチ装備にリソースが奪われることが少なくなったおかげである事実だけで、『戦前の軽戦車』が玩具同然の扱いへ堕ちるとは思ってもみなかったからで、そこも見通しの甘さを指摘されてもしかたない、扶桑の当局の楽観的思考であった――
――遠征側では、のび太が裏方で獅子奮迅の活躍を見せていた。この日は専用にチューンアップされたF-20を駆り、制空権を確保すべく戦闘中であった――
「最後の一機、もらったっ!」
機首のパルスレーザー(リボルバーカノンに変えて装備)を斉射し、敵のMIG-21を撃墜する。東ドイツ時代の機材が使われだしたため、のび太も相応の機体で相手をしている。世代の違いもあり、MIG-21はF-20にあえなく撃墜されていった。単機で、MIG-21の四機編隊を返り討ちにするという戦果を安定して挙げられるのび太は、軍人であれば『エースパイロット』の称号を頂いていた事は想像に難くない。
「ガキの頃、冒険で何度か宇宙戦闘をした甲斐があったな。こちらドラ・ワン。デルタ・ワンへ。帰投するよ」
「ご苦労。着陸はB滑走路を使え」
「わかった」
この頃になると、街全体が敵の手で封鎖された事が正式に確認されたため、キュアアクア/水無月かれんの邸宅の広大な敷地は連合軍の野戦陣地と化し、まだ手が加えられていなかった部分を『臨時の飛行場』にされていた。意外に本格的で、ジェット戦闘機の補給地としては充分なものだった。機体を着陸させ、圭子に報告を済ませる。
「意外に、本格的に仕上がったね」
「映画撮影の名目で、かれんの実家のツテを使ったが、意外に本格的だから、パットンも大笑いだ。もったいないから、事後も自家用飛行機用に使うってよ」
「それなりに金かけたからかな?」
「多分な」
機体から降り、ダイ・アナザー・デイから着用している対Gスーツ(見かけは現用規格の軍用のもの)を着たまま、駐機場で圭子と報告がてらに談笑するのび太。
「子供たちは?」
「今は綾香が鍛えてる。仮面ライダー四号の前に、TV通りの能力で出てみろ。秒殺されるぞ」
「あの子、老師仕込みの無茶な特訓させっからなぁ」
「老師・童虎の教えはハードだからな。この世界のガキどもがついてこれるか」
「変身した状態でさせてんしょ?」
「アクアとミントは分身ハンマーのコピーだから外して、後の三人を鍛えてるようだ。あいつ、素でミルキィローズ以上のパワーあるから、ロースは涙目だろうよ」
「黄金聖闘士は伊達じゃないようだね」
「あいつは歴代でも異端児だそうだ。素のスペックを引き上げた上で、小宇宙を燃やしてんだから。だから、シンフォギア世界で事実上の拘束具を着てる状態でも、黄金級の小宇宙を引き出せたと聞いた。それで、二人の運命を変えちまったがな」
調と切歌の運命は史実と大きく違ったものになったし、シンフォギア装者からもプリキュアとなった者が生じた。だが、大まかな結果としては、翼は父(実際は兄だが)を失わずに済み、マリアはプリキュアに転生した妹のおかげで、『生きがい』を完全に取り戻している。響は色々な困難もあったが、自身がプリキュアとなることで、それまでの様々な事を俯瞰し、以前は許せないと考えていた事も『許せる』ようになってきている。ただし、何かの前触れか?と思われる節のある現象もある。立花響とその実父との和解は無事に成ったが、その矢先に、彼がバイト先のガソリンスタンドで、同僚らの目の前で『穴に飲み込まれ、消えた』のである。突発的かつ局所的な次元震現象であり、なぜ、彼が選ばれたように『消えた』のか?謎が残った。
「それに、神々はあのガキに過酷な運命を背負わしたいらしい」
「お父さんの『消失』か。高次元世界……例えば、バイストン・ウェルや天空界とかに飛ばされちゃ、時空管理局も手出しはできない。普通の次元世界のような『座標』がない世界だからね。その線も考えておこう」
「おい、聖戦士だとか、神将なんてのがあるなんて…」
「聖闘士やサムライトルーパーが実在したんだ、天空戦記シュラトとかもあったって、別に不思議じゃないだろ?」
「確かにそうだが…」
「それに、あの子は家庭を元に戻したかったようだけど、一度壊れたモノは『奇跡でも起きない限り』戻らない。彼は家庭を自分で壊したんだ。神様が相応の禊をさせるために、苦行を課した。そう考えると、しっくり来る」
「そうなると、さながら仏教の世界だな…」
