ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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今回はブライアンがメインです。


第三百六十三話「ナリタブライアンの上げる狼煙と、ハルウララの功績」

――全盛期+αな能力値に至った『かつての名ウマ娘』は『現役世代とは区別するべきだ』という意見が協会であったが、現役世代の新星の中には、自分の能力をあからさまに誇示する者もいるため、鼻っ柱が強い者を戒める事も必要だと言うことで、現役かつ、処置を受けたシニア級のウマ娘達は『新世代への壁役になる』事が期待された。特に、キングカメハメハ、ハーツクライ、クロフネ、ディープインパクトの新世代第一陣の四天王は、既にジュニア戦での既存のコースレコードを更新しまくるという『華々しい戦績』を収めていたため、『超えるべき壁』が必要だと見なされた。(実際、彼女らの平均能力値はブライアン、スズカ、エアグルーヴらの世代よりも一段上の水準を誇る)現役とドリームシリーズ在籍組の混合レースが構想されている背景には、その意図も含まれた――

 

 

「……チッ。あいつらめ。目にもの見せてやる」

 

エアシャカールはある日のオンラインゲームで、タイシンとテイオーに手もなくひねられたが、肝心のレースでは分があると考え、レースでの雪辱を誓う。実際、タイシンはクラシック級までの目立った成績はG1レース一勝、G2とG3をいくつかのみ。テイオーも先立っての有馬記念までは低迷が続いている。自分はダービーを逃したが、菊花賞は勝っているという点で自信があった。実際、エアシャカールは二冠ウマ娘としての評価がテイオー以上とされるほどに高い『実力者』であった。

 

「おやおや、今日は不機嫌だねぇ、シャカール君」

 

「うるせぇ、タキオン。タイシンとテイオーの次走予定を教えやがれ」

 

この頃、テイオーとタイシンは全盛期のキレを既に取り戻していたが、素質でエアシャカールが上回ることは認めている。(シャカールは理屈っぽいところで『可能性を狭めている』という評価があるように、周囲から軽んじられ気味である。だが、ハマった時の彼女は『幻の三冠ウマ娘』に相応しい実力を誇る。そのため、二人はゲームでは圧倒できても、レースで負ける可能性は大いにあるといえる。

 

「構わないけど、君はどうなんだい?」

 

「あいつらとは脚質も似通ってるし、俺は二冠取ってんだ。怪我で菊花賞を逃したテイオーよりは上なつもりだ」

 

ゲームのチャットでからかわれたためか、ターフの上で決着をつけたいようだ。実際、准三冠と評されている(ただし、史実では気性難な事から、『サンデーサイレンスの悪いところを集めた』ともされ、それがもとで引退後に足を折り、安楽死処分の憂き目にあった)ため、素質は確かなのだが。

 

「うちの家族から聞いていたが、君が気の荒いインテリというのは本当なようだ」

 

「家族……そうか、ダービーで戦ったアグネスフライトはてめぇの?」

 

「姉だよ」

 

タキオンには、アグネスフライトという姉がおり、エアシャカールをダービーで下した実績を持つ。(とはいえ、その後は鳴かず飛ばずで引退したが)その彼女から聞いていたと肯定する。

 

 

「これは姉の言葉だが、数字が全てじゃないよ、シャカールくん」

 

「てめぇがそれを言うのか?」

 

「私も……足さえ頑丈なら、三冠を狙いにいくつもりだったからねぇ」

 

アグネスタキオンはアグネス一族の中でも、特に高い資質があったが、『ガラスの脚』であったがため、皐月賞を取った後は休業状態に追い込まれた。言うならば『フレームの補強もしていない普通乗用車に、フルチューンしたスーパーカーのエンジンをポンと乗せた』状態だった。本人も『脚が健全であれば、今頃は三冠ウマ娘になれていた』と自嘲している。(それがタキオンをマッドサイエンティストの道にのめりこませた背景である)

 

 

「単純な数字では、不確定要素は測れないよ、シャカールくん。数字が全てであれば、テイオーくんが昨年の有馬記念をもぎとれるわけがない」

 

「てめぇの口から、そういう言葉が出るなんてな」

 

エアシャカールは数字の上では優位であったはずの『ある年の日本ダービー』で、タキオンの姉『アグネスフライト』に及ばなかった経験があるように、タキオンは『理論上は最適』なはずの休息とトレーニングをしても、自身の脚が皐月賞での過負荷に耐えられなかった事を契機に、数字を単純に信ずる事はやめている。

