――太平洋戦争の頃になると、ジオン残党もネオ・ジオンの解体で勢いを無くしており、ティターンズ残党と手を組むどころか、共々にバダンに与するという有様であった。それを迎え撃つ立場の扶桑軍は明治期からの伝統の少なからずが断絶させられたが、自衛隊でも受け継がれたものについては、そのまま継続され、週末にカレーライスが出るという自衛隊の慣習が扶桑全軍に広がったりした。扶桑軍は基本的に、一定の戦功がある将校ならば、かなりの自由が認められるようになっていた。これは戦時下の慣習のようなものであったが、戦時の長期化と日本軍との違いを出すためもあり、軍規に記載されるに至る。64Fはその規則が最初に適応された部隊となった。501を取り込んだ状態のままで、扶桑軍としての任務についた事は批判も大きかったが、カールスラントの有能な人材を扶桑の一存で使えるという利点は大きかったので、そのまま承認された――
――遠征が始まって八日目、戦況は膠着状態であった。敵味方ともにモビルスーツを投入したからでもあった。連合軍側は第二次ネオ・ジオン戦争以後の機体を、バダン側はグリプス戦役当時までの機体を投入したが、戦場の都合で、全力を出すわけにもいかない事もあり、一進一退であった。また、互いに処理の容易なように戦うため、見かけの派手さと裏腹に、意外に失われた機体数は少ない。地球連邦軍側の機体の強度が技術革新で上がっていた事も大きい――
「敵も、モビルスーツを使ってきたか」
「その内、ジオングの脚付きくらいはだしてくるかもしんねーな」
「グレートやノワールはその時に?」
「スーパー系は破壊力あるから、おいそれ出せないんだよ。あたしらが聖闘士の技を加減してるようなもんだ」
「でも、先輩、よくウマ娘達に入れかえロープを渡しましたね?」
「学園、いや、協会からの通達で、世間一般からのイメージを崩すような行動を自粛しろって来てな。あいつらも相当に困ってんだ。だから、入れかえロープで、当直のプリキュアと入れ替わるのを、ストレス解消にどうだって薦めたんだ」
黒江の言う通り、入れかえロープはゴルシに渡されているが、意外に真面目な用途に使っていて、許可の取れているプリキュアの仕事を体験させている。
「それで、明日からの休暇で、ナリタブライアンさんと会えっていうのは?」
「彼女の姉のビワハヤヒデ君からの要請が来てな。気分転換させてやりたいと言うことだ。彼女は三冠馬だ。相応の器が必要だから、並のプリキュアでは相応しくないと、ビワハヤヒデ君からの要望がきていてな。お前、ちょうど休暇だろ?」
「そりゃそうですけど、ナリタブライアンさんのキャラを演じられる自信、ないんですけど」
「多少のブレは誤差の範囲だ。ナリタブライアンの粗野な振る舞いが固定になったのは、三冠を取り、生徒会の副会長に任ぜられた時期から。それまでは、外部向けのインタビューなどでは、猫を被っていたそうだ」
これはハヤヒデからの情報で、現在の粗野な振る舞いは三冠を獲得したことで、世間的に地位を得て、個人の素を見せられるようになってからのもので、新人~三冠獲得までは『クール系のウマ娘』を装っていたという。声色も現在より多少は高めのものだった事から、加齢によるトーンダウンもあるのだろう。
「当分は膠着状態が続くだろう。リフレッシュしてこい。交代で、キュアラブリーを呼んであるから安心しろ。一週間経ったら、のび太が迎えに行く。武子には、お前の休暇届を出しておいた」
こうして、のぞみは定期休暇ということで野比家に戻り、黒江からの指令ということで、シンボリルドルフ、エアグルーヴ、トウカイテイオーが見届け人となり、ナリタブライアンと入れ替わった(能力はお互いに使える)。
――野比家――
「なるほど、これが入れかえロープか」
