――1940年代末、扶桑の戦艦設計は新兵器実験のプラットフォームに流用することも意図され、平均で350mを超えてしまう全長、列車砲に耐えられる防御力の保持が絶対条件になってしまったため、基本的に完成度の高い大和型の派生にならざるを得なかった。砲撃戦は基本的に、攻撃を多く命中させたほうが勝つため、日本連邦は大口径砲の速射化を推進させた。23世紀の技術であれば、砲身命数をさほど気にせずに撃ちまくれるからである。その結果、大型の重戦艦が主流となってしまい、巡洋戦艦や小型戦艦の設計ノウハウが失われてしまうという懸念があった。ノウハウ維持のために、超甲巡は使われたわけである。ウィッチ世界ではしばらく、対空射撃能力のみが艦に求められてきたため、M動乱で肝心要の水上艦隊戦での打撃力の不足を露呈。水雷装備が緊急で復活させられるというドタバタがあったのもあり、戦闘力の確保には、あらゆる武装の搭載が望ましいとされた。そのため、艦の居住性維持のために大型化を余儀なくされ、駆逐艦でさえ、5000トン級が最低ラインになった。超甲巡が前世代の戦艦以上の大きさなのは必然的なものだ。日本側はウィッチ世界での巡洋艦以下の艦艇の価値が低いことに困惑し、巡洋艦以下へのミサイル装備の装備を推進したが、23世紀のM粒子でスタンドオフ攻撃の実効性が低下したため、史実のようなミサイル兵装頼りでは危険度が高まってしまった上、『戦艦はスクラップにはできても、海へ沈められない』という戦後のミサイル設計の盲点も明らかとなり、結局、VLSでミサイル兵装を船体に持ちつつ、速射化された大口径砲を持つ新型艦が理想とされた。こうして、巡洋艦、駆逐艦の区別は曖昧になり始め、総じて200m級の大きさになり、空母も大型・高額化していくため、戦艦は予想に反して、相対的に主力艦として返り咲いていく――
――皮肉なことに、空母そのものの大型化はジェット戦闘機の進化にについていくためであるため、航空主兵論は1945年に事実上の崩壊。ウィッチ世界では、潜水艦の史実のような発達が起きにくい事もあり、大艦巨砲主義が息を吹き返した。とはいえ、あくまでも、息を吹き返しただけで、以前ほどの権勢はなく、『必要最低限の数だけを維持する』という意味での存続であった。しかし、日本連邦は世界の安全保障の維持を担う必要から、1949年次でも、戦前とほぼ同規模の戦艦部隊を維持し続けている。これはリベリオンの戦艦部隊と正面切って戦う必要があるからで、内務出身の政府官僚たちの想定を上回る現実的な脅威となったリベリオンの強大な戦艦部隊には、日本側の戦力では『潜水艦以外に撃沈手段がない』有様。日本側が戦艦の廃止を強く言えなくなった原因は『ゲートを通って襲撃してくるモンタナ級戦艦を基幹とする艦隊を正面戦闘では追い返せない』ことであり、革新政権時代の無意味な交戦規定の廃止が叫ばれたが、アイオワより強大な砲火力を持つモンタナ級は実像よりかなり脅威視された。結局、海自の護衛艦では『40.6cm砲のSHS弾を万一にでも被弾したら、船体をまっ二つにされる』という予測がされていることもあって、扶桑の戦艦部隊は政治的な目的のもと、『規模の維持』が決まったのだ――
――ウマ娘たちは協会からの『通達』が拘束力の伴うものであるため、それを回避しつつ、如何に、街の要望に応えるか。それに腐心していた。プリキュアとの入れ替わりは言わば、最終手段であった。元々、ウマ娘たちは趣味や自己鍛錬の一環で格闘技をしている者も少なからずおり、ヤエノムテキ(オグリキャップ世代の皐月賞ウマ娘)は空手、エルコンドルパサーはプロレスを嗜んでいる。通達は『イメージを崩す行動を慎め』程度の文面ではあったが、拘束力の伴うものとされたことが混乱のもとであった。そのため、プリキュアとの入れ替わりという手を捻り出すのが、ゴルシなりの思いやりであった――