 

「ん、金鯱賞か?」

 

「ああ、ブライアン君の復帰レースだよ。彼女は怪我続きだったからね」

 

二人が中継を見ている金鯱賞。ブライアンの復帰レースである。怪我から立ち直っても、元の走りを取り戻せるかは運次第。サイレンススズカは極めて幸運な例であった。ブライアンは不運にも、怪我の連続が祟り、三冠経験者ながら、往時の走りを失って低迷し、周囲から見放されたも同然であった。だが、彼女の再起を信じるトレーナーへの信頼、彼女に施された施術の効果か、往時と同様、あるいはそれ以上の走りを見せた。

 

――ナリタブライアン、ものすごい末脚!!グングンと差を詰めます!!――

 

金鯱賞に出場していたナリタブライアンは『ピークは過ぎた』と見放していった者たちを唖然とさせる走りを見せた。むしろ、往時よりも速い速度でグングンと先頭へ迫る。

 

「なっ、あいつは怪我で全盛期のカンは失くしたはず……」

 

「向こうで施された施術の効果さ。本来、私達は本格化が終わると、今度は逆に能力値が低下し始める。サクラチヨノオー君はシニア級に突入した時にそれが起き、更に怪我が治りきらなかった故に、引退を選んだ。私達は『勝ちたいという欲望』が薄れると、肉体本来のポテンシャルを出しきれなくなるようでね。これはウイニングチケットくん、テイオーくんの低迷期などで確認されている。怪我以外でも、種族的限界、精神的要因で『衰える』要因がこれだけ潜んでいるんだ。それ故に、ゴールドシップくんが施術を施させたのさ」

 

ウマ娘の種族としての限界。それは『本格化』が完了してしまえば、肉体のポテンシャル的意味での全盛期が終わり、後は内側から緩やかに衰えていく。サラブレッド種のウマ娘はその傾向が顕著である。ゴールドシップはそれを超えるために『闘争心を引き出す』ゲッター線の照射を皆に受けさせたのである。

 

「その施術って、なんなんだよ!?」

 

「ここではない世界の技術で以て、肉体を活性化させ、闘争心を引き出すことさ。テイオーくんやブライアンくんのように『盛りが過ぎた』ウマ娘であろうが、全盛期の能力値を再び引き出せるようになる。あくまで『全盛期の能力を安定して引き出せる』ように戻るだけだが、G1級のウマ娘ならば、多大な恩恵に預かれる」

 

ブライアンは姉の引退などで『勝利への欲求が強まった』事、全盛期より真面目にトレーニングに打ち込んで、限界能力値自体を引き上げていた事が重なった結果、新世代四天王にも劣らないだけのポテンシャルを発揮してみせ、未だに第一線級の力を保つ事をアピールする形になった。

 

――ナリタブライアン、復活!!姉のビワハヤヒデの引退後に、自身も怪我での引退が囁かれていましたが、それを吹き飛ばす見事な走りでした!!――

 

実況が高らかに告げる『ブライアンの復活』。史実では三冠馬にあるまじき走りが続き、素人目にも『落ち目』というのがわかるキャリア後半を過ごしたが、ウマ娘としては『復活』が叶ったのである。この後に、再起したマヤノトップガンとの『伝説の競り合い』が起きるのである。そして、金鯱賞を終えた後のインタビュー。

 

『姉貴は私と走るのを心残りにしている。正式な引退はその後だ。』

 

――ご自身は現役を継続なさるつもりで?――

 

『まだまだ、ガキ共に道を譲る気はない。姉貴が果たせなかった夢を託されたのもあるが、下の妹達(ビワタケヒデなど)にいいところを見せたいのでな……』

 

若干気恥ずかしそうに、下の妹達に勇姿を見せてやりたい『姉心』もあると赤裸々に語ったことから、ブライアンは末っ子ではなく、『次女』属性の持ち主である事が公になった。ストイックなウマ娘と思われたブライアンにも『人間味のある側面』がある事が判明し、人気が再燃することになる。また、このレースには……

 

 

 

インタビューを終え、パドックを通り、控室に戻るブライアン。そこには

 

「ブライアンおねーちゃん~~」

 

「来ていたのか、タイテイ」

 

