――結局、20~21世紀のフィクションが23世紀の戦乱を予期していた事がわかると、ジオンは一挙に求心力を失った。日本が戦略的重要地になると、ジオン残党は過去を含めた日本への攻撃を強めた。戦中に開発できなかった兵器まで使って。だが、地球連邦も自らの発祥の地の一つである日本を守るため、ありとあらゆる手段を講じた。ジオンにとっても自らの祖であるはずの日本を攻撃することは大いなる矛盾(戦中のジオンの体制は言うならば、大日本帝国とドイツ帝国の折衷だった)であった――
「ゴルシ、何故、この世界の日本は未来からも攻撃される?」
ナリタブライアンが問う。キュアドリームと肉体が入れ替わっているが、生来の無頼さは隠さないつもりか、ドスの利いた声である。
「話せばなげーぞ。未来世界の地球連邦政府はだな、第四次世界大戦の結果で生まれた。未来世界だと、統合戦争で落ち着いたが、地球連邦って枠組みができる前はそう呼ばれていた戦争が終わってしばらく経った頃、スペースコロニーに移民した連中の間で『地球聖地論』が流行った」
「地球聖地論?」
「俗に言う、エレズムって奴だ。これが徐々に過激化して、選民思想に言い換えられたのが『ジオニズム』。未来世界の内輪揉めの多くはこれが原因だ」
ゴールドシップは淡々と話す。未来世界の歴史の流れを、第三者として。ジオニズムの誕生こそがサイド3を全体主義的な風潮に走らせた原因であると。後に、シャア・アズナブルはそれを『アムロ・レイと戦うための大義名分』に利用した。ティターンズも、ジャミトフ・ハイマンがジオンへの恐怖心を煽ることで結成させた。一年戦争以降の『内輪揉めに分類される戦乱』の根源がジオニズムなのだと。
「地球連邦政府にも非がねぇとは言わない。重税を『地球から統合戦争の痛手から立て直す』名目でかけてたし、立ち直った後も撤廃しなかったからな。それが一年戦争に繋がった」
「オーストラリアの16パーが消し飛んだのだろう?ホーリックスが聞いたら、青くなるだろうな」
キュアハートと入れ替わっているシンボリルドルフが嘆息混じりにつぶやいた。また、ここで、オグリキャップが現役時代に負けた『オセアニア最強のウマ娘』に触れた。ゴルシも知っているようだ。
「泡ふいて、その場で卒倒するぜ。シドニーとキャンベラを合わせた地域は完全に削り取られて、クレーターだよ。オペラハウスのレプリカがアデレードにあるが…」
ホーリックスとは、オグリキャップの現役時代、彼女が日本勢の筆頭として臨んだ二度目の『ジャパンカップ』での覇者であり、『オセアニアの英雄』と讃えられたウマ娘。前年に敗退したオセアニア代表の意志を受け継ぎ、全盛期のオグリキャップをも下し、日本勢を敗北させた実力者であった。(ただし、帰国後はその無理が祟り、程なくして引退している。)
「で、その後は一年の戦争か?地球全体での戦争なのに、何故、12ヶ月できっちり終わった?」
「秋口に地球連邦軍もMSを開発して、それが全軍に行き渡った事、初代ガンダムが強すぎて、ジオンの有名パイロットの多くを討ち取った、地球連邦軍が物量で押しつぶした事、最後の戦闘で、ジオンの指導層が壊滅したからだ。最後の方は『ガンダムを超える』ために、変な兵器を作りまくってたって話だ」
地球連邦軍のシンボルであるガンダムを超えるため、歴代のジオン系勢力はあれこれと機体を制作したが、尽くが歴代のガンダムに倒されてきた。サザビーなど、『ジオンの集大成』的なワンオフモデルでありながら、量産も考慮された高級機であるνガンダムに格闘戦で圧倒され、撃破されている。純粋なジオン系のMSの最高到達点であるサザビーに自信を持っていた開発陣は『シャアが哀れんだ』ほどに情報を掴んでいたはずのνガンダムに圧倒され、倒された報に愕然となった。アムロ・レイのMSでの格闘術がシャア・アズナブルを超えていたことと、ガンダムをジオンが超えられなかったことの証明だからだ。
「ジオンは残存戦力がその戦闘でもかなりあったから、そいつらが全部、共和国に改組した政府に従わなかった。だから、共和国は時限付きの自治権しか得られなかったんだと」
