――ジオン残党右派は結局、過去の人間を過去の世界で殺そうとした事で『狂信的テロリスト』と認定された。当然、現地の兵器では太刀打ちできないのだが、地球連邦軍もゲッターアークなどで阻止した。21世紀の日本政府は多くの難題を抱えてしまうこととなり、軍事面の諸問題の多くをヒーローユニオンや扶桑皇国の軍事力に丸投げせざるを得なかった。ジオン兵は表向き(異なる時代の人間であるため)、狂信的テロリストとして報じられた。親殺しのパラドックスも(ジオン残党もタイムマシンが過去にあったことは知っている)恐れずに、過去の人間に牙を抜くジオン兵はまさに狂信的であった。その防護策は21世紀の兵器では物量戦か、M粒子散布を阻止するしかないため、同等の兵器を持つ者たちに丸投げするしかなかった。故に、ゲッターアークは竜馬が送り込んだ救世主であった――
――扶桑は航空分野の参謀や高官達が次々と日本側の都合で更迭、あるいは人事異動という名目での僻地送りが数年も続いた。大西瀧治郎は史実が災いし、ウィッチ世界では功績があるのに関わず、リンチで入院に追い込まれた挙句の果てに、妥協的に『閑職で飼い殺し』(自決されても困るためと、七勇士の一人である竹井の叔父であるため、死亡で現場に及ぼす影響の大きさが懸念された)となり、史実で特攻を強く推進した参謀たちは日本の義勇兵らによって、鉄パイプか金属バットで血反吐を吐くまでリンチされてしまう事例も起こった。その対策として、航空分野の幕僚の主流を幹部自衛官が占めるに至る。自分たちが時代遅れとされることによる、参謀のストライキを恐れた扶桑軍中央は、参謀候補生の自衛隊への留学、あるいは高級幕僚課程の自衛隊式教育への刷新を急ぐ。その過程で作戦機の戦後型への刷新も行われるが、扶桑軍事財政はかなりのカツカツであるので、64Fへの依存は大きい。――
――導入費・運用費・費用対効果のいずれもバランスの取れていたモビルスーツは大戦型航空機のような『大量投入を想定していない』戦後型航空機を補う存在として、空軍を中心に導入され、アナハイム・エレクトロニクスの援助によるMSの製造工場も地下に設けられた。エース部隊は空挺任務の多い都合もあり、可変MSを導入し、アナハイム・エレクトロニクスはリゼル、Zプラス、リ・ガズィ・カスタムを64Fを中心に卸した。MSが普及することでの反乱抑止のため、64Fはスーパーロボットの保有を正式に認められた。扶桑は反乱の起きやすい風土であるため、64Fはそれを抑止する役割も担わされているわけだ。Zプラス以上の高性能機は、64F以外の部隊では『一定の練度』が配備の目安にされたため、意外にハードルが高く、『敵を20機落とすよりも難しい』とされ、羨望の的である。Zプラス系も第二世代へ移行しつつある時勢だが、戦術的有効性から、初期型も再生産も行われている。汎用性を持つC1型がメインだが、それ以外の型も生産はされており、地球連邦軍より配備数が多いという珍現象も起こっていた――
――遠征部隊が組織の怪人相手に戦闘を繰り広げ始めた頃、休暇を取っていた数人のプリキュアと入れ替わったウマ娘たち。その影響はプリキュア側にも後日に表れ、ナリタブライアンの持つ『無頼漢』なところがキュアドリーム(夢原のぞみ)に表面化し、戦線復帰後はナリタブライアンのように、『見分けのため』として、変身前は胸にさらしを巻いて済ますことが増える、キュアハート(相田マナ)にシンボリルドルフの『皇帝』としての威圧感が付与された。走った時の基礎速力も入れ替わったウマ娘のレベルとなり、固有スキル相当の『領域』も継承された。これは一流のウマ娘たちが代々にわたり、学園内の三女神像の前を通る際に遭遇する『先代のエースの想いが当代のエースに継承される』現象と同じであった――
――入れ替わりの最中――
「ルドルフ。どうするつもりだ?」