「プリキュアと入れ替わる、かぁ。ものすごい屁理屈だねぇ、ゴルシ」
「自衛隊だって、憲法を厳格に運用しようとしたらよ、ダメになるんだから、このくらいは通るさ。通達も『自衛は禁じてない』だろう?」
ヒシアマゾンが食事を作りながら言い、ゴルシがそう返す。ゴルシは妙なところで頭脳明晰なのだ。バレた場合の言い訳と理屈も考えているあたり、タイシンのために、かなり頭をひねったのが窺える。
「そういうことだ」
「でもさ、アンタがなんで、キュアドリームなんだい、ブライアン。確かに、シービーを起点に『歴代の三冠』を区切るなら、アンタは三代目だけど…」
「割に共通点も多かったし、ルドルフよりは人気はあるほうだぞ、私は」
ルドルフは強いが故に、観衆を退屈させてしまうと評され、一期先輩のシービー(同じく、三冠経験者)と対照的に、大衆人気は低かった。それが故に、自分の後輩となるオグリキャップに嫉妬していたというゴシップが流れ、傷ついていた。一方、ブライアンはデビューからしばらくは、ルドルフのような王者としての力、オグリキャップのような怪物じみた存在感で人気を博したが、怪我で成績が落ち込むと、途端に周囲は見放したという経緯があり、復活を望む声も大きかった。ブライアンはそんな経緯が『転生後のキュアドリームに似ている』こともあり、ゴルシの仲介で入れ替わったわけだ。
「カワカミが聞いたら、狂喜乱舞は間違いなしだねぇ」
「言えてるな。ファインモーションに『プリファイ』(ウマ娘世界でのプリキュア相当のアニメ)を布教していたと聞いたが?」
「ああ。デジタルに聞いた。あの野郎を味方につけるのは楽だったぜ。グッズを与えりゃいいからよ。あいつが申し出ればだが、話は連中へ通してやるが、エアグルーヴの胃に大穴開くぞ」
「エアグルーヴ…あの子の前だと、子供の頃に見た、昔のドラマみたいなやりとりしないかい?」
「ナースのお仕事だろ?まさにあれみたいだったぜ、カワカミとエアグルーヴ」
エアグルーヴはカワカミプリンセスの起こすドタバタに頭を悩ませており、新たな頭痛の種である。二人のやりとりの様が往年の人気ドラマ『ナースのお仕事』での主人公と先輩のやりとりを思わせる事から、ナースのお仕事を見た世代にあたる『年長のウマ娘たち』は異口同音にそう例えている。
「昔、おふくろが見ていたな。言われてみれば……」
ブライアンも心当たりがあるようだ。
「アンタには、サーロインステーキを焼いてやったよ。ただし、他人の体だから、普段の分量食うと、その体が音をあげるって事は注意しなよ」
「……チッ、面倒だな」
とはいえ、体はプリキュア化している状態なので、かなりのカロリーを必要にするのは同じ。のぞみ自体、現役時代の時点で普通より大食いに入る上、鍛えた軍人の肉体を素体に転生した後は、大食いが多い64Fでも、かなり食うほうになっている。そのため、ヒシアマゾンの注意で食う量は抑えたとはいえ、割に普段に近い量をたいらげた。
「普段の八分目で、ちょうどいいくらいか。かなり入ったな」
「プリキュアは戦闘もするから、カロリー消費は多いかんな。特に、『そいつ』は戦闘向けだから、お前向けかもしんねぇ」
「戦闘向けと、そうでないのがいるのか?」
「代と、個人の気質にもよるがね」
プリキュアについても解説するゴルシ。代によると言ったのは、代が下ると、浄化メインになるので、デフォルトの能力から本格戦闘向けの性質が薄れていくからでもある。この点を、のび太は『プリキュアは美少女戦士セーラームーンへのアンチテーゼで生まれたはずが、逆に、セーラームーンへ近づいてきてしまうとはね(オリジナリティが薄れているとの意味である)』と皮肉っている。これは時代の要求の変化やプリキュアの物語の展開のテンプレートの確立の過程でそうなっていってるものだが、のび太は『シリーズ元来の特徴が薄れてきている』と評している。ジェンダー意識の高まりが、アニメの物語の展開を却って狭めていることを皮肉っているわけだが、成人後はこうした皮肉も言えるようになったわけだ。