ジオン公国の残存戦力の実に80%以上が政府に従わなかったため、共和国は時限付きのものになるのが精一杯であった。もし、その戦力があれば、共和国の恒久的存続も叶ったはずだった。ジオン残党は『テロの温床』であり続けたため、デザリアム戦役でダイクン派などの穏健派が『地球防衛』に貢献しなければ、かつての宗教・民族紛争の過激派と同列視されていただろう。
「敗戦国への扱いにしては、温情的だな」
「連邦の良識派がそうさせたんだよ。連邦の兵士達がサイド3で街を虐殺したとか、問題行動もしてるから、国への追求を厳しくしなかった。時限付きの自治権も通った。だけど、それを不満に思った連中が戦乱を何度も起こした。で、良識派が宇宙人との戦争に貢献しなけりゃ、彼らは完全に、宗教の過激派みたいな扱いにされてたろうな」
シャア率いるダイクン派と、ジオンの大義名分を純粋に信じていた旧軍人の多くはムーンクライシス事件後にデザリアムとの戦争に赴き、その多くが戦死している。アナベル・ガトーは贖罪として、黒色艦隊の旗艦を道連れにし、死後に『ジオン十字勲章』を授与されている。戦役を生き残った旧軍人の筆頭であるジョニー・ライデンは生存の判明後、『地球連邦軍大佐』の地位を得ており、デザリアム戦役でのパルチザンにも参加していた。戦後は連邦軍に残りつつ、ジオン共和国軍/公国軍の残務整理部署の長を務めている。
「残党の過激な連中が、この時代にも攻撃かけるんだよ。歴史改変を狙って。それと、反ジオンの有力な名家……のび太夫婦、ジャイアン、スネ夫、出木杉の血脈を過去にさかのぼって絶とうとな」
「だから、タイシンがのび太さんの小倅を守ろうと必死になってるのか」
「あいつ、心を開いた相手には入れ込むからな。あいつにいいとこ見せたいからって、トレーニングに入れ込んでるぞ」
「いくら、肉体を強化(怪我の因子の排除、骨格強度、足の柔軟性、免疫力の向上などの負の要素のナノマシンでの治療)したと言っても、すぐには結果は出んだろ?」
「そうだが、あいつ、タイシンに似てる境遇だろ?両親の不在が多い、親の時代の色眼鏡で周囲から見られるとか。それで、まだガキンチョだろ?なんだかんだでクリークさんに影響されてんぜ?」
「認めたがらんだろうがな」
ナリタタイシンの実家は『ナリタ一族』の傍流に位置する。ナリタトップロード、ナリタブライアンとは親戚関係。母親の『タイシンリリィ』がハヤヒデらの母『ブライアンズタイム』とどこかで繋がる従姉妹の関係らしい。(ただし、タイシンの祖母『ダリア』はアメリカで年度代表ウマ娘となるほどに活躍していたウマ娘。意外にも、タイシンは日米のクォーターにあたる。母が凡庸なウマ娘であったタイシンがG1ウマ娘になれたのは、面識のない祖母の隔世遺伝による)
「あ、思い出した。あいつ、日米のクォーターだぞ?」
「なにィ!?」
「ばあさまが米英の年度代表ウマ娘だ」
「うむ。たしか……ダリアさんとか言ったな。知らなかったのか、ブライアン?」
「あいつは親類だが…、自分の家族のことは周囲に語らないからな」
ブライアン(外見はキュアドリーム)はここで、タイシンが日米のクォーターにあたるウマ娘である事を始めて知り、たじろぐ。ちなみに、ダリアの子の一人にあたるダハールは『ルドルフに引導を渡したウマ娘』として名を知られているが、そのウマ娘はタイシンの『年の近いおば』だという。
「彼女のおばに、私は引導を渡されてね。直接的な敗因はダートに足を取られたことだが…。その時に怪我の因子がな…。取り乱したものだ」
さしものルドルフも、現役生活に終止符を打たねばならぬほどの怪我に取り乱す姿を、レース後に晒した経験がある。そのため、愛弟子のテイオーの怪我には敏感で、スピカのトレーナーに『テイオーの三度目の骨折の報告』をされた時は、仕事が手に付かなかったほどである。
「その外見で言われると、いつもの威圧感はないな?」(ルドルフがキュアハートの体を借りているためだが)
「他人の体で、いつもの雰囲気を出せる君のほうが羨ましいよ、ブライアン?」
とはいえ、本来の変身者である相田マナと比較すると、声のトーンが低めであったり、ルドルフ本来の強者としてのオーラは隠せていないなど、違いが多い。ルドルフの幼馴染のシリウスシンボリ(親類にもあたる)曰く、『野郎だけは何もかも特別だったんだよ、クソが』とのこと。
「シリウスはアンタに虚勢を張っているようだが?」