「うん~、タケヒデおねーちゃんが連れてきてくれたの~」

 

ビワハヤヒデに似ているが、ブライアンの特徴も併せ持つ『幼稚園児くらいのウマ娘』が駆け寄ってくる。ブライアンの次妹で、ハヤヒデの三妹にあたるビワタイテイである。ハヤヒデ、ブライアンの両名の年の離れた妹の一人で、更に下に末妹の『ビワパシフィカス』がいる。

 

「ごめん、ブライアン姉さん。この子が連れてけって聞かなくて」

 

「構わんよ。私も久しぶりに、お前たちの顔が見たくなったところだ」

 

ビワタケヒデが連れてきたようで、顔を見せる。タケヒデは小学校高学年頃の年頃であるので、上と下の姉妹コンビで、お互いに年齢が離れている例になる。下の姉妹たちをブライアンは可愛がっており、タイテイのわがままを許す。

 

「姉さん、ハヤヒデ姉さんは本当に?」

 

「ああ。お前が入学するまでは…と言っていたが、引退の腹は決まった。すまんと伝えてくれと」

 

ブライアンはタケヒデにそれを伝える。その分も自分がターフに立ち続けるとも。

 

「そんな顔をするな。姉貴は去るが、私がいる。姉貴の分も、私が走るまでだ」

 

ブライアンは、タケヒデを不器用ながらも元気づける。ブライアンはぶっきらぼうだが、血は争えないのか、妹達の事を相応に可愛がっていた。そこはハヤヒデと似た者同士であると言える。

 

「おい。今日は焼肉屋へ行くぞ」

 

意気揚々と口にするブライアンだが。

 

「俺、給料前で金無いんだけど。ゴルシにたかられてさ」

 

スピカのトレーナーがぼやく。ゴルシにたかられ、ほぼオケラだと。

 

「私の口座に振り込まれてる賞金や、CMの出演料から払え。貯まる一方だからな。たまには、こういう事もありだろう」

 

「わかった。恩に着るよ」

 

ブライアンが助け舟を出す。下の妹達はハヤヒデ寄りの容姿を持つため、傍目にはブライアンにあまり似ていない(曰く、ブライアンは父親似らしい)が、末の妹は特に懐いているようだ。ブライアンも下の妹たちには、ちゃんと『姉』としての振る舞いはしていることがわかる一コマであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ウマ娘達は基本的に『勝ちたいという気持ち』が強ければ、肉体的限界の突破も可能だが、肉体が負担に耐えられないというリスクを孕む。アイネスフウジンはそれで脚を痛め、サクラチヨノオーは最終的に引退を余儀なくされた。『領域』の発動でかかる負担に肉体が耐えられ、なおかつ脚がその酷使に耐えた点で、オグリキャップは特筆に値する。テイオーは『素質そのものは当代一級だが、肉体がその願望に応えられず、精神的にも、ルドルフのようにはなれなかった』。その点で、テイオーは大成を『怪我と精神的要因』で阻まれたウマ娘であると言える。ブライアンが復活の狼煙を上げ、シニア級の王者に名乗りを上げたのを見、自身も阪神大賞典で一位になり、復調をアピールした。新ドリームシリーズは次期有馬記念の後の開催(翌年の新春)が決まり、オグリキャップらは現役世代との混合レースに挑む事になった。トレセン学園内部でも、テイオー世代が生徒会の要職に付き、ルドルフ世代からの世代交代を果たす一方、ディープインパクト、クロフネ、キングカメハメハ、ハーツクライら『新世代四天王』が台頭を始めた。テイオー世代は新世代のエース格が『驕る』のを阻止するための壁役が期待されたが、四天王の資質は前世代のウマ娘を全てで上回るほどの驚異的なものであった――

 

 

 

 

 

 

――生徒会長を退いたルドルフだが、周囲からは会長と呼ばれ続けた。学園に籍があるウマ娘一の政治力を持っていたからで、後は『卒業の時』を待つ身である。彼女は新世代四天王の実力がとんでもないものであるかを目の当たりにした――

 

「ゴールドシップ、これが新世代の子たちの実力だというのか?」

 

四天王の圧倒的なレースの映像に息を呑むルドルフ。

 

「そうだ。デフォルトで領域を持つ上、基礎能力もテイオー世代を上回る。デキが違うって奴だ」

 

「末恐ろしいな」

 