「さて、と。せっかくだ。この世界に来たんだし、何かしたか、ブライアン?」
「親父の本棚にあった、昭和の頃の漫画の魔球を試していいか?」
「なんだ?消える魔球か、大リーグボール左一号か?」
「分身魔球だ」
「どれだよ。分身魔球はいくつかあるぜ」
「侍ジャイアンツの奴だ。巨人の星の奴は原理が余計に荒唐無稽だからな」
「祖母(スピードシンボリ)が若い頃、魔球に憧れたと言っていたな。やれるのか、ブライアン?」
ルドルフもそこは反応する。侍ジャイアンツはちょうど、ルドルフの祖母『スピードシンボリ』が現役晩年期の頃に連載されていた作品であり、同時代にTVアニメ化もされている名作(荒唐無稽気味だが)だからだ。
「世界が違うんだ。やれるかもしれん。ゴルシ、キャッチャーしてくれ」
「あーいよ」
と、言うわけで、ナリタブライアンはこの世界にいる間に暇つぶしとして、子供の頃、父親の書斎にあった『侍ジャイアンツ』の分身魔球の再現にこっそりチャレンジしていたと告白し、その実証実験を行った。出走予定のレースが近づいてきているため、実証をキュアドリームの体で行ったのはご愛嬌だが、羽目を外せているのに、二人は安心した。
「ふぅぅん!!だぁぁぁ……!」
原理は一言で言うなら、『ボールを握り潰し、ボールが変形してから投げることによって 無数に分身したような球を投げる』というもので、この時点で荒唐無稽である。ちなみに、ブライアンが再現したフォームはアニメにのみ存在する分身魔球(縦)のもので、ゴルシはそれに対応した。なお、大まかな投法はアンダースローである。
「どりゃあ!!」
ウマ娘としての魂とプリキュアの肉体が合わさった結果、本当に縦分身魔球を実現し、投げたブライアン。ヒシアマゾンがとっさに、ゴルシが用意していた『ウマ娘世界のスピードガン』で計測したところ……。
「175km!?プロでも出せない速度だよ、これは!?」
なんと、時速175km。ギネス記録級の速さである。一般に剛速球と言われる速さは『140km~150km台』が普通。世界記録は2010年頃に169kmが記録されているが、それより更に速い。ウマ娘世界のスピードガンはウマ娘のスピード計測用に開発されたもので、野球用のスピードガンより正確に測れるので、信憑性は高い。
「『横』も試せるか?」
「『横』は巨人の星の『蜃気楼の魔球』と代わり映えせんがな」
ゴルシはそう促す。分身魔球は侍ジャイアンツの番場蛮が著名だが、実は巨人の星の星飛雄馬も右投手時代(1976年~1980年頃?)に似た魔球を大リーグボール右一号(彼の生涯最後の大リーグボールである)として使用している。その名も『蜃気楼の魔球』。それは原理がもっと荒唐無稽であるので、再現は不可能であるので、侍ジャイアンツでのものにしたのだ。
「ふんっ……どぁぁっ!」
ボールを握り潰すには、ある種の呼吸法を必要であるため、実際の公式試合でやれば間違い無しにボークになる。しかし、草野球なら使用できそうである。ブライアンは余興ということで、草野球の試合でメジロマックイーン相手に使うつもりであった。(メジロマックイーンは深窓の令嬢かしらぬ『野球好き』で、大阪の某縦縞の球団に入れ込んでおり、2022年シーズンにおける悪夢の連敗に涙であった。その球団は、ウマ娘世界でも連敗していたため)
「だぁっ!!」
横分身は似た魔球である『蜃気楼の魔球』とほぼ同じビジュアルだが、原理が異なるため、実用性は上である。