「シリウスは私に強いコンプレックスがあったんだ。おまけに、ミホシンザンと同期、オグリやタマモの上と来ている。ああでもしなければ、彼女は体面を保てないし、ダービーウマ娘という名誉がね」
シリウスはルドルフやマルゼンスキーとタメ口で話せる立場だが、現役時代に『領域』に達することがなかったり、現役の晩年期にオグリキャップに心を折られた事で、彼女自身はシンボリ一族の中でも軽んじられている。ルドルフの引退後、シンボリ一族は分家筋の新星である『シンボリクリスエス』を注目しているためでもある。シリウスシンボリは海外遠征でパッとせずに終わり、帰国後はオグリキャップとタマモクロスの噛ませ。ダービーウマ娘でありながら、本命の不在で勝てたと言われるなど、何かと不遇。引退の時以外は花道を歩んだルドルフとは違いすぎるのだ。
「シリウスは捻くれてるというべきか?」
「オグリにちぎられてからは、一族から軽んじられたからね。さらに、分家筋の子が父に気に入られたのも、な」
「シンボリクリスエスを?」
「養子にするつもりだと、父は言っている。シリウスはそれもあってな」
シンボリクリスエス。史実でも『シンボリの名を持つ馬として、比較的近年に活躍した』とされ、有馬記念を連覇する活躍を見せた名馬である。ウマ娘世界では『米国の分家筋』の子供として存在している。その彼女を本家の養子に迎えるといい、シリウスシンボリは当主の期待に応えられなかったこともあり、実際は肩身が狭い思いらしい。それを漏らすルドルフ。
「ウチも、私とトップロードが引退してしまうと、パッとしない連中しかいないからな…。妹のビワタケヒデも……大成はできんしな」
ナリタ一族も、自分とトップロードの引退が『衰退の合図』だろうと悟っているブライアン。妹のビワタケヒデが『凡庸なウマ娘』である事は見抜いているようで、複雑な心境らしい。シンボリ一族も、ナリタ一族も現世代の引退後の前途は多難としか言いようがない。シンボリは『シンボリクリスエス』という秘密兵器が控えているが、ナリタ/ビワ一族には現世代の後を継げる実力の次世代がいない。ヒシ一族はヒシスピードの隠棲後、一族そのものが絶え、二代目のヒシマサルが名跡を継ぎ、その更に後継がヒシアマゾンとヒシアケボノである。従って、現世代の『ヒシ』であるヒシアマゾン、ヒシアケボノは、ヒシ嫡流最後の当主『ヒシスピード』(マルゼンスキー世代)との血縁関係はないのだ。
「ヒシ一族も嫡流は絶えているから、なんともいえねぇな。アケボノとアマさんは名跡を継いだヒシマサルさんの後継ぎだが、昔の嫡流の事は知らないし」
「そこが『我々』の辛いところだな」
「オグリさんは米国生まれの婆さんが強かったそうだが?」
「ああ、灰色の幽霊との異名を誇ったらしい。その遺伝もあるだろうが、オグリ自身の才能だよ、ゴールドシップ」
三人はヒシアマゾンを待ちながら、食事の準備をする。
「灰色の幽霊だぁ?どこぞのペガサス級みたいだな」
「ペガサス級?」
「ホワイトベース級の正式な艦級名だよ。ペガサスってのがネームシップなんだが、エンジンが欠陥品だったとかで、ホワイトベースのほーが先に竣工したんで、戦中はホワイトベース級で通ってたんだと」
ペガサス級強襲揚陸艦は地球連邦でも有名な艦艇だが、その象徴だったホワイトベースの起工順は二番、竣工は最初というのは知られていない。その派生型の中で有名なのが、『アレックスの母艦』で有名な『グレイファントム』である。資料の亡失で正式な起工及び竣工順も不明だが、トロイホースの後、もしくは同日という噂である。
「そういう事はあるのか?」
「ままある。日本海軍の高雄と愛宕の例が見つけやすいが、宇宙戦艦の時代になっても、えいゆうとこんごう(沖田艦の艦級名が不明な理由)、ペガサスとホワイトベース、マゼランとその二番艦。まだまだあるってよ」
軍艦の建造は公共事業的な側面もある。納入された部品の精度の差で、同型艦でも、竣工日と性能に違いが出る場合も多い。それは宇宙戦艦の時代になっても同じらしい。地球連邦は計画順が普通だが、えいゆう(沖田艦)のような例外もある。
「それに、宇宙戦艦の時代になると、命名規則があやふやになってきて、担当者が語感の良さでつけることもあるんだとよ。たとえば、のび太のツテで資料をもらった、新造戦艦の資料にあった予定名は『ブリュンヒルト』だぜ?」