「直に、さらなる世代交代が起きる。テイオーとブライアンも、うかうかしていられなくなるぞ」

 

「……達観したような口ぶりだな」

 

「まぁ、同期のジェンティルドンナから色々と言われてるしな。いい加減に落ち着けってよ」

 

ゴールドシップの同期『ジェンティルドンナ』は当代の『トリプルティアラ』ウマ娘である。明確にゴールドシップの同期であることが確認されているウマ娘で、ヒシアマゾンの後継者と言われる女傑である。ブライアンらの世代も既にシニア級の年齢を迎えており、世代交代の波が押し寄せてきていた頃だが、ブライアンの再起が契機になり、サクラローレル、ヒシアマゾンなどの同世代の有力ウマ娘らが奮起。シニア級の層が例年以上に充実することになった。クラシック級レースの注目度低下が心配されたが、それはマルゼンスキーの時代から言われていた事だ。

 

「新ドリームシリーズの協議はじきに始まるそうだが、引退組とシニア級のウマ娘との組み合わせになるという話だ」

 

「無難だな。クラシックの注目度を下げずに、シニア級と引退組の『夢の対決』感を出す。シンザンさんも考えたもんだ」

 

「マルゼンとオグリの時代の教訓だ。ヤエノムテキやサクラチヨノオー、それに、ヒシスピード先輩らには悪いが、世間はその時代のクラシック戦線を真の意味での戦いと見なさなかった。それが世間の総意という事だよ」

 

ルドルフはこの頃には、マルゼンスキーの世代のウマ娘達が辿った悲運の道を自分なりに調べ直したらしい。また、引退後も学園には在籍を続けている『サクラチヨノオー』に会ったらしい事が語られる。

 

「仕方ねぇさ。世代の筆頭格をハブにすると、その報いで、その世代はろくな目に遭わねぇ。マルゼンさんの時代の連中がよってかかって、不幸な道を辿ったようにな」

 

「我々は異世界の宿命を背負わされていると?」

 

「あいにくな。だが、それを超えるのが、あたしらにできる事だ。あんたの分もな」

 

「引退した身だというのが、これほどに無力を感じさせるとは…」

 

「そういうもんだよ。あんたの分も、ブライアンが戦っているさ」

 

「ブライアンには、いらぬ苦労をかけさせることになったな」

 

「元々、ブライアンはサボリの常習犯だったんだ。今くらいがちょうどいいさ」

 

ゴルシはこの時期から、意外にまともな側面がクローズアップされていく。旧・生徒会にツッコミを入れられる『数少ないウマ娘』である点が重宝されたのだ。旧・生徒会の留任はブライアンとエアグルーヴの二人のみだが、ルドルフの退任で『学園の生徒自治』という意味での政治力が低下するのが目に見えているからで、旧体制下での要職経験者が必要であったからだ。ブライアンはエアグルーヴと違い、役職は『公な意味での箔付け』程度と考えているが、ルドルフ退任後は唯一の『三冠経験のある現役ウマ娘』である。三冠という栄光も、同時代に『より上位の者』が現れれば色褪せる。ミスターシービーに対するシンボリルドルフがそうであったように。ブライアンは『怪物』と一度は呼ばれつつも、不調の長期化が理由で、周囲から見放されかけるなど、上げ下げを味わってきた。故に、かつての『現役晩年期のオグリキャップ』に似た立場であった。ブライアンは復調を見せつけることで『世間を見返したい』のだ。オグリキャップのように。

 

 

 

「ブライアンはアンタとオグリさんの立場を足して、二で割ったような立ち位置だ。だから、今は引退する年のオグリさんの気持ちが理解できるだろうな」

 

ブライアンはルドルフの後継を期待されたが、怪我からの長い不調で『終わった』と見做されてきた。周囲は次代のホープと持て囃される『ディープインパクト』に注目している。ゴルシは的を射た表現で、施術を選んだブライアンの心境を慮る。

 

「盛りを過ぎたウマ娘は大人しく、次代に道を譲れというのが世間の風潮だったからな…シービーには、今でも悪いことをしたと思っている」

 

「シリウスにはなんて?」

 

「奴はひねくれ者だからな。子供の頃は、もっと素直な性格だったはずだがなぁ」

 