「一週間程はこのままでいるつもりさ。街との約束をある程度は破ることになるが、元の姿のままで、自警団に加わるわけにもいかなくなったからね」
ルドルフは協会と学園の関係を悪化させないため、通達を守る事にした。何らかの機動兵器を用いる形であれば、姿を晒す必要はないが、生身での格闘戦も予測された事から、プリキュアの体を借りることになった。また、ゴールドシップのアイデアで、その時は『イベントなどに出演していた』というアリバイを作ることも怠らず、彼女らの戦闘行為は『プリキュアがした事』となる。魂が入れ替わっているため、指紋認証なども完璧。変装でもない。
「そもそも、日本警察は何をしている?」
「拳銃一個と警棒で、超能力者やパワードスーツとやれるか?このへんの警察は有名無実。紛失物探しや形式的な書類処理、道案内しかやらないって揶揄されてるよ。おまけに、怪我して退職したところで、なにかの恩賞が出るわけでもないかんな。仮にも、天下の警視庁の管下にある地域が、だぞ?」
「……怠慢だな」
「80年代にこういう事態を想定して、パワードスーツやロボットを研究してた記録があるが、パワードスーツのほうは野党の突き上げで、2000年代に破棄されて、研究者が学園都市に流れたって聞いた。で、今になって、問題になったんだ」
特警ウインスペクターらの根幹となったパワードスーツの技術は2020年代には警察の手元から失われてしまい、ススキヶ原の治安維持は自警団やヒーローユニオンに依存している。その関係で、未来世界で日本の警察関係者が眠りについていた『機動刑事ジバン』を蘇らせたのである。
「だから、『こいつら』が街で戦っても、警察がケチつけないんだ。自分たちが行っても、虚しく蹴散らされるだけだし、他力本願になるさ」
「だから、自警団が日本軍の使ってたレシプロ機を飛ばすのか?」
「市民の要請だそうだ。ジェット機の整備と維持には専門知識と器材が必要だが、レシプロ機なら、車の知識があれば、液冷も空冷もそれほど変わらねぇしな。日本機なのは、いくらでも誤魔化しが効くからだそうだ」
自警団は極秘裏に、扶桑から払い下げられた航空機を購入し、航空パトロールに用いていた。紫電改と四式戦の後期型、天山(扶桑にとっては)などと言った、数の多いレシプロ軍用機を用いている。カールスラント軍崩れの元軍人達がテロ行為を起こすことも増えたため、航空パトロールの必要が出たからである。自警の範囲ギリギリであるが、カールスラント軍崩れの集団がBf109やFw190系を持ち出すため、やむなく対抗せざるを得なかったススキヶ原の選択であった。なお、三式戦闘機は殆どが五式戦に改造されたのと、史実の逸話もあり、忌避されたため、自警団は保有せず、四式戦闘機などが多いのだ。(扶桑に大量の在庫があるのも大きい)四式戦は完全に戦闘任務に特化した後期型が量産された時には、既にダイ・アナザー・デイの戦闘の大勢が決していた。しかし、ラインを止めるには、相応の準備と対価が必要なため、数年は稼働していた。その間に出回った機数は1225機。二式戦の後継を求めた部隊のみに配備されたため、実戦で使われたのは、その更に六割。少なからずの余剰機がススキヶ原の自警団の手に渡っていた。
「政府は黙認なのか?」
「学園都市を統制できないのがバレたら、面子が潰れるからな。それに、新兵器が向こうの世界での戦闘で予想外に損害出て、生産抑制がかけられたから、向こうの世界に新兵器を行かすのに反対する意見が強いんだそうな。その言い訳に、この街は使われてるよ」
機動戦闘車の生産が、ダイ・アナザー・デイでの失敗での背広組の突き上げで抑制されてしまった結果、扶桑へ回す分が無くなった。業を煮やした扶桑がMSやコンバットアーマーを導入する結果となった。また、人型機動兵器は対戦車誘導弾程度のものでは行動不能にできないため、携帯式対戦車誘導弾の優位性も揺らいでいる。