「おっし、これで今年のファン感謝祭は大盛りあがりだが……、ブライアン。おめーの次の出走予定は?」
「金鯱賞になりそうだ。トレーナーと相談してな」
スピカに編入となったブライアンだが、低迷期を経ているため、金鯱賞からの始動となったようだ。別の世界線では『チームシリウス』として、チームメイトであるゴルシとブライアンだが、この世界線においては『リギルの解散後にスピカに充てがわれたウマ娘』という扱いであり、グラスワンダー共々に『協会からは見限られかけている』からか、『実績はあるが、癖のあるウマ娘の集まり』とされるスピカに割り当てられた。とはいえ、スピカはこの時点における最強のチームである。テイオーが下馬評を覆し、ゴールドシップはなんだかんだでG1を六勝するなど、G1級のウマ娘が揃い、過去にはオグリキャップ、タマモクロスも所属した経験があるなど、意外に伝統は古い。ブライアンはリギルの解散で引き取られた組かつ、当代の三冠ウマ娘であるが、協会や学園の反理事長派の理事らからは『全盛期を過ぎた』と見なされ、次代のウマ娘たちの有力者達に関心は移っている。ハーツクライ、ディープインパクト、キングカメハメハ、クロフネ、オルフェーヴル、その次の期の入学が内定した『シンボリクリスエス』。ブライアン亡き後に競馬界を背負った大物たち揃いだ。
「新人の子たちは大物揃いだが……君の能力で立ち向かえるか?」
「ブライアンズタイムとパシフィカス。その二頭の愛の結晶が私だった。……意地があるんだよ、ルドルフ」
前世での両親の役目が、史実での父であるブライアンズタイムに統合されていることの自覚があるブライアン。ブライアンズタイムの子孫はウォッカ(ブライアンの姪にあたる)を最後の輝きに、21世紀の日本競馬界の血統表では目立たなくなっている。代表的な子供であったブライアン、ハヤヒデ、タケヒデの三兄弟の子が走らなかったためで、サンデーサイレンス旋風に呑まれた形だ。ライバルのトニービンは21世紀になっても、血統表にその名を留めているのと対照的だ。(マヤノトップガンやタニノギムレットが子孫を残し、その内のタニノギムレットの子がウォッカである)
「マヤノは前世では親父が一緒だし、タニノの娘がウォッカだ。…あいつが絡む理由がなんとなくわかった。姪だからだ。あいつにはその記憶はないが……無碍には扱えんな」
ブライアンは前世の記憶が宿ったのと、ゴルシのおかげで、死後の時間軸の様子も知っているが、当然ながら、ウォッカは知る由もない。自分の前世での姪にあたるため、無碍にできなくなったとぼやく。
「ま、いーじゃないか。あたしなんて、昔のヒシ一族とは無関係なのに、マサルの後継になったんだし。サクラ軍団は同じトレーニングスクールの仲間って形であるんだよ?あんたらみたいに、一族って形が羨ましいよ」
ヒシアマゾンはそこが羨ましいようだ。自分とアケボノはヒシマサル(二代)の後を継いだが、名跡を継いだだけで、かつてのヒシ一族とは無関係なのだ。
「……サニーの奴に連絡付けばいいが。おふくろの遠い親戚だから、連絡つけずらいんだ」
「ああ、史実だと、スペの一期上の二冠馬だった奴か。いたのか」
「おふくろいわく、私に似てるというが、ブラリアンだけで充分に間に合ってるよ」
ブラリアンとは付き合いがあるが、サニーブライアンとは年が離れていたりした事、遠い親戚である事から、子供時代に会ったきりらしい。母親いわく、『ブライアンに似た子よ』とのことだが、史実では二冠馬になり、いい意味でも、悪い意味でも『カツトップエースの再来』となった。ブライアンも怪我に泣かされたため、親類のサニーブライアンまでも怪我に泣かされたのは複雑らしい。