「タイシンの奴がよく使っているというが、なんだか妙な感覚だな」
「我々は人の胚に競走馬の魂の性質が強く発現して生まれ、進化してきた種族だから、馬耳と尻尾の有無以外、生物学的には『ヒト』だよ」
ウマ娘は生物学的には不可解な点が多い。能力面の全盛期はかなり短く、外見の衰えよりも、能力面の衰えが先に来る。シービーが一年あまりで全盛期を終え、ルドルフに負けていったように。それはサラブレッドの特徴が強く発現した故の悲劇でもある。ゴールドシップはゲッター線の力で、ヒト型に進化しても、自分らを縛る『サラブレッドという種の脆さ』を断ち切るべく、ゲッターに魅入られていっている。実際に、史実通りに悲惨な運命となったマルゼンスキー世代は『協会の黒歴史』として扱われ、英国の名ウマ娘であったニジンスキーの実子であるマルゼンスキーが実家の力で八方手を尽くしても、消息すらつかめずじまいの三人。クラシックレースを制したはずのウマ娘たちが不幸のどん底に堕ちたという経緯は、以後のマルゼンスキーの心に暗い影を落とした。
「マルゼンさんはどうした」
「ゴールドシップがボコボコにしただろ?それで、昔の心の傷が開いたようで、狂ったようにトレーニングを始めている」
「どういうことですか、会長」
「私はもう、会長ではないよ。マルゼンの過去にまつわる事を話さなくてはならんな」
「ああ、競馬ファンには有名な」
ナリタブライアンと入れ替わったのぞみが口にする。錦の姉の小鷹と従姉が競馬好きであること、前世での父が付き合いと道楽で競馬をしていた事もあり、ある程度は知識を持っていた。そのため、そう言ったのである。
「どういうことです、夢原少佐」
「マルゼンスキーさんの同期は、尽くが不幸のどん底に陥ったそうです。あたしも、昔に親父と、その友人たちから聞いただけなんですが」
のぞみは前世の30代以降には、父親を『親父』と呼んでいたようである。面と向かっては言わないが、母親らがいない時は『親父』と呼んでいたらしい。
「マルゼンスキーの同期は、とにかく不幸でな。ヒシアマゾンの先輩のヒシスピードは……マルゼンスキーに食い下がったが、まるで歯が立たなかった。ヒシ一族の嫡流のレースでの足跡は、彼女の引退後にレースの世界と縁を切ったことで絶え、ヒシ一族自体も衰退してしまった。ヒシアマゾンは……ヒシマサル(二代)の後継だが、彼女らはヒシの名跡を継いだだけだ」
ルドルフもトウショウボーイから聞いただけだが、マルゼンスキーは歴史のある『ヒシ一族』の嫡流を断絶に追い込んだという大罪を背負っているという。更にいえば、マルゼンスキーのあまりの実力は現役時代、『市販のセダンのレースに、フルチューンのフォーミュラカーが混ざるようなもの』とされたほどのもの。ヒシスピード(ヒシ一族の嫡流の最後の生き残り)の心をマルゼンスキーが図らずもへし折った結果、彼女はターフを失意のうちに去り、程なくして、ヒシ一族そのものも没落していった。ヒシマサル(二代)は没落した一族の名跡を継いだ者。その更に後継ぎがヒシアマゾンなのだ。
「他にもいたよね」
「ああ。ハードバージ、ラッキールーラ、プレストウコウ……。私とシービーが入学するまでには、学園からも去っていたよ」
ルドルフも話に聞いただけだが、マルゼンスキーは現役時代、他のウマ娘のトレーナーに『あんな奴に、日本で走る資格はない』と陰口を叩かれたといい、あまりに強すぎた故に周囲を不幸のどん底に落としていく事は協会を震撼させたという。
「同期から疎外されていた事が、マルゼンのその後を決定づけた。恨みつらみを宣った連中はマルゼンへの同情が強くなるにつれ、世捨て人になり、多くが隠棲生活に入ったという。だからこそ、私やシービーは、マルゼンの後継の王者になることが半ば義務づけられていた」