「アンタが七冠を取ったのに、シリウスは一族の命で海外に行かされ、そこでぱっとせず、現役晩年期はオグリさんとタマモさんの噛ませでしかなかった。それがコンプレックスなんだろうよ。あたしみたいに、素で馬鹿やれないし、かと言って、領域に至れないって事は、あいつはオグリさんとタマモさんの前座、本命のいないダービーで勝った『時代の徒花』だって証明だ。そこもコンプレックスなのさ」

 

「そうだったのか……」

 

「あんたに突っかかるのは、そのコンプレックスの裏返しだよ」

 

ゴルシは、シリウスシンボリがシンボリルドルフに突っかかることの真の理由を察していたか、それを教える。ルドルフは絶対王者であった故に、周囲の苦しみをいささか理解しきれない点がある。

 

「そうだ。お前は生まれながらのエリートだった故に、成り上がる苦労を知らん。シリウスはそれが琴線に触れるのだろう」

 

「カイチョー」

 

トウショウボーイがそれを追認する。トウショウボーイは成り上がったタイプの生徒会長であったが、ルドルフはその逆に『生徒会長への就任』はデビュー間もない頃から規定事項とされていた。それがルドルフにとっては『ある種の不幸』だと。

 

「シリウスの現役時代の振る舞いについては、今でも賛否両論あるが、お前へのコンプレックスの裏返しだとすれば、全てに説明がつく。今はハルウララの面倒を見させている。キングヘイロー君がいなくなった故の措置だが、上手くいっているようだ」

 

「ハルウララの?」

 

「そうだ。緊急措置として、テンポイントが決めたのだ」

 

学園の自治はルドルフ退任の決定からの混乱を避けるため、協会への抑えが効くTTGの三人が代行している。ルドルフの政治力は本人の思う以上に強大であった証である。また、ハルウララはトレセン学園の清涼剤であり、勝てなくとも、中央に在籍を許されている点で稀有なウマ娘である。

 

「ハルウララか。あいつも『負け続けて、世間のアイドルになった』唯一の奴だからな」

 

「ああ。協会も困惑しているが、それが逆に心を掴むとは思わんだ」

 

ハルウララは史実では人間の都合で利用されたが、穏やかな余生を勝ち取った。しかし、勝たないことが価値であるとされた事は関係者にとっては複雑であった。ハマノパレードのように、G1を制した馬でも、時が経てば、その悲劇もろともに忘れられていくのが常であるのに、ハルウララは負け続けたが故にアイドルになり、高知競馬場の救世主となった。人々が『強い馬はいくらでも替えが効くが、ハルウララは替えが効かない』と見なした事は日本の不景気と無関係でない。ハイセイコーやオグリキャップのような『成り上がり』が夢物語と言われるようになり、サンデーサイレンス、ないしはキングカメハメハ、ダイナカール(エアグルーヴの母)などのエリートの血が入ってないと、一流と見做されない時代が訪れつつあった時期、負け続けても、レースを走るハルウララは日本人に光を見せた。たとえ、競走馬としては落ちこぼれであろうと。賛否両論あろうと。

 

「それがハルウララの宿命っすよ。あいつはそういう星の下に生まれた。世間もそれを望んだ。ある意味じゃ……あたしらよりよほど恵まれてますよ」

 

「言えてるな。今や、『TTG』の栄光もとうに忘れられ、ルドルフの七冠も過去になって久しいからな」

 

ハルウララは負け犬と蔑まれるどころか、『負け組の星』として崇められ、歴史に名を残した。日本人特有の心理がそうさせたと言える。三冠を取ろうと、時代とともにやがて忘れられるが、ハルウララはハイセイコー、オグリキャップに比肩するアイドルホースであると言える。自分達の栄光が『儚い奇跡』であるかを実感し、ハルウララが羨ましくなる三人であった。そして、ルドルフは現役時代に『背中を追っていた身内』の事を思い出す。ルドルフが素直に慕う、数少ない直近の身内にして、天皇賞・春の制覇経験を持ち、有馬記念も二回勝つという『輝かしい経歴』を持つウマ娘『スピードシンボリ』。ルドルフの祖母にあたり、かのメジロアサマ(マックイーンの祖母)の三年ほど先輩にあたる『戦後の時代のウマ娘』である。彼女の才を引き継ぎ、最高の形で示したのが孫娘のシンボリルドルフ。久しく会っていない祖母の事を思い出したか、ルドルフはちょっぴりしんみりするのだった。

 

 

 

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