――結局、日本連邦は日本が扶桑を手駒として利用しようとする者、周辺諸国への抑止力を欲しがった国防論者の思惑が日本側で一致したために実現した。扶桑の若い活力が日本に力をもたらした結果、経済的復興に目処が立ち、扶桑の軍事力を使えば、日本は手を汚さずに周辺諸国への示威を合法的にできるという利点が政治家に認識されたのだ。また、史実で『日本軍の攻勢を支えた人材』が健在であるため、その人材を数カ所に集めて管理するというドクトリンが考え出され、その一環で生み出されたのが64Fであったのだ――
――64F以外にも、『高練度の人員を集めて運用する』部隊が構想されたものの、尽くが頓挫してしまった。64Fが異常に肥大化した理由は『政治的理由で、教官パイロット/ウィッチを教育部隊から動かせなくなった』ため、各戦線の熟練者を引き抜くことでしか、『実働人員の新陳代謝が図れない上、同じような部隊が作れない』という難点が表面化したからだ。太平洋戦争も数年目を迎えると、反転攻勢に出られない事のデメリットが大きくなり始めた。軍の近代化が生産力の限界で遅れ、兵器の運用に必要な全ての不足が露呈していた。そのため、超兵器でとにかく蹴散らすという場当たり的な対応が推奨され、ダイ・アナザー・デイで活躍した超兵器の運用が扶桑軍に一部が移管されていた。扶桑軍も運用ノウハウを取得したからである。人的被害を日本側が嫌うが、未来世界では無人兵器が『非人道的な兵器』と烙印を押されていて、運用がほとんど停止されている都合、有人兵器しか供与の選択肢がないからである(モビルドールは処分されているが、度重なる異星人の侵略で人的資源の枯渇の問題が本気で議論されたため、ゴースト無人戦闘機の運用程度であれば解禁された)――
――21世紀の日本は未来世界が自分達の未来の姿ということは悟っているが、どの程度の未来であるかは見当はついていない。あまりに技術に差があるからだ。とはいえ、その軍事・医療技術は喉から手が出るほどにほしいため、未来世界から扶桑への供与に口は挟むことはなかった。それほどに太平洋戦争の戦況は膠着状態であったからだ――
――扶桑軍はこれ幸いと言わんばかりに、未来世界からの購入を進めた。64F以外にも配備する必要があったからで、外観的にもわかりやすい『善玉』的なRGM-89『ジェガン』、RGZ-95『リゼル』は(敵機がジオン/ティターンズ/ザンスカール系であるため)が購入機の主流であった。64F以外では、整備力の都合で、ジム系の運用がせいぜい。ガンダム系に属する機体は64の特権化している。ジェガンが好まれたのは、『小型機では物理的耐久度に不安がある上、使用技術が高度過ぎ、ゲリラ運用向きでない』からという切実な事情からであるが、軍事的には『ビームシールドは隠密行動に向かない』というのも含まれていたのと、『予備部品が星の数もある』からで、そこはメンテナンス性が重視されたと言えよう。――
――太平洋戦争がある程度は進展すると、扶桑は宇宙艦隊の整備を進めつつ、反転攻勢のために兵力の温存に入っていた。1949年の初夏になると、扶桑は『敵艦隊をおびき寄せ、殲滅した後、五大湖工業地帯を爆撃し、同時にニューヨークとワシントンに電撃的に空挺降下し、政府中枢を制圧。休戦に持ち込む』というプランを立てつつあった。問題は敵が『原爆を使う』ことである。ティターンズはリベリオンに原爆を作らせていることは予想できることだし、ティターンズが水爆を保有していることも充分に考えられるからだ。結局、力には力なのだ。問題は『一つの力に頼ってれば、さらなる力に滅ぼされる』という点だ。ウィッチに頼った結果、未来世界からの来訪者が『ウィッチ優位の認識を崩した』し、ミッドチルダは魔法至上主義が戦争で見事に崩壊し、事実上は地球の傘下に入った。扶桑はそれをよく分析したため、ウィッチ至上主義的な風潮を捨てたのである。――