ルドルフやシービーはマルゼンスキー引退後のスターとなることが、半ば義務づけられており、二人は一年違いで三冠ウマ娘となった。
「……タイシンからか。……どうした、落ちつくんだ。何が……なに!?」
その表情がみるみるうちにこわばるルドルフ。
「どうしました?」
「ライスシャワーが……レースで故障を起こしたそうだ」
「ライスシャワーが!?」
「応急処置はしたか?ミホノブルボンが取り乱しているか……。いいか、ブルボンを落ち着かせるんだ。レースそのものは?……そうか」
史実では、ナリタタイシンの引退レースになった宝塚記念。史実と異なり、ライスとタイシン以外にG1経験のあるウマ娘はおらず、タイシンはゲッター線の力で『運命を超えた』が、途中でライスシャワーが史実通りに故障を起こし、歓声が悲鳴に変わるほどの悲惨な光景が起こったらしい。ターフの上で血まみれで倒れ伏すライスシャワーを目の当たりにし、真っ先に悲鳴を上げたのは、観戦に来ていたミホノブルボンであった。タイシンはレースを勝った(史実で勝ち馬となった競走馬にあたるウマ娘たちが参戦していないこともあるが)その足でライスシャワーの応急処置に走り、持ち合わせていた治療用のナノマシンを注入するなど、できる範囲で応急処置を施した。その処置が功を奏し、ライスシャワーは九死に一生を得たという。
「ブルボンが泣いて、なだめるのに大変?……そうか。慰めてやってくれ。ライス君は?……そうか。頼む」
ルドルフのタイシンとの電話は、ライスシャワーにふりかかった最大の不幸の報告であった。ミホノブルボンがライスシャワーの惨状にひどく取り乱していることは、会話の様子からもわかる。また、ライスが生死の境を彷徨うこととなったため、ウイニングライブは取りやめとなった。タイシンはそのまま、ミホノブルボンをなだめつつ、ライスが担ぎ込まれた病院の手術室で待っているという。(タイシンの指示で、地球連邦軍の拠点に担ぎ込まれ、大手術を受けている)。」
「やっぱり、ライスも因果に……」
「タイシンの応急処置が間に合わなければ、亡くなっていただろう。骨が飛び出すほどの重傷だったそうだ。できることはしたそうだが……脚が走れるように戻るかは、五分五分だそうだ…」
佐渡酒造が緊急手術を行っているが、ライスシャワーの脚が完治するかは『23世紀の医療技術を以てしても、五分五分』らしく、皆、深刻な表情になる。ミホノブルボンをして、取り乱して、泣きじゃくるほどの衝撃を受けたのだから、当然だ。ただし、ここさえ乗り越えれば、ライスは史実の先に行ける事でもある。ブルボンの祈りが通じたか、ルドルフへタイシンが報告を終えた10分後、手術は無事に成功したのだった。
「我々にできるのは…祈るだけだ。では、夢原少佐、貴方の体をブライアンが借ります」
「どう?」
「それほど違和感はないな。むしろ、私の要求に応えられそうなスペックがあるとはな」
「鍛えてるからね。それに聖闘士に準じる能力もあるから、君本来の体以上に動けると思う」
「そういえば……アンタは確か、プリキュアだろ?精神が入れ替わっていても、変身はできるのか?」
「精神が入れ替わっても、変身できるよ。君の体、しばらく使わせてもらうよ」
「ん?声のトーンが高くなってないか?」
「発声の仕方とかで、声のトーンは調整がある程度効くものだよ。吹き替えの仕事したことあるから言うけど」
ブライアンと入れ替わったのぞみがいう。他人と入れ替わった場合、声のトーンが多少は上がるらしい。のぞみの姿になったブライアンは不思議がるが、とにかく、そういうものらしい。
「私の体で、変な事はしないでくれよ。姉貴への近況報告が面倒になる」
「言っておくが、ブライアン。今回の事は、ハヤヒデも承知している。