「んな事いったら、あたしなんざ、芦毛ならみんなどっかしら似てるから、どんだけそっくりさん居るんだか」
「お前のそっくりさんなんて、いてたまるか!!」
「いーや、あたしのこの性格はマックイーン譲りだと思うぜ。ステイの親父とは違うし」
「私は子供達に才能が分散してしまったからな。アイルトン、テイオー、ツルマル……」
ルドルフはそこは気にしているようで、素質はあれど、テイオー以外に『名馬』と言えるレベルの後継に恵まれなかった。ヤマトダマシイという馬が期待されていたが、事故で夭折している。
「会長、アンタ。妙に腐ってないかい?」
「週刊誌に昔のゴシップを蒸し返されているからな。ブライアン、とにかく、レースが終わったら会いに行け」
「何故だ。おふくろの仕事だぞ、これは」
「会ってみないと、どのようなウマ娘かわからんだろう。私とシリウスのように、すれ違うことにはなってほしくないんだ」
シリウスシンボリとシンボリルドルフは幼馴染でありながら、シリウスがコンプレックスをこじらせたこともあり、水と油の関係である。シリウスは現役時代から陰口を叩かれ、晩年期はタマモ、オグリの噛ませであったことから、引退後にはルドルフに反目する者の筆頭となった。エアグルーヴはシリウスを御することができないので、現役時代にシリウスを下しているオグリやタマモが伝言役だ。
「シリウスねぇ。晩年はオグリさんとタマモさんに赤子同然にされてたのに、会長にイキってやがる。フェスタの奴に『弱点』を聞いておこうか?」
ゴルシの悪友『ナカヤマフェスタ』。史実では親類にあたるためか、馬が合い、悪友である。シリウスのルームメイトであるため、弱点は聞きようがある。
「シリウスのコンプレックスは、現役晩年期にオグリとタマモに手もなくひねられたことも関係してるし、同期のミホシンザンと戦えなかった事を悔やんでるところもある。私の親類だからと、周囲から期待されたのも、不良ぶる理由だろうな」
「かーっ、それでエアグルーヴにイキってんのか?レジェンドテイオーだっけ?病院送りにしたの」
シリウスは史実では自己の成績よりも、レース外の出来事で後世に名を残している。レジェンドテイオーは引退後、シリウスを恨む旨の発言をしているので、現役時代から問題児だった。ゴルシにそう言われ、シリウスの問題児ぶりに参っていることを裏づけるように頷くルドルフ。エアグルーヴが唯一、圧されるウマ娘がシリウスであり、オグリとタマモの学内での地位が高い理由でもある。
「ったく、あんにゃろ、今度会ったら、スーツカの後部座席にほーりこんで、急降下爆撃を体験させてやるぜ」
「お手柔らかにな」
「ヘンシェルやガーデルマンができて、シリウスがブルるんじゃ、名折れだって煽ってやんぜ」
ゴルシはこの頃には、自家用飛行機の名目で『JU87G』(スツーカの対地仕様)を保有しており、飛行機の免許を取得済みであった。そのため、実戦同様の角度の急降下を体験させるつもりである。なお、バランスウェイト代わりに武装は残しているため、その気になれば、タンクバスターに使えるという。
「よくできるものだね、ゴルシ」
「ああ。垂直に近いんだろう、その方法は」
「慣れりゃ簡単さ」
急降下爆撃は、真似事でもできるパイロットは貴重なので、ゴルシは小遣い稼ぎに、映画のスタント飛行の仕事を初めている。レシプロ戦闘機と急降下爆撃機の操縦法を知っているし、急降下爆撃のプロセスを実践できるためだ。
「ただ、日本軍みたいな角度は変態だぞ?60度位でしてた。急降下爆撃大好きなドイツ軍でも、45度か50度くらいが限度だぞ」
ゴルシは40度程度での急降下からの機銃掃射ないしは爆撃を実践できるが、それでもかなりの変態扱いである。
「あたしは40度だが、普通はそれでいい。戦中の日本軍みたいな変態な芸当は神業なんだぞ?」