――人的被害が出ることを嫌いすぎるが故に、手柄が一部の部隊に集中することは『よろしくない』のも事実であるが、ダイ・アナザー・デイから急速に膨らんだ反戦思想と政治的理由で見境なく行われる『人事的な制裁』に縛られ、大規模行動が取れなくなっていたという事情も絡み、64Fの規模が異常に肥大化している。もはや『戦隊』と呼べない規模に達していた。自由リベリオン軍は『人的被害は当然なのに、それを異常に嫌う日本は異常だ』と評し、日本の一部から猛抗議を食らう羽目になっている。これは64Fに負担を強いながら、他の部隊を動かそうとしない、日本の消極的姿勢への揶揄であったが、『一部隊だけで事が済むなら、安いものではないか』と抗議されたのだ。結局、政治的理由で『日本は表立っての支援を避けた』ため、64Fは地球連邦軍の支援を頼りに、戦い続ける事になった――
――モビルスーツ、スーパーロボットなどは強力ではあるが、それ自体は戦局のキーとはいい難い。64Fが奮闘しても、他の場所で戦線を突破されれば、成果は無いも同然になるからだ。そのため、扶桑は戦線の重要部隊への未来兵器の配備及び、次世代型ストライカーの配備を進め始めた。未来兵器は量に劣る扶桑が戦線を支えるための重要物。扱いには細心の注意が払われた。モビルスーツは比較的に多く配備されていったが、純然たる陸戦兵器であるコンバットアーマーとニーズを食い合ったため、可変戦闘機や純然たるZ系統の可変MSなどの高度な整備技術を要する物は64Fと彼らに近しい部隊の特権となっていた――
――Zガンダム。大決戦にも、カミーユ・ビダンの操縦で投入され(設計年度そのものはグリプス戦役中期なので、デザリアム戦役後の時点では古株のTMSに属するが)バイオセンサーと再建造の際に追加されたサイコフレーム由来のサイコパワー(最高のニュータイプであるカミーユの能力の為せる業だが)を垣間見せ、プリキュア達を驚愕させている。また、RX-78に代わる『地球連邦軍のシンボル』となったため、象徴的に増加生産機が回された。元々が軽装甲型のガンダムなため、原型通りでなく、内部構造は後発機のプルトニウスからのフィードバックと技術革新で刷新されており、『フィールド』を張れるようになっている。そのシンボル性から、武子用として配備されたが、武子本人は『見かけがマッシブ』なSガンダムを好んだため、Zガンダムは『Z系に乗り慣れている』者が持ち回りで乗ることになった――
―遠征前のある日――
「あ、あの時のガンダムだ」
格納庫に案内されたキュアフローラはどこかでのオールスター戦で目撃したガンダムに気づく。そのガンダムはZガンダム。正確には増加生産機(三号機仕様の外観とプルトニウスに近い構造の内装を持つ。)であるが、基本的な外観はカミーユ機と同じであった。
「あれと同型の機体だ。本当は武子用にって回されたが、あいつは軽装甲の機体を嫌うから、俺やケイが使う事になった。中身は変えてあるんだがね」
Zガンダムは軽装甲の設計であるため、軽装甲で苦戦を強いられた経験のある武子の好みではなかった。隊長機想定のマークなどは消され、黒江たちが乗る事が想定されたものに変えられている。比較的に旧式とはいえ、MS技術の成熟したグリプス戦役当時の設計なので、第一線での運用に耐えられる。基本設計の多くを継承している機体群が第一線で用いられているのが、その証明である。
「日本が表立った支援はしないと言うからな。それで用意させた。便宜は図るが、財政援助はしないと言ってきてな。仕方がないから、ガンダムタイプを揃えた。本隊(ロンド・ベル)と共有するが、強い機体が求められるからな」
日本はちょうど、ロシアや中国関連の騒乱の最初の時期に突入し、それどころではなくなったため、扶桑の軍事行動に口出しすることは減っていったが、扶桑への財政援助も『余裕がない』と減らしていったため、太平洋戦争の長期化は避けられない見通しになった。太平洋戦争は史実と違い、扶桑に機械力があるため、史実ほどの苦境ではないものの、全体として兵器不足は変わらない。
「整備班の仕事、増えますね」