「ルドルフ、お前……!」
「そう怒るな。ハヤヒデたっての願いでもあるんだ。三冠を取った後、低迷したことで、お前は世間から『終わった』と認識されている。協会も、新入生のディープインパクトに期待している」
「……勝手なもんだな」
「ゴールドシップの話だと、ディープインパクトは七冠を達成する器だそうだ。史実でも、君の後継ぎだそうだ」
「私は……返り咲きはなかったようだな」
「怪我の発症が致命傷になったそうだ。マヤノトップガンと競り合ったのが、最後の輝きらしい」
「なら、その結果を超えてやるまでだ。姉貴も回りくどい事を。おふくろから入れ知恵されたか?」
二人の母親はブライアンズタイムと思われる。史実での父母の役目が一人に統合されていると推測されており、二人はビワ一族とナリタ一族の双方の血を継ぐ存在であると推測されている。ブライアンはここで、新入生のディープインパクトが七冠を期待される逸材であることに嫉妬を見せた。自身が落ち目になったら、世間は一斉に掌返しをした事から、マスメディア嫌いになっているからだ。
「君はこの間の顔見世で話題になっている。だが、多少は愛想よく振る舞わないといかん。親戚のナリタブラリアンに影武者させるのも……」
「な、なんでそれを……」
「お前がマスメディアにそっけない態度取るから、影武者のブラリアンが苦労しとるのだ。少しは彼女に感謝しろ」
エアグルーヴが咎める。マスメディアへの対応はお世辞にも上手くないブライアンは、マスメディアへの対応を親類の『ナリタブラリアン』(ブライアンの親類である、ポニーのウマ娘。ポニーのウマ娘の中では最強を誇るウマ娘)に丸投げしていた事が生徒会に把握されていたことに動揺し、たじろぐ。ゴールドシップはそれを知っており、裏で支援していたという。
「しかし…、ゴールドシップが裏でサポートしていたとはな」
「まさか、ゴールドシップをお前が生徒会に引き入れたのは……」
「そこまでは知らなかったよ。だけど、ゴルシはそういう奴さ。ふざけていても、裏ではまともなのさ」
テイオーはゴルシの意外にまともな所を知っていた。それ故に、自分の代での生徒会メンバーに抜擢したと。
「さて、ブライアン。少佐の仕事をしてみるんだ。一週間前後だ。ノビスケ君には事情を話してある」
「やること早いな?」
「元・生徒会長たるもの、手筈は早くないといかんさ」
「あたしも、貴方の体で生活してみるよ」
「頼むから、変な事するなよ?」
「任せなって。そっちも、あたしの仕事を……」
「うぉぉぉ!そうだったぁぁぁ~~!!」
とはいえ、ブライアンも『のぞみのプリキュアとしての仕事』を、のぞみの姿でこなさなくてはならないのである。それを思い出し、のぞみの姿で悶えるのだった。これがカワカミプリンセス(幼少期に変身ヒロインに憧れていた)なら、喜々としてやるのだろうが……。
――ブライアンのこの体験が、ビワハヤヒデの目論見通りであったかは定かではない。黒江のもう一つの目的として、のぞみの音楽センスを『持ち合わせていた絶対音感』に追いつかせる目的があったという。この入れ替わりと黒江の特訓が功を奏し、のぞみは充分な歌唱力を得ていく。また、ブライアンも無頼気取りの気質ながら、童心を思い出したのか、意外とノリノリに、プリキュア業をこなしていく。(キュアドリームの人物像に本人とのブレが大きい場合があるのは、黒江、ないしは別の人物が入れ替わっている時に、オールスターズ戦に召喚されたからである)プリキュア業に意外にノリノリであったのが、ナリタ一族の二人であったのは、驚きをもって迎えられた。二人はレースウマ娘としての盛りを過ぎたと、世間一般から見なされていた事もあり、シニア級のレース参加スケジュールは自由が効いた。