「だから、たいそれた代物を?」
「地球連邦軍も、内部機関が主導権争いしてるんだ。だから、競うように兵器を卸してる。扶桑は日本の了解を必要としないからってんで、話に乗って、古い装甲車両を置き換えていってる。日本の装甲戦闘車両、特に戦前型はクソみてぇなもんしか量産されてないからな」
「だから、扶桑はロボットを導入するのか?」
「あの世界は高度な軍事兵器を必要にしてるからな、魔女の戦術的優位性が崩れたのもあって。敵との技術格差を埋めるために、同等の兵器を必要にしてるんだ。とはいえ、そんなものを充てがわれても、扱えるのは1940年代の世界じゃ、機械好きくらいだ。それもあってな」
モビルスーツは航空機以外の他兵科に対し、無敵に近い。だが、整備に他の兵器よりも熟練を要する事から、扶桑全体では『陸戦特化型のコンバットアーマー』のほうが比率が高い。これは空軍が必要上、空挺部隊代わりに可変MSを欲したからだ。のび太の作らせた『SPT』は特注品であるし、ナイトメアフレームもワンオフ機相当の機体しか存在しないため、部隊単位で配備されたリアルロボットはコンバットアーマーとモビルスーツの二種になる。これらは既存兵器を完全に置き換える存在ではないので、戦車も平行配備されている。アニメのように無敵の存在ではなく、戦車の台数の節約にはなるが、財政のバランスを取るため、戦車や戦闘機よりは少数運用が推奨されている。航空ウィッチがパイロットを兼任するケースが多いのは、第一世代理論式が旧態依然と化し、軍事的に不要になった爆撃ウィッチや攻撃ウィッチの転科先としても機能しているからで、戦場に第四世代ジェット戦闘機以降の機体が現れ、なおかつ、敵味方関係なく、M粒子散布下となった場合は爆撃ウィッチと攻撃ウィッチの軍事的実行力は損なわれる。その関係だ。
「昔は爆撃機と雷撃機が分かれてたが、雷撃がミサイルに置き換わって、急降下爆撃も廃れるだろ?それで、その訓練を積んだ連中の転職先に使われてる。戦闘ウィッチは技術革新さえ起きれば、まだ生き残れるからな」
ウィッチに比して上位互換の魔導師の存在が、ウィッチの存在意義を揺るがした。ウィッチは貯蔵庫の備蓄を使うような感覚で魔力を用いるため、坂本の史実のように『枯渇』する事はままある。だが、魔導師は魔力供給器官が先天的・後天的に生ずるため、結婚・出産を経ても、魔力値は変動しない。もちろん、異世界出身でも、そうなる可能性はあるため、Gウィッチは基本的に『転生を重ねる内に、リンカーコアが形成された者』でもある。とはいえ、純然たる魔導師に比すれば、最大魔力値は劣る。その自覚があるため、それ以外の異能がメインになる傾向がある。それは彼女らの『魔法つかいとしての限界』でもある。
「科学の極地が異能を駆逐する、か。ありえることだが……」
「科学万能主義も行き過ぎるとな。宇宙にはな、コンピュータにすべての管理を任せきりにしてたら、太陽の黒点異常で起こった磁気嵐でコンピュータがイカれた結果、原始人以下に退化した連中もいるそうだぜ、会長」
ミッドチルダやドラえもん時代の地球も、科学万能の傾向があった。ドラえもん時代の科学文明を意図的に退化させようとした結果が統合戦争の惨禍である。その兼ね合いで、反文明派の子孫が多いサイド3は反連邦の風潮に染まっており、動乱の芽となってきた。その主張の根源となった伝説の星こそ、銀河連邦の記録にある『ボタンチラリ星』である。18世紀の宇宙で『銀河一』の機械文明を誇ったが、主星の黒点異常で起こった磁気嵐で文明の根幹となる電子頭脳が狂った結果、瞬く間に文明が崩壊した。その逸話が統合戦争の当初の反統合同盟側の大義名分であったと推測されている。しかし、その彼らがM粒子を軍事利用し、ロボット技術のある種の極地である『モビルスーツ』を生み出したのは皮肉な事である。一年戦争が『宇宙時代の太平洋戦争』と揶揄されたのは、サイド3の主要な人種が日系と独系の人々であったためで、その後に宇宙怪獣やゼントラーディなどの脅威が立ち塞がり、遠い将来にはイルミダスが現れる。それらへの対抗手段の極地がゲッターエンペラーなのだ。