「な~に、史実の大戦末期の日本軍の飛行機をまともに動かすよりはマシさ。お前たち、今日は夜のパトロールだから、晩飯は多めに食っとけ」
「はーい」
この時期になると、64Fに属していればだが、『和洋中のいずれも、高クオリティで食する事ができる』。これは歴代プリキュアの誰かどうかは『実家が食事に関係する事を営んでいた』事も関係している。ドラえもん向けのどら焼きはキュアミント(秋元こまち)とキュアフローラ(春野はるか)、キュアホイップ(宇佐美いちか)の三名が作る(いずれも、実家が和菓子屋、ないしは職業がパティシエ)ようになっていたし、64Fで出されるパンは実家がパン屋である日向咲(キュアブルーム/ブライト)が作るようになった。ドラえもんに食事の供給を頼り続けるわけにもいかないからだ。
「運転免許、取れました」
「ご苦労。はるか。お前、割に運動神経はいいな」
「まぁ、運動神経は良い方なんで。でも、ラブちゃん、あんなにスピード狂だったんだ」
「知らなかったのか?」
「ラブちゃん以前の世代とはあまり共闘してないんですよ。二回くらいかな」
キュアフローラと、その教育係に任ぜられたキュアブルームが黒江と格納庫で雑談している。キュアフローラは体調が回復した後はプリキュア組では新参であるため、(遠征が近いこともあり)訓練を受けていた。やはり、彼女も『スイート以前の世代』との共闘の経験は数えるほどであると述べており、キュアミラクルらが『オールスターズ経験の最後の世代』な事の裏付けが取られた。
「なるほど。巻き込んですまんが、ここは戦争中の世界だ。何が何でも勝たないと、この世界の未来はない。そのことは肝に銘じといいてくれ」
「分かりました」
この頃、太平洋戦争の決着を『64Fの主要幹部による空挺降下作戦でつける』という構想が司令部で持ち上がったのも、プリキュアオールスターズの60%あまりが集合したからである。とはいえ、日本の認識は『大国としての責務はわかるが、全盛期の米国四軍を打ち倒せる自信があるのか?』というもの。会議の場でその嘲笑が公然とされる有様であった。しかし、学園都市のそれより強力な未来兵器が使われるに至ると、逆にへりくだる様を見せるなど、お役所仕事を露呈した。また、プリキュアオールスターズを形式上、軍に編入したことは問題視されたが、法的に戦闘行為を合法として処理する手段であるという見解で決着した。仮面ライダーらが現役の時代と違い、『人情的なお目溢し』という概念がない世代が組織の中枢についている時代なので、その認識が軍編入への後押しになった。プリキュア達は『基本的に、リーダー格は大尉、その他は少尉、もしくは中尉で入隊扱いにする』が、素体が元から士官であった場合は早期に一階級進級することが追加された。のぞみの一件の際に『下級将校である』ことがマイナスに働いたからで、如何にスキャンダルであったかがわかる。
――後日、扶桑とカールスラントの社会的混乱の収拾は『軍人の金銭面におけるそれまでの権利の保障はする』、『普通除隊までであれば、退役軍人と公言して良い』というという規律が整えられた。また、扶桑においては『善行章』は精勤章に名称の変更が行われた後、全軍で運用される事になった。カールスラント軍の権威の凋落後、扶桑軍の精勤章は(変更後は勤続年数が長く、普段の素行によほどの問題がない軍人に授与されるようになった)畏敬の対象となり、士官の場合は『勤続五年以上務めるか、戦功がなくては、現場で舐められる』という慣習があった(平和な時代では、勤続年数が判断基準になったが)ので、精勤章・武功章の授与は(目に見える戦功がある者以外は)厳格化していったという――