「ブリュンヒルト?昔のスペースオペラ……銀河英雄伝説のファンでもいたのか、ゴールドシップ?」
ルドルフもあっけにとられたようで、ずっこける。表向きは北欧神話からの命名とのことだが、兵装が内装式、ヱルトリウムの船殻技術を用いてのSFチックな外観(推進機関はある)など、明らかに『それ』を意識している。ゴールドシップはその資料をルドルフに見せた。
「いいのか、未来での軍事機密だろう?」
「この時代じゃ、銀河英雄伝説の艦艇の挿絵くらいにしか認識されねぇよ。地球連邦の艦艇は二次大戦の戦艦みたいな外観の奴と、兵装が甲板にある設計のが主流で、こうした内装式は傍流だからな」
宇宙戦艦の設計では傍流と言われる武装の内装式。エクセリヲンやヱルトリウムが採用していたが、整備/維持コストの問題で主流にはならなかった経緯のあるもので、地球連邦の艦艇設計では亜流扱いだ。地球連邦はアンドロメダに代わる旗艦任務用の恒星間航行艦を必要としており、ブリュンヒルトは設計面はヱルトリウムの流れを汲むものだという。地球連邦はアンドロメダ級を戦略指揮に供する前提で艦隊編成を組んでいたが、政治的都合で、アンドロメダ級は『64Fに供出する艦』以外は予備艦として、予備艦の墓場となっている『アメリカ西海岸』で軍港に置かれる運命にあった。その穴埋めのために生まれたのがブリュンヒルトであり、この時期はネームシップがしゅんらんに代わるアースフリートの旗艦として就役間もなかった。コズミック・イラ歴世界への代表団の訪問に使われたのが初任務で、デザリアム戦役後の設計・建造の第一世代にあたる『できたて』。小説と違い、機関は波動エンジンとフォールド機関のハイブリッドで、船殻はヱルトリウムの流れに沿うので、単分子製だ。なお、試作艦であるので、二番艦は改良で准同型となり、『パーツィバル』と名付けられ、建造中である。
「しかし、多種多様すぎないか?普通は規格を合わせるものだろう?」
「未来世界の造船屋にそういう事は言ってくれよな。あいつら、戦乱期をいいことに、好きに設計するんだとよ。ワンオフを」
なお、艦隊編成の都合で、ブリュンヒルト型は二番艦が後日に改めて承認。『グリムゲルデ』とされたという。アンドロメダ級に代わる旗艦の模索期の産物だが、その流麗なフォルムは地球連邦の艦艇としては、珍しく人気を博したという。
「すまないね、遅れちまった。話はエアグルーヴから聞いたけど、ブライアン、あんたがそんな姿になるなんてさ」
「アマさん、やっときたのか。こっちはルドルフとゴルシの話に付き合って、退屈してたとこだ」
「えーと、その姿の持ち主はキュアドリームってんだろ?なんで、あんたが?」
「私と比較的に共通項が多いからだそうだ。シービーから数えれば、私は三代目の三冠だからな」
ブライアンは退屈していたらしいが、プリキュアの姿でいる事は意外に楽しんでいるようだ。それはルドルフも同様だが、ウマ娘競争協会の発した『通達』に息苦しさを感じている者は多い。ビコーペガサスが落ち込む(ヒーローオタクのため)原因でもある。なお、アグネスタキオンは普通にキュアコスモと入れ替わった。その理屈だと、マンハッタンカフェはキュアエトワールと入れ替わなくてはならなくなるのだが。
「カワカミプリンセスが聞いたら、喜び勇んでよ、校舎を倒壊させるぜ?お二人さん」
「あいつはプリキュア相当のアニメのファンだそうだからな。お嬢様言葉を使う割に、生まれは庶民と聞いたな?」
「アニメの影響だろうよ。お前のことをハヤヒデが聞いたら、鼻血吹きだすだろうさ」
「姉貴は頭でっかち(理屈っぽいの意味)だから、こうしたのはパニクるぞ」
「チケゾーが知らせたと思うよ」
「あの馬鹿……、余計なことを。姉貴の髪が爆発するだろうが!」
頭を抱えるブライアン。ヒシアマゾンが食事を作りながら、それを教えたからだ。ビワハヤヒデの髪はウマ娘世界の市販のトリートメントでは手に負えず、プロ用でもストレートにはできないぽどの超くせ毛。タキオンの試作品でも歯が立たないというもので、自分の髪で窒息しかけた、ブライアンも朝起きたら、姉の髪の毛が覆いかぶさり、死にかけた経験がある。パニクる姉の姿が目に浮かんだらしい。