「ありえるのか?」
「極端な話だが、これを恐れた西洋が日本の大きくした文明を退化させた。だけど、別の意味で歪な文明に変わるのを促進させたから、ジオンは叩かれるのさ。奴らは親殺しのパラドックスも恐れねぇ『ならず者』さ。往時の公国に忠誠を誓ってる連中より、戦争屋が増えてるからな。元は統合戦争の時の反統合同盟寄りだった連中の集まりだったのが、ある意味、文明の極地な感じのロボット兵器を生み出すんだぜ?皮肉なもんだ」
ゴルシはジオン残党の最大派閥が潰えた後はテロリストが『活動の方便に使う』名前に堕ちつつあると解説する。野比一族らを抹殺するためには、タイムパラドックスも意に介さない。そこが恐るべきところだと。
「だから、タイシンがあの小僧に入れ込んだわけか。奴のために、今回の事を?」
「あたしも予想外だったよ。たぶん、あいつ、根は可愛いんじゃね?」
「普段は無愛想なくせに、変に乙女なんだ、あいつ」
「トレーナーが熱出した時はよ、クリークさんに泣きついてたぜ?」
「ああ、アタシも見かけたよ。半泣きだった。インフルエンザとかで40度出たとか」
「私もだよ。トレーナーくんがインフルエンザで倒れた、まさにその時に病院に付き添ったからね。タイシンに隠された意外な一面だな」
タイシンは自分が気を許した相手には、素の自分を出せるため、実際には優しい性格である事は周知の事実だった。BNWで一番の小粒と言われつつも、血みどろの努力をしながら、それが報われないことに歯がゆさを感じ、前世の記憶を垣間見たこともあり、ゲッターにその身を委ねた。ノビスケがなつくのは悪い気はしないらしく、ノビスケへは柔らかい表情を見せることが多いという。
「しばらくはこの体を使うことになる、か。中身が変わっている事の目印は必要だから、勝負服でも上から羽織るとするか」
「態度と雰囲気でわかると思うんだけどねぇ」
「態度と雰囲気だけじゃ、わからんだろ?アマさん」
ブライアンは勝負服をプリキュアのコスチュームの上から羽織ることで、見分けのポイントとすることにしたが、ブライアンは無頼/孤高な雰囲気を持つため、身体を入れかえていても、すぐに分かる。とはいえ、根は優しいため、キュアドリーム(夢原のぞみ)との共通点がないわけでもない。もちろん、この状態でも、固有スキルの発動は可能である。魂レベルで刻まれた『前世での異名たらしめた能力の開放』であるからだ。これは前世で歴史に名を刻んだレベルのウマ娘にしか許されない特権のようなもので、マルゼンスキーはその力を大いに奮ったが故に、その時期の国内の多くの関係者から疎外された。(ヒシ一族の嫡流が絶える原因でもあったので)
「元会長たちはマルゼンさんを鍛えてるようだが、何故だ?」
「ああ、マルゼンは同期達を不幸のどん底に叩き落とした前歴があるからな。強すぎたのだ。私は二人の先輩に負けた事があるが、奴は同期をまったく寄せ付けなかったからな」
ルドルフは現役時代の全盛期であっても、カツラギエースなどに負けているが、マルゼンスキーは現役時代は『無敗の王者』としての名声を欲しいままにした。その当時の三強である、トウショウボーイらの玉座を脅かせる唯一無二のウマ娘であったからで、マルゼンスキー自身の大怪我がなければ、おそらくは……。そう惜しまれている。マルゼンスキーは世界的な名ウマ娘『ニジンスキー』の子であった故に、同期のウマ娘達とは差がありすぎた。当時の協会は国内のウマ娘を保護する名目で、外国からの帰国子女であるマルゼンスキーをクラシック路線から締め出した。だが、その選択がマルゼンスキー自身のみならず、同期の全員の運命を狂わせてしまった。協会の関係者は後に、『その時代のクラシック参戦者がまったく太刀打ちできないなんて、思いもよらなかった』と嘆いたほど、力の差がありすぎた。問えるなら、マルゼンスキーは最高のスーパーカー、他の同期は国産の市販のセダンやクーペ。それほどに差があったのだ。