「ゴルシ、飛行免許を?」
「タイキとグラスのつてでとった。大変だったけどな」
ゴルシは自家用に保有するJU87の写真を一同に見せた。急降下爆撃の陳腐化でカールスラントが払い下げた個体を買い取ったらしく、カールスラント空軍のラウンデルが描かれたままだ。どこかの部隊へ配備される予定だったが、カールスラントの軍縮で放出されたらしく、武装もそのまま。ダミーの爆弾まで積んでいる。
「扶桑の世界のドイツ空軍が放出したのを買い取った。バランスウェイト代わりに、武器は残してある。遊覧飛行代わりに飛ばしたいが、大戦中のドイツの軍用機だから、元の世界で許可出るか」
「エアレースでも出るつもりかい?」
「バカ言わないでくれ。エアレースに出れる機体じゃないよ。エアレースだったら、元が戦闘機だったやつを使うよ。フォッケウルフな。メッサーシュミットは基礎設計がなぁ」
ゴルシはドイツ機乗りらしいが、メッサーシュミットよりも、フォッケウルフが欲しいことが分かる。
「エアレースには、フォッケウルフの改造でも持ち込むさ。最終型が余ってるそうだから」
「買うつもりなのか?」
「安価で放出されたからな。ジェット戦闘機の購入資金に宛てたいんだと。製造間もないのが多いから、現場は猛反対だそうだけど」
「昨日のニュースで、烈風ってのがデモ飛行したって騒いでたけど、なんなんだい?」
「ああ、ゼロ戦の後継ぎになりそこねた戦闘機。日本人が買い取ったのが飛んだんだよ」
「いいのか?」
「レシプロはお役御免だからな。残ってるのはターボプロップ機に改造されてるし、向こうの世界でも、今の花形はジェット戦闘機だ。マヤノが大好きなトムキャットとかな」
マヤノトップガンは旅客機のパイロットの父を持つが、軍用機大好きっ子でもあり、地下格納庫の戦闘機に大喜び。扶桑のフライトジャケットを着たいとせがんでいるという。米国系戦闘機大好きっ子なため、トムキャットのコックピットに座りたいとせがんでいる。しかし、扶桑のトムキャットは最初からグラスコクピット化されている上に、単座型があるので、そこはぶーたれている。
「とはいえ、あいつが映画で見たのは初期型、地下にあんのは最初から後期型の状態だ。計器がライノみたいだから。がっくりされたぜ」
そこは手を焼いたが、実際に実戦で使われているのだから、デジタル化する事は必要だし、マヤノの父の旅客機もグラスコクピットはされている。
「贅沢いうなって宥めた。あいつのパパさんの旅客機だって、最新のはグラスコクピットだしな」
「まあ、コックピットに座れるだけでも、良しってしないと。開放日でも、普通は座れないんだし」
「そうそう。トムキャットを日本の軍隊が買うってことがありえねぇんだからな、本当は。向こうの世界でも、一部にしかないんだし」
トムキャットは扶桑に採用されて間もない虎の子。64Fは司令部直属のエース部隊であるからこそ、先行配備されたにすぎない。実際に飛ばすのなら、グラスコクピット化したほうが扱いやすいのだ。
「それに、先行配備だから、飛ばしてくれって頼まれてんだよ。向こうの空母に載せる前のテストだってゆーし」
「大丈夫か?」
「マヤノは遊覧飛行代わりに、暇な時に複座型に乗せてやるさ。本物の戦闘機に乗ると、世界が変わるぜ」
ゴルシも未来世界のバンキッシュレースに魅入られたようであるが、委託されて、64Fの保有する通常の戦闘機の試験も担当しているなど、協力という点の直接的と間接的なところの境界線を攻めている節がある。ゴルシ本人の心情もあり、ウマ娘の中では最も、『戦争への協力』とはっきりする境界線のギリギリを攻めている。通達の穴を突く形で協力しているなど、一番に危ない橋を渡っているのは、ステイゴールド(史実の父)から受け継いだ気質だろう…。