「でもよ、ブライアン、ルドルフ。どうして、入れ替わったんだい?」
「一つは街の自警団に参加してくれという要望があって、ゴールドシップが乗り気だったんだが、協会からの例の通達で断念するしかなくなった。だが、プリキュアの姿なら、気にしないでいいだろう?我々の色々なしがらみを」
「なるほどね。エアグルーヴがやたら気にしてたよ?」
「エアグルーヴも心配性だな」
「あんたの名に傷がつくのを極端に恐れているんだよ、あいつは。キュアハートにあれこれ言って困らせていて、テイオーに苦言を呈されていたぞ?」
「エアグルーヴは硬いからな。私のようなジョークを学ぶべきだな」
「あんたは頼むから、自制を覚えろ…タマさんの胃袋を破壊する気か」
ルドルフのジョークはオヤジギャグの領域をも超えて寒いため、タマモクロスは『誰か、ルドルフのダジャレを止めろぉーーー!』と虚しく叫びを挙げている。ブライアンも流石に、タマモクロスの胃袋に穴が開きそうなことを憂慮したか、ルドルフに釘を刺す。ルドルフは根が真面目な故、ジョークの才能はないに等しいため、関西出身で、日頃からお笑いに親しんできたタマモクロスは我慢ならない。ブライアンはタマモクロスのそんな姿に同情したらしい。
「タマモは何を気にしているのだ、ゴールドシップ?」
(アカン、これはマジでアブねぇ…!!)
ゴルシが本気で危機感を覚えるレベルで、重大さを認識していないルドルフ。ゴルシとブライアンは顔を見合わせ、本気で危機感を覚えた。ヒシアマゾンもだが。
「入れ替わっても、変身できるのかい?」
「ああ、できるそうだが、私はエアグルーヴに止められたんだ。ブライアンはきちんと変身プロセスをしたよ」
「意外だねぇ」
「私だってな……ガキの頃は…」
恥ずかしそうだが、ヒシアマゾンのキャラ弁を普通に食べているため、魔法少女ものに抵抗はないらしいブライアン。子供時代は可愛い時期があったと主張もする。孤高/粗野なブライアンだが、プリキュアの類に夢を見ていた時期もちゃんとあった。よく絡んでくる後輩のウォッカがそうであるように、ブライアンにも可愛い時代はあったのだ。
「それと、あんた、運転免許はいつ?」
「オートバイは親父に仕込まれた。運送業なんでな。……手伝いたくないんだがな」
ブライアンはレースを極めたいため、父の仕事を手伝いたくないようだ。とはいえ、引退後にはしなければならない。そのため、長く現役でいたいらしい。
「どうするんだい?」
「わからんよ。親父は一族の衰退を悟ってるのか、しきりに誘ってきてる。おふくろは反対してるが…」
そこは複雑らしいが、なんだかんだで運転免許証は取得済みであるなど、父親を手伝わないつもりではないのがわかる。引退後の食い扶持を心配されているのはわかるからだ。そこがナリタ/ビワ一族の悲哀であろう。
「お互い、一族の衰亡を気にされる立場ということか」
「あんたんとこはシンボリクリスエスがいるだけ、未来は明るいよ」
食事を待つ傍らで、一族の衰亡を気にされる立場にあるブライアンとルドルフ。長子でない、全盛期は無敵を誇った事など、意外に共通点もある。ただ、シンボリクリスエスが後に控えているのが羨ましいらしいブライアン。自分の妹たちの顔が思い浮かんだか、これから待ち受ける運命に肩を落とす。だが、後にブライアンの従妹『サニーブライアン』が名を為し、ブライアンの名を継ぐ後継者として、一定の地位を持つ。ブラリアンに次ぐ、『そっくりさんな容貌』から、彼女の入学後、トウカイテイオーは困惑したという。(史実でのサニーブライアンはナリタブライアンの異母弟にあたるため、ウマ娘としての容貌も似ていた。)
「ん、それは間違いだぜ、ブライアン」
「どういうことだ」
「サニーブライアンを忘れてんぞ」
「あ~~~~~!!」
ブライアンは史実では会っていない『世代の違う異母弟』の存在を思い出し、素っ頓狂な声を挙げる。ウマ娘としてはどうだが不明だが、名前は覚えていたらしい。ナリタ一族ではないが、ブライアンの名を持つ、もう一人のウマ娘。ゴルシに言われ、ハッとなるあたり、相当に怪しかったが、思い出せる程度の面識はあるようだ。(記録によれば、メジロブライトの同期らしい)意外にコミカルなリアクションのブライアンに、ほっこりする三人であった。