「実際に、仏教徒が聖闘士してるんだし、仏教の神々はオリンポス十二神と協力関係にあるんだろうね」
紫龍たちの口から、少なからずの地の神話の神々は実在していて、平行世界すら跨る形で、聖戦を繰り広げている事は確認済み。高次元世界が実在することも、『エリシオン』などで確認済みである。『彼』はそんな次元に送られたのだろうか。
「しばらくは別人として生きさせた後に送り込むのかもね」
「お、おい…」
「罪の禊には、何かしらの犠牲がいるもんだよ。彼はそれだけの行為をしたもの」
立花響の父『洸』は娘がノイズ災害から生き延びた事によって生じた悪影響をモロに受け、会社での地位を失い、窓際族に追いやられたショック(それまでは有能な社員であり、子煩悩な人柄であったが、それまでの社会的地位を失ったことで暴力に走り、家族を見捨てて失踪していた)で家族に暴力を振るい、更には会社を解雇されたのを期に失踪するなど、全くもっての自暴自棄に陥っていたが、おおよそは史実通りに和解できた。だが、それまでの暴力などの罪を神が見逃しはしなかったというところだろう。
「あの子はそれに気づいてるかもしれない。それでも、僕たちと共に戦う道を選んだ」
「あいつはなんで、双方の力を使うことを選んだ?」
「宿った記憶を、ただ頭ごなしに否定したくはなかったんだろう。花寺のどかとしての記憶を、ね。別人格は別人格、彼女は彼女個人として、プリキュア因子を前世から持ち越していた。それがのぞみちゃんとの出会いで覚醒めていった。多分、プリキュアの力の変質は彼女個人の意思だと思う」
キュアグレースへの変身能力を獲得した後、その力は本来とは変質した面が目立つ事が判明している。ヒーリングステッキも、パートナー妖精も無しに変身をし、ステッキ無しで変身の維持、戦闘が可能。これは彼女個人の強い想いが作用しつつも、プリキュアとしての前世を否定したくない、また、キュアドリームへの憧れなどの心境が生み出した奇跡であった。それでいて、シンフォギア装者で居続けているのは、双方の生き方を尊重したいからだろう。
「しかし、この世界のプリキュア5はそう簡単に強くなれないぞ?」
「彼女達も、二人の光太郎さんに守られてきてるから、自分の微力さを痛感してるはずだ。自分たち以外のプリキュアの存在も認識できているから、他のプリキュアとの共闘もあったのは確認できてる。こっちののぞみちゃんのような『土壌』はないけれど、心は同じはずだ」
のび太は黒江が老師・童虎仕込みの猛特訓で、『B世界のプリキュア5』を鍛えている事を前向きに見ている。子供の頃と違い、自分で未来を掴んだ後の時間軸の彼であるのもあるが、ドラえもんとの生活で『強く生きる』事を学んだ姿がそこにはあった。
「……はーちゃんたちが惚れるはずだ」
「あの子達の前で、かっこ悪い姿は見せたくなかったからさ。はーちゃんとの生活、みらいちゃんたちに教えたくてね」
冗談めかしつつも、自分を律して生きるきっかけとなった二人に感謝している事、ことはは『プリキュアとして知られる以前から、存在が確認されていた』プリキュアであり、時間が経つにつれ、フェリーチェとして過ごすほうが多くなった。これは元の姿だと、外見と内面がアンバランスになってしまい、学校生活をやり直す時に『言動や行動に幼児性が出てしまう』のを、周囲が気にした事が本格的な始まりで、実際に、大学の四年間はフェリーチェに変身した上で通っていた。また、そんなことはの健気な姿、調の献身もあり、のび太は大人の男へ脱皮できた。
「そうそう。学生の頃……中学の時に撮った写真が出てきたんだ」
「ん?」
その写真は2004年前後の日付のもので、旧・野比家で撮られた末期のもの。受験勉強の息抜きで、野比家総出でキャンプに出かける時の一枚で、肩を組むドラえもんとのび太の両隣にことは、調がそれぞれおり、その後ろにのび太の両親(当時は40代頃)とドラミが写っていた。
「ドラミも一緒に?」
「受験勉強の度に、おふくろはピリピリしててね。気晴らしにって、ドラえもんが呼んだんだ。ドラミちゃん、二人の面倒を僕が見ることになったって話すと、パニックされてね。まぁ、いい思い出さ」
「まぁ、昔のお前ならな」
ドラミとも二人は面識がある事、ことはにフェリーチェの姿で過ごしてみる事を提案したのは、意外にもドラミだったらしい。圭子は意外そうな顔で、のび太と話を続けていくのだった。