「それが世代全体を不幸のどん底に落としたんだ。人知れずに死んでいったという、G1ウマ娘も続出したからな」
「協会はそれを何故、あまり表に出さんのだ?」
「面子論でマルゼンスキーを締め出したら、その同期が元会長たちにまったく歯が立たなかったんだ。あの時代は元会長らが絶対王者だったが、それを打ち破れる可能性のあったマルゼンを締め出したから、余計に地力の差を強調してしまったのさ」
協会はその時に規則の改定をしなかったが、オグリキャップの登場で、結局は『する』しかなくなった上、その恩恵を受けたテイエムオペラオーは『その大仰な振る舞い』もあり、大衆人気がない。ことごとく施策が裏目に出た形になる。
「史実を考えれば、マルゼンさんの時代に持ち込み馬にクラシック路線を解禁すべきだったかもな。未だに、エルコンドルパサーが凱旋門で出した順位を超えられないからな。三冠馬であっても」
凱旋門賞は日本競走馬の夢となったが、三冠馬を以てしても、エルコンドルパサーの成績を超えられていないし、モンジューの血統の前にいつも苦杯を嘗める。ゴルシも凱旋門賞に出走した経験がある故だろう。
「そいや、あんた。凱旋門に?」
「前世でのことだがね。さて、戻るか。タイシンも戻ってるだろう」
三人は野比家に戻ったのだが、帰ってみると…。
「おい、タイシン。どういうことだ?」
「ショックでこうなっちゃったのよ、ブルボン」
帰ってみると、ミホノブルボンが幼児退行を起こしたかのように、タイシンにすがりついていた。親友/ライバルのライスシャワーが大怪我を負ったのがショックだったらしい。
「ライスが大怪我して……手術で命は助かったんだけど、走れるように、足が戻るかは……」
「……そうか」
ゴルシもこの時は真面目に返事を返した。ブルボンが幼児退行を起こすレベルで精神的ショックを味わい、タイシンにすがりついている事の意味を理解しているからだ。
「この調子やから、ブルボンは当分、レースに出られへん。トレーナーには話をつけておいたで」
「わかった。すまないな、タマモ」
「ウチも古参やからな。こんくらいはお安い御用や」
タマモクロスがブルボンのトレーナーに話をつけた事を伝える。ライスは佐渡酒造の診断で『復帰できるかは不明。意識がいつ戻るかも、今のところは見当がつかない』とされ、ブルボンはそのショックで幼児退行を引き起こしてしまい、療養のために連れてきたとタイシンが言う。
「クリークさんは?」
「今、ブルボンを寝かせる準備をしてる。これじゃねぇ…」
「本当は命が助かっただけでも、すごい儲けもんだが……ブルボンにはショックが強すぎたな」
「んじゃ、ブルボンを寝かせてくるから」
タイシンはブルボンを寝かせるため、クリークの待つ部屋に向かう。予想外に深刻であったようだ。
「ブルボンが離脱か…。となると、ダイワスカーレットとウォッカ、キタサンブラック、サトノダイヤモンドがジュニア級で支えることになるな」
「シニア級は金鯱賞から本格化だからねぇ…。マルゼンさんはどうしたんだい?」
「マルゼンさんなら、トレーニングで走らされてるよ、アマさん」
「そうかい。今日はアタシが作るよ。台所はどこだい?」
「そこのドアを開けて、階段を降りた先。使ってないから、殆ど新品だって」
「家主は料理しないのかい?」
「普段は男一人だから、出前や弁当とかで済ますんだと」
「台所がなんで、階段を降りた先にあるんだい?」
「階層ぶち抜きの改装なのと、武器庫のエレベーターを通す関係上だって」