――人事異動の際の人事書類のチェックも厳格化された。ミーナらのミスがもとで国際問題になりかけた事の教訓であった。ミーナが扶桑に移住し、カールスラントで予備役になったのは、問題の当事者なので、謝罪したが、社会的に針の筵なのは目に見えていたし、偉大な音楽家『バッハの係累に属しているから、処分が甘くなった』という批判を恐れたのも関係している。皇帝は『扶桑へは、朕が深く謝罪した。貴官の些細な勘違いであるし、始末書も提出し、社会的制裁も充分に受けた』として赦免する方針であったが、ミーナは『自分なりに混乱の責任を取りたい』とし、予備役編入を願い出、デザリアム戦役後に正式に予備役へ編入された。この顛末は『有能な軍人でも、些細なミスでその立場を失う』という逸話として伝えられる事になったが、ミスは完全には防ぎようがない。(結局、扶桑の『ローカルルール』も騒動の一因であったため)そのため、『戦功ある軍人の従軍記章や武功章の着用は必須である』と扶桑で定められるなど、双方の組織で再発防止が図られた。人事問題の解決の過程で、海軍航空隊の志賀少佐のような『昔気質の航空兵』は問題を起こす原因とされ、閑職に回されるケースが増加したが、志賀少佐は元々、508統合戦闘航空団への派遣が内定していた(統合戦闘航空団の凍結で立ち消えになった)こともあり、『人材教育のために惜しい』と惜しまれ、教育部隊に異動となり、それに応え、戦争中は現役の航空兵であり続けた。宮藤芳佳への贖罪(震電の焼失を防げなかった)のためでもあった。――
――このように『贖罪』と言っても、教育分野に異動し、そこで功績を残すケース、ミーナのように『国全体への贖罪』として、皇帝による赦免で元の地位に政治的に戻ることを固辞し、カールスラントでの地位の全てを捨てて、扶桑で生きる(とはいえ、佐官待遇で扶桑軍に加わったが)ケースが存在した。この人事的混乱は連合軍の新人育成に少なからずの影響が生じた上、技術の世代交代期が訪れた事もあって助長され、結局、太平洋戦争での戦力を担ったのは『既に実働済みのウィッチ』であった――
――ウィッチ関連装備の技術革新は、吾郎技師がメタ情報を持っていようと、『それを実現可能にできる基礎技術の出現』を待たないとならないため、思うようには開発の加速は成らなかった。既存機の生産が優先されたためである。また、インフィニット・ストラトスの採用がウィッチ閥の猛反対で潰えた関係もあり、64F以外の部隊の多くはF-86の改善(装備の増強で第二世代理論に近い姿を取る個体もあった)で忍ぶが、一部は国産最後の希望『震電改一』ストライカー(第一世代理論と第二世代理論の双方が使われ、どちらにも対応可能な過渡期のストライカー)を装備し、秋水ストライカー(試作で中止されたロケットストライカー)の代わりの要撃機材として運用された。秋水はコメートストライカーのライセンス生産機であるが、双方が中止になってしまったため、要撃ストライカーに充てがわれたのが『魔導再燃焼装置』のテスト機であった震電改一であった。戦闘機の方も『零距離発進』の試験という名目で秋水の代わりのように扱われており、ストライカーも同様の運用法になった。そのため、意外にも、要撃部隊は優先的に新機材の供給を受けていたのだ――
――怪異が小康状態になった後、クーデター事件を受け、人員の思想面での『選別』が図られた結果、扶桑軍航空部隊は人的資源が不足してしまった。少なからずの部隊が未来世界が放出した『ゴースト無人戦闘機』を引き取り、運用していた。クーデター事件で熟練者の多くが軍を去り、代わりの人員の急速育成も叶わなくなった故の苦渋の決断であった。64Fに過剰な期待がかけられるのは、ゴーストの暴走が起こっても、『無力化』が可能な練度があったからである。ゴーストは補助戦力の粋を出ないが、人手不足が顕著な陣営にとっては有用な戦力であるため、S.M.Sで使用されていた仕様と同様のものが配備され、それをコントロールするための設備が備えられた基地は数か所設けられた。殆どが使い捨てとして消耗されたモビルドールと違い、無人戦闘機であれば、第三国へ輸出されるあたり、地球連邦の複雑な政治事情が見て取れる。戦争の起こり過ぎで有人戦力の再建が日増しに難しくなるが故に、無人艦隊の建造が容認されるのだ。結局、無人兵器の根絶は『戦争の起こり過ぎでの人的資源枯渇への懸念』で叶わず、一定の市民権を得た。暴走への懸念は『ひみつ道具時代のように、自我を持たせる』事で解決が図られ始める。結局、統合戦争時代の西洋諸国の抱いた恐怖心は後世の人々が否定するに至ったわけで、扶桑はその顛末に呆れ果てたという――