本人達はそんな(ウマ娘世界の)世間に嫌気が差していた事もあり、レース一辺倒であった自らを見つめ直す機会と捉え、現役のレースウマ娘としては(協会の通達もあって)避ける事が推奨されるが、情勢的に避けられない事(犯罪者の積極的な制圧など)をするため、プリキュアの姿を借りることを行っていく。性格がまったく一致しないプリキュアと入れ替わりを行っていくのは、普段と環境の違う状況への対応ということをシンボリルドルフが考案し、それを聞きつけたゴールドシップが黒江らに相談し、一気に具体化させた。タイシンがフェリーチェと、ブライアンがドリームと入れ替わったのは、ゴールドシップと、それを聞いたビワハヤヒデの意図が働いての結果であった。従って、ドリームとフェリーチェ。この二人の人物像に大きなブレがある場合は『誰かが入れ替わっている』ということになる――
――時たま、入れ替わる事は二人のウマ娘の心境にも影響を与えていく。タイシンは次第に『他人に優しさを見せることは、弱さではない』ことを学び、ブライアンは『心の弱さを認め、向き合う事も強さである』ことを学んでいく。ウマ娘の二人の『領域』はプリキュア側にも影響を及ぼし、フェリーチェはタイシンが宿す『鬼』を、ドリームはブライアンの『怪物』をそのまま『スキル』という形で継承することになる。(ドリームにとっては『ミルキィローズのお株を奪う』形になるが)ここで、ナリタブライアンの苦労を見てみよう――
「クソッ、姉貴とゴルシの差し金か」
『どうだ、ブライアン。レースから距離を置く気分は?』
「アンタとゴルシに乗せられたってだけで、むかっ腹が立ってきた。だが、今はウマ娘じゃない他人の体を借りている身だ。手荒な真似は避けるさ。『変身』はできるようだが」
『子供の頃、ヒロインものはあまり見なかったな、お前は。話を合わせる程度に見た程度で』
「ヒーローや怪獣もののほうが好みだっただけだ。それに、おふくろと親父、あまりおもちゃは買ってくれる性格じゃなかったろ」
『覚えていたのか』
「縁日の射的で取るのが、おもちゃを得る手段の一つだった点で、親父がケチな性分なのは悟ってたさ。レースで得た賞金で焼肉とか行くのはだな、ガキの頃の反動もある」
ナリタブライアンは(ハヤヒデもだが)あまり生活の余裕のない環境だったからか、『自分の中の乾きを潤す』ことがレースに出る目的となってしまったため、レースに勝つことそのものよりも、強者と戦うことを至上の喜びとするようになった。その報いか、三冠の獲得後しばらく経った時の一度目の怪我以降は低迷が続いている。
「まさか、他人の立場になるったって、変身ヒロインの立場になるとはな」
『我々は種としての謎が多い。タイシンやお前のように、シニア級を迎えても、比較的に能力面の衰えがない者もいれば、サクラチヨノオーのように、シニア級でガクンと能力が衰えてしまう者もいる。マルゼンさんには残酷だが、チヨノオーは一線では戦えなくなった。ダービーの激走が脚を事実上は潰した形だ』
「マルゼンさんに言ったのか?」
『チヨノオーから、口止めを頼まれているんだ。ダービーの走りをする事だけが彼女の存在意義であり、それを果たした以上、彼女はターフにはいられなくなるなど……運命を呪いたくなるそうだ』
「……だからこそ、ゴルシは拘っているのか。運命を超えることに」
ビワハヤヒデは脚を痛めたのが完治せず、周囲から引退を薦められているが、憧れのマルゼンスキーと同じターフに立つ夢を諦められずに苦悩する『サクラチヨノオー』のことに触れ、そのことを聞くことで、ゴルシが『運命を超えろ!』と発破をかけていることの本当の理由を悟ったナリタブライアン。史実の運命という鎖がウマ娘の行く末を縛っているのなら、サクラチヨノオーはその犠牲者といえる。