新野比家はマンションのいくつかの階層を使っているが、武器庫へのエレベーターを通したりしたため、キッチンが変な位置になってしまった。また、のび太が料理下手なのと、出前や道具で済ませる性質なので、新品同様であった。最近の調理はスーパークリーク、ヒシアマゾン、グリーングラス(生徒会OGで、在籍時は書紀であった)が持ち回りである。なお、グリーングラスは大器晩成型のウマ娘で、TTGと呼ばれた三強の最後の生き残りとして、ルドルフのデビュー後もしばらくは現役の座にあった。卒業前はスーパークリークの先駆者といえる立ち位置であり、ルドルフをちゃん付けで呼ぶ、数少ない先輩である。
「ほう。ずいぶんと面白いことをしてるな、ルドルフよぉ」
「その声は……まさか……」
「俺だ。久しぶりだな、ルドルフ」
「て、テンポイント先輩!?」
背後からの声に、さすがのルドルフも青ざめる。新人時代に怖がった先輩の声がしたからだ。ルドルフやテイオー同様に前世での流星をメッシュという形で容姿に持ち、テイオー登場以前に『グッドルッキングウマ娘』の名を欲しいままにしたイケメンウマ娘。その名もテンポイント。前世代の会長候補であったウマ娘だ。気性の粗さで生徒会長の座を逃したが、実力はトウショウボーイと同等であり、ハイセイコーも、この二人のどちらかを後継にすることで悩んだという。テンポイントは現役時代、貴公子と謳われるほどの美貌、その高い実力から、ハイセイコーの後継者候補とされた。ただし、トレーナーには素直である一方で、レースでは荒馬そのもの。その気性はハイセイコーにより『生徒会長の器ではない』とされたものの、実力は高く評価されていた。ただし、一人称が俺であったのも、地方出身のハイセイコーから『口が悪い』と見なされたのでは?という憶測もある。ただし、テンポイントの現役引退の経緯は悲劇的なものとなり、多くのファンの悲憤を呼んだ。海外遠征を予定した矢先の悲劇であった。
「お怪我はすっかり?」
「あれから何年だと思う?まぁ、いい。お前の愛弟子のために、お前の残務処理をしてやったぞ」
「ありがとうございます。先輩もやはり?」
「マルゼンの様子を見に来たが、お前の成長ぶりを見たくなってな」
容姿はルドルフ、テイオーの両名と似ているが、性格はナカヤマフェスタやゴルシ寄り。ルドルフは新人時代、テンポイントのことを怖がっており、グリーングラスに懐いていた。
「グラスの奴にくっついてたお前が、ボーイの後継ぎとはな。マルゼンの奴の教育が気になるな」
卒業生であるので、この場にいる誰よりも目上であるテンポイント。スーツ姿ながら、往時に貴公子と歌われた容貌は健在だ。
「マルゼンとは?」
「奴め、腰を抜かしていた。俺が来たからには、現役の頃のカンを取り戻すように鍛えてやる。TTGの筆頭の身としてはだな」
「あの、それ、まだ気にしておられたので?」
「当たり前だ」
TTG。平成三強の前世代の三強であり、『永世三強』という称号の最初の持ち主である。ルドルフの子供時代のヒーローといえる世代であるので、ルドルフよりも七歳近くは上の世代である。マルゼンスキーはその直後の世代だが、年齢は最高で四歳ほどはTTGと離れている。これはトレセン学園が一貫校であること、マルゼンスキーはレースに出れる機会が少なかったため、単位が取れずに留年したことが現役時代にあったからである。レースのほうは勝てても、学業が追いつかず、留年するウマ娘は珍しくなく、ルドルフも、レース日程がタイトであった現役時代に留年の経験を持つ。
「すごいな、ルドルフがペコペコしてるぞ」
「そりゃ、自分の新人時代の先輩やぞ?それもエースや。挨拶はきちんとしなくちゃアカンやろ?」
感心するブライアンにツッコむタマモクロス。最もだが、トレセン学園の良心を担う一人こそがタマモクロスなのだった。