――扶桑は連合軍全体の海軍力を引き上げるために、『ニューレインボープラン』を立案。連合軍全体での海底軍艦の量産計画であった。だが、計画は様々な横槍で上手くいかず、結局、自由リベリオンとブリタニアのみがその恩恵に直ちに預かった。(カールスラントは受領を凍結、ロマーニャは財政的問題で『受領の先延ばし』。オラーシャは国家の騒乱で立ち消え。ガリアは希望する勢力と国家再建を優先するペリーヌ派が衝突し始め、それどころではない)自由リベリオンは受領予定の艦の名の候補に『フリーダム』、『ユナイテッド・ステーツ』などの大仰な名を検討した。これは敵が既に『リバティ』、『モンタナ』などを使用しているからだが、21世紀の米海軍で使用されている、ないしは『忌み名』とされる名であるため、米海軍の関係者は苦笑交じりに諌めたという。とはいえ、改良型の戦艦『モンタナ』をベースに生み出される『オーソドックス』な量産型海底軍艦であるため、個体戦闘力は抑え気味である。未来世界での『ドレッドノート級宇宙戦艦』と共通する点であった。それに対し、扶桑が先立って建造した『轟天』、『廻天』は『ラ號』の模倣発展型であるが、ある意味では『大日本帝国海軍の起死回生の夢の具現化』と言える代物であり、量産を考慮しない高性能艦である。いわば、テスト艦の名目で、『ティターンズへの反抗の象徴』となる艦を作ってしまえという目的だったわけだ――
――ティターンズの有する兵器にはラ級戦艦が含まれており、通常兵器では歯が立たない。その対抗と抑止力として、同種の兵器を用意することは当然の流れだが、21世紀世界はラ級戦艦の力をダイ・アナザー・デイで思い知らされ、核兵器もラ級には効かないという事実に震えた。フルスペックのラ級が21世紀で暴れた場合、既存の航空戦力は無力、ミサイル兵器は装甲の表面で爆発するだけ。21世紀世界のいかなる艦艇も撃沈可能な大口径砲を持つ兵器が超音速で飛来するというシミュレーションが公表されると、連合軍の計画に障害はなくなった。だが、その頃には、ウィッチ世界の連合国では、比較的に国力に余裕が残る三カ国しか『保有して運用する力』を持たなくなっていた。その点が悲劇であった――
――ある日――
1949年の初夏を超える頃には、遠征も長丁場になっていた。その時期になると、現役時代とかけ離れた序列がプリキュア達の中で(強さ的意味で言うなら)確立され始めた。バトル系の漫画でおなじみの『気の制御法』や『小宇宙の制御』、『それに関連する個人の戦闘技量の差』が明瞭に現れてきていた。その技能は形を変え、ウマ娘たちの『領域』の自己制御法にも応用され始めた。つまり、ウマ娘たちの『領域』はプリキュア達が『現役時代』の殻を破るための指標の目安となり、プリキュア達が習得させられてきた技能の多くはウマ娘たちの心身を鍛え、第一線級の能力を保つ、ないしは取り戻す(ウマ娘たちの中には、既に能力的意味での減衰期を迎えていた者も多いため)ための技能という形で伝えられた。
「定時連絡の時に、向こうのあたしに見せるかな?」
「そうですね、オーラを滾らせた状態を見せればいいのでは?」
休暇中のある日、ナリタブライアンがビワハヤヒデから呼び出され、元の世界に一時帰宅したため、元の体に戻ったのぞみは、エターニティドリーム形態の感想をシンボリルドルフに聞いてみた。エターニティドリーム形態はシャイニング形態にキュアハートのパルテノンモード形態の意匠が加わった『神々しくも、柔和な印象を受ける』ものだが、ルドルフの勝負服のような威圧感もある。ルドルフ、タマモクロス、オグリキャップの三者がそうであるように、『纏うオーラに紫電の閃光が散る』というバトル漫画の変身のような現象が出現している。