『ブライアン……お前…』
「アンタやチヨノオーが諦めんなら、私は諦めん。この手で……運命をぶち破ってやる。前世の記憶が宿ったのなら、尚更だ。ゴルシがゲッターに魅入られたのが……分かる気がする」
『最後に聞くが、引き返すつもりはないんだな?』
「ああ。前世の私は早死したり、現役の晩年期は『晩節を汚した』だの、世間から散々にこき下ろされた。全盛期の時は名前をもじったポニーをバラエティ番組で走らせてたくせに、だ。だから、ゲッターに魂を売り渡そうが、運命を超えてやるまでだ。姉貴……、アンタの分もな」
『……すまない』
ブライアンは姉の無念を晴らすため、更にいえば、下の妹たち(ビワタケヒデら)に待ち受ける残酷な未来を知っている。故に、ウマ娘という存在そのものを縛る鎖をゲッターの加護で断ち切ることを選んだ。これ以後、ブライアンはゴルシ、テイオーに続く形でゲッターに魅入られていく。サクラチヨノオー、サクラローレルなど、史実の因果に苦しめられるウマ娘は多い。チヨノオーなどは心が折れかけている(同期に、平成三強の一角であったオグリキャップ、スーパークリークがいた事も大きい)事が伝えられた。それを聞いたブライアンは、ゲッターの司る『進化』の力に身を委ねることを選んだらしい。そして、姉に代わる形で、トウカイテイオーに一矢報いる事も含めて。
「さて、仕事があるから、切るぞ」
決心がついたように、ブライアンは電話を切る。すると、のぞみから渡されていた『プリキュア・ブレス』(デザリアム戦役以後、サイコミュ兵器による干渉で変身アイテムを自壊させられる危険性が認知されたため、妖精の力を解明している戦隊である、高速戦隊ターボレンジャーの全面協力で開発された『人類が開発した代替のプリキュアへの変身アイテム』。各プリキュアの力を宿しており、プリキュア5用は生産の第一ロットのものだ)を起動させ、プリキュア5お馴染みの台詞を決める。
『プリキュア・メタモルフォォーーゼッ!』(姉貴やタケヒデには見られたくないが…!)
内心はこっ恥ずかしいが、ともかくも変身するブライアン。のぞみの体を借りているので、ビジュアル的には、普通にキュアドリームになるだけである。
『大いなる希望の力!!キュアドリーム!!』
ともかくも、キュアドリームの姿になってみたナリタブライアン。カワカミプリンセス(幼少期にプリキュア相当の変身ヒロインに憧れ、体をとにかく鍛えたため、パワーは学園在籍中のウマ娘では最強を誇る)が聞いたら、泣いて喜びそうな状況である。名乗りその他は変身すると、自動でするシステムだという。
「……カワカミプリンセスが聞いたら、泣いて喜びそうな案件だぞ、これは……」
とはいえ、カワカミプリンセスはエアグルーヴとの間で、90年代頃に人気を博した『ナースのお仕事』さながらのコミカルなやりとりを繰り広げる事も多く、エアグルーヴが叱る様は完全に『そのドラマそのもの』といえるとの事で、古株のウマ娘らはそのドラマの一場面を思い出すというのは言うまでもない。
――ウマ娘世界にも『プリキュア相当の変身ヒロインもの』はちゃんと存在しており、カワカミプリンセス、ダイワスカーレット、ウォッカはその洗礼を幼少期に受けた世代である事がシンボリルドルフから伝えられており、のぞみはそれを聞かされたために、話に乗ったのである。それと縁遠い、無頼を気取っているナリタブライアンがプリキュアの代表格の一人である『キュアドリーム』になるというのは、ブライアンが歴史上に残る三冠馬の一頭であった事、『シンボリルドルフを超える』という周囲の夢を託されていた事の繋がりだろうか?ルドルフが姉のハヤヒデやゴルシと共に画策した事の意図はわからないが、ともかくも、せっかくなので、キュアドリームになってみたのだった――