「なんで、オーラにスパークが走るんだろうね」
「ある種の壁を超えた事を示すための視覚効果の一種では?私の友人のマルゼンスキーも、そも全盛期の頃には似たようなオーラを纏い、同期を寄せ付けませんでしたから」
「そういうもんかなぁ?」
「そういうものかと」
エターニティドリーム形態に熟れてきたためか、纏うオーラにスパークが走るようになっている。そのことについての感想を問われたルドルフは自らの見解を述べる。なお、ルドルフは(学生であるため)『成人』であるのぞみへ敬語を使っている。
「バトル漫画でもありますし、我々の実体験からの推測ですが、我々やあなた方のようななにかかしらの分野で『戦う』者は成長するに従い、ある種の『壁』にぶつかる。その壁を超え、自分の心の既成観念という殻を破る事で、能力の飛躍が起きる。ただし、私はライバルとなり得るウマ娘がほとんどおらず、私が頭角を現す頃には、ライバルであり、友人でもある『ミスターシービー』は盛りを過ぎ始めていましたから。ただし、私自身は覚醒をするのに、数度の敗北を必要にしましたが」
ルドルフは実体験も交えて、その類の現象を説明した。ルドルフがクラシック級に上がった年、一期上のウマ娘『ミスターシービー』がシンザン以来のトリプルクラウンを達成し、次代の生徒会長との呼び声も高かった。だが、ミスターシービーはそこまでが絶頂期。ルドルフが頭角を現した時には、怪我もあって『絶頂期の能力』を失っていた。ルドルフとの相性の悪さもあり、対戦した全てのレースでルドルフに歯が立たずじまい。従姉のトウショウボーイからも『ウマ娘としての盛りを過ぎてしまったようだな、シービー』と言われ、ウマ娘としての才を見限られたと悟り、実は現役最晩年期に限るが、精神的に荒れていた。そのシービーが堕ちてゆくのと入れ替わりに『昇り龍』となったルドルフであったが、その時期においても、ギャロップダイナ、カツラギエースの死力に敗れている。ルドルフは絶頂期においても、二度の敗北を味わっている。ルドルフはミスターシービーとは『シービーの絶頂期の時に戦いたかった』と惜しんでいるが、シービーの従姉であり、その時代の生徒会長『トウショウボーイ』は『シービーは天性の才でどうにかしただけで、本来はマイラー(マイル戦までの適性のウマ娘を指す言葉)だよ』と述べており、シービーの才の限界を見抜いていたのだ。
「シービーは絶頂期にのみ、領域を発動できていた。私は怪我を何度かしても、その状態を長く維持できた。それが皇帝と言われた所以です。ですが、私の愛弟子には、私の脚の頑丈さは……」
ルドルフは愛弟子のテイオーの三冠獲得を最も信じていた一人であった。そのため、前世で子であるテイオーに自身の頑強さを遺伝させられなかった事が『ウマ娘としてのテイオーの運命に試練をもたらしたのかと気に病んでいるようである。
「気にしてるの?テイオーちゃんの怪我のこと」
「ええ……。自業自得と笑う者も多いでしょうが、あの子は私の背中を追い、私と並びだつために、幼少の頃から研鑚に励んできました。それは私が一番良く知っています。小学生の時分から、ずっと私の背中を追いかけてきた。同じ学園に入り、頭角を現した。全てが順調であったはずでした。ですが、今からして考えれば、あの子の怪我は因果が引き起こしたのかも知れませんが、私は内心で狼狽しましたよ」
ルドルフは第三者であるのぞみへ、テイオーの辿った道への思いと本音を吐露した。ルドルフはテイオーの挫折に思い悩み、手を差し伸べられる立場でなくなった事を悔やんだとも述べる。テイオーを見守ってきた身として、テイオーの精神的な傷と挫折は我が事のように悔しい事、再起を裏で必死に祈願していた事も告白する。ある意味、アドバイスの体をした『ルドルフの懺悔』であったが、生徒会長であったために、溜め込んでいた思いがあったのだと悟ったのぞみは、ルドルフの語りに付き合うことにしたのだった。